平成 27 年度 海外研修報告書(米国)

平成 27 年度 海外研修報告書(米国)
薬学科 5 回生
宮川 拓也
私は現在、長期実務実習中であり、薬剤師の業務を実際に知る機会が出来たことで薬剤師として働くと
いうことを強く意識し始めました。病院実習において患者さんからはもちろん医師、看護師からも薬の事
を聞かれ、頼りにされている薬剤師の先生を目にし、非常に魅力のある仕事であると感じたためです。実
際に働いている薬剤師の方の姿を見て、病院で重要な役割を担っていると感じました。しかし一方で、患
者さんとの距離が医師や看護師と比べ遠く、実際に現場で薬剤師ができることは限られているなとも感じ、
薬物治療においては薬剤師がもっと中心的な役割を担ってもよいのではないかと考えていました。このよ
うな気持ちを抱え、実習生活を送る中で、以前授業で聞いた米国での薬剤師の話を思い出すようになりま
した。その時以来、私の中で米国では、薬剤師の地位が日本より高く、患者さんにより近いところに位置
し、患者さんの生活により深くかかわっているというイメージをもっていました。
そして、米国の薬剤師と日本の薬剤師とでは何が違うのだろうと感じるようになりました。米国と日本
では医療制度、薬剤師を取り巻く環境も異なるため、一概には言えませんが、実際の米国の薬剤師業務、
薬学教育を肌で感じ、このような違いはどこから来るものなのか考えてみることを目的に、今回の海外研
修に参加させていただきました。これらを踏まえ、今回の研修を振り返りました。
今回フロリダ大学に行って興味深かったことが二つあります。
一つ目は、薬剤師の権限とその背景についてです。米国では薬剤師に処方権があり、さらにインフルエ
ンザの予防注射などもできます。またテクニシャンの存在が認められているため、薬剤師はピッキングな
ど調剤業務を基本的には行わず、病棟に出て患者さんと関わる時間を十分にとることができます。このよ
うなことからも、米国において薬剤師が患者さんにより近いところにいる環境が日本と比べ、整っている
といえます。実際に病棟の入院患者さんの回診を見学させていただいた際、一時間以上にわたり、薬剤師
さんが患者さんと治療についてお話しされていました。日本でも薬剤師は服薬指導を行いますが、薬の処
方に関して薬剤師が主体となって取り組める環境は整っていないと感じていたため、このように長時間、
薬剤師が患者さんと接している様子を見ることが出来たことはとても新鮮でした。
また、フロリダ大学の授業カリキュラムを拝見させていただいた際、高い専門性を持ち、人間味にあふ
れた臨床のスペシャリストとしての薬剤師を育てようとしているという印象を受けました。授業カリキュ
ラムのほとんどが臨床に関わるもので構成されており、今回見学させていただいた授業の内容も臨床的な
ものでした。日本とは異なり薬学部を卒業した学生はそのほとんどが薬剤師として働くという背景はあり
ますが、カリキュラムのほとんどは実際の現場で活躍できる薬剤師を養成する内容になっており、この点
についても薬剤師が患者さんと近くなり、臨床でより大きな役割を担うことを期待されていることがわか
りました。
二つ目は教育の仕方についてです。今回は二つの授業に参加させていただくことができました。まず一
つ目の三年生の PharmacotherapylV の授業では、何らかの症状を訴える患者さんが来局した時の服薬指導
をロールプレイ形式で行う、というものでした。この授業では、学生は何か一つの疾患を取り扱う、とい
うことだけを事前に伝えられており、一人一人がその疾患について勉強してきます。薬剤師役を行う学生
は、その授業中にランダムに当てられるため誰があてられるのかはその授業が始まるまでわかりません。
そのため学生はみな、いつ自分があてられるのかわからないという緊張感のもと、集中して授業に取り組
みます。各々がしっかりと勉強するため、このスタイルで授業を行うことで学生は主体性をもって学ぶこ
とが出来ますし、ただ講義を聴くだけの授業よりもはるかに深い学びを得ることにつながります。さらに
それを皆の前で発表し、評価されるということが、毎回の授業に対するモチベーションアップにつながる
のではないかと感じました。
もう一つの授業は一年生の Principle Pt Centered care という授業でした。これは処方箋を見ながら
与えられた課題に対しディスカッションを行い、グループ内で答えを出していく形式でしたが、意見が飛
び交い、グループ全員が積極的にディスカッションに参加しており、先の三年生の授業と同様、皆がしっ
かりと予習をしていることがわかりました。この授業では最後に良かったと思われるグループに投票する
時間があり、それによりフィードバックを行っていました。このようなスタイルの授業は経験したことが
なく、とても新鮮なものでした。私はこれら二つの授業に参加し、米国の学生の積極性・主体性の点で、
日本の学生と大きく異なると感じました。学生が常に全力で授業に臨み、またそれを学生自身が評価して
いくという学生主体の環境が、大きな違いを生んでいる要因の一つであると感じられました。
今回は実際にフロリダ大学の薬学生と関わる機会にも多く恵まれ、そこからも大きな刺激を受けました。
話した学生はみな薬剤師となり、やりたいことが明確にあり、その目標に向かって日々努力を続けていま
す。私は日々生活を送る中で、目標に向かい、努力を続ける姿勢を見失いがちになっていました。しかし、
今回のフロリダ大学の薬学生との交流により、「これから頑張っていこう」という希望に満ち溢れていた
入学当初の気持ちを思い出しました。これからの学校生活ではもちろん、今後の人生においても努力し続
けるということは必要なことであり、彼らのように自分の目標に向かい、歩みを進めていこうと思います。
今回実際に現場で活躍されている米国の薬剤師の姿を見学し、またフロリダ大学の学生と交流したこと
により、自身の進む道を考える大変良い機会となりました。研修費用を負担していただいた村山元様をは
じめ、学長先生、国際交流委員長である大山雅義先生、引率していただいたミルボド先生、舘知也先生、
その他諸先生方にはこのような貴重な機会を与えてくれたことに深く感謝し、自らが成長し、今回得た経
験を活かし、まだ見ぬ患者さんに還元できるよう、日々努力を続けていきたいと思います。