日本のベンチャー企業の現状から考えるベンチャー支援 2年 清水 目次 1

日本のベンチャー企業の現状から考えるベンチャー支援
2年 清水
目次
1
はじめに
2
ベンチャー企業の役割と意義
3
日本のベンチャー企業の現状
4
日本のベンチャー企業の課題
5
現状から考える支援策
6
おわりに
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はじめに
社会のイノベーションを推進する主体はベンチャー企業であり、また、大企業
の新規事業部門であるといわれて久しく、その重要性について疑いはないが、
その活躍と社会全体への貢献度合いをみると限定的にとどまっている。現在日
本においてベンチャー企業を創業して、新たなチャレンジをしようとする起業
家は少なくなっているように感じる。ではなぜそのような起業家が減ってきて
いるのだろうか。そこでベンチャー企業の現状を考察し、それに対する支援策
を示していこうと思う。
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ベンチャー企業の役割と意義
日本でベンチャー企業という言葉が使われるようになったのは、1970年代
に入ってからのことである。ベンチャー・ビジネスという概念を紹介し普及さ
せた清成他がベンチャー企業を定義するところによると「革新的で知識集約的
な中小企業であり、その特徴は、創造性、ソフトにあり、研究開発集約的、シ
ステム開発集約的で、ハイリスクなビジネスである」としている。 1そのような
ベンチャー企業が果たす社会的役割は大きく分けて二つある。まず第一にイノ
ベーションの創出である。新しい技術・新しいビジネスモデルを生み出すベン
チャー企業は、各種のイノベーションによって新しいマーケットを創出するこ
とで、経済全体の成長・活性化にも大きく寄与する。イノベーションを起こす
企業は、既存の大企業よりも、むしろベンチャー企業である。下図は2014
年にBCGによる革新的企業調査の結果である。この表に載っている企業の約半
分は1970年代以降に設立された若いベンチャー企業である(アップル、グー
グル、アマゾン等)。
1
清成忠男『経済活力の源泉』東洋経済新報社
1984年
10頁
出所:BCG, The Most Innovative Companies 2014, p. 8.
第二に雇用の創出がある。ベンチャー企業は、雇用の創出の源としても重要で
ある。ベンチャー企業によって新技術・新商法・新商慣習などが始まることに
よって、参入障壁や規制などによって守られ構造改革が進まない大企業中心の
経済において経済再生への刺激になる。これが雇用の流動を生み、雇用や就業
機会の拡大を進めるのである。日本の新規雇用の大半は、新たに開業された事
業所で作り出されている。
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日本のベンチャー企業の現状
先ほどの BCG による革新的企業調査の結果を見ても分かる通り、日本は、ソ
フトバンクを除いて、創業から60年以上経った加工組み立て型産業のトヨタ、
ソニー、日立の3社がランクインしているに過ぎない。特に IT やサービスとい
った第三次産業、知識産業はソフトバンクだけで、それに続く会社はない。工
業化社会から知識社会へ、あるいはハード産業からソフト産業へと、産業構造
の転換は1980年頃から指摘されていたが、日本では既存の大企業系列の枠
内でこうした転換が行われ、独立企業としてそれに取り組む動きが鈍かった。
特に、転換期にあって果敢にリスクにチャレンジし、その代わりに急成長を遂
げたベンチャー企業は、日本から出てこなかった。それが結果として、日本発
のグローバル・イノベーションが出てこなかったことにもつながる。ではなぜ
ベンチャー企業を立ち上げようとする起業家が少ないのか。そこにはベンチャ
ー企業が抱えている課題が存在する。
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日本のベンチャー企業の課題
ベンチャー企業が抱える大きな問題として資金の調達が上手くいっていない
ことが挙げられる。ベンチャー企業はその成長段階において資金調達の方法は
異なるが、創業時に必要となるのが、自己資金、そしてエンジェル投資家によ
る投資である。自己資金は起業家や配偶者、親族、知人からの借入金や出資金
である。創業段階においては、金融機関などと比較するとリターンに関する要
求が厳しくない自己資金をできるだけ多く確保することが求められる。しかし
これは個人としての問題となるので今回は置いておく。問題となるのはエンジ
ェル投資家による投資に関してである。
「エンジェル投資家とは創業間もない企
業に対し資金を供給する富裕な個人のことである。米国のシリコンバレーなど
では、成功した起業家がエンジェル投資家となって次世代の起業家に投資する
仕組みが形成されている。エンジェル投資家が投資したベンチャー企業がその
後急成長し、半導体産業やIT産業を形成した。日本におけるエンジェル投資
家の状況を見ると、2008 年度のエンジェル投資家の数は約 1 万人であり、ア
メリカの約 23 万人のわずか 4%程度である。またエンジェル投資家による投資
案件 1 件あたりの年間の平均投資額は日本が 100~300 万円とアメリカの同
5000 万円程度の 2~6%に過ぎない。一般的に、事業化段階のベンチャー企業
は 100~300 万円では不十分であり、数千万円の資金が必要である。日本のエ
ンジェル投資家の年間投資総額を見ると、200 億円とアメリカのエンジェル投
資家の同 2.5 兆円のわずか 0.8%程度に留まっている。
」2
続いて事業化、成長初期段階に必要となるのがベンチャーキャピタルによる
投資である。ベンチャーキャピタルとは、
「設立直後ないし成長初期の企業への
投資活動、または、そのような投資を行う会社である。(その投資には成長後期
や成熟期の未公開企業への投資活動も広義のベンチャーキャピタル投資に含ま
れる)」3である。このベンチャーキャピタルの日本の規模はとても小さい。日本
の 2008 年のベンチャーキャピタルの投資残高は、アメリカが約 18 兆円である
のに対し 1 兆 400 億円と大きな格差がある。また、年間投資額においても日本
が 1933 億円であるのに対しアメリカは約 2,5 兆円とここでも大きな差がある。
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/capital-mkt/12030201capital-mkt.pdf(p.
3)
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高橋文郎『日本のベンチャーキャピタルの現状と課題ー日米の比較を通して』
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現状から考える支援策
上記の現状からエンジェルやベンチャーキャピタルなどの直接金融の仕組み
が不十分で、成長初期段階での資金が調達しにくいことが分かる。それらの現
状を解決するにはどのような支援策が考えられるであろうか。
まずエンジェル投資家の問題についてである。エンジェル投資家の投資額や
件数を増大させるためには、まずエンジェル投資家が投資しやすい制度を整備
するべきである。現在日本にはエンジェル税制と呼ばれるものがある。エンジ
ェル税制とは、ベンチャー企業による個人投資家からの資金調達をサポートす
るために、1997 年に創設された個人投資家への税制優遇措置である。設立 10
年未満のベンチャー企業が対象要件を満たす場合、経済産業局が確認書を交付
することにより、当該企業に投資する個人投資家が税制優遇措置の対象となる。
さらに、2008 年度の税制改正において、エンジェル税制に「所得控除制度」が
導入される等の改正が行われることとなった。改正により、これまでの投資時
点の優遇措置である、投資額他の株式譲渡益から控除するという制度に加え、
設立 3 年未満のベンチャー企業への投資については、投資額をその年の所得金
額から 1000 万円を限度として直接控除できるようになった。この改正によりエ
ンジェル税制を活用して実際に投資を受けた企業数は、2007 年度までは年間 20
社前後推移してきたが、制度改正の影響を受けて、2008 年度は 69 社、2009 年
度は 44 社と急増している。4仮に 1 社当たり平均 10 人のエンジェルから調達し
たとして、2008 年度には約 700 人のエンジェルが生まれたことになる。しかし
課題でも述べたようにアメリカのエンジェルの状況と比べると、非常に乏しい。
アメリカのビジネスエンジェルが 10 万人として、日本ではその半分の 5 万人で
もエンジェルとなってベンチャー企業支援の視野となることが強く望まれる。
アメリカのビジネスエンジェルの平均像は、決して大きな資産家ではない。日
本でもビジネスエンジェルの視野を広げて、通常の会社員でも投資できる体制
にするためにも、このエンジェル税制の更なる拡充が必要である。
続いてベンチャーキャピタルの問題についてである。ベンチャーキャピタル
の投資額や投資件数を増大させるためには、まずベンチャーキャピタル自体の
投資資金を増やすことが必要である。そこで考えられる支援策は政府や銀行に
よる資金援助である。現在、経済産業省を中心に様々なベンチャー振興策が計
画、実施され、ベンチャー・キャピタルのファンドを整備するための法律を作
ったり、国が予算を付けて投資ファンドに出資するなどの措置がとられるよう
4
長谷川博和 『ベンチャーマネジメント
年 209頁
企業創造入門』日本経済新聞出版社
2010
になった。銀行によるベンチャーキャピタルへの投資はまだまだ確立されてい
ない。まずは両者の歩み寄りの姿勢が重要であると考える。
6
おわりに
現在日本の開業率は低迷している。そこにはここまで見てきたように資金調達
の問題が大きな問題として存在する。エンジェル投資家による投資額、投資件
数が少ないことや、ベンチャーキャピタルによる投資額、投資件数が少ないこ
となど問題は山積みである。そのような問題に対応するために日本の政府や地
方自治体、財界がベンチャーの重要性を十分に認識し、ベンチャー企業を支援・
育成するための制度や施策を整え、民間のベンチャーキャピタルなども含めて、
資金面での支援策について深く考えていくべきだと考える。
参考文献
清成忠男『経済活力の源泉』東洋経済新報社 1984 年
高橋文郎(2006)
「日本のベンチャーキャピタルの現状と課題ー日米の比較を通
して」
(http://www.rieti.go.jp/en/events/06022701/pdf/1-2_takahashi_presen_j.pdf)
長谷川博和『ベンチャーマネジメント 企業創造入門』日本経済新聞出版社
2010 年
BCG, The Most Innovative Companies 2014.
http://www.dir.co.jp/ (大和総研)
http://www.rieti.go.jp/ (経済産業研究所)