地域に根差した学校づくりとセンター的機能の充実 兵庫県立芦屋特別支援学校 教諭 友添 文子 はじめに 本校は平成 22 年 4 月、南芦屋浜に開校しました。南芦屋浜は国際文化住宅都市・芦屋 市の臨海部に位置する新しい街です。ここでは六甲山系の山並み、輝く蒼い海などすばら しいロケーションのなか、恵まれた自然環境を生かし街づくりが進められています。 本校がある陽光町では、本校が開校する前にすでに阪神大震災後の県営・市営の災害復 興住宅や高齢者施設を含む中高層住宅が連担していました。すでにコミュニティができあ がっているところに特別支援学校が開校したのです。このことは、従来の新設の特別支援 学校としては大変珍しいことだと言われていました。開校当初から私たちの学校は「地域 に根ざした学校」「地域に開かれた学校」「地域の皆さんに貢献する学校」を目標に掲げな がら学校づくりをしてきました。 1 取組の内容・方法 (1)福祉機関との連携:福祉機関の会議に参加すること 私は開校時から、地域の特別支援教育コーディネーターを指名され、開校当時の 校長より、「とにかく外に出て、本校を知ってもらえるようあちこちに働きかけて きなさい。」と申し渡されました。機会があると、市役所の障害福祉課や関係機関 にあいさつをしたり、教育相談のポスターを掲示していただいたりしました。学校 の性格上、福祉とは非常に関わりが深いのですが、福祉機関に足を踏み入れること は、敷居が高くて消極的になりがちでした。この敷居を低くすることが私の一つの 仕事だと思いました。学校は福祉機関ではないですが、各市の地域自立支援協議会、 中学校区ケアネット会議、福祉施設連絡会などの会議に参加していきました。 (2)地域理解:本校をアピールすること 芦屋市には、今までに養護学校や、特別支援学校がなかったこともあり、近隣の 皆さんは特別支援学校がどんなものかを知らない様子でした。 「学校」とは思ってお らず、何かの福祉施設だろうぐらいに思っている様子だったのです。学校の様子や お知らせなどはホームページで紹介していますが、高齢の方はパソコンを見ること ができない環境にある方がほとんどです。 まず、町内の復興住宅の皆さんや、もしかしたら校内からの児童生徒の声や騒音で ご迷惑をかけているかも知れない近隣の高齢者施設に「芦特かわらばん」を発信す ることにしました。復興住宅 12 棟すべての掲示板に掲示したり、近隣の施設に挨拶 を兼ねて配布したり、近くのコンビニや芦屋市総合公園にも置かせてもらったりし ました。学校行事の予定や案内、花壇つくり時のボランティアさんの募集、学校の 様子など、毎回 3 件くらいの内容で 3 週間ごとに発行しました。配布を希望する関 係機関も出てきました。近隣にある保健福祉センター、木口記念会館などにも足を 運んで、社会福祉協議会の職員さん、本校の児童生徒が相談等でお世話になってい る相談機関の職員さんにも配布していきました。 (3) センター的機能の発揮 ア 本校は芦屋市と西宮市を校区としている知的障害を対象とした阪神間で 3 つめの 特別支援学校です。新設ということで期待も大きく、地域の学校に通っている障害 を持つ児童生徒や保護者はもちろん、福祉機関の方々からも興味関心の対象であり、 見学や学校の概要説明など求められました。開校1年目はそれらの申し込みが殺到 し、整理ができませんでしたが、2年目以降は、福祉機関の方々にも広く本校を理 解してもらえるよう学校見学や説明会を行ってきました。 イ 開校4年目になる平成24年度から3年間、本校は県の指定を受け、インクルー シブ教育システム構築モデル地域(スクールクラスター)事業が始まりました。こ の事業の中で、支援部として「交流及び共同学習」をさらに推進していくことにな りました。居住地校交流は小・中学部の希望者に行ってきましたが、本年度は保護 者に調書をとるときに、「希望しない理由」も聞き、どうしたらその児童生徒に居 住地校交流ができるかを考えました。必ず担任が同伴することや、この事業の合理 的配慮協力員の協力を得て、交流及び共同学習がスムーズに行えるよう初期の段階 で調整するなどを行ってきました。また近隣の学校に積極的に呼びかけ、学校間交 流の相手校を増やし、高等部においては、スクールバスで県立西宮高校、県立国際 高校の文化祭に出向き滞在時間を多くすることや事前学習をしてもらうなどの取 組をしました。 2 取組の成果 (1) この仕事をしていて感じたことは、敷居が高くて入りづらいと思っていた福祉機 関の方もまた、学校は敷居が高く入りづらいと思っていることでした。福祉機関の 方も学校と連携したい協力したいと考えていることがよくわかりました。福祉の会 議で培った関係から、すぐに連絡しあえる関係になり、お互いに情報交換をするこ とで児童生徒の支援に役立つことが多くありました。また、西宮市で始まった計画 相談事業では学校と福祉機関が合同で支援会議を行うことで、家庭、福祉、学校が 力を合わせて支援する体制ができてきました。芦屋市も含め関係機関と合同で行う 支援会議は本年度では延べ30回ほど行いました。同じ方向で支援を行うことで、 本人も混乱せず、学校と福祉期間の両方で目標が立てやすくなりました。 また、福祉機関の方々は、本校の校内研修を快く引き受けてくださったりもしまし た。遠くにあると思っていた福祉の方々は実は身近にあって学校に対してもよりよ い支援をしてくださる存在になりました。 (2)「芦特かわらばん」を発信して4年が経過しました。学校の玄関の掲示板に月予定 や「芦特かわらばん」を掲示しています。掲示板の前で立ち止まり、メモをとるかた もいます。ホームページ等を見る環境にない方々や手っ取り早く本校の予定をお知 らせするには「芦特かわらばん」が役立ちました。花壇づくりのボランティアさん を募集すると、 「芦特かわらばん」を見た方が一人、二人、と来校してくださいます。 オープンスクールや学習発表会などの案内を見て「散歩のついでに・・・」と気軽 に立ち寄ってくださる方もいました。学校施設を見て「きれいな学校ですね。」の感 想は定番です。 「生徒達が明るい」「生徒達の挨拶がすばらしい」などの感想を残し てくださる方も多数おられ嬉しく思いました。 復興住宅12棟では高齢者の住人をLSA(ライフサポートアドバイザー)さん が集会所で24時間の見守りをしています。開校当時の校長のアイデアで本校の小 学部の児童と高齢者との交流を提案しましたが、障害がある子どもたちのことがよ くわからないとのことでお断りされた経緯があります。何か子どもたちにできるこ とはないかなと考え、定番ではありますが、アサガオを種から育て、ちょうどよい 苗になった時に集会所に持っていきました。それらをLSAさんが集会所前で育て てくれました。復興住宅は高層マンションです。部屋に閉じこもりがちな高齢者の 方が、アサガオの花を見るために集会所に来て会話をするという良い効果があった のだそうです。このことはLSAさんも驚いたそうで、 「花は大切なもの」と改めて 認識されたのだそうです。それ以来、夏のアサガオやゴーヤ、春に向けてのパンジ ーやチューリップ等、小学部とLSAさんとのお花の交流は続いています。昨年の アサガオでは写生会もあったと聞き、小さなことですが本校の子ども達が地域の方 に貢献できていることをうれしく思いました。 芦屋市保健福祉センターに隣接する木口記念会館では秋と春に本校児童生徒達の 作品展を行うことが恒例になりました。図工・美術作品はもちろんのこと、高等部 の作業班で制作される「さおり織り」「紙すきはがき」「アクセサリー」などにも関 心が集まりました。陽光町の復興住宅でのイベントにも児童生徒達の作品の出品依 頼が来るようになり、近隣の方々の本校児童生徒への関心が高まりつつあります。 本校の児童生徒たちの個性や才能があふれた作品に身近に触れてもらうことで、本 校への理解がより一層深まっているように思えました。 近隣の多くの方にとっては 4 年がたった今でも特別支援学校は、 気軽に立ち寄ると いうことは難しい場所かも知れないですが、本校の児童生徒が校外に出て清掃活動 をしたり、買い物学習をしたり、ランニングをしたりするとき等に声をかけてくだ さったり、暖かく見守ってくださっているのがよくわかります。 「芦特かわらばん」 →木口記念会館での 秋と春恒例の 作品展 ボランティアさんと生徒が花壇づくり (3) スクールクラスター事業において、芦屋市内の各学校への支援は充実し、センター 的機能を充分発揮できました。支援部での本年度の課題、 「交流及び共同学習」とり わけ「居住地校交流」についてはスクールクラスター事業の力を借りて、本年度は さらに発展させることができました。対象児童生徒と交流校が増え実施回数も格段 に増えました。(居住地校交流:全24校・計98回 学校間交流:全5校・計10回) 小学部では本年度新たに1校を加え、近隣の小学校2校と学校間交流をしました。 音楽会交流、作品展でお互いの作品を展示する作品交流をしました。また小学校3 年生が「わがまち、たんけん」の学習で本校を訪れました。みなさん初めて見る特 別支援学校に興味津々でした。来年度は両校とも子ども達が直接触れ合うような交 流及び共同学習を計画しているところです。 中学部では県立芦屋中等教育学校の中3生に当たる生徒との交流が3年目を迎え、 年々交流が深まっています。県立芦屋中等教育学校の生徒が用意してくれる出し物 やゲームなどは、本校生徒のことをよく理解して、目で見てわかるものや、インパ クトのあるものなどで、共に楽しめるものばかりです。県立芦屋中等教育学校の皆 さんの本校生徒への理解が年を追うごとに深まりすばらしいと思いました。 高等部の学校間交流では昨年度まで徒歩で時間をかけて県立国際高校の文化祭に 出かけていましたが、スクールバスで行くことで滞在時間が長くなりました。本年 度は県立西宮高校の文化祭にもスクールバスで行くことができたので、そこでの生 徒間の直接的な交流ができました。県立西宮高校の生徒たちが積極的に本校の生徒 たちの案内や説明をしてくれ、有意義な交流および共同学習ができました。本校の 生徒たちは同世代の皆さんのダンスや音楽演奏等を見て大変感動し影響を受けてい ました。同世代の高校生の皆さんは良き支援者になっていました。 3 まとめと今後の取組 開校から4年が経過し、地域での本校の知名度も高くなり、本校は地域にどっしりと 根付いてきたと思われます。最近では「芦特かわらばん」を掲示していると、近隣の方々 が話しかけてくださることも多々あります。「先日スーパーで見かけましたよ。」「作品 展見に行きましたよ。」など言ってくださると本当に嬉しくなります。福祉機関の方々 からも、いろいろな情報を教えていただくことが増え、子ども達の支援に大変役立って います。会議等で顔を見ながらお話をする機会があるため、顔を知ってもらっていると いうのは大きな強みでもあります。地道に足を運んで、直接出会ってお話をするという 積み重ねが効を奏しているのだと思いました。 本年度より始まったインクルーシブ教育システム構築スクールクラスター事業では大 きな目標の一つとして地域機関の「学校応援団化」の推進を掲げています。各市の障害 児支援が充実してきており、福祉機関と学校の連携が重要になってきているところです。 医療機関や労働機関との連携ということでは、福祉機関は強いものを持っています。子 ども達を支援する上で、教育機関、福祉機関、医療機関、労働機関との連携は「学校応 援団」を形成する上でとても重要です。このことを念頭に置きながら、今後、関係機関 の方が集まる会議等で連携を深めていきたいです。 また、本校生徒達が直接関わる「交流及び共同学習」では回数だけにとらわれず、中 身についても検討し、有意義な「交流及び共同学習」を目指したいです。
© Copyright 2024 ExpyDoc