本学元教授の研究費不正使用に関する調査結果について 平成 26 年 11 月に研究費の不正使用で逮捕,起訴された大学院生命理工学研究科元教授の岡畑惠雄 (おかはた・よしお)に係る裁判が平成 27 年 7 月に終了しました。公判資料等により,不正に使用さ れた研究費の精査等を終えましたので,下記のとおり報告します。 記 1.不正事案の概要 本学大学院生命理工学研究科元教授の岡畑惠雄(おかはた・よしお)は,年度内に使い切れな い研究費を次年度に使用する目的で,元秘書及び業者と共謀して虚偽の会計書類を作成し,大学 から業者に支払わせ,長期間にわたって多額の「預け金」を作り,現金の還流を受けるなど一部 で私的に流用していた。また,非常勤職員に係る虚偽の勤務報告書等を作成し,大学から給与を 支払わせる「架空雇用」により,元秘書が当該非常勤職員の給与を不正に受領していた。 2.これまでの経過と大学の対応等 (1) 平成 25 年 6 月に岡畑研究室に所属していた元学生の母親から当該元学生への給与支給に関する 照会があり,学内調査を開始したところ平成 25 年 7 月に生命理工学研究科の岡畑元教授による A 社との取引における「預け金」の疑義が判明し,平成 25 年 10 月に約 1,900 万円の「預け金」が あったとする調査委員会の中間報告を取りまとめた。 (2) 上記の中間報告を受けた大学の対応 ① 調査委員会による中間報告を受けて,処分検討委員会での検討,役員会,教育研究評議会の 審議を経て,平成 26 年 1 月に元教授を含む関係者に対する処分を決定し,公表した。 ② 平成 26 年 2 月には警察署に「被害届」を提出し,捜査を依頼した。 ③ 平成 26 年 3 月 31 日に臨時役員会を開催し,「研究費の不正防止のための当面の取組方針」 を決定した。 (3) 警察による捜査と大学の対応 ① 警察による捜査で,T 社との取引のうち,平成 21 年 1 月 30 日からの 42 件・14,863,860 円が 「預け金」であったことが判明し,本学は,平成 26 年 11 月に記者会見を行い,「告訴状」を 提出したこと,及び当該元教授が逮捕されたことを公表した。 ② 岡畑研究室からの申請に基づいて雇用していた非常勤職員は稼働した事実がないにもかかわ らず、元教授及び元秘書は虚偽の内容の書類を作成し,大学に給与を支払わせていたことが警 察の捜査で判明し,本学は平成 26 年 12 月に「告訴状」を提出した。 ③ A 社との取引については,警察の捜査により,平成 23 年 6 月 21 日から 100 件の架空請求で 30,784,584 円の「預け金」があったとされた。 (4) 大学の不正防止計画の策定と管理責任の公表 ① 大学では上記(2)③の取組方針を踏まえつつ,これまでの不正防止計画を見直し,平成 27 年 3 月には新たな不正防止計画を策定し,強化策の内容等について記者会見を行い公表した。 ② 今回の研究不正を踏まえた管理監督上の責任を明確にするため,学長は報酬の 10 分の 1 を 3 ヶ月自主返納するとともに,4 名の理事・副学長に対して「厳重注意」を行い,各理事・副学 長は報酬の 10 分の 1 を 1 ヶ月自主返納することを公表した。 -1- (5) 裁判の結果と大学の対応 ① 平成 27 年 7 月 15 日に,東京地裁から元教授に対して有罪の判決が言い渡されたことを受け て,学長コメントを大学のホームページで公表するとともに,裁判所に対して公判記録の開示 請求を行い,平成 27 年 9 月に関係資料を入手した。 ② 平成 27 年 11 月 12 日に新たに調査委員会を設けて,警察から提供された情報や公判記録等を 精査・確認して不正使用の詳細を認定するための学内調査を実施した。 3.不正使用の内容 【架空請求(預け金)】 (1) 元教授は,大学の調査委員会に対して「平成 20 年 3 月に研究室が移転することとなり,その費 用捻出のために A 社と結託して「預け金」処理を始めた。」と証言していた。しかし,取引業者 に対する「預け金」処理は,年度内に使い切れない研究費を次年度に使用する目的で昭和 60 年・ 61 年頃に元教授が T 社に相談を持ちかけたことで始まったものであった。 (2) 元教授は,元秘書及び業者と共謀して虚偽の会計書類を作成し,大学から業者に支払わせるこ とにより,長期にわたって多額の「預け金」を作っていたものであり,「預け金」の一部は現金 で還流を受けるなど私的に流用していたものであった。 (3) 大学では,平成 20 年度以降の取引については見積書,納品書,請求書の証憑類を保有し,平成 16 年度~平成 19 年度は証憑類を破棄しているものの業者への支出が記録された電子データを保 有していたので,これら証憑類及び公判記録等で確認した結果,平成 16 年度以降,以下のとおり 「預け金」がなされていたことを認定した。 金額単位:円 区 分 科学研究費補助金・科学研究費助成事業 A社関係 計 T社関係 19,254,265 13,497,434 32,751,699 1,468,994 556,755 2,025,749 大学改革推進等補助金 767,242 0 767,242 科学技術試験研究委託事業 769,072 0 769,072 独立行政法人からの受託事業 8,695,486 14,674,154 23,369,640 民間企業等との共同研究経費 2,745,352 2,031,547 4,776,899 12,035,540 0 12,035,540 45,735,951 30,759,890 76,495,841 研究拠点形成費等補助金 運営費交付金 計 (4) 平成 15 年度以前の取引については,大学はデータや証憑類を保存期間の規定により破棄してお り,支出された記録が無いため「預け金」とされた具体的な取引や額を特定するには至らなかっ たものの、平成 21 年度末時点で約 6,400 万円の「預け金」残高が T 社にあった旨の証言もあり, この残額を超える「預け金」処理がなされていたと考えられる。 (5) 「預け金」処理は,元教授は研究室の全ての研究費を管理し,元秘書が経理事務を行っていた という状況下で,教員発注が認められる 100 万円未満の取引で元教授及び元秘書が取引業者と共 -2- 謀して行っていた。「預け金」処理は,元教授の研究費のみならず,当該研究室の准教授,助教 の研究費,さらに当該元秘書が経理事務を担っていた他研究室の研究者の研究費も原資として、 行われていたものであった。 (6) 当該研究室の准教授や助教,及び他研究室の研究者については,関係者へのヒアリングにより 「預け金」処理に直接関与していないことを確認している。いずれも元秘書が一元的に経理事務 を処理するなかで,予算の管理責任者に関知されることなく原資としていたものであった。 【架空請求(架空雇用)】 (1) 非常勤職員の「架空雇用」について,雇用されていたとされる者は,平成 16 年 5 月 1 日から雇 用されていた。しかし,雇用に必要な書類は元秘書が作成し,非常勤職員の勤務実態も無く,給 与振込の口座の通帳,印鑑,キャッシュカードは元秘書が管理していたものであった。 (2) 元秘書は,超過勤務分の賃金を別口座に振り込ませるために,勤務実態のない非常勤職員に係 る虚偽の勤務報告等を行い,当該非常勤職員の給与を大学に振り込ませ,不正に取得していたも のであった。 (3) 大学は,平成 16 年の採用当初から総額で 11,148,700 円が振り込まれていたことを確認し,全 額が架空雇用であったと判断した。 金額単位:円 区 分 架空雇用関係 科学研究費補助金・科学研究費助成事業 6,155,831 独立行政法人からの受託事業 4,246,635 民間企業等との共同研究経費 255,038 運営費交付金 491,196 計 11,148,700 4.不正発生要因と再発防止 (1) 「預け金」の発生要因と再発防止 平成 26 年 3 月の「研究費の不正防止のための当面の取組方針」の策定に際し,当時,主に以下 の様な要因を整理している。 ・悪意ある教職員による預け金処理であり「教職員の意識」の欠如があった。 ・教員発注の制度を悪用して取引業者と共謀し実行されたものであるが,取引業者に対する牽 制となる「誓約書の徴取」の不完全さがあった。 ・平成 25 年 1 月 1 日以降全品検収を実施してきたが,納品物の反復使用により検収員を欺いて いたものとはいえ「検収制度」の不完全さがあった。 大学では,取組方針を踏まえつつ,平成 27 年 3 月にこれまでの不正防止計画を見直し,上記リ スクに対して検収機能の強化策等の措置を既に講じており,今後も取組を確実に実施していく。 (強化策) ○検収制度の強化,教員(研究室)と業者の癒着防止に向けた取組の強化 教員が発注できる契約金額の上限を 50 万円に引き下げると共に,大学に誓約書を提 -3- 出していない業者との取引はさせない。既に全品の納品確認を実施している検収セン ターでは納品検査時にマーキングを行い(注),更に持ち帰りを防止するために出口で の確認を行う。 (注)マーキングは 1 万円以上の物品で,薬品類を除く。薬品類は,別途薬品管理システムを用いて管理。 ○取引業者への牽制の強化等 1)次の事項を遵守する誓約書の提出を求め,提出されない業者とは取引をしないこと を徹底する。 ・大学の規則等を遵守し,不正に関与しないこと ・内部監査,その他調査等において取引帳簿の閲覧・提出等の要請に協力すること ・不正が認められた場合は,取引停止を含むいかなる処分を講じられても異議を申 し立てないこと ・大学の職員等から不正な行為の依頼等があった場合は,大学に通報すること 2)「預け金」に加担していないことの表明・確約書の一定期間毎の提出を求める。 3)不正使用に加担した場合の措置の強化として,最長 24 月の取引停止,業者名の公表 や損害賠償の請求等をおこなうことを明確にした。 ○大学における研究費使用者すべての意識向上に向けた取組 コンプライアンス意識の向上を図り,行動規範に則って活動することを徹底し,研修 会や説明会への参加,誓約書の提出を公的研究費の応募・予算執行等の条件とした。 ○防止計画の推進体制の強化 不正防止計画の推進を図る部署として「教育研究資金適正管理室」を設けている。当 該室の事務を担う専任の職員を配置する,部局長が契約状況を容易にモニタリングす るシステムを整備するなど体制の強化も図っており,今後は,不正防止計画の実施状 況をフォローアップし,必要に応じて見直し方策を検討する。 (2) 「架空雇用」の発生要因と再発防止 当時の研究室非常勤職員の雇用は,研究室で採用面接を行い,採用関係書類を事務担当が確認 することで採用手続きを行い,毎月研究室から学内便で提出される勤務報告書を受けて、給与支 給手続きを行っていた。 これらの手続きでは,研究室で勤務する非常勤職員の雇用や給与支給に関わる確認を,直接事 務担当職員が直接確認することがなく,関係書類をねつ造できてしまったことが架空雇用の発生 の要因であった。現在は,以下の取組に着手しこれを確実に実行している。 ○ 非常勤職員の採用面接には事務職員が参加し,採用に係る書類は採用予定者本人から事務 職員が直接受け取る,毎月の勤務報告についても非常勤職員各人自らが事務担当者に提出す ることとしている。 ○ 研究室単位で行われる経理関係事務の集約化に着手し,非常勤職員のチーム体制で複数研 究室の経理処理を行い,職員間の相互チェックを可能とする環境の整備に努めている。 -4- 参考資料 (1) 国立大学法人東京工業大学生命理工学研究科元教授の研究室における研究費の不正使用に関す る調査委員会による調査 ○ 本学のガイドラインに基づき「国立大学法人東京工業大学生命理工学研究科元教授の研究室 における研究費の不正使用に関する調査委員会」を平成 25 年 7 月 19 日に設置し,調査を行っ た。委員会の構成等は以下のとおり。 氏名 所属・職 備考 辰巳 敬 理事・副学長(研究担当) 委員長 関根 光雄 生命理工学研究科長 予備調査委員会委員長 大谷 清 理事・副学長(財務担当) 研究費の不正使用事案のため 植松 友彦 副学長(コンプライアンス担当) 学長指名 山口 敏 副学長(総務担当)・事務局長 学長指名(H26.3.31まで) 丹沢 広行 副学長(総務担当)・事務局長 学長指名(H26.4.1より) 岡田 哲男 理工学研究科理学系教授 教育研究評議会の評議員 須佐 匡裕 理工学研究科工学系教授 教育研究評議会の評議員 長尾 亮 丸の内南法律事務所 法律知識を有する者 坂口 広志 財務部長 研究費の不正使用事案のため(H26.3.31まで) 丸山 浩 財務部長 研究費の不正使用事案のため(H26.4.1より) 西山 和徳 研究推進部長 研究費の不正使用事案のため(H26.3.31まで) 吉野 明 研究推進部長 研究費の不正使用事案のため(H26.4.1より) ○ 調査委員会による調査は,証憑類の存在する平成 20 年度以降の A 社との取引について,大 学の保有する書類と業者から提供を受けた書類の突合・精査,及び関係者からのヒアリングを 経て,不正使用とされた取引を認定した。 平成 25 年 7 月 19 日 第 1 回調査委員会 予備調査報告,調査の流れ,調査スケジュール 平成 25 年 8 月 21 日~平成 25 年 10 月 29 日 第 2 回~第 6 回調査委員会 関係者の面談・ 概要報告 平成 25 年 12 月 18 日 第 7 回調査委員会 調査報告(中間報告)に対する不服申立 平成 25 年 12 月 25 日 第 8 回調査委員会 不服申立に対する回答案 平成 26 年 3 月 24 日 第 9 回調査委員会 調査結果のとりまとめ 平成 26 年 6 月 24 日 第 10 回調査委員会 調査結果報告書のとりまとめ 平成 26 年 8 月 21 日 第 11 回調査委員会 調査結果報告書のとりまとめ 平成 26 年 10 月 24 日 第 12 回調査委員会 調査結果報告書のとりまとめ -5- 参考資料 (2) 国立大学法人東京工業大学大学院生命理工学研究科元教授の公的研究費の不正使用に係る調査 委員会による調査 ○ 「国立大学法人東京工業大学における教育研究資金の不正使用についての調査等に関する規 則」に基づいて,平成 27 年 11 月 12 日に「国立大学法人東京工業大学大学院生命理工学研究科 元教授の公的研究費の不正使用に係る調査委員会」を設置。委員は学長から指名された以下の 5 名で構成し,事務担当者等が調査を補助する形で実施した。 氏 名 所属・職 備 考 安藤 真 理事・副学長(研究担当) 委員長 三原 久和 大学院生命理工学研究科長 部局長 長谷 一雄 長谷一雄法律事務所・弁護士 法律の知識を有する者 高橋俊太郎 長谷一雄法律事務所・弁護士 法律の知識を有する者 竹内 公認会計士・税理士 会計事務に関する専門知識を有する者 啓博 竹内事務所 (調査を補助する者) 植松友彦副学長(安全・コンプライアンス担当),丹沢広行事務局長,黒澤広一総務部長, 丸山浩財務部長,吉野明研究推進部長,平井陽子総務部人事課長, 土屋浩之総務部人事課給与グループ長,稲田一弘研究推進部研究企画課長, 保坂ゆき研究推進部研究企画課教育研究資金適正管理事務グループ長 ○ 調査委員会による調査は,警察から提供のあった情報を踏まえつつ,また①A 社及び T 社と の取引について,大学の保有する書類と業者の保有する書類との突合・精査や,裁判記録等の 内容確認を経て「預け金」の額を認定し,②非常勤職員の「架空雇用」については,名義を使 用された者からの事情聴取を以て実働の有無を確認し,大学の保有する書類で「架空雇用」の 額を認定した。 平成 27 年 11 月 16 日 第 1 回調査委員会 経緯等の確認,調査の方法と進め方について 平成 27 年 12 月 21 日 第 2 回調査委員会 裁判記録の確認など,事案の精査 平成 28 年 1 月 18 日 第 3 回調査委員会 関係者からのヒアリング 平成 28 年 1 月 20 日 第 4 回調査委員会 調査結果の取りまとめ 平成 28 年 2 月 8 日 第 5 回調査委員会 調査結果の取りまとめ,調査結果報告書のとりま とめ 平成 28 年 2 月 26 日 第 6 回調査委員会 調査結果報告書のとりまとめ -6-
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