平成28年4月15日 国立大学法人筑波大学 本学人文社会系准教授の論文に関する調査結果について 本学人文社会系小松優香任期付き准教授(当時)が本学に平成 24 年 7 月着任以降に発表した論文 2報に盗用の疑いがある旨の告発を受け、本学では、調査委員会を設置し調査を行ってきました。 その結果、「Ⅳ 調査の結果」に示すとおり、特定不正行為(盗用)と認定しましたので公表します。 Ⅰ 概要 被告発者:小松優香(こまつ ゆか) 人文社会系・准教授 論文1:小松優香『全体論的個人主義としての「負荷有りし自己」と「欲望統整の自己」― チャールズ・テイラーと石橋湛山―』「比較思想研究」第 41 号(比較思想学会、 2014 年)pp.134-143 告発内容:チャールズ・テイラー(田中智彦訳)「第1章 三つの不安」同「〈ほんもの〉 という倫理 近代とその不安」(産業図書、2004 年)pp.1-16 及び田中智彦「テ イラー 自己解釈的な主体と自由の社会的条件」藤原保信・飯島昇藏編「西洋政 治思想史・Ⅱ」(新評論、1995 年)pp.463-478 から剽窃している。 論文2:小松優香『チャールズ・テイラーにおける自己存在と対話性―Part. 1 多様な「善」 に裏付けられた人間存在―』「文藝言語研究 文藝篇」66(筑波大学大学院人文 社会科学研究科文芸・言語専攻、2014 年)pp.1-32 告発内容:中野剛充「チャールズ・テイラーのコミュニタリアニズム 自己・共同体・近代」 (勁草書房、2007 年)からの大幅な剽窃が見られる。 Ⅱ 経緯 ① 平成 27 年 11 月 25 日に、日本政治学会に対してあった論文1に関する匿名の告発が、同学 会より本学研究不正行為告発受付窓口に回付された。 ①´平成 28 年 1 月 13 日に、本学研究不正行為告発受付窓口に本学教員より、論文1に関し、① と同趣旨の面談による告発があった。 ② 平成 28 年 1 月 21 日に、本学研究不正行為告発受付窓口に論文2に関する匿名の告発書が郵 送により届いた。 ②´平成 28 年 2 月 3 日に、本学研究不正行為告発受付窓口に論文2に関し、②と同趣旨の匿名 の告発書が郵送により届いた。 これらの告発を受け、本学では、調査委員会を設置し調査を行った。 Ⅲ 調査 1 調査方法・手順 論文1及び論文2の全文を対象に、告発において指摘のあった文献及び引用したと記載のある 文献について照合し、委員会において対比表を作成し精査した。 また、作成した対比表に基づき、被告発者から事情聴取を行った。 2 調査委員会の構成、開催日時・内容等 【調査委員会の構成】 委員長 伊藤 眞(筑波大学教育担当副学長) 委 員 遅野井茂雄(筑波大学人文社会系長) 小松 久男(東京外国語大学大学院総合国際学研究院特任教授、 東京大学名誉教授、日本学術会議第一部会幹事) 畑 惠子(早稲田大学理事(男女共同参画担当)、 1 早稲田大学社会科学総合学術院教授) 内田 智宏(弁護士 内田・本多法律事務所) 【開催日時及び内容】 第1回調査委員会 (①の事案についての調査。平成 28 年 2 月 3 日(水)10:00~11:40 開催) 委員長の選出、告発に関する経緯の説明、①の事案に係る予備調査委員会における調査 結果の報告及び調査の進め方に関する検討を行った。 第 2 回調査委員会 (①及び②の事案についての調査。平成 28 年 2 月 23 日(火)13:30~15:00 開催) ②の事案に係る予備調査委員会における調査結果の報告の後、①及び②の事案について、 被告発者からの事情聴取及び調査資料に基づき、審議の結果、特定不正行為(盗用)があ ったことを認定した。 第 3 回調査委員会(平成 28 年 3 月 2 日~3 月 9 日、メール審議) 調査報告書(案)の審議 第 4 回調査委員会(平成 28 年 3 月 30 日~4 月 4 日、メール審議) 被告発者から平成 28 年 3 月 29 日付けで提出された不服申立てについてメール審議を行 い、同年 4 月 4 日、全員一致で不服申し立てを却下するものと決定した。 Ⅳ 調査の結果(特定不正行為の内容) 1 認定した特定不正行為の種別 盗用 2 特定不正行為に係る研究者 特定不正行為に関与したと認定した研究者 小松優香 筑波大学人文社会系・准教授 (単著) 3 特定不正行為が行われた経費・研究課題 〈基盤的経費〉 ・運営費交付金 4 特定不正行為の具体的な内容 【論文1】小松優香著『全体論的個人主義としての「負荷有りし自己」と「欲望統整の自己」 ―チャールズ・テイラーと石橋湛山―』「比較思想研究」第 41 号(比較思想学 会、2014 年)pp.134-143 について 論文1は、まず、Charles Taylor, The Ethics of Authenticity, Harvard University Press から引用したとされる部分(p.134)がチャールズ・テイラー(田中智彦訳)「第1章 三 つの不安」同「〈ほんもの〉という倫理 近代とその不安」(産業図書、2004 年)pp.1-16 の訳文とほぼ同一の文章になっている。また、pp.135-136 にも、田中訳とほぼ同一の文章 が、段落を下げるなど引用文と本文の区別なく記載されている(7 か所、150 行中 59 行)。 また、石橋湛山に関する記述の部分(pp.136-137)において、石橋湛山『イプセンの「人 形の家」と近代思想の中心』石橋湛山全集編纂委員会編『石橋湛山全集 第一巻』(東洋経 済新報社、1971 年)pp.40-48 の文章とほぼ同一の文章が、引用文献リストには記載がある ものの、段落を下げるなど引用文と本文の区別なく記載されている(3 か所、120 行中 18 行)。 さらに、pp.140-142 にかけて、田中智彦「テイラー 自己解釈的な主体と自由の社会的 条件」藤原保信・飯島昇藏編「西洋政治思想史・Ⅱ」(新評論、1995 年)pp.463-478 の文 章とほぼ同一の文章が、引用文献リストには記載があるものの、段落を下げるなど引用文と 本文の区別なく記載されている(6 か所、82 行中 75 行)。 2 【論文2】小松優香『チャールズ・テイラーにおける自己存在と対話性―Part. 1 多様な 「善」に裏付けられた人間存在―』「文藝言語研究 文藝篇」66(筑波大学大 学院人文社会科学研究科文芸・言語専攻、2014 年)pp.1-32 について 論文2は、中野剛充「テイラーのコミュニタリアニズム 自己・共同体・近代」(勁草書 房、2007 年)の文章を大幅に剽窃している。論文2の本文は 29 頁あるが、そのうち pp.4-29 のほとんどの文章が、中野著の書籍の文章とほぼ同一のものとなっている。 また、本文のみならず、論文2の p.30 に記載の脚注 4)から 10)までが、中野著の書籍の 脚注とほぼ同一である。また、節の構成、引用文献及び引用箇所の表記についても、中野著 の書籍とほぼ同一である。 5 特定不正行為と認定した研究活動に対して支出された競争的資金等又は基盤的経費の額及び その使途 教員が日常行う活動に対する経費(運営費交付金)により実施された研究活動であるが、 特定不正行為(盗用)と認定された論文の作成過程において直接的に関係する支出は認めら れなかったため、返還は請求しない。 Ⅴ 調査機関がこれまで行った措置の内容 1 学長から小松准教授に対して、平成 28 年 4 月 6 日付けで、当該論文の取下げの勧告を行った。 2 研究公正委員会委員長から学長に対して、4 月 6 日付けで、特定不正行為に関与したと認定し た小松准教授に法令及び法人規則等に従って、処分を課すよう具申した。 なお、小松准教授は、平成 28 年 3 月 31 日に任期満了で退職したが、今後、2 か月程度を目途 に、本学規程に基づき処分の量定等を審査する。 Ⅵ 特定不正行為の発生要因と再発防止策 1 発生要因 小松准教授は、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」に採択された、本学の「人社系グロ ーバル人材養成のための東アジア・欧州協働教育推進プログラム」のプログラムコーディネータ 教員として採用された任期付きの准教授である。プログラムコーディネータ教員としての本務と して、①欧州諸連携大学との連絡、②交付申請書、実績報告書等の作成、③定例の運営委員会及 び外部アドバイザー委員会等の準備、④各プログラム(JLCC, TEACH, COMPAS-CJS)間の連絡調整 を担当し、本務の遂行は適正に行われていた。これらの特定の業務を主に行っていたため、他の 教員との研究面のつながりはなかった。 本件は、同准教授の研究者倫理の欠如により引き起こされた事態であり、同准教授は盗用の意 図を否認するものの、客観的に盗用の事実は明らかである。論文1は 2015 年 3 月 31 日発行の比 較思想学会の学会誌に、論文2は、2014 年 10 月 31 日発行の本学紀要に掲載されたものである。 本学紀要については、本学大学院人文社会科学研究科文芸・言語専攻において査読体制をとって いたものの、当該研究内容の専門家が専攻内にはおらず、外部の専門家の査読までは行われなか った。 また、本学では、平成 19 年 1 月に「筑波大学における研究の公正な推進のための行動規範」 を策定し研究者倫理向上のための啓発活動を行うとともに、 「筑波大学研究公正規則」を制定し、 不正行為の申立て窓口や調査体制の整備、調査の手順等を確立した。その後、パンフレットの作 成、ホームページの開設、説明会の開催や、大学院学生に対しては共通科目「研究倫理」の開設 など、全教員及び全大学院生に対し継続的に研究者倫理の向上や不正行為防止対策に努めてきた。 しかしながら、平成 26 年 8 月に研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン (文部科学大臣決定)が策定される以前、また、小松准教授が論文を発表した時点では、上記の とおり、実施した様々な啓発活動について極力受講するよう推奨していたが、義務付けることま ではしておらず、当然、小松准教授にも受講が義務付けられていたわけではなかった。また、受 3 講者数の把握はしていたものの、厳格な出欠管理まではしていなかったことから発生したものと 考えられる。 2 再発防止策 本学ではガイドラインを踏まえ、研究活動上の不正行為の防止及び対応に関し、平成 27 年 5 月に「筑波大学研究公正規則」を一部改正し、研究者の責務として、第3条第2項に「研究者等 は、研究者倫理及び研究活動に係る法令等に関する研修又は科目等を受講しなければならない」 旨の受講の義務付けを規程上明確化しており、この規程に基づき、研究者に対して、以下の研修 等の受講を徹底する。 ・CITI Japan などの e-ラーニングの定期的な受講を徹底する。 ・「研究倫理に関する研修会」を開催し、研究者倫理の向上及び不正行為防止について周知徹 底する。 ・新任教員に対しては、新任教員研修において、新入生に対しては、新入生オリエンテーショ ン等において、引き続き研究者倫理の向上及び不正行為防止について周知徹底する。 加えて、各研究分野(部局)においても、研究倫理教育責任者が、平成28年度内に研究不正 行為の防止について部局内の全研究者等に対して啓発を行うことを義務付け、本部において実施 状況を確認するとともに、査読体制を強化させる。 これらの研修等について、大学本部が実施主体となる研修については、総括管理者が履修状況 (出欠)を管理することとし、部局において実施する啓発については、研究倫理教育責任者が実 施状況及び履修状況(出欠)を管理し、部局責任者を通して、その状況を総括管理者に報告させ ることとし、総括管理者は全体を把握するものとする。 問い合わせ先:研究推進部研究企画課 TEL: 029-853-2926 4
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