Signal-to-News IR/Raman Customer News Letter 光音響分光 (PAS)/ FT-IR による材料の表面分析 2. 位相変調ステップスキャン法 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部 編集発行 : マーケティング部 M95011 はじめに Key Words y FT-IR y PAS y 光音響分光 y ステップスキャン y 位相変調 y 位相分解 FT-IR の 連 続 ス キ ャ ン に よ る 光 音 響 分 光 ( Photoacoustic Spectroscopy)測定では、干渉計駆動の速度を変えることで 材料表面のデプスプロファイリングを行うことが可能である。 同手法は原理的に波数により分析深さが異なるが、ここで紹 介する位相変調ステップスキャン法では、分析深さが波数に 依存しない。さらに位相変調法で検出したシグナルを位相 分解し、表層と内部のスペクトルとして分離することが可能と なる。ここでは、位相変調ステップスキャン法の測定原理とポ リマーラミネートのデプスプロファイリング例を紹介する。 表1に位相変調周波数に対する熱拡散長(分析深さ)の違 いを示す。ここでは熱拡散率 α=0.001cm2/s(一般ポリマー) の試料を用いた場合を想定した。 位相変調の振幅については FT-IR の HeNe リファレンス レーザ波長、すなわち 0.633μm を1単位とし、λHeNe で表す。 振幅の大きさの違いによりシングルビーム強度と検出波数 領域が異なるが、普通赤外領域 (4000-400cm-1)では、1.5 – 3.5 λHeNe の範囲で、感度よく測定することができる。 表1 位相変調周波数と分析深さ 位相変調ステップスキャン法 図1 に位相変調ステップスキャンによる干渉計移動鏡の動き とサンプリングのタイミングを示す。ステップスキャン法では移 動鏡を一定速度で動かした後、位置を止めておく。図にみら れるように光路差が一定、いわゆる「ゼロ光路差」の状態とな る。この時、移動鏡を僅かな振幅で周期的に振動させる。そ の周期を位相変調周波数という。光音響分光法の原理は、 既刊の’Signal-to-News M95006’ で解説したが、位相変調 周波数が、PASシグナルの分析深さを変えるパラメータとし て変調周波数(f)に相当する。連続スキャン法では、波数 (波長)によって変調周波数が異なるが、位相変調法ではゼ ロ光路差でサンプリングを行うため、図2 の模式図に示すよ うに分析深さは全ての波数において一定となる。 位相分解法による分析深さの異なる スペクトルの分離 PASにおけるシグナルの位相は試料の熱拡散状態に依存 し、図3に示すように分析の深さによって応答位相が異なっ てくる。この現象を利用し、応答シグナルの位相ずれを検出 することで、異なる深さのスペクトルを分離することが可能と なる。位相変調PASのシグナルは、DSP(Digital Signal Processor)などを用いて任意の直行位相シグナル(同位相 : In-phase, 位相差0°ならびに 矩位相 : Quadrature, 位相差 90°)に分離することができる。一度の測定で位相の異なる2 つのスペクトルを同時に得ることができるので、試料の表面と 内部のスペクトルを同時に分析することが可能となる。 図1 位相変調ステップスキャン法 図2 位相変調ステップスキャンPASによる分析深さ 図3 分析深さの違いによるPASシグナルの位相遅れ 位相変調 FT-IR PAS によるポリマー ラミネートの測定例 二層の12.5㎛のテフロン層の間に50㎛のKapton(ポリイミド) 層を持つポリマーラミネートを用い、位相変調周波数を変え て測定したPASスペクトルを、図4に示す。 Teflon Kapton Teflon 12.5μm 50.0μm 12.5μm 図より、In-Phaseスペクトルでは表層のテフロンのみ、また Quadtratureスペクトルではテフロンの影響が若干残るもの の、中間層のポリイミドが明瞭に観察される。 PAS測定では、とくに赤外光や熱に対する試料の透明性に よって内部の層のシグナル応答位相が異なってくるが、この 例のように、比較的深い層のPASスペクトルを良好に分離検 M95011 出することが可能となるケースがある。 定量的手法として、In-phase、Quadrature スペクトルから次式 により位相スペクトル(Φ(σ))を計算し、特性吸収バンドの位 相差から、表面層の厚みを推定することもできる。 サーモフィッシャー サイエンティフィック株式会社 スペクトロスコピー営業本部 IR/Raman 営業部 横浜本社 045-453-9210 図6に、ラミネートの位相スペクトル(縦軸は位相角)とマグニ チュードスペクトルを示す。テフロンの熱拡散率 α = 0.82x10-3 cm2/s から求めた変調周波数400Hzにおける熱拡 大阪支店 06-6863-1552 E-mail [email protected] 散長(8.08μm)とテフロンとポリイミドのバンドの位相差から、 図4 テフロン / ポリイミド / テフロンフィルムの位相変調 PASスペクトル(上から順に f = 50, 100, 200, 400, 800Hz) 表1より、位相変調周波数が50Hzの場合、分析深さは約 25μmに相当する。図4で明らかなように、50Hzでは中間層 のポリイミドに帰属される 1800-1350cm-1 のバンドが観察さ 次式により表面層の厚みを推定した。 この結果は、テフロンの既知の厚み 12μm に非常に近い値 を示し、表層の厚みを推定する手段として、位相変調 FT-IR PASの可能性が見出された。 れる。800Hzでは分析深さは約6μmに相当するが、この周波 数ではテフロンのC-F伸縮振動に帰属される1225cm-1バンド 以外は観察されない。連続スキャンと同様、変調周波数 f を 位相スペクトル マグニチュード スペクトル 変えることでデプスプロファイルが可能となることがわかる。 スペクトルを得た。リファレンスにはカーボンブラックフィルム を用い、シグナルがもっとも強く検出される位相、つまり最表 面層による応答を参照位相(同位相)とした。 位相差 図5は、400Hzの位相変調周波数で測定した位相分解PAS スペクトルである。OMNIC SST ソフトウエアと分光装置に内 蔵のDSPによりシグナルを In-Phase, Quadrature に分離し、 図6 テフロン / ポリイミド / テフロンフィルムの位相スペク トルとマグニチュードスペクトル(f = 400Hz) 文献 www.thermofisher.co.jp (日本) Eric.Y.Jiang, Advanced FT-IR Spectroscopy - Principles, Experiments and Applications Thermo Electron Corp. (2003). www.thermo.com (グローバル) ©2007 Thermo Fisher Scientific Inc. All rights reserved. All trademarks are the property of Thermo Fisher Scientific Inc. and its subsidiaries. 図5 テフロン / ポリイミド / テフロンフィルムの位相分解 PASスペクトル (上 : In-phase, 下 : Quadtrature) Specification, terms and pricing are subject to change. Not all products are available in all countries. Please consult your local sales representative for details.
© Copyright 2025 ExpyDoc