マイクロ波加熱を利用する低級炭化水素の直接分解反応

【石油学会第 59 回年会(第 65 回研究発表会)注目発表概要】
講演番号:B03(講演時間 10:00~10:20)
タイトル:マイクロ波加熱を利用する低級炭化水素の直接分解反応
みやこし あきひこ
研究代表者所属:旭川工業高等専門学校(旭川高専)・物質化学工学科・教授・ 宮越 昭彦
いしまる
ひろや
研究講演者(発表者)
:同校 応用化学専攻 1 年・石丸 裕也(発表者は 石丸・宮越ほか, 計 3 名)
【本研究の概要】
本研究はマイクロ波加熱装置と触媒を組み合わせ
て,メタン等の低級炭化水素を分解し,高純度水素
と機能性炭素を製造する反応(CH4 →2H2+ C)を効
率的に行うプロセスや触媒を開発するものです.
本研究の特徴は,
「高純度水素」と「機能性炭素」
を同時生産することであり,いずれも世界的に解決
が叫ばれている環境・エネルギー問題に直接貢献で
きる技術になります.
「水素製造」の観点では,全く CO2 を排出せずに
高純度な水素が製造できます.なお,水素をエネル
ギー源とする燃料電池の市場規模は 2025 年に世界
で 5 兆円規模になると試算(政府)され我国も開発
が急務となっています.また,昨年の COP21 では温
室効果ガス排出規制の動きが一段と厳しくなる見込
みです。本研究が実用化されると CO2 の他に,より
温室効果が高いメタンに関しても効果的に環境・エ
ネルギー対策を講じることができます.具体的内容
を「水素製造に関して」の項に記述しています.
「機能性炭素」は,カーボンナノチューブやグラ
フェン等でさまざまな炭素材料の開発が世界的に取
り組まれています。炭素市場は水素市場同様相当な
規模と推算されます.本研究で得られる炭素は,触
媒原料に含まれるニッケル(Ni)とメタンにより分
解した炭素が複合した金属-炭素複合体であり,
我々は Ni の周辺に球状炭素(フラーレン)が幾重に
も取り囲むタマネギ様の形状から「Ni 包含カーボン
ナノオニオン」と命名しています.このような金属
-炭素複合体の量産技術はまだ実用化されていませ
ん。そして、この Ni 包含カーボンナノオニオン自体
にも従来の炭素材に無かった新たな機能が見出され
ており,新しい素材市場の開拓が期待できます.
別紙1(パワーポイント資料)に,本研究が社会
にどのように貢献できるかを表しました.広く得ら
れるメタンや低級炭化水素の使途,再生可能エネル
ギーで得た余剰電力の利用,そして得られた水素や
炭素材をどのような分野に活用できるかをイメージ
してまとめました.これらの成果が形となれば,電
波を利用した新素材作成の学術的研究や実用化研究
が進展し,新産業が興る可能性があります.
【水素製造に関して】
現在の水素製造の主力である「水蒸気改質法」は,
CH4+H2O→3H2+CO(合成ガス化反応)と CO+H2O
→H2+CO(CO
シフト反応)の 2 段階から成ります.
2
一方,メタンの直接分解反応は,CH4→2H2+C で表
され、原理的に CO2 は生成しません.
従来の触媒研究においては,メタン直接分解は実
現できないとされてきました.その理由は使用され
る触媒がメタン分解時に発生する炭素成分で被毒
(触媒表面が炭素成分にカバーされてしまう現象)
されるために,分解性能や耐久性が保障できないか
らです.本研究でそれを可能にした理由が「マイク
ロ波加熱の特殊性」にあります.マイクロ波は電波
の性質により,吸収され易い物質と吸収されにくい
物質に分けられます.本研究の触媒には,マイクロ
波特性を考慮して,高いメタン分解活性と触媒の被
毒現象を引き起こさないよう設計が施されています.
(現在も研究展開中)これらメタンの直接分解に関
して,マイクロ波加熱で触媒被毒現象が避けられる
ことを初めて見出し,それに応じて触媒開発した点
が,最大の成果になると考えております.
【機能性炭素製造に関して】
別紙2(パワーポイント資料)では,本研究で得
られるメタン分解炭素(Ni 包含カーボンナノオニオ
ン)の透過型電子顕微鏡写真(TEM 写真像)と応用
が期待される内容を挙げております.
Ni-カーボンナノオニオンは電気伝導性に優れて
おり,電極反応の酸化還元応答特性として,現在の
主力である,白金/カーボン系電極に匹敵するデー
タが一部で得られています.これが実現できれば,
燃料電池分野で課題となっている白金系電極の代替
素材(安価な炭素電極材)として応用できます.
もう一つの期待できる活用法が、未だ世界で実用
化されていない金属-炭素による「効率的水素貯蔵
体」の開発です.イメージ図では,1 つの球状炭素
層の水素吸着イメージで表現しています.実際には
1つの構造体について,100 層~500 層のフラーレン
様炭素が重なり,さらに中心に水素吸蔵体があるた
め,金属の水素吸蔵機能と多層炭素体の水素収容機
能を組み合わせた大容量水素貯蔵体が開発できると
考えています.現在,水素貯蔵性能や炭素体の生成
法について検証中です.今回の報告では,エチレン
やプロパン(LP ガス)原料についても発表します.
なお,本内容は 5 月 23 日(月)から開催される石
油学会第 59 回年会において発表します.