(第 5 回フィンテック基礎研究) 移動平均クロスオーバー

(第 5 回フィンテック基礎研究)
移動平均クロスオーバーによるシミュレーション 1
■■■ 概 略 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
〇前回の内容と今回のテーマ
〇売買シミュレーションの設定(前提条件)
〇シミュレーション結果の分析
〇今回レポートの総括
〇次回案内
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◆◆◆ 前回の内容と今回のテーマ ◆◆◆
前回のレポートでは「移動平均を使った売買の例」という事について述べてきました
が、今回は 2 本の移動平均を使った売買について具体的な事例を紹介し、過去のデータで
シミュレーションを行ってみます。
◆◆◆ 売買シミュレーションの設定(前提条件) ◆◆◆
まずは今回の売買シミュレーションを行う上での決め事について下記に記載いたしまし
た。
1.使用するデータ:日経平均先物期近 10 年分日足終値
2.移動平均周期:5 日・26 日
3.売買ルール:クロスオーバーでの途転売買
1 の使用するデータですが、2006 年~2015 年の日経平均先物の日足終値データを使用し
ます。期近のデータをつなげたため、現実には限月を次に移行するロールオーバーが必要
になってきますが、便宜上この部分は無視して処理いたします。
2 の移動平均周期では短期として 5 日、中期として 26 日を採用し、5 日線が 26 日線を
上切った際を「ゴールデンクロス」
、下切った際を「デッドクロス」と定義します。
3 のクロスオーバーによる途転(ドテン)売買ですが、ゴールデンクロスになった瞬間
に買いポジション
をとり、その後デ
ッドクロスになっ
た瞬間に先ほどの
買いポジションを
決済するのと同時
に新しく売りポジ
ションをとるとい
うオペレーション
を繰り返します。
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◆◆◆ シミュレーション結果の分析 ◆◆◆
まずは累積損益幅の推移後ラフを見てみましょう。X 軸は 10 年間の日付で、Y 軸が累
積の損益幅となります。何となく右肩上がりで利益が上がっているようにも見えますが、
途中の落ち込みも激しかったりします。
次にこの売買ロジックを分析してみましょう。
一般的な分析項目
総日数
2,452
売買回数
118
勝ち回数
44
負け回数
73
回数勝率
37.29
総損益幅
6,170
1回当たりの平均損益幅
52.29
1回当たりの最大利益
5,080
1回当たりの最大損失
-1,100
最大ドローダウン
8,720
左の一覧表はこの売買ロジックでシミュレ
日
回
回
回
%
円
円
円
円
円
ーションした結果の一般的な分析内容を集計
したものです。まず統計的に判断すれば、
「売
買回数」が少なすぎる気がします。10 年間で
118 回の売買回数なので、平均すると 1 月に 1
回という事になります。売買ロジックの結果
を分析するにあたりサンプル数が小さければ
その分析精度も限界が出てきます。
次に「回数勝率」について考えてみましょ
う。この項目には敢えて「回数」という言葉を付けました。単に「勝率」という言葉を使
えば、この数値が良ければ良い売買ロジックだと勘違いしてしまうことを恐れたためで
す。いくら勝率が高くても 1 回とマイナスで多くの損失を出してしまうようなものであれ
ば、運用に適したロジックだとは言えません。逆に勝率が低くても素晴らしいロジックが
あるはずです。という事で、回数勝率はロジックを評価する上であまり重要には見ず、あ
くまでも参考数値としてお考えいただいた方が良いのではないでしょうか?
次に「総損益幅」と「最大ドローダウン」を見てください。
「総損益幅」は毎回の売買
の損益を積み重ねたもので、「最大ドローダウン」は途中のパフォーマンスの落ち込みが
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どの程度あったかを表しています。もうお分かりかもしれませんが、このドローダウンを
考えた場合、今まで積み上げた収益をすべて飛ばしてしまうほど大きな数値になっていま
す。
今までの評価を見て、この売買ロジックについてどのような感想をお持ちでしょうか?
おそらくあまり良い印象はお持ちでないと思います。人によっては移動平均周期を別のも
のに変えてよいパターンを探そうとする方もいるかもしれません。このレポートの趣旨は
あくまでも「フィンテック基礎研究」ですから、ここで立ち止まって少しだけ深く分析を
してみましょう。
左のグラフは毎回決済した時の損
益幅を度数分布表にまとめ、ヒスト
グラムとして表示したものです。ま
た、このデータの平均・最頻値・中
央値もまとめてみました。
平均
最頻値
中央値
52.74
0以上300未満
-150
ヒストグラムで見ると全体的に 0
近辺の度数が多く、離れるにしたがって少なくなっています。ただ右に大きく長くなって
いるのもわかります。左右が均等でないヒストグラムを分析する場合、平均値はあまり使
いません。この場合は中央値を使うのが適当だと考えます。中央値とは一番小さいほうか
ら数えたのと大きいほうから数えたのと同じところです。売買回数が 118 回なので、59 番
目のデータという事になるでしょうか。この場合の中央値は「-150」となっています。
次にヒストグラムの最頻値は 0 以上 300 未満の階級でした。この階級の度数は 32 で、
全体の約 27%に当たります。
これらの数値から判断できることは 1 回の損益値幅が 0 近辺に偏っており、中央値がマ
イナス 150 円なので、マイナス 150 円を超える売買の対応を考えればパフォーマンス改善
する可能性が見えてきました。-150 円近辺にロスカットを付けてみるのも良いのではない
かと考えられます。
では次のグラフをご覧ください。このグラフは売買においてそのポジションを保有した
日数を度数分布表に集計し、ヒストグラムにしたものです。
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平均
最頻値
中央値
21.77
5以上10未満
19
少しでこぼこしたところが出るの
は、おそらくサンプルが少ないこと
が考えられますが、傾向は読み取れ
ます。ポジションの保有期間が 10
日前後のものが頻度としては一番多
いようです。
売買当たりの損益幅を分析し、その次にポジションの保有期間を分析してみました。で
は当然次に考えるべきことは、ポジション保有期間とその時の損益幅の関係です。この分
析で移動平均のクロスオーバーによる売買ロジックの見えないところが見えてきます。
左の散布図は X 軸にポジションの保有
期間、Y 軸に損益幅を表しています。
サンプル数が少ないにしても、一目で
傾向がわかります。ポジションの保有
期間が長いほど利益につながり、保有
期間が短いほど損失が出る傾向があり
ます。確かにポジションの保有期間は
2 つの移動平均数値に依存しています
が、クロスオーバーによる売買なの
で、クロスしそうであれば早いうちに
決済した方がパフォーマンスの向上につながりそうだと予測できます。(2 種類の移動平均
数値の乖離の変化は参考になると考えられます。)
◆◆◆ 今回レポートの総括 ◆◆◆
今回のレポートでは任意の周期を使った 2 つの移動平均を使ってクロスオーバーによる
売買シミュレーションを行ってみました。シミュレーション結果を判断する場合、損益推
移グラフを見ることや、最終損益がどうなっているかを確認することは大切なことだと思
います。ただこの時点で良し悪しの判断を終了してしまえば、売買ロジックの本質は見え
てきません。今回ご紹介したように様々な切り口から分析をしてみれば、売買ロジックの
本質ばかりでなく、改善の切り口も見えてくるのではないでしょうか。
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◆◆◆ 次回案内 ◆◆◆
次回は移動平均のクロスオーバーによる売買シミュレーションについて、さらに深く分
析し、最適化の概念についても触れていきたいと思います。
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