「共に学び、のびていく子どもたち」の育成をめざして~複式学級初年度の

「共に学び、のびていく子どもたち」の育成をめざして~複式学級初年度の取組~
丹波市立遠阪小学校
主幹教諭 上垣妃登美
1
取組の内容・方法
(1)はじめに
遠阪小学校は丹波市の北部に位置しており、児童数は減少傾向にある。平成22年度に
は児童数が57名になり、丹波市で初めての複式学級(2年生5名・3年生7名計12名
在籍)が編制された。
遠阪小学校では、これまでの研修の中で「少人数のよさを生かす授業づくり」に取り組
んできた。その研修を基に複式学級発足に向けて、平成21年度には先進校視察や講師招
聘を行い複式学級の学習指導のあり方・カリキュラム作成や教育課程編成などの研修を行
い、準備を進めていった。また「遠阪小学校に複式学級ができるとどんなふうになるのか」
と保護者や地域の人たちの関心も高かった。そこで、初年度の複式学級担任になった私は、
前年度の校内研修の取組を学級経営や学習指導に生かしていきたいと考えた。
(2)複式学級の学級経営に対する基本的な考え方
複式学級を担任するにあたって、学級目標を「よく考えよう」
「しっかり学ぼう」とし『学
年は違っていても同じ学級の仲間であるという帰属意識を子どもたちに持たせること』を
大事に、
『共に学び、のびていく子どもたちの育成』をめざした。
4月当初、学年の発達段階やこれまでに経験したことの違いから、子どもたちの中に2
つの学年が同じ教室で学習したり、生活したりすることに戸惑いが見られた。そこで、そ
れぞれの学年のよさを生かす学級指導を工夫していった。例えば、
「朝の会」の内容や進め
方1つにしても、前年度までと仕方がそれぞれ違うので、子どもたちはどうしたらいいの
か困っていた。そこで、話し合いによって、2つの学年でこれまでやってきたことのよさ
を取り入れながら、朝の会や終わりの会の進め方、係活動、掃除当
番など、2つの学年の力を合わせて活動できることを考えさせた。
また、子どもたちが自分でよく考えて自ら行動できるようにその
手立ても考えていった。低学年と中学年の変則的な学級編制になっ
ているため、学年によって時間割が違う。そこで、学年別の一日の
学習予定をホワイトボードに書いて提示し、朝の会の時に一日の予
定を確認させ、見通しを持って行動できるようにした。
(3)複式学級における学習指導
複式学級は一つの学級であるという捉え方であるが、2年生と3年生の児童の学力を保
障するために、学年毎の目標達成に向けて、
教科や学習内容によって同室で授業をしたり、
学年別に分かれて授業をしたりしながら、その指導方法を工夫した。
○学年別に分かれて授業をする場合、基本的には授業の初めのあいさつは一緒に行い、そ
れぞれの学年がどんな事を学習しているのかを話したり、
ミニ問題を考えたりした後に、
学年別に分かれて学習を進めた。(スタディールームを活用する。)
○朝の「のびのびタイム」では、学習係の児童が学年ごとに今日の学習課題やめあてを伝
えてから、朝の学習に取り組んだ。
○2学年が合同で国語科の物語文の音読やスピーチを同室で聞き合う学習では、学年ごと
のねらいをはっきりさせた。
2年生の音読
音読発表をす
を、3年生が
る前に、一人一
聞いて、感想
人、自分の音読
を出し合う。
のめあてを黒
板に書く。
<学級通信 NO29から>「みんなの前で話そう」~スピーチ大会~
2・3年生合同のスピーチ大会をしました。2年生は「自分のたからもの」
、3年生は
「自分のことをしょうかいしよう」をテーマにそれぞれの学年のスピーチを聞き合いま
した。スピーチをするときは、声の大きさや話す速さを意識しながら、また、聞く時は、
もっとくわしく知りたいことはないか考えながら聞いて、スピーチの後で質問しました。
みんな上手に話したり聞いたりできていました。質問を出し合うことで、音読大会の時
のように2年生と3年生がよい学び合いができました。
○2年生と3年生で学習する教科(2年生:生活科、3年生:社会、理科、総合)は、授
業時間数が異なるので、一週間毎の学習計画を作成し授業を進めていった。
のびのび
タイム
月
17日
火
18日
水
19日
木
20日
金
21日
2
3
2
3
2
3
2
3
2
3
漢字
漢字
全校朝会
計算
計算
全校体育
漢字
漢字
国語
国語
1 学級会
算数
算数
算数
算数
国語
2 体育
国語
社会
体育
理科
体育
音楽
総合
生活
理科
算数
算数
図工
図工
国:スピーチ発表
国語
習字
図工
図工
音楽
生活
理科
生活
音楽
3 算数
算数
4 書き方 音楽
5 国語
6
国語
道徳
国語
国語
習字
総合
国語
算:テスト
社会
○道徳の授業では、同じ資料を使って2・3年が合同で学習した。資料は同じだが、それ
ぞれの学年のねらいを持って授業を行った。
(4)複式学級における仲間づくり
学年の違う子どもたちに帰属意識を持たせるために、それぞれの学年に違いがあること
を認め合いながら、子どもたちが自分たちで話し合って新しい事を作っていくことを何度
も繰り返し経験させていった。その経験が、学年を越えた仲間意識を育んでいき、学級を
一つにしていくと考えたからである。
<学級通信 NO128から>「遊びの中で」
2年生と3年生が、一つのクラスになって9ヶ月あまりが過ぎようとしています。こ
れまで、学習する内容は学年によって違っていても、同じ教室で過ごす「仲間」である
という意識を持って学級づくりをしてきました。学年による考え方や発達段階の違いを
見ることも多いですが、子どもたちは、お互いうち解け合って生活をしてきました。
子どもたちは一学期から、自分たちで話し合って毎週2回休み時間に「みな遊び」を
しています。昨年度まで人数が少なくてできなかった遊びも 12 人いるとできるようにな
りました。また逆に人数が増えることによって、時には遊びの中でトラブルを生じる事
もあります。トラブルが起きた後の表情は複雑で、いろいろな不満を口にします。そん
な時、子どもたちのお互いの言い分を聞いて、指導が必要な時は指導しています。しか
し、できるだけ子どもたちで解決していくように声をかけています。子どもたちは、こ
れから先、もっと多くの人の中で生活していったり、関わりを持っていったりすること
が多くなります。人が多く集まると、誤解やトラブルが起きる事が多いものです。そん
なとき、自分で考えたり対応したりした経験があると、そのことを生かして、自分の力
で解決していくことができます。
(5)教師への発信
複式教育を進める上で、まず複式学級で子どもたちはどのように学習しているのか、授
業の内容や子どもたちの様子を周りの教師に知ってもらうことが大切である。そこで、校
内研修会で、3年の資料「橋」を使って道徳の授業研究を行った。学年ごとの主題名とね
らいをはっきりさせて指導にあたった。また、2年生にも考えやすいようにロールプレイ
を取り入れたり、挿絵を活用したりしながら登場人物の気持ちを考えさせた。
※主題名とねらい
2年:ほんとうのすがた
2-(3)信頼友情
<ねらい>間違った言い伝えやきめつけのあやま
りに気づき、正しいことを知りみんなでなかよく
遊ぼうとする態度を育てる。
3年:真実を見つめて
2-(3)信頼友情
<ねらい>間違った言い伝えやきめつけによる偏
見のあやまりに気づき、人とふれあう中で真実を
見極めていこうとする態度を育てる。
(6)保護者への発信
平成21年度の3学期に複式学級についての保護者説明会を開いたが、中には初めての
複式学級について学習面や生活面で不安を持っている保護者もいた。そこで、新年度当初
から複式学級での子どもたちの様子や学習内容を学級通信に書いて知らせていき、保護者
の不安を解消し、理解を得ていった。
2
取組の成果
初年度を終えて、1年間をふり返ると複式学級で学ぶことや生活することの良さを感じ
ることができた。成果を以下にあげる。
○学級の人数が増えて男女の数のバランス(2年生男子4名女子1名、3年生男子1名女
子6名)がよくなって、活動の幅が広がり、学級の中に活気が見られた。
○2つの学年のよい所(2年生は活発で自由な発想ができる。3年生は学習に対する真剣
さ、丁寧さ、根気強さがある。
)を生かす事ができた。
○3年生は、リーダーとしての自覚を持って行動する中で、2年生の子どもたちが3年生
がしている事を自然な形で受け止め、同じように行動できる事が多くなった。登校後の
準備、授業の初めの挨拶、整理整頓などがよくなっていった。
○2・3年生共に、国語、生活科、総合的な学習の時間等の学習のまとめの段階で、学習
したことをお互い聞き合う場を持つことで、内容を分かりやすく伝える力がついた。
○複式学級に関わる指導者がお互いに連携し、計画的に学習を進めることができた。
<子どもたちの声>
・たくさんの人数でみな遊びができるので楽しい。 ・協力してする事が多くなった。
・あいさつがよくできるようになった。
・勉強の時間を守っている。
・みんなで進んで勉強している。
・人数が多くなって楽しくなった。
<保護者の声:アンケートから>
・参観日で見ていると、2年生は3年生を見習い、3年生は2年生の手本になるように
授業前の準備など、きびきびできていたように思います。
・男女の数の片寄りがなくなり、色々な事にチャレンジできた。複式の学年だけでなく
他学年とも交流を持ってもらえたのがよい刺激になっている。
・人数が増えて活動が広がった。体育等の授業もスポーツなどを楽しめるようになった。
お互いに切磋琢磨している。両学年の保護者の交流があった。
3
課題及び今後の取組の方向
2年と3年、4年と5年という変則的な複式学級編制の場合、学年によって教科や時間
数が違うのでカリキュラムの編成が難しかった。学校行事・出張等で時間割りが変更にな
る場合がよくあるので、計画的に見通しを持ちながら学習を進めると共に、教師の間で互
いに連携し合う協力体制をとっていくことが必要である。
最初は試行錯誤の中で取組を始めたが、複式学級の「学級経営」も「仲間づくり」も基
本的には、単式学級で取り組む姿勢と同じである。つまり、
「どんな学級にしていきたのか」
「どんな仲間関係を築いていきたいのか」
「どんな授業をしていきたいのか」複式学級を担
任する教師がその方向性をしっかり持って取り組んでいくことが、
『共に学び、のびていく
子どもたち』の育成につながる。
平成25年度は、児童数が38名になり複式学級が2学級となった。今後もこの状態が
続いていく。複式教育については配慮すべき事柄は多いが、子どもたちが生き生きと楽し
く学習し学校生活を送れるように、今後も全教職員で共通理解し取り組んでいきたい。