第2章 フィルタ&発振回路

第 2 章 フィルタ&発振回路
2−1:二大アクティブ・ローパス・フィルタ
サレン・キー型と多重帰還型の使い分け
フィード・
スルー信号
OPA2134
(テキサス・
インスツル +12V
メンツ)
C1
200p
LPF を少ない部品点数で作りたいです.フィルタ
設計の経験はありません.まずは定番で試してみた
いのですが,どんな回路があるのでしょうか?
Vin
フィード・
バック信号
IC1a
R1
R2
22k
22k
C2
R3
200Ω
100p
Vout
−12V
図 1 サレン・キー型 LPF の基本構成
ケーブルの静電容量
による発振防止
多重帰還型LPF
R2
15k C 2 100p
R1
Vin
15k
R3
C1
+12V
R4
15k
200Ω
470p
IC1b
入力側
OPA2134
(テキサス・
インスツルメンツ)
写真 1 フィルタの特性を比較するときに OP アンプのばらつき
が出ないよう,一つの IC で実装している
アクティブ LPF
(Low Pass Filter)
で定番の図 1 のサ
レン・キー型と図 2 の多重帰還型の回路を紹介します.
これらが定番となった理由として,共通の特徴を四つ
挙げられます.
理由 1:部品点数が少ないアクティブ・フィルタ
理由 2:古い回路でノウハウが良く知られている
理由 3:CR の定数計算が簡単
理由 4:カスケード接続で高次のフィルタを構成で
きる
写真 1 に,サレン・キー型と多重帰還型の二つの
LPF を実装した基板を示します.
●[Good answer]部品点数が少ないサレン・キー型
サレン・キー型 LPF は,開発者の R.P.Sallen 氏と
E.L.Key 氏の名前がついた LPF です.その特徴は次の
通りです.
●
2 個の R と 2 個の C と 1 個の能動素子
(真空管,ト
ランジスタ,OP アンプなど)の計 5 個の部品で構
成できる
●
幅広いクオリティ・ファクタQ(0.5 ∼ 100 程度)
を
実現できる 2 次のフィルタである
回路がシンプルで,
C とR を交換すればHPF(High
Pass Filter)になる
● 周波数特性が C のばらつきに敏感
●
Q は,共振回路の選択度(またはクオリティ・ファ
クタ)を表すパラメータです.2 次のフィルタでのQ は,
カットオフ周波数におけるゲインを,通過域のゲイン
104
OPA2134
(テキサス・インスツルメンツ)
出力側
サレン・キー型
LPF
Vout
−12V
図 2 多重帰還型 LPF の基本構成
で割ることで計算できます.
●[Good answer]高域までしっかり減衰する多重帰
還型
▶サレン・キー型
図 1 のサレン・キー型フィルタの動作を具体的に説
明します.OP アンプはゲイン 1 倍のボルテージ・フ
ォロワです.このアンプと,2 個の R および 2 個の C
で LPF を構成します.
R 1 = R 2 = R としたとき,カットオフ周波数 f 0 と,
クオリティ・ファクタQ は以下の式で計算できます.
f0=
1
[Hz]
2πR 㲋C 1C 2
(1)
1 C1
(2)
2 C2
R 1 = R 2 = R = 22 kΩ,C 1 = 200 pF,C 2 = 100 pF
を代入すると,次のように求まります.
Q=
f 0 = 51.18 kHz,Q = 0.707
図 3 は実測した周波数特性です.カットオフ周波数
より高い周波数のゲインは− 40 dB/dec で減衰してい
ますが,2 M ∼ 10 MHz では約− 60 dB 一定です.こ
れはサレン・キー型 LPF に特有の重大な欠点です.
OP アンプに正帰還をかける C 1 を介して,図 1 に示す
ように入力から出力にフィード・スルーする信号があ
るのが原因です.
低い周波数では,OP アンプの出力インピーダンス
は非常に小さいので,無視できます.高い周波数では,
OP アンプの出力インピーダンス Z O が増大するので,
出力に流入信号電流 ×Z O の電圧が発生します.
対策として,前段に適当なRC 型 LPF を挿入すれば,
2016 年 5 月号