様式4 論 文 の 要 約 甲 保 第 18 号 報告番号 氏 名 乙 保 学位論文題目 E 上田 伊佐子 がんサバイバーの心理的適応尺度の開発 -信頼性・妥当性の検討- 論文の要約 【目的】 本研究の目的は,がんサバイバーの心理的適応を測定する尺度を開発し,その信頼性,妥当性を検証す ることである. 【方法】 1.がんサバイバーの心理的適応の構成概念の抽出と質問項目の作成 1989~2009年の欧米と和文献の90文献をRodgers(2000)の手法を用いて概念分析し,得られた属性を 尺度の構成概念とし80の質問項目を作成した.10名のがんエキスパートによる内容的妥当性の検討によ り,74項目のがんサバイバーの心理的適応尺度(The Scale on Psychological Adjustment of Cancer Survivors: PACS)原案を作成した. 2.予備調査による原案の修正 2012年7~8月,がんサバイバー35名にPACS原案を用いて調査した.有効回答29(回収率82.9%)の 表面妥当性を確認し,項目分析後,探索的因子分析で内的整合性を確認した.6因子構造46項目が選定 され,PACS原案修正版-46とした. 3.本調査 2013年7月~12月に,3施設の外来のがんサバイバー301人に,PACS原案修正版-46および属性,外的 基準としてHospital Anxiety and Depression Scale (HADS),Quality of Life Questionnaire for Cancer Patients Treated with Anticancer Drugs(QOL-ACD),Mental Adjustment to Cancer Scale (MAC)を調 査した.再テストを2週間後に実施した. 4.分析方法 欠損値頻度,天井・フロア効果,修正済み項目合計相関,項目間相関分析,G‒P分析による項目分析を した.探索的因子分析を行い,Cronbach’s α係数を算出した. HADS,QOL-ACD,MACとの相関をみ た.多次元尺度法を用いてHADS,QOL-ACD,MACの下位因子との非類似性を検討した.検証的因子 分析でモデルを作成し,共分散構造分析による適合度を確認した. 【結果】 251人から回答を得た(回収率83.4%),有効回答は238(有効回答率97.6%)であった.再テストで64人か ら有効回答が得られた. 1.項目分析および探索的因子分析 欠損値頻度,天井・フロア効果,修正済み項目合計相関,項目間相関分析,G‒P 分析による項目分析 により 19 項目を削除し,27 項目とした.これを主因子法,プロマックス回転により探索的因子分析した 結果,最終的に 18 項目4因子【がんと共に生きる自分を受け入れている】 【成長した自分がいる】 【自分 を取り戻している】 【うまくやれないでいる】からなる PACS が作成できた. 2.検証的因子分析 探索的因子分析の結果に基づく仮説モデルを作成し, 抽出された4因子からそれぞれ該当する項目が影 響を受け,すべての因子間に共分散を仮定したモデルで分析を行ったところ,GFI=.898,AGFI=.865, CFI=.935,RMSEA= .057であり,パス係数はすべて.4以上(p<.001)であり,探索的因子分析を支持し た. 3.信頼性の検討 尺度全体のCronbach’s α係数は .87,各下位因子は .81~.85であった.再テストとの級内相関係数は.73 ~.83であった. 4.妥当性の検討 がんサバイバーの心理的適応の構成概念とPACS下位因子は整合した.PACSの【がんと共に生きる自 分を受け入れている】 【成長した自分がいる】 【自分を取り戻している】の3因子は,MACのFighting Spirit(FS)と有意な正の相関を示した一方で,MACのHelplessness/ Hopelessness (H/H) およびHADS の不安および抑うつとは有意な負の相関を示した. QOL-ACDとの関連では「社会性」と【成長した自 分がいる】を除くすべての項目で有意な正の相関が認められた.一方で【うまくやれないでいる】は他の PACS3因子とは負の相関を示した他,MACのFSおよびQOL-ACDの全てと負の相関,MACのFSを除 く4因子およびHADSの不安および抑うつとは正の相関があった.多次元尺度法ではHADS,QOL-ACD ,MACの下位因子との非類似性をグラフィカルに検討できた. 【考察】 PACS 全体および下位因子の Cronbach’s α 係数から十分な内的整合性を確認することができ,再テス トとの級内相関係数からも尺度の安定性が確認できたといえる. がんサバイバーの心理的適応の構成概念 と尺度作成後の下位因子との間で整合性がみられたことから,内容的妥当性が確認できたと考えられる. HADS,QOL-ACD,MAC との相関からの妥当性も確認できており,特に精神医学的診断を示す不安・ 抑うつと負の関連が強く示されたことは,PACS が心理的適応の内容を測定するものとして説得力のある 結果が得られている.さらに検証的因子分析でのモデルの適合度も良好であり,統計学的な説明力も有し たことから,PACS は構成概念妥当性を確保していることが支持された. PACS 構成因子の,がんである自己との関係性に折り合いをつけた【がんと共に生きる自分を受け入れ ている】状態や,がんになる前と同様に【自分を取り戻している】 ,さらにポジティブに【成長した自分 がいる】と思える状態などは,がんサバイバーの心理的適応を特徴的に捉えたものであるといえる.以上, PACS は現存の HRQL 尺度や不安・抑うつ尺度,コーピング尺度では測りきれなかったがんサバイバー の心理的適応を測定できる尺度になり得ることが示唆された. 【結論】 今回,がんサバイバーの心理的適応を測定する尺度の開発を試みた結果,18 項目【がんと共に生きる 【成長した自分がいる】 【自分を取り戻している】 【うまくやれないでいる】の4 自分を受け入れている】 下位因子からなる PACS が作成された.本尺度が一定の信頼性と妥当性を備えた尺度であると確認され たことから,今後,臨床で活用されるなかで,がんサバイバーの心理的適応を測定する有用な尺度になり 得ることが示唆された.
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