6.エイズ対策の実際

6.エイズ対策の実際
⑩HIV と安全血液対策
国立国際医療センター 国際医療協力局
宮本英樹
(第 2 版)
世界中の HIV 感染のうち、約 5-10%は輸血や血液製剤を通して起こっていると言われ
ている。さらに具体的にいえば、安全ではない血液の使用により毎年 8-16 万人の新たな
HIV 感染者が発生していると推定されている。
医療資源が乏しい開発途上国では、中央管理された輸血サービス体制を確立することは
容易ではない。したがって、個々の地方病院が献血者を募り、輸血を行っていることが一
般的である。輸血のための血液の安全性を高めるために、病院では以下の 2 つの方法が行
われている。
1.感染リスクの低い献血者の選択
検査によってはある程度の偽陰性(感染していても検査結果が陰性と出る)が起こり
うるため、血液検査だけでは 100%HIV 感染を特定できるわけではない。したがって、
血液検査に加え、感染リスクの低い人だけを献血者として選ぶ必要がある。
セックスワーカー、その顧客、麻薬注射の使用者などは、HIV 感染リスクが高いと考
えられるので、献血者から除外されなければならない。また、問診票を用いて、献血者
に対し HIV 感染に関わるリスク行動を質問し、リスクが高そうな献血者を除外する必要
がある。HIV 検査目的で来る献血者も感染リスクが高いと考えられるので、献血者とし
ては適当ではない。検査目的の人には輸血サービス部門ではなく、VCT を利用してもら
う必要がある。地域によっては感染リスクの少ない自発的な献血者グループが組織化さ
れているところもあり、彼らが定期的な献血者になることで血液の安全性を高めること
に貢献している。
2.血液のスクリーニング検査
医療資源が限られた病院では、主に HIV 迅速検査キットを用いて血液検査が行われる。
陽性になった血液は輸血には使用されない。前述したように検査では本人が感染してい
ても、結果が陰性になることがありうる。その理由としては、1)検査キットが有効期
限を過ぎていたり、保存状態がよくないため、検査結果が正しく出ない。2)検査手技
が間違っている。3)感染から検査までの期間が短すぎるため検査が陽性にならない。
(感染から約 3 カ月でほとんどの検査は陽性結果になる。)4)検査キットによっては、
その特性上、一定の偽陰性がどうしても起こりうる、などがあげられる。
なお、HIV 以外にも開発途上国で問題になる輸血感染症は、B 型肝炎、C 型肝炎、梅毒、
マラリア、シャーガス病などがある。WHO はこれらの感染症がすべての輸血の前に検査さ
れることを推奨している。
上記の対策に加え、HIV を含めた輸血感染症の予防のためには、外傷や交通事故の予防、
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必要時にのみ輸血を行うこと(ガイドラインを用いて不必要な輸血を制限する)などが、
重要である。
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