Apr 28, 2016 No.2016-020 伊藤忠経済研究所 Economic Monitor 主席研究員 武田 淳 主任研究員 石川 誠 03-3497-3676 [email protected] 03-3497-3616 [email protected] 日本 1~3 月期 QE 予想~2 四半期ぶりの前期比プラス成長ながら 停滞状況から脱せず 1~3 月期の実質 GDP 成長率は前期比+0.1%(年率+0.2%)と 2 四半期ぶりの前期比プラス成 長になった模様。ただし、輸出の持ち直しが主因であり、内需は総じて低調。さらに、10~12 月期の落ち込みを埋め切れておらず、日本経済は停滞局面が続いている。こうした中で日銀は追 加の金融緩和を見送り、デフレ脱却期待は後退した。 1~3 月期の実質 GDP 成長率は輸出の持ち直しでかろうじてプラス成長 これまで公表された指標から試算すると、5 月 18 日に公表予定の 2016 年 1~3 月期実質 GDP は前期比 +0.1%(年率+0.2%)になったとみられる。この通りとなれば 2 四半期ぶりの前期比プラス成長となる が、前の期(2015 年 10~12 月期)の前期比▲0.3%(年率▲1.1%)を埋め切れておらず、2015 年 1~3 月期以降、前期比プラス成長とマイナス成長を繰り返す停滞局面から脱していないことになる。 プラス成長に転じた主因は、輸出の持ち直しである。輸出は旅行分野などサービス輸出の増勢が鈍化した ものの、通関輸出数量指数の動きが示す通り、財の輸出は米国向けが下げ止まり、欧州やアジア向けが緩 やかな拡大傾向を維持したため、前期比+1.3%と 2 四半期ぶりの増加に転じた見込みである。さらに、 輸入がサービス分野の落ち込みによりマイナスとなり(前期比▲0.6%)、純輸出(輸出-輸入)の実質 GDP 成長率への寄与度は前期比+0.3%Pt になった模様である(10~12 月期は+0.1%Pt) 。 一方で、内需は低迷が続いている。個人消費は前期比+0.2%と小幅増加に転じた模様であるが 10~12 月 期の前期比▲0.9%からのリバウンド程度であり、設備投資は 10~12 月期の前期比+1.5%から 1~3 月期 は▲0.9%へ落ち込んだとみ 実質GDP成長率の推移(QE予測) られ一進一退の状況にある。 (前期比・%) また、公的固定資本形成も 1 月 20 日に成立した昨年度補 2014 1~ 3 程度の落ち込みとなった見込 みである。 ▲ 0.6 0.5 1.1 ▲ 0.4 0.3 ▲ 0.3 (年率換算) 5.2 ▲ 7.9 ▲ 2.5 2.2 4.6 ▲ 1.4 1.4 ▲ 1.1 0.2 (前年同期比) 2.7 ▲ 0.3 ▲ 1.5 ▲ 1.0 ▲ 1.0 0.7 1.7 0.7 ▲ 0.2 1.5 ▲ 2.8 ▲ 0.7 0.2 1.1 ▲ 0.1 0.1 ▲ 0.4 ▲ 0.1 2.1 ▲ 3.5 ▲ 1.2 0.2 1.6 ▲ 0.4 0.2 ▲ 0.5 ▲ 0.0 民間最終消費支出 2.3 ▲ 5.0 ▲ 0.0 0.7 0.2 ▲ 0.8 0.4 ▲ 0.9 0.2 民間住宅投資 2.3 ▲ 10.6 ▲ 7.1 ▲ 0.4 2.1 2.3 1.6 ▲ 1.2 ▲ 0.1 民間需要 2015 年 10~12 月期に GDP 比▲1.6%まで拡大した需給 ギャップ(内閣府試算)の縮 小は見込めず、デフレ圧力は 弱まらない。こうした状況に もかかわらず、日銀は 4 月 27 民間在庫品増加 公的需要 4~ 6 1~ 3 ▲ 2.0 民間企業設備投資 成長率が微増にとどまると、 予測 1.3 国内需要 1~ 3 10~ 12 7~ 9 実質GDP 10~ 12 7~ 9 4~ 6 正予算の執行を控えた端境期 にあたるため前期比▲2.0% 2015 0.1 4.5 ▲ 4.0 ▲ 0.3 ▲ 0.1 2.9 ▲ 1.1 0.7 1.5 ▲ 0.9 (▲0.6) (1.2) (▲0.6) (▲0.2) (0.6) (0.3) (▲0.2) (▲0.0) (▲0.1) ▲ 0.2 ▲ 0.5 ▲ 0.6 0.5 0.3 ▲ 0.3 0.9 ▲ 0.2 ▲ 0.1 政府最終消費支出 ▲ 0.1 ▲ 0.2 0.3 0.3 0.2 0.5 0.2 0.6 0.1 公的固定資本形成 ▲ 2.3 ▲ 2.7 1.2 1.0 ▲ 3.0 3.2 ▲ 2.1 ▲ 3.4 ▲ 2.0 財貨・サービスの純輸出 (▲ 0.2) (0.9) (0.1) (0.3) (0.0) (▲ 0.2) (0.3) (0.1) (0.3) 財貨・サービスの輸出 6.0 0.1 1.5 3.2 2.1 ▲ 4.6 2.6 ▲ 0.8 1.3 財貨・サービスの輸入 6.1 ▲ 4.3 0.6 1.1 1.9 ▲ 2.5 1.3 ▲ 1.4 ▲ 0.6 名目GDP 1.4 ▲ 0.0 ▲ 0.7 0.9 2.0 ▲ 0.1 0.6 ▲ 0.2 0.6 (年率換算) 5.5 ▲ 0.1 ▲ 2.8 3.6 8.3 ▲ 0.2 2.6 ▲ 0.9 2.4 (前年同期比) 2.8 1.9 0.5 1.3 2.2 2.1 3.5 2.1 1.0 0.1 2.3 2.0 2.4 3.3 1.5 1.9 1.5 1.1 デ フ レ ー タ ー (前年同期比) (出所)内閣府、予測は当研究所による 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 ~28 日の金融政策決定会合において、市場の期待を裏切る形で追加の金融緩和を見送った。さらに、 「物 価安定の目標」である消費者物価上昇率 12%の達成時期を、これまでの「2017 年度前半」から「2017 年 度中」とし、事実上の先送りをした。 日銀の決定を受けて、ドル円相場は 1 ドル=111 円台から 108 円台へ、日経平均株価は 1 万 6,600 円台へ 600 円強下落した。これらの水準は、いずれも今月前半の、市場が追加の金融緩和を織り込む前の水準で あり、追加緩和の見送りによって状況が悪化したわけではないが、市場の好転により一時高まった景気回 復への期待感を後退させたことは間違いない。当分、日本経済が停滞から脱する手がかりが見当たらない 状況が続きそうである。 個人消費 個人消費は、 10~12 月期の前期比▲0.9%から 1~3 月期は+0.2%へ 2 四半期ぶりのプラスに転じた模様。 耐久財や半耐久財が下げ止まったとみられるが、反発力は弱くリバウンド程度の動き。 住宅投資 1~3 月期の住宅投資は前期比▲0.1%と 2 四半期連続の減少を見込む。先行指標の住宅着工戸数(季節調 整済・年率)は 10~12 月期の 86.8 万戸から 1~3 月期に 94.7 万戸へ増加したが、着工から建設までの時 間差があるため、 それまでの 2 四半期連続の減少による影響を相殺するにとどまった。 着工戸数は持ち家、 貸家、分譲とも大幅に増加しており、低金利が続く下で消費増税を睨んだ動きが出始めている可能性。 設備投資 設備投資は 10~12 月期の前期比+1.5%から 1~3 月期は▲0.9%へ 2 四半期ぶりの減少に転じたとみられ る。先行指標である機械受注(船舶電力を除く民需)は 7~9 月期に前期比▲6.5%と大きく落ち込んだ後、 10~12 月期に前期比+2.6%と増加に転じ、1~2 月平均は 10~12 月期を 6.6%上回っているが、均して 見れば横這い程度にとどまっており、設備投資の一進一退の動きと整合的である。 公共投資 公共投資は、10~12 月期の前期比▲3.4%に続いて 1~3 月期も▲2.0%と落ち込んだ模様。2014 年度補正 予算(2015 年 2 月成立)で具体化された景気対策(地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策)の効果 が剥落していることが背景。 輸出入 1~3 月期の輸出は前期比+1.3%と 2 四半期ぶりに増加したとみられる。財の輸出が、米国向け自動車な どの下げ止まりや EU 向け自動車・船舶の好調を主因に増加。一方、サービス輸出は、旅行分野を牽引役 とした好調が続いているが増勢が徐々に鈍ってきており、前期比では小幅マイナスに。 輸入は前期比▲0.6%と 2 四半期連続で減少したとみられる。財輸入は医薬品や食料品を中心に下げ止ま ったが、LNG などの鉱物性燃料、衣料品の減少が続いた。サービス輸入も貨物輸送を中心に大幅な落ち 込み。 1 生鮮食品を除く総合の前年比。 2
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