学位(博士)論文の和文要旨

学位(博士)論文の和文要旨
論文提出者
主指導教員
氏
名
論文題目
工学府博士後期課程
平成 25 年度入学
学籍番号 13831108
生命工学専攻
氏名 吴 楠
印
黒田 裕
大腸菌の自己溶菌を用いた Gaussia luciferase のスクリーニング
法の開発及びその発光特徴の改変
論文要旨(2000 字程度)
ルシフェラーゼは、バイオイメージングのマーカーとして汎用されている発光酵素で
ある。本博士論文では、近年注目されている海洋生物ガウシア由来の Gaussia Luciferase
(GLuc)を改変するための新規探索法を開発し、赤色偏移の GLuc 変異体を複数同定した研
究を報告した。
第 一 章 で は 、 本 研 究 の 概 略 に つ い て 述 べ 、 研 究 の 意 義 を 示 し た 。 GLuc は
coelenterazine luciferase の一種で、現在同定されているルシフェラーゼの中で分子量が
最も小さいが、発光強度は最も強いため、レポーター蛋白質としてその実用性が近年注目
されている。しかし、GLuc の発光の最大波長は 480nm であるため、生体内バイオイメ
ージングに応用した場合、その発光波長は生体組織に吸収されやすい。そのため、生体組
織に発光波長が吸収され難い赤色発光変異体の開発が重要だと考えられている。しかし、
GLuc の構造はまだ未解明であるため、それの変異体開発に関する研究は十分に行われて
いない。そのため、本研究では、大腸菌における GLuc の変異体の探索(スクリーニング)
を行った。また、探索の効率を向上させるため、大腸菌溶菌蛋白質 VanX を利用し、GLuc
に適用する簡便な探索法の開発も本研究の目的の一つである。
第二章では、GLuc の変異体探索について必要な先行研究を纏めた、GLuc の活性部
位を予測した。まず GLuc に関する大腸菌発現系の構築及び天然状態の折り畳みに関する
研究について論じた。その後、先行研究で解明された GLuc 分子に関する情報:GLuc 分
子は発光活性を持つ 2 つの相同的なドメイン(27-97, 98-168)から成ること、及び発光に
関係する部位であろうアミノ酸が改変された 4 種類の GLuc 変異体の研究を纏め、先行研
究の変異部位はほぼドメイン 1 であることが分かった。そこで新たにドメイン 2 の相同な
部位に同様の変異を導入することで更なる赤色発光変異体が創出できないかと考えた。そ
の後、配列の相同性検索を用い、GLuc の活性部位を予測した。まず BLAST を用いて GLuc
と高い配列類似性を持つ 12 個のルシフェラーゼを選出した。その後、CLUSTAL W を用
いてそれら 12 種類ルシフェラーゼと GLuc 間で保存度が高い領域を探した。その結果、
ドメイン 1 の 52–77 配列とドメイン 2 の 123–148 配列の 2 つの保存度が高い領域が認
識され、各ドメインの活性領域と考えた。また、その両領域間で高い配列類似性が示され、
各領域内にある 4 つのシスティンの配置も類似性が見られた。そのため、両活性ドメイン
内の活性部位の配列も類似していると推測された。また、2011 年キム博士らにより開発
された赤色発光変異体 MONSTA の 4 ヶ所の変異部位中の F72 と I73(ドメイン 1)に対応
しているドメイン 2 の部位として W143 と L144 が保存領域 123–148 配列内に存在し、
これがドメイン 2 の活性部位と予測し、次章の探索法の標的部位とした。
また、本章では赤色発光変異体 MONSTA の 4 ヶ所の変異 F72W, I73L, H78E,Y80W
を 本 研 究 室 に よ り 構 築 し た 野 生 発 光 特 性 を 持 つ 変 異 体 GLuc-TG に 導 入 し 、
GLuc-MONSTA を構築した。発現精製後の GLuc-MONSTA は 8nm 赤色偏移した波長を
示した。GLuc-MONSTA を GLuc の探索の鋳型とした。
第三章では、先行研究によって開発された VanX の共発現溶菌系を最適化し、GLuc
のように外部からの基質を必要とする酵素の探索に適した溶菌探索法を開発した。その探
索法は VanX と GLuc を共発現させ、VanX による溶菌作用で培地に漏出した GLuc の発
光活性を培地中で測定する方法である。共発現溶菌法で測定した GLuc (GLuc-TG 及び
GLuc-MONSTA)のスペクトルと通常の発現・精製後に測定したものが重なることが確認
され、溶菌後に培地中で測定した結果の精度を証明した。また、19 個の個々のコロニーを
種として共発現させた培地から回収した GLuc の発光波長が最大 1.5nm の差があったた
め、これをこの系の測定精度と考え、今後の探索で得られた変異体の測定対象は発光波長
が 1.5nm 以上偏移した変異体とすることとした。
その後、最適化した共発現溶菌法を利用し、第二章で予測したドメイン 2 にある活性
サイト W143 と L144、及び他のドメイン 1 内の活性部位と配列類似性があるドメイン 2
のサイト F113、I114、A149、F151、全 6 か所のランダムスクリーニングを行った。結
果、3nm 赤色偏移した変異体 W143V と L144A が同定された。両変異体を精製し発光波
長を測定した後も同様の偏移を示した。また、変異体 L144A は GLuc-MONSTA より高
い熱安定性を示した。
第四章「結論」では、得られた成果を要約し、本研究の総括を行った。
Re-design Gaussia luciferase using a novel Screening Protocol based
TITLE
VanX mediated Autoysis
NAME
Nan WU
ABSTRACT
This thesis is composed of four chapters. Chapter 1 is a summary of current
research on Gaussia luciferase (GLuc) and bacterial lysis. It ends by giving the aim
and significance of this research: Establish a convenient protein screening protocol
using VanX mediated mild bacterial lysis, and apply this protocol to improve
GLuc´s bioluminescence characteristics.
In chapter 2, I review all literature focusing on GLuc domain analysis and
mutagenesis redesign. I also review the bacterial production of natively folded
GLuc with special emphasis on its disulfide bond formation. After that, I discuss
and predict the domain structure and location of the catalytic region based on
literature and on bioinformatics analysis. The mutation sites of W143 and L144
were selected out of potential active sites in the second catalytic domain. In this
same chapter, I bacterially expressed and characterized the bioluminescence
activity
of
reported
GLuc
variants
GLuc-MONSTA
and
demonstrated
GLuc-MONSTA exhibits an 8nm red-shift luminescence spectrum compared with
that of GLuc-TG (wild type wavelength) under strictly controlled in vitro conditions.
In chapter 3, I report a novel bacterial screening protocol based on a prior
study which established a co-expression autolysis system. In this protocol, the
target protein GLuc was co-expressed with VanX, an enzyme which mediates
Escherichia coil (E.coli)´s autolysis, resulting in GLuc being released into the
culture medium. The luminescence of GLuc was conveniently measured from
crude medium without any cell breakage. I proved this protocol was able to detect
luminescence wavelength shifts as small as 1.5nm. The performance and
versatility of this protocol was demonstrated by applying it to a semi-rational
search for GLuc variants with red-shifted bioluminescence. Six GLuc’s sites, F113,
I114, W143, L144, A149 and F151, were randomly mutated, and for each site, 50
colonies were cultivated in 3mL samples, from which bioluminescence was
measured without purification. I identified a GLuc single mutation variant L144A
that further red-shifted than the GLuc-MONSTA variant. Furthermore, the
bioluminescence and biophysical characterizations of HPLC purified variants
indicated that L144A’s thermal stability was higher than that of any of the other
GLuc variants, making it suitable for high temperature bio-imaging applications.
In chapter 4, all results are briefly summarized.
学位(博士)論文の和文要旨
論文提出者
主指導教員
氏
名
工学府博士後期課程 生命工学
専攻
平成 24 年度入学
学籍番号 12831105(15891002) 氏名 Kulkarni Manjiri Ravindra 印
黒田 裕
Structural and biophysical study of Dengue envelope protein domain 3.
論 文 題 目 (デング熱ウイルス・エンベロープ糖タンパク質・第 3 ドメインに於ける構
造的・生物物理学的解析)
論文要旨(2000 字程度)
本博士論文では、デング熱ウイルスのエンベロープ糖タンパク質・第 3 ドメイン(E3D)の
結晶構造解析及び種々生物物理学的な解析を用いて、ウイルス型における局所構造の変形
及び抗体認識の特異性を議論した。本博士論文は 4 章から成っている。
第 1 章では研究の背景を述べている。蚊によって媒介されるデング熱に対して現在のとこ
ろワクチンもなく、東南アジアなど広い地域で公衆衛生問題となっている。デングウイル
スは、デング 1~4 の 4 つの血清型に大別される。デング熱初感染の後、他の血清型ウイル
スに感染すると、交差反応によって致命率が5%とも言われるデングショック症候群を発
症することがある(倉根一郎、ウイルス、2001 年など)。抗体認識に直接関わるデングウ
イルスのエンベロープ糖タンパク質(以下、E タンパク質)は 3 つのドメインから成って
おり、その第 3 ドメインに(以下、ED3)に抗体結合部位及び受容体結合部位が座位すると
されている。E タンパク質の配列類似性は、70~90%と高く、全型で同じフォールドを形成
する。E3D はβ1 からβ9 と命名された 9 本のβストランドから成る Immunoglobulin-like
構造を形成する。さらに、デングウイルスの E3D には、エピトープ 1(304-312)とエピトー
プ 2(379-390)という 2 つの抗体結合部位が同定されており、それぞれ、β1(304-312)と
β9(379-390)と重なる(Hung, J.J., 2004、J Virol.)
。
第 2 章では、デング 3 型と 4 型のエピトープ領域を入れ替えた E3D 変異体を 6 種類作製し、
交差反応を、それぞれの変異体の免疫応答実験と ED3 の立体構造を基に議論した。DEN3 と
DEN4、エピトープ1及び2を互いに置換した計 8 種類(野生型 2 種類を含む)の変異体に
対して免疫応答実験を行った。その結果、DEN3 型 E3D 及び DEN4 型 E3D に対して血清型特
異的な免疫応答を観測した。さらに、DEN3 型ではエピトープ 2 が、DEN4 型ではエピトー
プ1が免疫応答の特異性に大きく寄与すると推定された。最後に、著者は、DEN4 型の E3D
のエピトープ 2 を DEN3 型の配列に置換した DEN4_E2DEN3 変異体を大腸菌で大量発現させ、
立体構造を 2.7Å の分解能で決定した。さらにエピトープ領域を置換した残りの 5 種類の変
異体の構造を分子モデリングし、血清との相互作用を議論した。
第 3 章では、デング 3 型と 4 型で見られる変異の中で、Val310Met と Ile387Leu 置換に注
目して、両血清型の構造安定機構を議論した。先行研究で、デング 3 型の配列の 310 番の
残基をデング 4 型のメチオニンに置換したところ、その安定性が大きく低下していること
を解明した。さらに、デング 3 型 ED3 の高分解能構造に Val310Met を導入した変異体モデ
ルから、Leu387 と Met310 間が衝突し、熱安定性を低下させていると推定されている。一
方、デング4型では、L387 を Ile に置換して側鎖原子間に衝突は発生しなく、野生型とほ
ぼ同じ安定性を維持すると側鎖の分子モデリングによって予測された。さらに申請者は、
野生型デング 4 型 ED3 に Leu387Ile を導入した DEN4‗ED3_L387I 変異体を作製し、円偏光二
色性分光を用いて安定性が低下していないことを検証した。また、DEN4_ED3_L387I 変異体
の X 線結晶構造を決定したところ、分子モデリングで予測した側鎖構造(ロターマー)が
X 線結晶構造と 0.3A の精度で一致していた。一方、主査構造が置換残基の周辺で変形して
いることは原子間衝突のみを指標に用いたモデリングでは予測できなかった。
第 4 章では、第 2 章と第 3 章の結果を纏め、それに基づく研究の展望を述べた。本研究に
よって、エピトープ領域を置換することで ED3 の構造および免疫応答への影響を実験的な
変異体解析を初めて報告された。さらに、本研究では、DEN4_E3D_L387I の高分解能構造
を決定することで、主鎖構造(フォールド)の居所的な構造変形が観測され、側鎖の全原
子を観測することで、タンパク質の安定性を議論することが可能になることを示したこと
も独創的な点であり、今後、本手法がデング以外のタンパク質へ応用されると期待される。