平成24年度 新潟大学プロジェクト推進経費研究経過報告書(中間まとめ) 新潟大学長 殿 申 請 者 所 属 脳研究所 システム脳生理学分野 代表者氏名 菱田 竜一 本年度、交付を受けたプロジェクト推進経費について、現時点までの研究の進行状況等を報告し ます。 プロジェクトの種目:発芽研究 プロジェクトの課題: 視力の中枢制御の解析 ― 大脳皮質高次連合野は視力を調節しているのか? プロジェクトの代表者:所属 脳研究所 職名 准教授 氏名 菱田竜一 分担者 0名 プロジェクトの成果: 視力検査の際、小さな「C」の切れ目を何とか見ようと注視とすると、確かによく見えるよう になる。一般によく経験されるように、視標に注意を向けると視力が向上する。この現象は、視 標への焦点合わせや視野中央への視標の移動など、眼球という感覚器の運動制御による効果とさ れてきた。しかし、最近、中枢である大脳皮質高次連合野の神経活動が視覚情報を修飾し視力に 影響を与えているかもしれないという予備的なデータを、マウスを使った実験で得ることができ た。そこで本プロジェクトでは、 「大脳皮質高次連合野は視力を調節している」という仮説を検 証し、その神経回路メカニズムの解明をめざす。 ● フラビンイメージング法 麻酔したマウスの視力測定には、フラビンイメージング法を用いることにした。この方法は、 ミトコンドリア酸素代謝とカップルしたフラビン蛋白質自家蛍光を使った脳機能イメージング であり、主に齧歯類の大脳皮質の解析に用いられてきた(Shibuki et al 2003. J Physiol 549.3:919-927 など)。例えば、マウス視覚野の応答は、モニターに映し出された縞パターンな どの視覚刺激を麻酔下のマウスに与え、視覚野に誘起される神経活動をフラビンイメージング法 により測定・定量化することができる(図1)。 (注)報告書は2枚程度とする。別紙による場合も同じ。 −1− この方法で視力を測定するには、マウスに提示する縞パターンを幾つか用意し、それらで誘起 された視覚野の反応を測定する(Tohmi et al 2006. J Neurosci 26:11775-11785)。そこで本研 究では、縞の間隔を変えたパターンを使って空間分解能を、縞の濃淡を変えたパターンを使って コントラスト感受性を測定することにした(図2)。 この視力測定を、大脳皮質に損傷を与えたマウスに対して行うことにした。高次連合野の機能 を低下させる手術を行い、回復期間(数週間)をおいた後にそのマウスの視力を測定、これと対照 群とを比較・検討することで、大脳皮質高次連合野が視力に及ぼす影響を評価することにした。 ● 高次連合野による視覚野応答の抑制 視力に関係する高次領野を同定するには、上記の慢性実験では多大な時間が必要になる。そこ で、測定が容易な視覚刺激を使用するとともに、数時間で終了する急性実験(下記)により、高次 領野の同定に必要な試行錯誤を行うことにした。 大脳皮質にカミソリで切れ目を入れるという手術の前後で、LED点滅に対する視覚野の応答 性をフラビンイメージング法により測定した。対照群では視覚野の応答性に大きな変化は見られ なかったが、今回同定した高次連合野の出力を遮断するような切れ目を入れた実験群では、視覚 野の応答性が増強した(図3)。また、同部位にムシモールを注入して同領野の興奮性神経活動を 不活性化しても同様の結果が得られることから(図4)、この増強効果が単なる通過繊維の切断に よるものではなく、同領野の機能に関係することを確認した。以上の結果より、視覚の応答に影 響を与える高次領野を同定した。同領野は、視力調節という機能を持っている可能性があり、今 後、上記の慢性実験によってさらに解析することにした。 プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等) 第35回日本神経科学大会(名古屋国際会議場) 演題:マウス高次連合野から一次視覚野へのフィードバック投射による抑制とその機能 発表者:菱田竜一、堀江正男、塚野浩明、任海学、竹林浩秀、澁木克栄 発表日:2012 年 9 月 18 日 −2−
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