給食との出会いを大切にした食育 ~ 6年間をスパンとした食育の基礎を築く1年生の取組 ~ 西宮市立安井小学校 栄養教諭 古野 和子 1 取組の内容・方法 平成 17 年に食育基本法が施行され、食育の推進は国民的課題となっていたが、本校は 平成 17 年度まで栄養士が不在(定数法による)で、年間計画に基づいた食育が行われて いなかった。そこで、平成 19 年度に着任してすぐ、本校の課題を調査し食育推進計画を たてて食育に取り組み始めた。 初年度、児童の実態から「給食が大好きで関心があり、給食時間が楽しいと思えること。 そして同時に、食生活や健康にも視野を広げ、自分の健康を守り増進していくために、食 を通して自己管理ができる力を身に付けること」を目標として、学年の発達・理解度に応 じ、6 年間をスパンとして食育を積み上げる食育推進年間計画をたてて実施していった。 具体的には、①給食指導の時間を、食育の一場面であると考え、全教職員で共通理解を 図り指導する。→毎日の献立紹介をのせた「給食カレンダー」 ・毎月の給食目標とそれに関 する話題をのせた「給食だより」を活用し指導。給食時間に献立紹介の全校放送を実施等。 ②意識的な関連教科の指導では、各学年、各教科で「食に関する指導」の継続性に配慮し ながら、意識的に食育と関連付けて教科横断的に指導する。→各学年別に、全教科を一覧 表にした「食育重点指導計画」を作成し、毎月の健康教育部会で実施状況を確認して、変 更、追加や削除があった場合は記録し、次年度以降は前年度を参考に食育重点指導計画を 充実させていくようにする。 ③「食」のティームティーチング(TT)授業(担任と栄養教諭のTT)で、給食を生き た教材として活用し、学習内容が行動変容(生活改善)につながるように指導する。 ・低学年では「食べること大好き!給食時間って楽しいな!」というイメージづくりに重 きを置き、楽しい内容を工夫する。また、体験学習を取り入れ、発見や気づきの場面を組 み込むようにして興味関心を高めながら、 自然に好き嫌いがなくなるような授業を目指す。 1年生では、給食開始前に生活科で「もうすぐ給食!」を学習する。2年生では、給食で 使用するアスパラの廃棄部分を活用して、1人1本アスパラの軸から食物繊維を取り出す 実験をおこない、給食を身近に感じながら学習をする。 ・中学年では「食べ物博士になろう!」をキャッチフレーズに、食品の三色分け、栄養素 の働き、偏食の弊害などの学習を深める。特に 4 年生では、総合的な学習の「1/2 成人を 祝おう」で成長について取り上げ、栄養と成長の関係について学習を深める。そして、そ の学習内容とリンクさせたカルシウムを多く含む食品のセレクト給食を実施する。保健学 習においては、まず朝食の重要性を理解させる。そして、基本的生活習慣を改善する意欲 を持たせる学習をし、追跡調査を行い児童の行動変容をめざす。 ・5年生では、家庭科の食生活の単元で、食育について4年間の積み上げを基に総括的に 学習する。6年生では、卒業前のお楽しみ給食(セレクト給食)で、簡単な栄養価計算を して自分にあった食事の量を学習する。また、家庭科の献立を考える単元では、5年生の 復習をしながら、食品を選ぶ力・自分の食生活を改善する力が定着するように、栄養バラ ンス弁当作りに取り組む。このような指導計画をたてて食育に取り組んできたが、前任校 より児童への定着が困難であると感じた。また、学年が上がるにつれ、知識理解が行動変 容につながりにくいという実態も見受けられた。 「なぜ、どのような違いで、今までのよう な手ごたえがないのか、児童に実践力が付きにくいのか。 」と考える中、低学年からの積み 上げの大切さに気づいた。さらに、児童の給食室(栄養教諭と調理員)に対する親近感の 希薄さが、学習にまで影響することを肌で感じた。そこで、 『食育を推進するための食に関 する指導の全体計画の中で、1年生のカリキュラムにおいて生活科等で食育を重点的にお こなうことで6年間の食育の教育効果を高めることができる』という仮説を立てた。そし て、平成 19 年度の 1 年生担任と協議を重ね、生活科で給食を取り上げることにした。児童 がまわりの人に支えられて生活できていることに気づき、感謝する気持ちを育みたいとい う担任たちの願いにも重きをおきながら、情緒面を大切にした単元構想をたてた。 1年生において栄養教諭がかかわる食育内容:給食との出会いとそこからの流れ 【給食開始前の指導】 多くの児童が小学校入学で給食を初めて体験する。そのため、 給食に対して期待と同時 に不安を抱えている児童も少なくない。そこで、給食開始日までに、学年全体で生活科「も うすぐ給食!」 (全1時間)のTT授業をする。 【家庭との連携】 毎月発行している「食育ニュース」で、授業内容を家庭に知らせるとともに、1年生保 護者対象の「給食だより4月特別号」では、給食の意義や本校の給食と食育について知ら せ、家庭でも同じ姿勢で食生活を考えてもらえるように働きかける。 さらに、毎年1年生保護者対象に、5・6 月に給食試食会をおこなっている。その際、給 食内容や調理について説明するのと同時に、本校の食育について説明する。児童の食行動 は、低学年ほど家庭の影響下にあるので、 「共に児童の食環境づくりをする協力者」という 意識で家庭と学校との連携の重要性を強調し、二人三脚を呼びかけている。 ●試食会の保護者の感想から ・徹底した衛生管理をしていただいていることや、材料にもこだわってくださっているこ とを知り、いつも子どもが美味しく食べさせて頂いていることに感謝しています。私も、 童心にかえって給食をいただき大変楽しい経験でした。 ・お話やスライドを拝見して、学校が食育に力を入れてくださっていることに改めて感謝 しました。私も、家庭料理の温かさが子どもにしっかり伝わるように頑張ります。 【給食時間に1年生の教室で給食指導】 1年生が栄養教諭に慣れ親しむために、栄養教諭が給食時間に1年生の各クラスを巡回 して一緒に給食を食べながら、当日の給食に関する話をしたり、給食クイズを出したりす る。また、 「おかわりサービス」 「大盛りリクエスト券」という全校児童が楽しみにしてい るイベントについて説明し、1年生対象にも実施する。 【生活科「給食大好き!」 】 学校生活にも慣れ、 学習面でも力が付いてきた2学期後半から、 生活科で 「給食大好き!」 (全 15 時間)に取り組む。給食開始前には、給食室内の様子や調理員の仕事について簡単 に説明しているが、本単元では、実際に調理を進めていく様子を撮ったビデオを見せて詳 しく細かなところまで理解を深めるように学習する。そして、映像で見た大量調理の大変 さや、食中毒予防のための徹底した作業の目的や調理員の願いについて考えさせる。子ど もたちが調理員に直接インタビューする場面では、給食を超えて趣味や特技、頑張ってい ることの交流もする。授業は、担任と栄養教諭のTT授業で行うが、児童が調理員との交 流に興味関心が向くように進めていく。 ◎児童のワ―クシート ◎調理員と交流(インタビュー)の様子 【全校生に向けて発信の場面 ~給食週間に展示した作品~】 本校では、毎年1月の給食週間に校内 給食展を開催している。展示場所の一角 を1年生の生活科「給食大好き!」の発 表の場として、1人1枚8つ切り画用紙 に給食カルタを作成して展示している。 2 取組の成果 まず、授業に取り組んだ後は、児童が給食を残さなくなる。それまでも、担任の日々の 指導により、ほとんどの児童が苦手なものも頑張って食べるように努力しているが、授業 後は残量が劇的に0になる。児童は、調理員の仕事の大変さ、自分たちへの優しさを知り、 そして何より「大好きな調理員さんが作った料理」を美味しいと感じる心理で残量がなく なるように思う。1年生の「給食大好き!」に取り組んで5年、一昨年度末に、給食の残 量を調べてみた。学校給食日誌で、平成 20 年と 24 年の 1 月~3月の平均給食残量を見る と、2.1%(H20)から 0.5%(H24)に減少している。 さらに、児童の食生活や健康に対する関心が高まった。毎朝、ほとんどの児童が、給食 掲示板に紹介されている{その日の献立}を確認して通っている。また、骨折した時、流 感で学級閉鎖になりそうな時などに、児童が気軽に給食室に何を食べたら効果的か相談に 来る様子が見受けられ、食と健康の関連性を意識していることが窺えて嬉しい。同時に、 食に関する授業時間の集中力、積極性は、素晴らしく向上した。 また、 児童にとって給食室が心安らぐ場所になっているように感じることが多くなった。 遅れて食器を返しに来た児童が、時間をかけて食べ終えた食器を調理員に見せて褒めても らい誇らしげにしていたり、終わりの会の後にわざわざ給食室まで来て「ごちそうさまで した。さようなら。 」と挨拶して帰る児童がいたり、給食室のまわりで心温まる光景を見る ことが多い。取組を始めて7年が経過した今では、全校児童が調理員の名前や趣味等を知 っている。本校のテーマの一つに「つながり」があるが、児童同士のつながりだけでなく 児童と調理員のつながりも育まれており、そこから生まれる給食に対する親近感、信頼感 が、食育の効果を高める基盤の一つとなっている。 また、変わったのは児童だけではない。1年生を担任した教諭は、口々に「給食室で、 こんなに徹底した衛生管理をしているとは想像もつかなかった。 」 「大量調理の大変さはイ メージしていた以上で、食中毒防止マニュアルはそれ以上。ビデオはドキュメンタリー映 画のように見ごたえがあった。 」 「私自身が給食室内のことにすごく詳しくなった。違う学 年を持っても説明できるよ。 」と、印象深さを語ってくれる。年を重ねるごとに、本単元経 験教諭が増え、確実に学級での日々の給食指導が充実してきている。 3 課題及び今後の取組の方向 まず、主食の残量が気になる。学習の成果で、調理員が作った副食は完食するものの、 主食で食事量を調整する児童がいる。その結果、パンやご飯の残量が、副食の残量に比べ ると多いクラスがある。食品の三色分け・栄養素の働きなどの学習で、主食の役割や重要 性を訴えているが、今後さらに生活変容に向けての取組が必要であると考えている。 さらに、低年齢で食育を行う効果が分かり、今後は幼稚園・保育所との連携において、 食育にも力を入れていきたいと考えている。今のところ、栄養教諭が二園で食育講演会を 実施したが、今後、幼稚園等での食育実態を把握し、効果的な連携を考えていきたい。 かつて、日本一のファストフード店社長が、 「人は子どもの時に食べた物を一生食べ続け る。 」と言ったそうだ。そして、その会社の戦略ターゲットは子どもである。ならば、全て の子どもたちに影響を与える『給食』を担う私たちの使命は重大である。一生の健康を左 右する子ども時代の食育の重要性をかみしめて、これからも楽しい食育に力を注いでいき たいと決意を新たにしている。
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