要旨 - 日本証券業協会

記者会見要旨
日
時: 平 成 28 年 7 月 20 日 ( 水 ) 午 後 2 時 30 分 ~ 午 後 3 時 20 分
場
所: 東 京 証 券 会 館 9 階 第 1 ・ 2 会 議 室
記 者 数: 20 人
冒頭、森本副会長から自主規制会議の審議事項等の概要について、岳野専務
理事から証券戦略会議の審議事項等の概要について、説明が行われた後、大要、
次のとおり質疑応答が行われた。
(記者)
「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガ
イドライン(案)」についての意義や方向性について見解を伺いたい。
また、これは協会員に所属するアナリストに対するガイドラインだと思うが、
協会員以外のアナリストにとっても、何らかの取材の影響が及ぶのではないか。
(稲野会長)
先ほど、森本副会長から説明があったように、本ガイドラインはワーキング・
グループにおいて、一年半にわたり検討してきた結果であり、いわゆる「早耳
情報」の提供など、未公表の業績に関する情報を、電話やメールなどで一部の
投資家に伝達する行為が行われているということに対して、協会員自身からの
問題提起を受けてワーキング・グループを発足し、検討を開始したものである。
日証協においては、従来よりアナリスト・レポートの作成、公表等の観点か
ら、アナリスト・レポート自体の取扱いに関する社内管理体制などについて規
定した規則はあったが、アナリストの具体的な行動や、アナリスト・レポート
以外の手段による情報伝達行為のあり方については、必ずしも考え方が明確に
なっていなかった。
今回、アナリストの行動やアナリスト・レポート以外の手段による情報伝達
のあり方について、業界の共通認識を確認しながら、どのような形で業界全体
に示していくのかという議論を行い、協会員のプラクティスをガイドランとい
う形で示すこととした。
具体的には、三点であるが、一点目は、アナリストによる発行体への取材に
あたり、未公表の決算期の業績に関する情報について、例外を除いて取材しな
いことを示している。二点目は、意図せず取得した未公表の情報の適切な管理
のあり方について示している。三点目は、アナリスト・レポート以外の手段に
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よる情報伝達行為において、6点の類型ごとに伝達の可否についての考え方を
示している。
本ガイドラインにより、協会員のアナリストの行動や考え方をプラクティス
という形で示すことで、市場の透明性・公正性を確保し、市場仲介機能の信頼
性向上に繋げていきたいと考えている。
なお、詳細については、本会見の後、担当者によるブリーフィングを実施さ
せていただく予定であり、本ガイドラインについては、7月 21 日からパブリッ
ク・コメントの募集を行い、パブリック・コメントの意見を踏まえながら、で
きるだけ早期、9月又は 10 月には確定したいと考えている。
次に、本ガイドラインによる取材等への影響についてであるが、先ほど森本
副会長からの説明にもあったとおり、資料4「協会員のアナリストによる発行
体への取材等及び情報伝達行為に関するガイドライン(概要)」の 12 頁に「本
ガイドラインにより協会員のプラクティスを示すことで、今後、発行体及び投
資者等にも公平かつ公正な情報開示の慣行が定着することを期待している」と
ある。これが文字通り日証協の願うところであり、現段階において、本ガイド
ラインの公表により、発行体あるいは報道関係者の取材活動等について何らか
の支障が生じるとは考えていない。
仮に、もしそのような懸念があれば、パブリック・コメント等を通じてご指
摘いただければ、検討していく所存である。
(記者)
7月 10 日の参議院選挙において与党が勝利したが、その後、株価が上昇し、
円安も進行している。また、アメリカにおいては、ダウ工業株価が連日で史上
最高値を更新したが、この市況の変化について、どのように考えているか。
(稲野会長)
マーケットの推移を振り返ってみると、英国の EU 離脱が国民投票によって決
定された6月 24 日の日本の株式市場は、大幅な株安・円高となった。
英国の不動産ファンドの解約増加や、イタリア大手銀行の経営不振といった
報道も相次ぎ、一時、株価・為替共に乱高下したものの、その後、7月 8 日に
米国の6月の雇用統計が発表され予想を上回る水準であったこと、加えて我が
国においては、参議院選挙で与党が過半数を大幅に上回る議席を獲得し、その
結果、アベノミクスの実績が評価されるとともに、我が国経済の再生に向けた
強い期待が表明された結果となった。
これを好感して株価の回復に向かったわけであるが、参議院選挙後の1週間
(7月 11 日~15 日)の日経平均株価は、1,390 円上昇した。これは週間ベース
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で見ると、1997 年 11 月以来およそ 19 年ぶりの大幅高である。これは、参議院
選挙及び米国の雇用統計の結果等が好感され、英国の EU 離脱が相当程度時間を
要することを含めて、全体的にマーケットにおけるリスク回避姿勢が和らいで
きたと思われる。
一方で、足元の景気は踊り場にあり、世界経済の先行きに関するリスクにつ
いても、英国の EU 離脱のみならず、11 月に控えている米国の大統領選挙及び中
国経済の先行き不透明感など、必ずしも懸念材料が払しょくされたとは言えな
い状況にある。
我が国のマーケットも、従来より国内の要因だけでなく外的要因に大きく影
響される傾向にあるが、少なくとも直近でいえば、今回の参院選での与党勝利
は、引き続き安定した政治態勢のもとで国内の政策が実行されることにつなが
ることから、マーケットにとっても大きなプラス要因であったと思う。
証券業界としても、日本再興戦略の実現に向けて、特にこの戦略に謳われる
「活力ある金融・資本市場の実現」に貢献すべく、引き続き、各施策に意欲的
に取り組んで参りたい。
(記者)
「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行為に関するガ
イドライン(案)」についてお伺いしたい。なぜ規則でなくガイドラインとして
取りまとめたのか。これによって、仮に違反した場合の罰則はどうなるのか。
(稲野会長)
まず、本ガイドラインに違反した場合についてであるが、制定したものはあ
くまでガイドラインであり、罰則の対象とはなっていない。したがって本ガイ
ドラインに違反したからといって、ただちに罰則に結びつくということは言え
ないが、本ガイドラインに違反することによって、日証協の自主規制規則及び
法令諸規則に違反・抵触する場合は、当然罰則の対象となる。
次に、規則ではなくガイドラインとして取りまとめたことについてであるが、
規則という、よりハードな形で設定してしまうと、現実の実務にあった運営が
困難になることから、よりソフトな形としてガイドラインで取りまとめること
になった。
本日配布した「協会員のアナリストによる発行体への取材等及び情報伝達行
為に関するガイドライン(案)」の 12 頁以降に、
「アナリストがアナリスト・レ
ポート以外の手段によって特定の投資者等に選択的に情報伝達を行うことが可
能であると考えられる情報の具体化について」の記載があるが、例示が多数あ
り、さらに、個別業界ごとの具体的な事項に落とし込むと、かなりの類型にな
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るわけである。したがって、当初は、このような形でガイドラインとしてスタ
ートし、さらに中身について今後見直すべき事項があれば、必要に応じて見直
しを加えていくことを考えている。ここでいう見直しというのは、必ずしも規
則化するといっているのではなく、ガイドラインとして進化させていくものと
考えている。
(記者)
アナリストのプレビュー取材がなくなれば、企業業績のコンセンサスの範囲
が広くなり、決算発表におけるサプライズが起こりやすくなることが類推され
る。それにより株価のボラティリティが高くなるなど株価への影響が大きくな
るのではないか。会長の見解を伺いたい。
(稲野会長)
これは何とも言えない。そもそも株価が当該決算期に計上された利益等の財
務情報のみを元に動くかというと必ずしもそうとは言えない。基本的には当期
あるいは直近期の決算というよりは、もう少し長いスパンにおける企業の将来
性が、株式市場において価格形成に影響を与えていると思う。そのような観点
から言えば、当期あるいは直近期の業績というファクターがどの程度大きいか
は、個別企業の置かれたシチュエーションや業績によって異なると思う。業績
のコンセンサスのバンドがこれにより狭まるとは言えないが、それが広がるこ
とにより、サプライズにおける影響が大きくなるかどうかは、この段階では確
たることは言えない。
いずれにせよ、当期あるいは直近期の業績は株価形成の一つのファクターで
ありその点が深刻な影響を与えるとは考えていない。そもそも企業アナリスト
の調査行動は、当該企業の将来の実力収益ベースを予測することにより投資判
断に資する情報を提供することであり、その将来における実力収益ベースの一
番手前にあるものが当期の業績であると理解している。
(記者)
アナリストが「早耳情報」を特定の投資家に提供することは、何が問題なの
か。
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(稲野会長)
情報の非対称性である。ある人が知っていて、ある人が知らない情報が存在
していて、さらにその情報を特定の人にデリバリーすることが、マーケット全
体から見ればその情報が不当利用されていることになるので、市場の公正性・
透明性を損なう問題ある行為であり、公正な価格形成に資することにならない。
要するに他の投資家から見た時に非常に問題があることになる。
(記者)
アナリストが自身の努力で企業から未公表の決算情報を取得し、それを広く
レポートという形で一般の投資家に伝える行為も不可か。
(稲野会長)
そのような場合には、基本的には発行会社自身が開示することが望ましいが、
詳細については後ほどのブリーフィングの席で触れさせていただく。
(記者)
資産運用等に関するワーキング・グループ報告書について、運用人材の確保
として海外から人材を採用するという点と、兜町近辺を資産運用業の集積地に
する点について、実現への思いと、どのようなプロセスで進めていくのか考え
をお聞きしたい。
(稲野会長)
運用人材の確保は、基本的には個別の運用会社等において努力をして人を迎
え入れることが中心になるが、そこに至る道筋として、例えば、国内外を問わ
ず高度金融人材を育成する施設を整備することでより迎え入れやすくすること
や、海外から人材を迎え入れるときに教育や家族あるいは相続税を始めとした
税の問題がある。そのような働く上での環境整備は、証券業界を超えた問題で
あるため、当局等に対し要望を続けていくが、これは直ちには実現しないもの
である。したがって、個別企業の努力によって日本に運用人材を迎え入れるこ
とをきちんと実施していく。その前提となる教育機関等の整備は、早急に取り
組む必要があると思っている。
兜町への資産運用業の集積については、兜町地区は国家戦略特区の都市再生
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プロジェクトにノミネートされており、その枠組みの中で様々な取り組みが行
われようとしている。高度金融人材を育成するための施設、あるいは資産運用
会社のインキュベーションのための施設整備といったことを兜町再開発と絡め
物理的な場所を確保し、より資産運用業をスタートアップもしくは運営しやす
くなるような環境の整備が行われる予定であり、しっかりと中身のあるものに
するべく日証協も協力していきたい。
(記者)
「ポケモン GO」というゲームによって任天堂の株価が急激に変動しているが、
こうした急激な値動きについてどう考えているか。
(稲野会長)
任天堂は大型株の部類に入るが、時価総額も倍になり、今後どうなるのかこ
の瞬間には正確に予測し難いが、
「ポケモン GO」というゲームに対して、世界市
場における普及への期待が強いことは間違いないと思う。株式市場の活況とい
う面では非常に良い効果があったと考えている。超小型株であれば需給が薄い
中で株価が乱高下することも起こりがちであるが、同社株式のような大型株の
場合、十分な商いを伴っている。商いが集中し過ぎているという指摘もあるが、
現時点で任天堂の株価の動きについて特段問題点を指摘するには当たらないと
考えている。
(記者)
市場に与える影響はどう考えているか。
(稲野会長)
少なくとも現時点ではネガティブな要因はない。
「ポケモン GO」という材料に
対して、これだけ大きく反応している市場のエネルギーそのものは相当なもの
であると実感している。
(記者)
アナリストのガイドラインについて、企業サイドは何を言っていいのか分か
らない等、情報開示について少し硬直している印象を受けるが、そもそも発行
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体と投資家サイドのコミュニケーションが活性化されることが望まれる中で、
本ガイドラインによってそれが後退してしまう懸念はないのか。
(稲野会長)
懸念は持っていないが、本ガイドラインは必ずしも分かりやすいとは言えな
い技術的な側面も持っているため、アナリストの方々はもちろん、メディアや
発行体の方々にも広く理解していただく必要があると思う。広く理解していた
だければ、特にコミュニケーション上、特段の障害になることはなく、発行体
とアナリストとのコミュニケーションで言えば、俎上にあげるべきテーマは短
期の業績だけではなく、それ以外にも多くのテーマが存在していると考えてお
り、阻害することにはならないと思っている。
(記者)
日本のアナリストの「早耳情報」に対する情熱というのは、欧米各国のアナ
リストに比べ、激しいものだったのか。短期志向を日本のアナリストが助長し
ていた部分も否めないということなのだろうか。
(稲野会長)
行動パターンの違いというよりは、規制等との関係も当然あると思う。ご承
知のとおり、かつてであればセルサイドのアナリストであっても、その行動領
域は投資銀行部門に及んでいたこともある。それは決して日本だけではなく欧
米においてもあり、順次、規制や自主規制等の様々な試みが実行に移されてき
た歴史の中で大きな行動パターンの違いはないと思っている。もちろん「早耳
情報」を殊更に期待するのは職業倫理に悖る行為だと考えるが、本ガイドライ
ンのようなものがなかったことも事実であり、職業倫理上当たり前のことであ
ったとしても、やはり指し示すべきものは指し示しておかなければいけないと
改めて感じている。
以
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上