記者会見要旨 日 時: 平 成 28 年 4 月 20 日 ( 水 ) 午 後 2 時 30 分 ~ 午 後 3 時 15 分 場 所: 東 京 証 券 会 館 9 階 第 1 ・ 2 会 議 室 出 席 者: 稲 野 会 長 、 森 本 副 会 長 、 岳 野 専 務 理 事 冒 頭 、森 本 副 会 長 か ら 自 主 規 制 会 議 の 審 議 事 項 等 の 概 要 に つ い て 、 岳野専務理事から証券戦略会議の審議事項等の概要について、説明 が行われた後、大要、次のとおり質疑応答が行われた。 (記者) 熊本地震による企業業績の下ぶれ懸念や、原油安、円高など、日 本の株市場を取り巻く状況が不安定になっている。足元の経済情勢 とそれらが証券市場に与える影響について、どう考えるか。 (稲野会長) ま ず 、4 月 14 日 以 降 に 発 生 し た 熊 本 地 震 に よ り 、犠 牲 に な ら れ た 方々に深く哀悼の意を表するとともに、被災された皆様に心よりお 見舞い申し上げる。 まず最初に、熊本地震における現地証券会社の状況と日証協の対 応について、簡単に報告させていただきたい。 熊 本 県 内 に あ る 証 券 会 社 の 店 舗 数 は 9 社 14 店 舗 、大 分 県 内 に あ る 証券会社の店舗数は8社8店舗である。 現在、熊本県内に店舗がある証券会社の社員はすべて安否確認が 取れている。また店舗等に大きな被害、影響は出ていない状況であ る。ただし、水道・電気・ガス等のライフラインに被害が出ている ので、一部出社できない社員もいると聞いている。一方、大分県内 の証券会社も同様に問題はない状況である。 顧客取引への影響については、システムは問題なく稼働している ため、顧客から滞りなく注文受注ができており、また人的な対応も なされている。 1 日証協の業務への影響としては、証券外務員資格試験の運営にお いて、熊本試験会場の建物の安全確認が出来ていないことから、今 週は試験等の実施を見合わせており、来週以降の開催の可否は、今 週中に判断する予定である。 被災者への対応と措置については、財務省九州財務局長より、災 害救助法が適用された熊本県内の被災者に対し、「金融上の措置」 を 適 切 に 講 じ る よ う 要 請 が あ り 、日 証 協 か ら も 会 員 に 対 し て 周 知 し 、 さらに日証協のホームページにも掲載している。「金融上の措置」 とは、本人確認の柔軟化や預かり有価証券等の売却代金等の即日払 い出しがあった場合に可能な限り払戻しに応ずる等であるが、詳細 は日証協のホームページで確認されたい。 続いて、ご質問のマーケットへの影響等についてお話ししたい。 まず、熊本地震の被害が大きくなり、特にサプライチェーンの混乱 により、自動車生産が一時的に止まるなど、影響が広がっている点 は懸念している。 海 外 の 状 況 を 見 れ ば 、 2 月 の 上 海 G 20 財 務 相 ・ 中 央 銀 行 総 裁 会 議 前後から、米国のドル高容認姿勢が後退し、FRBのハト派化の進 展等によるドル安・円高のトレンド、原油価格底打ちなどの事象が 発生した。これらは基本的に米国株にプラス要因である一方、どち らかといえば日本株にはマイナスの要素であり、米国株の回復力の 強さと対照的に、日本株の戻りが鈍いという状況になっている。し かし、米国経済が米国株高にも支えられ、成長力を回復していくの であれば、やや長い時間で考えると日本株にもプラスだろうと思っ ている。 現下の状況に鑑みて、マーケットでは、金融政策、財政政策、成 長戦略という政策対応を期待する声が増していることは事実である。 今 後 の 注 目 点 は 、 3 月 期 決 算 企 業 の 2015 年 度 決 算 発 表 で あ ろ う 。 4月末から5月上旬にかけての決算発表で、仮に企業経営者の慎重 な姿勢が目立つ場合は、株式市場も改めて嫌気する場面があるかも しれないが、その先は景気や企業収益の回復を期待する流れになる と考えている。最後に需給関係を述べると、本年1月から3月に5 2 兆 円 以 上 を 売 り 越 し た 海 外 投 資 家 に 対 し 、 個 人 投 資 家 が 1.4 兆 円 、 公 的 年 金 の 買 い と 推 定 さ れ る 信 託 銀 行 が 2.4 兆 円 の 買 い 越 し と 、 そ れらの存在感が増しているのは心強いと感じている。 (記者) 金融審議会に諮問された市場・取引所を巡る諸問題の中で、ET Fの販売チャネル拡大の議論があることについての受け止めと、も し銀行がETFを販売できることになった場合の課題や留意事項等 があれば伺いたい。 (稲野会長) ETFは、あくまで投資信託の一類型である。もちろん、ネット アセットバリューとは別に取引所で時々刻々と価格形成がされるが、 基本的には投資信託であるという点に鑑みると、銀行は既に投資信 託を取り扱っているため、取り扱うことができないことはないと考 えられる。いずれにせよ、金融審議会等で行われる様々な議論の内 容について、注視していきたい。 一 方 、銀 行 が 仮 に E T F を 取 り 扱 う 場 合 の 課 題 を 挙 げ る と す れ ば 、 時々刻々と価格が変動する上場金融商品の取扱いの経験の蓄積がな いため、対面で販売するのであれば、販売者への人材育成訓練が非 常に重要なポイントとなり、また、システム整備も必要な点であろ う。 その他、一般的に証券会社では信用取引を利用してETFの売買 を行う投資家もいることから、信用取引の利用如何という点も検討 の上でのポイントになろう。 (記者) N I S A 口 座 開 設・利 用 状 況 調 査 結 果 ( 平 成 27 年 12 月 31 日 時 点 ) をみると、順調に増えている項目もあるが、どのように受け止めて いるか伺いたい。また、4月にジュニアNISAが始まったが、ご 存じの限りで足元の状況等を伺いたい。 3 (稲野会長) まずNISAについては、極めて順調に浸透してきていると感じ ている。口座数自体も大きく伸びており、全金融機関では、スター ト か ら 2 年 3 ヶ 月 で お そ ら く 1,000 万 口 座 に 達 し て い る と 推 測 し て いる。買付金額ベースでもおそらく7兆円を超えていると推測して い る 。口 座 開 設 数 の 内 訳 を 見 て も 、当 初 は 60 歳 代 以 上 の 高 齢 層 に 口 座 開 設 が 集 中 し て い た が 、最 近 で は 20 ~ 40 歳 代 の 方 々 の 口 座 開 設 が 伸びており、積立投資についても顕著に増加してきている。以上の ことを総合すると肯定的に評価すべきであると考えている。 次 に ジ ュ ニ ア N I S A で あ る が 、出 足 は 極 め て 鈍 い と 感 じ て い る 。 4月分の口座数はまだ集計できない状況であり、データを持ってい るわけではないためあくまでも推測だが、一部ヒアリングベースの 報 道 等 も あ っ た よ う に 、お そ ら く 4 月 の 口 座 開 設 数 は 10 万 口 座 に 満 たないのではないかと予測している。 しかし、決して悲観する必要はないと思っている。ジュニアNI SAの出足が鈍くなっている要因はいくつかあると思うが、一つ目 は、ジュニアNISAの制度が複雑であり、説明と理解に時間を要 する点である。二つ目は、ジュニアNISA口座が名義口座として 利用されることを防ぐための様々な手続きが定められているため、 必要書類が多くなっており、顧客側にとっても新しい種類の書類を 記入するため、記載ミス等が発生し、書類手続きに時間がかかって いる点である。三つ目は、口座名義人である子どもや孫とは別に資 金拠出者及び運用管理者がおり、最大三者が関係するため、家族間 で一定の調整が必要になり、特に物理的に離れている場合には、な お時間がかかる点である。以上の要因から口座開設までの時間がか かっていると認識している。 現 時 点 で N I S A は 、対 象 と な る 20 歳 以 上 の 人 口 1 億 500 万 人 弱 の 9.5% 程 に な っ て お り 、 い ず れ 10% 台 に 乗 っ て く る と 思 う 。 ジ ュ ニ ア N I S A は 対 象 と な る 19 歳 ま で の 人 口 が 2,200 万 人 で あ り 、何 年 か の 内 に 10% に 到 達 す る な ら ば 200 万 口 座 以 上 で あ り 、 仮 に 平 均 50 万 円 程 度 の 買 付 が 行 わ れ れ ば 、 200 万 口 座 ×50 万 円 で 買 付 代 金 1 兆円という計算となる。最終的にはそこに至ると思っている。すな 4 わち年間1兆円程度の資金流入インパクトがある制度である。もち ろんその1兆円というのは資金流入の規模としても大きいが、子ど もや孫が若年のうちから計画的に目的を持った資産形成が行われて いくことの意義も非常に大きいと思っている。 (記者) N I S A 口 座 開 設・ 利 用 状 況 調 査 結 果 ( 平 成 27 年 12 月 31 日 時 点 ) の、NISA口座における購入額と売却額(累計ベース・年齢階層 別 )に お い て 、20~ 40 歳 代 の 売 却 率 が 30% 以 上 と 全 体 の 売 却 率 と 比 較してやや高いが、この要因は何か。 (稲野会長) 公表資料に記載されている以上の分析は行っていないため、あく までも推測であるが、同調査において、商品別の売却額(累計ベー ス・商 品 別 )は 上 場 株 式 が 多 く 、ま た N I S A 口 座 に お け る 残 高( 年 齢 階 層 別 ・ 商 品 別 割 合 ) で は 、 30~ 40 歳 代 に お け る 上 場 株 式 の 残 高 の 割 合 が 他 の 年 代 と 比 較 し て や や 高 い の で 、そ の 裏 返 し で は な い か 。 (記者) これは個人投資家がアベノミクス相場で値上がりしたことによる 売却と考えられるか。 (稲野会長) NISAの非課税期間5年間において、値上がりしたときに売却 することは当然選択肢の一つである。対象期間の市場環境等を考え ると投資家に利益が発生したことによる売却が大半であると考えら れるが、殊更この割合について論じることはできない。 (記者) 4 月 15 日 に 証 券 取 引 等 監 視 委 員 会 が ク レ デ ィ・ス イ ス 証 券 に お い て法人関係情報の管理に不備がある状況等があったことについて、 行 政 処 分 の 勧 告 を 行 っ た が 、昨 年 12 月 に ド イ ツ 証 券 で も 同 様 の 状 況 5 等により行政処分があった。このことについて、会長の受け止め方 を伺いたい。 (稲野会長) 本件について個別事案につきコメントは差し控えるが、日証協と しては、今後、事実確認を行ったうえで、適切に対処する所存であ る。 日証協においては、「アナリスト・レポートの取扱い等に関する 規則」を制定しており、アナリスト・レポートに対する社内審査義 務、アナリストの独立性の確保、重要情報の管理等を定めている。 同規則においては、法人関係情報や投資者の投資判断に影響を及 ぼすような未公表の情報等を重要情報と位置付け、管理の徹底を求 めている。さらに、アナリストによる情報伝達行為についても、規 範が必要ではないかとの問題意識がある。現在日証協のワーキン グ・グループにおいて検討しているところである。最終的にはこれ ら の 議 論 を 踏 ま え た ガ イ ド ラ イ ン を 制 定 し 、近 い う ち に 公 表 し た い 。 (記者) 本年3月開催のワーキング・グループの議論においては、本年6 月までに何らかの方向性を示したいとのことであったが、それより 早まることはあるか。 (稲野会長) 6月までに公表できればよいが、仮に議論が長引いたとしても夏 頃には公表したい。 (記者) ドイツ証券及びクレディ・スイス証券の事例を踏まえ、アナリス トはどのような役割を果たすべきか、またどのような点を改めるべ きか。 (稲野会長) 6 これら2つの事例においては、アナリスト自身のビヘイビアの問 題と、証券会社における内部管理体制の不徹底という2つの問題が あり、決してアナリストの行動だけが問われているのではないこと をまず申し上げる。 アナリストは、市場のゲートキーピングの役割を果たし、財務諸 表等の公表事実に基づいた情報分析と、個別のヒアリング、ミーテ ィングあるいはIRの場等において企業とコミュニケーションをと ることにより、効率的でコンパクトな投資判断に資する情報を投資 家に届けるという役割を担い、金融資本市場においては欠くことの できないプレーヤーである。マーケットを巡っては情報の非対称性 の問題が存在し、より多くの情報を有する側と措定されるアナリス トは、倫理的に高い行動規範を持つことが求められ、大多数のアナ リストは実際そのように行動していると理解している。ワーキン グ・グループにおいては、アナリストの具体的な行動指針を示すこ とで、アナリストがより活動しやすくなることを目指している。ガ イドラインの制定によってアナリストの行動をいたずらに制約する の で は な く 、調 査 活 動 に よ り 専 念 で き る よ う に な れ ば 理 想 的 で あ る 。 (記者) 金融庁の金融審議会において、高速取引の規制に関しての議論が 始まったが、どう受け止めているか伺いたい。 (稲野会長) 時宜を得たテーマ設定であると思う。実際、我が国においても、 アルゴリズムを用いた高速取引が大幅に増加し ている。 米 国 に お い て は 、 レ ギ ュ レ ー シ ョ ン N M S ( National Market System ) が 存 在 し て 、 複 数 取 引 所 間 で 最 良 執 行 気 配 を 提 示 す る 取 引 所への注文回送義務が明定されている。それに対し日本では、事実 上取引所が東京証券取引所に、あるいはデリバティブは大阪取引所 に集中しているという違いはあるが、そういったことも含め、日本 や欧米の市場・取引所、あるいはそれを取り巻く環境に変化が見ら れる中で、情報技術の革新や欧米の動向を見ながら、幅広い観点か 7 らこのような問題を見つめ直し、議論を行っていくことは非常に意 味があると思う。 実 際 の 議 論 の 中 で 、高 速 取 引 が 、市 場 の 安 定 性・公 正 性・効 率 性 、 投資家間の公平性、システム面、企業価値に基づく価格形成に与え る影響等の論点が提示されており、様々な議論が行われることを期 待したい。 以 8 上
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