表層地盤増幅評価手法の違いが地震動強さに与える影響 名古屋大学工学部社会環境工学科 建築学コース護研究室 小田侑生 増幅評価には複数の手法があるため, 地表の地震動強さ 波(八戸位相)を, 振幅レベルをごく稀に発生する地震を最 大とする5段階に変化させて使用した. 図3に入力地震動 の擬似相対速度応答スペクトルを示す. 逐次非線形解析における地盤の動的変形特性は修正 R-Oモデルを, 等価線形解析における地盤の動的変形特性 はH-Dモデルを用い, 各地点の室内土質試験の有無に関わ らず, 砂質土・粘性土に関しては古山田(2003)7)によるパラ メータ, 砂礫に関しては今津・福武8)によるパラメータを 使用してモデル化した. また, 等価線形解析に関しては, 解析の適用限界とされている最大せん断歪が1%までの範 囲で収束する解析結果のみを採用した. の予測結果が異なってしまう. そこで本研究では表層地 4 AVS30 の算出手法が地盤増幅評価に与える影響 1 研究の背景と目的 近年, 南海トラフ巨大地震の発生が懸念され, 地震調査 研究推進本部によると M8~9 クラスの地震が今後 30 年間 に発生する確率は 60~70%と非常に高い. そこで, 内閣府 を始めとした数多くの自治体が防災・減災への活用のため 被害予測やハザードマップの作成を実施している. その 際に必要となるのが地表面の地震動強さの予測であり, そのためには, 表層地盤増幅を適切に評価をすることが 重要である. しかし, 各自治体で用いられている表層地盤 盤増幅評価手法の違いが地震動強さに与える影響の検討 を行う. 2 表層地盤増幅の評価手法 本章では, 簡便法における AVS30 の算出手法の違いが 地盤増幅評価に与える影響を検討する. 図 4 に算出手法ご との各地点の AVS30 を示し, 図 5 に AVS30 の算出手法ご 表層地盤増幅評価をする手法は, 大きく 2 つに分けると との松岡・翠川(1994)の最大速度増幅から算出した震度増 地盤の地震応答解析による詳細な手法と, 簡便な手法が 分と工学的基盤までの深さの関係を示す. 図 4 より, PS 検 あり, 詳細法において, 等価線形解析法は, 地盤の動的変 層結果やボーリングデータから算出するよりも, 微地形 形特性を等価な線形の関係に近似し解く方法で比較的簡 区分から推定する AVS30 の方が大きく評価されているこ 便である. また, 逐次非線形解析法は, 地盤の動的変形特 とが分かる. この原因として地表から工学的基盤までの 性を, 時々刻々追跡しながら行う解析手法である. 解析に 深さの考慮の有無が考えられる. 内閣府(2005)の手法では, 用いる地盤モデルおよび動的変形特性が正確にモデル化 工学的基盤までの深さを 30 m に変換し, 30 m より深いも されていれば, もっとも厳密な解析手法であるが, より多 のは AVS30 を小さく, 浅いものは大きくしている. 従っ くの地盤情報が必要となる. 簡便法は, 地盤の増幅特性に て, 工学的基盤までの深さの増加に伴い AVS30 の減少が 大きく影響するとされている地表から深さ 30 m までの平 見られる. しかし, 本研究で用いた内閣府(2005)以外の手 均 S 波速度(以下, AVS30)を用いて表層地盤増幅評価をす 法では工学的基盤までの深さは考慮していない. AVS30 が る手法であり, 地盤の動的変形特性を考慮していない. ま 真値よりも大きく評価された場合, 表層地盤増幅が過小 た, 本検討では液状化の影響については考慮していない. 評価されてしまうので注意が必要である. 図 5 より, 簡便 図 1 に表層地盤増幅評価流れ図を示す. 本検討では, 詳細 法において AVS30 の算出手法の違いが震度増分に与える 法として, 逐次非線形解析法と等価線形解析法を用い, 簡 影響は最大で 0.5 程度であり, AVS30 を算出する手法の違 便法として, AVS30 を用いた松岡・翠川(1994)1)と横田他 いが表層地盤増幅に与える影響は無視できない. (2005)2) による地盤増幅度の算出手法を用いる. ここで 5 AVS30 の算出・推定手法としては, 内閣府(2005)3)におい る影響 地盤の動的変形特性の考慮が地盤増幅評価に与え て用いられている(以下, 内閣府(2005)) PS 検層結果やボー 本検討で行った詳細法と簡便法の結果の違いについて リングデータから算出する方法を使用し, 微地形区分か 検討する. 図 6 に地点 ARM・NST の逐次非線形解析と等 ら推定する手法としては, 松岡・翠川(1994)1), 藤本・翠川 価線形解析の結果を示し, 図 7 にそれぞれから算出した震 (2003)4), 中央防災会議(2003)5) で用いられている方法(以 度増分を示す. 図 6 より, 逐次非線形解析法と等価線形解 下, 中防 2003)を使用する. また, 中央防災会議(2012)3)や 析法では最大せん断歪の増加に伴い, 最大加速度の減少 横田他(2005)では震度増分で表層地盤増幅を表している が見られる. また, 図 7 より, 最大加速度よりも最大速度 ことから, 本論では震度増分に統一して各手法を検討す から算出した震度増分の方が大きくなっている. これは, る. その際に地震動強さを計測震度に変換する手法とし 最大せん断歪の増加に伴って, 地盤の非線形性により最 て童・山崎(1996)6)を用いる. 大加速度の増幅は小さくなるのに対し, 最大速度はそれ 解析条件 図2に対象地点を示す.対象地点は,地質年代・地形・沖積 層基底面標高・地震基盤上面深さの既存基盤資料に基づき グループ分けした, 愛知県西部に位置する名古屋市内の9 地点を用いた.入力地震動としては, 南海トラフ地震と同 じく海溝型地震であり, やや長周期成分を多く含む告示 にあまり依存しないためと考えられる. 従って, 表層地盤 3 の増幅評価において加速度増分を用いる場合, 最大せん 断歪が大きい地盤では, 地盤の非線形性により過小に評 価してしまう可能性がある. さらに図 7 より, 簡便法と詳細法の違いに注目すると AVS30 の減少に伴い地盤増幅度の差が増加していること 450 まとめ 350 400 350 AVS30(m/s) 6 450 AVS30内閣府(2005) AVS30松岡・翠川(1994) AVS30中防2003 AVS30藤本・翠川(2003) 400 AVS30(m/s) が分かる. これは, 地震の際に被害が大きい軟弱地盤ほど 表層地盤増幅の評価に差があるということを示している. 300 手法による表層地盤増幅評価の違いについて検討した 300 250 250 200 結果,注意すべき以下の点が見つかった. 200 150 150 簡便法は AVS30 を算出する手法の影響が大きく, 微地 100 100 形区分から推定する AVS30 が特に丘陵地では実際より大 50 る. 詳細法では, 地盤の非線形性により最大加速度の方が 1.2 最大速度よりも大きく減衰しているので, 地盤増幅の評 1 価を行う際に加速度増分を用いると地盤増幅を小さく評 震度増分 減少に伴い地盤増幅度の差が増加し, 地震の際に被害が 密度 層厚 土質 N値 密度 Vs 層厚 土質 0.2 0 SDB ARM NUN NUT OYO NST TTB SJB CHC 地点 図5 2 標高 微地形区分 1 距離減衰式を用いたもの 震度増分 1 震度増分 1.5 0.5 0 -0.5 100 150 AVSn 時刻歴 逐次非線形解析 松岡・翠川(1994) 全応力解析 藤本・翠川(2006) 線形解析 … 有効応力解析 加速度 震度 横田他(2005) 450 -1 50 100 150 200 250 300 350 400 450 AVS30 AVS30 最大速度 ◆:入力波 1 倍 入力波 0.2 倍 入力波 0.6 倍 入力波 1 倍 0 最大値 速度 加速度 SI値 速度 深度(m) 波形 地表面応答 400 図 7 逐次非浅解析結果と等価線形解析結果から算出した 震度増分 … 周波数領域 等価線形解析 250 300 350 AVS30 AVS30 最大加速度 簡便な手法 加速度・速度 200 塗りつぶし:逐次非線形解析 塗りつぶしなし:等価線形解析 ●:入力波 0.2 倍 ▼:入力波 0.6 倍 告示波 地盤の地震応答解析 0 -0.5 震源断層の動的パラメータを考慮したもの 地震動増幅 松岡・翠川(1994)速度→童・山崎(1996) 横田他(2005)4.5-4.9 0.5 河川からの距離 工学的基盤における入力地震動 実験値 2 松岡・翠川(1994)加速度→童・山崎(1996) 横田他(2005)4.5-4.9 -1 50 動的変形特性 既往の研究 AVS30 の算出手法ごとの松岡・翠川(1994)の最大速度増幅か ら算出した震度増分 1.5 地形 Vs ●内閣府(2005) □松岡・翠川(1994) ▲中防 2003 ▽藤本・翠川(2003) 0.4 地盤モデル 推定 10 20 震度 図 1 表層地盤増幅評価の流れ図 SDB 入力波 入力波 入力波 入力波 入力波 0 400 0 0.6 0 Acc.(cm/s2) 歪(%) ARM 逐次非線形解析 1倍 0.8倍 0.6倍 0.4倍 0.2倍 400 0 0.6 Acc.(cm/s2) 歪(%) 等価線形解析 0 NST NUN TTB NUT CHC 深度(m) 30 OYO 60 0 400 0 0.6 Acc.(cm/s2) 歪(%) 逐次非線形解析 SJB 0 NST 400 0 0.6 Acc.(cm/s2) 歪(%) 等価線形解析 ARM 図 6 逐次非線形解析結果と等価線形解析結果 図 2 評価対象地点 80 図 4 算出手法ごとの各地点の AVS30 0.6 大きい軟弱地盤ほど表層地盤増幅の評価に差がある. 参考文献 1) 松岡昌志・翠川三郎(1994):国土数値情報とサイスミックマイ クロゾーニング 第 22 回地盤震動シンポジウム 日本建築学 会 2) 横田崇・稲垣賢亮・増田徹(2005):数値実験による地盤特性と 増幅率の関係 日本地震学会講演予稿集 3) 南海トラフ巨大地震モデル検討会 第 15 回:浅い地盤構造モ デルについて 4) 藤本一雄・翠川三郎(2003):日本全国を対象とした国土数値情 報に基づく地盤の平均 S 波速度分布の推定 5)中央防災会議(2003):東南海, 南海地震等に関する専門調査会 第 16 回 6) 童華南・山崎文雄(1996):地震動強さ指標と新しい気象庁震度 との対応関係 7) 日本建築学会:建物と地盤の動的相互作用を考慮した応答解 析と耐震設計 丸善株式会社 8) 今津雅紀・福武毅芳:砂礫材料の動的変形特性 30 40 50 60 70 工学的基盤までの深さ (m) 0.8 価してしまうことがある. 簡便法と詳細法では, AVS30 の PS検層 20 地点 きく評価され, 地盤増幅が小さく評価される可能性があ ボーリングデータ 50 10 SDB ARM NUN NUT OYO NST TTB SJB CHC 図 3 入力地震動の擬似相対速度応答スペクトル
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