「楽しく学ぶための教材・教具の工夫 ―通級指導教室(言語)の実践より―」 三木市立自由が丘小学校 主幹教諭 藤枝 利美 1 取組の内容・方法 本校の通級指導教室(言語)の担当になってから14年が終わろうとしている。三木 市においても少子化が続いているが、通級児童数・教育相談件数は、増加傾向にある。 また、児童の実態は、構音障害・吃音・難聴・ことばの遅れに加え、LD・ADHDや コミュニケーションがとりにくいなど広範囲にわたる。そのため、あらゆる状況に対応 できるよう、個に応じた教材・教具を作製し、児童が興味関心を持って楽しく学習でき るような工夫をしている。以下、具体的な教材・教具や指導法を紹介し、取組の内容・ 方法とする。 (三木市立自由が丘小学校ホームページことばの教室:平成17年度~掲載) (1) 構音指導の“音の視覚化” 「同じような状態の子どもがいたとしても、同じ教材・教具では通用しない。 」とい う現実と向き合いながらスモールステップで指導をしてきた。例えば、サ行がタ行に 置換する児童に対する指導法はいくつもあるが、児童の実態を把握しながら進めてき た。また、正しい音を定着させるためには反復練習が必要であるため、多くの教材・ 教具を用意して手を変え品を変えしながら指導・支援をしてきた。その中で、 “音”の 改善を図るためには『聴く』学習がベースとなるため、 “音の視覚化”を取り入れた教 材・教具の活用は、児童の理解を容易にすることができた。 写真1 続ける 青色=かぜさん の音(S音)と 赤色=母音(う) を続けて言う。 写真5「すー」 写真2 回転する 青色=かぜさん の音(S音)と 赤色=母音(う) を続けて言う。 写真6「きょ」 写真3 引っぱる 大小異なる2本 のラップの芯の 黒色の芯を引き ながら練習する。 写真7 [r]の舌 写真4 文字入り 音のたし算をしな がら「さ・す・せ・ そ」を誘導する。 牛乳パック・チョ コレートの箱・紙 粘土等を使って、 作った教材。 写真8 [k]の舌 (2) 個に応じた有効な教材開発 児童のニーズに応じた支援をするために、見てわかりやすく楽しく学習できる教 材・教具の開発に取り組んだ。特に側音化構音の指導は、長期に渡ることが多く『平 舌の脱力・安定』がキーワードになる。そのため、 「舌の動き」や「舌の形」の指導に 工夫が必要となる。そこで、音楽に合わせて「舌体操」をしたり、コンピュータの画 像に合わせて体全体を動かしたりする活動も取り入れるようにした。 写真9 紙粘土の舌 紙粘土で作った 4 種類の大きな舌 を見て、それぞれ に合う息の流れ を考える。 写真 13 正しい舌 写真 10 舌の動き 写真 11 動く舌 音楽に合わせて、 舌を1~5 の順 に、動かす。 (リズムに乗り やすい曲) 切り込みを入れ た口から、舌圧子 につけた舌を出 して動かす。(ラ ミネート済み) 写真 12 歯の模型 大型歯の模型と 舌に見立てた赤 色の靴下を動か しながら構音点 の確認をする。 写真 14 うちわおばけ 写真 15 おばけの舌 写真 16 自分の舌 また、 「文の読みがたどたどしい」「行をとばしたり同じところを読んだりする」児 童は「マスから文字がはみ出す」 「漢字が書けない」 「図形を描くことが苦手」という 課題を併せ持っている場合もある。このようなケースでは、視覚機能に困難があった り、聴覚情報処理や手先の協調運動などに要因があったりするため、的確な実態把握 を行い多様な教材教具により指導・支援を試みるように心がけている。 写真 17 ジオグラム 写真 18 目の運動 釘を打ちつけた板 を用意する。赤色の ゴムで図形をまね して作る。 始めと終わりの 1文字を 1 行ず つ、できるだけ速 く読んでいく。 写真 19 かけ算 7の段の九九を 唱え、積の 1 の位 に注目しながら 紐を釘にかける。 写真 20 漢字の読み 読むことからス タートする。読め ることが自信に つながる。 写真 21 巻物 写真 22 単語練習 印刷機のロール芯を使って巻物を作 製。忍者になった気分で学習をする。 「な」を意識するように、文字の右 側に黄色の○印が記入してある。 写真 25 10の補数 写真 23 十の位 写真 24 いくつといくつ 一の位は赤ちゃ ん、十の位はお母 さん、百の位はお じいさんの部屋 と考える。 写真 26 引っぱる 写真 27 瞬間に見る 頭の上とその下についている黒丸形 に(牛乳キャップを活用)上下合わ せて10になる数を書く。 「1を引く と9が動く」仕掛けを使って学習。 ゴ ムでつな がっ た 筒を引き離し、すぐ に戻す。「一瞬見え た漢字は?」 太さの異なる紙パ イプを使って10 の学習。黒筒「6」 を上に引くと「4」 が見える仕組み。 写真 28 漢字オセロ 漢字を書いた板 を使って、オセ ロゲームをす る。 写真 29 紙コップで 写真 30 顔の表情 写真 31 絵を使って 写真 32 促音 2 個の紙コップに、顔や髪の毛 を描いて、顔の輪郭を切り取る。 紙コップをくるくる回すと表情 が変化するため、気持ちを考え る学習に活用。 「借りたものは、元の きれいな状態で返す」 スケッチブックに描 いた絵をもとに、話し 合う。 促音の表記と読 み方の学習。牛乳 パックを折り曲 げながら活用す る。 (3) 視聴覚機器などの活用 わかりやすい授業を創造するために、視聴覚機器は欠かすことができない。特に、 三木市教育委員会の EduMall のコンテツに入っている光村「デジタル教科書」は、毎 回活用している。ツールのマーカーやスタンプ機能等を使ったり、プロによる朗読を スピーカーから流してセンテンスごとに交替して読んだりすることで、楽しく集中し て学習することができた。また、パワーポイントを使っての教材も有効であった。 (4) 研修会等での啓発 通級指導教室担任者会、播磨東地区難聴・言語教育研究会、新任特別支援学級担当 教員等研修会やことばの指導講座で「発音に関する指導の実際」や「楽しい教材の工 夫」について紹介する機会があった。そこでは、牛乳パックや折り紙や鏡などを持参 して参加者全員で教材作りをしたり、実際に体験したりする機会を設け、即指導に活 用できる内容を考えた。また、ホームページで紹介するようになってからは、他県や 県内各地の通級担当者の他、中学校や幼稚園からも見学に来られることがあった。 写真 33 ストローを使ってS音作り 2 写真 34 教材の紹介 写真 35 教材作り 取組の成果 【通級児童の保護者の感想から】 口の中の状態を説明してもらいながら、繰り返し発音の練習をしていくことで、 正しい発音ができるようです。一度感覚をつかんだら、後は繰り返し練習していく ことが大切だと改めて感じました。それと、1学期から学校の学習でわからない所 (算数の計算・ひらがな・本読みなど)をことばの教室で教えてもらえたことも本 人にとって、とてもよかったようです。考えるうえで、コツのようなものを学べた おかげで、徐々に成果がでてきました。以前はなかなか頭にはいらなかったのが、 すぐに頭にスッと入るようになってきて、本人の自信につながったと思います。そ して、以前にもまして学習意欲や正しい発音の練習への意欲が自然にわいてきてい ます。ことばだけでなく、色々なことを学べたことに親子ともに感謝しております。 上記例の他にも「サ行が正しく発音できるようになり、大きな声で本読みをするよう になった。」 「カ行が発音できるようになったので、友だちの名前が正しく呼べるように な っ た 。 」 「色々なことに自信がついた。」 「集中して取り組むことを学んだ。」等、多くの 保護者から感想をいただいた。 また、ある児童と保護者が涙をためて教育相談に来られたことがある。内容は、 「正し く発音できないため、友だちとしゃべることも少なく・・。」ということだった。しかし、 構音指導によりことばの改善が見られ、退級する時には、「友だちが増え、性格まで変わ ったみたい。 」と本人。 「心まで明るくなりました。 」と保護者の感想である。ことばの教 室は、言葉だけではなく性格にまで良い影響を与えることができると実感した。 3 課題及び今後の取組の方向 通級指導教室は、ほとんどの児童に対して一週間に一回の指導であるが、毎回児童の 成長と笑顔が見られる。もちろん保護者の笑顔も。しかし、 「気持ちのコントロール」 「人 との関わり」 「コミュニケーション」等の支援については、課題を感じることが多い。今 後、興味のある物を取り入れて落ち着いた状態でのやりとりを目指し、気持ちの言語化 を図るようにしたい。そして、児童と一緒にコミュニケーションスキルの向上を図るた めの取組について日々研鑽を積んでいきたい。
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