死に戻りな八幡はパーフェクトとなる ID:85668

死に戻りな八幡はパーフェクトとなる
凪月
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じます。
︻あらすじ︼
奉仕部内で足りないところを補い合い大学に入った三人。
しかし入学して僅か数日⋮八幡は、雪乃と結衣に突っ込んできたト
ラックから二人をかばい空中を舞うことになった。
二人に言葉を言い残して死んだ⋮かのように思われた八幡の人生
は2年前まで巻き戻り、気付けば平塚先生の前に立っていた。
作文を大声で読まれ新たな1ページを黒歴史に刻み込み、今度は自
ら奉仕部へと入ることを希望した。
プロローグ │││││││││││││││││││││││
目 次 第一話:﹁ちょっと早い出会い﹂ ││││││││││││││
﹂ │││││
第三話:﹁ロトの勇者︵笑︶﹂ │││││││││││││││
この人でなしィッ
彩加の家の台所っすかね⋮﹂ │
と言った林⋮彼奴は許
39
第六話:﹁本領発揮﹂ │││││││││││││││││││
第七話:﹁俺が体験する職場⋮
第八話:﹁リコーダー舐めた犯人はお前だろ
第9話:﹁変わっt⋮可愛い先輩未来人はるのん
﹂ │││││
さない﹂ ││││││││││││││││││││││││
!
?
33
第 五 話:﹁せ ん せ ー、ヒ キ タ ニ 君 が か べ こ わ し ち ゃ い ま し た ー﹂ 第四話:﹁剣豪将軍が死んだ
19
23
第二話:﹁クッキーをつくろう﹂ ││││││││││││││
1
!?
10
6
!
!
43
49
28
│
プロローグ
卒業。というのは、得てして誰にでも起こるものだ。
まだ目も腐っておらず幼気な少年だった頃に、ヒキガエルとか容赦
ない渾名を付けて来る残酷な小学校時代。小学校の卒業は、6年の時
の先生が滅茶苦茶共感してくれる先生だったから泣いた。けど、その
後のクラス会に出席した先生は既に俺のことを忘れていたと聞いて
陰で泣いた。
カン違いから告白して振られて澄んだ瞳が濁った中学校。これも
また卒業した。
そして、俺は高校で初めて﹃本物﹄と呼べる関係を作れたのだ。そ
の後雪乃に数学を教えてもらい、どうにか克服して心が晴れ晴れとし
た 状 態 で、卒 業 し た ⋮。同 じ 大 学 に も 合 格 で き た し な。し か も 千 葉
大。
衝撃が全体に伝わって一気に放出された。
吹っ飛んだ身体が宙を舞い激しい熱さを感じる。
永遠にも感じる滞空時間が漸く終わりを告げて、地面にどうと音を
立てて弾み転がる。あぁ、これは二度と立ち上がることが出来ないだ
ろうな。
1
が、その一週間後。俺は呆気なく人生の幕を閉じた。
理由は簡単。二人に居眠り運転のトラックが突っ込んで来て、目の
前で轢かれそうになった。そこに無意識のうちに俺は彼女達の手を
握り、こっち側に引っ張ったのだ。
作用反作用。
まるで昔の俺と雪乃みたいに真逆の働きをする。当然、そこまで鍛
えていない俺は雪乃と結衣の二人を引き寄せるには軽すぎた。
条件反射的に理解できてしまった俺は二人の手を振り切って放す。
その辺りから生まれた時から現在までのトラウマ・黒歴史集を不自
八幡にだって人権はあるんだよ
然に思い返し始めた。こら、そこ生きてるだけで黒歴史とか言わない
の
!
やけにゆっくりになった世界で、トラックの真正面に身体が激突し
!
高校入学初っ端のサブレを庇って轢かれた時の比ではないくらい
痛いのは当たり前のことか。今回は2tトラックであの時は一応乗
用車なわけだし。
そんなことを考えていると、地に着いた耳から駆け寄ってくる2人
﹂
の足音が聞こえた。
﹂
﹁ヒッキーッ
﹁八幡っ
﹁ヒッキー無理しないで
今救急車呼ぶから
﹂
!
前、らしく⋮ないぜ
な
﹂
﹂
けで、一気に力が減っていくんだよ。最後なんだ⋮だから、分かるよ
﹁いや、喋るさ。感覚的に、分かるんだよ、俺。こうして⋮瞬きするだ
!
?
﹁良いからしゃべらないで
﹂
﹁雪乃、焦るな⋮焦った時は、深呼吸しろよ⋮。どうした、いつものお
﹁八幡が八幡が八幡が八幡が⋮﹂
!
﹁い⋮つつ⋮はは、落ち着けよ⋮二人とも⋮﹂
なぁ⋮。それに結衣少しは落ち着け⋮というより痛いから揺らすな。
はは⋮いつも冷静沈着な雪乃のここまで狼狽する姿は初めて見る
雪乃と結衣が此方に近づいて来て二人ともパニック状態に陥る。
!
雪乃、結
俺はお前達二人が、そして小町がこの世界で、一番、大切
らい。実際、今だって意識が半分飛びかけているのだ。
﹁⋮良いか
なもの⋮なんだよ⋮。だから、最後くらい笑ってくれよ、な
私、まだヒッキーに伝えてないことがある
!
衣。﹂
﹂
﹁⋮最後なんていやだよ
のに
?
?
良いなってあぁ⋮すまん。
?
口が動かない⋮あぁ、もう喋れねえのか、畜生。これからの人生、こ
まだ、言いたいことはあるのによ﹂
も。俺が死んだら⋮俺のこと、忘れろよ
﹁⋮そっか。笑顔、見れなかったのは残念だけど⋮嬉しいぜ、ふたりと
﹁そうよ、勝手に逝かせて溜まるものですか⋮八幡。﹂
!
2
!
その言葉に二人共が双眸に涙を浮かべる。あークソ本当にやりづ
?
いつらと歩けたらどれだけ幸せだったことだろうか⋮。走馬灯が見
えた時も高校生活最後の方だけは煌びやかだった、美しかった、そし
て楽しかった。
もし、神がいるのならもう一度比企谷 八幡として生を授かり、こ
いつらと巡り逢うことを叶えて欲しい。
俺は死んだはずじゃな
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
身体が無限の浮遊感に包まれる。あれ⋮
かったっけか
﹁明るいな﹂
像してたんだが⋮
死後の世界とかってこんな感じなんだろうか。もっと暗いのを想
?
﹂
声が反響する。その瞬間、感覚が一気に現実世界に舞い戻った。
聞いてるのか
﹁⋮い、比企谷
!?
ろう。この犯行声明をなっ
﹂
﹁⋮⋮比企谷、お前今話聞いてなかっただろ。もう一度読みあげてや
﹂
﹁平塚⋮先、生
!
入れられたんだっけ。
ずっと奥に自らしまっていた記憶が蘇る。
﹁君 は も う ち ょ っ と 協 調 性 を だ な ⋮ っ て、ま た 聞 い て な い だ ろ う
はぁ⋮﹂
﹂
﹁⋮すいません、先生。いや、改めて見ると若いな⋮と﹂
﹁⋮比企⋮谷⋮
﹁⋮んんっ、比企谷。今回は再提出だけでいいぞ。﹂
から2年後くらいだからな。
あ、先生泣きそうだ。いや、でもうん俺が最後に見た平塚先生は今
?
で、そん時に色々歳の事とか言って、奉仕活動として雪乃の部活に
病と言われても仕方ないよな⋮。
しかし、そう言われたらそういう風に書いた気もする。これは高2
いなかった気もするが、恥ずかしいな⋮。
職員室の先生方が肩を揺らして笑っている。前はそこまで感じて
!
3
?
?
?
﹁ありがとうございます。ところで先生、奉仕部ってしってます
どうした
﹂
﹁⋮⋮入部、出来ないでしょうか
﹂
﹂
﹁⋮ほう。まさか奉仕部を知ってるとはな⋮。私が顧問だが、それが
?
とか、聞かないんすか
﹂
すると平塚先生は何やら考え始め、そして暫くすると頷き俺に許可
を出した。
﹁⋮あの、何で入部したいのか
?
それに、私の知る比企谷 八幡はリス
う、が顧問として掲げている看板だからな
⋮⋮全くこの人は。
拒まぬ
﹂
!
﹂
?
?
てしまう。ドアが開いたことで風が通ったからだろう。
﹁平塚先生、部室に入ってくる時は⋮ってあらどなたかしら
﹂
なたにしろノックをするのはマナーだと思うのだけれど。﹂
﹁⋮ゆきの⋮⋮⋮下。﹂
﹁貴方、今、下の名前を言ったの
まぁ、ど
ガラッとドアを開いたその時突然風が吹き、余りの勢いに目を閉じ
ふぅ⋮平常心だ平常心。落ち着いて⋮よし、行くぞ⋮。
を選んでくるんだよ。
いるじゃないか。何でわざわざちょっと他よりも更に気持ち悪いの
てかサンショウウオじゃなくてもいいだろ⋮ほらイモリとか他にも
ほど出てサンショウウオと呼ばれていたトラウマが蘇り憂鬱になる。
ただ、な⋮。つい腰が引けてしまう。妙な緊張で手汗がハンパない
もない。
俺は奉仕部に居たのだから、当然迷うはずもないし時間もかかるはず
そうして俺はドアの前で頭を下げて職員室を出る。つい最近まで
﹁うっす﹂
﹁⋮あ、あぁ。明日、入部届け持ってこいよ
﹁先生、最高にカッコいいっすね。じゃあ俺、そろそろ行きます。﹂
!
クリターンを見抜けない男ではない。まぁ、来る者拒まず去る者は追
﹁君にも考えがあるのだろう
?
?
訝しげに見てくる雪乃。おっと、生憎と今は目が腐って居ないか
﹁あ、あぁ、いやすまない。知り合いにそっくりな子がいてだな⋮﹂
?
4
?
?
ら、普通だぞ
真っ向から見つめ返すと、表情を緩め雪乃は呟いた。
﹁⋮そう、随分と恵まれた子もいるものね。私と似ているだなんて。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮まぁ、そうっちゃそうだな。﹂
そ の 割 に は あ る 一 部 分 が 驚 異 的 に 無 い で す け ど ね。胸 囲 だ け に。
まさかとは思うけど⋮﹂
はっはっは⋮何だこれつまんねえよ。
﹁それはそうと、入部希望者かしら
手を差し出すとこの頃にしては意外なことに、恐る恐るだが反対側
﹁OKだ。俺は2│Fの比企谷 八幡。よろしく頼む﹂
ず、貴方の自己紹介を聞かせてもらおうかしら。﹂
自己紹介を単純にしても面白く無い、と思うのだけれど⋮。取り敢え
﹁まぁ、それもそうなのだけれど⋮。それで、多分知ってるでしょうし
ていないだろ。
﹁そのつもりだ。今の噂も流れて居ないのにこの部室に来るやつなん
?
﹂
の手を差し伸べた。おぉ⋮久しぶりに触ったが、やはりスベスベで柔
らかい。
﹁⋮よ、よろしく⋮
﹁おう、よろしくな雪ノ下。﹂
?
こうして俺はもう一度彼女と再会することが出来た。
5
?
第一話:﹁ちょっと早い出会い﹂
あれから三日が経ったが俺は休むこともサボることもしようとす
らせず当たり前の様に奉仕部に来ていた。
前よりも早くに心地よい静寂となっているのだが、時折此方に雪乃
がチラと視線を向ける。
そして俺が雪乃の方に視線を向けるとサッと逸らすのだ。可愛い
﹂
なこいつ⋮猫みたいなことをする。
﹁⋮どうしたんだ雪ノ下
﹁いえ、別にこう言ってはアレかもしれないけれど、何であなたはわざ
わざこの部活に入る気になったのかしら
そう言ってくれたやつはお前が初めてだけどな。﹂
?
今のをブーメラン発言って
﹁それは友達が居ないからでしょうねボッチ谷くん
﹂
﹁おい、お前ブーメランって知ってるか
言うんだぞ
﹂
﹁気があうな。俺も自分のこういうところは案外気に入ってるんだ。
﹁あなたのそういうところ嫌いじゃないわ。﹂
クスッと笑って、雪乃はでもと言って続けた。
﹁本当に軽率で単純な思考ね⋮。﹂
部室で静かに本を読んで過ごすのは悪くない。﹂
純な思考かもしれないがこれが理由だな。そして、事実雪ノ下とこの
﹁⋮⋮まぁそうだな、強いて言うなら面白そうだったから。軽率で単
わらず洞察力や思考力やらが高校生レベルじゃねえな。
読みかけていた本を閉じる。⋮前の時はそうでしたよええ⋮相変
普通なら⋮平塚先生が矯正を強制すると思うのだけれど﹂
?
?
のかしら
のよ﹂
﹂
私の手から放たれるブーメランは須く手元に戻ってくる
﹁あのなぁ⋮雪ノ下、お前も友達いないだろ
したわ﹂
﹁そういうことね。私の話し掛け方が超絶技巧と言われたかと勘違い
?
6
?
﹁あら、私がブーメランレベル7以上の達人クラスって何でわかった
?
?
勘違いに収まるレベルじゃねえしそもそもブーメラン得意なのか
よ。だから、ブーメラン発言も今凄い勢いで心に突き刺さってるんで
すね。
まぁ、2年も一緒に居たのに知らなかったのはまだまだだったって
ことなんだろうけどさ。
﹁あら、もうこんな時間ね。それじゃあそろそろ終わりにしましょう
か。﹂
﹁おう。﹂
話していたらいつの間にか時間が過ぎていた。今から帰ると小町
ちょっと待て。何で俺はiPhone6s
確か、俺の高2の春にはまだ発売されてなかったは
にLINEで送る⋮ん
を持ってるんだ
﹁どうしたの、比企谷くん
﹁あ、いや⋮何でもない。﹂
そんなところでヌボーっとして。﹂
という記事が書き込まれていた。
問題なく繋がっているみたいだし、ヤフーで調べたらレスターが優勝
つまり、これから起こることを俺は分かるわけで。ネットは何故か
ず⋮。
?
⋮材⋮材木崎
みたいな厨二病発言だと思ったのはここだけの話。
それに、そろそろ結衣も奉仕部を訪れる頃だ。
心底嫌だと思うくらいには俺も気に入っているのだ。
金はないこともない。けれど、流石に一週間も奉仕部に行けないのは
今、俺の手元にはアメリカに一週間なり二週間なり行けるだけの貯
リカに行かなければならないのだ。⋮買う時もだが。
当然、当たればとんでもない額を貰えるが、受け取るためにはアメ
がイヤに高いというアレだ。
昔ネットで気になって調べた⋮というレベルでしかないが当選額
とと思う。まぁ、有名なのはパワーボール。
海外には、日本の比じゃない当選額を得られる宝くじをご存知のこ
︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
?
7
?
つまりこれは俺の時代が来た⋮ということだ。⋮くっ、何処かの材
?
!
日本でロト6や7を買って当てるで良いだろう。まだ焦らなくて
も大丈夫だ。
⋮と、夕焼けに沈む街の中を歩く。普段は自転車だが今日は朝雨が
降っていたので電車で来た。
﹂
そんないつもとは少し違う道を歩いていると女性の声が聞こえた。
﹁やめ︳︳︳くだ︳い
いや、そもそも
それなりに正義感の強い葉山であっ
⋮聞かなかったことにすれば良かったのだろうか
﹁⋮⋮⋮おらっ
﹂
がプチッと切れた。
り変わらなさそうなものだと思う。そう考えただけで、頭の中で何か
明らかに犯罪⋮それも性犯罪目当て。その少女の歳は小町とあま
んなところに入ってくるやつは居ない。
表通りからは少し外れた人通りも少ない裏路地で、だ。普通ならこ
れて、身体を触られている。
とうとう声のした場所に着く。1人の少女が3人の男に取り囲ま
て分かってるのに。
⋮⋮そう決めた俺の意思とは真逆に脚が動く。こっちじゃないっ
けど、俺はそんな高尚なものじゃない。だから、俺には無理だ。
たなら、直ぐさま駆けつけることだろう。まさしくヒーロー様だ。だ
見て見ぬふりをして良いのか
?
!
﹂
!
見逃してくれ
﹂
すると、面白いくらい吹っ飛び10mほど先の壁に当たって頽れ
腐った眼で睨み、男を突き飛ばす。
久しぶりに高校生の時の︵あれ、現在進行形で高校生なんだけど⋮︶
﹁⋮そこの子を離せよ。お前みたいなのを見るとイライラする。﹂
﹁テメェ、何しやがんだ
はうぐ⋮と言って地面に叩きつけられた。
強くないかと思ったら思いの外勢いが出ていたらしく、絡んでいた男
振り下ろす。速度が足りず、加えて腰が入っていなかったのであまり
背後から勉強道具の入ったカバンを一番近くにいる男の後頭部に
!
8
?
!
た。
﹁ひ、ひぃっ
!
﹁とっととそこの2人を連れて失せろ⋮虫唾が走る。﹂
男はノロノロと動き、地面に倒れた男と壁まで吹き飛んだ男を走っ
て連れて行った。冷静に考えるまでもなく、俺の筋力が異常なまでに
上がっている気がする。俺は10kmのランニングも、100回ずつ
のスクワット、腹筋、腕立てふせはしていない。
アニメや漫画
﹁あ、あの⋮助けてくださりありがとうございました⋮﹂
此奴一色じゃん
一色という台詞と共に背景に縦線入っちゃうレベル。
少女が謝罪を⋮して⋮き⋮って
なら、げっ
!?
この辺りは身を以て
?
良いな
﹂
﹂
一応、家までは送ってそれから帰路に着いたので、小町に注意を受
﹁は、はい
⋮っと早く表通りに出るぞ。﹂
﹁名 乗 る 程 の 者 じ ゃ な い。そ れ に い ず れ ま た 会 う こ と に な る し な。
﹁⋮⋮はい。あの、貴方の名前は
﹂
Ifの話をしても仕方がないかもしれないが、全て事実だ。
くに居なかったら。
もし、俺が表の通りを通らなかったら。もし、近道しようとして近
体験しただろうが、不良が集まるんだよ。
じゃない。通るにしても複数人でだ。良いか
﹁⋮ 礼 は い い。だ け ど ⋮ 二 度 と こ の あ た り を 日 が 沈 ん で か ら 通 る ん
な⋮。
でも一応年配者として、先輩として言っておかなくちゃいけないよ
!
けた。そしてその翌日、結衣が部室のドアを叩くことになる。
9
!
?
?
!
第二話:﹁クッキーをつくろう﹂
トトトトトトトッ⋮と言う音が家庭科室に木霊する。俺の手捌き
はまるでプロの料理人のソレと同等である⋮というのは言い過ぎか
もしれない。
しかし、速度は明らかに手慣れたものとなっていた。全員が口をポ
と騒いで
カーンと開けて此方を見ている。⋮ここはガン無視だ。その中に結
衣も居て一緒に口を開けて居たが、ハッと気付くと凄いね
いた。勿論、あーしさんと海老名さんに向かって。
﹁うわぁー比企谷くん凄いねー﹂
﹁なっ、とっ、戸塚⋮⋮さん﹂
﹁⋮プッ⋮ハハハハっ。彩加でいいよ、比企谷くん。﹂
﹂
﹁⋮あはは、ごめんね八幡。ちょっと見させてくれると嬉しいかな。﹂
加今から炒めるから少し退いててくれるか
﹁すまん、女子が男子の制服を着ているように見えてな⋮。あ、⋮⋮彩
!
﹁是非見ていってくれ。⋮⋮将来、毎日作るかもしれねえからな⋮﹂
いや、それともさいはち
でも、個人的にはやっぱりはやは
?
と苦言を呈されている。おぉ、もっと言ってやれ。
﹂
すごく美味しそうだね、この豚肉の生姜焼き
﹁⋮よし、出来たぜ。食ってくか彩加
﹁え、良いの
﹂
!
降は紛失︶だからな
﹂
た人の手助け⋮もとい案件に対する解決の仕方を教えるという部活
放課後、俺はいつもと同じように奉仕部へと向かう。奉仕部は困っ
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
い。その後、作った料理を2人で一緒に食べて授業を受けた。
彩加は相変わらず天使だった。超かわいい⋮というか、嫁に欲し
!
10
?
おっと、危ない発言をしていた。海老名さんが遠くではちさい良
いっ⋮
ち⋮
!
と言って鼻血を出した。あーしさんからちょっと自重しろし姫菜
!
﹁はっはっはー、比企谷家に代々受け継がれるレシピその1︵その2以
?
?
!
なので、正直なところそこまで生徒は来ない。
⋮というよりも、平塚先生率が凄く高い。いつもなら静寂な時は雪
お手洗いならすぐそこだぞ
﹂
乃がたまに此方を見るくらいだが、最近は相談者が来ないかなとソワ
ソワしている。
﹁⋮⋮雪ノ下、お前大丈夫か
?
あって⋮﹂
お前は猫か
﹂
!
いるわね。⋮これは、その⋮⋮依頼者が来ないかなという気持ちで
﹁この状況でお手洗いだのと言える貴方のユーモアは中々ぶっ飛んで
?
﹁くっ⋮ははは⋮可愛いところあんじゃねえか。あー悪かったって
﹂
だからひっ掻くな
﹁ふしゃーっ
!
は何を言ってるんだろう
﹁⋮少し取り乱したわ﹂
でも何でもないんだが。
﹂
?
﹁な、何でヒッキーがいんのよ
﹁⋮いや、そりゃここの部員だからな。で、由比ヶ浜何か用か
﹁ちょっと待ちなさい比企谷くん、それ私の台詞だから。﹂
⋮妙なところににこだわるな、こいつ。
﹁まぁ、良いから座れよ。﹂
﹂
ゆれる。そして、俺と目があった途端息を飲んだ。いや、俺は化け物
ふむ⋮緊張はしているが挨拶はしているな。ウェーブを描く髪が
﹁し、失礼しまーす﹂
﹁どうぞ﹂
た。いや、お前どんだけ依頼者に飢えてたんだよ⋮。
れた。コン⋮コンという少し遠慮がちな音に、雪ノ下は顔を輝かせ
と、その時。珍しく、というよりも初めて奉仕部のドアがノックさ
﹁少しの域を遥かに超えていたけどな。﹂
?
は少女だからこそ許されるのであって女ではない︵白目︶。⋮あれ、俺
当みたいだな。因みにココ、少女でなければただの痛い美女だ。少女
う⋮それでも結構可愛い⋮。美少女なら何でも許されるってのは本
本格的に氷の女王︵同級生︶が猫の威嚇を真似し始めた件について。
!?
!
11
!
椅子を出してきて、座るように促す。依頼を聞く側だけが座ってい
るというのも何だしな。それに、結衣を本当に知らなかったあの頃と
違って、俺はいろいろなことを知っている。それに紳士だしな。
﹁あ、ありがと⋮﹂
﹁コホン。それで、由比ヶ浜 結衣さんね﹂
﹁あ、あたしのこと知ってるんだ⋮﹂
まぁ、こいつは殆どの生徒を覚えているからな。一応、俺のクラス
の中でトップカーストに位置する由比ヶ浜を万が一にでも知らない
はずがないといえる。
﹁ええ、殆どの生徒はね。そこの比企谷くんは知らなかったけど。﹂
﹁さいですか。﹂
﹁落 ち 込 む こ と で は な い わ。非 は 私 の 比 企 谷 く ん に 対 す る 興 味 が 無
かったからなのだし。﹂
何気に前言われた時よりも緩和されてた。それに雪乃はもっとも
12
⋮と続けた。
﹁今は貴方にそれなりの興味はあるわ。﹂
﹁お、おう⋮﹂
﹁なんか仲良いね、2人とも⋮﹂
﹃それはない﹄
言葉が被ったが意気なんで統合してない。と、言ってみたは良いも
のの明らかに仲良いだろそれ。生前からの付き合いって言っても信
じちゃうレベル。他人なら。
﹁いや、ヒッキーがクラスにいる時と全然違うから。ちゃんと女子と
も喋るんだーって思って﹂
﹁喋るよ、そりゃ俺も人間なんだから。﹂
うわ、凄え懐かしい。まー俺は過干渉はしたくない、いや出来ない
﹂
からな。態々関わり合いになろうとは思わないし。
﹁それで、由比ヶ浜さんの依頼は何かしら
﹁あ、えーっとクッキーを⋮﹂
と、チラチラ此方を見る。
﹁悪い、雪ノ下。せっかく来てもらったからジュース買って来るわ、野
?
菜生活100いちごヨーグルトミックスで良いか
﹁perfectよ、比企谷くん﹂
けどよ
ガッハッハ⋮。
﹂
マッカンを除いて、その他のものが結構凡庸に感じてしまう。
早く飲みたい気もするが、アレはもう少ししてからだったか
結衣のは⋮うん、男のカフェオレでいいか。
さて、部室に戻ると話は既に終わっていたようだった。
﹁ありがとう﹂
﹁ん、あぁ⋮別に気にすんな﹂
うん、まぁまぁ美味いな。脳に糖分が染み渡る。
トップを飲み始める。
そう言うと結衣も飲み始めたので、それを見計らって俺もスポル
﹁⋮うん﹂
いいな。間違えて二つ押したからそれを飲んでくれ﹂
﹁勝手に俺が買ってきたんだから受け取っとけ。あ、何ならこうでも
﹁そういうわけには﹂
そして財布を取り出そうとするので、手で制した。
﹁ん﹂
﹁あ、ありがとヒッキー。﹂
フェオレの方を渡す。
俺の手元に残ったのはスポルトップと男のカフェオレ。結衣にカ
チュー飲み始めた。
野 菜 生 活 を 俺 か ら 受 け 取 っ た 雪 乃 は ス ト ロ ー を 挿 し て チ ュ ー
?
味はまぁ、それなり。正直なところ雪乃の紅茶に慣れてしまうと
正面切って歯向かっているスポルトップを買う。
自販機はマッカンがない謎の紙パックジュースのため、昨今の風潮に
そうして部室から廊下に出て、自販機のある購買に向かう。ここの
﹁いいえ、これっぽっちも。んじゃ行ってくるから﹂
﹁失礼な事を考えてない
﹂
偉く発音が良いですなお嬢さん。発育はあまり良くないみてえだ
?
﹁⋮ 美 味 し か っ た わ。そ う そ う 比 企 谷 く ん、今 か ら 家 庭 科 室 に 行 く
13
?
!
わ。﹂
﹁クッキーか何か作るのか
るそうよ
﹂
﹂
めちゃくちゃ料理上手じゃん
﹁ふーん、まぁカレーくらいしか作れねえが手伝ってやるよ。﹂
﹁ありがと⋮ってヒッキー嘘つき
﹂
!
﹁え、ウソッ
﹂
﹁由比ヶ浜さん、エプロンの紐ちゃんと結べてないわよ。﹂
が、
丁度いいんじゃないかと判断したらしい。
今回作るのはプレーンクッキー、雪乃が結衣にはこれくらいからが
家庭科室に甘い匂いが広がる。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
た。
少しして全員が飲み終わりゴミ箱に捨てると、家庭科室に向かっ
ちまってたか。
そういえばサボらず授業を受けて調理したもんな⋮。ちっ、見られ
ついてもバレるんだよ
嘘
﹁ええ、由比ヶ浜さんの依頼で手作りクッキーを食べて欲しい人が居
?
﹂
!
﹂
黒い山が生地に呑み込まれて⋮﹂
﹁あとは混ぜて焼くだけだね
﹁積もってるわ
﹁え、でも甘いの苦手っていう男子多いし﹂
﹁コーヒーは今回入れなくていいわ﹂
﹁じゃあ、まだやるね
﹁それだとダマが出来るわ。﹂
﹁砂糖なのに塩を入れるところだった⋮﹂
﹁由比ヶ浜さん、それは塩。﹂
!?
は残ってるから雪ノ下が作ったのを真似ればいい。﹂
﹁あー、何だ⋮その。失敗は誰にでもある事だからな⋮幸いまだ材料
たのは木炭のようなもの。あの雪乃が諦めかけた相手⋮流石だ。
とまぁ、凄まじいレベルでミスを繰り返していた。当然出来上がっ
!
!
14
?
!
?
﹁うん、わかった。﹂
﹁はぁ⋮私がお手本をするから、この通りにやってね
﹁うわ⋮すっごく美味しい
﹂
﹁すっげえいい匂い⋮それじゃあ頂きますかね﹂
﹁出来たわ。﹂
た。
﹂
と、手際良く作り始めあっという間に雪乃のクッキーは出来上がっ
?
む⋮そろそろか
それから何度か作り直したが、多少食えるようになった程度だ。ふ
れど⋮﹂
﹁レシピ通りに作ったのだから、由比ヶ浜さんも作れるはずなのだけ
!
ちゃって﹂
才能がない
?
けていた紅茶の入ったカップを置く。ただ、それは静かな音でありな
作り笑いを浮かべて言ったそれを聞いていた雪乃が、静かに口につ
りこういうの合ってないんだよ、きっと﹂
﹁で、でもさ、こういうの最近みんなやんないって言うし。⋮⋮やっぱ
魔化すように作り笑いをした。
戸惑いと恐怖に驚く表情を一瞬だけ浮かべた後に、それら全てを誤
部分でしか人を見てこなかったから。
結衣にはそういった経験が今までなかったことだろう。上澄みの
だから、正論は辛くそして厳しい。
することくらいしか出来ないのだ。
正論。そもそも正論に反論したところで、昔の俺みたいに有耶無耶に
結衣の苦笑いが核心を突かれて止まる。正しいことだからこその
力を知らないから成功しないのよ。﹂
成功できない人間は須く、成功者のそこに至るまでに積み上げた努
羨む資格なんてないわ。
というのに、その努力すらも放棄しようとした人間に才能のある人を
﹁才能⋮
それに対する最低限の努力をしている最中だ
﹁あはは⋮私、料理の才能無いよね⋮ごめん雪ノ下さん。つき合わせ
?
がらも、確かに場を凍らせた。
15
?
﹁⋮⋮その周囲に合わせようとするのやめてくれるかしら。ひどく不
﹂
愉快だわ。自分の無様さ、不器用さ、愚かしさの遠因を他人に求める
なんて恥ずかしくないの
﹂
につぶやいた。
﹁あの、話聞いてた
私相当キツイことを言ったと思うのだけれど。﹂
雪乃はひどく不可思議なものを見るかのような目で、結衣を見た後
い⋮⋮﹂
﹁建前とか全然言わないんだ⋮。なんていうか。そういうのかっこい
背けるのやめようよ。勘違いするぞ。
俺は知っているが、雪乃と顔を見合わせる。あの、頬を染めて顔を
﹁は
﹁かっこいい⋮⋮﹂
が、しかし、こいつはここでこういうのだ。
ボッチだった。
ら⋮うん、俺はそもそもこういうことを頼めるような相手が居ない
ここで、結衣は折れる。俺も前の時はそう思っていた。いや、俺な
?
﹁てかさ。﹂
しますか。
そういうと、雪乃は結衣を連れて外に出て行った。⋮さて、急ぐと
﹁⋮⋮⋮ふぅん、分かったわ。貴方のその安い挑発に乗ってあげる﹂
りますよ。﹂
いや15分後此処に来てくれ。本当の手作りクッキーを食わせてや
﹁お前らは本当の手作りクッキーを食べたことが無いらしい。10⋮
﹁どうしたのかしら
﹂
が見て取れるな。しかもいい匂いだ。
いいのか分からないという風に、髪を手で梳く。おお、サラサラなの
雪乃はその言葉を聞いて軽く頬を朱に染める。そして何を言って
らかっこいいなって。﹂
﹁本音でいってくれる人なんて今まで居なかったから⋮だから、だか
でも、と結衣は続ける。
﹁あー⋮いや、そりゃ確かに言葉自体は軽く引いたよ。﹂
?
?
16
?
﹂
そして15分後、雪乃と結衣が揃って戻ってきた。
﹁で、出来たのかしら
﹁とてつもないくらい良い匂いしてるけど、出来たのこれ
﹁あぁ、食ってみ。﹂
そう俺が言うと、2人揃って口に入れた。
ラするし。﹂
﹁確かにこれなら私の作った方が美味しくないかしら
は些か失礼な様な気がしないでもないのだけど。﹂
お前が一生懸命作ったからじゃねえの
﹂
持ちがどれだけ入ってるか⋮ってことだ﹂
﹂
﹁でも、それは根本的な解決にはなってない気がするのだけれど⋮
?
てのは後でで良い。﹂
﹂
上手くなるなん
?
﹁⋮おぉ⋮ヒッキーが良いこと言ってる⋮。分かった、そうするね
?
前の気持ちを込めて作り渡せばいいんじゃないか
﹁そりゃな⋮料理は練習が必要不可欠だからな。由比ヶ浜、今回はお
雪乃は首を傾げていう。結衣は目を輝かせて話を聞いていた。
﹂
整ってるとか、美味しいとかってのは基本的に二の次。大事なのは気
﹁大正解。大抵の男は手作りクッキーに気持ちを求めてんだよ。形が
﹁⋮⋮⋮美味しさよりも、気持ちが大事ってことかしら
﹂
⋮⋮このことから
と、2人揃って驚く。これこれ、この顔がもう一度見たかった
﹁さぁな
﹁え、でもこれ、暖かいし⋮﹂
んだよ。
え
﹁⋮良かったよ。まぁ、コレは由比ヶ浜のなんだけどさ。﹂
わ。﹂
﹁そ う よ、食 べ ら れ な い っ て ほ ど で も 無 い で し ょ う。も っ た い 無 い
も作ってくれたんだから⋮﹂
﹁⋮そ、そこまでする必要ないよ。あまり美味しくはないけど、それで
クッキーをゴミ箱に捨てようとすると、2人が止めた。
﹁そうか⋮じゃあコレすてるわ。﹂
これを渡すの
﹁率直に言うとあまり美味しくない⋮なんか苦いところあるしザラザ
?
?
何が言いたいか分かるか
?
17
?
?
?
?
?
﹁⋮⋮本人が納得するならそれで良いわ。⋮けれど、この匂いは何
明らかにこれとは違うわよね。﹂
﹂
﹂
俺は自らの背後にあるオーブンを開き、中のものを取り出す。
﹁これが俺の手作りクッキーだ。味わって食えよ
﹁⋮⋮ゆきのんより形が整ってる⋮。ねぇ、ヒッキーは男なの
﹂
?
ら
﹂
﹁え、ゆきのんだけど
﹂
﹁ゆきのん⋮⋮か。まぁ良いわ﹂
どれ、俺も一枚⋮⋮。っうまっ
よし、家で小町に作ってやろーっ
﹁韻を踏んでる様に感じるぞ⋮。まぁ、美味しいなら良かったよ。﹂
﹁良かった。⋮⋮ヒッキーのクッキーマジ美味しいんだけど
﹂
﹁⋮⋮美味しいわね⋮。それより由比ヶ浜さん、今なんて言ったかし
﹁正真正銘全方位どこから見てもそれ以外の何に見えるんだ
?
?
と。じゃあ帰りがけにクッキーの生地買って帰ろ。
!
その後匂いを嗅ぎつけて訪れた平塚先生に、半分ほどクッキーを食
べられた。
18
?
!
?
?
第三話:﹁ロトの勇者︵笑︶﹂
今俺は宝くじ売り場に来ている。目的はロト7の購入だ。
因みに今回はキャリーオーバーで8億円であり、当選者欄に1人も
載っていないという絶好の機会だ。これを逃すと次は半年と言って
良いレベル。
数字を一つ一つ間違いなく書き込んでいく。そして、お金を払い券
を受け取る。
後は金曜の夕方まで待つだけ。先週もそのまた先週も宝くじの当
選番号が変わっていないことを、新聞と照らし合わせて知っている。
さぁ⋮当たるのだ。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
四限目の終了のチャイムが鳴る。
気分は応援しているボクサーが相手の猛攻を防ぎきり、カウンター
に出した一発で沈んだ時の様な感じ。⋮わ、分かりづれえ⋮。
おっと、このまま悠長に構えてはいられない。今日は部室で昼飯を
食べるからだ。
昨日、結衣はクッキーの件で礼を言うのとクッキーを渡すために部
室にやって来て、 序でに食事の予定を取り付けた。
結衣が雪乃を誘い、1人じゃ不安的なことをいって俺が巻き込まれ
た形だ。ただ、前と違って呼ばれるというのは意外と嬉しいものらし
い。
が、そこに至るには結衣を連れて行かないといけない。でないと、
雪乃が時間に間に合ってないと言いに来て、獄炎の女王あーしさんと
一戦交える羽目になる。
後ろの方の席を見ると、4.、5人集まって話している。前は怖気づ
いて何も言えなかったが、彼奴らとも何度か話してどういう風にすれ
ば接すれば良いのかは大体わかる。
葉山を味方につけて話せば大体通る。葉山が此方に着けばあーし
さんは下がり、あーしさんが下がれば周りも抑えられるからだ。
19
国立だの何だの鼻で笑うレベルの会話の後に、スタイルの話に移行
する。
結衣は未だにキョロキョロしてんな⋮。それに対してあーしさん
は苛立っている。何でもっと腹を割って話せないのか、そんなにあた
し達は信用ないのか⋮って感じで。
まぁ、気持ちは分からんでもないからなー。ただ、今軽々しく突っ
込んでいったら逆上させるだけ。
じゃさ、帰りにあれ買ってきてよ、レモンティー。あー
﹁あの⋮⋮あたし、お昼ちょっと行くところあるから⋮⋮﹂
﹁そーなん
﹂
し、今日飲みもん持ってくるの忘れててさー。パンだし、お茶ないと
きついじゃん
かされたら嫌だろう。
﹂
﹁結衣さー、最近付き合い悪くない
友達なら隠し事は無しじゃね
﹁え、いや⋮その﹂
せられる。
この前も放課後バックれてたし。
その音と全員の目が磁石のNS極になったかの様に一気に引き寄
室に、椅子の騒々しいガタガタッという音を立てる。
⋮そろそろだな。1人燃え盛るあーしさんを除いて凍りついた教
?
?
飼い犬に手を噛まれたのと同義だからな。まぁ、あんな感じにはぐら
あっちゃー。言っちゃったか。あーしさんの顔が見事に硬直する。
るまるいないからそれはどうだろーみたいな⋮⋮﹂
﹁え、え、けどほらあたし戻ってくるの5限になるっていうか、お昼ま
?
何であんたと
﹂
﹁すまん、用事は俺と飯を食うっていう用事だ。﹂
﹁はぁ
?
に遅れるぞ
﹂
﹁あっ、ちょっと待つし
優美子、勘違いしないで
ヒッキーとゆきの
﹂
あーしさんに限ってそんなことをするとは思えない。
さぁ、どうでる。力に訴えようとすれば間に入るくらいはするが、
んと一緒に昼ご飯を食べるっていうだけだから
!
!
!
?
20
?
﹁さぁ、そりゃ誘われたからだろ。由比ヶ浜、このままだと磁石の時間
?
﹁はぁ⋮⋮それならそうと最初っから言えし。⋮⋮なんかあーしが悪
者みたいじゃん。﹂
﹁ごめん優美子。次からはちゃんとそういう風に言うね。﹂
﹁ん。時間間に合わなくなるのは雪ノ下さんに失礼だから、とっとと
行きな結衣﹂
顔を俯かせスマホに視線を向けたあーしさんの頬は少し緩んでい
た。何だよ、此奴⋮普通に話通じる良いやつじゃん。
廊下に出ると、雪乃が壁に寄りかかっていた。
﹁かっこよかったわよ、比企谷くん﹂
﹁あのままだとお前が絶対言うだろうな⋮と思ったからな。﹂
﹂
﹁⋮随分と人の取る行動が分かるみたいだけれど、貴方サトリじゃな
いの
﹁そんなわけねーだろ。お前は分かりやすいからどんなことを考えて
るのか予測しやすいだけだ。﹂
﹂
と、そんな話をしていると結衣が弁当らしきものを携えてやってき
た。
﹁ごめん、ゆきのん
ところで皆さんはロト6の一等が当たる確率をご存知だろうか
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
と言って来たのは凄く嬉しかった。
﹁ありがとね。﹂
部室まで続く廊下で結衣が背伸びして耳元で、
﹁それじゃあ行きましょうか。ここで立ち話というのもね﹂
!
00にまで落ち込むというレベル。それを一口買っただけ。到底当
だが、俺の買ったのはロト7。当たる確率は1/10,300,0
えないが当たる確率なんてせいぜい将来に一本だろう。
勿論中にはとてつもない強運の持ち主だっているので、一概には言
上を当てたことがない⋮という人だって居るのだし。
り圧倒的に少ない数と言える。実際には毎回100口買って3等以
答えは何と、1/6,090,000。1口の場合だが、これはやは
?
21
?
たるはずがないと親父やお袋達にも一笑された。
ただ、小町だけは当たった時に何買ってくれる
くれたので何か買う。言われなくても買う。
﹁よし、運命の時だ⋮﹂
る。今週のは⋮⋮っ
﹂
小町ぃ
来た
﹁よっしゃ当たったぞっ
どうしたのお兄ちゃん
小町ぃ
﹂
という風に言って
ロト7の当選番号の確認をするために、新しく買ったPCで検索す
?
1枚買っただけで当たったの
﹂
てか、それってキャ
!?
どこだました。
俺は頷く。この日比企谷家には驚愕と歓喜の悲鳴がその後2回ほ
リーオーバーしてなかったっけ
ええぇぇぇぇ
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
!
!
﹁聞いて驚け、一等当選だ⋮。﹂
﹁何
!
!
!
!
?
!?
翌日の土曜日。俺はみずほ銀行で確認を受け、3日後に銀行に支払
われた。
22
?
第四話:﹁剣豪将軍が死んだ
この人でなしィッ
部室で本を読み、時たま談笑をする日が続いていた。
﹂
⋮⋮そういえば、人間は普段そこまで脳を使っておらず火事場の馬
明らかに人間を止めた動きをしている。
たのに間に合った。
そうしてギリギリ教室内へと駆け込む。⋮遅刻確定だと思ってい
乗り、軽く走るだけで原付を追い越した。
そして、走り始めると高3の時に走ったよりも数倍速くスピードに
この前自転車の空気が抜けていたので、走っていくしか無い。
刻は8:20。遅刻寸前だというのに、今日は遅く起きすぎた。
まぁ、今はそんなことどうでも良いんだよ。現在地は家の近く。時
約家なのか。
は興味無いし、食事もサイゼとかで良いと思ってる俺はケチなのか倹
などは別に良いだろう。微々たる支出だ。因みに高級バッグなどに
⋮無駄遣いしない。とは言ってみたものの、部活に持ってくお菓子
てホッとしている。
⋮⋮こういう時こそ、人間が問われるからな。俺の親は屑じゃなく
がくっついてこないかとかを心配していた。
両親も金に目が眩む様な人間では無いし、むしろ息子の俺に悪い虫
といけないので取り敢えずはそうした。
本当ならまだまだ買ってやりたいのだが、計画的に使っていかない
Aとそのゲームディスクを買ってやった。
でそこそこのお値段のする高級レストランに一回行き、帰りにVIT
も強く言いつけておいた。その代わりと言ってはなんだが、家族全員
あ、因みにロトで当てたお金の話は暫くはしないつもりだ。小町に
なるレベル。
明るくなった。明るくなりすぎて陰キャラである俺たち2人が灰に
そこに、結衣が加わり一気に騒がしくなった気がする⋮よく言えば
!
鹿力となると5倍程の力が出せるらしい。つまり、カカロットは鍛え
まくった状態から界王拳でリミッターを外してるのか。
23
!?
いや、出来ない。試しに机の鉄板を
だが、正直人間が100%の力で走ったところで、あんなに速く走
り続けることが出来るだろうか
覗いている様だった。⋮えい。
ちょっと何するのよ比企谷くん
!
わ。﹂
た、確かにコイツァ変態だぜ⋮ッ
﹁フハハハハ⋮待ち侘びたぞ我が半身・比企谷 八幡よ﹂
プリントをばらまくな
あー、雪ノ下と由比ヶ浜は座ってて良いから﹂
﹁うわっ、ちょっとお前何してんの
ろ
!?
﹁あたしもだし
﹂
﹁何の用だ材木座。用が無いならそこの窓から帰れ。﹂
手渡した。
片付け
まぁそんなこんなでばら撒かれたプリントを拾うと、材木座に全て
!
!
い た。特 有 の 風 に プ リ ン ト を ば ら 撒 き、紳 士 然 と し て 立 っ て い る。
まぁ、お察しの通り巨漢のロングコートがこちらに背を向け立って
﹁自分たちの姿を鏡で見てから言うんだな。﹂
けなかったね。ヒッキー、部屋の中に不審者がいるの。﹂
﹁ちょっとゆきのんに何するし
⋮とと、余り大きな声は出しちゃい
を突いたのか意図が全くもって理解出来ないけれど、今は置いておく
﹁ひゃうっ
⋮ふぅ、なぜ私の脇腹
放課後になり、部室まで行くと雪乃と結衣がドアのガラスから中を
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
壇に立った。
と、そこまで考えたところで1限目が始まりを告げ、平塚先生が教
のだとしか思いつかない。
意識だけこっちに来たから、痛みを感じずに限界を超えた力が出せる
⋮思い当たる節が一つだけある。多分、俺は肉体が一度死んだ後に
ギュッと握ってみた。下の方からミシリと言って指の形に凹んだ。
?
!
既にキャラ崩壊しかけてんぞ材木座。
﹁あ、あの⋮本当すいません﹂
!
24
!
﹁いいえ、私の部室ですもの。手伝うわ﹂
!
﹁ふぐぅ⋮。いくら前世からの仲とはいえ、酷くないか⋮
﹂
いや、今日
せめて自己紹介くらいできないの
はそんなことをいいにきたのではなぁい
﹁少し静かにしてくれるかしら
で、何の用なの えーと、名
比企谷くんに同意するわ、そこの窓からお帰り下さい﹂
﹂
﹂
我の名は剣豪将軍 材木座 義輝
﹁ちょ、ちょっと言い過ぎだよ2人とも
前なんだっけ
﹁⋮良くぞ聞いた娘よ
!
そこの八
と雪乃が視線で伝えてきたので、んなわけねえだろ⋮と
幡とは前世よりの絆で結ばれておる
?
!
?
?
!
?
﹂
?
素晴らしい。神は素晴らしい補正とゴミみたいな補正
されるとか調子こいてんじゃねえぞ、コンチクショウ
﹁中二病だ、中二病。﹂
ちゅと発音するときの唇の形超可愛いんだけど
彼は高2でしょう
﹂
﹂
何故中二なのかしら
﹁ちゅうに
﹁病気なの
そこに聞き耳を立てていた結衣も入ってきた。
しかも、それをやってるのが雪乃だから尚のことだ。
うわっ、可愛い
?
⋮例えば俺の異常に良くなった運動能力も然りだ。
か、神話の英雄だとかのやったこととかに準じて動く。
世界の裏のことを支配する秘密組織とか、神に選ばれしものだと
ないか
画にアニメ、ゲームやラノベに出てくる能力を欲しいと思ったことは
因みに材木座の場合は厨二や邪気眼と呼ばれる部類に属する。漫
症する、痛々しい言動をする奴らをそういうんだよ。﹂
﹁マジで病気なわけじゃない。中学2年くらいに最も多くの奴らが発
!
を作った。それが美少女補正とイケメン補正だ。イケメンだから許
いうやつか
おお、近付いただけで凄く良い匂いするなぁ。これが美少女補正と
﹁あの剣豪将軍って何なの
﹁何だよ、面倒くせえな⋮﹂
﹁そ、それはそうと比企谷くん耳をかしなさい。﹂
ウインクして返した。顔を逸らされた。
視線で送り返した。頭が可笑しいのね、この人と続けたので片目だけ
そうなの
!
!
?
!
!
?
?
25
?
?
?
?
何故その様な無駄なことをするか。答えは単純明快にして不可解。
かっこいい。それだけの理由で中二病罹患者はどこまでだってや
れる。何処かのラノベの兄貴が言っていたが、世界を変えるのは厨二
らしい。
﹁自分の作った設定に基づいて芝居をする様な感じね。もっとも、猿
芝居の様だけれど﹂
﹁大体それで合ってる。材木座の場合は室町幕府第十三代将軍 足利
義輝をベースとしているな、多分﹂
フンスッと踏ん反り返る材木座。うわ、腹立つわ⋮。
﹁じゃあ、何であなたは目をつけられてるのよ﹂
鶴岡八幡宮とかさ。﹂
﹁八幡から八幡大菩薩と引っ張ってきて、清和源氏が厚く信奉してた
のは知ってるだろ
雪乃は驚いた表情で俺を見て、結衣は不気味なものを見るかの様な
目でポーズを取る材木座を見ていた。
⋮⋮あの、小説を書いてきたからそれを
﹁まぁ、あれはまだマシな部類だが⋮⋮うん。まぁ、何だ。何の用かだ
けとっとと説明しろよ﹂
﹁⋮あれ、八幡扱い酷くない
雪ノ下の方が厳しいぞ
﹂
﹁モハハハハ⋮我、死なないよね八幡
だから、キャラ設定ブレてるって。
﹂
﹁⋮⋮一応言っておくが、お前が厳しいと感じる何処のサイトよりも、
⋮⋮あれを読めっていうのか。
俺たちの目に映るのは先ほど拾い上げたプリントの山。
読んで感想を聞きたい⋮です。﹂
?
それから後は読んでいない。
?
﹁⋮あら、おはよう比企谷くん⋮﹂
﹁おう、雪ノ下⋮ってクマができてるぞ
﹂
読みで終わらせ早くに寝た。読んでいるうちに思い出してきたので
あの後すぐおひらきになった。話の内容を知ってる俺はパラパラ
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
?
?
26
?
﹁本当だわ⋮。はぁ、あの小説眠いのを堪えて読んだのだけれど、読む
のがこんなにも辛い小説がこの世にあっただなんて⋮﹂
﹂
校門前で偶然出くわした雪乃には悲惨さというか、哀愁が全身から
漂っていた。可哀想に⋮。
﹁少し目元をマッサージしてやろうか
﹁ええ、お願いするわ⋮まだ時間はあるから部室で。私はマッサージ
してくれてる間、仮眠を取るから⋮﹂
﹁おいおい、すでに寝てんじゃねえか。⋮ったく、軽いからいいもの
を﹂
だがしかし、それはある意味俺にとってはいい傾向なのだ。雪乃は
俺のことを信頼してくれてる。前よりもずっと早く。
あ、因みに小町に材木座の小説を読ませたら1ページ目から飽きて
た。感想を聞くと面白くないと答えたので、前々から欲しいと言って
いたゲームを買ってやった。
で、放課後に材木座は以前よりもキツく言われ精神的に死んでい
た。
だって、お前、
﹃読んでいてイライラしかしなかったわ。本当、読みにくいし、でには
へがマトモに使えてないし、当て字もここまで来ると、ね⋮ナイトメ
ア何処から来てるのか分からないし﹄
﹃何が言いたいのか分からなかった。﹄
﹄
と散々に貶され、トドメに俺の
﹃何のパクリ
精神が生き返った。そして帰るときには既に次書く小説の世界を描
くことにしか興味が向いていなかった。
27
?
だ。しかし、流石は鉄のメンタル。驚きなまでの蘇生能力を見せ、
?
第五話:
﹁せんせー、ヒキタニ君がかべこわしちゃいま
したー﹂
久しぶりに小町と朝食を取る。
小 町 は ジ ャ ム が ベ タ ッ と く っ つ い た と ト ー ス ト を 片 手 に フ ァ ッ
ション雑誌を読み、俺は新聞を読みつつマッカンを飲む。前の様に
マッカンを切らしているなんて状態は嫌だから、箱買いしておいた。
因みに、当選金は殆ど使ってないに等しい。自分の部屋にテレビを
取り付け、冷蔵庫を買ったくらい。
たまーにお菓子を買って来ると言う小町に、何か買ってきてもらう
代わりにお釣りは全部あげているといったことをしている。8億円
あって冷蔵庫で8万円、テレビで5万円、ゲームやお菓子分で7万円。
しめて20万円ほどを使ったくらいだ。
こう言っちゃなんだが、うちの家族は基本的にそういう欲求が少な
ヤバァっ
﹂
﹂
って、ほら早よせい﹂
﹁お口の周りがはしたないぞ。ジャムが付いてる。﹂
﹁え、ジャムってるの
﹁お前の口は自動小銃かっ
﹁お兄ちゃんたまに変なこと言うよね⋮。どうでもいいけど。﹂
ウェットティッシュで拭い、スッスッとパジャマを脱ぎ始めた。⋮
まぁ、俺は妹に欲情する様な変態では無いのだから構わないが、女の
子ととしての自覚は持ってほしい。
28
くて使いどころが無い。流石にアメリカに行く時には使うかもしれ
ないけれど。
でも今はそれ以上買うものも無いので、基本的にはそこで完結して
いる。⋮あ、でも最近うちの冷蔵庫が凄い音鳴らして動いてるから、
買い換え位はしようかな⋮
﹁⋮うわっ、本当じゃん
!
そう言うと雑誌を畳んで机に放り出して立ち上がる。
!
﹁小町、そろそろ出ないとマズイぞ﹂
と、のんびりしていたら時間が相当押し迫っていた。
?
!
?
って、はっ
﹂
﹁じゃあ、お兄ちゃん。小町を中学校まで連れて行ってくれるかな
﹁いいとも
くっ、策士だ此奴⋮。
﹂
?
を見ると道端に唾吐くレベル。なめんなし
ペッペッ
って具合に。
!
これ、すっごくガタガタ言ってる
?
あっ
﹂
例えばあの事故でお菓子をくれた人とかさ。﹂
﹁何で分かったの
よな
﹁あぁ、その件な。うん、分かってるよ⋮てか小町、お前何か黙ってる
から不安なんだけど⋮﹂
﹁今度は事故ったりしないでよね
はならないのだ。そんなことをしたら親父に半殺しにされる。
小町を乗せている以上、俺は事故を起こしたり巻き込まれたりして
あたりがガタガタいう。
しかし、自転車を漕ぎ始めると一気にスピードに乗ってチェーンの
転車を直した。
で、自転車の荷台のところに小町を乗せて跨る。そういやこの前自
飯をパパッと食べ終えると制服に着替える。
!
が、それだと何だかお高くとまっている様な感じがする。俺ならそれ
まぁ、送っていくんですけどね。タクシーと考えなくもなかった
謀られたっ
!
!
焼肉とか寿司とか行って、尚且つそれを自慢しやがって、こ
﹂
お兄ちゃんが鬼いちゃんにランクアップしたよ
﹂
﹁ちょ、ひゃ、うぅ⋮自転車乗ってる時に何で片手でこんなに突けるの
の、この
ショウ
﹁は っ は っ は、俺 の 事 故 で 入 っ て 来 た 示 談 の 話 も し と け や コ ン チ ク
?
?
﹂
﹂
!
ける頃だと思う。
頑張れよ
﹁この辺で。⋮うん、ありがとうお兄ちゃん
﹁おう
!
!
さて、何とか平塚先生が教室のドアを開くまでには戻ることが出来
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
遅刻まで残り五分となかった、とある朝のことであった。
!
29
!
!
!
!
まぁ、前の時はそれが原因で一時期不仲になったしそろそろ打ちあ
!?
たのはよかったが、思いの外目立った。少し恥ずかしい思いをしなが
ら席に着き机に突っ伏す。
﹂
そうして、そのまま体育の時間まで寝ていた。体育の時間になると
流石に彩加が起こしてくれた。
﹁八幡⋮起きないと、悪戯しちゃうよ⋮
﹁是非、して下さ⋮ってあ。﹂
﹂
いく。
﹁うわっヒキタニくんマジっべーわー。ちょっマジっべー。﹂
隼人くん、スライスとか取りきれないから
!
﹁おーい翔、球そっちにいったぞー﹂
﹁いやいやいや
球だわー。﹂
マジ魔
ほど上がっている。ボゴッとかドゴッといってボールで壁が削れて
それでも難なく跳ね返せるが。反射神経や動体視力が有りえない
﹁ヤベッと﹂
もの軽い音ではなく低くバゴッと鳴って超高速で跳ね返ってきた。
ボールを上にあげ、ジャンプしてサーブを壁に放つ。すると、いつ
つまりは壁だ。
然と俺が1人になる。つまり、今日も今日とて俺の対戦相手は自分⋮
着くとすでに始めており、彩加はすぐに引っ張られて行ったので自
そしてテニスコートへと急いだ。
をついてる様には見えないし本当に良い奴だと思う。
ヤバい、俺の友達がこんなにも可愛い。彩加は何度も話したが、嘘
﹁おう、待っててくれてありがとな。﹂
たよ
﹁クスッ⋮八幡、起きたなら早く着替えなよ。もうみんな行っちゃっ
?
?
ね返って来たのを左手でキャッチしておく。
そのボールこっちにぱすしてくんなーい
!
加減は多少出来ていたようだが、戸部には取れなかったらしい。⋮
上にあげ、打ち返した。
と、戸部が言ったので転々と転がるボールを下から掬い上げる様に
﹁あ、ヒキタニくーん
﹂
と、葉山と戸部が使っていたボールがこっちに飛んできたので、跳
!
30
?
その、少しは俺だって悪いと思ってる。
⋮スラーイスッ
﹂
﹁ヒ キ タ ニ く ん の サ ー ブ マ ジ っ べ ー わ ー。⋮ あ、隼 人 く ん ス ラ イ ス
すっべ
あ、また飛んできた。
てはくれないだろうか
﹁じっと見つめられると、恥ずかしい⋮かな
﹂
﹂
﹁⋮なぁ彩加、俺と結婚しよう。絶対に幸せにしてみせるから
﹁⋮⋮⋮えっ
﹂
少し汗を滴らせ、彩加がやってきた。ヤベェ、色っぽい⋮。嫁に来
﹁まぁ、昔かじってたからな。﹂
﹁⋮は、八幡、とてつもなく上手いね⋮﹂
ろフェンスにハマった。ギュルルという音と共に。
少しうるさかったので、今度はさっきよりも強めに打ち返したとこ
!
ヒッキーじゃん﹂
﹂
?
﹂
実 は ゆ き の ん と の ゲ ー ム で 負 け ち ゃ っ て、ジ ュ ー ス
?
﹁そうか、つまりお前が雪ノ下を挑発して見事に負けて罰ゲームを受
買ってこなくちゃいけないんだー﹂
﹁そ れ そ れ っ
何でここいんの
﹁いや、1人で食べたい気分だったんだよ。まぁそれよりもお前こそ
﹁何でこんなとこにいんの
強いもんな。風向きがこの時間帯に変わるし。
結衣がスカートを押さえて立っていた。あー、そういやここら辺風
﹁あれー
気のせいだと思う。
壁を見たときになんかヒビが入ってる⋮的なことを言ったのは、多分
女子テニス部が自主練を行っているらしく壁打ちをしている。⋮
一階保健室横でテニスコートを眺めながら食す。
時間は飛んで昼休み。今日は自分で作った弁当を特別棟の
心を癒してくれる。
ている間に授業が終わった。まさしく大天使トツカエル、俺の荒んだ
丁度俺も少し疲れてきたので、木陰で休む。その後は彩加と談笑し
!
?
?
﹁いや、何でもない。忘れてくれ﹂
?
!
31
!
?
けてたんだな。﹂
﹂
﹁そそ、で、買ったときにゆきのんがガッツポーズをとってたのが凄く
可愛かった﹂
可愛いな、確かに。
何がだよ﹂
﹁でも、良いなーヒッキーは。﹂
﹁ん
﹁ゆきのんと仲が良くって⋮何か私だけ仲間はずれみたいな
﹂
﹁ん な っ
アホじゃないし
一応入試受けてここに合格したんだし
﹁馬鹿なこと言うな。アホの子﹂
思ってるし、守らなきゃいけない対象だ。
いや、仲間はずれではないだろう。少なくとも俺は2人を仲間だと
?
?
!
けたけど。
?
ヒッキー気付いてたの
⋮ごめんね、あの時リードが壊
?
こととなる。
た。そして数日後、依頼を受けた俺はやらかしてしまい再会を果たす
用意してきたマッカンを煽り、一息ついたところに彩加がやって来
﹁過ぎた話だ、もう気にしちゃいねえから忘れろ。﹂
かったんだ。﹂
れちゃってて⋮ヒッキーは骨折しちゃったのに直接会いに行けてな
﹁えぇぇっ
町が全部食っちまってたようだけど。﹂
﹁ああ。そりゃもう鮮明にな。お礼は受け取った⋮まぁ、妹のアホ小
﹁⋮⋮ねえ、ヒッキー。入学式の日のこと覚えてる
﹂
水平に構えられた掌の先端が俺の喉元に突きつけられる。まぁ、避
!
!?
32
!
第六話:﹁本領発揮﹂
﹁っつ⋮﹂
この身体、限界を超えて動ける代わりにどうやら筋肉痛が暫く経っ
てから訪れるらしい。そりゃそうだ。あんなおかしな挙動をしてお
いて来ないはずがない。
1時間ほどベッドで横になると筋肉痛はの痛みはひいた。筋肉を
つけるときは筋肉を傷つけ、そこからの回復時に筋肉がつく。
試しに本棚を持ってみると、軽々と中がはいったまま片手で持て
る。まぁ、これはこれで便利だが、力加減が出来ないと正直何の役に
も立たない。だってほら、1と10の状態しか出せないのは不便過ぎ
るだろ。
とはいえ、無意識下では行えていたものが意識をしてやるとこれが
何
ない
ふざけんなぁっ
小町ルートが無
!
﹁別に俺はあの壁に恨みはないからね
﹂
こうして俺は天使を連れて氷の女王のところに連れて行った。
取り敢えず昼休み部室に行こうぜ。﹂
﹁⋮⋮⋮すまん。入部はできないが協力なら幾らでもさせてもらう。
をテニス部に誘おうと思って⋮。﹂
﹁壁に恨みって⋮八幡は本当に面白いこと言うよね。いや、実は八幡
?
33
中々難しい。iPhoneの充電コードが引っ張っただけで千切れ
そうになった時はマジで焦った⋮。
﹂
で、もう一度体育がある時までには何とかなったわけだが⋮。
﹁えい﹂
﹁⋮彩加⋮⋮。﹂
﹁あはは、びっくりした
トってないですかね
畜生⋮
くって戸塚ルートもないだと
!
﹁いや⋮この前より強さが⋮ううん、威力を落としてるなって﹂
﹂
﹁それで彩加、どうしたんだ
?
?
ギ ュ ッ と 抱 き し め て 世 界 の 真 ん 中 で 愛 を 叫 び た い。⋮ 戸 塚 ル ー
?
?
?
?
﹂
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
さて、昼休み部室に来たわけだが雪乃は早々に言ってのけた。
﹁全員死ぬまで走らせてから死ぬまで素振り、死ぬまで練習かな
﹁何言ってるの。﹂
かよ、そういう冗談やめ⋮これ冗談だよね
﹂
﹁ほほえみ混じりなのが怖いんだが。ほら、彩加も怯えてんじゃねえ
?
るけど。
誤魔化せてないから
!
﹁本気に決まってるじゃない⋮もう、比企谷くんったら﹂
﹁そこで可愛く言ってもダメだから
﹂
いつの場合基本的に嘘はつかない。本当のことは言わなかったりす
ほっ、こいつも流石に冗談を言うことはあるよな。いや、しかしこ
?
トップした。
﹁やっはろー
﹂
?
ていたようね⋮﹂
﹁ま、この依頼は受けるんだろ
﹂
﹁⋮ええ、それは勿論。それじゃあ今から向かいましょうか
﹂
﹁驚いたわ⋮結果をただ求めるだけの凡人かと思ったら、少し見誤っ
すると雪乃は少し驚いた顔をして呟いた。
だ。﹂
﹁そ う だ よ 由 比 ヶ 浜 さ ん。上 手 く な れ る 方 法 を 教 え て 貰 い に 来 た ん
⋮て、さいちゃんじゃん。前に言ってたテニスの話
と、そこにノックもせずにガララとドアを開ける音がして会話がス
!
﹁⋮貴方も着いてくるのよ
﹂
と、少しボーッとしていると袖口を引っ張られた。
おもう。
今からなのね⋮やっぱ行動力は凄えなこいつ。少し見習いたいと
?
?
誰が防犯グッズだこのアマ。
ね。﹂
﹁使 え る わ ね、流 石 比 企 谷 く ん。さ す ひ き ⋮ 何 だ か さ す ま た み た い
は取っておいた。﹂
﹁分かってら。まぁそうなるだろうと思ってテニスコートの使用許可
?
34
!
そんなことを考えて歩いているうちにテニスコートに着いた。が、
こんなに暑いのにロングコートを羽織って手でカメラの様な形をし
て、それ越しにテニスコートを見ている。
﹂
﹁ふむぅ、やはりこの角度からが一番⋮﹂
﹁おい、材木座。お前何してんの
﹂
?
﹂
?
に走ってやってきた。
﹁⋮うんっ
﹂
﹁次、打つわよ﹂
くらいまでちゃっかりとダイエットに成功していた。
序でに材木座も一緒に走ってた。で、関取体型から少しぽっちゃり
彩加となら一緒に走っても良いなぁと思った次第です。
みたいに持久力が上がった︶、漸くボールを使っての練習に入った。
そうして数日を基礎体力の練習に費やし︵その期間に俺はまたアホ
﹁では、練習を始めましょう
基礎体力からね。﹂
と、材木座と不益な話をしていると着替えをした雪乃と結衣が此方
﹁⋮⋮⋮いや、ないな。ダウトだ八幡。それは流石にあり得ない。﹂
﹁あぁ、こいつは戸塚。因みに男子だぞ
﹁ややっ、これは八幡ではないか。⋮隣のその女子は
わ、汗まみれじゃん⋮脱げよそれ。見てる方も暑苦しいんだから。
その声に反応したのか、材木座は此方をグルッと振り返った。う
?
いた。ボールが際どいところに飛んだのを滑り込みで打ち返す⋮が、
⋮どれ、見せてみろ。これは消毒が必要だな⋮取ってくる
どうやら足を擦りむいてしまったらしい。
﹁彩加っ
か﹂
﹁いえ、私が行くわ。比企谷くんが行ったら、保健室の先生が卒倒する
もの﹂
そういうとキリッとした顔で優雅に歩いて行ったので、少し笑っ
た。彼奴、素直じゃないな⋮。と、ポジティブに受け取っておこう。
じゃないと俺のメンタルが持ちそうにない。
雪乃の帰ってくるのを待つ間に少し練習を続けることにした。
35
?
健気にも彩加はこの地獄の様な炎天下の中、練習に一生懸命励んで
!
!
八幡のは取りやすいけど、跳ね返しにくいね。﹂
﹁それ、彩加行ったぞ。﹂
﹁⋮っつっ
てきた。
!
けた。材木座は空気と化している。
?
﹁え
何
聞こえないんだけど。﹂
﹁三浦さん、僕は、別に遊んでるわけじゃ⋮ないんだけど﹂
﹁ね、戸塚ー。あーしらもここで遊んで良い
﹂
あーしさんは俺と結衣をチラと見ると、軽く無視して彩加に話しか
と、あーしさんの近くにいた女子が小声でそう漏らす。
﹁あ⋮⋮。ユイたちだったんだ⋮⋮⋮。﹂
い。
の立つあたりを過ぎたあたりで、向こうも俺と結衣に気付いたらし
予想通り、あーしさんと葉山を中心とした奴らだった。丁度材木座
﹁あ、テニスしてんじゃん、テニス
﹂
と、そこにガヤガヤと騒ぐ集団がテニスコートの入り口辺りに寄っ
!
い。
だから、結局は誰かが言わないと解決に対する問題すら始まらな
は、後ろで無言を貫いている葉山にだって分かる事だろう。
しかし、ここは遊びでズカズカと入って良い場所じゃないというの
の性格からするに本当に聞こえてないのだろうけど。
こえてないフリなのか、果たしてどちらかなのか。多分、あーしさん
まぁ、黙殺されるわな。本当に聞こえてないのか、聞こえてても聞
?
ヒキオに聞いてないんですけど
﹂
﹁男子テニスの個人練習で使ってんだよ。﹂
﹁はぁ
!?
らいだが。
﹁聞 い て な い も 何 も 関 係 な い ね。俺 た ち だ っ て こ こ は 許 可 を 取 っ て
それに、戸
使ってるんだ。そんなにテニスがしたいなら、先生に許可を取れば良
い。遊びたいで許可がおりるかどうかは別としてな。﹂
﹁まぁまぁ、ヒキタニ。みんなでやったほうが楽しいだろ
塚くんだって上手い方に教えてもらったほうが伸びやすいと思うん
?
36
?
おぉ、怖い怖い。まぁ本当に怖いのは雪乃の姉陽乃や母秋乃さんく
?
だけどな。
﹂
あぁ、そうだ。部外者同士のダブルス、勝った方が戸塚くんに教え
る。で良くないか
葉山か。まぁ、それはその通りなんだろうよ。⋮観衆はほぼ全員が
向こう側。そして日頃からの運動神経とかを見る限りでは葉山勢の
有利だろう。加えてあーしさんは県選抜⋮だったか
ぽけな想いが決して許さない。
﹁ヒッキー、あたしがでる。﹂
﹁おう、前衛は任せた。﹂
初っ端から本気で行く。﹂
﹁ふーん、結衣が出るんだ。勝てるものなら勝ってみ
﹁その言葉、忘れるなよ
﹂
だが、それがどうした。今回の件に関しては負ける事は、俺のちっ
そ の 程 度 で し か な い
0%決まった様なゲームだし⋮。
木座は使い物にならないと来た。まぁ、そりゃ笑うよな。負けが10
それで、こっちは参加できるのは俺と結衣、材木座くらいだが、材
?
?
リージュってやつw
﹂
﹁じ ゃ あ、持 つ も の と し て ヒ キ オ 達 に 恵 ん で あ げ る。ノ ブ レ ス オ ブ
?
﹂
で悪いが叩き潰させてもらう。
﹂
﹁なぁ、葉山。知ってるか
﹁ん、何がだい
?
が︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳圧勝だ。﹂
虚空に放たれたボールをジャンプしてとらえたラケットが、相手の
テニスコートのど真ん中にボールを当て背後のフェンスに嵌る。
観客はいずれにせよ、これで黙った。
﹁な、何これ聞いてないんだけど⋮﹂
﹁せいぜい実力とやらを比べようぜ。⋮あぁ、それと次からサーブは
そ っ ち に 譲 ろ う。先 攻 だ か ら 勝 っ た だ な ん て 言 わ れ た く な い か ら
な。﹂
﹁分かった。﹂
37
?
ほぉ⋮今の俺に、そうくるか。さて、200余名を超える観客の前
?
﹁民衆の望むものはな、限りなく拮抗した接戦ともう一つある。それ
?
﹂
そして放たれるジャンピングサーブにエアKで返す。
﹁お、おいアレエアKじゃね
﹁ヒキタニ君、えげつないくらい上手いな。﹂
そして雪乃が戻ってくる頃には既に試合は終わっていた。
観客は途中から静まり返り試合の様子を見ていたが、終わる頃に
は、
﹁⋮純粋にアレ、凄いよな⋮⋮﹂
﹁あぁ、あの葉山ペアにストレートとか⋮﹂
﹁⋮⋮⋮あの人どこかで見た事ある様な⋮あっ。﹂
﹂
最後のセリフだけ妙にあざとかったが、気にしない事にした。
﹁ヒッキー⋮プロテニスプレーヤーなの
﹁んなわけねーだろうがよ。﹂
る程度の手加減で済ませた。
人体をもっと使えれば誰にだってできることだけどな。今回はあ
正直、相手が可哀想なレベルの強さだよ﹂
﹁いや、八幡はプロ中のプロであるトッププレーヤーの動きをしてた。
?
﹂
﹁ねえ、先輩ってば。あ、結衣先輩こんにちは﹂
﹁あ、いろはちゃん。ヒッキーに何か用事
﹁ヒッキーって言うんですね、この人。ヒッキー先輩
くださいってばー﹂
は⋮。
ねえ、返事して
ここからは割愛だ。まさかここでこいつと出会うことになろうと
﹁あ、あの⋮前に︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳﹂
﹁俺に何の用だ﹂
いた。
振り返ると俺が最初に見た頃よりもかなり髪の長い一色が立って
?
?
38
?
せーんぱーい﹂
﹁って、やっぱりそうだ
!
い、いや多分俺じゃないから無視だな。
げっ、見つかった⋮
!
第七話:﹁俺が体験する職場⋮
かね⋮﹂
た。
⋮冗談だ、自分の家。
彩加の家の台所っす
﹁⋮いや、これ本気で言ってるのなら正気を疑うぞ
⋮あぁ、それとこれは三人一組で行ってもらうからな。﹂
﹂
﹁すいません。だからその拳を下ろしてくれますか
?
﹂
!
すね。
﹁あ⋮比企谷くん、助け⋮﹂
!
﹂
!
﹂
えた。⋮何あの生き物可愛すぎる。
﹁先輩、先輩
﹂
?
﹁はい、先輩です。どうかしたのか一色
﹁先輩はこの部活に私が入ること、どう思います
﹂
トトトッと一色がこちらに来たのでホッと一息つく雪乃を見て萌
﹁好きでなってるわけないでしょう
﹁よう、一色。それで雪ノ下は何でまたそんな格好に⋮﹂
﹁おおっと、これは先輩。ご無沙汰してます
﹂
をガラッと開けると、雪乃に一色がまとわりついていた。百合百合で
それから程なくして解放されて、部室を訪れる。勝手知ったるドア
﹁君ってやつは⋮﹂
し。﹂
﹁じ ゃ あ 何 処 で も い い で す。黙 々 と 終 わ ら せ る 仕 事 も 悪 く な い で す
﹁シズちゃんと呼ぶな
﹁⋮嘘だと言ってくれよシズちゃん﹂
﹁ふん
﹂
俺の職場体験希望調査票に書いてある職場は戸塚の家だ。
﹁失礼ですね。まったくふざけてなんかいませんよ﹂
﹁⋮で、何かねこのふざけた内容は
﹂
あれから数日後。またも俺は平塚先生の前に直立不動の姿勢で居
?
?
!
39
?
?
!
﹁⋮んー、悪くはないと思うが。雪ノ下、お前の意見は
﹁私は⋮⋮別に大丈夫だけれど。﹂
⋮っていろはちゃんどうしたの
回しには断ると思ってたんだが⋮。
﹁やっはろー
﹂
﹂
﹂
おっ、意外だな。こいつのことだから駄目とは言わないにしろ、遠
?
﹂
人が多くいた方が楽しいし⋮まぁ、そこのと
ころはゆきのんが決めるんじゃない
﹁別にいいんじゃない
結衣はうーん⋮と悩むフリをした後、
﹁此奴が部活に入りたいんだと。由比ヶ浜はどう思う
?
﹂
﹂
と騒ぐ彼女を尻目に結衣が携帯を開いていた。メール
いいんですか
か
やったー
﹁へ
﹁⋮いいわ、一色さん。あなたの入部を認めるわ。﹂
らな。
て解決した後のことを結衣に任せてしまったという負い目もあるか
それに、此奴が此処にいた方が後がやりやすい。生徒会長の件だっ
生の別に部活に入る者は拒まないというのは変わらないと思うし。
と言った。まぁ、そうだわな。多分雪乃が断ったところで、平塚先
?
?
﹁どうかしたのか由比ヶ浜
﹂
﹁ん
?
そうそう。そういや雪乃ならまだしも結衣に俺の携帯を見られた
らマズいと思って、現在出ている最新の奴を買ったんだよ。
﹁あ、忘れてたけどヒッキーのメアド教えてよ。﹂
﹁ん、ほれ。﹂
﹁じゃあ、私もお願いします。って、良く携帯を軽々しく渡せますね
⋮﹂
﹁別段見られて困るようなものもないからな﹂
まぁ、そんなのは6sの方に入ってるから関係ないっていうだけな
のだが。
﹁⋮うわ、ヒッキーの小町ちゃんくらいしかいないじゃん﹂
40
?
!
﹁⋮あー、別に何でもないよ。ただ変なメールが来てたから⋮﹂
?
?
!
?
?
﹁今までメアド交換した女子とか居ないんですか
指すとか、あれか
俺を騙そうとしてるな
﹂
﹂
﹁⋮お前は何のアピールしてんだよ。上目遣いとかちょっと頬に朱が
﹁はい、どうぞ﹂
結衣が落とした携帯を一色が持って来てくれる。
﹁あぁ⋮居たなそういや。っておいコラ、携帯落とすなよ﹂
?
ね
﹂
﹁あ、あぁちょっとお願いがあってさ。奉仕部ってここで良いんだよ
雪乃の声に応じてドアが開かれる。
﹁どうぞ﹂
部室のドアが3回ノックされる。⋮ふむ、常識は弁えてる様だな。
緩やかに30分程時が流れた頃だった。
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
﹁お茶を⋮入れましょうか。﹂
は未だに固まってるし、雪乃は興味なさげに本を読んでいるし。
4人中3人が立った状態のままだし。一色は妙に距離近いし、結衣
﹁それは本当にそう思う。﹂
﹁⋮一気にこの部活も騒がしくなったわね⋮﹂
盤から何言ってるか良くわからなかったが。
お、おう⋮と思わず頷いてしまうくらい一気に捲し立てられた。中
で﹂
すか、本当そういうのは付き合ってからにしてください本当いやマジ
﹁うわ、その先輩にアピールしたとか私が軽率に見られるじゃないで
?
﹁あ、ちょっ⋮﹂
ドアが閉じられ、心地よい静寂が戻ってきた。溜息を一つだけ着く
﹂
﹁は ぁ ⋮ 気 持 ち は 分 か ら な い で も な い け ど、一 応 話 く ら い は 聞 き ま
!
!?
と席に戻り淹れてくれていた紅茶を飲む。
﹂
何寛いじゃってるんですか
﹁いやいやいやいや
!
幾ら何でも可哀想だよ
﹁そうだよヒッキー
!
41
?
﹁おかえり下さい、厄神様﹂
?
しょう。比企谷くん、ドアを開けてくれるかしら
を中々抜け出せなくってね﹂
﹂
結衣、お前先にこういうのは言うべきだぞ。俺は知ってたけどさ。
﹁あ、さっきの⋮﹂
葉山が机に置いた携帯に表示されているのは、メール。
﹁あぁ、それなんだけどさ⋮﹂
ある気もするが。
まぁ、過去に葉山がしでかしたことを考えれば仕方のないことでは
時間を凍らせるなんて。
おぉ、好感度ひっくいなー。普通の人間じゃ起こせないぞ、空気と
﹁能書きは良いから。用があって来たんでしょ
葉山 隼人くん﹂
に悩み相談するならここだって言われて来たんだけど。いやぁ、部活
﹁いや、良いよヒキタニ。厄神ってのは良くわからないけど、平塚先生
﹁⋮すまん﹂
が立っていた。
渋々ドアを開くと、いつもと違った引き攣った笑みを浮かべた葉山
?
まぁ、どうこう言っても仕方がないことなので真面目に取り組むとす
るか。
42
?
第八話:﹁リコーダー舐めた犯人はお前だろ
た林⋮彼奴は許さない﹂
﹁成る程、チェーンメールですね﹂
﹁その様ね。﹂
し。あ、目があった。
﹂
﹁つまり、事態の収拾をはかればいいわけね
﹂
と言っ
は普通に暮らしてきた人達だけだぞ。ほら、雪乃もウザそうにしてる
爽やかな仮面の笑顔を浮かべて言っているが、お前それが通じるの
る方法を教えてくれないか
悪く言われるのも腹がたつ。けど、騒ぎにはしたく無いから丸く収め
﹁これが回り始めてからクラスの雰囲気が悪くってね。友達のことを
結衣も自分の携帯を取り出して葉山の携帯と共に見せる。
!
頼むぞ
﹂
﹂
﹁ちょっと待て雪ノ下。犯人特定は騒ぎになってるからな。違う案で
?
るかは分かってんだろ
確かに送ったやつの自業自得⋮と言ったら
﹁確かに、それが一番効率が良い。だけどよ、それでどんな扱いをされ
雪乃は首を傾げながら言った。
否定されたのが嫌だったのか、少し不機嫌そうにこちらを見つめる
?
話が脱線したな。葉山、何時頃から回り始めてるんだ
﹂
よな。だから雪ノ下、俺に任せろ。犯人は一応特定してるしな⋮と、
﹁ま、でも人の尊厳を踏み躙って何もお咎めなし⋮ってのも良くない
メだ。
いた。周りも凄くこちらを見ている。おい、一色、そのカッターはダ
いつの間にか小町で培われていたお兄ちゃんスキルが発動されて
﹁⋮⋮取り敢えず、頭に乗せた手をどけなさい⋮恥ずかしいから。﹂
ら失敗くらいするさ。﹂
それまでだがな。誰しもがお前みたいに強いわけじゃあ無いんだか
?
?
43
?
﹁⋮一番効率が良いと思うのだけれど
?
﹂
﹁⋮ 特 定 し て る の に 聞 く 意 味 は あ る の か い
な。﹂
﹁⋮先週末、何があったか覚えてるだろ
⋮大体先週末くらいか
わからんだろう。分かってたらサトリかどうか疑うレベル。
﹂
﹁あっ、そういえば職場見学の希望調査みたいなのがあったよね
﹁正解だ由比ヶ浜。何人組で行動するか分かるよな
﹁3人組ね。﹂
!
違うんじゃないのか
﹂
?
﹂
?
こういった。
⋮ と い う 事 に し て お こ う。
﹁葉山が、そいつらから離れれば自然とくっつくだろ。﹂
だから、
まりは脆弱性を与えたもうた神が悪い
はないのだ。この事に関して悪いのは、人間の脆さなのだと思う。つ
因みに。俺も犯人は誰か分からない。三人組⋮というのも定かで
で済し崩しになるのは目に見えている。
ここは前使った方法でいい。結局のところあーしさんの鶴の一声
犯人を突き止めずしてどう収めるつもりなんですか
﹁それは自分に疑いがかからない様にですよ葉山先輩。それで先輩は
い。だってあの三人を悪くいうメールだぜ
﹁⋮ ち ょ っ と 待 っ て く れ。俺 は あ の 三 人 が 犯 人 だ な ん て 思 い た く な
﹁はい、そこまでな。﹂
﹁そういう事ね。その三人の中にいるのはまず間違いないわね⋮﹂
あぶれるわけだ。﹂
﹁葉山のトップカーストグループは葉山を含めて四人。つまりは一人
雪乃がよく分からないという顔をしたので説明した。
しないが。
まぁ、ことこの手のものに関しては結衣に終ぞ勝ったことなどありは
周 り を 良 く 見 る っ て い う 結 衣 の 特 性 が フ ル に 発 揮 さ れ て い る な。
あったりするし⋮。﹂
い う の で ね。こ の グ ル ー プ 分 け で 今 後 の 関 係 性 が 決 ま る っ て の も
﹁なるほど。だからあの4人組の中で隼人くんと一緒に行きたいって
?
﹂
うーんと悩む皆の衆。いや、一色お前はわかってねえだろう。てか
?
?
44
?
!
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
さて、そうして葉山隼人のための作戦みんな なかよくは翌日の朝
から開始された。
とか言ってる間に、俺は教室に入ってきた彩加に声をかけ
⋮まぁ、その前に彩加と会ってしまったから少し遅くなるが。戸部
がっべー
た。
﹁よぉ、彩加﹂
﹁あ、おはよう八幡。くぁ⋮﹂
欠伸をする天使⋮否、大天使トツカエルが恥ずかしそうに手で口を
押さえる。⋮⋮天使すぎるよ。女の子だったら玉砕すでにしてるよ。
いや、砕けちゃう事が前提なのな⋮。
そういえばダイヤモンドって、割とハンマーで粉々に砕けるらしい
な。
つまり雪乃なら精神的にダイヤモンドくらいなら砕ける。
﹁八幡、どうしたのボーッとして﹂
﹁あぁ、悪い⋮考え事してた。そういや、職場見学のグループってもう
﹂
決めてるよ、もう。八幡と一緒のところって。﹂
﹁もう⋮﹂
﹂
彩加がなんで女の子じゃないのか。神の最大のミスは確実にその
隼人くん、そんなところ行くんだ。マジっべー
事だと俺は思う。
﹁っべー
!
﹁⋮葉山、これを見てみろ。﹂
していた。
かってくる葉山の顔は晴れやかであり、後ろの三人組も楽しそうに話
と、教室の後ろの方で一つの決着がついた様だった。こちらに向
﹁悪いなお前ら。﹂
﹁そうだな。﹂
﹁そうか⋮じゃあ俺たちは俺たちで組むとしようぜ。﹂
!
45
!
決まったか
﹁僕
?
﹁⋮⋮毎朝、彩加の作った味噌汁が飲みたい。﹂
?
﹁ん
これはあいつらの写真じゃないか。⋮互いが互いの方見ていな
いな⋮⋮。﹂
﹁つまり、これがお前がいなくなった時のこれまでの光景だ。で、今は
⋮言うまでもないな﹂
﹂
ちょっと待て。ウェイトウェイト⋮今こいつなんて言っ
﹁⋮⋮助かったよヒキタニ。で、勝手に決めたけど良いのか雪ノ下建
設で。﹂
⋮⋮は
た
﹁雪ノ下建設⋮だと
さん達も来るそうですよ
⋮。何この絶望感。
んん
﹂
あ ー そ っ か ー。今 日 総 武 高 校 見 学 の 日 ⋮ だ っ た っ け
﹁あ、陽乃さん。﹂
﹁ん
で、そこのお二方は隼人の友達
な。
はっ
﹂
?
﹂
?
危ない危ない。彩加のこととなると思わず熱くなっちまう
﹁おーい、ちょっとー
﹁⋮⋮居酒屋で良いかい
﹁葉山、後で語らおうじゃないか。﹂
﹁ないよ。﹂
いや、待てよ。今まで君と思っていたが、女という可能性も⋮﹂
﹁まぁ、そんなものだよ。こっちがヒキタニで、こっちが戸塚⋮くん。
?
?
紛れて、雪ノ下さんが働いていた。⋮ヤベェ、冷や汗しか出て来ねぇ
さて、雪ノ下建設に訪れたわけだが。ふつーに一般の人が働くのに
?
こうして俺たちは雪ノ下建設へと向かう事と相成った。あ、あーし
﹁よろしく葉山くん﹂
いてくるよ﹂
﹁うん、雪ノ下さんのお母さんの経営する会社だね。じゃあそこに書
?
?
?
﹁あ、僕は戸塚 彩加です。本日は有難うございます。﹂
﹁すんません。俺、比企谷 八幡と言います。﹂
!
46
?
?
?
﹁あーあー、そんなに畏まらなくって良いのにー。もっと楽にしなさ
い。﹂
相変わらずの強化骨格だ。今の俺の精神年齢的には釣り合って居
る様に思える
﹂
この人の大学生とは思えないほどのカリスマは⋮い
﹁ふーん⋮比企谷くんからは少し、同じ香りがするね⋮﹂
﹁ッ
おい、嘘だろ
や、此処は慎重になるべきだ。彼女は戯れでそういったことを言う人
隼人も見習いなさいよ
﹂
種。単なる感想を述べただけ⋮という可能性が高い。
﹁戸塚くんは可愛いねぇっ
!
駆け足でいった。
﹁何か言われたのかい、比企谷くん
﹁いや⋮別に⋮。﹂
﹂
無言で首肯すると、5mほど先を行く葉山たちに追いつくべく少し
いことがあるからね⋮﹂
﹁じゃあ、終わった後でね比企谷くん。同じ世界の住人として、話した
囁かれた。
こうして隣をそそくさと抜けようとした時に雪ノ下さんに耳元で
﹁ありがとう陽乃さん。﹂
﹁じゃあ見学楽しんできてねー﹂
興味⋮関心⋮そういったものと似通う好奇の視線だ。
⋮ そ う い っ て 表 面 上 は 笑 う こ の 人 の 目 は ず っ と 俺 を 向 い て い た。
﹁いや、物理的にもう無理だよ﹂
!
と。﹂
﹁⋮もー酷いよ比企谷くん。お姉さんは寂しいよそんな反応をされる
えられた。
各自自由となっているので、タクシーを呼ぼうとしたところ腕を捕ま
そうして2時間という短い時間は過ぎて、帰ることとなる。帰りは
といつも通りの顔に戻った。
真剣な表情で気をつけてくれ、彼女は何処か可笑しい⋮とだけいう
﹁そうか⋮でもまぁ君は彼女に関心を持たれたようだね。﹂
?
47
?
?
!?
﹂
?
前みたいにとでも言えば
・・・・・
なんで俺みたいなのに様が
つれないなぁ、それともあれかな
﹁雪ノ下⋮の姉であってましたよね
﹁んー
伝わるかな、比企谷 八幡くん、﹂
間違いない。この人こそが未来人だ。
流石は比企谷くん、嬉しいねぇー﹂
﹁⋮カフェにでも行きましょうか。﹂
﹁おぉ
?
?
こうして美人なお姉さんを引き連れたまま近くのカフェに入って、
話を聞かせてもらうことになった。
48
?
!
私今の君も好きだよー﹂
第9話:﹁変わっt⋮可愛い先輩未来人はるのん
﹁うんうん、君も変わったねぇ
未来からという話。﹂
﹂
!
たはいつから戻ってきたんです
﹂
顔が硬直する。⋮何か嫌な思い出でもあったのか
ない
もうね、正直疲れたのよ⋮楽になりたい。﹂
それにこの人
﹁⋮成る程ね。⋮じゃあもっと増やして、うちの会社乗っ取っちゃわ
だに繋げられるんですよ。﹂
﹁⋮この際だから話しておくと、携帯ですかね。あの当時の情報が未
けど。﹂
るし。まぁ、君は8億当てたからねぇ⋮どうやったのかはわからない
﹁うん、資産は前の2∼3倍はあるしね。私個人でも既に億は持って
なってんすね。﹂
﹁あぁ、成る程っす。それで雪ノ下建設が前にあった時よりも大きく
﹁⋮赤ん坊の頃からだよ﹂
妙にピュアなんだが。雪乃の中身と案外そっくりなのかもしれない。
?
﹁いや、安心院さんじゃないんだから。それで雪n⋮陽乃さん。あな
て呼びなさい。﹂
﹁あぁ⋮そうそう、雪ノ下さんじゃなくて陽乃と親しみと愛情を込め
弱々しいものだった。くっ、何かキュンと来る。
影の見え始めた雪ノ下さんは、俺が今まで見たことがないくらいに
させてもらいたいに決まってるじゃん。﹂
﹁⋮そうだね。この世に二人といない遡行者だ。八幡くんとは仲良く
のじゃないと思いますから。﹂
﹁仮面、外していいっすよ。こんなのフィルターごしに語れる様なも
﹁そんなに焦らないの⋮とは言っても、私も相当驚いてるからねぇ⋮﹂
軽口を叩く彼女に問い質す。すると少し唇を尖らせた後に、呟く。
﹁ところで本当なんですか
!
?
たので頭を軽く撫でる。
﹁セクハラだねぇ⋮あはは冗談冗談。でも八幡くん、今それされると
49
?
そう言って小洒落たカフェの机に突っ伏す陽乃さん。そのままい
?
惚れちゃうから⋮ね
止めようよ
えっ、ちょっ、何で止めないの
?
的な目線で見られてるから
﹂
﹁きゃー♪八幡が怒った∼♪﹂
可愛い⋮と思う反面やりづれぇっ
の正体は可愛らしい少女でしたってか
!
感じたんだよ。﹂
﹂
てはみたけれど君以外には居なかった⋮というよりも何か違和感を
だけど⋮。まぁ、私もこの20年近く考え続けてきたし、探りを入れ
﹁多分、死んだらなんだと思うんだ。ただ、特定の人だけってことなん
俺もこれにはある一つの解を既に出していた。
この人の憶測は殆ど間違いなく正解に辿り着けるだろう。そして
ど。﹂
﹁⋮それは私にも良く分からないよ。まぁ、憶測で良いのなら言うけ
﹁それでまぁ本題に入りますけど、どうやって戻って来たんですか
﹂
なんだよこれ、別人だろ。魔王
﹁紛らわしい言い方をしないでくれ。ほら、周りの人からもあの男⋮
んが初めてなんだから。﹂
﹁責任、取ってよね。私を此処まで読み切って丸裸にしたのは八幡く
たけど、本当は可愛いんだよなぁとしみじみ思う。
むぅ⋮と少しいじけるのがまた可愛らしい。大人大人と思ってい
ちゃって﹂
﹁は は は ⋮ い や、珍 し く 陽 乃 さ ん が 焦 っ て る の 見 る と つ い つ い や っ
!?
?
!
!
何をして呼び出しくらったのよ
いやぁ、本当に面白
﹁⋮ですよね。俺も死んだと思ってたらシズちゃんの前に立ってまし
たし。﹂
﹁あはははっ
!
違って陽乃さんには仮面が無いように思えた。
﹂
﹁ふぅ⋮それじゃあ、ちょっとお姉さんと良いところ行こうか
﹁いいですとも
ジで。だってほら陽乃さんで察してくれよ。
﹂
⋮まぁ、この時の俺は馬鹿だったとしか言いようが無い。うん、マ
?
50
?
⋮⋮ 一 気 に 親 近 感 湧 く よ な。こ れ は あ る 意 味 卑 怯 だ。で も、前 と
い子だねぇ君は﹂
!
!
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳︳
﹂
私にはなかったもの
さて、案内されたのは当然ながらピンク色のホテルだとか、夜景が
何故ここに
綺麗なマンションの最上階などではなかった。
﹁武道場⋮
﹁瓦、割れる
﹂
ご丁寧に再現してらっしゃる。
ら、黒スーツの男達が出てきた。⋮ざわ⋮⋮ざわ⋮という効果音まで
そう言うとスタイリッシュに指パッチンをした陽乃さんの後ろか
だしね∼。ねぇ、ちょっとだけ見せてよ。﹂
﹁八幡くん、だって君⋮力が上がってるでしょ
?
﹁⋮ふっ
﹂
いや、この前はベッドに足ぶつけただけでベッドの下
﹁お∼⋮力任せにやったけど、痛くないの
﹁ええ、そこまで痛くはないですね。﹂
なるほどねぇ⋮と言って頷く陽乃さん。
﹂
大丈夫なんかじゃないが。寝る度にガタガタ鳴ってるし。
の方の足がポキッといってたから大丈夫だろう。いや、俺のベッドは
いけるかな⋮
そして持ってこられた瓦は30枚ほど重なったもの。あれ、俺これ
﹁余裕っすね。指一本で行けます﹂
?
?
動がそこまでない⋮とまぁまたそれらしいものがあるわけだね。﹂
﹁最初の方は来てたんですけどね⋮身体がどんどん適合していくみた
いで、最近はそんなこともなくなってきてます。﹂
﹁うんうん⋮そっかぁ⋮⋮でも凄いねこれは⋮﹂
暫くぼうっと見つめた後、陽乃さんが顔を此方に向ける。すごく真
剣な表情をしてる⋮何かあるのだろうか
﹁⋮ねぇ、八幡くん。﹂
﹁はい。﹂
﹁⋮この魔法少女コス着て空飛んでみてよ
﹁俺にもう一度死ねって言うのかあんたは
﹂
?
﹂
!? !
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?
?
﹁君は人のリミッターを任意でオンオフ出来るわけだ。それでいて反
?
!
またきゃー♪と言って逃げられる。⋮ふふ、そう何度も逃げられる
と思うなよ。今の俺の本気を見せてやる
﹂
ならそれでもいいかもしれないね。﹂
﹁⋮⋮次、いつ会えますか
﹂
﹁ふふ⋮ふふふ⋮あーっはっはっは
﹂
面白い、面白いぞ
﹂
エンドレス
﹁ぼーっとしてるからね。ついついやっちゃった⋮許してね♪﹂
天と地が入れ替わり、いつの間にか床に叩きつけられていた。
﹁そぉい
かったのだろうし。
かったわけじゃないのだ。だから、彼女陽乃も途中までは何も言わな
いや、これは仕方ないと言える。俺だって今回のことで混乱してな
﹁あっ、すみません。﹂
らね⋮⋮⋮⋮そろそろ、離れて欲しいな。恥ずかしい。﹂
﹁そうだねぇ⋮再来週の日曜日、でどうかな
私も色々仕事があるか
ちゃった時は本当に困ったものだったけど、分かってくれる君がいる
一 番 嬉 し い か も し れ な い。周 り に 聞 い た 時 に 可 笑 し い と 認 定 さ れ
﹁それは私の台詞だよ、八幡くん⋮。この19年間を生きてきた中で、
良かったです。﹂
﹁足速いっすね⋮何してたらそうなんだよ⋮でもまぁ、今日は本当に
﹁⋮あっは、捕まっちゃったかー⋮あはははは﹂
!
!
︶を深めあい、最終的に床に二人とも膝
﹁ふっふっふ⋮八幡くん、私の攻撃︵性的︶に耐えられるかなぁ
組み手でもしてやろうじゃねえか
!
!
まり、少し体勢が気持ち悪い状態。
しかしながらそれでも久しく流していなかった汗を流すのは良い
ものらしい。
﹁⋮あー、汗かいた。気持ち良いねえ本当⋮﹂
⋮少しだけ、話したいことがあるの。﹂
﹁確かに⋮。じゃあ、汗も流したいんでそろそろ﹂
﹁ち、ちょっと待って
﹁⋮何でしょう。﹂
!
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?
?
?
から崩れ落ちた。上から見たら落ちた羽虫のようなものだろう。つ
こうして俺たちは親睦︵
!?
!
陽乃は少し俯き思案すると暗鬱たる表情で話し始めた。
﹁⋮私さ、前の世界で君に幻滅したんだよね。本物を求めようとして
本音から逃げるのは悪いんですかっていう風に言われてさ⋮⋮。で
も、この世界に来て私もそう思ったよ。﹂
と、そこで陽乃は言葉を区切る、そして暗かった表情からうってか
わって、名前の文字通り春の太陽のような笑顔を浮かべてこう言っ
た。
﹁私は君という本物を見つけた。⋮都合が良すぎるかもしれないけど
ね。﹂
⋮ヤバい。いや、今のは俺の心象世界にある八幡城が揺らぐほどの
一撃をダイレクトに受けた。
﹁俺も、俺も本当に今日という日が忘れられそうにないです。﹂
﹁ふふっ⋮ともに未来人同士頑張ろっか。じゃあ、八幡くん⋮お風呂
﹂
に入ろっか﹂
﹁⋮は
この後どうなったかは想像にお任せする。
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?