EC-07:教育コース 07(生涯教育) 「症例を通じて勉強する神経筋電気診断」 2016 年 5 月 18 日 EC-07-1 急性に発症した四肢の脱力 国分則人 獨協医大神経内科 症例:24 歳,男性 主訴:四肢脱力 現病歴: 20XX 年 9 月 7 日起床時より大腿の筋肉痛と下肢の脱力により立ち上がれなくなった.様子を 見ていたところ少し改善した.9 月 14 日より再び増悪し,9 月 16 日には四肢の脱力に より立ち上がれず,箸を口に持っていくのが困難となったため入院. 既往:特記すべきことなし 家族歴:類症なし. 入院時現症 一般理学的所見に特記すべきことなし 神経学的所見 意識清明 脳神経領域:明らかな異常なし 運動系:弛緩性四肢麻痺.MMT 三角筋 2/2,上腕二頭筋 2/2,上腕三頭筋 2/2,手 根伸筋群 2/2,手根屈筋群 2/2,小手筋 2/2,腸腰筋 1/1,大腿四頭筋 3/3,前脛 骨筋 3/3,下腿三頭筋 2/2.握力 0/0 kg(右/左) 座位保持不能 腱反射: BB -/-,TB -/-,Br-/-,PTR -/-,ATR -/感覚系:正常 膀胱直腸障害なし 検査所見(入院当日) AST 40 IU/L, ALT 96 IU/L, LDH 223 IU/L, CK 39 IU/L, Na 138 mEq/L, K 4.0 mEq/L, Cl 98 mEq/L 他,特記すべき異常なし. 経過: 土曜日午後の当直帯入院であったため,電気診断は行わず暫定診断を Guillain-Barré 症候群として免疫グロブリン大量静注療法を開始した.月曜日の時点では腱反射は陽 性化,握力は 28/28kg まで回復.歩行器歩行が可能となっていた. 1 ・診断は Guillain-Barré 症候群で良いか? ・電気診断はどう予想されるか? ・聞き直す・見直すべき病歴や身体所見は? ・診断確定のための検査は? ・診断は? 2 EC-07-02『右上下肢の脱力を呈した 44 歳男性』 山崎博輝,大崎裕亮,野寺裕之,梶 龍兒 徳島大学病院 神経内科 症例は 44 歳男性.会社員.特記すべき既往なし.両親に血族婚なし.喫煙なし,アルコール は機会飲酒程度. X-1 年 4 月より右足,10 月より右手の脱力が生じ,緩徐に進行した.12 月に A 病院整形外科 を受診し,右手内筋,右前脛骨筋に筋力低下を認めた.頸椎と腰椎の Xp 所見に明らかな異常指 摘されず,同院の神経内科へ紹介された. 神経内科初診時には,脳神経系には異常は認めず,徒手筋力テストで上肢では右第一背側骨間 筋や深指屈筋などに 4~4+程度の筋力低下があり,握力は右 30kg/左 43kg(右利き)と低下してい た.下肢では前脛骨筋や腓腹筋に右で 4 程度の筋力低下を認めるほか,左でも同筋に 4+程度の 筋力低下を認めた.右手指に巧緻運動を認めた.深部腱反射は四肢で消失していたが,病的反射 は認めなかった.右上肢遠位に静止時振戦を,右上肢挙上時には右肩関節周囲筋に筋痙攣様の不 随意運動(時折ピクっと動く)がみられた.四肢体幹に感覚異常は認めなかった.歩行は右前脛骨 筋筋力低下のためか若干歩容の変化はあるものの,通常の速度であった. 検査では一般採血には明らかな異常はなく, 頸椎 MRI でも明らかな異常所見は認めなかった. 神経伝導検査では,右上肢の運動神経では正中神経の伝導速度は正常ながら,遠位潜時の延長, 振幅低下があり,F 波の消失を認めた.尺骨神経では遠位潜時,振幅,伝導速度ともに正常であ ったが,F 波潜時の著明な延長を認めた.右下肢では尺骨神経同様,脛骨神経,腓骨神経ともに F 波潜時の延長を認めた.感覚神経は上下肢とも正常であった.筋電図は右上下肢遠位筋に神経 原性変化を認めた.臨床経過と理学所見,検査所見から免疫介在性のニューロパチーと診断され た.X 年 3 月より大量免疫グロブリン(IVIg)療法を行い,筋力の改善,不随意運動の消失が得ら れたが,再燃傾向を示し,以降病状に合わせ定期的に継続された. X 年 10 月に転勤を機に当院当科での継続加療とし,以降の追加検査,治療経過につき提示す る. 1 EC-07-03 眼瞼下垂 札幌医科大学附属病院神経内科 今井富裕・津田笑子 症例:50 代女性(現在) 第1回入院時(10 年前) 主訴:右眼瞼下垂、複視 現病歴 : 20 歳代後半より右眼瞼下垂、倦怠感を自覚。近医形成外科で右眼瞼 挙上術を施行。一時的に改善していたが徐々に右眼瞼下垂が再発。40 代になり、 テンシロンテスト陽性を根拠として眼科で眼筋型 MG と診断された。全身倦怠 感もあったため当科に入院した。症状は日毎の変動はあるが、日内変動は明ら かではなかった。 既往歴:急性虫垂炎(10 才)、先天性股脱(?才、出生時?)、十二指腸潰瘍(19 才)、慢性膵炎(20 才) アレルギー歴:キシロカイン、酒精綿、ミオナール、めまい、ビタミンB群点 滴。 家族歴、生活背景:特記事項なし。 一般理学所見:身長 167 cm、体重 55 kg。特記すべき所見なし。 【神経学的所見】 意識清明。認知症なし。構音障害なし。 脳神経系:瞳孔正円同大 3mm。対光反射迅速。右眼瞼下垂。瞬目にて眼裂やや 狭小化(右 7/左 10mm→瞬目 20 回→右 5/左 9mm) 。眼球運動は右内転制限を 軽度に認める。全方向性に複視あり、注視で悪化する。咀嚼の易疲労性あり。 顔面筋力低下なし。軟口蓋の挙上は良好。舌に特記すべき所見なし。 小脳系:特記すべき所見なし。眼振なし。 運動系:しゃがみ立ちが 5 回可能だが、疲労感あり。歩行は正常。MMT は頚部 前屈のみ 4、他は全て 5。握力に易疲労性なし(右 20.5/左 15.5kg→5 回後→右 19.2/左 14.5kg)。筋萎縮なし。筋緊張正常。 四肢腱反射:四肢やや亢進。左右差なし。病的反射陰性。 感覚系:右Ⅴ1,2 領域の表在覚に 80%の低下あり。他は正常。振動覚低下なし。 自律神経系:特記すべき所見なし。 【検査所見】 抗 AChR 抗体<0.2 nmol/L、甲状腺機能正常。抗核抗体(-)。血算、生化学、炎 症反応、免疫グロブリン、腫瘍マーカー(CA125、CA19-9)に特記すべき所見 なし。乳酸 12.6mg/dl, ピルビン酸 1.38mg/ml。IgE 正常。肺機能正常(%VC 1 97.2%)。心電図:NSR75。四肢筋 CT:特記すべき所見なし。 第2回入院時(3 年前) 【神経学的所見】 認知機能:HDS-R 24 点(年、計算、逆唱、遅延再生、語の流暢性) 、MMSE 24 点(計算-4、遅延再生-2)、FAB 14 点(類似性-1、葛藤指示-1、Go/No-Go -2) 脳神経系:Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ:視力・視野正常、瞳孔正円同大 3.5mm、対光反射 迅速、左右差なし。 眼裂左/右 10/8mm(瞬目負荷後 8/7mm) 、ice pack test 陰 性、複視全方向性にあり(注視で悪化)。眼球運動: (左)上・下転、 (右)下・内 転に制限あり。Ⅴ:右顔面感覚低下、咬筋易疲労性あり。Ⅶ:上部顔面筋力低 下。Ⅷ:聴力低下なし(会話法)、耳鳴り・浮動性眩暈あり。Ⅸ、X:軟口蓋挙上 良好、Ⅺ:胸鎖乳突筋 5/5、Ⅻ:舌萎縮・偏位・fasciculation なし。 運動系:両側胸鎖乳突筋、 腓腹筋に筋萎縮あり。不随意運動:なし。 MMT:頚部前屈 2、頚部後屈 3、四肢筋は左右差なく 4。握力:右 10kg、左 7kg (10 回施行で低下なし)。しゃがみ立ち不能、歩行:下肢の挙上が不十分 である。小脳系、感覚系、反射系、自律神経系に特記すべき異常なし。膀胱脱 術後のため排尿障害あり。 <MG Composite scale> 眼瞼下垂 30/50 点 3(常時)、複視 4(常時)、開眼筋 1 (左中等度)、会話・発音 4(時 に不明瞭)、噛む 4(軟らかい物でも)、飲み込み 2(まれに 1 日 3 回程度) 、 呼吸 2(活動時)、頚筋力 4(重度)、上肢 2(軽度) 、下肢 4(中等度)。 【1 回目から 2 回目の間に新たに加わった合併症】 上腸間膜動脈症状群(46 才)、腰椎椎間板ヘルニア手術(48 才)、膀胱瘤手術(48 才)、子宮脱手術(49 才) 【検査所見】 血液検査、尿検査、髄液検査:特記すべき異常なし。 <好気負荷試験> 前 5 10 15 後 5 15 乳酸 20.3 20.6 22.4 23.5 19.9 16.3 ピルビン酸 2.07 1.59 1.58 1.70 1.73 1.53 呼吸機能検査:VC 2.73, %VC 98, FEV1.0 79 四肢筋 CT:頚部、 (左>右)上腕二頭筋・三頭筋、傍脊柱筋、腸腰筋、ハムスト リングスに明らかな萎縮あり。 脳 MRI:脳室・脳溝の拡大なし。大脳白質に FLAIR 高信号域をわずかに認める が加齢変化に矛盾しない。大きな梗塞巣・出血性病変を認めない。 2 EC-07-04 足のしびれ 東京都健康長寿医療センター神経内科 東原真奈 Case 1:70 歳男性 [CC]足のしびれ [PI]50 歳頃に検診で糖尿病を指摘され、食事・運動療法および薬物療法で加療されている。 血糖コントロール不良(HbA1c 8.0%前後で推移)。以前から腰痛と両足のしびれ感を自覚 していたが、2 年前から両足のしびれ感が増悪してきた。両足のしびれは、びりびりするよ うな異常感覚で、特に下腿~足趾で強いとのことであった。しびれ感は右側で強く、最近 では 100m くらい歩くと大腿後面が痛くなってきてしまうので、座って休まないと歩けな くなった。上肢には症状はない。糖尿病性ニューロパチーを疑われ、A 病院神経内科受診。 [PH]2 型糖尿病, 高血圧症, 脂質異常症, 心筋梗塞 [Medication] バイアスピリン(100)1T1x, アクトス(30)1T1x 朝食前, アマリール(1)2T1x 朝 食前, ベイスン OD(0.3)2T2x 朝昼食前, エクア錠(50)2T2x, メトグルコ(250)4T2x [LH] 喫煙歴(+), 飲酒歴(-), 偏食なし, 海外渡航歴なし 60 歳まで運送業に従事(重い荷物を持つことが多かった), 有機溶剤への暴露歴なし。 [Neurological Summary] #1. 両側 1~5 趾の異常感覚(他覚的な表在覚・深部覚障害なし) #2. 膝蓋腱反射・アキ レス腱反射消失 #3. 間欠性跛行 Case 2: 68 歳女性 [CC]四肢のしびれ、歩行時のふらつき [PI]1 年半前から左足首以遠のしびれを自覚するようになった。しびれは正座した時のよう な異常感覚で、また感覚も鈍くなった。徐々に歩行が不安定になり、1 年前から歩行困難と なったため杖を使用するようになった。1 カ月前から手指にも同様のしびれ感を認めるよう になり、A 病院神経内科受診したが原因不明。2 週間前から夜間にまっすぐ歩くことができ なくなった。歩行障害が進行したため、B 病院神経内科紹介受診。 [PH]糖尿病(-), 手術歴(-), その他特記すべきものなし。 [Medication]なし [LH]喫煙歴(-), 飲酒歴(-), 専業主婦, 有機溶剤への暴露歴なし。偏食なし。 [FH]類症なし。[PE]一般身体所見に特記すべき異常なし。 [Neurological Summary] #1. 両側固有足筋に限局した筋力低下 #2. 四肢腱反射低下~消失 #3. 下肢>上肢、遠位 優位の異常感覚および感覚鈍麻 #4. 両下肢振動覚・位置覚低下、Romberg 徴候陽性 #5. 歩行障害(wide-based gait, tandem gait 不可) 1
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