台湾語母語話者と日本漢字音

天理台湾学会 2016 年第 26 回研究大会 報告要旨(中澤信幸)
*報告要旨のため、報告者の許可なく引用・転載することを禁じます。
台湾語母語話者と日本漢字音
中澤信幸(山形大学)
台湾における日本語教育では、台湾の国語とされる北京語との対照が行われる。しかし
現代日本漢字音は、北京語音よりもむしろ台湾語音と近似しており、日本語教育において
もこの台湾語音の特徴を生かすべきである。
日本語教育において台湾語音を生かすためには、台湾語音を使って日本漢字音を覚える
ことの効能を検証する必要がある。そこで発表者は、台湾で使われる日本語教科書に出て
くる 20 の漢語について、その日本漢字音と台湾語音、国語(北京語)音とを併記したアン
1
ケートを作成した。そしてそれを利用して、台湾の大学で日本語を学習している台湾人学
生 476 名を対象に意識調査を行った。その結果、日本漢字音習得に台湾語音がある程度有
用であるということが実証された。また母語意識や出身地との関係からの考察も行った。
これらの結果については、すでに学会等で公表済みである。
会
これまでは調査対象者全員について考察を行ってきたが、その中には客家人や外省人の
家庭で育った人も含まれる。しかし日本語教育における台湾語音使用の有用性を確かめる
学
ためには、やはり対象を台湾語母語話者にしぼった方が良いであろう。またこれまでの考
察では、調査した 20 の漢語について個別に深く分析するまでには至らなかった。そこで本
、、、
発表では調査対象者 476 名のうち、両親がともに対象者に対して台湾語(閩南語)を話す
湾
台湾語使用家庭 205 名にしぼって、20 の漢語について個別に分析していくことにする。
例えば「新聞」
(しんぶん、sin-bûn/xīn wén)は、日本漢字音を覚える上では「絶対に
台
台湾語」の方が良いと答えた人が 105 名と半数を超えた。(さらに「どちらかといえば台湾
語」も 56 名いた。これは公表済み。)このように、台湾語音が圧倒的な支持を受けた語と
して、他に「先生」
(せんせい、sin-senn/xiān shēng、
「絶対に台湾語」80 名、
「どちらか
理
といえば台湾語」57 名)
、
「家内」
(かない、ka-lāi/jiā nèi、
「絶対に台湾語」91 名、
「ど
ちらかといえば台湾語」67 名)
、「鉛筆」
(えんぴつ、iân-pit/qiān bĭ、「絶対に台湾語」
118 名、
「どちらかといえば台湾語」56 名)などがあった。これらの語は、いずれも台湾語
天
の声母(子音)や入声韻尾が日本漢字音に近似しており、それが台湾語支持につながった
ものと考えられる。
一方、日本漢字音を覚える上では中国語の方が良いというものもあった。「専攻」(せん
こう、tsuan-kong/zhuān gōng、
「絶対に国語(北京語)」41 名、
「どちらかといえば国語(北
京語)
」36 名)
、
「日本語」
(にほんご、Ji̍t-pún-gí/Rì běn yŭ、
「絶対に国語(北京語)」44
名、
「どちらかといえば国語(北京語)」37 名)
、
「辞書」
(じしょ、sû-tsu/cí shū、
「絶対
に国語(北京語)」52 名、
「どちらかといえば国語(北京語)
」55 名)などがそれである。
これらは日本漢字音と台湾語音とが近似しておらず、かつ台湾語音と北京語音とが比較的
近似しており、それが北京語支持につながったものと考えられる。
以上のような考察を通して、本発表では台湾語母語話者による台湾語音と日本漢字音に
関する認識について、さらに掘り下げて論じることにしたい。