劣質原油処理における機器腐食の機構及び対策方法の調

劣質原油処理における機器腐食の機構及び対策方法の調査
(出光興産株式会社) ○鳥羽 和宏、宮本 真二
1.研究開発(調査)の目的
石油精製プラントにとって,安全,安定操業の達成は大きな使命となっている.
しかしながら,近年の処理原油の多様化により,劣質原油を処理した際に想定外
の腐食を引き起こした事例が報告されている.原油中に含まれる腐食性物質とし
ては,硫黄化合物,窒素化合物,塩化物,ナフテン酸などの有機酸が挙げられる.
石油精製プラントの装置の中で常圧蒸留装置は,最も上流に配置されているため,
原油中の腐食性物質の影響を直接受ける.本調査では,原油中の腐食性物質の中
で,硫黄化合物による腐食性に焦点を当てて,調査を進めた.原油中の硫黄化合
物による腐食は,流体温度が230℃を超える環境で,高温硫化物腐食という形で腐
食が進行する.高温硫化物腐食は,常圧蒸留装置や減圧蒸留装置のように流体中
に水素を含まない環境と水素化処理装置のように水素を含む環境で,腐食速度を
予測する線図が異なる.今回は,原油中の硫黄化合物の影響を直接受ける装置と
して常圧蒸留装置を対象とするため,水素を含まない流体における腐食速度予測
線図として,修正版マッコノミー線図が適用される.この線図は,流体中の全硫
黄濃度と温度によって,材料毎の腐食速度が算出されるものである.
高温硫化物腐食は高温流体にて発生するため,腐食開孔により流体が漏洩する
と可燃性流体である熱油が自然着火することによって,大火災を引き起こす可能
性が高い.近年では,米国メジャー系石油会社でも常圧蒸留装置の高温硫化物腐
食によって大火災を引き起こし,大きな問題となった.このように,高温硫化物
腐食は,腐食環境を評価しながら,適切な検査,使用される材質,運転によって,
適切な寿命管理が行われる必要がある.
そういった中で,近年中東産のコンデンセートを処理した際に,修正版マッコ
ノミーで推定される腐食速度を大幅に超える腐食が実装置で発生する事例が散見
されている.また,図1に示したように,これまでの実装置での実績などより,
高温硫化物腐食は常圧蒸留装置主蒸留塔の重質軽油セクションにて著しくなるこ
とが分かっている.そのため,主蒸留塔の重質軽油セクションのインターナルや
重質軽油抜き出し配管では綿密な検査が行われてきた.しかしながら,このコン
デンセートを処理した際には,重質軽油よりも温度が低く,通常高温硫化物腐食
が軽微となる軽油セクションにて,著しい腐食が発生する事例が報告されている.
中東産コンデンセートには多くのメルカプタンを含んでおり,腐食にはメルカプ
タンが大きく影響している可能性があることが,NACE(National Association Co
rrosion Engineers:米国腐食技術者協会)にて発表されている.この発表によると,
メルカプタンを含む中東産コンデンセートの腐食速度は,修正版マッコノミー線
図で評価した腐食速度よりも極めて高くなるということ,腐食速度に及ぼす温度
の影響を実験にて評価した結果,軽油セクションに近い約280℃で腐食速度のピー
クを認めることなどが報告されている.この結果は,近年実装置で発生している
腐食事例を裏付けるものとなっている.また,常圧蒸留装置では耐高温硫化物腐
食材料として,5%Cr鋼を使用すれば腐食が発生する可能性は極めて低いと理解さ
れており,最も高温硫化物腐食が苛酷となる原油加熱炉管に5%Cr鋼を採用してい
るが,腐食の問題が発生したという報告はなされていない.しかしながら,中東
の製油所では,メルカプタンを含む中東産コンデンセートを処理した際に,5%Cr
鋼の加熱炉管にて著しい腐食が発生した事例も報告されている.
常圧蒸留塔
ナフサ
灯油
軽油
(270℃)
原油
360℃
重質軽油
SUS410
(340℃)
5%Cr鋼
1.25%Cr鋼
炭素鋼
重油 (340℃)
:従来からの著しい腐食部位 ⇒検査で管理されている
:近年のメルカプタン含有コンデンセート処理での著しい腐食部位
図1 常圧蒸留装置での高温硫化物腐食発生部位
一方で,近年国内ではカタール系の原油処理比率が増加しており,今後もその
傾向は続く方向であると予想される.このカタール系原油は他の原油よりもメル
カプタンを多く含有しており,高温硫化物腐食にどのような影響を及ぼすのか,
その腐食挙動は明らかにされていない.前述のとおり,高温硫化物腐食は腐食開
孔により熱油が漏洩すると大火災に至る可能性が高いため,保安を確保するため
にも原油中のメルカプタンが腐食に及ぼす影響の有無を把握する必要がある.
そこで,本事業では,処理原油の多様化における安全・安定運転を確保するた
めに,メルカプタンを含む原油の腐食挙動を解明し,適切な材質の選定や検査箇
所・周期の適正化といった防食対策を見出すことを最終目的とする.中東産コン
デンセート処理で報告されているような常圧蒸留装置での腐食挙動が,メルカプ
タンを含む原油を処理した際にも見られるのかどうかを,明らかにする必要があ
る.その中で,今年度の調査は,メルカプタンを含む原油を処理した際の腐食挙
動を予測するための実験・解析手法を確立し,メルカプタン含有原油の特異性を
明らかにして,腐食機構解明の方向性を明確にすることを目的として進めた.
2.研究開発(調査)の内容
メルカプタン量の多いものと少ないものの 2 種類の原油を用いて,
15 段蒸留試験を行い,
軽油を 5 留分,重質軽油を 2 留分分留する.これらの各留分を使用して,以下の分析・測
定を実施する.概要を図2に示す.
(1) 腐食試験及び試験片の腐食生成物(スケール)分析
(2) 留分中の全 S 濃度,メルカプタン濃度の測定
(3) 気液平衡測定により気相・液相中の S 化合物の測定
これら各種測定結果から,全 S 濃度,メルカプタンと腐食速度の関係を原油種毎,留分
毎に確かめる.ある特定の留分において,メルカプタン,あるいは S 化合物が濃縮するの
かどうか,腐食速度が高くなるのかどうかを,2 種類の原油にて評価する.
試験片
腐食実験
(加速*1)
気相部
試験油
試験片の
腐食生成
物解析
試験片
ガラス
LGO①
LGO②
LGO③
LGO④
LGO⑤
HGO①
HGO②
各留分の沸点での
腐食テスト(48H)
留分中のS化合物,R-SH測定
気相液相中S化合物測定
(より連続蒸留に近い評価)
GC-SCD 分析
気液平衡測定
y
x
図2 実験・測定方法の概要
3.研究開発(調査)の結果
3.1
適用原油種の選定と試験油の留出及びS化合物の分析
3.1.1 適用原油種の選定
今回の調査の目的は,メルカプタンを含む原油の腐食性に関する特異性を明らかにする
点である.よって,メルカプタンの量が多い原油 A とメルカプタンの量が少ない原油 B
を対象とした.
また,本調査では高温硫化物腐食の腐食性を評価するものであるため,高温環境で発生
する可能性があるナフテン酸腐食の影響を除外する必要がある.したがって,原油中の酸
性分が極めて少ない原油を選定した.
3.1.2 15 段蒸留試験
3.1.1で述べた 2 種類の原油を用いて 15 段蒸留試験を行い,各種試験に使用する
試験液としての留分を精製した.実際の常圧蒸留塔主蒸留塔内部の各段での S 化合物の濃
縮
縮を完全に模擬
擬するために
には連続蒸留
留装置が必要
要であるが,連続蒸留での
連
の留分を腐食
食試験
や
や分析に使用す
することは現
現実的に極め
めて困難であ
ある.そこで
で,本調査では
は,バッチ蒸
蒸留で
あ
ある 15 段蒸留
留試験装置を
を用いて,限
限りなく細か
かく分画し,更
更に各留分の
の気液平衡測
測定を
実
実施することで,できるだ
だけ実装置の
の各留分での
の挙動を模擬
擬することと
とした.そこで,2
種
種類の原油での軽油留分を
を 5 分画,重
重質軽油留分
分を 2 分画に分留し,合計
計 7 留分を試
試験液
として採取した.
3.1.3 S 化合物の分析
化
析
原油 A,原油
油 B の各留分
分の全 S 濃度
度及びメルカ
カプタン濃度
度の分布を図
図3.1.3.1,
図
図3.1.3.
.2に示す.全 S は,こ
これ以降 S 化合物と表現
化
現し,メルカプ
プタンも含む
む全 S
化
化合物という意
意味で区別す
する.
図3.1.3.1に示し
したように,S 化合物の濃
濃度はメルカ
カプタンを多
多く含む原油
油Aは
原
原油 B よりも高く,重質軽
軽油の 2 留分
分のうち,軽質側の重質留
軽
留分にて S 化
化合物のピー
ークを
認
認めた.一方,
,メルカプタ
タン濃度は,図3.1.3.2に示し
したように原
原油 A の方が
が原油
B よりもメルカ
カプタン濃度
度は著しく高
高く,原油 A の各留分のメルカプタ ン濃度は,軽質留
軽
分
分ほど高くなる傾向である
ることが判明
明した.原油
油 A の方が原
原油 B よりも
もメルカプタ
タン濃
度
度が高いとはい
いえ,オーダ
ダーが 100~2000ppm 程度で
であるのに対
対して,S 化合
合物の分布は
は数%
程
程度であり,メ
メルカプタン
ン濃度と比較
較すると 2 桁ほど高くな
桁
っている.よ
よって,原油
油Aと
原
原油 B の S 化合
合物の差異は
は,
メルカプタ
タンの差異よ
よりも著しく
く大きくなる
ることが分か
かった.
図3.1.3.1
1 各留分の
の S 化合物の
の分布
3.2
図3.1.3.2 各
各留分のメル
ルカプタンの
の分布
高温腐
腐食試験
3.2.1 試験
験条件
(1
1)腐食試験
験1
常圧蒸留
留装置主蒸留塔塔内での各
各留分での腐
腐食環境を推
推定するため
めに,15 段蒸
蒸留試
験の各留分
分の抜き出し温度を試験温
温度として,2 種類の原油における軽
軽油 5 留分,重質
軽油 2 留分
分の 14 留分での試験を行
行った.各試
試験条件を表
表3.2.1 .1,表3.2.
1.2に示
示す.
表3.2.1.1 腐食試験 1 の試験条件(原油 A)
原油A(高R-SH原油)
試験液
LGO1A
LGO2A
LGO3A
LGO4A
LGO5A
HGO1A HGO2A
15段蒸留カット温度(℃)
270-285
285-300
300-320
320-340
340-360
360-380
380-400
280
290
310
330
350
370
390
試験温度(℃)
48
試験時間(時間)
炭素鋼
試験片材料
表3.2.1.2 腐食試験 1 の試験条件(原油 B)
原油B(低R-SH原油)
試験液
LGO1B
LGO2B
LGO3B
LGO4B
LGO5B
HGO1B HGO2B
15段蒸留カット温度(℃)
270-285
285-300
300-320
320-340
340-360
360-380
380-400
280
290
310
330
350
370
390
試験温度(℃)
48
試験時間(時間)
炭素鋼
試験片材料
(2)腐食試験2
腐食試験1では,実際の主蒸留塔塔内における各留分での腐食環境を推定するため,
各留分での抜き出し温度にて試験を実施した.腐食試験2では,メルカプタン濃度,あ
るいは S 化合物濃度が腐食に及ぼす影響を確かめるために,温度を一定にて実施した.
腐食速度は S 化合物の濃度と温度に影響するため,温度が変化すると,S 化合物の影響
が評価できなくなる.したがって,温度を一定にして腐食速度に及ぼす温度の影響を排
除した.今回は,2 種類の原油における軽油 2 留分,重質軽油 1 留分の 6 留分での試験
を行った.各試験条件を表3.2.1.3,表3.2.1.4に示す.
表3.2.1.3 腐食試験 2 の試験条件
表3.2.1.4 腐食試験 2 の試験条件
(原油 A)
原油A(高R-SH原油)
(原油 B)
原油B(低R-SH原油)
試験液
LGO1A
LGO4A
HGO2A
試験液
LGO1B
LGO4B
HGO2B
15段蒸留カット温度(℃)
270-285
320-340
380-400
15段蒸留カット温度(℃)
270-285
320-340
380-400
340
340
340
340
340
340
試験温度(℃)
試験時間(時間)
試験片材料
48
炭素鋼
試験温度(℃)
試験時間(時間)
試験片材料
48
炭素鋼
3.2.2 試験結果
(1)腐食試験1
図3.2.2.1に,腐食速度と S 化合物及び留出温度の関係を示す.常圧蒸留装置
主蒸留塔のどの留分を意味しているかをイメージしやすくするために,主蒸留塔の各部
位と試験に用いた留分の関係を合せたため,各種グラフの方向を変えて表示した.この
結果,腐食速度と留分中の S 化合物の濃度には相関関係が得られた.メルカプタン及び
S 化合物濃度が高い原油 A について,一点 S 化合物と腐食速度の関係が逆転する点が得
られたが,これについては,試験数なども含め,今後の課題となる.
腐食速度(原油A)
腐食速度(原油B)
S化合物(原油A)
S化合物(原油B)
留分温度
軽油
重質軽油
0
1.0
2.0
腐食速度/mm/y
0
200
300
1.0
2.0
温度/℃
S化合物濃度/wt%
図3.2.2.1 腐食試験 1 での油の腐食速度と S
化合物,留分温度の関係
(2)腐食試験2
腐食試験2は温度一定とし,温度の影響を排除した条件で実施することにより,腐食
速度に及ぼすメルカプタンあるいは S 化合物の影響を評価した.
図3.2.2.2に,腐食速度と留分中のメルカプタン濃度との関係を示す.これよ
り,原油 A,原油 B ともに,腐食速度と留分中のメルカプタンには相関関係が得られ
なかった.図3.2.2.3に,腐食速度と留分中の S 化合物濃度との関係を示す.原
油種,留分に関わらず,腐食速度と留分中の S 化合物には良い相関関係が得られた.
以上の結果より,今回使用した原油 A と原油 B での試験結果からは,各留分の腐食
を支配するのは,留分中のメルカプタン濃度ではなくメルカプタン以外の S 化合物であ
ることが判明した.当初,メルカプタン濃度の高い原油 A においても,コンデンセー
ト処理による事例のように軽油留分にて著しい腐食が発生し,腐食速度とメルカプタン
の濃度には相関関係が得られると予想していたが,実際にはメルカプタン濃度よりも S
化合物の影響が大きいことが明らかとなった.よって,今回使用した原油からは,メル
カプタン濃度が高い原油においても,原油ではメルカプタン以外の S 化合物の影響の方
が大きい点が,コンデンセートでの腐食性と異なることが判明した.これについては,
今回はメルカプタンが多い原油として軽質原油を採用したが,今後は重質原油も含む
様々な原油種でデータを蓄積し,検証する必要がある.一方,原油種,留分に関わらず,
S 化合物と腐食速度の間に良い相関関係が得られたことは,予想外の結果であり,温度
や材質の影響も併せてデータを蓄積することができれば,製油所の設備管理にとって有
益な情報となる.
腐食試験 2 での腐食速
速度と
図3.2.2.2 腐食試験 2 での腐食速
速度と
図3.2.2.3
タン濃度の関
関係(試験温
温度:340℃)
)
留分中のメルカプタ
の S 化合物濃
濃度の関係(試験温度:340℃)
留分中の
3.3 スケール
ル分析結果
(
(1)X 線回折
折によるスケ
ケールの構造
造解析
各試験液
液での液相及
及び気相にお
おける腐食試
試験後の試験片に形成され
れたスケール
ルの X
線回折の結
結果,メルカ
カプタン濃度
度が高い留分
分,低い留分に関わらず,
,いずれの条
条件に
おいても,
,スケールは
は安定な硫化
化鉄である Trroilite(FeS),Pyrrhotite(Fee7S8)で構成さ
されて
いた.これ
れらは,通常
常の高温硫化
化物腐食にお
おいて生成される腐食生成
成物であり,メル
カプタン濃
濃度の差異に
によるスケー
ール組成の差
差異は認められなかった.
.
(
(2)断面 EP
PMA による元素分析
各試験液
液での液相及
及び気相にお
おける腐食試
試験後の試験
験片に形成さ
されたスケー
ールの
断面 EPM
MA マッピングの結果,ス
スケールは二
二層からなり,典型的な高
高温硫化物腐
腐食に
見られる形
形態を呈して
ていることが
が確認された
た.この結果においても,
,メルカプタ
タン濃
度が高い LGO1A とメ
メルカプタン
ン濃度が低い
い LGO1B の間
間において S の分布に差
差異は
見られなか
かった.
以上の X 線回折,断
断面 EPMA の
の結果より,腐食生成物は留分中のメ
メルカプタン
ン濃度
には関係な
なく,硫化鉄
鉄が主体の組
組成が層状で
で構成され,典
典型的な高温
温硫化物腐食
食の形
態を呈して
ていた.腐食
食生成物の解
解析結果から
らは,メルカプタン特有の
の腐食機構が
が存在
するという結論には至
至らず,高温
温にて H2S に分解し,通
に
常の高温硫化
化物腐食の形
形態で
腐食が進行
行することが
が示唆された
た.
3.4
硫黄化
化合物の気液
液平衡
3.4.1 気液
液平衡測定の
の目的
常圧蒸留塔
塔内での S による腐食を
に
を考える場合
合,蒸留塔内で
での S 成分の
の挙動(塔内
内濃度
分
分布)を知る
る必要がある
る.蒸留塔内
内での S 成分
分の分布を知るためにはプ
プロセスシミ
ミュレ
ー
ータによる蒸
蒸留計算が必
必要である.プロセスシミュレータに
には各 S 分の
の気液平衡関
関係に
関
関するパラメ
メータ(蒸気
気圧および活
活量係数)を入力する必要
要がある.そ
そのため,こ
ここで
は S 化合物の
の気液平衡を
を測定した.
3.4.2 気液
液平衡の基礎
礎
(1
1)気液平衡
衡の基礎式
相平衡の基
基礎式は式(1))で表される ように気液両相での各成
成分のフガシ
シチーが等し
しいこ
と
とである.

L
i
f
 f

V
i
(1)
(
低圧気液平
平衡では式(1)は式(2)で近
近似される.
P
Pyi  pi   i xi pis
(2)
(
s
気相分圧, pi は成分 i のその温度に
ここで, P は全圧, pi は成分 i の気
における飽和
和
蒸
蒸気圧, xi と yi は成分 i の液相と気
気相のモル分率,  i は活量係数である
る.気液平衡
衡
を
を求めるとい
いうことは,任意の xi に
に対する, yi や pi を求めることであ り,そのため
め
に
には予め pi と  i を与える
る必要がある
る.ここで, pi は温度の
のみに,  i は
は温度と液相
相
s
s
組
組成 xi に依存
存する.
ただし,今回対象となる S 化合物は
は濃度が低い
い(0.1mol%以
以下)ため,  i を無限希
希
釈
釈活量係数の
のみに限定し
して,  i だけ
けが重要とな
なる.

(2
2)S 化合物の取り扱い
図3.4.2.
2 1は後述
述する 15 段蒸
蒸留で分留し
した留分の 1 つを,S のみ
みを検出する
る SCD
( 化 学 発 光 硫 黄 検 出 器 : Sulfur Chemilumin
nescence Dettector ) を 備 え た GC ( Gas
C
Chromatograpph)で分析し
した結果の一
一例である.図から明らかなように留
留分中には無
無数に
S 化合物が含
含まれるため,これらを1つ1つ区別
別して成分と
として扱うの
のは困難であ
ある.
そこで,ここでは GC の RT(Retenntion Time)でグルーピングして,ラ
ランピング成
成分と
し
して扱うこと
ととする.例
例えば,RT が 10min から
ら 10.5min の間に含まれ
の
る全ての成分
分を 1
つ
つの成分(成
成分[10.25miin]と呼ぶ) として扱う.結果的に最小の[15.225min]から最
最大の
[331.75min]まで
での 54 成分
分となった.
図3.4
4.2.1 S 化合物の分析例(原油
油 A_LGO1A
A)
RT と蒸気圧
圧の関係は厳
厳密には対象
象物質と GC カラムの液相
相との相互作
作用が類似で
である
必
必要がある.その確認の
のために,試
試薬として入手できた表3.4.2. 1の物質に
につい
て GC 分析を
を行った.結
結果を図3.4.2.2に示すが,S
S 化合物と nn-パラフィン
ンでは
R
RT と飽和蒸
蒸気圧の関係に大差はない
いことからこ
ここでは同じ
じと仮定する
る【仮定①】
.その
た
ため,図3.4.2.1で得られた S 化合物に
にランピング成
成分に関して
て飽和蒸気圧
圧を決
定
定できる.
表3.4
4.2.1 試薬の RT
試薬品
組成式
式
1-オ
オクタンチオール
ル
C8H18S
S
1-ド
ドデカンチオール
ル
C12H26S
1-オク
クタデカンチオール
C18H38S
1-ド
ドコサンチオール
ル
C22H46S
2-ナ
ナフタレンチオール
ル
C10H8S
S
エチル
ルメチルスルフィド
C3H8S
S
n-オ
オクチルスルフィド
C16H34S
ジフ
フェニルスルフィド
ド
C12H10S
S2
ジシクロヘキシルジスルフ
フィド C12H22S
S2
ジデ
デシルジスルフィド
ド
C20H42S
S2
チオフェン
C4H4S
S
ベ
ベンゾチオフェン
C8H6S
S
ジベ
ベンゾチオフェン
C12H8S
S
3. 4.3
MW
146.29
202.4
286.56
342.67
160.24
76.16
258.51
186.27
230.43
346.68
84.14
134.2
184.26
RT(min)
6.7384
13.862
22.21
26.614
13.075
0.9495
18.938
14.249
17.904
26.16
1.1267
7.6785
16.65
図3.4.2.2
2 n パラフ
フィンと
合物の比較 (200℃)
S 化合
気 液平衡測定
図3.4.3.1に示
示した気液平
平衡測定装置を用いて,各
各留分の液相
相及び気相中
中の S
化
化合物の測定
定を行い,蒸
蒸気圧及び活
活量係数を求めた.図3.
.4.3.2
2に算出した
た活量
係
係数を示す.本実験にお
おける活量係数の予想図を図3.4.3.3に示
示す.
SCD分析(S用)結果
オーダー
ppmオ
温度計
x
ヘリウム
y
セル
空気恒温槽
槽
計
流量計
トラップ
各ピーク K=y/x
図3.4.3
3.2 活量
量係数測定結
結果
特徴:短時間
S化合物の物
物性を逆算
図3.4.3.1 気液
液平衡測定装
装置
図3.4.3
図
3.3 活量
量係数予想図
S 成分と炭化水素類が理想溶液から大きく偏倚しているとは考えにくいため,活量
係数も 1 に近いと予想される.そのため,図3.4.3.2に示した本結果はオーダ
ーとしては妥当と考えられる.しかしながら,同じ成分(RT が同じ)でも RUN ごと
に大きく結果が異なる点(測定温度が異なるため厳密には一致しなくてよい)と,S
種による違いが大きい点(各 RUN での変化が予想以上に大きいこと)
,2 つの点は予
想外であり,解析時の前提条件の設定方法が課題となる.
4.まとめ
4.1 腐食物質の特定
今回試験した原油では,高メルカプタン原油であってもメルカプタンが腐食速度を支配
する傾向は認められず,メルカプタン以外の S 化合物の腐食への影響が大きい可能性が示
唆された。コンデンセートと原油では腐食挙動が異なる可能性があり、様々な原油および
コンデンセートを用いて腐食挙動を詳しく調べることが必要である.また、S 化合物の分
解生成物である H2S が腐食反応に関わる可能性があり,加熱による S 化合物の H2S への
分解しやすさの検討も望まれる.
4.2 腐食原因物質の塔内分布予測
常圧蒸留装置主蒸留塔での連続蒸留での気液平衡にできるだけ近い環境を模擬するた
めに,15 段蒸留試験にて,軽油 5 留分,重質軽油 2 留分と限りなく細かく分留し,更に各
留分の気液平衡測定を行い,気相・液相での S 化合物の測定を行った.今回使用した装置
は,気液平衡の原理に基づき,成分系に適用されるものであるが,本調査により留分系に
おいて測定できることを見出した.本手法によって各留分での S 化合物の濃縮を推定する
手法を見出した.
活量係数の算出においては,成分系とは異なるため解析を行う際にいくつかの仮定から
前提条件を設定したが,その前提条件の設定方法に留分系を扱う際の難しさがあり,技術
的な課題を見出した.これは,今後の検討課題となる.
4.3 腐食速度の予測
腐食試験法を確立した.メルカプタン含有量の異なる 2 原油の分留サンプルでの実験に
より,S 化合物と腐食速度との相関を見出した.今回はメルカプタンの高い原油と低い原
油の 2 種類のみの比較を行ったが,今回確立した手法で異なる原油での試験を今後行い,
同様の挙動を示すかどうかを検討する必要がある.