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自由論題6
「東南アジアの金融問題」
報告2
奥田英信(一橋大学)
「カンボジア企業の資本構成:ドル化経済における資金調達行動」
本稿では、カンボジア国家銀行(National Bank of Cambodia)と国際協力機構(JICA)
の共同調査によるカンボジア企業のアンケート調査を利用して、ドル化した新興経済にお
ける、企業の外貨建て資金調達の特徴と決定要因を明らかにする。本稿の意義は、カンボ
ジア企業のドル建資金調達を体系的に分析する最初の試みであるというところに有る。同
時に、カンボジアのドル化には、新興市場経済のなかでも特に金融制度が著しく未整備で
あり、金融包摂は都市部においても極めて不十分であるということや、マクロ経済情勢は
好調であるにもかかわらずドル化が進行しつづけ、その背景としてドル利用に関する強い
ネットワーク外部性の存在が指摘されていること、などの特徴があり、これまでの先行研
究との背景の異なる事例である点にも探究すべき意義がある。
本研究では、サンプル・セレクションモデルを用いて、企業の銀行借入比率の決定要因の
推計作業を行った。推計結果の主要なものは次の通りである。第1に、ドル化したカンボジ
ア経済ではドルによる収入の割合が大きい企業ほど資金調達手段の中で銀行借入を行って
いる。第2に、為替リスクの認知度に応じて銀行借り入れの行動には違いが見られた。特に、
収入と支出の通貨の構成に乖離があり為替リスクが潜在的に高い企業では、リスク認知度
の高い企業ほど銀行借入を避けている。第3に収益性の高い企業ではドル建収入比率が高い
ほど、銀行借入を行っている。第4に、担保を提供できる企業ほど銀行借入を行っている。
これらの事実は、ドル化経済でも、非ドル化経済と同様に担保力が企業の資金調達に大
きな影響力をもっていること、またドル化経済では企業金融に関して追加的制約が存在す
ることを示唆するものである。従って、高い経済成長を続けてはいるものの著しくドル化
したカンボジア経済にとって、これからの健全な成長を維持するためには何らかの政策対
応が必要だと考えられる。