複数のテトラペプチドを用いた全原子分子動力学シミュレーションによる アモルファス凝集の解析 L0023-06 氏名 佐藤 雄士 主査 黒田 副査 朝倉・養王田・中澤・中村(徳) [ 背景・目的 ] ペプチドの凝集性はアミノ酸の親水性や疎水性、総電荷、部分電荷によって決まる。これらはアミ ノ酸側鎖の種類による性質であると考えられている。分子動力学シミュレーション(以下 MD)は一 般的に分子凝集体の熱力学量や時間依存性に関する様々な物理量を分子レベルで解析する事で、メカ ニズムを裏付ける手法として用いられる。しかし、現在、凝集の MD シミュレーションはアミロイド 形成の解析が中心で、複数の分子を用いたアモルファス凝集の解析に焦点を絞ったシミュレーション は、計算量の問題などにより行われていない。そこで本研究では MD シミュレーションを用いてアミ ノ酸の種類による性質の違いが凝集に及ぼす影響を分子レベルで解析することを目的とした。 [ 方法 ] Gly, Cys を除く 18 種類のアミノ酸を用いて、同一アミノ酸 4 残基から構成されるモデルペプチドを 作成し、C 末端を N -メチル化、N 末端をアセチル化した。モデルペプチドを 1 辺約 104 Å の立方体 の中に等間隔で 27 分子配置し、約 30,000 個の水分子で満たした系(濃度約 40 mM)を初期状態とし た。計算は MD シミュレーションソフトウェアパッケージ Amber 8.0 を用い、理化学研究所の MD シ ミュレーション専用計算機 MD-GRAPE3 を使用した。1 atom、300 K の条件下のもとでシミュレー ションを 100 ns 行い、10 ps 毎に出力される座標データやエネルギーデータの解析を行った。また、 アミノ酸の凝集性を評価するために、各ペプチド間の最も近い原子間の距離が互いの原子の van der Waals 半径以下の場合、両ペプチドがクラスターを形成すると定義した。 [ 結果および考察 ] I, V, L, N, Q, F, Y, W, M, H からなるペプチドは 23 ~ 27 分子のクラスターを形成した。一方、E, D, R, K はクラスターを形成せず、T, A, P, S は一部のペプチドがクラスターを形成していた(図 1)。クラスタ ー形成メカニズムを解析すると、R, K, D, Q では静電エネルギーによる反発が大きく、N, Q, S, T では 側鎖が関与するペプチド間の水素結合が確認され、結合による安定化がクラスター形成へ影響してい ると考えられる。さらに二次構造の解析により、ほとんどのペプチドがランダムコイルであることか ら、このクラスターはアモルファス凝集であることが確認された。これらのことから電荷の有無や側 鎖の構造といったアミノ酸による違いがクラスター形成に影響を及ぼしていることが示唆された。 また、本計算結果を実験的な溶解性の指標と比較した。図 1 において、クラスター形成が安定する 80 ~ 100 ns 間のクラスターサイズの平均を本研究の溶解性の指標とした。図 2 より、本計算の指標を Hydrophobicity(Nozaki, 1971)と比較すると、全てのアミノ酸で同様な傾向が見られた。その他の溶解 性の指標との比較でも、I, V, L や P, Y, W などで同様な傾向が確認できた。この結果は、本計算の指摘 を裏付けることに加え、アミノ酸の溶解性が本シミュレーションによって再現できたことを示唆する。 本研究から、アミノ酸の種類による分子間静電エネルギーや水素結合の違いがクラスター形成に寄 与し、このクラスター形成は親水性や疎水性といった性質をよく反映していることが明らかとなった。 図 1 各モデルペプチドの平均クラスターサイズ 図 2 実験的なアミノ酸溶解性の指標との比較 格子モデルを用いたタンパク質凝集のシミュレーション L0023-07 氏名 鈴木 涼祐 主査 黒田 副査 朝倉・養王田・長澤・中村 (徳) [ 背景・目的 ] タンパク質の凝集は、基礎研究から工学的応用まで幅広い領域で問題となる。凝集はタンパク質の 種類や溶媒条件に左右されるため、統一的な理解が難しい。そこで、計算手法を用いることで凝集の メカニズムが分子レベルで解明されることが期待される。生体分子の研究に用いられる代表的な計算 手法として分子動力学シミュレーションがあるが、複数のタンパク質を扱う場合は長大な計算時間が かかる。計算時間の少ないシミュレーションとしては、格子上のみで分子を動かす格子モデルが存在 する。本研究では、迅速な凝集の再現・観察を目的とし、粒子をタンパク質などの生体分子と想定し た格子モデルのシミュレーション手法を開発した。 [ 方法 ] シミュレーション条件:周期境界条件を適用した一辺 30 の立方格子に、模式図で示すように格子 上にランダムに粒子を配置し、それを初期状態とした(図 1)。濃度は粒子数を全格子点数で割った値 とし、シミュレーション中は濃度を一定に保った。粒子の移動:ランダムに選んだ一粒子に対して、 移動しない場合を含め 7 通りの中からランダムに方向を決定し、格子上を 1 点移動させた。既に粒 子が存在する格子点には移動しないものとした。クラスタの定義:隣接した粒子の塊をクラスタと定 義した。エネルギー:近距離間の引力と遠距離間の反発力の二種類のエネルギー項を用いた。二つの 粒子の場合、引力は、粒子が隣接していれば -100、隣接していなければ 0 が系全体のエネルギーに 加算される。反発力は 0 ~ 15 の設定した値を粒子間の距離で割った値が加算される。状態の採択法: メトロポリス法を用いて、状態間のエネルギー差と系の温度から遷移確率を算出し、その確率に従っ て移動後の状態を採択した。遷移確率はエネルギーが安定化する遷移では 1 となるが、エネルギーが 不安定化する遷移では、温度が高いほど遷移確率も高くなる。シミュレーションの各ステップは、粒 子の移動、エネルギー計算、遷移確率による状態の採択、の順で行った。 [ 結果・考察 ] シミュレーションは、エネルギー項を引力のみ、引力・反発力の両方を用いた場合の二通りに対し て、複数の濃度、温度の条件で行なった。ここでは、引力のみの結果を示す。代表的な条件の最終状 態のスナップショット(図 2 A, B)と、各濃度で、温度の逆数をとった逆温度を横軸とした平均クラ スタサイズのグラフ(図 3)を作成した。一条件あたりの計算時間が最短 16 秒、最長 102 分であっ たため、多くの条件で計算を行うことができた。凝集の指標としてモノマーの割合、クラスタの数な どを調べたが、ここでは粒子が形成する平均クラスタサイズについて報告する。平均クラスタサイズ は、高温 (C)・低温 (A) で低く、その間の温度 (B) で高くなっていた。(B) の条件に注目すると、濃 度においても平均クラスタサイズの急激な上昇が見られた。濃度 0.3% 以下ではほぼモノマーである のに対して、0.4% 以上の場合には巨大なクラスタが形成されていた。このような急激な上昇は、モノ マーから凝集体への一種の相転位のためだと考えられる。また、このような変化は、低温・高温では 見られなかったことから、温度条件も同様に重要であることがわかった。以上のように近距離の引力 だけを用いた単純なモデルにおいても凝集への相転位と考えられる性質が見られたことから、本研究 の目的は達成できたと言える。 (A) (B) (B) (A) (C) 図 1 格子モデルの 模式図 図 2 スナップショット 図 3 平均クラスタサイズ プロジェクト研究発表 要旨 BP発表、 学位論文発表、 中間発表、 CS、 FS、 IS (該当するものに丸印) 発表日: 平成 27 年 2 月 15 日 学籍番号:13648013 氏名:鈴木 郁也 主指導教員:津川 若子 副指導教員:黒田 裕、早出 広司 プロジェクト研究プログラム(該当項目に丸印): 技術開発実践型 技術開発プランニング型 発表タイトル:NMR 構造解析へ向けた 13C15N 標識ガウシアルシフェラーゼの精製法の開発(公開・非公開) 【背景・目的】 様々な生物で観測される生物発光を触媒するルシフェラーゼは、細胞内イメージングにおけるのレ ポータータンパク質としてしばしば利用されている。現在は、ホタル由来のルシフェラーゼが最も普 及しているが、海洋性甲殻類 Gaussia princeps 由来のルシフェラーゼ(Gaussia Luciferase, GLuc) は高い発光能や小さな分子量を持っている事から次世代レポータータンパク質として期待さ れている。一方、GLuc は構造未知である事から変異体作成が進まず、応用範囲で劣るという問題 がある。そこで本研究では NMR を用いた GLuc の立体構造解析へ向けて、標識 GLuc の調整法を 確立し、NMR の予備測定を行う事で GLuc の立体構造解析の可能性を示した。 【実験概要・結果】 NMR 測定を行うには大量の標識サンプルが必要になる為、大腸菌を宿主とした上で、安定同位 体で標識する為の貧栄養培地である M9 培地での大量発現が必要になる。本研究ではそれらの培 養・精製条件の最適化を行い、最適化前に比べ菌体当たりの収量を 2 倍まで増加、5ml スケールで は M9 培地を用いた場合の菌体当たりの収量を LB 培地での場合と同レベルまで引き上げる事に成 功した。NMR 測定は理化学研究所(横浜)NMR 施設との共同研究で行った結果、約半数の 90 残 基の HSQC におけるクロスピークの帰属が終了した。また化学シフトからそれぞれの残基の一部二 次構造を同定した。今後は HSQC を用いて、GLuc-基質結合体から活性部位の特定を行う予定で ある。以上の事から、今後 NMR による GLuc の立体構造解析への道筋は示す事が出来たと考え る。 A B Fig 1 A:GLuc の 15N-HSQC B:A の一部拡大図
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