名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 383∼ 398頁 (2014) 児童養護施設 における施設内暴力 に関す る研 究 一子どもから職員への暴力の背景と対応過程に視点をおいて一 ヽ И∫ 肋力 θ ηυ グ θ 力η ♂ ヵηし み グ し かc覺争力θ 盟♂ ― Fο ♂ ク∫ ブ ナ 斜奮ο ο ルη♂ ♂ 懸 ο″♭′σ 額 ク″彦 ′″″ず ″″ ο″ ″婢♂ デ″♂ク′ 激 吉村 美 由紀 zル カ r。 ・ νο ″ ″♂ ′ ― ′♂ カブ 〃ケ ο蒻♂肋ゲ 脇 も ル″ク脇 (人 間発達学部) 1.は じめに 児童養護施設 (以 下、施設 )等 における暴力 ・虐待等 の予防 に関 して、2008年 (平 成 20年 )の 児童福祉法改正 にて「被措置児童等虐待 防止」 に関す る規 定が設 け られた。 こ の法改正では、社会的養護の もとで起 きる虐待 の定義や発見時 の通告義務等が明記 され、 被措置児童 の権利擁護 に向けた前進 と言 える。 しか し、全 国社会福祉協議会調査 (2009) にお い て、児童養護施設内で生 じてい る暴力の発生過程 では、子 ども同士 (「 子 ども間」)、 子 どもと職貝 (子 どもと職員間)、 職員同士 な ど多様な影響があ ることが指摘 されてお り、 関係性や組織 の全体構造 をとらえる視点の必要性が報告 されて い る。単純 な個人的要 因の みに起 因す るのではな く、要因が複雑 に関連 し合 い、対応のあ り方 も職 員一 人の意識改善 や努力だけでは困難 な場合が多 いことが指摘 されてい る。 筆者 は 2010年 に全 国の施設 にア ンケ ー ト調査 を実施 したが、その結果 では「子 ども間」 と「子 どもと職員間」 にお いて、暴力的な行為が施設の 日常生活で生 じやす いこ とが示 さ れた。 このことは、全 国の どの よ うな施設 で も起 こ りうる可 能性 の高 さが よみ とれ、子 ど もとの対応 を熱心 に善良な思 いで行 っている施設であ つて も、防 ぐことが 非常 に困難 な現 状 もある ことが考 え られた。 そ こで、筆者 は 2012年 に実施 した全 国 の施設調査 にお い て、前 回の調査 をさ らに深め ることと し、 どの よ うな状況下で「子 ども間」 と「子 どもと職員間」で暴力的な行為が生 じて い るのか (背 景 ・要 因)、 生 じた と きの対応 は どの よ うに行 われたのか (対 応過程 )、 その後の経過 はど うであ ったか (経 過)の 3点 について、具体的なア ンケー ト調査 を行 っ た。 この調査 によ り、暴力が起 きやす い背景 を把握 し、その暴力事例 における姑応 のプロ セスの分析 を行 い、そ の対応 と経過 を振 り返 ることで、暴力対応 のために必要 な ことや今 後 の課題 を明 らかに してい きたい と考 える。 本稿 では、「子 どもと職員間」暴力の うちで、「子 どもか ら職員」 に向け られた暴力 に焦 点化 して分析及 び検討 を行 う。 2.子 どもか ら職員 へ の暴力 とその対応 に関する先行研究 施設内にお い て子 ども間の暴力 に関す る研究報告 はい くつ かみ られる。 しか し、子 ども 383 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) か ら職員へ の暴力 とその対応 に関 して特定 した石 究は少ない。 ,子 施設内暴力 としての実態把握 を行 った もの として、酒井 ら (2009)に よる兵庫県内 14 の児童養護施設 を対 象 とした職員 による自由記載 のアンケ ー トの事例調査がある。 この調 査では 1年 間 (H19年 度)の 県下全施設内におけ る暴力事件は 797件 であ り、①「子 ども 同士」、②「子 どもか ら職 員J、 ③「職員 か ら子 ども」 の暴力 の各実態 について報告 されて い る。 また、具体的な事例か らよみ とれる暴力発生 のメカニ ズムの解明を試みてお り、 「子 どもか ら職員」へ の暴力 では、暴言 を吐 く行為が多 く、身体 に直接的ではないが 、子 ども 自身の怒 りを職員に対す る言葉 の暴力 といった問接的な表現 によって起 きてい ることが報 、。安全が保障 されてい な 告 されてい る。 この調査か ら、施設 では 日常生活にお いて、安′ と い可能性が指摘 されたとともに、暴力 の事例が生 じた背景や関係性 をふ まえ、混在する要 因の検討 によ り、「健全 な人間関係のモデルを示す ことがで きる」立場 としての 職員 の役 割 の必要性が述べ られて い る。 しか し、子 どもか ら職員へ の暴力が生 じた後 の具体的な対 応や援助方法 につい ては触れてお らず、実態 を示す ことが中心 となっている。 児童養護施設 における暴力の実態 について、 ある都道府県管轄下の全施設調査 を行 った 多賀 ら (2012)の 研究がある。 A県 管轄下 にある全児童養 護施設十数施設 に、2008年 か ら 2009年 の 1年 間に実施 した職 員調査 で あ り、子 ども間、子 どもと職員間のあ らゆる暴 力 について職員 の 自己申告 によって 自由記述 回答 を得 た ものである。 この調査 に よると、 「児童か ら職員 へ 」 の暴力が全体 の 2割 弱 であ り、そ の背景 は職 員が児童 の態度や行動 を 注意 したことに姑する反発や、施設内での生活の不安 ・不満や苛立 ちを報告 して い るケ ー スが見 られる。 また、暴力 に対す る職員 の姑応 の結果 について 自由記述 のカテ ゴ リー分析 では、 「その場 で加害者 を制止 ・注意」 したケ ースが 8割 以上、 「時間をお いて加害者 を注 意」が次 いで 2割 である。 この調査研究 の対応 に関す る調査 ではあ らゆる施設内暴力 の対 応 について詳細 は触れてい ないがおお よその対応 の傾向のみ示 されてい る。 施設内暴力の対応 に関する実践報告、研究 として安全委員会方式による田鳥の実践、研 究がある。 この安全委員会方式 では、施設外部で構成する外 部委員 と、施設長や主任児童 指導員な どで構成す る内部委員 を設置する ものである。 また身体暴力について職貝が個別 の聞 き取 り調査 を子 どもに定期的に行 う。 この丁寧な聞 き取 り調査 などで 「子 ども間暴力」 が顕在化 した場合 に、その基本対応の段階的な流れ として、安全委員会か らの①厳重注意、 ② 別室移動、③ 一 時イ 呆護 (児 童相談所 へ 要請 )、 ④ 退所 (児 童相 談所 へ 要請 )を あげて い る。 この基本対応の流れは、子 どもか ら職員へ の暴力へ の対応 にお いて も同様 となって い る。 この安全委員会方式は徹底 した暴力 を許 さない施設づ くりの手法である。施設職員 全体の意識変革に よ り職員 のチ ーム ワー クの醸成や、外部委員が加 わることで施設内の透 明性が保 たれ、暴力が生 じた時に常態 化 しない よ う、即応的に徹底 した姑応が とられる。 子 どもたちには、大人狽Jが暴力 を許 さない意思や熱意 を明確 に伝 えることがで き、暴力行 為 を抑制す る気逗が施設内に形成 されやす くなる。そ して定期的に継続的な聞 き取 り調査 384 児童養護施設 における施設内暴力に関する研究 が行われることにより、暴力的な雰囲気 を早 めにキヤッチ し、早期汁応 により暴力 を未然 に防 ぐことが可能 となる。 また暴力 を起 こ した子 どもと担当職員 の信頼関係 の形成 に も配 慮 した対応 もとられてい る。 さまざまな状況が想定 された安全委員会方式 は、施設内暴力 対応 のシステムとして効果 をあげてい ることを実践報告 で述べ られて い る (田 鳥 2011)。 さらに、児童福祉施設等 にお け る「子 どもの暴力対応実践 マ ニ ュ アル」 支井 2011)に (イ お いて早川 (2011)は 、子 どもか ら職員へ の暴力 の対応 につい て、職員 の暴力発生時点で の対応、事後 の対応、終結 の 3段 階に分 けて汁応 のポイン トと手順 を整理 して いる。 また、 「子 どもの危機対応 マニュ アル」 (浅 井 2012)に お いて暴力問題 へ の紺応 で、子 どもか ら 職員に向けた暴力があ った時 の姑応が まとめ られてい る。暴力 を受けた職員 を被害職員 と し、対応のポイ ン トとしては、加 害児 の気持 ちや背景 に 目を向けてその場 は対応す ること が望 まれるが、被害 を受けた ら無理 をせず応援 を呼ぶ こと、誰かに相談 し話 を聞 いて もら う姿勢が重要 で ある とい う。流れ として、暴力問題発生後、応援要請 ・施設内対応、受診 あるい は施 設内応急処置あ るいは施設内職員へ相談、管理者へ 報告、状況確認や面接、緊 急会議、奈族 ・児童相談所 ・学校等 へ の報告、全体会議、防止策実施や子 ども ,職 員ケア といった ものが フローチ ャー トで示 されて い る。 また、浅井 らの示 した対応 マ ニ ュアルのポイン トで も触れ られてい た ように、子 どもか ら職員へ の暴力が生 じた場合 に、その暴力の背景 についての理解 の必要性等 について西 澤 (1999)は 被虐待児へ の対応 に関す る心理的視 点か ら述べ てい る。施設で生 活す る子 どもは、 家庭 で虐待 を受けて きた子 どもが多 く、明 らかな被 虐待経験 の ある子 どもの割合 は全 国調 査で 534%と い う報告 があ り (厚 労省 2008)、 そ うした現状 を踏 まえ、被 虐待経験 の ある 子 どもが暴力 を起 こす背景 につい て西 澤 (1999)は 、虐待環境で子 どもが成 長する ことに よつて、子 どもの対人関係 のパ ター ンは様 々 な歪み を抱 えて しまい、「虐待的人間関係 の 再現傾 向を生 じさせて い ることが ある」 とい う。 また、「児童福祉施設 における虐待 を受 けた子 どもへ の対応」 にお いて、西澤 (2007)は 虐待 による トラウマの再現性 として 、他 者へ の暴力が生 じやす く、虐待的人間関係の再現 を起 こ しやす い とい う。虐待が もた らす 心理的影響 として怒 りの行動化や ADHD様 症状 にっについて も述べ てお り、 さらに、 愛 着障害 としての共感性 の欠如、反社会性人格障害 との 関連 につい て言及 して い る。そ うし た子 どもの心理 的背景 を理解 した対応が望 ましいことが述べ られてい る。 本研究 のアンケ ー ト調査 にお いて、 これ らの先行研究 をふ まえなが ら調査内容 を検討 し ている。特 に本研究にお いては子 どもか ら職員へ の暴力が生 じた ときの背景 ・要因、姑応 過程 に観点 をお いてアンケ ー ト調査 の分析 を行 った。特 に、子 どもか ら職員へ の暴力が生 じた と きの姑応 の実態 につい ては、 自由記述 による回答か ら質的な分析 と考察 を行 い、今 後 の課題 を検討 した。 385 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) 3.調 査の方法 調査内容 :児 童養護施設 (以 下、施設)に お いて、 どの ような状 況下 で 「子 どもと職員間」 で暴力的な行為が生 じてい るのか (背 景 ・要因)、 生 じた と きの対応 は どの よ うに行 われ たのか (対 応過程 )に ついて、具体的 に探 るためにア ンケ ー ト調査 を行 った。今 回は、 「子 どもと職員間J暴 力 の うち、子 どもか ら職員 に向け られた暴力 について焦点化 して分析 を 行 った。 なお、職員調査 はで きるだけ本音 の 回答が得 られ るよ う、 また倫理的配慮 のため、匿 ヽとか らだを傷 つ ける と 名 で行 った。 また、本調査 における暴力の定義につい ては、 「人 の′ 行為 Jキ とし、 この定義 に該当す る行為 を暴力 と して回答 して もらったが、暴 力 へ の とら え方に若干の個人差が生 じてい る ことがある。 *森 田ゆ り『子 どもと暴力』岩波書店 (1999)の 定義 を援用 調査対象 : 児童養護施設 の職貝 施設数 585箇 所 に質問紙 3部 (経 験年数 3段 階別) 郵送部数 1755 調査主体 *郵 送に より無記名 で個別に投函 してい ただ く。 有効回答数 377 回収率 215%で ある。 :「 NPO法 人 こどもサポ ー トネッ トあ いち」 (代 表 :長 谷川真人 ) 調査担当者 :吉 村美由紀 。長谷川真司 ・吉村譲 調査期間 : 2012年 6月 末∼ 7月 末 調査方法 : 各施設 に質問票 を 3通 ずつ郵送、個人が特定 されないよ う無記名で個別に投 画 して もらう形で行 った。 4.倫 理的配慮 アンケー ト調査 の実施 にお いては、回答票 には各施設 の職員 の個人が特定 されない よ う 施設名、及び記入者名の記載 を求めず、個別に投画 して もらった。調査結果の集計 (自 由 記述 を含 む)に おい て もプライバ シー保護 のため施設や個人が特定 される記述内容 の有無 、 の配慮 を行 った。 に細 ′ と 5.調 査結果 (1)回 答職員 の基本属性 (性 別 ・職種 ・経験年数 )※ ( )内 の数値 は実数 回答職員 の基本属性 について、性別 は「男性」382%(144)、 「女性」607%(229)、 「不 「児童指導貝」464%(175)、 詳Jl.1%(4)で 女性 の 回答者がやや多か った。回答職員 の職種 は、 「保育士」390%(147)、「個別対応職貝 J82%(31)、「家庭支援専 門相談貝」34%(13)、「そ の他」■9%(7)、 「不詳」 11%(4)で あ り、児童指導貝が約 5割 で あ った。 回答職員の 経験年数は、 「 1年 目」4.5%(17)、 「2年 目」 1170/O(44)、 「3年 目」 12.2%(46)、 「4年 目」 660/0(25)、 「5年 目J8,8%(33)、 「6年 目」82%(31)、 「7年 目」740/0(28)、「8年 目」4.5% (17)、「9年 386 目」64%(24)、 「10年 目」4,5%(17)、 「11年 以上 15年 未満」 1140/0(43)、 「15 児童養護施設 における施設内暴力に関する研究 年 以上」 122%(46)、 「不詳」■6%(6)で あ った。 (2)職 員が子 どもか らの暴力 を受けた経験の実態 職員 に、 これ まで子 どもか ら暴力 を受 けた ことがあるか尋 ねた ところ、 「 ある」663% (25)、 「な い」337%(127)で あ り、6割 以上の職 員 が子 どもか ら暴力 を受 け た経験が あ ると答 えた (表 1)。 また、その内、1年 以内に子 どもか ら暴力 を受 けた職員は 552%(137)、 1年 以上前 に受けた職員は 448%(111)で あ った。 1年 以内に子 どもか ら暴力 を受けた職員 に、 さらに詳 しく尋 ねる設間 を設 けた。その子 どもの性別 を尋 ねた ところ (複 数回答 )、 男 の子 か ら受 け た職員が 73.5%(100)、 女 の子 か ら受 けた職員 は 500%(68)で あ った。次に、暴力 をふるった子 どもの年代 を尋ね た と ころ (複 数回答 )、 最 も多か ったのは、中学生 で 41,9%(57)、 次に小学校高学年 で 32.4%(44)、 高校 生が 28,7%(39)で あ った (表 2)。 さらに、職員 に暴力 をふ るった子 どもについ て障 害 の診断状況 を尋 ねた ところ (複 数 回答 )、 最 も多か ったのは ADHDと 知 的障害でそれ ぞれ 1870/0(25)、 次 に反応 性愛着障害 で 157%(21)で あ った (表 3)。 特 に診断 名 は出 て い ない とい う回答者が 59.0%で あ り、 さらにその子 どもに診断名 は出てい ないが、何 ら かの障害があると思 われるか尋ね た ところ、「思われる」51.3%(39)、 「思わない」487% (37)で あ つた。 そ して、1年 以内に受 け た子 どもか ら職員 に対 す る暴力 の 内容 答 )で 、最 も多 かったのは「身体的暴力 (殴 る・蹴 る 。口 Fく (複 数 回 )J82.9%(116)で 、次に「言 葉 による脅 し」486%(68)、 「器物破損」429%(60)の 順であ った (表 4)。 表 1 子 どもか ら暴力受けた こと n=377 度数 表 ll 250 ある 66 30/0 ない 127 33,70/0 合計 377 100 00/0 2 % 度数 幼児 小学校低学年 小学校 中学 年 小学校高学 年 中学 生 高校 生 合計 11 28 23 44 57 39 202 5 4% 13 9% 11.4% 21 8% 28 2% 19 3% 100 0% ケースの% 81% 20 60/0 16 90/0 32 4% 41 90/0 28,7% 148 5γ 0 387 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) 表 3 n=137 (複 数回答 障害の診断の有無 ) 応 ADHD % 度数 6 3 40/0 5 1 79 16 178 合計 表 11 9% % 4 特 に診 断 名 は で て い な い 0 7% 18 70/0 % 0 25 % 0 PTSD 知 的障害 その他 3 7γ0 15.711 % 6 21 4 5% % 8 習障害) 反応性愛着 障害 ケー スの% 18′ υ /0 % 8 LD(学 14 υyO 4 9 4 2 1 0 1 1 4 ア ス ペ ル ガー 症 候 群 Zも 59 0% 100 00/0 132.8% 4 どの よ うな暴 力が あ つたか n=137(複 数 回答 ) 応答数 度数 6 8 0 0 9 6 388 9 *身 体 的暴 力の内訳 l 合計 o 身l不 田暴 刀 *身 体 的暴 力 (殴 る) *身 体 的暴 力 (蹴 る) *身 体 的暴 力 (叩 く) 言葉 による脅 し 性 的暴 力 器物破損 凶器 による暴 力 その他 4′ b % ケースの% Z4.4サ b 12 8110 16 6% 13 9% 14.30/0 もZ υ豹 43 6% 56 4% 47 10お 48.6% 0 011 0.Oll 12 6% 42 91′0 1,90/O 6.411 3 4110 11 411 lυ υ υy0 33υ 3h 児童養護施設 における施設内暴力に関する研究 (3)職 員が子 どもか らの暴力 を受けた時の背景の実態 1年 以内に子 どもか らの暴力 を受けた職員 に、その子 どもの うち、最 も対応 に苦慮 した 事例 (以 下、苦慮事例 )に ついて、 さらに詳 しく尋 ねる設問 を設けた。子 どもか ら職員 へ の暴力行為の苦慮事例 にお いて、 推沢1さ れる起 因につい て尋ね た (複 数回答)。 最 も多 か っ たのは、「要求が通 らないい ら立 ち」896%(120)で あ り、次に「ル ー ルに対す る不 満」 と「子 ども同士の トラブ ルに介入 した とき」が同数 で 35,80/O(48)、 「他 の子 どもか ら嫌 な ことを言 われたJ187%(25)で あ った (表 5)。 また、子 どもか ら職員 へ の暴力行為 の苦 慮事例 につい て、 暴力が起 きた と きにす ぐに駆 けつ けて くれる範囲にい た職員につい て 「 人」33.8%(46)で 、 「 い ない」265%(36)、 「 2人 J19,9° /。 (27)で あ った (表 1 6)。 (4)職 員が子 どもか らの暴力 を受けた ときの経験年数 の実態 これ までに子 どもか ら暴力 を受けた ことがある職員に、暴力 を受けた ときの経験年数 を 尋 ねた (複 数回答)。 最 も多か ったのは、1年 目で 26.6%(67)、 2年 目で 23.8%(60)、 3 年 目で 175%(44)で あ った (表 7)。 (5)職 員が子 どもか らの暴力行為 を受けた直後 の対応 の実態 (苦 慮事例 の対応 ) 1年 以内に子 どもか らの暴力 を受けた職 員 に、その子 どもの うち、最 も対応 に苦慮 した 事例について、暴力行為が生 じた直後 に、 どの よ うな姑応 を行 ったか を自由記述で答 えて もらった。 自由記述 の分析 は以下の手順 で行 った。 表 5 暴力行為の起因 n=137 (複 数回答 ) 応答数 % 度数 要求 が通 らな い い ら立 ち 120 41 4% ケースの% 89 6% ルー ル に対す る不満 48 16 6% 子 ども同士 の トラ ブル に介 入 48 16 6% 35 8% 他 の子 どもか ら嫌 な事 を言 われ た 25 8 6% 18 7% 他 の職 員か ら嫌 な事 を言 わ れた 11 3 80/0 8 20/0 暴 力 した児童 の 発達 に関ず る障害 や 医療 的問題 19 6 6% 14 2% 職 員 自身の 問題 10 3 4% 7 5% その他 合計 9 3 10/0 ZUU lυ υ υtt 35 80/0 6 7% Z16 4路 389 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) 表 6 暴力のあつたときす ぐ駆けつ けて く れる範田にいた職員の人数 n=137 度数 13 4人 以 上 12 2 136 合計 表 % 5 その他 % 8 27 3人 % 6 46 % 9 1人 2人 % % 8 36 265% いない 100 0% 7 n=137(複 数回答 暴 力行為 を受けた時の経験年数 ) 応答数 1年 目 2年 目 度数 209% % 266% ケー スの% 3年 目 4年 目 44 18.7% 13.7% 30 9 30/0 l190/0 5年 目 6年 目 31 970/0 12 3γ0 15 4 7% 6 0% 4 8% 2 8% 60 23.8% 17.51t 7年 目 12 3 70/0 8年 目 9年 目 7 2 20/0 9 8 18 2.8% 2.5% 5 6% 3 60/0 10年 目 11年 以 上 15年 未満 15年 以上 16 5 00/0 6 3% 4 1 2% その他 合計 390 67 321 100 00/0 3.2% 710お 1.60/0 127 4110 児童養護施設における施設内暴 力に関する研究 <自 由記述 の分析 > 分析姑象 : 一年以内に子 どもか ら職貝へ暴力行為 のあった事例の うち、最 も対応に苦慮 した事例について、自由記述で①背景 ・要因 と暴力の内容についての詳細、②暴力行為が 生 じた直後、 どのような対応を とったかの詳細 を尋ねた設間のすべ てに記述があ った もの を対象 としたところ、138事 例 であった。そのうち、記載内容が不明瞭な事例は内容の読 み取 りが困難なため除外 し、内容について分析可能な記述 のみを対象 とした ところ、111 事例が分析対象 となった。 分析過程 : 質的デー タ分析法 (佐 藤 2009)に おける定性的 コーデ イ ングの手法を参考 に分析 を行った。①収集 された文字テキス トデー タについてそれぞれの部分が含む内容 を 示す小見出 しをつけコー ド化する。③ コー ド化 したものについて、類似点や相違点に注意 しなが ら「対応内容Jに ついてカテ ゴリー化す る。④ 「姑応内容Jを カテゴ リー化 したも のを、 3つ の レベ ル「内部 ・個別的 レベル」、 「内部・組織的 レベル」。 「外部 ・機関的 レベ ル」)に 分類 した。「内部・個別的 レベル」 とは、施設内で、職員個人 と子 どもとの関係 に おいて姑応 される内容のものとし、 「内部・組織的 レベル」は、施設内で複数職貝、職貝チー ム、職員組織 と子 どもとの関係において対応される内容 とし、 「外部 ・機関的 レベル」 は、 施設外 で他機関、家族 との連携 で対応 される内容 とした。最後に、各 レベルごとで時間的 で きるもの」 なカテ ゴリー として「緊急的に対応するものJ、 「時間をおいて対応するもの 。 に分けた (表 分析結果 : 8)。 一年 以内に子 どもか ら職員へ暴力行為のあった事例の うち、最 も対応に苦慮 した事例における暴力が生 じた直後の紺応では、施設内部で個別的レベ ルにおけ る緊急的 対応 のカテ ゴリーに分類 されるコー ドが多 くみ られ、その中で も「感情 の高揚 を鎮める 。 刺激を少なく冷静 さを取 り戻す」対応や「暴力的な激 しい行動 の制止」 といった姑応が多 くを占めた。施設内部 で時間をおいて対応 のカテ ゴリーに分類 される内容 では、「暴力以 外の道切な方法で表現 できるように うながす」方法や「行動の振 り返 りがで きるようにす る」対応が とられ、暴力行為か ら言語化へ うながす取 り組みの傾向が多 くみ られた。また 内部組織的 レベルの緊急的対応 では「複数の職貝による共有 ・協力等、第三者 の関わ りに よる支えJに あてはまるコー ドが多数み られ、複数職員の協力体制の必要性の高 さがよみ とれる。 391 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) 表8 子どもから職員に対する暴力行為へ の直後の対応 ―自由記述のカテゴリー分析― 子どもからの早力を受けたことがあると回答した職員で1年 以内に受けたと答えた略員 (13,名 】こ、その子どものうち最も対廊に苦慮した子例のみをあげてもらい その暴力行為 があつた直後の対応について自由記述て詳細をたするた。回答事例のうち、分析可能な111子 対象として分析を行つた。 'lを 「内部 ※「内部 組織的レベルJこ ついては、施設内て個人のみてはできないと考えられる対応を主に分窺している。そのため、 的レベルJに おいても対応されている場合がみられる。 1国 「内部 組織 別的レベルJこ 含まれる対応のうち、 「直後の対応」 ※記述は、 としての回春であるお(直 螢のとらえ方にはらつきがみられる。 ※要約の数値は、同構の回春があつた数を示す。 時間的カテ 支援内容のカテゴリー ゴリー 畢力対応の要約 内部・I困 別 的レベ ル 落ち着く よで待つお】 【 タイムアウト2】 【 個室で話を聞く 個室に移すX別 室で振り返りをするX落ち着ける場所へ移動】 【 別室対応7】 【 】 【 クールダウンの提案】 子どもが自分でクールダウンをする】 【 クールダウンB】 【 【 【 場面を変えてクールダウン】 【 冷静さを促す】 【 落ち着かせる】 22】 【 子どもと距職をおぐ 【 【 距離をおく その場を離れる】 ―対―で話すX対 応職員を少数にした】 【 個男 1対 応コ 】【 一人にする】 自分の居室へ戻らせる0】 【 【 4】 儀情 の高場を鎮める 刺激を少なく冷静さを取 り戻す 放つておく キレだしたら関わりをもたない】 【 聞わらず、 そのままにしておく 】 【 】 【 お】 【 時間をおく まで見守る】 【 様子を見る2X見 守りX落ち着く 連れて帰る(逃 げ出したところから戻る 【 動じない意識での対応X毅体とした態度】 〔 過剰に反応しないX大 きな声を出さないX落ち着いて言葉がけする】 【 )】 緊急的に対 応するもの 力で抑えるしかない時もある】【 手を出せないように子どもを力で抑える】【 状況により体を抑える】【 暴力を止めるために押さ 〔 子どもの制止】【 えつける】【 暴力行為が治まるよう 体を抑えるセ】【 物にあたり始めた為に身体的に抑える】【 手を抑える】 座らせて後ろから抑止】【 手や足をつかんで止める】【 【 行動を抑えるX外 に飛び出そうとするのを止める】【 【 抑えつける】 暴カ 力で制止する?】 行為の制止→暴力ととらえられないよう 気をつける】【 暴力の制止】【 1こ 暴 力的な激しい行動 の 部止 1こ セラピューテイックホールド】 【 ホールディング:7Xギ ュッと抱える】 【 【 言葉で制止】 感情のコントロール (抑 制 )】 【 感情を吐き出させる 他の子どもの安全配慮 【 言葉で吐き出させる】 【 言葉の暴力は聞く 】 【 言いたいことを言わせる】 まで暴力を受けるX続 けさせる(プ ロックを投げさせる 【 あえて 【 落ち着く )】 'pか せる】 【 耐える】 】 【 被害児の避難X相 手児童を避難X他 【 他の児童を選難X他児との距説を激すXト ラブルのあつた子ども同士の距麓を置く 児の安全を図るX他児の安全を保つX年少児の安全配慮】 やつて 暴力行為の注意や否定 【 暴力はいけないことを話す滑】【 暴力はいけないことを伝える〕】【 暴力への注意2】 【 暴力では解決しないことを話す】【 よくなかつたことに対する注意】【 注意すべき点を指摘X間 違つている点を指摘:2】 【 短い (や つてはならないことを はいけないと話す】【 言葉ての注意】【 へ 力 の注意と 伝える 言葉で注意X暴 否定】 ) 呻 わ ” ︻ 他者 (相 手 )の 気持ちの理 解 につなげる 【 職員の感情を伝える(痛 み 悲しみ 辛さ),】 「止めて」 と伝える】 【 【 (職 員の思い)を 言い返す】 【 思いの伝え方の転換】 2】 【 ト 理由を聞き取る】【 怒りの気持ちを聞く 思いを開き取る】【 奇立ちの理由を聞き取る】【 話を聞く ラブルの起きた子ども 【 】【 気持ちを聞く】 それぞれの話を聞く 】【 暴力以外の適切な方法で 【 言葉で伝えるよう促すX(言 葉で表現するよう )キ ーワードとなる言葉を伝え続ける】 表現てきるようにうながす I■ 【 解決策の提案】 〔 言動の訂正を助言】 別の要求の仕方を伝える】 〔 392 児童養護施設 における施設内暴力に関する研究 き) 振り返りをする7】 【 〔 落ち着いてから振り返りをする,】 【 振り返りによる整理X落ち着いてから(翌 日)振 り返りを行う】【 落ち 昔く まで待つ(数 日 【 日にちをあけて対応】 行動の振り返りができるよ 【 落ち着いてから話す:11】 【 ト 話をする0】 【 ラブルのあつた子どもと職員で話す】 )】 うにする 【 事実を確認する】 【 写真を撮る】 (器 物破損など ) 理由を説明するB】 【 【 要求を通せない理由の説明】 物事の理解を助ける・整 【 言葉で理由を伝える】 理できるようにする 【 約束事の理由の説明】 本人が距離をとろうとした時 は、考えて行重ら するよう1こ 声か ける】 子どもの意志(自 己決定) 【 の尊重 【 謝罪を拒否する本児 の気持ちを尊 重】 【 謝罪の働きかけ2】 【 謝罪を促す :7】 人との関係修復の方法を 伝 える うながす 【 関係修復の声かけ】 【 職員の悪かつた点の謝罪】 【 話しかける】 一部分を褻めるX行 動の切り替え(一 部分)を 褒める】 【 子どもを認める 子どもの思いを汲む】 【 児童 の要求をのむ (不 本意なが らルール違 反を認める)】 【 社 会ルールの適応 【 決まりを守るように話す】 弁償をさせる】 行動の責任 (重 み)の 自覚 【 をうながす 【 外部機関(警 察)の 関与についてほのめかす】 安全な環境を整える 身体的外傷 の冶療 況 によつ 複 数の職 員による共有・ て)緊 急 的に 協 力等 、第 三者 の関わ り 対応するも による支え (状 スーパーバィザー的な 職 員 か らの 支 え 時間をおい て対応す る もの 'で きる もの 職 員組織 として全体で 共有・支え合い 心理職 による心理的視 点 ヽのすテ 強損物の処理】 【 破損器物の修理】 【 ケガヘの処置・治療 【 :2】 【 他の職員(第 二者)の 介入:,0】 【 他の職員(第 三者)へ 助け・協力を求める」0】 【 他の複数戦員で対応4】 【 他の職員へ連 絡 【 他の職員と代わる】 【 他の職員への周知X担 当職員からの子どもへのフォローX担 当以外の職員にも協力をお願い する】 【 他の職員との連携X他 の職員の協力(他 児を離す 【 他の職員による制止の声かけ】 :0】 )】 主任級の職員に伝え話をしてもらう】 【 【 副回長の介入X回 長から暴力について話してもらうX上 司へ連絡】 全磯員で話し合う】 【 生活のルールの見直し】 【 【 職員体制をとる】 落ち着いてから心理士が対応】 【 子ども柴団による主体性 子ども会議でルールを作つた】 【 を活かす '1ヽ 時間をおい て対応する もの できる もの 他提 関との連携・関与 児童相 所へ連絡X児 童相談所による関わり】 【 =災 【 精神科への受診X通 院】 【 服薬 【 病院へ入院】 一 時 的に環境を変える (気 持ちの切 り替 え) 一時保護所の利用X環 境を変える】 【 :2】 家族との運携 によるもの 【 保護者 へ の連絡 (ケ ガの報告 )】 393 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) 6.考 察 と実践 への示唆 <実 態 と背景から> 子 どもか ら職員に対す る暴力 は 6割 の職員が経験 して いた。暴力 をふ るった子 どもにつ いては、中学生 などの思春期の年代やその前後 の年代 が多 い結果 であ った。小学校高学年 と中学生 を合 わせ ると 7割 (74.3%)と なる。思春期 における問題行動 について、渡辺 (2007) は、思春期 の発達段階に照 らし合 わせて理解す る必要性 を述べ ている。前思春期 (小 学校 高学年 ごろ)に は、二 次性徴 の発現 とともに情動 の波打 ち、男子 も女子 も生意気 な態度で 母親 に反抗 したか と思 うと幼児 の ように甘 え、母親へ の依存か らの離脱 を目前 に しなが ら 絆 を確認す る時期 であること、 また思春期初期 (中 学生 ごろ)に は性 の 身体的変化 ととも ヽ の発達にも影響 してい くとい う。そ うした時期 であることをふ まえ、問題行動が生 じ に′ と る背景 には、その子独 自の意味や機能があ ること、その子の現在 と今 まで生 きて きた周囲 の関係性 の問題 が内包 されてい ると述べ ている。 このことか ら、施設の子 どもにとって親 の役割 を代替 して い る存在 である職員は、特 に暴力行為が起 きやす い思春期前後の子 ども の発達段階についての基礎的な理 解 の もと、その時期の子 どもの心 身状態 をとらえた対応 が必要である。 さらには、思春期 に暴力的行為で表現 をす る子 どもの周囲の 関係性 の問題 もとらえて い く必要があるとい える。 また思春期前後 に限 らず、職員 は暴力対応 を考 える ヽ とき、暴力 で表現す る子 どものサ と 身にお いて、 どの発達段階 で生 じて い ることなのか考慮 して姑応 を検討する必要があると考 える。 また暴力の内容 については、 身体 的な暴力が 8害 」とい う調査結果がみ られた。暴力 の起 因で多か った ものは、要求が通 らなかったことや、子 ども同士の トラブルを鎮 め よう とし た時、生活 のル ールに対す る不満か ら起 きるな ど、 日常的に頻繁 に起 きやす い 出来事が契 機 となってい た。 そ して、暴力 を起 こ した子 どもの背景 にお いて、ADHDや 、知的障害、反応性愛着障 害 の診断 を受けている子 どもも 3∼ 4割 であった。特 に診断名は出て い ないが、何 らかの 障害があ ると「思 われる」 と回答 された ものは 5割 以上であった。 こ うした障害等 を背景 として他者 との 関係性や コ ミュニ ケー シ ョンに困難 を抱 えて い る子 どもへ の対応 について は、各障害特性 につい て配慮 した姑応 の必 要性があげ られる。例 えば、ADHDが 背景 に ある場合は障害 により自ら衝動性 を抑 える ことが 困難 であ り、そ うした障害特性 を知 り得 た うえでの関 わ りの工夫や環境 づ くりが不可欠 となる。症状 によっては医療機 関 との連携 の もと、薬物療法等 を用 い なが ら感情 の安定 を図 りつつ 、対 人関係の持 ち方 や コ ミュニ ケー シ ョンカ を長期的に養 ってい く工夫 が求め られる。 また、反応性愛着障害が背景 にあ る場合 であるが、杉 山 (2007)に よると、反応性愛着障害 は分は生後 5歳 未満 までに親や その代理 となる人 と愛着関係が もてず、人格形成 の基盤 にお いて適切 な人間関係 をつ くる 能力 の障害が生 じてお り多様 な症状 を併せ持 っている と述べ ている。杉 山 (2007)は 、 こ うした愛着障害 の修復 のためには、代替 となる愛着者 の存在が必要 であること、 しか しそ 394 児童養護施設における施設内暴 力に関する研究 の姑象者 との愛着形成 の過程で暴力的行為 などの問題が噴出す ることもある と述 べ て い る。 こ う したことか ら暴力行為 を生 じさせて い る根底 要因が何 らかの障害 を背景 として考 え られる場合 にはその障害特性 の適切 な理解の もと、対応す ることが重 要 で ある。そのため 職貝 は、発達障害、愛着障害、知的障害 などの障害特性 の理 解や、その特性 に配慮 した対 応方法 に関す る専門的知識 と技術 を身につ けてお くこと、職員間での共通理解 と一貫性 の ある対応、あるい は適宜、研修 の機会が必要 と考え る。 <子 どもか ら職員 に対す る暴力へ の対応か ら> 一年以内に子 どもか ら職貝へ 暴力行為 のあった事例 の うち、最 も姑応 に苦慮 した事例 に おける暴力が生 じた直後 の姑応 では、施設内部で個別的 レベ ル における緊急対応 の必要性 が高 く、暴力 を受けた職貝 (或 い はその場 にい る職員 )が まず は個別で対応 しなければな らない項 目が多 くみ られた。 また、他の職員に連絡 し、協力や介入 を して もらってい る事 例 も 3割 半程度 (42事 例 /111事 例 )み られた。暴力 を受 けた職員 は、対応過程 の 中で、 興奮 した子 どもを落ち着かせて、暴力の被害が よ り大 きくな らない ように し、暴力 を起 こ してい る子 ども自身の安全 を保 つ こと、周 りの子 どもたちへ の安全 の配慮 も即座 に行 って い る。 しか し、 暴力 を受 けた職員 は、その子 どもの怒 り (い ら立 ち)を 受ける対象 ともなっ てい るために、暴力 を起 こす子 どもとの道切 な距離 をとり、あるい はお互 いの クールダウ ンをはか りなが ら対応 しなければな らず、他の職貝 の介入、協力がなければ十分 な対応が 困難 であることも多 く予想 される。 この ことか ら、普段 にお いて どの よ うな時で も、施設 内部 の組織的 レベ ル な対応 として複数 の職員、チ ーム対応 として第三者が介入 で きるよう に してお くことは、不可欠な課題 といえる。 しか し、 自由記述 の分析 では「他 の職員 に介 入 して もらった」 とい う記述が多 くみ られた ものの、分析対 象事例全体 の約 3割 半程度 で あ り、 またア ンケ ー ト数値結果 では 1年 以内に暴力 を受けた回答者 (137名 )で 、暴力が 起 きた時に、す ぐに駆 けつ けて もらえる範囲にい た職員 は、一 人あるい は、誰 もい なか っ た とい うことが 6割 程度 と多 く、職員体制の見直 しや充実の課題があげ られる。 また直後の対応 にお いて、施 設内部 の個別的 レベ ルで、暴力 を起 こ した子 どもを身体的 に力で抑え込 まなければな らなかった事例 もみ られ (18事 例 /111事 例 )、 子 どもの暴力行 為が エスカ レー トしない ように、 また被害が拡大 しない ためにやむをえず体 で制止 させ る 対応 となったことが考 え られる。 しか し、力で体の動 きを抑 える姑応 は、子 ども狽Jが 職員 の体力 よ りも上 まわる (強 い)場 合 は難 しい対応 といえる。 また、職員側 としては、体 を 抑 える行為 だけであって もそれ 自体が暴力行為 として子 どもに受け とめ られる場合 もある。 また、お互 いの力 のエ スカレー トやせめ ぎ合 い に発展 し、職員 による体罰 につ なが りや す い危険性 も考 え られ、職 員 の感情 の コン トロール に気 をつ けなければな らない。体で制 止 させ る方 法 に類似 した暴力行為 を鎮 める方法 について、心理治療的アプローチの 1つ に 子 どもを抱 きかかえる方法がある。西澤 (1997)は 、虐待 を受けた子 どもの攻撃性や爆発 的な行動 に対す る治療的な関 わ りの基 本 として、治療者が子 どもを「抱 きかか えること」 395 名古屋芸術大学研究紀要第 35巻 (2014) (herapeutic holding)に い くつ かの機能がある とし、攻撃性 の直接 的な行動上 の表現 を 制限す ること、子 どもお よび治療者 の 身体的な安全 を確保す ること、 さらに圧倒的な無力 感 を感 じてい るはずの子 どもに外 部か らコン トロール感 を与 える ことの三つ をあげてい る。 攻撃性 の直接的な行動上の表現 が制限される ことによつて、子 どもは怒 りを内的な感情 と して経験す るよ うにな り、攻撃性や怒 りを行動的にではな く、言語的に表現す る可 能性が 高 くな ることを述べ てい る。ただ し、虐待 を受けた子 どもはこ うした感情 を言語的に表現 す ることに慣れてお らず、場合 によってはどの ように表現す ればいいのか知 らない子 ども もい るため、子 どもが感 じてい ると思われる感情 を言葉で伝 える「感情のラベ リングJと い う技法で治療者が子 どもの感情 を充分 に理解 して い るとい うことを子 どもに伝 え、感情 を「名付 ける」 ことによって子 どもの言語化 を促す とい う働 きも行 い、 こ うした働 きかけ によ り、「腹が立 った」 とい う感情 の言語的な表現が可能 となる とい う。 これ らのJとヽ 理治 療的 アプローチの技法 は子 どもの攻撃性 を鎮静 し、行動化 を言語化 で きるよう助け、道切 な表現方法に導 くことが可能 となる点 で、ケアワー カーで ある職員に とって も有効 な方法 といえる。 また、思春期 の子 どもの問題行動 へ の姑応 について行動化か ら言語化 へ導 く働 きかけが大切である ことを渡辺 (2007)も 述 べ てお り、言語化 で きるまでのプ ロセスをど う職員が支 えてい くか、暴力が生 じた後の姑応 にとって重要であると考 える。 さらに、 タイムアウ ト (落 ち着ける部屋 に移 って もらう)や 空間的に距離 をお く対応 も とられている。 この手法 も攻撃性 を一時的に抑制す るためには有効 であると考 えられるが、 タイムアウ トを行 う ときの言葉がけや どの よ うな意図 をもって行 うか子 どもに説明 をす る 必要があると思われる。 タイムアウ トを罰則 として行 うのではな く、攻撃的感情 を落ち着 かせ、怒 りの表現 を言語化 で きる よ うにするためのプロセスの一つ として行 うことが望 ま しい と考える。 こ うした ことか ら職員 は、暴力姑応時には個 々に咄嵯の緊急的判断 と姑応 を迫 られるこ とが 多 く、多様な姑応力 を具体的 に身 につ けてお くな ど、暴力が生 じたときの危機的状況 に備 えた高度な専 門性が求め られる。危機的状況 の介入 における高度な専 門性 とは、状況 、 の背景 を発達面、′ と 理面、成育歴、家族関係等、多面的に とらえる視点、背景 をふ まえた 対応 の知識や実践的技術 を身 につ け ること、 さらには、子 どもの権利 を│万ヒ護す る専門職 と して道切 な判断力が必要 であると考 える。特 に、専 門職 としての判断力 を備 えるためには、 人権擁護観や倫理観 を養 ってい く必要があ ると考 える。 また、ア ンケー ト数値結果 では、暴力 を受けた職員の当時の経験 年数 で 1∼ 3年 目の経 験が短 い時期が多か ったことか ら、新任職員の研修 など、経験年数 1∼ 3年 の段階で暴力 などの危機的状況の介入に関す る多様 で高度 な専 門的実践力 を身につ けてい くことが必要 と考 える。 396 児童養護施設 における施設内暴力に関する研究 7.お わ りに 本調査結果 は主 旨をご理解、 ご賛同頂 けた方 のみの 回答であるため、結 果 には偏 りがあ る もの と思われる。 また調査 は全 国の児童養護施設職員 を射 象 としたが 、十分 な回収率 は 得 られず、全 国の実態 を示 した もの とは言 えない。本調査結果 は実態 の一 部 にす ぎないが、 結果 か ら得 られた傾向や示唆 を活か して、 さらなる具体的な調査 を検討 して い くことを今 果題 としたい。 後 の口 最後 に、調査 に ご協力 いただいた多 くの施設職員の皆様 に深 く感謝 申 し上 げます。 注 1)西 澤哲は被虐待児に認められる多動性行動障害をADHDか ら区別するために、ADHD様 症状と述べて いる。 2)ヘ ネシー澄子 (2004)に よる と反応 性愛着障害の詰症状 につい て、 感情 の抑制が 困難 であ り、破壊 的 行動や 自虐 的、他虐待 的 な行動が見 られ、人か ら情愛や愛 情 を受 け入 れず 自分 も与 えな い な ど、愛着 未形成 を背景 にかな り広範な問題 を引 き起 こす特徴が示 されている。 引用 。参考文献】 〔 ,浅 井春夫監修 (2012)「 第 3章 暴力問題へ の対応」『児童福祉施設 ・保育所 子 どもの危機対応マニュア ル』健吊社 'NPO法 人こどもサポー トネッ トあいち (2012)「 児童養護施設の暴力問題の調査報告J『 平成 24年 度社 会的養護等当事者へ進路 自立支援相談事業』 'NPO法 人こどもサポー トネッ トあい ち (2010)「 全国児童養護施設に入所 してい 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