解体時の実大振動実験と常時微動に基づく在来木造軸組住宅の振動特性に関する研究 名古屋大学工学部社会環境工学科 建築学コース飛田研究室 藤井智規 2 からケース 3 では筋交いの入っていない雑壁が撤去され、 1. 背景と目的 1995 年 1 月に起きた兵庫県南部地震の教訓から、同年 EW 方向の壁量が大きく低下し、EW 方向の固有振動数の 12 月に耐震改修促進法が施行された。この法による耐震 減少の割合が大きい。また、R 階の東側と西側が異なった 改修の主な対象建物は、1981 年以前に建てられた、新耐 固有振動数をもつようになり、R 階中央で記録された図中 震基準を満たしていない不特定多数が利用するある程度の の NS 方向の伝達関数は 2 つのピークを示している。最後 規模以上の既存不適格建築物である。一方在来木造住宅は にケース 3 からケース 4 では EW 方向と NS 方向の筋交い 兵庫県南部地震において特に被害が大きく、倒壊などによ の一部を撤去し、固有振動数はともに減少している。 次に、スウィープ加振実験より各段階の R 階の加振力に り多くの人命が失われた。これらの既存不適格建築物の耐 震化の動きが各地で行われているが、進行状況は芳しくな 対する共振曲線を図 3 に示す。非構造部材が撤去されるこ い。木造軸組構造の特徴として雑壁などの非構造部材が振 とにより建物の剛性が低下していることが、長周期化して 動特性に大きな影響を与え、耐震性にも影響することが既 いることからわかる。図 2 と図 3 を比較すると、同じ解体 往の研究で示されているが、定量的に明確にされておらず、 段階のとき、強制加振による共振曲線の方が固有振動数は そのため改修の指標になり難い。本論では、実際の木造住 低下することがわかる。これは強制加振によって振動振幅 宅に対して非構造部材の性能を評価できるよう目的に応じ が大きくなり、接合部に影響が出ると考えられる。 表 1 各解体段階の建物概要 た解体を行い、その段階毎に振動実験を行うことにより、 段階 各部材が振動特性に与える影響を把握する。また、建物の 振幅依存性と実験方法や分析方法により変化する特性の評 価について、各評価の適用性を検討する。 2. 対象建物及び実験の概要 建物概要 重量 (kN) 面積(㎡) 備考 1 解体前 2 東西平屋撤去 240.0 189.25 2階の面積は78.67㎡、以下不変 93.38 3 1階雑壁撤去 223.9 93.38 筋交いの入っていない雑壁の撤去 4-1 1階大部分の壁撤去 219.8 93.38 実験対象建物は 1971 年に建てられた 2 階建ての木造軸 4-2 240.3 93.38 2階床に2t載荷 組構造住宅である。基礎構造は鉄筋コンクリートの連続布 4-3 240.3 93.38 NS方向に引き綱試験 基礎である。上部構造は防腐・防蟻処理した土台と基礎が アンカーボルトで緊結されており、その上に柱・梁が組ま れ、簡単に金具で固定されている。耐震上重要な筋交いは 随所に配置されているが、柱や梁への固定が十分にされて おらず、また同じ向きの筋交いのみで一方向に弱い箇所も 1ch微動計 3ch微動計 ━ 筋交い ─ 雑壁 ある。 本実験では非構造部材が振動特性に与える影響を把握す 2階平面図 R階平面図 るため、解体を 4 段階(ケース)に分けて常時微動計測、周 波数スウィープ加振実験、自由振動実験などを行った。起 振機は屋根裏(R)階中央に設置し、収録には動コイル型微 動計とサーボ型加速度計を用いた。表 1 に各解体段階の状 況を、図 1 に対象建物の平面図及びセンサー配置図を示す。 スウィープ加振実験では起振機を用いて 1Hz∼12Hz の範 N 囲を毎秒 0.01Hz で周波数を上昇・下降させた。自由振動 実験では起振機を用いて固有振動数で共振させた後に急停 1階平面図 止して自由振動させた。 3. 振動特性に関する分析 図 1 対象建物平面図及びセンサー配置図 常時微動計測から求めた各解体段階の RF/1F 伝達関数 70 50 加し、NS 方向ではケース 2 のときが最大で、それを除け ば概ね段階が進むにつれて増加する傾向が見られる。詳し い解体状況と併せて考察すると、まずケース 1 からケース 2 では東西の平屋が撤去され、EW ・ NS 方向ともに固有 振動数が低下し、ピーク振幅が増加している。次にケース 40 30 20 10 0 0 40 Amp. ている。ピーク振幅は EW 方向では段階が進むにつれて増 Amp. の推移を EW(長辺)・ NS(短辺)各方向について図 2 に示す。 60 この図より、解体段階が進むにつれて固有振動数が減少し 50 Case1 Case2 Case3 Case4 30 20 10 2 4 6 8 10 Frequency (Hz) EW方向 0 12 0 2 4 6 8 10 Frequency (Hz) NS方向 図 2 各解体段階の伝達関数の推移 12 1.5 1 0.5 1 0 0 2 2 4 6 8 10 4 6 8 10 Frequency (Hz) Frequency (Hz) NS方向 EW方向 図 3 各解体段階の共振曲線の推移 2 6 6 4 4 2 2 0.4 0.4 0.2 0.2 2 3 4-1 4-2 解体段階(計算値) 0 振幅 (µm) 1 2 3 4-1 4-2 4-3 200 1 2 3 4-1 4-2 4-3 100 解体段階 解体段階 0 -100 図 4 各解体段階の固有振動数と減衰定数の変化 -200 5 1 0.6 10 100 振幅 (µm) 1000 10 100 振幅 (µm) NS方向 1000 図 6 ケース 2 の振幅依存性 2 0.6 0 10001 10 100 振幅 (µm) EW方向 4 0.8 0 8 6 0.8 2 1 10001 10 100 振幅 (µm) 0 1 0 重量比・剛性比 1 3 10 6 7 8 time (sec) EW方向 EW方向剛性比 NS方向剛性比 重量比 2 100 50 0 -50 -100 10 5 9 図 5 各解体段階の重量比及び 1 階剛性比 各解体段階の常時微動伝達関数とスウィープ共振曲線か ら求めた固有振動数と減衰定数のまとめを図 4 に示す。図 4 より、固有振動数はスウィープ加振の方が常時微動より 1 割程度減少し、減衰定数常時微動の場合 2∼3%、スウィ ープ加振の場合概ね 3∼5%となる。建物のケース 2 からケ ース 4(2t 載荷前)までの解体段階のケース 2 に対する重量 比と 1 階の剛性比を図 5 に示す。木材の特徴である部材の 軽さのため、剛性の低下に比べて重量の低下の割合が小さ 7 6 5 4 3 2 1 1:伝達関数ピーク 2:伝達関数位相差 3:パワースペクトルピーク 4:RDゼロクロッシング法 4. 振幅依存性の検討 7 8 time (sec) NS方向 Case1EW Case2EW Case3EW Case4-1EW Case4-2EW Case4-3EW 35 30 25 20 15 10 5 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 分析方法 い。 6 9 10 図 7 ケース 2 の自由振動波形 3 4-1 4-2 解体段階(実測値) 固有振動数 (Hz) 1 4 3 8 10 8 4 3 4 10 減衰定数 (%) 12 減衰定数 (%) 固有振動数 (Hz) EW方向常時微動 NS方向常時微動 EW方向スウィープ加振 NS方向スウィープ加振 5 6 5 2 1 12 1 0 12 0 7 6 7 6 5 振幅 (µm) 3 2 Case1 Case2 Case3 Case4 7 Case1NS Case2NS Case3NS Case4-1NS Case4-2NS Case4-3NS 減衰定数 (%) 4 固有振動数 (Hz) Amp. (µm/N) Amp. (µm/N) 2 6 5 5:共振曲線ピーク 6:伝達関数位相差 7:カーブフィット 8:パワースペクトルピーク 9:自由振動ゼロクロッシング 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 分析方法 1:伝達関数1/2h法 2:伝達関数1/√2法 3:伝達関数位相勾配法 4:ハーフパワー法 5:RD対数減衰率 6:共振曲線1/√2法 7:共振曲線位相勾配法 8:カーブフィット 9:ハーフパワー法 10:自由振動対数減衰率 図 8 分析方法と固有振動数・減衰定数 自由振動実験において、R 階中央で記録された変位波形 5. 分析方法が評価値に与える影響 から、3 波区間毎にゼロクロッシング法及び対数減衰率よ 固有振動数・減衰定数の分析方法による差を図 8 に示す。 り固有振動数と減衰定数を求める。その結果の一例として この図より、固有振動数はどの推定法でもほぼ同様の結果 ケース 2 における固有振動数及び減衰定数の振幅依存性 が得られる一方、減衰定数はばらつきがあることがわかる。 を図 6 に示す。そして時刻歴自由振動波形を図 7 に示す。 特に近接固有振動数がピーク値付近に存在し、減衰定数を 固有振動数は振幅が小さくなるほど増加する一方、減衰定 過大評価している場合があった。このことから実験や分析 数は減少するという振幅依存性が確認される。EW 方向の 方法の特徴をよく考慮して評価を行うことが必要といえる。 5∼10μm の範囲で減衰定数が低下しないのは、近接固有 6. まとめ 振動数が存在するときに起こる現象である。2 方向の自由 本論文では木造住宅の各解体段階の振動特性に関して検 振動で振動エネルギーが相互に受け渡しされうなりが生じ 討を行った結果、非構造部材の剛性と固有振動数に大きな るるためと考えられる。また、微小振幅時では固有振動数 相関があることが確認された。今後、部材剛性を既往文献 と減衰定数のばらつきが大きいため、適切な評価を行うた や建物の状態から求めて全体剛性を考察し、それによる固 めには振幅レベルを考慮に入れる必要がある。 有振動数と実験から得られたものとを比較検討する。
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