Title Author(s) Citation Issue Date Type 不確実性下における最適課税理論 吉岡, 祐次 一橋研究, 24(2): 147-158 1999-07-31 Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/10086/5700 Right Hitotsubashi University Repository 147 不確実性下における最適課税理論 告 岡 祐 次 1 はじめに 政府による租税政策はそれが所得税である場合には人々の所得に大きく依存 することになる。ところで,現実において所得はそれが労働所得であるにしろ 資本所得であるにしろ確実に得られるとは限らない。このような人々の所得が 不確実である状況において,政府は所得の不確実性を考慮して租税政策を決定 する必要がある。そこで本稿では,所得獲得能力に関する情報の非対称性と資 本所得に関する不確実性が存在する場合を前提にして政府による最適な租税政 策について理論的な検討を試みる。 本稿の構成は次の通りである。まず第2節において,基本モデルを提示し個 人の合理的行動を定式化する。これらの定式化は政府の租税政策を考える際に 利用されることになる。次に第3節では,政府が個人のタイプを正確に識別で きない不完全情報下における政府の最適化行動を分析する。そして,不完全情 報下における最適所得税のもとでは,政府が情報上の制約に直面するのために, 各タイプの個人の直面する労働所得税の限界税率はゼロにはならなくなるとい う伝統的な結果幸導出す乱さらに第4節では・不完全情報下における最適労 働所得税を前提にした場合,資本所得税を追加的に導入することによるタック ス・ミックスの問題を考える。結論として,所得獲得能力をあらわす賃金率と 資本所得の発生する確率に依存して労働所得税と資本所得税のタックス・ミッ クスの必要性が主張できることを示す。最後に,分析結果をまとめて本稿にお ける問題点を指摘して結びとする。 一橋研究 第24巻2号 ユ48 2 予備的考察 この節では,基本的なモデルを提示し個人の合理的な行動について議論する。 2.1モデルの設定 ・経済は2種類のタイプの個人から構成されているとする(乞=1,2)。 ・各個人は財を消費することから効用を得る。そして,労働の供給にともなう 余暇の減少から不効用を得るとする。また,各タイプの個人の選好関係は同 質的であると仮定する。ここで,各タイプの個人の選好関係を次のような効 用関数により記述する。 m=〃(ら,ム{) 4=1,2 ω ただし,c{は財の消費量,ムは労働の供給量とする。そして,効用関数は 財の消費量らに関する増加関数,労働供給量ムに関する減少関数を仮定す る。 ●個人のタイプは所得獲得能力により特徴付けられるものとする。ここで,所 得獲得能力を賃金率叫であらわすものとする。なお,賃金率に関して ω2〉ω1を仮定する。すなわち,タイプ2の個人の方がタイプ1の個人より も所得獲得能力が高いと仮定する。 6各タイプの個人は不確実な状態に依存して高額または少額の資本所得を獲得 するものとする。具体的には,資本所得をκθ,θ=H,ムであらわすものとす ると,各タイプの個人は確率π〃で高額の資本所得K∬を保有し,確率πムで 少額の資本所得K。を保有するものとする(K〃〉Kエ)。なお,確率に関し てはπθ>O,θ=∬,工,π〃十πエ=1とする。 ・政府は任意の公共支出の財源を確保するために事前の段階において租税政策 を決定する。そして,租税政策として労働所得税と資本所得税を利用するこ とが可能であるとする。すなわち,政府は各個人が獲得する労働所得と資本 所得に対して課税権を持つものとする。なお,労働所得税は非線形課税とし, 不確実性下における最適課税理論 149 資本課税は線形課税とする。このとき,政府の予算制約式は次のように記述 することができる。 2 2 Σ・、T(ψ、)十Σ切、[π、幽十π、馬1≧R (2〕 4=1 4=1 ただし,〃ポはタイプゴの個人の人口数,T(・)は労働所得税の租税関数, ωムはタイプゴの個人の課税前の労働所得,そしてn爪ωム)はタイプ在の 個人すべてからの労働所得税による税収をあらわしている。また,広は資本 所得税の稗率,Kθ,θ=兄ムは状態θにおける資本所得,そして 切{[π冴K〃十πエK几]はタイフ{の個人すべてからの資本所得税による期待税収 をあらわしている。なお,Rは政府による公共支出のための必要税収をあら わし任意の水準で所与とする。 ●政府の租税政策を前提にする場合,各タイプの個人は労働所得税と資本所得 税を控除した残りの可処分所得を使って財の消費に対する支出とする。一この とき,各タイプの個人の状態θにおける一予算制約式は次のように記述される。 c{くωみ{一丁(ω’Lj)十(1−C)Kθ 4=1,2 θ=∬,L (3〕 ただし,ωムは課税前の労働所得,T(・)は労働所得税の租税関数で ωムーT(ωム)は課税後の労働所得,そして。は資本所得税の税率で (1−C)Kθは状態θにおける課税後の資本所得とする。なお,財の価格は1 に基準化している。 ・各タイプの個人は資本所得に関して不確実な状況に直面しており,状態に依 存して予算制約ないしは効用水準が変動する。そこで,各タイプの個人に関 する状態に依存した効用関数を次のように定義する。 γ{(舳卿一二(・1・(1−1)吋) /・) ただし,挑=ωムは課税前の労働所得,”{=挑一丁(ωは課税後の労働所 得(または可処分労働所得),そして(1−c)Kθは状態θにおける課税後の資 本所得とする。なお,この状態依存の効用関数は政府にとって観察可能な変 数である課税前の労働所得挑と課税後の労働所得エ{,そして政府の政策変 150 一橋研究 第24巻2号’ 数である資本所得税の税率。によって定義されている。また,各タイプの個 人にとって不確実な資本所得は政府にとっても不確実であるものとする。 2.2個人の合理的行動 ここでは,各タイプの個人に関する行動を定式化す乱各タイプの個人は予 算制約のもとで期待効用を最大化するように財の消費量と労働の供給量を決定 する。ここで,各タイプの個人に関する期待効用を次のように定義す孔 亙〆(”{,挑,C)三π島プ(刈,軌,ま,K〃)十π三γ{(エ{,挑,氏KL) づ=1,2 (5) このとき, タイプ{の個人の効用最大化問題は次のように記述することができ る。 maX @〃佃,軌,C) (6) π’,挑 slt. 巧=挑一丁(ω {=1,2 (7) すなわち,タイプ{の個人は,賃金率ω1と資本所得K田,そして政府の租税政 策(労働所得税:T(・)と資本所得税:τ)を所与として,(7)式であらわされる 予算制約のもとで(6)式であらわされる期待効用を最大化するよ・うに課税後の労 働所得∬{と課税前の労働所得挑を選択する1。 上記の効用最大化問題に関する1階の条件は以下のように導出することがで きる。 甜一1イ(払い一・・ 18) ただし,一亙ηと亙宕はそれぞれ期待効用亙γiの課税後労働所得挑と課税前労 働所得π1に関する限界効用とする。また,T’(v1)は労働所得税の限界税率を あらわすものとする。すなわち,(8)式があらわしているのは,タイプつの個人 1なお,タイフ{の個人の問題に関するラグランジニ関数は次のように設定することが できる。 4=〃{(π’,挑,f)十α{[ψrT(ω一工il ただし,α{はタイプ4の個人の予算制約に関するラグランジュ乗数であり,その経済学 的な意味は,タイプ{の個人に関する所得の期待限界効用をあらわしている。 不確実性下における最適課税理論 ユ51 が期待効用に関する課税後と課税前の労働所得の間の限界代替率と課税後にお ける労働所得の純限界収入が等しくなるように課税前と課税後の労働所得を決 定しているということであ一る。 なお,期待効用関数万γ{(・)と状態依存の効用関数γ{(・),そして元の効 用関数m(・)の関係について,次のような関係式を提示してお㍍ 邸一棚・・π1巧11一π知㌘⊥十π1ω1・⊥, (9) ω{ 物 理{=π泌∬十π〃㌧π鮒十π三堵, ω 万卜π炉十π〃L一一(π知㌘仙十π三次、) ω ただし,ψや4”などはそれぞれ状態Hにおけるタイプゴの個人につ一いての 元の効用関数m(・)と状態依存の効用関数〃(・)の変数ゴに関する限界効用と する。 3 不完全情報下における租税政策 この節では,不完全情報下における政府の最適化行動を定式化する。そして, 不完全情報下における政府の最適化行動を前提にして労働所得税政策を特徴付 ける。ここで,不完全情報とは政府が個人のタイプを正確に識別できないとい うことである。具体的には,どの個人がどのタイプの所得獲得能力ω1を有し ているかにっいて政府が正確に識別できない状況を考える。このような不完全 情報の状況を想定した場合,政府は労働所得軌を所得獲得能力のシグナルと して租税政策を決定することになる。ここで,労働所得を所得獲得能力のシグ ナルとして利用する場合,完全情報のもとでの最適所得税を実施することはも はや不可能とな乱なぜなら,所得獲得能力の高いタイプ2の個人が能力の低 いタイプ1の個人の振り(mimic)をして故意に労働所得を減少させ労働所得税 の回避を図ろうとするからである。したがって,不完全情報を前提にする場合, 政府は情報上の制約に直面することになり,そのことを考慮した上で租税政策 を決定しなければならなくなる。 まず最初に,不完全情報下における政府の最適化問題を次のように設定する。 152 一橋研究 第24巻2号 2 max Σ・、が(・、,μ、,O) (1a ”{,挑 ゴ=1 s.t. 〃2(工。,μ。,O)≧〃2(”1,軌,O) (13) 2 Σm{(μr”{)=R . ω {=1 ただし,02賦は功利主義的な期待社会厚生関数,(13〕式は自己選抜制約式,そし てl/4〕式は政府の期待税収制約式とする。すなわち,政府は,労働所得税を財源 としてある任意の水準の公共支出を実施するという税収制約と所得獲得能力の 高いタイプ2の個人が能力の低いタイプ1の個人の振りをしないようにという 自己選抜制約のもとで,各個人の期待効用の総和で定義される期待社会厚生を 最大化するように各タイプの個人に対して提示する労働所得税{π{,ω,4=1.2 を決定する。ここで,(13〕式の自己選抜制約は,タイプ2の個人に対して提示さ れる労働所得税{エ。,μ2}とタイプ1の個人に対して提示される労働所得税 {エj,μ】}を比較した場合にタイプ2の個人が真実を表明して前者を選択するよ うに当該個人の行動を制約することをあらわしている。なお,ここでは資本所 得税を導入しないものとしてその税率をゼロとしている(C=O)。 次に,不完全情報一下における政府の最適化行動を前提にして租税政策を特徴 付ける。ここで,不完全情報下における政府の最適化問題に関する1階の条件 は次のように導出することができる。 一竹一1 115〕 万K 一診一ボ紙・1 (16) ただし,μは期待税収制約式に対するラグランジュ乗数,λは自己選抜制約式 に対するラグランジュ乗数とする。。そして,五K2=棚γ2(”、,v、,c)/砒1, 亙巧㌧∂五γ2(z、,μ1,C)/勿、とし,それぞれ所得獲得能力の低いタイプ1の個人 の振りをしている能力の高いタイプ2の個人に関する課税後の労働所得”と 課税前の労働所得vについての限界効用をあらすものとする。そして,個人の 不確実性下における最適課税理論 ユ53 効用最大化問題に関するユ隆条件18)式を利用すると,この条件式は所得獲得能 力の高いタイプ2の個人に対する労働所得の限界税率はゼロであり,所得獲得 能力の低いタイプ1の個人に対する労働所得の限界税率は正となることをあら わしている(プ(〃・)=O,T’(V1)〉O)。すなわち,不完全情報下における最 適所得税は,所得獲得能力の高いタイプ2の個人に対しては労働所得税の限界 税率がゼロとなる歪みのない課税(nOn−diStOrtiOnaユy taX)となり,所得獲得能 力の低いタイプ1の個人に対しては労働所得税の限界税率が正となる歪みのあ る課税(diStOrtiOnary taX)となることが分かる。このような不完全情報下に おける最適労働所得税の結論は先行研究における結果と同じものである。 4 不完全情報下における資本所得税の役割 政府が個人のタイプを正確に識別できない不完全情報という状況を前提にし た場合,政府は情報上の制約に直面することになる。そのため,不完全情報下 における最適所得税のもとで実現される期待社会厚生水準は完全情報下におけ る最適所得税のもとでの期待社会厚生水準よりも低くなるということが予想さ れる。そこで,この節では,不完全情報下において政府が直面する情報上の制 約を緩和して期待社会厚生を改善するような租税政策のメカニズムを考えてみ る。そのための具体的な例として,労働所得税に加えて資本所得税を租税政策 に導入するタックス・ミックスのメカニズムを検討してみる。なお,分析の手 順として,まず第王段階として、資本課税の税率を任意の水準で固定して労働 所得税に関する租税政策の問題を考える。そして第2段階として,資本課税の 税率をゼロの水準から追加的に増加させた場合に期待社会厚生水準がどのよう に変化するかについて分析する。そうすることで,労働所得税のみの租税政策 から資本所得税をミックスした租税政策への税制改革の是非を検討することが できる。 まず最初に,資本所得税を導入した不完全情報下における政府の最適化問題 を次のように記述する。 2 maX Σ・{卯(工{,軌,1) l11) 工{,ψ ゼ=1 ・.t. 〃2(π。,V。,C)≧〃2(π1,〃1,彦) (18) 一橋研究 第24巻2号 ユ54 2 2 Σm、(v、一”、)十Σm、亡[砧K冴十π三瓦コー沢 o9) {亭1 づ=1 ただし,資本課税の税率。は任意の水準で所与とする。 そして,この政府の最適化問題に関してラグランジュ関数を次のように設定する。 2 工。=Σ・{卯(均,挑,1)十λ[〃2(工。,〃)一〃2(π、,μ、,τ)1 4亡1 ㍉(在}1)1、茎岬・机1+ ただし,λは自己選抜制約式に対するラグランジュ乗数,μは期待税収制約式 に対するラグランジュ乗数とする。 なお,上記で示されている不完全情報下におけるタックス・ミックスに関す る政府の最適化問題は,資本所得税の税率サをゼ■とすると,前節で議論され た不完全情報下における労働所得税に関する政府の最適化問題と同じになる・ したがって,不完全情報下における最適所得税の結論(T’(V2)=0, プ(μI)〉O)は資本所得税の税率‘をゼロとするもと・で成立することになる。 ここで,資本所得税を租税政策に導入する場合の社会厚生の変化を分析する 準備として,上言己に示されている不完全情報下における政府の最適化問題から 導出される間接期待社会的厚生関数を次のように定義してみる。 2 w(c)=Σ五プ(π、(τ),挑(f),f) ⑫D 4=1 ただし,π{(c)とv{(工)はそれぞれ,任意の水準で与えられる資本所得税の税 率サに対する不完全情報下における最適所得税のもとで各タイプの個人に対し て提示される課税後の労働所得と課税前の労働所得とする。この間接期待社会 的厚生関数は,任意の水準で与えられる資本所得税の税率fに対して,不完全 情報下における政府の最適化行動を前提にして導出される最大限の社会厚生を あらわしてい乱そして,資本所得税の税率fをゼロにした場合の期待社会厚 生水準W(0)は資本所得税を導入する前の労働所得税のみの租税政策におけ 不確実性下における最適課税理論 155 る期待社会厚生水準と同じである。 それではここで,労働所得税のみの租税政策の状態から労働所得税と資本所 得税のタックス・ミックスにより構成される租税政策に政策が変更された場合, 不完全情報下における期待社会厚生はどのように変化するかを考察する。その ためには,資本所得税の税率fがゼロの状態から追加的に増加したときに期待 社会厚生がどのように変化するかを検討すればよい。具体的には,包絡面定理 を利用してラグランジュ関数。①式を資本所得税の税率。で編微分することで, ト0の水準で評価された間接期待社会的厚生関数W(τ)の資本所得税の税率 fに対する変化の反応を求めることができる。なお,その結果は次のように示 すことができる。 ∂ 万W(0)一(一・1π如1H・(…λ)赫・λπ鮒・μ・1π}一μ・・π1)(札一K1) ⑳) ただし,α:θはタイプ4の個人が状態θの資本所得を保有する場合における所 得の限界効用,カ;θはタイプ1の個人の振りをしているタイプ2の個人が状態 θの資本所得を保有する場合における所得の限界効用とする。 ここで,上記の解釈を容易にするために以下のように場合分けをする。 ●ケース1:π去=O,πえ=1,π后=1,そしてπ三亡Oの場合, d等10)一一/榊∬一九)・・ ㈱ ○ケース2:π去=1,π三=O,π后=O,そしてπ三亡1の場合, 等)一一/榊五一札)・・ 雌) ○ケース3=π古=1,π三=O,π后=1,そしてπ三=Oの場合, d等10)一(一・〆・/11∬)(・。一見)一・ 鰯) 156 一橋研究 第24巻2号 ・ケ0ス4:π}=0.π三=1,π后=0,そしてπ三=1の場合, dW(O) =((m2+λ)勿二L一μm2)(K〃一瓦)=0 励 ㈱ なお,これらの結論の導出に際して,政府の最適化問題に関する1階条件を利 用している。 最後に,上記で導出された結果について解釈してみる。まずケース1では, 所得獲得能力の高いタイプの個人ω。には高額の資本所得KHが確実に実現し, 所得獲得能力の低いタイプの個人ω1に対しては低額の資本所得Kエが確実に 実現する場合である。この状況においては,所得獲得能力と資本所得が正の相 関関係を持っていることになる。このとき,資本所得税を追加的に導入し税率 を上昇させることで期待社会厚生は増加するという結果が得られている。次に ケース2では,所得獲得能力の高いタイプの個人ω2には低額の資本所得Kエ が確実に実現し,所得獲得能力の低いタイプの個人ω1に対・しては高額の資本 所得K〃が確実に実現する場合である。この状況においては,所得獲得能力と 資本所得が負の相関関係を持っていることになる。このとき,資本所得税を追 加的に導入し税率を上昇させることは期待社会厚生は減少させるという結果が 得られた。最後にケース3とケース4では,どちらの所得獲得能力のタイプの 個人もともに同じ額の資本所得を得ている場合である。すなわち,所得獲得能 力と資本所得との間には全く相関関係が存在しない状況であ孔このとき,資 本所樗税を追加的に導入ししても期待社会厚生には影響しないことが示されて いる。したがって,資本所得に不確実性と所得獲得能力に関する不完全情報を 前提にすると労働所得税と資本所得税のタックス・ミックスを実施する意義の ある状況はケース1とケース2の場合であり,所得獲得能力と資本所得に相関 が認められる状況であると考えられる。また,それぞれの相関関係が正かまた は負であるかにより,資本所得税が課税タイプか補助金タイプかに区別される。 5 おわりに 本稿では,所得に関して情報の非対称性と不確実性が存在する場合における 最適所得課税について理論的な分析を試みた。具体的には,所得獲得能力に関 して政府と個人の間に情報の非対称性が存在し,かっ個人の資本所得に不確実 不確実性下における最適課税理論 157 が存在する場合を前提にして,政府による最適な所得税の決定に関する問題を 考察した。そして,結論として次のような結果が得られた。まず,所得獲得能 力の高い個人に対して確実に高額の資本所得が発生し所得獲得能力の低い個人 に対しては確実に低額の資本所得が発生する状況を考えると,労働所得税に課 税タイプの資本所得税をミックスすることにより期待社会厚生が改善する。次 に,所得獲得能力の高い個人に対して確実に低額の資本所得が発生し所得獲得 能力の低い個入に対しては確実に高額の資本所得が発生する状況を考えると, 労働所得税に補助金タイプの資本所得税をミックスすることにより期待社会厚 生が改善す私さらに,どちらのタイプに対しても同額の資本所得が発生する 場合には資本所得税のミックスは期待社会厚生を改善させない。なお,本稿の 分析では資本所得の発生確率に関して極端なケースのみに注目している。とこ ろが,本来ならばその中間における資本所得税の導入の効果についても分析す べきである。ただし,これらの議論に関しては今後の研究課題としたい。 参考文献 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