最小ガウシアルシフェラーゼの作製 黒田研究室 学籍番号:12251004 石山 幸樹 【背景・目的】 海洋性プランクトンのカイアシ類 Gaussia princeps 由来のガウシアルシフェラーゼ(Gaussia Luciferase, GLuc) は発光強度が強く、その反応は ATP に依存しない。また分子量は 19.9 KDa と他 のルシフェラーゼより小さい。これらの特徴から次世代のレポータータンパク質として期待されてい る。その一方でガウシアルシフェラーゼ は構造が未知であるので先行研究では NMR による帰属が行わ れた。その際にゆらぎが大きく、構造決定の妨げの原因となっていると考えられたプレ配列部分を削 除した最小ガウシアルシフェラーゼを作製した(DelGLuc)。DelGLuc と従来の変異体との発現量を比較 し、その利用価値について検討を行い最小ガウシアルシフェラーゼの可能性を示した。 【研究方法】 本実験では先行研究で作製された GLuc 中のレアコドンを大腸菌向けのコドンに最適化した GLuc(Optimized-GLuc) を元にプレ配列のコード領域を削除した (opti-DelGLuc) を作製した。 Opti-DelGLucとOpti-Glucについて5mlスケールの試験管培地を用いて大腸菌株に JM109 (DE3),JM109 pLyS,BL21 (DE3),BL21 pLys を使用し SDS-PAGE により発現量を比較した。その際に Opti-DelGLuc お よびは Optimized-GLuc は発現しないことが判明したため、GLuc 中のレアコドンを一部最適化した変 異体 (9-Opti-GLuc)と GLuc を用いて BL21 (DE3) をホストセルとし形質転換を行い 2L 容量の LB 培地条件下での発現量を比較した。 【結果及び考察】 Optimized-GLuc および本実験で作製した Opti-DelGLuc は大腸菌株に JM109,JM109pLyS, BL21 DE3,BL21 pLys を使用した 5ml スケール LB 培地条件下では発現が確認されなかった。 Optimized-GLuc およびOpti-DelGLuc ともに 5mL ス ケールでは発現しなかったことから、今回削除した プレ配列のコード領域が発現量に関係のある部位か どうかを決定することができなかった。 2L 容量の LB 培地ではレアコドンを一部最適化し A た変異体 (9-Opti-GLuc )の発現量は 2.98 mg 、最 適化前の GLuc は 1.66 mg でった。GLuc 中のレア コドンの一部を大腸菌向けに最適化したことにより 従来の GLuc よりも発現量は 1.8 倍に増加した。 Optimized-GLuc および Opti-DelGLuc が発現しな いことから Optimized-GLuc のプレ配列部分を削除 することでは構造決定に有力な最小 GLuc を作製す ることは困難であったが、2L 容量での発現量を増加 させることに成功したことが確認された9-OptiGLuc を鋳型とした最小化 GLuc の作製を行うことによっ て GLuc の構造決定を進めることのできる可能性を 示した。 B 図 1 HPLC のチャート (A:最適化前の GLuc B:9-Opt iGLuc) BPTI 変異体を用いたアミノ酸の溶解傾向性の測定 黒田研究室 学籍番号:12251017 岡本 紳太郎 【背景・目的】 タンパク質の産業的利用でしばしば問題となるのが凝集体の形成である。本研究室では、単純化したウシ 膵臓トリプシン阻害タンパク質 ( BPTI ) 変異体の C 末端に、SEP タグと呼ばれる、グリシン 2 残基を同一 種類のアミノ酸 5 残基とつなげたタグ(あるアミノ酸 X を用いた SEP タグを付加した BPTI を C5X と呼ぶ) を付加し、溶解性への影響を調べてきた。先行研究において、塩析を起こさせるために硫酸アンモニウムを 用いて 16 種類の異なるアミノ酸による SEP タグ付加による BPTI の溶解性変化が測定されたが先行研究 では C5I、C5L、C5V、C5Y などの難溶性タグはほとんど沈殿してしまった。そこで本研究ではより塩析の 強さが低いとされている塩化ナトリウムを用いることで難溶性タグの影響を中心に解析した。 【研究方法】 BPTI変異体をpH 4.7 および pH 7.7 の 2つの条件下でタンパク質濃度を変えたサンプルをそれぞれ調整 した。C5I、C5L、C5V、C5Y、C5H、C5P、C5D、C5R、そしてタグを付加していない C2G を終濃度 300m M の NaCl で凝集を促進させて 25℃で一定時間静置し、遠心分離 (20min, 20000g, 25℃) した後の上清のタ ンパク質濃度を測定した。なお、静置時間は 20 分、2 時間、6 時間、12 時間、24 時間、48 時間で行った。 そして測定した上清濃度を各変異体の溶解性とした。先行研究の結果と比較するため、Transient Solubiilty (TS)、Aggregation Initiation Concentration (AIC)、Long-term Solubility (LS)測定した。 AIC は、48 時間静置した 後沈殿が見られない最も高いタンパク質濃度で、LS は 48 時間静置した後上清のタンパク濃度が一番低い 濃度のことである。 TS は、20 min での測定で上清画分のタンパク質濃度が最も高い濃度のことである。 【結果及び考察】 先行研究ではすべて沈殿してしまい差が見られなかった難溶性タグについては、時間経過により凝集が観測 された(上清画分のタンパク質濃度の低下が見られた)ので図 1 に TS、AIC、LS の値をそれぞれ示した。 難溶性タグ以外を付加したタンパク質の溶解性は時間経過により凝集が観測されなかった。TS、AIC、LS の値を定めることができなかったので図 2 に 48 時間後の上清濃度の値を示した。図 1 から pH7.7 において C5V、C5Y、C5L、C5I で TS、AIC、LS において差が出ていた。C5L、C5I と比べて C5V、C5Y は上清濃度 が高かったが、炭素鎖が短く C5V は疎水性相互作用の働きが弱いこと、また C5Y は OH 基があって水素結 合を形成しやすいことが影響していると示唆された。また、図 2 から C5R、C5P、C5H、C2G、C5D の順に 溶解性が高く、先行研究における、pH7.7 1.3M Ammonium Sulfate 下の LS の順番は C5R、C5D、C2G、 C5P、C5H であり、C5D において大きな違いが見られた。C5D については、低イオン強度では遮蔽効果が 小さくなるので、静電相互作用の影響が疎水性相互作用の影響よりも強くなったためタグの負電荷と BPTI 表面の正電荷が引き合い凝集したと考えられた。今回の研究で、先行研究ではできなかった難溶性タグにつ いての SEP タグの影響の測定、そして低イオン強度で測定することで先行研究よりも生理条件に近い状態 での SEP タグの影響を解析できた。 図1 図2 短いペプチドタグを付加したデングウイルス由来エンベロープタンパク質第3ドメインの物性評価 黒田研究室 学籍番号:12251031 佐々木 英之 【背景・目的】 デングウイルス由来エンベロープタンパク質は三つのドメインから構成され、特に第 3 ドメイン(ED3) はエピトープ領域を持っている。そのため、デングウイルスの免疫機構などを解明するうえで重要であると 考えられる。 本研究室では会合状態など物性の違いがデングウイルスの免疫応答にどのような影響を与える のかに注目している。この研究を行う上で ED3 の物性を変化させることが重要であるが、先行研究におい てタンパク質への短いペプチドタグの付加が溶解度や会合状態に影響を与えることが示唆されている。そこ で、本研究では、DEN3ED3(D3)と DEN4ED3(D4)の C 末端に同一数残基のアミノ酸を付加したタンパク 質を用いて DLS(動的光散乱法)、SEC(サイズ排除クロマトグラフィー)により測定し、物性の違いを評価し た。 【研究方法】 D3 と D4 の C 末端にリンカーとしてグリシン 2 残基を付加した変異体(C2G)、さらにその先に同一アミノ 酸を 3 残基もしくは 5 残基を付加した変異体(C3I,C5D,C5K)を用いた。そして、タンパク質濃度 0.8mg/ml、 5mM リン酸バッファー(0mMNaCl,100mMNaCl 又は 300mMNaCl を含む PH7.3)のサンプルを用意した。こ れらを 25℃もしくは 37℃で1時間インキュベーションした後、20 分間遠心(20000g,25℃又は 37℃)をし、そ の後、DLS で平均分子サイズ、SEC(300mMNaCl のみ)でダイマーの割合とテトラマーの割合を計測した。 【結果及び考察】 まず、DLS の結果は図 1 と図 2 のようになった。グラフを見ると、D4 では 25℃、37℃ともにタグの付加、 塩濃度の違いによる分子サイズの違いは見られなかった。これは、D4 は結晶構造においてダイマーを形成 していることが予測されているが、このダイマーが非常に安定であるためであると考えられる。D3 におい ては、全体的な傾向としては、25℃に比べ 37℃の方が平均分子サイズが大きくなっている。次に SEC では 分子量からダイマーの割合とテトラマーの割合を求めたが、D3 と D4 ともに C5D においてダイマーの割合 が低くなっていることが分かった。D3(等電点=pI 7.94)、D4(等電点=pI 7.96)ともに塩基性タンパク質である が、これに酸性のペプチドタグを付加したことにより、 タグと静電的相互作用をしており、不安定になっ ていることが考えられる。また D3 においては 25℃より 37℃でダイマーの割合が減少しテトラマーが増加 する傾向が見られたが、D3C5K は 37℃でもダイマーが高い割合で存在しテトラマーをほとんど形成しない ことがわかった。 C5K は C5D とは異なり、 塩基性タンパク質に塩基性タグを付加していることになるので、 静電的な反発がテトラマー形成を防いでいることが示唆される。 DLS と SEC の結果を統合すると、D3 については 25℃に比べ 37℃の方がテトラマーを形成している割合 が大きくなり、平均分子サイズが大きくなっていることが分かった。D4 については 25℃でも 37℃でもタグ の種類に関わらずダイマーの割合が高いままで平均分子サイズが大きくなることはなかった。以上から、本 研究での目的であるタグの付加による会合状態などの物性の変化はあまり見られなかった。今後の課題とし ては今回とは異なるアミノ酸タグを付加し、会合度の変化を確かめることが必要である。 図 1 25℃でのDLS(平均分子サイズ)とSEC(ダイマーとテトラマー割合)の結果 図 2 37℃でのDLS(平均分子サイズ)とSEC(ダイマーとテトラマー割合)の結果 格子モデルを用いたアモルファス・アミロイド凝集のシミュレーション 黒田研究室 学籍番号:14251502 河村 直樹 [背景・目的] タンパク質凝集はタンパク質工学、創薬、疾病など様々な領域で問題となる。しかし、凝集はタンパク質の 種類、pH、温度などの条件に左右されるため物理化学的な解明が難しい。また、そのメカニズムの理解は実験 的な手法のみでは困難なため、シミュレーションによって分子レベルでの解明が期待される。タンパク質の研 究で用いられる代表的な計算手法として分子動力学シミュレーションがあるが、多体問題のため、長い時間を かけてサンプリングしなければならない。高速なシミュレーションの一つに格子上のみで粒子を動かす格子モ デルが挙げられるが、凝集(特にアモルファス)には応用されていない。そこで、本研究では、タンパク質凝集 の普遍的な性質を理解することを目的とし、格子モデルを用いて凝集現象の再現・観察を行った。 [研究方法] 周期境界条件を適用した一辺 30 の立方格子に、格子上に粒子をランダムに配置して初期状態とした。粒子 は立方体と同じ 6 つの面をもっていると仮定した。この 6 つの面の内 2 つの面(互いに平行)を水素結合可能 な面とした(図 1)。粒子はその場で回転可能であり、粒子の中心を通る x , y , z 軸に平行な回転軸を中心に 90° の単位で回転する。シミュレーションは粒子の移動、エネルギー計算、状態の採択を 1 ステップとして、これ を繰り返した。粒子の移動:粒子をランダムに 1 つ選び、移動しない場合と上下左右前後の 7 通りの中からラ ンダムに方向を決定し移動させた。移動した場合ランダムに回転する。この移動後の状態を提案状態とした。 エネルギー計算 : 疎水性相互作用・ファンデルワールス力を模した引力(以下、近距離力)と水素結合を模した 引力(以下、水素結合力)の 2 種のエネルギー項を用いた。前者は、粒子が隣接していれば エネルギーが減少 する。後者は水素結合面同士が結合した場合のみエネルギーが減少する。状態の採択 : メトロポリス法を用い て、移動前と移動後のエネルギー差と系の温度から遷移確率を算出し、その確率で提案状態を採択した。シミ ュレーションは複数の温度で行った。 近距離力を - 40 に固定した。 水素結合力は 0 から - 200 , 20 刻みの 11 条 件でシミュレーションを行った。 [結果・考察] いくつかの条件のスナップショットを示す(図 2)。近距離力のみのシミュレーションである(A)では球状のク ラスタが出来ていた。また粒子の方向はランダムでアモルファスな凝集と言える。水素結合力 -100 を加えた (B)では 1 方向に伸びているクラスタが出来ていた。方向はほぼ全て同じ方向を向いており、繊維状の凝集と言 える。図 3 は最大クラスタサイズを示す温度でのシミュレーションによって出来た最大のクラスタの方向の平 均情報量(シャノンのエントロピー)を水素結合力ごとに比較したものである。- 40 から -100 で急激にエントロ ピーが減少しており、方向が揃い出している。また、系内のクラスタの大きさの指標である平均クラスタサイ ズを算出した。0 から - 100 の平均クラスタサイズの最大値はほぼ同じだった。そのため、この区間でクラス タの性質が転換している。このモデル上では近距離力 : 水素結合力 = 1 : 2 程度の時にアミロイド・繊維状の クラスタができやすく、結合力の比が比較的小さくても繊維が出来ることが初めて分かった。 (A) kx ~ky ~kz アモルファス凝集 kz kx k y 図 1. 粒子の模式図 (B) kx >ky ,kz 繊維状凝集 図 1. 粒子の例 図 2. スナップショット 図 3. 平均情報量の水素結合力ごとの比較
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