電気泳動法による三価ランタノイドとマイナーアクチノイドイオンの連続

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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電気泳動法による三価ランタノイドとマイナーアクチノ
イドイオンの連続分離に関わる研究
森, 友隆
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2007-12
http://doi.org/10.14945/00003470
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静岡大学博士論文
電気泳動法による三価ランタノイドと
マイナーアクチノイドイオンの
連続分離に関わる研究
暦大富書
平成19年12月
静岡大学大学院理工学研究科
物質科学専攻
森 友隆
目次
1−1 日本のエネルギー事情と原子力
ト2 高レベル放射性廃棄物
ト3 原子炉から生じるアクチノイドとランタノイド
ト4 アクチノイドとランタノイド
1−4−1ランタノイド元素
1−4−2 アクチノイド元素
ト4−3 ランタノイドとアクチノイドの水和
1−5 ランタノイドとマイナーアクチノイドの分離の現状
ト6 研究の概要
参考文献
1 2 3 4 5 5 7 0 0 ∩ 7 0 2
1 1
第1章 緒言
3
1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 2
4
2−1溶媒抽出法による生成定数の算出
第2章 三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))とマイナーアクチノイド(Am(ⅠⅠⅠ))の生成定数
4
2−ト1 陰イオンの決定
4
′
0
7
2−2 実験
5
2−1−3 分配比(β)による生成定数(周の算出法
2−1−4 HDEHPでの抽出における分配比の水素イオン濃度依存性
2−1−2 ビスー2−エチルへキシルリン酸水素塩(HDEHP)について
0
0
2
2−3 結果と考察
0
2−2−3 溶媒抽出
2−2−2 装置
7
2−2−1試薬
2
2−3−1 塩化リチウム水溶液([SCNl=0.00∼0.50M)での抽出挙動
3
3 0 1
2 4 4
参考文献
2−4 まとめ
2
([SCN ̄]=0.00∼1.00M)での抽出挙動
2−3−5 水溶液,塩化リチウム水溶液,混合溶媒(メタノール/水)溶液
2
2−3−4 生成定数の算出
2−3−3 塩化リチウムー混合溶媒(メタノール/水)溶液(【SCN.]=0.00∼0.50M)
の抽出挙動
2
2−3−2 混合溶媒(メタノール/水)溶液([SCNl=0.00∼0.50M)での抽出挙動
2
4 4 4 4 4 4 4 4 4 4
第3章 三価ランタノイド(Eu(III))とマイナーアクチノイド(Am(III))の
移動度の比較
3
3−1電気泳動法
3
3−ト1 電気泳動法の原理
3−1−2 ろ紙電気泳動法
4
4
3−2 実験
4
3−2−1試薬
5
3−2−2 装置
′
0
3−2−3 ろ紙電気泳動における実験条件
7
3−2−4 イオンの位置の特定
3−2−5 電気泳動装置の改良
7
3−2−6 ろ紙電気泳動におけるイオンの移動速度の変動とイオンの
4
7 00 3 3 3 4 1 2
移動速度の算出
3−2−7 実験に用いる溶液系の決定
4
5
3−3 結果と考察
5
3−3−1水溶液
5
5
3−3−2 混合溶媒(メタノール/水)溶液(胤。OH=0.10)
′
0
3−3−3 混合溶媒(メタノール/水)溶液仇。OH=0.23)
3−4 まとめ
∠
U
参考文献
′ ん U ′ h U ′ ん U
4−1−1水溶液でのEu(ⅠⅠⅠ)化学種およびAm(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比
3 4 4
第4章 平均電荷の算出
4−1生成定数と化学種の存在比
4−1−2 混合溶媒(メタノール/水)溶液(胤。OH=0.40)でのEu(ⅠⅠⅠ)および
4−2 Eu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)化学種が持っ平均電荷
4−3 化学種が持つ平均電荷とろ紙電気泳動における移動度
4 4 ′ 0
′0 ‘U ‘U
Am(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比
4−4 平均電荷の差(または比)を利用した三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))と
マイナーアクチノイド(Am(ⅠⅠⅠ))の分離法の構築
5
7 7 7 7
第5章 キヤピラリー電気泳動法による三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))と
′
0
5−1キヤピラリー電気泳動法
マイナーアクチノイド(Am(ⅠⅠⅠ))の相互分離
′
U
7
ii
h
5−1−1キヤピラリー電気泳動法の原理
5−1−2 電気浸透流
7
7 7 7 7 7 00 00 00 00 00
5−1−3 落差法
0
0
5−2 実験
0
5−2−1試薬
0
0
5−2−2 装置
0
5−2−3 実験方法
5−3 結果と考察
0
ノ
2
5−3−1水溶液でのCE
2
2
5−3−2 理論段数と分離能
3
0
ノ
5−3−3 混合溶媒(メタノール/水)溶液でのCE
参考文献
第6章 落差式キヤピラリー電気泳動法による三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))と
マイナーアクチノイド(Am(ⅠⅠⅠ))の連続分離
6−1落差式キヤピラリー電気泳動法
90
91
6−1−1液流を利用したキヤピラリー電気泳動法
6−ト2 落差式キヤピラリー電気泳動法の原理と構築
6−2 実験
91
91
92
6−2−1試薬
92
6−2−2 装置
93
6−2−3 落差式キヤピラリー電気泳動法の実験
94
6−2−4 落差式キヤピラリー電気泳動法の結果と考察
94
6−2−5 落差式キヤピラリー電気泳動法による連続分離の実験
94
6−2−6 落差式キヤピラリー電気泳動法による連続分離の結果と考察 95
6−2−7 落差式キヤピラリー電気泳動法による連続分離を利用した
多量試料処理の可能性
参考文献
第7章 総括
103
謝辞
105
付録 マイナーアクチノイドの分離方法および分離装置(特願2007−286486)106
iii
第1章
緒言
1
1−1 日本のエネルギー事情と原子力
第2次世界大戦後,日本は著しい経済発展を遂げた.それにともなってエネルギ
ー消費量も急増している.日本の最終エネルギー消費は1973年度では石油換算で
285百万klであったのに対し,2000年度では406百万klと1.4倍以上になった(表1−1).
日本は世界でも有数のエネルギー消費国であるが,使用するエネルギー資源の自
給率は著しく低く,約80%を海外からの輸入に依存している.現在1次エネルギーと
して約50%を石油に依存(表1−2)しているが,1973年と1979年の石油ショックの教訓
からも原子力をはじめ石油代替エネルギーの導入を進め,バランスの良いエネルギー
供給構成を目指す事は重要なことである.
表ト1日本のエネルギー消費構造の推移1)
年度
1973 1990 20 00
最 終エネルギー 消費(
石油換算百万kl)
287 3 48 406
産 業部 門
188 183 200
民生 部 門
52 85 108
運輸部 門
47 8 0 98
表1−2 日本の1次エネルギー供給構造の推移1)
年度
1,73 1990 2000
1 次 エネ ル ギ ー 供 給 (
石油換算百万 u )
4 14 52 6 604
石油
77.
4 58.
3 5 1.
8
石炭
15.
5 16.
6 17 .
,
天 然 ガス
1.
5 10 .
1 13.
1
原子力
0.
6 9.
4 12.
4
4.
1 4.
2 3.
4
0.
0 0.
1 0.
2
0.
, 1.
3 1.
1
構
成
比
水力
(%)
地熱
新 エネル ギー 等
2
現在日本ではエネルギー資源の約4割は電力供給の目的で使われている.表ト3
で示したように2000年度の電源別発電電力量は,石油が11%,液化天然ガスが26%,
石炭18%,水力10%,原子力34%,その他1%となっており,石油ショック以前に比べ
て石油の割合が減り,石炭,液化天然ガス,原子力の発電量が増加した.1)
1986年には原子力が主要電源となった.原子力発電は,エネルギー密度が大きく,
地球温暖化ガスであるC02を排出せず,ウラン燃料の再利用も可能である等の利点
がある.
表ト3 電力発電量(一般電気事業用)の推移(%)1)
年度
1,73 1990 2000
発電電力量(10億kWb)
石油火力
379 738
930
73 29
11
石炭火力
5 10
18
液化天然ガス火力
2 22
26
原子力
3 27
34
水力
17 12
10
ト2 高レベル放射性廃棄物
このように原子力発電は非常に有効な電力源であるが,核燃料再処理の過程で生
成する高レベル放射性廃棄物には放射線毒性の高い核種や106年以上の半減期を
持つ長寿命放射性核種が含まれている.それをどのようにして処分するかが重要な課
題である.日本の原子力長期計画では,高レベル放射性廃液はガラス固化処理をし
て,深い地層に埋設する方針がとられている.2)その一方では,高レベル放射性廃液
の資源化とその処理に付随する環境への負荷の低減のための観点から,それらの放
射性核種の化学分離と中性子照射による短寿命核種への変換に関わる研究開発が
日本原子力研究開発機構(JAEA)を中心に推進されている.3,4)分離技術とは高レベ
ル放射性廃棄物から,さまざまな核種を性質や用途によっていくつかのグループに分
けることで,これによる廃棄物の減容や資源の有効利用を目指している.分離対象と
して下記のような仕分けが考案されている.
超ウラン元素(マイナーアクチノイド):長寿命核種を含み,またα放射体であるため
放射線毒性が高い.そのため中性子照射による核変換により短寿命核種に変換
3
することで長期的放射能インベントリを減らすことができる.
発熱性核種:137csと90sr等,発熱量の大きい核種であり,これらを除くことにより高
レベル放射性廃棄物の減容および貯蔵期間の短縮化になる.
有用元素:白金族は希少価値が高く,資源としての流用が期待される.また,テク
ネチウムは天然には存在せず,高レベル廃棄物からしか得ることができない元素
である.
ト3 原子炉から生じるアクチノイドとランタノイド
天然に存在するウラン(U)は,同位体元素として燃える(熱中性子で核分裂反応を生
じる)2350が0.72%,微量の234Uを除くと残りの全てが燃えない2380である.この燃え
る2350の比率を高めることをウラン濃縮という.一般的な軽水型原子炉では2350の含
有量を3∼4%に濃縮した低濃縮ウランが燃料として使用されている.原子炉中では熱
化された中性子により図ト15)で示した核分裂収率で2350(n,り反応が起こる.
0皿
1
・鋸餌
O
H
︵邑掛尊献金埜
l
80 100 120 140 160
質量数
図1−1遅い中性子による2350の核分裂生成物の収率5)
図1−1の右側のピークの質量数がランタノイドを含む位置である.このことは原子炉
の中では核分裂によって高確率でランタノイドが生成されていることを意味している.
濃縮ウランの中でも2380は2350よりはるかに多量に存在している.原子炉の中の
2380はごく少量だけ,高エネルギー中性子により核分裂を起こすが,大部分の核反応
4
は中性子を捕獲し,式(1−1)のようにしてプルトニウムが生成される.
ダ 239pu
238U(n,γ)239Uヱ239Np_
(1−1)
(Tl/2=23・45m)(Tl/2=2・357d)(Tl/2=2.411×104y)
この生成した239puも低エネルギー中性子を捕獲し核分裂を生じる核種である.
原子炉の中でウラン燃料を燃焼させる(2350を核分裂させる)と239puの存在量は増
える・そして239puの核分裂により,発電のための熱の供給に一役担う.他方で,239pu
は図1−2で示したように超プルトニウム元素製造の元になる.原子炉で用いたウラン燃
料は燃焼が進めば2350の割合が減り,核分裂核種が増加し,中性子がその核分裂核
種によって捕獲されて燃焼効率が低下する.そのため核燃料の再処理が必要になる.
再処理過程で,ウランとプルトニウムは既に確立されているPurex法などにより分離さ
れる・ネプツニウムは溶液中で5価の状態を示すので,3価状態が安定である原子番
号がアメリシウムより大きいアクチノイドおよびランタノイドと容易に分離できる.
1−4 アクチノイドとランタノイド
1−4−1ランタノイド元素
ランタノイド(Ln)とは原子番号が57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)まで
の15元素の総称である・周期表では第3族に所属し,アクチノイドとともに欄外に記
5
載されることが多い・これにスカンジウム(Sc,原子番号21),イットリウム(Y原子番号
39)を含めて希土類元素としても分類される.表1−4はランタノイドの諸性質を示したも
のである.ランタノイドは系列を通じて,最も安定な酸化状態は常に+3である.4f殻が
空であるか,半充填殻または完全充填殻となると安定であるため,その他の酸化状態
(+2,+4)も存在するが,特別な条件下でない限りその安定性は低い.また電子配置が
キセノン(Xe)に相当する電子殻構造が完成した後,6Sに続いて5d,4fに充填されてい
くことも特徴の一つである・このためこれらの元素の三価イオンは5S5pの完全に充填
された最外殻電子によって覆われており,その化学的な性質は類似することになる.
このランタノイド系列では原子番号の増加に伴い,その原子半径およびイオン半径
が減少していくという現象が見られる.原子番号および核電荷の増加とともに4f軌道
に電子が増えていくが,その4f軌道によって原子核の電荷の遮蔽される仕方はf軌道
電子雲の形から考えるときわめて弱い.このため,原子番号の増加とともに有効核電
荷は増大し,最外殻軌道電子は原子番号の増加とともにより強く原子核に引き付けら
れ,その半径が減少する.この現象は一般にランタノイド収縮と呼ばれており,ランタノ
イドの配位数変化や錯体の安定度の変化に大きく寄与している.
表1−4 ランタノイドの電子配置と配位数6の三価イオンのShamonのイオン半径7)
原 子番号
元素名
元素記 号
電 子配置
原子価
三 価 イオ ン(配 位 数 6 )
の イオ ン 半 径 / Å
5d
6 S2
3
1.
032
5d
6 S2
3 ,4
1.
0 10
4P
6 S2
3 ,4
0.
990
[
X e]
4ヂ
6 S2
2 ,3 ,4
0.
983
Pm
【
X e]
4戸
6 S2
3
0.
970
サ マ リウム
Sm
[
X e]
4 f6
6 S2
2 ,3
0.
958
63
ユ ウロピ ウム
Eu
[
X e】
4 fマ
6 S2
2 ,3
0.
94 7
64
ガ ドリニ ウム
G d
[
X e]
4P
6 S2
3
0.
93 8
65
テ ル ビ ウム
Tb
[
X e]
4 fp
6 S2
3 ,4
0.
923
66
ジ スプ ロシ ウム
Dy
[
X e】
4PO
6 S2
3 ,4
0.
9 12
67
ホ ル ミウム
H o
[
X e]
4 が1
6 S2
2 ,3
0.
90 1
68
エ ル ビ ウム
Er
[
X e]
4P 2
6 S2
2 ,3
0.
890
69
ツリウム
Tm
[
X e]
4P 3
6 S2
3
0.
880
70
イッテ ル ビ ウム
Y b
[
X e]
4P 4
6 S2
2 ,3
0.
868
71
ル テ チ ウム
Lu
[
X e]
4P 4
6 S2
2 ,3
0.
86 1
57
ランタン
La
[
X e]
58
セ リウム
Ce
【
X e】
4f
59
プ ラセ オ ジ ム
Pr
[
X e]
60
ネオ ジム
N d
61
プ ロメチ ウム
62
5d
5d
※原子価の太字の数字は酸化状態の中で最も安定な状態を表す.
6
1−4−2 アクチノイド元素
アクチノイド(An)とは原子番号が89番のアクチニウム(Ac)から103番のローレンシウ
ム(Lr)までの15元素の総称である.これらの元素は全て放射性であり安定同位体は
存在しない・ウラン(U,原子番号92)およびトリウム(m,原子番号90)が地球上に存
在できるのは,2350,2380ぉよび252Thの半減期が地球創生以来の時間に対して十分
長いためである・Uより原子番号の大きい元素は超ウラン元素と呼ばれ,全て人工放
射性核種である.表ト5はアクチノイドの諸性質を示したものである.
表1−5 アクチノイドの電子配置と配位数6の三価イオンのShamonのイオン半径7)
原 子番 号
元素名
元素記 号
電子配置
原 子価
三価 イオ ン(
配 位 数 6)
のイオ ン半 径 /Å
89
アクチ ニウム
Ac
【
R n]
6d
90
トリウム
Th
[
R n】
6d2 7S2
91
プ ロトアクチ ニウム
Pa
[
R n] 5戸
6d
7S2
3,4,5
1.
040
92
ウラン
U
[
R n] 5P
6d
7S2
3,4,5,6
1.
025
93
ネ プ ツニウム
N p
[
R可
5P
6d
7S2
3,4 ,5,6,7
1.
0 10
94
プル トニ ウム
Pu
[
R n] 5f6
7S2
3,4 ,5,6,7
1.
000
95
アメリシ ウム
Am
【
R n] 5f7
7S2 2,3,4 ,5,6,7
0.
975
96
キュリウム
cm
[
R n ] 5f7
7S2
3 ,4,5,6
0.
9 70
97
バ ー クリウム
Bk
[
R n 】 5fp
7S2
3 ,4
0.
96 0
98
カリホル ニウム
Cf
[
R n】 5ヂ0
7S2
2,
3 ,4,5
0.
950
99
アインスタイニ ウム
Es
【
R可
5P l
7S2
2,
3 ,4
100
フェル ミウム
Fm
[
R可
5P 2
7S2
2,
3
10 1
メンデ レビウム
M d
【
R可
5P 3
7S2
1,2 ,
3
102
ノー ベ リウム
No
[
R n ] 5P 4
7 S2
2,3
103
ロー レンシ ウム
Lr
6d
7 S2
3
1.
12 0
3,4
[
R n] 5ヂ4
6d 7S2
3
※ 原 子 価 の 太 字 の 数 字 は 酸 化 状 態 の 中 で 最 も安 定 な 状 態 を表 す .
アクチノイドは周囲の環境により+2から+7の酸化状態が実現される.特に軽アクチノ
イド(Ac∼cm)では多くの酸化状態が見られる.これらのうちAc,ThおよびPaはアクチ
ノイド系列に属しているが,化学的な性質はむしろdブロック遷移元素に似ていて,周
期表ではLa,HfおよびThの下に位置すると考えた方が解りやすい.すなわち,Acは
Ac3+,ThはTh4+が水溶液中で安定である・Paは+5の酸化状態が安定で,錯形成剤の
7
無い水溶液中でPaOOH2+として存在すると考えられている.U以降は5f元素として共
通の性質を持っているが,特にAm以降のマイナーアクチノイド(MA)は4f系列のラン
タノイドイオンと類似した性質を持っており,2価が安定なNoを除いて全て3価が安定
で,MA3+という化学形をとる.またアクチノイドはランタノイドと同様に,原子番号の増
加とともに電子は主に5f軌道に入るため,その遮蔽性により原子半径は徐々に減少し
ていく(アクチノイド収縮).
1−4−3 ランタノイドとアクチノイドの水和
水溶液中で解離しているイオンは,水分子に囲まれ,水分子と強く結びつき水和イ
オンとして存在する.水和イオンは一般的に第一水和圏の水和数(直接イオンに結合
する水分子の数)と第二水和圏の水和数(第一水和圏に更に配位する水分子の数)に
より定義される.第三水和圏以降の水分子とイオンとの相互作用による結合はエネル
ギー的に弱いのでこれを考慮することは少ない.
ランタノイドイオンの水和数はSpeddingら8.10)によってX線回折法を用いて求めら
れている.アクチノイドイオンの水和数はFourestら11)によって電気泳動法を用いて求
められており,これらの値をイオン半径に対してプロットしたものを図1−3に示している.
蚕長者e囲長者1鯨
1.0 1.1
1.2
イオンの結晶半径/Å
図ト3 三価ランタノイドイオンとアクチノイドイオンの8配位錯体の
結晶半径に対する第一水和圏の水和数のS字変動曲線
軽ランタノイドの第一水和圏の水和数は9であり,重ランタノイドについては8へと
減少している.中間にあるSm3+やEu3+は8と9の中間的な値をとり,両者が混合した
平衡状態にあると考えられている.
水和したイオンでは一般的に水和イオンの周りの水分子と水和水との交換が起こっ
ている.図1−4はその交換の頻度を水分子交換速度定数として表したものである.
8
二三・;∴・…・……・‥‖…・・・・・・・……朝駈
二価イオン
Yh8e2十 Ni苫†岬。J吾十Mnかca2◆
Zn神Cr帥
三価イオン
._・.印叫′1′ ■′
1■−
ニネヰ丑艮Mレム基点憾1
(1.8×10 ̄‘)
し‥二二二二一二一二二一一二二二一十二二∴二二二一一=ノ
ランタノイド
丁 ̄ ̄ :一 一一▼1−−
101 1
10 ̄1 1
10義
水分子交換速度定数/S ̄1
図1−4 イオンの水分子交換速度定数(298K)12)
ランタノイド,アクチノイドイオンの水和は主に静電的なものであるために水和に方
向性が無く,またイオンの表面電荷が大きいが他のイオンと比べ多くの水分子が配位
しているために1つの水分子との相互作用が大きくない.そのため水和水の交換速度
は非常に大きいということがわかる.
!
’
巌 5f!
暫
−
A m (ⅠⅠⅠ)
】
乃ァ 5佗・
,
抱
1−5 ランタノイドとマイナーアクチノイドの分離
の現状
アクチノイドのうちAm以降では三価の酸化
l
.1I .
.
.
.
状態が安定となる.Am3+とNd3+のイオン半径は
ほぼ等しく,アクチノイドもランタノイドも原子番
号の増加とともにイオン半径が減少する.このよ
うに化学的性質とイオン半径が似ているため,
三価ランタノイド(Ln(ⅠⅠⅠ))イオンと三価マイナー
■l 4ち ,
5虎
31佗
!
′恕
E u (ⅠⅠⅠ)
6 S∽
5d ,
即 乃 6。l佗
6 p】
乃
アクチノイドイオン(MA(ⅠⅠⅠ))の分離は極めて困
難である.一般的にはイオン半径のわずかな差
を利用してLn(III),MA(III)の分離が行われる.
外側の電子配置4f75S25p6を持つLn(III)と
5f76S26p6のMA(III)は硬い陽イオンであるが,
MA(III)の5f軌道の電子はLn(III)の4f軌道電
t ▲
l ■
0 2 4 6 8 10
図1−5 Am(ⅠⅠⅠ)とEu(ⅠⅠⅠ)における
電子軌道の動径波動関数13)
子よりもより外殻の6S26p6の電子雲を越えていくらか外側に広がりを持つ.それが共有
結合に関与するためMA(III)はLn(III)よりも若干軟らかい酸としての性質を持っている.
そのため,MA(ⅠⅠⅠ)はいくらか共有結合性があると言われている(図1−5)13).
このわずかな差を際立たせて利用することがLn(III)とMA(III)の分離につながると考
えられており,そのために軟らかい陰イオン配位子との相互作用が研究されてきた.
特に窒素岬)や硫黄(S)を配位部位として持つ配位子を用いた溶媒抽出法による両グ
ループの分離の試みが原子炉の運転開始以来多数報告されてきている.しかし,両
グループの分離に対して有用な結果は長い間得られなかった.その様な状況の中で
画期的な方法が,1996年にY Zhuらによって報告された.それはCyaneX301
(bis(2,4,4−trimetylpentyl)dithiophosphinic acid)を抽出剤として用いた抽出法で,それ
までで最も高い分離係数(SF=5.9×103)でEu(III)とAm(III)の分離に成功した.14)こ
のCyanex301は空気中で酸化され易い欠点を持っているので,近年,この欠点を克
服した方法が宮下らによって開発された.15,16)それはジオクチルジチオカルバメート抽
出剤を抽出過程の間に合成しながら抽出するinsitu抽出剤形成法であり,CyaneX
301の結果を上回る分離係数(ぶF=2.8×104)で両陽イオンの分離を達成した.
また,有阪らは溶媒の活量が低い高濃度の塩化物水溶液系でイオン交換法を用い
てcm(III)とEu(III)の化学的挙動に差が見られ,更にメタノールを添加した混合溶媒
溶液を用いることでイオン強度が低くても挙動に同様な差が見られたとも報告してい
る.17)最近では東京工業大学の池田らがアルコーノレ/塩酸混合溶媒溶液中でのピリジ
ン樹脂を用いたクロマトグラフィーによるLn(III)とMA(III)の分離の有効性を報告して
いる.18,19)
1−6 研究の概要
本研究の目的はLn(III),MA(III)と軟らかい配位子であるチオシアン酸イオン(SCN−)
との相互作用を調べ,形成されるLn(III),MA(III)のチオシアナト錯体が持つ電荷の
差を利用して両陽イオンを分離できる環境を構築することである.
最初に,塩化物水溶液系,混合溶媒(メタノール/水)溶液系および塩化物混合溶媒
(メタノール/水)溶液系でHDEHP(ビスー2−エチルへキシルリン酸水素塩)−トルエンを抽
出剤とした溶媒抽出法により,Ln(III)の代表としてEu(III),MA(III)の代表として
Am(ⅠⅠⅠ)についてチオシアナト錯体の生成定数(用を求めた.
チオシアナト錯体の生成定数に差が現れれば,錯体が持つ電荷の差を利用して電
気的にEu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)を分離できる可能性がある.そこで両陽イオンのチオシアナト
錯体の生成定数に差が現れた溶液系を用いて,ろ紙電気泳動法によりイオンの移動
速度を求めて比較した.
以上の結果に基づき,キヤピラリー電気泳動法により両陽イオンの同時泳動とその
10
分離を行ない,更に効率的な連続分離方法の構築を行なった.
11
参考文献
1.経済産業省編:第28回総合エネルギー対策推進閣僚会議資料2002年
2・高野秀機:RISTニュース,No.35,2(2003)
3・C・Madic,M・J・Hudson:High−levelliquid waste partitionlng by meanS Of
COmPletelylnCinerable extractantS,NuclearSienceandltclmology European
Commission(1998)
4・M・Skalberg,J・−0・Lilbenzin:Partitionlngand tranSmutation.A review ofthe
CurrentStateOftheart,SKBteclmicalreport92−19(1992)
5・富永健,佐野博敏:放射化学概論第2版(東京大学出版会),plO6(1999)
6・富永健,佐野博敏:放射化学概論第2版(東京大学出版会),pl15(1999)
7・R・D・Shamon,Acta・CTyStallogr.,A32(1976)751
8・A・Habenschuss,F・H・Spedding,JP如.Chem.,70(1979)2797
9・A・Habenschuss,F・H・Spedding,JPhys.Chem.,70(1979)3758
10・A・Habenschuss,F・H・Spedding,JPjp.Chem.,73(1980)442
11・B・Fourest,J・Duplessis,F・David,Radiochim.Acta,36(1984)191
12・M・Eigen,BerBunsengerPJ”.Chem.,67(1963)753
13・AttilaVbrtes,SandorNagy,ZoltanKlencsar:Handbook ofNuclearChemistry,
p.252(2003)
14・YZhu,J・Chen,R・Jiao,Sblvent放trhn助tr,14(1996)61
15・S・Miyashita,M・Ⅵmaga,I・Satoh,H・Suganuma,J肋cl.Sti.乃chnol.,44(2007)
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16.菅沼英夫,宮下直,特開2007−114195
17・M・Arisaka,T・Kimura,H・Suganuma,Z・Ybshida,RadioChim.Acta,90(2002)193
18・A・Ikeda,T・Suzuki,M・Aida,YFqiii,K.Itoh,T.Mitsugashira,M.Hara,M.Ozawa,
JC力和椚αわ餅」,1041(2004)195−200
19・A・Ikeda,T・Suzuki,M・Aida,K・Ohtake,YFljii,K.Itoh,M.Hara,T.Mitsugashira,
JdJJりげCo〝pd,374(2004)245−248
12
第2幸
三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))と
マイナーアクチノイド仏m(ⅠⅠⅠ))の生成定数
13
2−1 溶媒抽出法による生成定数の算出
2−ト1陰イオンの決定
1−5で述べた通り,Ln(III)とMA(III)はHSAB則において硬い陽イオンであるが,f
軌道電子の振る舞いの違いにより,MA(III)はLn(III)よりも共有結合性がより大きいこと
が考えられる.塩化物イオン等の硬い陰イオンは両陽イオンとの相互作用が比較的大
きいためにLn(III)とMA(III)間の僅かな化学的性質の差を観測しにくく,また溶媒の
活量が低い高濃度領域で用いないとLn(III)とMA(III)の間に差が現れない.1)そこで
両陽イオンに対して相互作用が比較的小さい軟らかい陰イオンを用いることで,共有
結合性に基づいたLn(III)とMA(III)の挙動の差をより顕著に示すことができると考え,
本研究ではチオシアン酸イオン(SCN−)に着目した.
2−1−2 ビスー2エチルへキシルリン酸水素塩(HDEHP)について
R
O
\戸
RO\れ/OR
H⋮⋮.♂ヽ
RO.〇⋮H
R =
く
HDEHPはトルエン溶液中では図2−1のように二量体化して存在している.
ゝヽ
ヽpクP
RO/1\oR
CH2CH3
l
−CH2CHCH2CH2CH2CHl
図2−1トルエン中で二量体化した 図2−2 HDEHPの三価の
HDEHPの構造 金属イオン(M3+)への配位
二量体(HDEHP)2は水素イオンを一つ放出して陽イオンに配位し,三価の金属イオ
ン(M3+)に対してはその二量体が3つ配位してキレート錯体を形成し,抽出を行なう(図
2−2).
従って,HDEHPとM3’の抽出平衡は式(2−1)のように書き表せる.
14
M3’+3(HDEHP)2≠M(HDEHP・DEHP)3,。,g+3H’
(2−1)
ここで,DEHPはHDEHPから水素イオンが一つ外れたものであり,Orgは有機相を表
している.また式(2−1)の抽出定数(屯X)は式(2−2)のように書き表せる.
lM(HDEHP・DEHP),]。,glH+]3
gex=
(2−2)
lM3’][(HDEHP)2]三rg
2−1−3 分配比(β)による生成定数(周の算出法
水溶液中に一価の陰イオン配位子(L−)が存在する時のM3+のHDEHPによる抽出
における分配比(β)は式(2−3)のように書き表せる.M3+とし●による全生成定数の値を用
いると式(2−4)のように表せる.
上)=
lM(HDEHP●DEHP),]。rg
(2−3)
lM3+]+[ML2+]+lMI六]+…
lM(HDEHP.DEHP)3]。rg
(2−4)
[M3+】(1+A[L]+β2[L】2+…)
なお,全生成定数(晶)は式(2−5)のように表せる.
且=
【Ml霊 ̄〃)+]
(2−5)
[M3+][L]〃
更に,式(2−4)に式(2−2)で定義した屯Xの値を導入すると式(2−6)のように書き換える
ことができる.
β=方。X
[(HDEHP)2]三rglH’]−3
(2−6)
1+A[L]+β2[L]2+...
L ̄の濃度が0の時のM3+の分配比を80とすると,式(2−6)は式(2−7),(2−8)のように書
き表せる.
15
上)=
80
(2−7)
1+A【L]+β2【L】2+…
旦−1=A【L】+β2[L]2+…
(2−8)
上)
前述の式(2−6)から,HDEHPによる抽出ではM3+の分配比は有機相中のHDEHP
濃度と水相の水素イオン濃度に影響を受けることがわかる.本研究では,より正確な
分配比を得るために,あらかじめか値が0.1から10の範囲になるようにHDEHP濃度
を調製した.
そして,一つの生成定数を求める一連の実験では同じHDEHP濃度のものを使用し
た・一方,水相中の水素イオン濃度を一定に保つのは困難であるため,抽出後の水
相中の見かけのpH値を測定し,一連の実験で全て同じpH値の時に得られるD値を
求められるようにか値に補正行なった.実際の生成定数の算出にはこの補正したβ値
を用いた・そして式(2−8)から配位子L ̄の濃度を横軸に,(80/8−1)を縦軸にとり,最小
二乗法により解析することにより生成定数凡を求めることができる.また本研究におい
て,配位子L ̄はチオシアン酸イオン(SCN.)を指す.
2−1−4 HDEHPでの抽出における分配比の水素イオン濃度依存性
式(2−6)より,三価金属イオンの分配比月日ま水素イオン濃度([H+】)の−3乗に依存す
ることが分かる.従って,この水素イオン濃度のわずかな変化が分配比や生成定数の
値に与える影響は大きいので,分配比の補正に用いる水素イオン濃度の測定は正確
に行なわなければならない・そこで本研究ではpHメーターを使用して溶液中のpHを
測定した.溶液中に多量の電解質が存在する場合,水の活量が変化することによっ
て−log【H+]≠pHとなるが,本研究で用いた溶液系では全て水の活量係数が0.99∼
1・00の範囲にあるため,−log[H+】=pHとして生成定数の計算を行なった.
16
2−2 実験
2−2−1試薬
HDEHP一トルエン溶液:
Cu(II)のHDEHP錯体であるCu(DEHP)2をトルエンに溶かし,4M硫酸溶液によるス
トリッピングによって銅イオンを水相に,HDEHPをトルエン相に残し,(HDEHP)2を調製
した.HDEHP−トルエン溶液は純水によってよく洗浄し,トルエン中のHDEHPの濃度を
水酸化ナトリウム水溶液を用いた中和滴定によって決定した.
152,154Eu(152Eu:Tlr2=13.3y,154Eu:Tl′2=8.6y):
東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室の佐藤伊佐務准教授が日本原
子力研究開発機構・材料試験炉(JMTR)で151Euと152Euの(n,†)反応で生成したものを
譲り受け,それを使用した.蒸発乾固されているそのユウロピウム塩化物を0.10M過
塩素酸水溶液に溶解し,0.10M水酸化ナトリウム水溶液でpHを3∼4に調整して
HDEHP_トルエン溶液でトルエン相に152,154Euを抽出した.抽出実験にはこの152,
154Euを含むHDEHP−トルエン溶液を適当な濃度に希釈したものを使用した.NaI(Tl)
検出器による152,154Euの†線スペクトルを図2−3に示した.実際に測定した152,154Euの
エネルギーの範囲は,32keVから205keVであった.使用したEu(III)の濃度は10 ̄6M
以下である.
241Am(Tl′2=432y):
東北大学金属材料研究所より譲り受けたものを使用した.152,154Euの場合と同様に
して241Amをトルエン相に抽出し,適当な濃度のHDEHP−トルエン溶液で希釈して使
用した.NaI(Tl)検出器による241Amの†線スペクトルを図2−4に示した.実際に測定し
た241Amのエネルギーの範囲は,20keVから80keVであった.使用したAm(III)の濃
度は10●6M以下である.
水:
Sa,tOri。S社製のArium㊦611超純水製造装置により精製したものを使用した.
メタノール:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
トルエン:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
17
過塩素酸:
和光純薬工業株式会社の容量分析用(60%)を適当な濃度に希釈して使用した.
過塩素酸ナトリウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
チオシアン酸ナトリウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
塩化リチウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
2−2−2 装置
放射能測定装置:
ALOKA社製AUTOWELLGAMMASYSTEMARC_2000
pHメーター:
東亜電波工業株式会社ガラス電極水素イオン濃度計HM_60G
イオン電極:
東亜電波工業株式会社ガラス電極GSTL5727C
振とう装置:
TOKYORIKAKIKAI社製SS−8
恒温槽:
IKEDASCIENTIFIC社製THERMOACEITIC760
遠心分離器:
KOKUSAN社製 H−18
18
40keV
嘲要素蚕
i
′
80keV, 122keV
J
卓
と二二二二州
_′㌦ノ、
162keV
・・\−了\一一\ノー∴・)了・、\、−
蒜二ri・てこ二品.㌫芯チ
やHH
11:鴫lニ蔓!250
エネルギー/keV
図2・3152・154Euの†線スペクトル
嘲濯養蚕
エネルギー/keV
図2・4 241Amの†線スペクトル
19
2−2−3 溶媒抽出
実験は図2−5に示すフローチャートに従い,HDEHP一トルエン溶液を抽出剤として用
いる逆抽出法によって行なった.水相はイオン強度1.00から5.00Mのメタノールと水
の混合溶媒相である.水相中のメタノールモル分率(胤。OH)を0.00から0.40まで,チ
オシアン酸イオン濃度を0.00から1.00Mまで,また塩化物イオン濃度を変化させて実
験を行なった.これらの実験ではpH調整のための緩衝剤は使用しておらず,イオン
強度の調整には一般にランタノイドイオンとは錯形成が無視できるとされている過塩素
酸イオン(過塩素酸,過塩素酸ナトリウム)を用いた・有機相はそれぞれ152,154Euもしく
は241Amを含むHDEHP−トルエン相である.この水相12mlと有機相6mlをプラスチ
ックバイアルに入れ,298Kの恒温槽中で30min振とうした.そして平衡後に遠心分離
をして両相を完全に分離し,それぞれからlmlを分取してそれらの放射能量(†線)を
NaI(Tl)シンチレーションカウンターで測定した.更に放射能量を測定した後の水相中
の水素イオン濃度を,pHメーターを用いて測定した.
20
1.
00 M (
H’
,N a’
)
(
C 10 4 ̄,S C N .
)+
(
H D E H P)
2+
x M L iC l 混合溶 媒(
メタノール/
水)
M (
H D EH P ・
D E H P)
3
水相 有機相
図2−5 混合溶媒溶液中のM3+(M:EuおよびAm)と
SCN ̄との生成定数を求める実験の操作略図
21
2−3 結果と考察
2−3−1塩化リチウム水溶液([SCNl=0.00∼0.50M)での抽出挙動
図2−6,2−7および2−8に塩化リチウム水溶液を用いたときの,Eu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)
の【SCN ̄】に対する(80/8−1)のプロットを示す.それぞれの溶液系において塩化リチ
ウムの濃度([LiCl])を増加させたところ,Eu(III)とAm(III)はほとんど同じ傾向を示した.
両イオンは[LiCl]=0.00∼3.00Mの領域では曲線の勾配は殆ど変化しなかったが,
lLiCl]=5.00Mの溶液系では曲線の勾配が比較的大きく増加した.図2−8より,[LiCl]
=0.00,1.00,3.00Mの溶液系において同じチオシアン酸イオン濃度ではEu(ⅠⅠⅠ)よりも
Am(III)の方が(Do/8−1)の値が幾分大きいが,[LiCl]=5.00Mの溶液系ではほぼ同
じとなった.
2−3−2 混合溶媒(メタノール/水)溶液(【SCNl=0.00∼0.50M)での抽出挙動
図2−9,2−10および2−11に混合溶媒(メタノール/水)溶液を用いたときのEu(ⅠⅠⅠ)およ
びAm(III)の[SCNlに対する(Do/8−1)のプロットを示す.それぞれの溶液系において
メタノールのモル分率(晶4eOH)を増加させたところ,Eu(III),Am(III)ともに曲線の勾配が
増加した.更に,Eu(ⅠⅠⅠ)よりもAm(ⅠⅠⅠ)の方に2次以降の係数の寄与が強く現れた.
図2−11より,常に托。<払m(Yh:ある【SCN ̄】でのEu(III)における(Do/8−1)の値,
YAm:Yhと同じ[SCNlでのAm(III)における(Do/8−1)の値)であり,XheoHの増加ととも
にその差がより大きくなった.
2−3−3 塩化リチウム混合溶媒(メタノール/水)溶液([SCN.]=0.00∼0.50M)での抽出
挙動
図2−12,2−13,2−14,2−15および2−16に塩化リチウムー混合溶媒(メタノール/水)溶液を
用いたときのEu(III)およびAm(III)の[SCN.]に対する(Do/D−1)のプロットを示す.
XheoH=0.10で[LiCl]を変化させたところ,Eu(III)もAm(III)も曲線の勾配には殆ど
変化が現れなかったが,Cl ̄が溶液に加わることによって(80/8−1)の値が下がる傾向
を示した.
XheoH=0・40で[LiCl]を0.00Mから1.00Mに変化させたところ,(Do/D−1)の値は
XheoH=0.10に比べより顕著に下がることがわかった.その結果,Eu(ⅠII)もAm(III)も曲
線の勾配が減少し,托。とhmの差がより小さくなった.塩化物イオン濃度の増加により,
Eu(III)とAm(III)の(Do/8−1)の値が下がることはCl.(ストークス半径が結晶半径より
小さいイオン)が両陽イオンの内圏に入り,Eu(III)およびAm(III)とSCN.との相互作用
22
を妨げていることを示していると考えられる.
2−3−4 生成定数の算出
2−3−1,2−3−2および2−3−3の結果から,塩化リチウム混合溶媒(メタノール/水)溶液系
での【SCN.]に対する(DoW−1)の変化の傾向を示すことができた.Eu(III)とAm(III)の
チオシアナト錯体の生成定数を算出し,それを表2−1に示した.
2−3−5 水溶液,塩化リチウム水溶液,混合溶媒(メタノール′水)溶液([SCN−】=0.00∼
1.00M)での抽出挙動
2−3−1,2−3−2および2−3−3の結果から[SCN]>0.50Mの領域においてEu(III)と
Am(ⅠⅠⅠ)の間に比較的大きな差が現れることが期待される溶液を用いて,更にチオシ
アン酸イオン濃度の範囲を0.00∼0.50Mから0.00∼1.00Mに拡張し,また実験点を
増やして生成定数を求める実験を行なった.対象とする溶液系には差が期待されな
い5・00Mの塩化リチウム水溶液,大きな差が期待される胤eoH=0・40の混合溶媒(メ
タノール/水)溶液,そしてそれらの溶液と比較するために[LiCl]=0.00Mの水溶液系
を選んだ.
図2−17,2−18および2−19に水溶液,塩化リチウム水溶液(【LiCl]=5.00M),混合溶
媒(メタノール/水)溶液仇eoH=0・40)を用いたときのEu(III)およびAm(III)の[SCN−]に
対する(80/8−1)のプロットを示す.また表2−2に,図2−17,2−18および2−19から最小
二乗法によって計算した各溶液におけるEu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)のチオシアナト錯体の
生成定数を示す.
水溶液および塩化リチウム水溶液を用いたときの結果からでは角の値を求めること
ができなかったが,混合溶媒(メタノール/水)溶液を用いたときには求めることができた.
図2−18および表2−2から,塩化リチウム水溶液ではEu(ⅠⅠⅠ)よりもAm(ⅠⅠⅠ)の方が戌
の値が大きいことがわかるが,両イオンの間に差は見られなかった.
図2−19および表2−2から,混合溶媒(メタノール′水)溶液ではβ1,免尾ともにEu(ⅠⅠⅠ)
よりもAm(ⅠⅠⅠ)の方がその値が大きく,特に角については両イオンの間に比較的大きな
差を見つけることができた.
23
図2−61.00M(H二N√)(ClO4二SC町)+xMLiCl水溶液での
Eu(ⅠⅠⅠ)の(鋤−1)の変化
J:【LiCl]=0.00M,●:【LiCl]=1.00M
▲:【LiCl】=3.00M,▼:【LiCl】=5.00M
24
国宝−・書M︵雪ぎ夏C−OySC弓︶+hMLiC−溶勒薄d8
>ヨ︵ⅠⅠⅠ︶8︵95⊥︶8槻詩
■こLiC−︼=gO岸●こLiCエ=−.書M
トこLiC占=gOM︸↓こLiC丘=芸OM
柏研
0.0 0.1
0.2 0.3 0.4 tI.5
0.0 0.1 0.2 0.3 仇4 0.5
【SCN ̄】/M
0.0
【SCN ̄】/M
吼1 0.2 0.3 0.4 0.5
0.0 0.1 0.2 仇3 0.4 0.5
【SCN ̄】/M
【SCN ̄】/M
図2−81・00M(f{,N√)(C104二SCN ̄)+xMLiCl水溶液での
Eu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)の脚−1)の変化
1:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
26
図2−91.OM(H’,NaTxc104−,SC町)混合溶媒
(メタノール/水)溶液でのEu(III)のPoの−1)の変化
■:水溶液, ●:局舶M=0.05
▲:晶岨i=0.10,▼:羞慮測=0.23
争:薫血夷M=0.40
27
図2−101・00M(打,Na〕(C104二SCⅣ)混合溶媒
(メタノーノり水)溶液でのAm(ⅠⅠⅠ)の(00−1)の変化
■:水溶液, ●:晶郁H=0.05
▲:瓜dコH=0.10,▼:先細H=0.23
㊨:局側H=0.40
28
軋0 0.1
0.2 机3 0.4 飢5
仇0 0.1
lSCNl/M
仇2 仇3 0.4 05
【SCN ̄】/M
吼0 0.1 0.2 0.3 0.4 机5
0.0
仇1 0.2 0.3 0.4 飢5
【SCN−】/M
【SCN ̄】/M
図2−111・00M(H’,Na〕(ClO4−,SCN ̄)混合溶媒
(メタノーノり水)溶液でのEu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)の(00−1)の変化
■:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
29
〇・0 0・1 0.2 0.3 0.4 0.5
【SCN ̄1/M
図2−121・00M(H+,Na〕(ClO4二SC町)+xMLiCl混合溶媒
(メタノーノり水)溶液‰=0・10)でのEu(ⅠⅠⅠ)の(伽の−1)の変化
■:【LiCl】=0・00M,●:【LiCl]=1.00M
▲:【LiCl】=3.00M
30
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
【SCN ̄】/M
図2−131.00M(H’,Na〕(ClO4 ̄,SC町)+xMLiCl混合溶媒
(メタノール/水)溶液‰=0.10)でのAm(ⅠⅠⅠ)の(00−1)の変化
■:【LiCl]=0.00M,●:【LiCl】=1.00M
▲:匹iCl】=3.00M
31
0・0 0・1 0.2 0.3 0.4 0.5
【SCN ̄】/M
図2−141・00M(H’,NaTxc104−,SC町)+xMLiCl混合溶媒
(メタノール/水)溶液仇鵬=0.40)でのEu(ⅠⅠⅠ)の仰−1)の変化
■:【LiCl】=0・00M,●:【LiCl】=1.00M
32
〇・〇 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
【SCNl/M
図2−151・OM(打,N頼ClO4二SC町)+xMLiCl混合溶媒
(メタノール/水)溶液(胤畑=0・40)でのAm(III)のPJD−1)の変化
雷:【LiCl】=0・00M,●:【LiCl]=1.00M
33
机0 0.1
0.2 0.3 0.4 0.5
0.0
軋1 0.2 0.3
【SCN ̄】/M
【SCN ̄】/M
0.0
仇l
0.2 0.3 0.4 0.5
【SCN ̄】/M
図2−161・00M(H’,N弟(ClO4二SCN ̄)+xMLiCl混合溶媒
(メタノール/水)溶液でのEu(ⅠⅠⅠ),Am(III)のPJD−1)の変化
■:Eu(ⅠⅠり ●:Am(Ⅰ叫
34
0.4 0.5
0.0 0.2 0.4 0.‘ 0.8 1.0
ISCN ̄】/M
図2−171・00M(打,Na+xclO4二SCⅣ)水溶液での
Eu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)の(鋤−1)の変化
■:E叫ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
35
0.2 0.4 0.‘ 0.8 1.0
lSCNl/M
図2−181・00M(tr,NaTxclO√,SCN−)+5.00MLiCl水溶液での
Eu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)の仰−1)の変化
■:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅢⅠ)
36
0.2 0.4 0.‘ 0.8 1.0
【SCN ̄】/M
図2−191・00M(打,N頼ClO4二SCN ̄)混合溶媒(メタノール/水)溶液
‰H=0・40)でのEu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)の(功個−1)の変化
■:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
37
表2−1Eu(III)とAm(III)の1.00M(H’,Na’)(ClO4 ̄,SCN.)+xMLiCl混合溶媒(メタノール/
水)溶液におけるチオシアナト錯体の生成定数の変化(【SCN ̄]=0.00∼0.50M)
Eu(III) Am(III)
XheoH lLiCl】/M
A 甚 βl A
0.00 1.41士0.15
0.75土0.28
1.43士0.13
2.98土0.26
1.00 1.72土0.15
0.52土0.30
1.87土0.48
1.00土0.92
3.00 1.83土0.32
1.64土0.61
2.11土0.29
1.70土0.55
5.00 2.68士0.68
6.07土1.31
3.12土0.52
4.94土1.00
0.00 1.57土0.37
2.10土0.71
1.73土0.39
3.97土0.76
0.00 1.54土0.15
3.46土0.28
1.94土0.65
5.19土1.24
1.00 1.68土0.10
1.21土0.18
1.74土0.69
3.02土1.32
3.00 1.70土0.45
2.95士0.86
1.74土0.52
1.84士0.99
0.00 1.78土0.33
6.50土0.63
1.72土1.72
10.6土3.3
0.00 2.59土1.27
18.0土2.4
2.24士1.33
33.0土2.5
1.00 2.08土0.50
6.50土0.96
1.80土0.35
8.02土0.68
38
表2−2 Eu(III)とAm(III)の1・00M(H’,Na’)(ClO4 ̄,SCN ̄)+xMLiCl混合溶媒(メタノール/
水)溶液におけるチオシアナト錯体の生成定数の変化([SCN.]=0.00∼1.00M)
Eu(III) Am(III)
晶eoH lLiCl]/M
βl
A
A β1 /ち A
0.00 0.00 1.51土0.07 1.13土0.11 2.00土0.16 2.33土0.16
0・00 5・00 3.26土0.22 5.77土0.42 2.54土0.17 6.70土0.31
0・40 0.00 4.57土0.78 10.68士0.81 22.3土1.5 5.69土1.26 11.7土1.3 42.4土2.4
39
2−4 まとめ
塩化リチウム水溶液および塩化リチウム混合溶媒(メタノール/水)溶液ではEu(ⅠⅠⅠ)と
Am(ⅠⅠⅠ)のチオシアナト錯体の生成定数に大きな差を見つけることはできなかった.こ
れはCl ̄がEu(III)またはAm(ⅠII)と相互作用することにより,SCN.と両陽イオンとの錯形
成が阻害されるためであると考えられる.
他方,混合溶媒(メタノール/水)溶液ではメタノールモル分率の高まりにつれて両陽
イオンのチオシアナト錯体の生成定数,特に戌と角の値の差がより大きくなる傾向を示
した.特にjん。OH=0.40の溶液系では両イオンの間に比較的大きな差を見つけること
ができた.
また,実験を行なったほとんどの溶液について,Eu(ⅠⅠⅠ)よりもAm(ⅠⅠⅠ)の方が戌,角の
値が大きいこともわかった.従って,Eu(III)よりもAm(III)の方がM(SCN)2’,M(SCN)3な
どの化学種を形成しやすいことが明らかになった.
これは,チオシアナト錯体が持つ電荷の差を利用してEu(III)とAm(III)を分離できる
可能性を示唆している.
40
Tや
E61(ZOOZ)06‘叩F●叫押叩明か甘‘J〝J∂‘℃平S!JV・川・l・t
泄五誌留
第3幸
三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))とマイナーアクチノイド
(Am(ⅠⅠⅠ))の移動度の比較
42
3−1 電気泳動法
3−ト1電気泳動法の原理
溶液中で電位差によりイオン,高分子,コロイド粒子等が移動する現象を電気泳動
といい,移動の方向および速度は粒子界面における界面動電位の符号および大きさ
により変わる.電解質が吸着されると界面動電位が変化するので,その移動速度(移
動度)は液中の電解質の種類や濃度により影響される.移動速度は,また粒子の形お
よび大きさによって左右されるので粒子による違いを利用して分離分析をすることがで
きる.1)電気泳動による分離は,電場中での溶質の移動速度の差に基づいている.あ
るイオンの移動速度は式(3−1)で示される.
〟=/促g
(3−1)
ここで,uはイオンの移動速度(cm/S),FLeは各イオンに固有の電気泳動移動度
(cm2ⅣS),朗ま電場の強さ(Ⅴ/cm)を示している.電場は単純に印加電圧と距離(長さ)の
関数であり,与えられたイオンと溶媒に対して移動度は定数となり,そのイオンに特有
なものとなる.移動度は分子が受ける電気力によって決まり,溶媒中を移動する際の
摩擦抵抗と釣り合う(式(3−2)).
/児=
電気力(FE)
摩擦力(FF)
(3−2)
電気力は式(3−3)で表される.
(3−3)
FE=qE
摩擦力(球上のイオンに対して)は式(3−4)となる.
FF=−6方町〟
(3−4)
ここで留はイオンの電荷,符は溶液の粘度,rはイオンの半径,〟はイオンの移動速度
を表している.電気泳動の間に,これらの力の平衡で定まる定常状態に到達する.こ
の時点で両方の力は等しくなり方向は反対になる(式(3−5)).
qE=6方γ〟
(3−5)
43
移動速度について式(3−5)を解き,式(3−5)を式(3−1)に代入すると,物理的パラメータ
によって移動度を表す式(3−6)が得られる.
岬=孟 (3−6)
式(3−6)から,イオン半径が小さくて高電荷のイオンは高い移動度を持ち,大きくて
電荷の小さいイオンは低い移動度しか持たないことがわかる.
3−1−2 ろ紙電気泳動法
ろ紙電気泳動法はろ紙を電解質溶液または緩衝溶液の支持体(固定媒体)としてそ
の上に目的の調べる物質を塗布し,両端に+,−の直流電圧を与えて物質を移動さ
せて定性および定量を行なう分析法である.2)無機塩などを水に溶かし解離して生じ
た正または負のイオンが陽極および陰極に向かって同時に動く電気分解の現象と類
似しているが,電気泳動にはイオンよりも大きな粒子が一方の極に向かってのみ移動
していく現象もある.
このろ紙電気泳動法はろ紙を利用する従来のペーパークロマトグラフィーに電圧を
与えた変形とも考えることができる.だが,ペーパークロマトグラフィーではほとんど分
離できない物質を容易に分離し,分離時間は短い.電気泳動に用いることのできる物
質は,有機物,タンパク質,無機物など多岐にわたり,また用いる試料は少量でよい.
実験に用いる装置も手法も簡単であるなどの利点がある.3)
3−2 実験
3−2−1試薬
152,154Eu(152Eu:Tl佗=13・3y,154Eu:Tl佗=8.6y):
東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室(日本原子力研究開発機構・材
料試験炉(JMTR)で151Euと152Euの(n,†)反応で生成)から譲り受け,それを使用した.
蒸発乾固されているそのユウロピウム塩化物を0.10M過塩素酸水溶液に溶解した.こ
れをろ紙電気泳動においてろ紙に塗布する泳動核種として使用した.実験に使用す
るにあたって152,154Euの濃度を適当な濃度に希釈した.
241Am(Tl′2=432y):
東北大学金属材料研究所より譲り受けたものを使用した.152,154Euの場合と同様に
44
0.10M過塩素酸水溶液に溶解し,ろ紙電気泳動においてろ紙に塗布する泳動核種
として使用した.実験に使用するにあたって241Amの濃度を適当な濃度に希釈した.
水:
sa,t。ri。S社製のA,i。m句11超純水製造装置により精製したものを使用した.
メタノール:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
過塩素酸:
和光純薬工業株式会社の容量分析用(60%)を適当な濃度に希釈して使用した.
過塩素酸ナトリウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
チオシアン酸ナトリウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
ろ紙:
クロマト用ろ紙514A20×400mm(アドバンテック東洋株式会社製)
3−2−2 装置
電気泳動槽:
ろ紙電気泳動装置EF−200(アドバンテック東洋株式会社)
電圧器:
パワーステーション1000VCAE8450型(アトー株式会社製)
電極槽:
500mlペットボトルを高さ40mmに切ったものを使用
アルミ製冷却槽:
特注品(機器分析センター 大江純男前教授製作)
230mm(長さ)×65mm(幅)×20mm(高さ)
特注品(東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室の佐藤伊佐務准教授
45
から譲り受けたものを使用)
230m(長さ)×65m(幅)×20m(高さ)
冷却装置:
ネオクールサーキュレーターCF600(ヤマト科学株式会社製)
ガラス板:
特注品250mm(長さ)×65mm(幅)×2mm(厚さ)
データ取り込み用コンピュータ:
富士通社製デスクトップコンピュータ
スライダー制御装置,コントローラおよびろ紙スライダー:
ペーパークロマトグラフPCG−1(石井康雄氏が設計し,製作を遠藤科学株式会社
に依頼)
放射能検出部:
中央部1mmスリット入り1mm厚アルミ板(石井康雄氏が設計し,製作を遠藤科学
株式会社に依頼)これを検出部保持具に取り付ける
放射能検出装置:
GM(帥))サーベイメータTGS−121(アロカ株式会社製)
3−2−3 ろ紙電気泳動における実験条件
本研究で用いたろ紙電気泳動システムは石井康雄氏が開発したものである.3)図
3−1にろ紙電気泳動装置を示す.0.10M過塩素酸に,過塩素酸ナトリウムとチオシア
ン酸ナトリウムを合わせて1.00Mとなるようにし,全てでイオン強度が1.10Mとなる混
合溶媒(メタノール/水)溶液を泳動溶媒として両電極室に規定量満たした.この泳動溶
媒の入った両電極室間にろ紙を渡し,電極室に満たした泳動媒質と同じものをピペッ
トを用いて紙に均一に塗布する.その後,ろ紙の末端から110mm,160mm,210mm
の位置に泳動核種を溶解した0.10M過塩素酸水溶液を塗布し,両電極室に電極を
入れ250Vの電圧を60minまたは120minかけて電気泳動を行なった.図3−1では
左側が陽極で右側が陰極を示している.今回行なった実験条件において泳動核種で
ある152,154Euおよび241Amの三価の陽イオンは核種の塗布位置より右の方向へと泳動
する.この時ろ紙上で溶媒の蒸発を抑えるためガラス板により上下から挟み,また電
46
気泳動中におけるろ紙の発熱を抑えるためガラス板の上下にアルミ製の冷却装置を
設置し,283Kに保って泳動実験を行なった.泳動後に,ろ紙をろ紙電気泳動装置よ
り取り外し,ろ紙の両端をクリップで挟み乾燥台に置き,ドライヤーの温風を吹き込む
ことによって乾燥させた.
3−2−4 イオンの位置の特定
図3−2は泳動後,移動したイオンの位置を特定する放射能位置検出装置を示してい
る.電気泳動実験後,乾燥したろ紙をポリエチレンで作成した袋に入れ,これを測定
器のスライダー上にセロテープで貼り付ける.このスライダーを測定器であるサーベイ
メータの前を通過させることによってろ紙上の放射能位置を特定する.このサーベイメ
ータはエネルギー分解能を持たないため核種の種類を特定することはできない.
実際に測定されたろ紙位置に対する放射能強度を図3−3に示す.泳動した核種の
位置は放射能のピークとして現れる.このピークと泳動核種の塗布位置との距離を泳
動時間あたりの核種の移動距離としてイオンの移動速度を計算した.
3−2−5 電気泳動装置の改良
石井らの研究3)では,電気泳動においてろ紙1枚につきアルミ製冷却板1枚をろ紙
の下部に設置して実験を行なっていた.しかし,混合溶媒(メタノール/水)溶液系で実
験を行なった際にろ紙の冷却が不十分となり,ろ紙から泳動溶媒が蒸発するという可
能性を指摘している.
泳動溶媒の蒸発はろ紙上の溶液組成の不均一化を引き起こす.これを防ぐことで
実験結果の信頼性を更に高められることが推定された.そこで本研究では,ろ紙1枚
につきアルミ製冷却板2枚で上下からろ紙を挟み込むように設置して電気泳動を行な
った.
3−2−6 ろ紙電気泳動におけるイオンの移動速度の変動とイオンの移動速度の算出
石井らの研究3)では,ろ紙電気泳動において一定の電位勾配ではろ紙のいかなる
位置でもイオンの移動速度は一定であり,ろ紙上において均一なろ紙ゾーンが形成さ
れているとして取り扱っている.本研究ではその現象が確認されず,ろ紙の末端と中
央ではイオンの移動速度が異なることがわかった(図3−4).繰り返し実験により各泳動
核種着荷位置でのイオンの移動速度の誤差は±1∼3mm/60minと極めて小さいとい
うこともわかった.そこで本研究では,イオンの移動速度を各泳動核種着荷位置毎に
算出することとした.以後,泳動核種着荷位置について,ろ紙の左端から110mの
47
点をA点,160mmの点をB点,210mmの点をC点として取り扱うこととする.
3−2−7 実験に用いる溶液系の決定
第2章に述べた結果から,Eu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)のチオシアナト錯体の生成定数に比較
的大きな差が現れた混合溶媒(メタノール/水)溶液系であれば,錯体が持つ電荷に比
較的大きな差が現れることが考えられる.そこで,錯体が持つ電荷の差を利用して
Eu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)の移動速度に差を見つけるために,ろ紙電気泳動法でも混合溶媒(メ
タノール/水)溶液系を用いた実験を行なった.また,電気泳動による溶液の水素イオ
ン濃度変化が極めて小さくなるように過塩素酸水溶液を用いて溶液のpHを1.0に調
整した・従って本実験で用いた泳動溶液は0.10MHClO4+xMNaSCN+(1.00「方)
MNaC104混合溶媒(メタノール/水)溶液である.更にチオシアン酸(HSCN)の酸解離
定数bKa=0・848)4)より,溶液中の[SCNlは初期NaSCN濃度(PaSCN]0)の59%以下
であるため,各実験結果については脚aSCN】0に対してプロットした.
48
図3−1 ろ紙電気泳動装置
図3−2 ろ紙上の泳動核種の放射能位置検出装置
0.18
0.16
0.14
ASま、嘲悪潜素養
0.12
0.10
0.08
0.06
0.04
0.02
0.00
200
位置/mm
図3−3 測定された放射能の例
泳動条件
泳動核種:152,154Eu
泳動核種塗布位置:ろ紙左端より110m,160m,210m
泳動溶媒:0.10MHClO4+1.00MNaC104水溶液
泳動時間:60min
印加電圧:250V
温度:283K
51
7一目ヨ已\嘲類裔蛤eヽセヽ
Ol
120 140 160 180 200 220
泳動核種着荷位置/mm
図3−4 ろ紙上の異なる位置におけるイオンの移動速度(8回の平均)
泳動条件
泳動核種:152,154Eu
泳動核種塗布位置:ろ紙左端より110m,160mm,210m
泳動溶媒:0.10MHClO4+1.00MNaClO4水溶液
泳動時間:60min
印加電圧:250V
温度:283K
52
3−3 結果と考察
3−3−1水溶液
図3−5および表3−1に水溶液を用いた時のPaSCN]0に対するEu(ⅠⅠⅠ)および
Am(III)のろ紙電気泳動法によって測定されたイオンの移動速度を示す.PaSCN]0の
増加とともにEu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)の移動速度は減少する傾向を示した.これによって
ろ紙電気泳動においてチオシアン酸イオンとEu(ⅠⅠⅠ)およびAm(III)の間に相互作用が
あることがわかる.またA点,B点,C点ともにPaSCN]0=0.00Mの領域において,
Eu(III)よりもAm(III)の方が速く泳動することも示した.これはEu(ⅠII)よりもAm(III)の方
が,イオンの第1溶媒和圏と第2溶媒和圏に水分子が配位した時の,その溶媒和圏
を含めたイオンの実質的サイズがより小さいことによると推定される.しかし,PaSCN]0
=0.20Mの領域ではEu(III)よりもAm(III)の方が移動速度が遅くなった.これはろ紙
電気泳動においてEu(III)よりもAm(ⅠII)の方がチオシアン酸イオンとより大きく相互作
用していることを暗示している.しかし,脚aSCN]0≧0.40ではその差がなくなってい
る.この現象はチオシアン酸イオンによるEu(III)とAm(III)の化学種の電荷にそれほど
相違が無いことを示していると思われる.いずれにしても,PaSCN]0=0.00∼1.00M
の領域においてEu(III)とAm(III)の移動速度の間に大きな差を見つけることはできな
かった.
3−3−2混合溶媒(メタノール/水)溶液仇。OH=0.10)
図3−6および表3−2は凡eoH=0.10の混合溶媒(メタノール/水)溶液を用いた時の
PaSCN]0に対するEu(ⅠII)およびAm(III)のろ紙電気泳動法によって測定された移動
速度を示す.水溶液系の結果よりも全体的にイオンの移動速度が低下した.これは泳
動溶媒の粘性が増加したことによると考えることができる(図3−8).また水溶液の結果と
同様に,PaSCN]0の増加とともにEu(III)およびAm(III)の移動速度は減少する傾向を
示した.しかしながらA点において,Eu(III)ではPaSCN]0=0.00∼0.40Mの領域では
移動速度に大きな変化が見られなかったのに対して,Am(III)ではPaSCN]0の増加に
よって移動速度が大きく減少した.それによってEu(III)とAm(III)の移動速度の間に
比較的大きな差を見つけることができた.しかし,B点,C点の結果からでは以上の傾
向が現れず,両陽イオンの移動速度に差を見けることができなかった.また,
PaSCN]0=0.60∼1.00Mの領域ではA点,B点,C点ともに両陽イオンを分離できる
ほどの移動速度差を見けることはできなかった.
53
3−3−3 混合溶媒(メタノール/水)溶液仇。OH=0.23)
凡。。H=0.23の混合溶媒(メタノール/水)溶液ではイオンの移動速度が著しく低下し,
60minの泳動時間ではEu(III)とAm(III)の移動速度に十分な差を見つけることができ
ないと予想された.そこで泳動時間を120minにして実験を行なった.また,ろ紙上で
イオンの移動速度が変動することから,60min当たりの移動速度ではなく120min泳動
を行なった時の移動距離として算出した.図3−7および表3−3は.私4。。H=0.23の混合
溶媒(メタノール/水)溶液を用いた時の[SCNlに対するEu(ⅠII)およびAm(III)のろ紙電
気泳動法によって測定されたイオンの移動距離を示す.A点,B点,C点ともに,
PaSCN]0=0.00∼0.40Mの領域ではEu(III)の移動距離には大きな変化が見られな
かった.それに対してAm(III)の移動距離はPaSCN]0が0.00Mから0.20Mに増加
することで大きく減少した.その結果,PaSCN]0=0.20∼0.60Mの領域でEu(III)と
Am(III)の移動距離に比較的大きな差を見つけることができた.しかし,PaSCN]0=
0.80∼1.00Mの領域ではPaSCN]0の増加とともにEu(III)の移動距離が低下し,
Eu(III)とAm(III)の移動距離に差が見られなくなった.
54
i■▼
l 0 0 軸 仙 側
’−
0 00
7月∈∈\噸無感於eヽ東ヽ
0.2 0.4 0.‘ 0.さ 1.0
【NaSCN10/M
■
雷●
川 0 0 仙 側 2 0 。 一
0 00
一・占∈∈\噸璃感泣eヽ七十
B点
.0 0.2 0.4 0.石 肌$ 1.0
【NaSCN10/M
●●
0 00
川 帥 鵬 亜 2 。
n
l上∈∈\噸無宿蛤e八七十
C点
00.2 0.4 0.‘ 0.$ 1.0
【NaSCN10/M
図3−51・10M(H’,NaT)(ClO4二SCN.)水溶液でのPaSCN]。に対する
Eu(III),Am(III)の移動速度の変化
■:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
55
■ ●
帥 脚 側
i 卓
● ●
2 0 0 0
1.占u∈\堪難森蛤eヽ七十
A点
0.2 0.4 0.6 0.8 1.O
rNaSCN]0/M
●●
川 軸 釧 側 2 0
00
l上∈己\噸類義蛤e八東ヽ
B点
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
【NaSCN】0/M
讐
伽 劇
7月∈∈\噸無慮蛤e八東ヽ
C点
I 争
0.2 0.4 0.‘ 0.8 1.0
【NaSCN10/M
図3−61.10M(H’,Na’)(C104二SCN ̄)混合溶媒(メタノール/水)溶液
侮棚=0・10)でのPaSCN]0に対するEu(III),Am(III)の移動速度の変化
L:Eu(III) ●:Am(ⅠII)
56
ー⊥T ●
T■l ●
川 軸 釧 側 2 0
∈∈\巻起裔於eヽ東ヽ
00
0.2
0.4 0.6 飢8 1.0
【NaSCN10/M
ユーT ●
00 釧 側
已∈\巻起裔於e八東ヽ
B点
卓
● 争
●
0
00
0.2
0.4 0.6 0.8 1.0
【NaSCN】0/M
川 柳
エtT ●
釧 劇
∈∈\巻剋裔梁e八東ヽ
0
00
0.2
0.4 0.‘ 0.8 1.0
【NaSCN】0/M
図3−71.10M(H’,Na’)(ClO4二SCN+)混合溶媒(メタノール/水)溶液
‰=0.23)でのPaSCN]に対するEu(III),Am(III)の移動距離の変化
泳動時間:120min
■:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
57
表3−11.10M(H’,Na+)(ClO4 ̄,SCN−)水溶液系での
lNaSCN]0に対するEu(III),Am(III)の移動速度の変化
イオ ン の 移 動 速 度 /m m h  ̄1
【
N aS C N 】
0
E u(
ⅠⅠ
Ⅰ)
A m (
ⅠⅠⅠ
)
A 点 B 点 C 点
A 点 B 点 C 点
0.
00
7 3 土8 6 7 土3 64 土2
7 6 土2 7 4 土3 7 6 土4
0.
20
6 8 土3 6 9 土1 6 8 土2
6 4 土3 6 2 土3 6 2 土4
0.
40
6 6 土4 64 土1 6 4 土3
6 2 土6 6 4 土3 6 2 士2
0.
60
6 1 土2 5 9 土1 5 8 土3
5 8 土6 59 土6 58 土5
0.
80
5 4 土6 5 3 土2 5 6 土2
4 8 土11 52 土2 56 士2
1.
00
5 0 土2 4 9 土3 4 6 土4
5 2 土5 52 土7 4 5 土4
表3−21.10M(H+,Na+)(ClO4 ̄,SCN ̄)混合溶媒(メタノール/水)溶液系での
lNaSCN]0に対するEu(III),Am(III)の移動速度の変化(jんeoH=0.10)
イ オ ン の 移 動 速 度 /m m h  ̄1
【
N a S C N 10
E u(
ⅠⅠ
Ⅰ)
A m (Ⅰ
ⅠⅠ
)
A 点 B 点 C 点
A 点 B 点 C 点
0.
00
5 1 土1 4 8 土3 4 1 土2
4 7 土7 4 2 土5 3 8 土4
0.
20
5 1 土2 4 2 土2 3 6 土1
4 1 土2 3 7 土2 3 3 士2
0.
40
4 9 土4 3 9 土2 3 2 土1
3 5 土7 3 1 土5 3 1 土6
0.
60
4 6 土7 3 5 土2 2 9 土2
3 3 土3 3 0 土2 2 6 土3
0.
80
4 2 土5 3 4 土6 2 6 土5
3 3 土1 2 9 土2 2 7 土1
1.
00
3 6 土3 3 3 土2 2 7 土1
2 9 土5 2 5 土4 2 1 士2
58
表3−3 1.10M(H+,Nt)(C104−,SCN−)混合溶媒(メタノール/水)溶液系での
lNaSCN]0に対するEu(III),Am(III)の移動距離の変化
仇eoH=0.23,泳動時間:120min)
イ オ ン の 移 動 距 離 /m m
【
N a S C N 】0
E u (ⅠⅠⅠ)
A 点 A m (ⅠⅠⅠ)
B 点 C 点
A 点 B 点 C 点
0.
00
7 7 土1 1 7 3 土9 6 1 土2
7 7 土8 7 2 土6 6 0 土5
0.
20
7 9 土6 7 2 土4 6 5 土4
5 7 土3 5 4 士3 4 7 土3
0.
40
7 5 土7 7 0 土6 6 1 土4
5 6 土3 5 1 土4 4 5 土1
0.
60
5 8 土4 5 4 土3 5 2 土4
4 7 土4 4 1 土3 3 7 土1
0.
80
5 4 土9 4 7 土6 4 0 士1
5 2 土2 4 5 土3 3 5 土2
1.
00
4 5 士3 3 8 土3 2 7 土4
4 2 土5 3 6 土3 2 7 士4
59
,4
●
1
1
1
2
●
0
t.詔dI.巨、掛型安
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
胤eoH
図3−8 298Kにおけるメタノール/水混合溶媒の粘性率5)
60
3−4 まとめ
水溶液および,混合溶媒(メタノール/水)溶液の結果から,ろ紙電気泳動において
もEu(III)よりもAm(III)の方がチオシアン酸イオンと大きく相互作用することがわかった・
更に,PaSCN]0=0.20,0.40,0.60M,XheoH=0.23の混合溶媒(メタノール/水)溶液
でEu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)の移動距離に比較的大きな差を見つけることができた・これによっ
て移動速度,および移動距離に差が現れた溶液を用いることで,電気泳動法により
Eu(III)とAm(III)を分離できることを示した・
61
参考文献
1.田ケ原清,西博行,井上勤,榊原正明:薬品分析のための電気泳動入門(化学ソ
フトウェア学会年会)(1997)
2.森五彦:ろ紙ゾーン電気泳動法の実際(南江堂)(1965)
3.石井康雄:修士論文(静岡大学)2004年
4.A.Gaspar,E.Dudas,J ChromatogT:A,1110(2006)254−260
5.日本化学会:化学便覧基礎編改訂4版(丸善株式会社)pI1−47(1993)
62
第4章
平均電荷の算出
63
4−1生成定数と化学種の存在比
4−1−1水溶液でのEu(III)化学種およびAm(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比
図4−1,4−2,4−3は,表2−2に示した水溶液仇eoH=0.00,[LiCl]=0・00M)における
Eu(III)およびAm(III)のチオシアナト錯体の全生成定数∽から計算した,溶液中に存
在するEu(ⅠⅠⅠ)およびAm(III)の各化学種の存在比を示している・Eu(III),Am(III)ともに
lSCNlの増加にともなってM3’の存在比が減少していることがわかる・
MSCN2十の存在比についてはAm(III)の方がEu(III)よりもより低い[SCNlで極大値
を示し[SCNl>0.60Mの領域ではEu(III)の方が高い存在比を示した・
更にMSCN2+の存在比についてはAm(III)の方がEu(ⅠII)よりもその存在比が大きく,
[SCN ̄】の増加によりその差もより拡大していることがわかる・
4−1−2 混合溶媒(メタノール/水)溶液(‰e。。=0.40)でのEu(III)およびAm(III)化学種
の存在比
図4−4,4−5,4−6は,表2−2に示した胤e。H=0.40の混合溶媒(メタノール/水)溶液溶
液におけるEu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)のチオシアナト錯体の朗、ら計算した,溶液中に存
在するEu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)の各化学種の存在比を示している・水溶液の結果と同様
にEu(III),Am(ⅠⅠⅠ)ともに[SCNlの増加にともなってM3+の存在比が減少していることが
わかる.
MSCN2+の存在比は[SCNl=0.20Mの領域で最大となり,[SCN.]>0・20Mでは
lSCN−]の増加とともに減少していくこともわかる・更に,Eu(SCN)2+の存在比は[SCNl
=0.60Mの領域で最大となる.他方でAm(SCN)2’の存在比は[SCNl=0・50M付近
の領域で最大を示した.M(SCN),の存在比はEu(III)およびAm(III)ともに[SCNlの増
加とともに増加した.また,M3+ぉよびMSCN2+の存在比についてEu(ⅠⅠⅠ)とAm(III)の間
に差が現れなかった.しかし,M(SCN)2+の存在比はAm(III)よりもEu(ⅠII)の方が大きく,
特に[SCN−]≧0.40Mの領域では両化学種の存在比に比較的大きな差が現れた・
M(SCN)3の存在比はEu(III)よりもAm(III)の方が大きく,特に[SCNl≧0・30Mの
領域では両化学種の存在比に比較的大きな差を見つけることができた・
4−2 Eu(ⅠⅠⅠ)およびAm(ⅠⅠⅠ)化学種が持つ平均電荷
1_4_3で述べたようにランタノイドおよびアクチノイドイオンの水分子の交換速度は非
常に速い.従って,チオシアン酸イオンの交換反応もかなり速いことが推定される・
64
そこで,電気泳動中のEu(III)とAm(III)の化学種を存在する化学種の平均として取
り扱い,溶液中でEu(III)およびAm(III)化学種が持つ平均電荷を求めることとした・あ
る【SCNlにおけるEu(III)とAm(III)の各化学種が持つ平均電荷Zh.を式(4−1)を用いて
計算した.
(4−1)
Z。=∑(3−Z〝)4
JT
ここで,(3−乙)はM(SCN)n(3−n)+化学種が持つ電荷,AnはそのM(SCN)n(3−n)’化学種
の存在比である.〃=0の時(3−品)=3でdoはM3十の存在比,〃=1の時(3−Zl)=2で
AlはMSCN2+の存在比,n=2の時(3−Zi)=1でA2はM(SCN)2’の存在比,n=3の時
(3−Zi)=0でA3はM(SCN)3の存在比をそれぞれ示している.
図4−7はjん。。H=0.00,0.40の混合溶媒(メタノール/水)溶液溶液でのEu(ⅠⅠⅠ)および
Am(III)化学種が持つ平均電荷を示している.[SCNl=0.20∼1.00Mの領域では
Am(III)よりもEu(III)化学種の方が大きい正の平均電荷を持つことがわかった・そこで,
式(4−2),(4−3)を用いてEu(III)化学種とAm(III)化学種が持つ平均電荷の差と平均電
荷の比を計算し,図4−8に示した.
平均電荷の差=Zm,E。(III)−Zm,Am(M)
(4−2)
平均電荷の比=
(4−3)
Zm,Eu(ⅠⅠⅠ)
Zm,叫ⅠⅠⅠ)
ここで,Zh.,E。(III)はある[SCNlにおけるEu(III)化学種の平均電荷,Zh,Am(ⅠⅠⅠ)は同じ
lSCNlにおけるAm(III)化学種の平均電荷である.図4−5から,XheoH=0.00では
lSCNlの増加とともにEu(III)とAm(III)化学種が持つ平均電荷の差が増加することと,
Xhe。H=0.40では【SCNl=0.40∼0.60Mの領域で極大値を取ることがわかる.平均
電荷の差についてはjん。。H=0.00と0.40ではその極大値にほとんど違いが見られな
いが,平均電荷の比についてはXheoH=0.40の方が大きく,[SCNlの増加によりその
値がより大きくなることもわかる.
65
4−3 化学種が持つ平均電荷とろ紙電気泳動における移動度
第3章の式(3−6)で示したように,イオンの電気泳動移動度はそのイオンの電荷に比
例するので,Eu(III)とAm(III)化学種が持つ平均電荷の比が大きい溶液条件では両
陽イオンの移動度(または移動速度)の比も大きいはずである.従って図4−8から,より
高い[SCNlの混合溶媒(メタノール/水)溶液を用いることでEu(III)とAm(III)の移動度
に大きな差が現れると推測される.しかしながら,図3−7仇eoH=0.23)ではPaSCN]0
=0.20∼0.60Mの領域でEu(III)とAm(III)の移動距離に比較的大きな差が現れ,
PaSCN]0>0.80Mの領域では両陽イオン間に差が見られなくなった.これは溶液中
の【SCN.]の増加によりEu(ⅠII)およびAm(III)ともにより高次のチオシアナト錯体が形成
されることで正の平均電荷が減少し,両陽イオンの泳動速度が小さくなったためであ
る.
4−4 平均電荷の差(または比)を利用した三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))とマイナーアクチノ
イド(Am(ⅠⅠⅠ))の分離法の構築
ろ紙電気泳動法では,泳動中に試料成分が拡散するために同一方向に泳動し,
且つ泳動速度に大きな差が無い2成分を同時泳動して分離することは困難である.ま
た試料成分と泳動媒質間の相互作用が小さい場合,試料成分とろ紙(セルロース)間
の相互作用を無視できない.従って,泳動中の泳動媒質および試料成分の拡散が少
なく,またろ紙やゲル等の支持体を使用しない方法を用いることが望ましい.更に,4−3
より平均電荷の比を利用して2成分を分離するためには,試料成分が一定距離を移
動するために要する泳動時間を測定する方法が好ましいと思われる.以上のことから
キヤピラリー電気泳動法(CE)が適していると考え,CEを用いたEu(III)とAm(III)の分離
法について検討した.
66
巽遭壮e壁掛空虚
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
【SCN ̄】/M
図4−11・00M(H’,Na+xclO4二SCか「)水溶液における
Eu(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比の変化
−:Eu3+, −:EuSCN2十
几−:Eu(SCN)2+
67
華遭鰹e壁掛空虚
●0
0.
00
0.2 0.4 0.‘ 0.8 1.0
【SCN ̄】/M
図4−21.00M(H’,NaT)(ClO4二SCN ̄)水溶液における
Am(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比の変化
−:Am3+, −:AmSCN2+
:Am(SCN)2+
68
4 3
軋 飢
▲
2
一
’一 l
4
肌 飢
仇 軋
ゴ樽梗e轡卦空車
⋮ M
雲煙壮eぜ卦とゆ
0.
00
飢2 0.4 l.6 0.8
l.0 0.2 0.4 0.‘ 飢8 1.0
lSCNl/M
【SCN ̄】/M
4 3
仇 0.
’− 1
0. 0.
蛍遭壮e世卦空車
○
●
○
00
0.2 0.4 0.6 0.さ 1.0
【SCN ̄】/M
図4・31.00M(打,N√)(C104二SCN ̄)水溶液における
E叫ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比の変化
−:Eu(ⅠⅠⅠ), 一一:Am(ⅢⅠ)
69
曇贈位e世朴空虚
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
【SCN ̄】/M
図4−41.00M(正,Na旬ClO4二SCⅣ)混合溶媒(メタノール/水)溶液
‰=0.40)におけるEu(ⅠⅡ)化学種の存在比の変化
−:Eu3+, …:EuSCN2+
−:Eu(SCN)2’,−:Eu(SCN)3
70
蛍遵壮e世卦だ㊥
0.2 0.4 0.‘
0.8 1.0
【SCN ̄】/M
図4−51.00M(打,N頼ClO4二SC町)混合溶媒(メタノール/水)溶液
‰=0.40)におけるAm(ⅠⅠⅠ)化学種の存在比の変化
−:Am3+, M:AmSCN2+
:Am(SCN)2’,−:Am(SCN)3
71
4 ’一
肌 飢
JT 3 2
雲煙鰹e世朴空車
曾 ‘
机 軋
玉遭壮e泄卦と㊥
nV
00
0.
0.2 0.4 0.6 飢$ 1.0
0.2 0.4 0.6 0.$
【SCN ̄】/M
【SCN ̄】/M
O 0 0 AW
.
7J5.
4. 3. 2. 1
0nW00nV00
nV
● ● ● ● ●
当選梗e世卦と㊥
O
諏 25 20 15 川 帽
蛍増穂eせ卦だ㊥
0
0.
00
0.2 0.4 0.‘ 0.$
0.2 0.4 0.応 札書 1.0
lSCNl/M
【SCN ̄】/M
図4−61.00M(打,Na旬ClO4二SCⅣ)混合溶媒(メタノール/水)溶液
侮α=0.40)におけるEu(III),Am(III)化学種の存在比の変化
−:Eu(ⅠⅠⅠ), −:Am(ⅡⅠ)
72
軽呼密計
0.2 0.4 0.‘ 0.8 1.0
【SCN ̄1/M
図4−71.00M(打,NaTxc104二SCN−)混合溶媒(メタノール/水)溶液
挿血OH=0.00,0.40)におけるEu(Ⅰ叫およびAm(ⅠⅠⅠ)化学種が持つ平均電荷の変化
−:Eu(ⅠⅠⅠ), 叫:Am(ⅠⅠⅠ)
78
蛍e鞋紺督陣
却 15 川
飢 軋 0.
珊e軽紺野陣
0.2 0.4 0.6 0.等 1.0 仇O tl.2 0.4 0.6 0.8 1.0
lSCN.]/M
lSCNl/M
図4−81.00M(H+,NaT)(C104 ̄,SCN ̄)混合溶媒(メタノール/水)溶液‰=0.00,0.40)における
Eu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)化学種が持つ平均電荷の差の変化と平均電荷の比の変化
−:ぷ舶測=0.00 −−:‰M=0.40
74
第5章
キヤピラリー電気泳動法による
三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))とマイナーアクチノイド
(Am(ⅠⅠⅠ))の相互分離
75
5−1 キヤピラリー電気泳動法
5_1●1 キヤピラリー電気泳動法の原理
キヤピラリー電気泳動法(CE)は内径100匹以下の細い管(キヤピラリー)の両端に
高電圧を印加することにより,溶液中のイオンやアミノ酸等の荷電体を泳動,分離させ
る電気泳動法であり,極めて高い分離能と分解能を有する・1,2,3,4)特に中空のフューズ
ドシリカキヤピラリーを用いるCEをキヤピラリーゾーン電気泳動(CZE)と分類し,CZEで
は溶質分子の電荷やイオン半径に基づく移動度によってのみ分離が行なわれる・イ
オンの見かけの移動速度V。bsは式(5−1)で表される・
上d
(5−1)
Voム∫=
ここで上dはキヤピラリーの試料導入端から試料検出部までの有効長,′mは移動時間
である.この時のイオンの見かけの移動度甚bsは式(5−2)で表される・
V。如_エd上J
−−二二
〃。ム∫=
(5−2)
g 竹椚
ここで別ま電場の強さ,んはキヤピラリーの全長,rは印加電圧である・
イオンの見かけの移動速度V。bsはイオンの電気泳動速度vi。nと電気浸透流速度Veor
の和として式(5−3)で表される・
γ0鮎=γ加+γ吋
(5−3)
ただし,電気泳動速度は陽イオンが泳動する方向を正,電気浸透流速度は陽極か
ら陰極への移動を正とする.
以上のことからイオンの電気泳動移動度〃血は式(5−4)となる・
〃加箸一侮
(5−4)
ここで陶,fは電気浸透流移動度である・
Stokesの法則からイオンの移動度は式(5−5)で表される.
Zfe
(5−5)
〃i。n
6打昭
rsは泳動イオンのStokes半径,Zはそのイオンの電荷,eは電気素量,qはその溶液
76
の粘性である.
5−1−2 電気浸透流
内壁未処理である通常のフューズドシリカキヤピラリーをCEに用いた場合,キヤピラ
リー内壁面のシラノール基(−SiOH)は解離しており,負電荷を持っている・電気的中性
の原理により,キヤピラリー内に充填された溶液は負電荷を中和できる過剰量の正電
荷を持っていなければならず,その正電荷はキヤピラリー内壁表面の負電荷と電気二
重層を形成する.残った過剰の正電荷は電場によって陰極方向に移動し,キヤピラリ
ー内の液体も共に移動する.この現象を電気浸透流(EOF)と呼び,EOFは層流ではな
く平面的な流れであるために分析試料の流れ方向の拡散はほとんど生じない・そのた
めにEOFを利用したCEは極めて高い理論段数(105∼106段/m)を得ることができる・
電気浸透流移動度(甚OF)は式(5−6)で表される・
gogrrwaは
匹EOF==
(5−6)
ここで句は真空の誘電率,昂は溶媒の比誘電率,左allはゼータ電位を表している・
フューズドシリカキヤピラリーでは泳動溶液のpHが低いほど内壁のシラノール基の
解離が抑えられ,ゼータ電位が小さくなり仲OFは減少する・
5●1_3 落差法
溶液を満たしたキヤピラリーの両端をそれぞれ別の溶液槽に入れ,それぞれの槽中
の溶液面に高低差が生じるように設置するとサイフォンの原理により,液面が高い槽
から低い槽に向けてキヤピラリー内の溶液が移動する・この現象を利用してキヤピラリ
ー内に試料溶液を導入する方法を落差法と呼び,導入される試料溶液の量は式(5−7)
で示される.
躇灯4△叫
9=
(5−7)
8¢′
ここでクは落差法によって導入される溶液量,クは溶液の密度,gは重力加速度であ
り,rはキヤピラリーの内半径,△力は溶液面の高低差,吊は導入時間である・
77
5_2 実験
5_2−1 試薬
152,154Eu(152Eu:Tl/2=13・3y,154Eu:Tl/2=8・6y):
東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室(日本原子力研究開発機構・
材料試験炉(JMTR)で151Euと152Euの(n,γ)反応で生成)から譲り受け,それを使用し
た.蒸発乾固されているそのユウロピウム塩化物を0・10M過塩素酸水溶液に溶解し
た.実験に使用するにあたって152,154Euの濃度を適当な濃度に希釈した・
241Am(Tl/2=432y):
東北大学金属材料研究所より譲り受けたものを使用した・152,154Euの場合と同様に
0.10M過塩素酸水溶液に溶解した・実験に使用するにあたって241Amの濃度を適当
な濃度に希釈した.
試料溶液:
152,154Euを含む0.10M過塩素酸水溶液
241Amを含む0.10M過塩素酸水溶液
152,154Euおよび241Amを含む0・10M過塩素酸水溶液
san。rius社製のAriumCbll超純水製造装置により精製したものを使用した・
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した・
和光純薬工業株式会社の容量分析用(60%)を適当な濃度に希釈して使用した・
チオシアン酸ナトリウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した・
5_2−2 装置
高圧電源:
松定プレシジョンHCZE−30PNO・25
78
送液ポンプ:
IWAKIPSTllOO
キヤピラリー:
UpcHURCHSCIENTIFICフューズドシリカチューブ内径75pm,外径360匹m,
全長80.5cm
シリンジ:
アルファ科学オールプラスチックディスポシリンジ
ガラス製試料分取装置:
特注品(東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室の佐藤伊佐務准教授
から譲り受けたものを使用)
放射能検出装置:
ALOKA社製AUTOWELLGAMMASYSTEMARC−2000
セイコーEG&GGMX20P4高純度Ge半導体検出器
5−2−3 実験方法
実験に用いたキヤピラリー電気泳動装置を図5−1に,試料分取装置を図5−2に示す.
キヤピラリー内壁のシラノール基の状態を一定に保つため,初めて使用するキヤピラリ
ーは0.10M塩酸,次いで0.10M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し,不純物を除いた・
その後,シリンジを用いてキヤピラリー内に泳動媒質を充填し,キヤピラリー内壁をコン
ディショニングした.試料溶液の導入は落差法(高低差(△力)=10cm,導入時間朽)=
15S)を用いて行い,一度に20∼25nlの試料溶液を導入した・その後,図5−1のよう
に試料を導入したキヤピラリー端を陽極槽に,もう一方を陰極槽(試料分取装置)に設
置してから電圧を印加して室温(298±lK)で電気泳動を行なった.キヤピラリーの陰
極端に泳動される陽イオン性の試料成分は図5−2に示すようにポンプによる泳動媒質
の送液により,一定時間毎に試料分取装置から外部の試験管に分取された・試験管
に分取した試料溶液中の放射能をNaI(Tl)シンチレーションカウンタまたは高純度Ge
半導体検出器を用いて測定した.本研究で用いる泳動媒質は0.10MHC104+xM
NaSCN混合溶媒(メタノール/水)溶液であり,溶液のpHは1.0に調節した・これによ
って各実験について電気泳動前後の溶液pHの変動を抑えることができる・また,実
験結果に関しては第3章と同じようにPaSCN]0を基準に考察した.
79
図5−1キヤピラリー電気泳動装置の模式図
19
因業封α暑茸哩尊極楽 乙一針図
弾朝
●一・・・・・・一一
催せ¥:塾
5−3 結果と考察
5−3−1 水溶液でのCE
図5−3にxMのNaSCNを含む0.10MHClO4水溶液を泳動媒質とした時のEu(III)
およびAm(ⅠII)のCEにおける電気泳動図を示す.印加電圧については,各溶液条件
において電流値が200PAとなるように調節した.チオシアン酸ナトリウムを含まない泳
動媒質ではEu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)は同じ泳動時間で陰極部にて検出され,両イオンの分離
は確認されなかった.他方で,PaSCN]0=0.20∼1.00Mの領域ではAm(III)よりも
Eu(III)の方がその検出時間が早く,またPaSCN]0の高まりにつれて両陽イオンの検
出時間差がより大きくなることがわかった.更にEu(III),Am(III)は共にPaSCN]0の増
加によってその検出時間が遅くなっていることも明らかになった.これらの結果は,CE
においてもEu(III)とAm(III)がSCN−と相互作用していることと,SCN.が存在する溶液
中ではAm(III)よりもEu(III)の方がより高い正の平均電荷を持っていることを示してお
り,これは第2章と第3章での考察と一致する.溶媒抽出法およびろ紙電気泳動法に
おいては,水溶液を用いた場合Eu(III)とAm(III)の分離能は高くなく,両イオンの分
離は困難であると考えられたが,CEにおいては比較的低いPaSCN]0(PaSCN]0=
0.20M)の水溶液を用いた場合でさえもEu(III)とAm(III)の分離が確認できた.これは
CEが有する高い分解能によるものであると考えられる.
5−3−2 理論段数と分離能
図5−3の各実験結果について理論段数(叫を式(5−8)5)を用いて求めた.
Ⅳ=5.54×
(5−8)
ここでtRは図5−4に示されたようにEu(III)またはAm(III)の検出時間,Wb.5はEu(ⅠⅠⅠ)
またはAm(ⅠⅠⅠ)の検出ピークの半値幅を示している.更に各実験結果について
Am(III)mu(III)分離能(Rs,Am胤)を式(5−9)6)を用いて求めた.
屯Am胤=1・18×
82
(JR(Am了J岬。))
(呪.5(Am)+呪.5(Eu))
(5−9)
ここでtR(Am),tR(E。)はそれぞれAm(III)とEu(III)の検出時間,ffb.5(Am),Wb.5(E。)はそれ
ぞれAm(III)とEu(ⅠII)の検出ピークの半値幅を示している.一般的にRs,Am仇>1.5の
時に2成分の検出ピークは完全に分離されたと言える.
以上で求めた〃と恥血/E。の値を表5−1に示す.これより,実験を行なった殆どの溶
液系においてⅣは104以上の値を示し,本方法が非常に高い分解能を有することがわ
かった・更にPaSCN]0=0.40∼1.00Mの領域においてRs,AnJE。の値は1.5以上を示
し,Am(III)とEu(III)が完全に分離されたことを示している.また,PaSCN]0の増加と共
にRs,AnJE。の値も増加する傾向が見られ,特にPaSCN]0=0.80Mの条件では非常に
高いAm/Eu分離能を示した.PaSCN]0=1.00Mの条件で分離能が若干低下してい
ることについては,長時間の電気泳動によるAm(ⅠⅠⅠ)の拡散によって分解能が低下し
たためであると考えられる.
5−3−3 混合溶媒(メタノール/水)溶液でのCE
図5−4に0・20MのNaSCNを含む0.10MHClO4混合溶媒(メタノール/水)溶液を泳
動媒質とした時のEu(III)およびAm(III)のCEにおける電気泳動図を示す.更に,式
(5−8)および式(5−9)から求めたⅣと恥加E。の値を表5−2に示す.
泳動媒質として混合溶媒(メタノール/水)溶液を用いた場合,媒質の誘電率の低下
により,水溶液を用いた場合と比較してより高電圧を印加することができる.その結果
Eu(III)とAm(III)のピーク分解能が向上した.更にEu(III)よりもAm(ⅠII)の方が,泳動
媒質を水溶液から混合溶媒(メタノール/水)溶液に変更した時の検出時間の増加がよ
り大きいこともわかる・これは混合溶媒(メタノール/水)溶液中ではEu(III)よりもAm(III)
の方がよりSCN ̄と相互作用するためであり,第2章および第3章における考察と一
致する・水溶液よりも混合溶媒(メタノール/水)溶液を用いた方がより大きい恥Am胤の
値を得ることができたのは以上のことから説明できる.しかしながら混合溶媒(メタノー
ル/水)溶液を泳動媒質とした場合,ジュール加熱による溶液の温度上昇によりキヤピラ
リー内部に気泡が発生するために長時間のCEを行なうことが困難である.
Am(III)/Eu(III)分離能をより高めるためには水よりも誘電率の低いアルコールなどの
混合溶媒を用いることが好ましいと考えられるため,装置に冷却機構を取り付けるか,
またはジュール加熱の発生が少ないような溶媒を用いる必要がある.
83
0.0
1516171819 20 2122 23 24
3$ 39 40 41 42 43
AV
.〇
50 5152 53 54 55 56 57 58 5,60
60 61 62 63 ‘4 65 66 67 ‘8
1.0
0.8
0.‘
0.4
0.2
仇0
79 80 8182 83 84 85 86 $7 88 89
12212412612$130132134136
検出時間/min
図5−3 0.10MHC104+xMNaSCN水溶液でのCEによる
Eu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)の電気泳動図
●:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
84
妻側憩
玩叫.Jk叫
検出時間/min
図5−4 理論段数と分離能の計算に用いる各パラメータ
●:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
85
蛍嘲憩
7 38 3, 40 41 42 43
検出時間/min
図5−5 0.10MHC104+0.20MNaSCN混合溶媒(メタノール/水)溶液で
のCEによるEu(III),Am(III)の電気泳動図
●,○:Eu(ⅠⅠⅠ) ●,○:Am(ⅠⅠⅠ)
86
表5−1 0.10MHClO4+xMNaSCN水溶液でのNとRs,Am胤の計算値
Ⅳ
【
N aSC N 】
J M
月sA 血Eu
Eu
A m
0.
00
7.
1 ×1 04
6.
9 ×10 4
0.
0
0.
20
3.
6 ×1 04
2.
9 × 10 4
1.
3
0.
40
,.
0 ×1 03
4.
5 × 10 4
2.
6
0.
60
,.
2 ×1 04
,.
3 × 10 4
4.
9
0.
$0
7.
2 ×1 04
1.
1 × 10 6
5.
5
1.
00
1.
2 ×1 05
4.
4 × 10 4
4.
2
87
表5−2 0.10MHC104+0.20MNaSCN混合溶媒(メタノール/水)でのNとRs,AnJE。の計算値
Ⅳ
‰ e。H
属S,
Am/
Eu
E u
A m
0.
00
3.
6 × 10 4
2.
9 × 10 4
1.
3
0.
10
1.
0 × 1 05
乱3 × 10 4
2.
5
88
参考文献
1.Y.Sun,J C力ro〝7αわ訂.41048(2004)245
2.S.P.Verma,R.Garia,E.SantOyO,A.Apaaricio,JChromatogr・A,884(2000)317
3.N.Oztekin,F.B.Erim,JChromatogr.A,895(2000)263
4.N.Oztekin,F.B.Erim,JChromatogrA,924(2001)541
5.A.M.Dougherty,N.Cooke,RShieh,月bndbookQlCqpillaTyElectTtPhoresis,P・
676,J.RLanders,Ed.,CRCPress,Florida,USA(1997).
6.M.L.Cahbrb,D.Raneri,S.TbmmaSini,R.Fic訂ra,S.AIcaro,A.Gallelli,N.
Micale,M.Zappala,RFicarra,J ChromatogT:凰838(2006)56−62
89
第6章
落差式キヤピラリー電気泳動法による
三価ランタノイド(Eu(ⅠⅠⅠ))とマイナーアクチノイド
(Am(ⅠⅠⅠ))の連続分離
90
6−1落差式キヤピラリー電気泳動法
6−1−1液流を利用したキヤピラリー電気泳動法
内部未処理のフューズドシリカキヤピラリーを用いるキヤピラリー電気泳動(CE)では
しばしば電気浸透流(EOF)を生じる.陽極側から陰極側に向けて移動するEOFが発
生する場合,正電荷が小さくイオン半径が大きいために電気泳動速度が非常に小さ
なイオンを分析する時に有用である.それに対して陰極側から陽極側に向けて移動
する陰イオンの分析は極めて困難となる.そこでポリビニルピロリドン(PVP)等によりキ
ヤピラリー内壁のシラノール基をカバーすることでEOFの発生を抑制し,陰イオンの分
離,検出を行なう方法が報告されている.1)
また,キヤピラリー両端に接続した電極槽内の溶液にポンプ等で圧力を加えること
でキヤピラリー内に一定の液流を発生させることで見かけ上EOFを抑制し,また泳動
速度の異なる試料成分を反対方向に泳動する方法(FCCE)も報告されている.2,3)
6−ト2 落差式キヤピラリー電気泳動法の原理と構築
第5章の5−ト3で述べた通り,CEではキヤピラリー両端を浸した電極槽の液面の高
さにより,キヤピラリー内に液流が生じる.この時,陰極側から陽極側に向けて移動す
る液流の速度をVヵとすると,式(5−7)を変形することにより式(6−1)を得ることができる.
9 g刀r2△力
Vヵ=
ゆ■2 87拘
(6−1)
これによって,同じ泳動媒質,キヤピラリー長,キヤピラリー内径を用いたCEでは,
落差によって生じる液流の速度は落差の大きさ(△坤こ比例することがわかる.落差が
無い時にEu(III)とAm(III)が陽極側から陰極側に泳動するその速度をそれぞれve即。,
V蝿Amとすると,落差が在る時のEu(III)とAm(III)の泳動速度vE。,VAmはそれぞれ式
(6−2)と式(6−3)で表される.
VEu=Vef印u−Vh
(6−2)
VAm=VefflAm−Vh
(6−3)
ここでV力<V蝿血<Ⅴ蝿E。である場合,式(6−4)が成立する.
VEu、Vef印u
>
(6−4)
VAm VefTiAm
91
これによって,Eu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)は陽極側から陰極側に向けて泳動し,落差が有る時
には落差が無い時と比べて両イオンの泳動速度差は変わらないが,Eu(ⅠⅠⅠ)/Am(ⅠⅠⅠ)泳
動速度比が増加することがわかる.
更に,V蝿血<Ⅴカ<γ唯E。である場合,式(6−5)が成立する.
VAm<0<VE。
(6−5)
これによって,Eu(ⅠⅠⅠ)は陽極側から陰極側へ,Am(ⅠⅠⅠ)は陰極側から陽極側に泳動す
るはずである.また,V蝿Am<V蝿E。<vhである場合,式(6−6)が成立する.
VAm<VEu<0
(6−6)
これによって,Eu(III),Am(III)共に陰極側から陽極側に泳動し,その泳動速度は
Eu(ⅠⅠⅠ)よりもAm(ⅠⅠⅠ)の方が大きいということも示している.
6−2 実験
6−2−1試薬
152,154Eu(152Eu:Tl/2=13.3y,154Eu:Tl′2=8.6y):
東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室(日本原子力研究開発機構・材
料試験炉(JMTR)で151Euと152Euの(n,†)反応で生成)から譲り受け,それを使用した.
蒸発乾固されているそのユウロピウム塩化物を0.10M過塩素酸水溶液に溶解した.
実験に使用するにあたって152,154Euの濃度を適当な濃度に希釈した.
241Am(Tl′2=432y):
東北大学金属材料研究所より譲り受けたものを使用した.152,154Euの場合と同様に
0.10M過塩素酸水溶液に溶解した.実験に使用するにあたって241Amの濃度を適当
な濃度に希釈した.
試料溶液:
152,154Euおよび241Amを含む0.10M過塩素酸水溶液
152,154Euおよび241Amを含む1.00Mチオシアン酸ナトリウム+0.10M過塩素酸
水溶液
92
水:
sa,t。ri。S社製のAriumCbll超純水製造装置により精製したものを使用した.
過塩素酸:
和光純薬工業株式会社の容量分析用(60%)を適当な濃度に希釈して使用した・
チオシアン酸ナトリウム:
和光純薬工業株式会社の試薬特級を更に精製することなくそのまま使用した.
6−2−2 装置
高圧電源:
松定プレシジョンHCZE−30PNO.25
送液ポンプ:
IWAKIPSlL1100
キヤピラリー:
UPCHURCHSCIENTIFICフューズドシリカチューブ内径75pm,外径360pm,
全長80.5cm
シリンジ:
アルファ科学オールプラスチックディスポシリンジ
ガラス製試料分取装置:
特注品(東北大学金属材料研究所アルファー放射体実験室の佐藤伊佐務博士
から譲り受けたものを使用)
放射能検出装置:
ALOKA社製AUTOWELLGAMMASYSTEMARC−2000
セイコーEG&GGMX20P4高純度Ge半導体検出器
リフト:
アズワンラボラトリージャッキ(200mm X200mm)
93
6−2−3 落差式キヤピラリー電気泳動法の実験
実験に用いた装置を図6−1に示す.第5章5−2−3と同様の手順でキヤピラリーのコ
ンディショニングを行なった後,キヤピラリーの陰極端から試料溶液(Eu(ⅠⅠⅠ),
Am(III)−0.10M過塩素酸水溶液)を落差法(Ah=10cm,ti=15S)を用いて20∼25nl
導入した.更にキヤピラリーの陰極端から泳動媒質として1.00MNaSCN−0.10M過塩
素酸水溶液を落差法(△力=10cm,J=180S)によって導入した.これによって試料溶液
をキヤピラリーの陰極端から5.4cmの位置に移動させた.次いで陽極槽に取り付けた
リフトを昇降させることにより,陽極槽に対する陰極槽の高さ(△力)が+0.0,+2.0,+4.0,
+5.0cmのいずれかとなるように固定してから室温(298±lK),印加電圧+3.OkVに
て電気泳動を開始した.ポンプを用いて試料分取装置に泳動媒質を送液し,キヤピラ
リーの陰極端に泳動される試料溶液を一定時間毎に試験管に分取した.分取した試
料溶液中の放射能をNaI(Tl)シンチレーションカウンタまたは高純度Ge半導体検出器
を用いて測定した.
6−2−4 落差式キヤピラリー電気泳動法の結果と考察
図6−2に1.00MNaSCN+0.10MHC104水溶液を泳動媒質とする落差式キヤピラリ
ー電気泳動の結果を示す.これより,△力が大きくなるにつれてEu(ⅠⅠⅠ),Am(ⅠⅠⅠ)共に検
出時間が増加し,Am(ⅠⅠⅠ)侶u(ⅠⅠⅠ)検出ピークの分離能が向上し,両陽イオンの検出ピ
ークの分解能が低下していることがわかる.更に各△力に対するEu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)の泳
動速度をプロットした図6−3から,△力の増加により両陽イオンの泳動速度が低下し,一
方でその泳動速度差には変化が現れない事がわかる.従って,△力が大きい時には
Eu(III)/Am(III)の泳動速度比が大きくなることを示しており,これは式(6−4)での予測と
一致する.また,△力=5.2∼5.7cmの条件ではEu(ⅠⅠⅠ)の泳動速度は正であり,他方で
Am(ⅠⅠⅠ)の泳動速度は負であるため,両陽イオンはそれぞれ反対方向に泳動する可
能性がある.
6−2−5 落差式キヤピラリー電気泳動法による連続分離の実験
実験に用いた装置を図6−4に示す.第5章5−2−3と同様の手順でキヤピラリーのコ
ンディショニングを行なった後,キヤピラリーの陰極端と陽極端から試料溶液(Eu(ⅠⅠⅠ),
Am(III)−1.00MNaSCN+0.10M過塩素酸水溶液)を落差法(△h=10cm,ti=60S)を
用いて80∼100nl導入した.次いで陽極槽に取り付けたリフトを昇降させることにより,
陽極槽に対する陰極槽の高さ(△力)が+5.5cmとなるように固定してから室温(298±l
K),印加電圧+3.O kVにて電気泳動を開始した.ポンプを用いて試料分取装置に泳
94
動媒質を送液し,キヤピラリーの陰極端に泳動される試料溶液を試験管に分取した.
電気泳動を1時間行なった後,陽極槽中の放射能と陰極槽から分取した溶液中の放
射能を高純度Ge半導体検出器を用いて測定した.
6−2−6 落差式キヤピラリー電気泳動法による連続分離の結果と考察
陽極槽と陰極槽から分取した溶液中に含まれるEu(III)とAm(III)の放射能量比を図
6−5に示す.陽極槽からはAm(III)のみが検出され,陰極槽からはEu(III)のみが検出
された.これによって落差式キヤピラリー電気泳動法を用いることでEu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)を
それぞれ反対方向に泳動させる事ができた.これらの研究結果について特許を申請
した.4)
6−2−7 落差式キヤピラリー電気泳動法による連続分離を利用した多量試料処理の可
能性
以上の結果に基づき,図6−6のような装置を構築し,更に複数のキヤピラリーを用い
ることにより多量のLn(III)とMA(III)を含む溶液からLn(III)またはMA(III)のみを連続
的に取り出せる可能性を示唆した.
95
図屠埜e他端宙養蝶圃In恥封か射屠珊披 Tや囲
96
蛍疇尭
0 20 40 60 80 100 120 140
検出時間/min
図6−21.00MNaSCN+0.10M過塩素酸水溶液での
落差式キヤピラリー電気泳動法による
Eu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)の電気泳動図
●‥Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
97
1桐
0
・
′ 0 4
0. 0.
雇∈\己0\噸横森養
1 2 3 4 5 6
Ah/cm
図6−31.00MNaSCN+0.10M過塩素酸水溶液での
落差式キヤピラリー電気泳動法による
Eu(ⅠⅠⅠ)とAm(ⅢⅠ)の泳動速度の変化
●:Eu(ⅠⅠⅠ) ●:Am(ⅠⅠⅠ)
98
囲¥封α暑蕃嘩判峯塑一帖誼み塵字書繋 サー9回
栗
勢笥
′
0
●
0
0
4
蛍嘲馨蛮蚕
.
Eu(III)Am(III)Eu(ⅠⅠⅠ)Am(III)
陽極槽 陰極槽
図6−51.00MNaSCN+0.10M過塩素酸水溶液での
落差式キヤピラリー電気泳動法による
Eu(ⅢⅠ)とAm(ⅠⅠⅠ)の連続分離
100
(a)
(b)
上.,l十篭盲j
l :還 陰極槽
陽極槽
図6−6 落差式キヤピラリー電気泳動法による
Ln(ⅠⅠⅠ)とMA(ⅠⅠⅠ)の連続分離技術
(a):Ln(III),MA(III)混合溶液からのLn(III)分離
(b):Ln(III),MA(III)混合溶液からのMA(III)分離
101
参考文献
1.T.Kaneta,T.Ueda,K.Hata,andT.Imasaka,J Chromatog7:A,1106(2006)52−55
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3.D.G.McLaren,D.D.Y.Chen,Anal.Chem.,76(2004)2298
4.菅沼英夫,森友隆,特願2007−286486
102
第7章
総括
103
本研究により,Eu(ⅠⅠⅠ)よりもAm(ⅠⅠⅠ)の方がより高次のチオシアナト錯体を形成するこ
とを明らかにした.特に,混合溶媒(メタノール/水)溶液系ではその傾向がより顕著であ
る.溶媒抽出法から得た両陽イオンのチオシアナト錯体の生成定数から,溶液中に存
在するEu(III)およびAm(III)化学種の存在比と各化学種が持つ平均電荷を求めること
ができ,その平均電荷の差を利用することにより電気泳動法による両陽イオンの分離
の可能性を見出した・その結果を証明するためにろ紙電気泳動法によりEu(ⅠⅠⅠ)と
Am(ⅠⅠⅠ)の移動速度を求めた.混合溶媒(メタノール/水)溶液系では,両元素の陽イオ
ンの移動速度および移動距離に比較的大きな差を見つけることができた.以上の結
果に基づき,チオシアン酸イオンを含む溶液を泳動媒質とするキヤピラリー電気泳動
法を試みた・得られた結果は,Eu(III)とAm(III)の相互分離に非常に高い分離能と分
解能を持つことが明らかになった.更に,落差法を利用するキヤピラリー電気泳動法
を構築し,Eu(III)とAm(III)をそれぞれ反対方向に泳動することに成功した.このCEを
用いる分離法は水溶液または混合溶媒(アルコール/水)溶液の均一相中で行なうため,
放射性核種を処理する際に有機溶媒や樹脂等の二次放射性廃棄物の排出が非常に
少なく,また多数のキヤピラリーを同時に用いた落差法を利用することにより連続的に
マクロ量の試料の処理を行なうことができる.
以上の研究結果は核燃料廃棄物中のマイナーアクチノイドと希土類元素の分離方
法としては,これまでにない極めて画期的な技術の確立に役立っと思われる.
104
謝辞
本研究の遂行にあたり静岡大学理学部附属放射化学研究施設放射性同位元素環
境負荷低減化研究部門の菅沼英夫教授に懇切なるご指導を賜りましたことを深く感謝
いたします.
また,同大学の放射性同位元素環境負荷低減化研究部門の矢永誠人准教授,放
射線環境影響評価研究部門の奥野健二教授,同部門の大矢恭久准教授,および同
部門の元教授の吉岡澗江先生,そして東北大学金属材料研究所の佐藤伊佐務准教
授にご指導,ご助言いただきましたことを感謝します.
最後に,公私に渡りお付き合いいただいた静岡大学理学部附属放射化学研究施
設の皆様にお礼を申し上げます.
105
特 許
出 願
国立大学法人静岡大学 殿
出
願
日
平成 1 9 年 1 1 月 0 2 日
出願
番号
発 明の名 称
特願 2 0 0 7 − 2 8 6 4 8 6
マ イ ナ ー ア クチ ノイ ドの 分 離 方 法 お よ び分 離 装 置
請求項 の数
6
審査請 求 日
年
月
日
特許登 録 日
年
月
日
特許登 録番 号
第
貴社整 理番 号
7 0 4 2 N − S G O 2
号
貴社
御担 当
当所 整 理 番 号
J 5 7 4 1 7 8 2
当所 担 当 者
中村
静樹
共 同出願 人
志賀国際特許事務所
〒104−8453 東京都中央区八重洲2丁目3番1号
1 3
1 2
8 8
5 5
一一
8 8
8 8
2 2
一一
5 5
3 3
0 0
L X
E A
T F
(代表)
受領書
平成19年11月 2日
特 許 庁 長 官
識別番号
100064908
氏名(名称)
志賀 正武
様
以下の書類を受領しました。
項
2006−199
20070210
20070377
20070738
J40803AI
J40804AI
J41219AI
J41782Al
2 2
07POO631
● ●
07AO632
受付番号 提出日
出願番号通知(事件の表示)
50702268997平19.
特願2007−286476
50702269003平19.
特願2007−286477
50702269012平19.11 2特願200ト286478
50702269023平19.11 2特願2007−286479
50702269027平19.11 2特願2007−286480
50702269036平19.11 2特願2007−286481
50702269041平19.11 2特願2007−286482
50702269047平19.11 2特願2007−286483
50702269052平19.11 2特願2007−286484
50702269058平19.11 2特願2007−286485
50702269066 平19.11
2特願2007−286486
1 1
07AO612
1.1
名願願願願願願願願願願願
類許許許許許許許許許許許
書特特特特特特特特特特特
番1234567891011
整理番号
以 上
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【書類名】
【整理番号】
【提出日】
【あて先】
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【氏名】
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【氏名又は名称】
【代理人】
【識別番号】
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【選任した代理人】
【識別番号】
【弁理士】
【氏名又は名称】
【選任した代理人】
【識別番号】
【弁理士】
【氏名又は名称】
【選任した代理人】
【識別番号】
【弁理士】
【氏名又は名称】
【選任した代理人】
【識別番号】
【弁理士】
【氏名又は名称】
【選任した代理人】
【識別番号】
【弁理士】
【氏名又は名称】
【手数料の表示】
【予納台帳番号】
【納付金額】
【提出物件の目録】
【物件名】
【物件名】
【物件名】
【物件名】
【包括委任状番号】
魔迦07−286486 (Proof)提出日:平成19年11月2日 __喜連
特許願
J41782Al
平成19年11月 2日
特許庁長官 殿
G21F 9/06
静岡県静岡市駿河区大谷836 国立大学法人静岡大学理学部内
菅沼 英夫
静岡県静岡市駿河区大谷836 国立大学法人静岡大学理学部内
森 友隆
304023318
国立大学法人静岡大学
100064908
志賀 正武
100108578
高橋 詔男
100089037
渡連 隆
100094400
鈴木 三義
100107836
西 和哉
100108453
村山 靖彦
008707
16,000円
特許請求の範囲1
明細書1
図面1
要約書1
0612485
篭活讐話芸警 ̄2S6486 抽・日き±≡‥二軸宝11・三三≡ lE
【請求項1】
チオシアン酸イオンを含む水溶液を泳動媒質として用いるキヤピラリー電気泳動法によ
り、マイナーアクチノイドと希土類元素とが共存する混合物からマイナーアクチノイドを
分離するマイナーアクチノイドの分離方法であって、
泳動媒質に前記混合物を添加し、キヤピラリー内に陰極側から陽極側に向けて泳動媒質
を流動させながら、マイナーアクチノイドおよび希土類元素を電気泳動させ、
泳動媒質の流動速度をvl、マイナーアクチノイドの泳動速度をv2、希土類元素の泳
動速度をv3とした際にvl<v2<0<v3になるように流動速度vlを調整すること
を特徴とするマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項2】
Vl<v2<0<v3になるように流動速度vlを調整するために、陰極側の泳動媒質
の液面を陽極側の泳動媒質の液面より高くし、それらの液面の高低差を調節することを特
徴とする請求項1に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項3】
前記マイナーアクチノイドがアメリシウム、キュリウム、バークリウムおよびカリホリ
ウムからなる群から選ばれた1種以上であり、前記希土類元素がユウロピウムであること
を特徴とする請求項1または2に記載のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項4】
前記泳動媒質がpH2・0以下であることを特徴とする請求項1∼3のいずれかに記載
のマイナーアクチノイドの分離方法。
【請求項5】
陰極を備えた陰極槽と、陽極を備えた陽極槽と、陰極槽および陽極楢を接続するキヤピ
ラリーと、陰極および陽極に電気的に接続された直流電源とを具備し、陰極槽と陽極槽と
キャピラリーとに、チオシアン酸イオンを含む水溶液が泳動媒質として充填されるマイナ
ーアクチノイドの分離装置であって、
陰極槽内の泳動媒質の液面が陽極槽内の泳動媒質の液面より高くなるように、陰極槽お
よび陽極槽の一方または両方の高さが調節可能になっていることを特徴とするマイナーア
クチノイドの分離装置。
【請求項6】
陰極槽および陽極槽の一方または両方に、その内部に充填された液体を分取するための
分取手段が取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載のマイナーアクチノイド
の分離装置。