特集 子どものレジリエンスと支援 広域災害にあった子どもの レジリエンスとその支援 —学校現場で養護教諭は何ができるのか— 工学院大学 基礎・教養教育部門 准教授 安部 芳絵 支援者がまず、子どものレジリエンスを知ること 子ども中心のケアのために が必要です。 レジリエンスとは「跳ね返り、弾力、弾性、回 復力、立ち直る力」といった意味であり、子ども セルフケアへの支援 自身のうちにある自己回復力をさします。レジリ そもそも心のケアとはセルフケアへの支援であ エンスは、災害時の子どもの心のケアを考える際 り、災害時などに表れる心身反応は自然な反応で の支援者の拠り所となります。 あるといわれます。人にはそれらの反応を収めて 近年、災害や事件・事故など、子どもの権利が いく自己回復力が備わっていると考えられるから 侵害され、心身の健康に大きな影響を及ぼす状況 です。心のケアの本質について、冨永は「他者が が立て続けに見られます。これに対して文部科学 被災した方の心のケアをするというよりも、被災 省は、学校における心のケアを危機管理の一環と された方自身が傷ついた心を主体的に自分でケア して位置づけ、教師には適切な対応と支援が求め できるように、他者がサポートすること」である られるとしました(文部科学省、2014) 。心のケ と述べました(冨永、2012:6)。 アは「心の健康問題に対応するための援助や配 レジリエンスに基づいたセルフケアをサポート 慮」 (文部省、1998)であり、阪神・淡路大震災 すること、これが広域災害後の支援者の役割とな を契機として一般化された言葉ですが、今では、 ります。より具体的には、医療現場で子ども支援 災害が起こるたび、子どもの心のケアの必要性は に携わる藤井の言葉が参考になるでしょう。レジ 当然のように語られます。 リエンスについて、藤井は、鞠にも跳ね返ってき ところが、災害後に展開される心のケアには、 たところを受けとめてくれる人が必要なように、 課題も多く見られます。阪神・淡路大震災時の子 子どもにも「しっかりと自分たちの心を受けとめ どもの心のケアを担った馬殿は、調査は多かった てくれる人間が不可欠」だといいます(藤井、 がケアを伴っていなかった、と指摘しました(馬 2000:40)。 殿、2005) 。東日本大震災でも「子どもの人権を 十分に考慮していない心理的支援の乱立が問題」 (本郷、2011:8)になりました。 教育復興担当教員をヒントに 阪神・淡路大震災でその役割を果たしたのが、 心のケアが不要だと言いたいのではありません。 教育復興担当教員(復興担)でした。復興担は しかし「ケアする側中心のケア」は子どもの回復 1995年度から2009年度まで配置され、2005年度か を阻害するばかりか、その権利をも侵害しかねま らは「阪神・淡路大震災に係る心のケア担当教 せん。そこで、「子ども中心」のケアのためには、 員」と名称を変更しつつ、のべ1671名が活動を行 26 いました。復興担は、兵庫県教育委員会等による このような復興担の丁寧で長きに渡る寄り添い 子どもの心のケアに関する研修は受けたものの、 によって、多くの子どもたちは自分の力とペース 心理の資格や専門性はもちませんでした。学級担 で回復していきました。 任も受けもたず、週に10時間程度の授業を担当し 災害が発生したのちに学校現場で養護教諭等が ながら、校内では校務分掌の1つとして位置付け 果たす役割は、この復興担に学ぶことが多いと思 られました。 「みんなの先生」として親しまれ、 われます。衝撃が強ければ強いほど、鞠はどこに 一緒に遊びながら、あるときは勉強を教えつつ、 跳ね返ってくるかわかりません。それをやわらか 子どもたちのつぶやきに耳を傾けました(神田、 く受けとめることは、なかなか大変そうです。そ 2005:79‒83) 。 れでも、辛抱強く受けとめてくれるおとながいる 復興担は子どもに無理に語らせるのでも、アド ことは、災害に遭遇した子どもたちにとって、ど バイスを押し付けるのでもありませんでした。 んなにか心強いことでしょう。 「寄り添い、向き合い、時間の流れを共有するな どゆったりした時間の流れの中で子どもが語って 広域災害と支援者支援 くれるのを待つしかない(神戸市・小・復興担) 」 広域災害の特徴のひとつは、ケアする側も被災 (兵庫県教育委員会、2005:172)という言葉が することです。子どもの回復のペースは一人ひと 表すように、ケアする側に子どもを合わせるので りちがいます。関わってもなかなか変化が見られ はなく、子どもの自己回復力を土台とし、子ども ないとき、焦ってしまうかもしれません。自らも に合わせて、ケアのありようを変えていきました。 被災し、疲れ果てている上に、果たしてこれでよ 単独でのセルフケアが難しそうな子どもはカウン かったのだろうかと支援観がゆらぐこともあるで セラーに、PTSD や抑うつ等によって日常生活 しょう。 が困難になっている子どもは医師につなぎました。 そんなときは、自分一人で抱え込まず、仲間を 家庭の経済状況によっては、行政や福祉機関につ 頼ってください。支援者にも、レジリエンスを受 なげることもありました。 けとめてくれる誰かが必要です。 「教育復興担当教員になって」兵庫県教職員組合・兵庫県教育文化研究所編 ●参考文献 ・神田英幸(2005) 『1.17阪神・淡路大震災と教育改革 兵庫発の防災読本 いのち やさしさ まなび』 ・冨永良喜(2012) 『大災害と子どもの心』岩波ブックレット ・藤井あけみ(2000) 『チャイルド・ライフの世界 こどもが主役の医療を求めて』新教出版社 ・兵庫県教育委員会(2005) 『震災を越えて—教育の創造的復興10年と明日への歩み—』 ・本郷一夫(2011) 「子どもと子どもを取り巻く人々への支援の枠組み」『発達』128号 ・馬殿禮子(2005) 「検証テーマ『被災児童生徒の心のケア』」兵庫県・復興10年委員会『阪神・ 淡路大震災 復興10年総括検証・提言報告』 ・文部科学省(2014) 『学校における子供の心のケア—サインを見逃さないために—』 ・文部省(1998) 『非常災害時における子どもの心のケアのために』 27
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