私の見た日本江 文菁

COLUMN
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● シリーズ 私 の 見 た 日本 Vol.156
研究と生活を振り返り
台湾台中市出身。 2008 年台湾国立聯合大学
理工学部建築学科卒業、2010 年東京大学大
学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了、
2014 年東京大学大学院工学系研究科建築学
専攻博士課程修了、同年東京大学大学院工
学系研究科建築学専攻、日本学術振興会特
別研究員。 2015 年佐藤総合計画入社、現在
江 文菁(コウ・ブンセイ)
今 のところであるが 、人生 の 半分を日本 で
に至る。
申し込 みであった 。 子 どもが 生 まれてから 3
る富山型 デイサービスは 足腰 がわるくなり椅
年間美容室 に 行って い な い 切実 な 利用動機
子 とソファにしか 座 れな い 高齢者 も い れば 、
に驚 いて 、地域 ニーズに即したサービスを提
まだ 床に座 れる高齢者 もいる。 その 傍ら、ハ
本人と同じく病院 で 産声 をあげたときだ 。日
供しようと始 まったと言う
。 地域的 に 持家
イハイする乳幼児 や 、座位 が 保 てなく床 でゴ
本 での 生活 が 幼少期 のすべてであったため、
率 が 高 い 影響 も あるの か 、古民家 を 転用し
ロゴロする 障 が い 児、車椅子 で 移動 する 障
「日本」がいつの 間にか 私 の 中 では「基準」と
て 運営している施設 が 多 い 印象を受 ける。 ま
がい 者 が 同じ空間にいる。 このような 光景 は
なっていた 。小学校に入学 する頃帰国となっ
た 、県単独事業 で 既存 の 建物 を 改修して 運
日本 でしか 見られない 、 もしかしたら 富山型
たが 、大人になってからは 親 の 関係 ではなく、
営 することに 補助金 が 助成 されることも 、古
デイサ ービスでしか 見られないであろう(写
※ 2 U n i t e d N a t i o n s P o p u l a t i o n D i v i s i o n
再 び自分 でこの 国に来 たいと思った 。
民家転用 が 多 い 一因 な の かもしれな い 。 台
真 2)。
Department of Economic and Social Affaires,
過ごしたこととなった 。
私 が日本に初 めて 来 たのは 、 ほとんどの 日
東 京 大 学 に 在 籍した 6 年 間 は 地 域 福 祉 を
テーマに研究を続 けた。来日当初 はこれから
※※
写真 1 富山型 デイサ ービスのデイルームの 一角@富山。 好 きなモ
ノを 好 きなだけ 好 きな 時 に 楽しむ 、家と同等 な 自由 さ 。
注釈
※ 1 日本は室内が清潔のため、いざることが安全で可能
だと思っていたが、室内が土足のアメリカでも障がい者が
そのまま気にせず床でいざることもあるという。
World Population Prospects: The 2012 Revision
湾、北欧 の 施設 と 比 べ てひとことで 言うと、
富山型 デイサービスは「家」なのである。
何 を 研究していくか 悩 んでいたところ、何 か
より。 なお 、台湾 の 数値 は 行政院国家発展委員会「人
口推計」より。 1950 年 から 2010 年までが 概算値 で 、
10 年前 の 台湾 の 通所施設 は 少 なかったと
2015 年 から 2050 年 は 推測値 である。 台湾 のデータ
言 える。 在宅生活 を 支 えることに 関しては 、
は 西暦とは 異 なる年号集計 の 関係 で 1951 年 から 2051
のご縁 か、 テレビのニュース 特集 から日本 に
小規模 で「施設」ではなく家庭的 な 雰囲気
は 高齢者と子どもを一緒に受 け 入 れる施設 が
を目指している富山型 デイサービスは 古民家
「施設」を 利用 する 高齢者 は 入所・入居 が 主
あることを 知った。 台湾 の 大学 に 在籍した 際
転用 で 運営しているところはもちろん 、新築
な 傾向としてあった 。したがって 、台湾 の 通
に、学部生対象 の 研究助成 で 高齢者施設 を
で 運営しているところも 将来経営困難 に 陥っ
所施設 は 地域差 も あるが 、公民館 の 一部 で
研究したことがあった。 今時姥捨とまでは 言
た 時に、自分 たちの 住まいにできるよう意識
運営 するものや 、病院併設 の 医療法人 が 運
て 問題 が 起 きた 時にどうすればよいかを 総合
われな いようになったが、 どこかそういう雰
して 建 てられた 施設 もあった 。整備基準 があ
営主体 となるも の まで 様々 で ある(写真 3・
的 に 考 える 時間 が 与 えられて い た 。 個々人
囲気 を 感じるの が 台湾 の 高齢者施設 で あっ
るため 、本当 の 住宅とは 少々異 なるが 、玄関、
4)。
の 意 思 の 尊 重 は 高 齢 者 や 子 ども に 限 ら ず 、
た。台湾 の 状況 を 知っていたからこそ 、子ど
居間・デ イ ル ー ム(食堂及 び 機能訓練室)、
ももいる高齢者施設 が 私 には 先進的 に 感じ、
部屋(静養室)は 一般 の 住宅とさほど変 わら
「これだっ!」と直感した。 それが私 の「富山型
デイサービス」との 出会 いのはじまりである。
日本 の 施設以外にも 台湾、北欧諸国( デン
マ ーク、 スウェー デン、 フィンランド、 ノル
写 真 2 富 山 型 デ イ サ ービ ス の デ イ ル ー ム @富 山。 ソファに 座 る、 写真 3 公民館 に 設置 されたデイサ ービス@台湾。 テレビに 向 かっ
ての 座席レイアウト。 床 は 一般家庭同様 のタイル 仕上 げ 。
車椅子 に 座 る、カーペットに 座 るなど、利用者 の 状況 によっていろん
なタイプの 高 さがある。
外 国 籍 介 護 者 を 家 庭 内 で 雇 用 で きるた め、
写真 4 病院 のリハビリ科 に 設置 されたデイサ ービス@台湾。 レクリ
エーションに 参加 する人と、リハビリ待 ちの 集団。
図 1 各国経年高齢化率予測 (筆者作成)
※2
れが 普及 するとは 想像し難 い 。
年 の 数値 である。
を 保 て な い 障 が い 児 にい ざる 行為 が 見られ
た 。 これらはアップダウンがない 床 の 生活 が
つい 先日 のことだが 、他県 で 留学している
可能にしたもののように感じた 。
※1
会話 ができな い 意思疎通 が 難しい 障 が い 者
妹 が 積雪 に 足 を 滑らせ 学生寮 の 階段 から 落
家 でゴロゴロしたり、食 べたい 時間に食 べ
にも 同様 な 対応 があり、 そのような 対応 は 制
ちてしまった 。足 が 回復 するまでの 生活 を 考
世界 の 高齢化 の 加速 はとどまることを 知ら
ない 。水廻りのトイレ、風呂場 は 車椅子利用
たいものを食 べたり、入浴したい 時間に入浴
度や 施設・住宅 などの 建築 の 面 でも 垣間見る
えるとエレベーターが 設置 されている私 の 家
ず 、 2050 年 までの 高齢化推移予測 をみると
や 介助 スペースが 必要 なため 広 めになってい
したり、友人 に 会 いたい 時 に 外出したりなど
ことができる。
に「一時避難」した 方 がよいと思ったが 、私
日本 の 高 齢 化 率 は 36.6% で あ る。 しかし、
るが 、 フローリングにカー ペット、人 が 集 ま
自由気 ままに 過 ごしたい の が 普通 で あろう。
の 家 は 電気 カー ペットにローテーブル 、 そし
近隣 の 中国( 23.9% )、韓国( 34.9% )、台湾
ると少々狭く感じる空間 スケールは 住宅 の 雰
70 代、80 代 になって 介助 が 必要 だから施設
2014 年、スウェーデン・マルメで見学した
て 布団 の 生活。 骨折した 一時的障 が い 者 に
( 37.2% )も 急速 に 高齢化 が 進 むとされ、世
囲気を感じさせられる(写真 1)。
に 通 わざるを 得 な いうえ、団体行動(レクリ
補助器具 センター は 、障 が いを 持 つ 人 を 対
は お 世 辞 に も 住 み や す い 家 とは 言 え な い 。
界 の 高 齢 化 問 題 は アジア の 高 齢 化 問 題と
エーション )をしな いだけに 協調性 が 悪 いと
ウェー )の 施設 も 併 せて 見学とインタビュー
象にしているが 、それは 、様々 な 工夫を通し、
最終的には 友人 の 留学生同士シェアで 借りて
いっても 過言 ではないだろう(図 1 )。 その 中
を 経 て いるため 、気候 や 福祉制度 は 異 なる
北 は 北海道 から、南 は 九州 まで 日本 の 福
若者( スタッフ)に非難されるのはどうかと思
一般 の 人と同等 な 生活 が 送 れる工夫 でもあっ
いる 1 階 の 物件 に、帰国日まで 泊 めてもらっ
で 、現在 の 日本 の 高齢者 や 障 がい 者 がどの
が 、本稿 では 施設内 で の 生活 と 使 われ 方 な
祉施設を見学してきたが 、台湾や 北欧との 生
わないか 、と疑問を突きつけてきたのが 富山
た 。 事故 のケガや 身体 の 衰弱 で 、「移動」は
た 。 北欧 のように、自宅 の 中 でも 電動車 が
ように、どの 時期において 床、家具、福祉機
ど建築計画 の 視点 から違 いを述 べたい 。
活 スタイルの 違 いは「床」での 生活 であろう。
型 デ イ サ ー ビ ス の 創 設 者 で あった 。 一 方、
1 つ の 大 きな バリアを 感じることになる。 こ
使 えるような 生活 スタイルだったら 困らない
器 の 生活 スタイルをバランスよく使 い 分 け 、
台湾 の 住宅市場 でも「日本式部屋」と称しフ
北欧 では 高齢者 に 限らず 、個性 を 尊重 する
の 施設 では 、 そ れらを 解決 する 補助器具 が
問題 だったのかもしれない 。
移行していくかがアジアの 高齢者生活 スタイ
ローリングに 掘り炬燵(実際 はテーブ ル )を
文化 が 根付 いているように 感じた 。 フィンラ
揃っており、 そ のうちの 一種類 が 電動車 だ 。
乳幼児 から高齢者まで 、障 がいのある・なし
セットしたインテリアスタイ ルが ある。 そ れ
ンドで 見学した 保育所 は 、子どもたちに自分
しかもそれは 屋外用と室内用に分 けられてい
電動車 や 車椅子 で の 自由 な 移動 とは 少々
子化 の 影響 で 、高齢化 が 急速 に 進 む 台湾 に
にかかわらず 利用 できる、富山県 で 生まれた
以外 の 場所 ではあまり床 に 座 ることはな い 。
たちが 遊 びた い 遊 びをさせ 、必要 な 道具 も
る。台湾 で 屋外用 のものは 見 たことがあって
異 なるが 、福祉 の 研究 で 、床に座ったまま移
も そ の 知見 と 経験 を 伝授 い ただければ 幸 い
共生 ケア 施設 である。 開設当初 は 社会的入
しかし、日本 は 畳 が 家庭 から消 えていっても 、
セルフでつくる。 グループで 異議 が 発生した
も 、さすがに室内 のは 初耳 であった 。自宅 で
動 する「 いざる」ことを知った 。 いざることが
である。
院 で自宅に帰 れない 認知症高齢者 を 対象に、
カー ペットや 床暖房 などを 工夫し、 ソファや
時には 子どもたちだけで 解決 できるよう見守
も 自由 に 自分 の 意思 で 移動 できる 自己決定
できれば 補助器具 や 車椅子 などがなくても 、
私 の 研 究 対 象 の 富 山 型 デ イ サ ー ビ スは 、
ルへの 糸口になるのではないかと思った 。少
地域 で 支 えていくために設立された 。しかし、
椅子 などの 家具 が 混在 する 空間 に 床 に 腰 を
る。 要 するに、自分 たちが 何 をしたくて 、 そ
の 文化 が 根付 いていた 。 室内専用 のために
他 人 の 介 助 なく自分 の 意 思 で 移 動 で きる。
最初 の 利用者 は 障 がい 児 を 持 つ 母親 からの
下 ろすことがまだ 見られる。 私 が 研究してい
れに 達成 するためには 何 をやるべきか 、 そし
小型につくられた 電動車 だが 、 アジアでもそ
見学調査した 富山型 デイサ ービスでも 座位
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参考文献※※惣万佳代子:笑顔 の 大家族このゆびとーまれ
「富山型」デイサービスの 日々、水書坊、2002 年
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