SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) 単結晶サファイアを用いた静電容量式圧力センサの研究 増田, 誉 Citation Issue Date URL Version 2001-09-21 http://doi.org/10.14945/00006465 ETD Rights This document is downloaded at: 2016-04-13T11:11:48Z 電子科学研究科土1’tl”, …,1・7375RE 綜 静岡大学大学院 電子科学研究科 電子応用工学専攻 醸ws♪鱗 漢 増田 誉 遷図蓬攣 概 要 本研究は過酷な環境下でも使用できる工業用圧力発信器に対して隔膜構造を 用いずに構築することを目標とした。このために単結晶サファイアを用いた静 電容量式圧力センサとその信号処理回路を開発した。 センサの構成材料は上記要求を満足する単結晶サファイアを用い、この微細 加工技術と直接接合技術を開発した。さらに圧力測定原理は弾性率に影響され ない静電容量式を選択した。電極膜には単結晶サファイアと線膨張率差が近く、 機械的かつ化学的にも安定性の高い白金を用いた。上記の開発により小型化が 困難な5Kpaの微圧センサを作成した。チップサイズは約口7mm、ダイヤフラ ムの直径と厚さは約φ4.3mm、 t:0.05mm、電極間距離は約3μmであり、セン サの直線性、温度特性、湿度特性等の誤差をレシオメトリック信号処理により 除去するためにセンサチップには感圧容量と基準容量の2つのキャパシタを内 臓させた。この2つのキャパシタのべ一ス・キャパシタンスは共に約10pFであ り、感圧容量の圧力感度は定格圧力印加時に約1pFだけ増加するよう設計した。 このセンサチップは、耐食性の高いニッケル基合金板と予め拡散接合により接 合された台座と固液間反応接合技術を用いて接合されパッケージに収められて いる。 信号処理回路は印加圧力により生じたセンサの微小な容量変化を高精度に測 定するために電荷増幅器を用いた電流・電圧計法を開発し、センサに寄生する 抵抗成分による誤差は位相検波回路により除去し、センサや回路に存在する直 線性、温度特性、湿度特性等の誤差は4象限レシオメトリック信号処理を施す ことで除去した。耐熱性能はセンサと信号処理回路の配線部分をケーブルで接 続し確保した。.このケ・…一・‘ブルに混入する磁界ノイズはシールド部分に迂回させ、 かつ電界ノイズは導体シN・・・…ルドで遮蔽した。さらにケーブルはツイスト・ペア ー構造の2線シールドケーブルとすることで混入したノイズを相殺した。 これらの技術により長さ1mのケーブルを用いた圧力伝送器としての総合性能 は、測定分解能が約±0.001%FS、補正前の直線性誤差±0.7%FS、補正後の直 線性誤差±0.04%FS、温度特性±0.003%FS/℃、40時間での安定性± 0.002%FSを得ることができ、さらに電磁界環境試験では出力の変動は認めら れなかった。 目 次 第1章 序論 1 1.1はじめに 1 1.1.1圧力の定義 1 1.1.2圧力計測の重要性 4 1.L3圧力センサの歴史展望 6 1.1.4隔膜構造の利点と問題点 13 1.2本研究の目的と論文の構成 16 参考文献 18 第2章 静電容量式サファイア圧力センサ 20 2.1はじめに 20 2.2センサ素子材料 23 2.3センサの設計 29 2.3.1センサ素子の基本構造 29 2.3.2基本設計 31 2.3.3センサ素子の設計 41 2.3.4設計したセンサの構造 54 2.4センサの製造プロセス 55 2.4.1スペbUサ 55 2.4.2ダイヤフラム 56 2.4.3サファイア同士の直接接合技術 57 2.4.4基板 63 2.4.5台座 66 2.4.6固液間反応接合技術 68 2.4.7電極取り出し 75 2.4.8組み付け 76 2.5むすび 77 参考文献 79 第3章 インターフェv−・・一一・Lス回路 ii 83 3.1はじめに 83 3.2レシオメトリック信号処理 85 3.3信号処理回路 90 3.3.1信号処理回路の概要 90 3.3.2正弦波発振回路 92 3,3.3差動静電容量・電圧変換回路 100 3.3.4検波回路と平滑回路 105 3.4インターフェv−・一・・ス回路の性能 113 3.5むすび 117 参考文献 118 第4章 圧力伝送器 120 4.1はじめに 120 4.2センサとのi接続i 122 4.3防爆対策 132 4.4圧力伝送器の性能 137 4.4.1圧力感度特性と過大圧特性 137 4.4.2直線性 139 4.4.3温度特性 142 4.4.4高温安定性 144 4.5むすび 146 参考文献 149 第5章 結論 150 謝辞 153 iii 序論 L1.1圧力の定義 圧力とは単位面積あたりに印加されるカと定義される1)。 力の単位はMKS重力系では重量キログラム[kgf]である。よって、圧力の単位 はMKS重力系では重量キログラム毎平方メートル[kgf/m2]で表現される。しか し、一般的には重量キログラム毎平方センチメートル[kgf/cm2]を用いること が多い。これは、1kgf/cm2の圧力は約10mの水柱が発生する圧力であり、かつ、 地球上の大気圧とほぼ等しいために人間にとって、その大きさを理解しやすい ことが理由である。一方、国際単位系(SI)では力の単位にニュートン[N]が用 いられる。従って、圧力の単位はニュートン毎平方メートル[N/m2]であり、こ れにはパスカル[Pa]という固有の名称が与えられている。平成5年11月に施 行された新計量法により平成11年10月1日からは重量キログラム毎平方セ ンチメートル[kgf/cm2]やミリメートル水柱[mmH20]が用いられなくなり、ミ リメートル水銀柱とトール[mmHg =torr]も用途を限定された認可となる2)。 Table 1.1圧力単位の換算表2) 分類 国際単位系に係る単位 単位[記号] パスカル[Pa] 98066.5Pa=1kgf/c㎡ jュートン毎平方メートル[N/㎡] @ 1N/m2=1Pa @ バール[bar] 一般的に使用が認められる非 @ SI単位 換算 気圧[atm] トル[Torr] 用途を限定して使用が認めら @ ミリトル[mTorr] @ れる非SI単位 @マイクロトル[μTorr] 撃aar=100×103Pa 1atm=101.325×1♂Pa 1Torr=1mmHg=133.322Pa ?竰激 リメートル[m団g] 本論文では新計量法に準じたパスカル[Pa]を極力用いることにするが、圧力 の大きさを直感的に理解するためにミリメートル水柱[mmH20]とトール[torr] 1 も用いることとする。また正式な単位であるパスカル[Pa]に換算する場合は Table 1.1を用いることとする。 圧力は基準とする圧力により3つの形態に分類される。その1つは絶対真空 を基準とした圧力差で、これを絶対圧と呼ぶ2・3)。実際の絶対圧センサでは圧 力基準室に絶対真空を生成することが不可能なため真空領域のある一定の圧力 となるガスを封入している。よって、センサはこの圧力基準室の圧力と測定圧 力の差圧を測定している。圧力単位を使用する上で絶対圧は単位の後に absoluteを略した記号absやAを付けて表す。絶対圧を測定する一般的な計器は 真空計と呼ばれ真空計で測定した圧力を真空度と呼ぶ。Table 1.2に絶対圧計 の主な用途を示す2・4・5)。 差圧は圧力の基準を持たず二つの系の圧力差のみを扱う場合を指す。差圧計 の主な用途は、差圧流量形、密閉タンクの液面計である6)。 大気圧を基準とした圧力差をゲ・・一一…ジ圧と呼ぶ。この大気圧の定義は2種類あ る。ゲージ圧計が置かれている雰囲気の圧力を大気圧と呼ぶ場合と、標準気圧 を基準とした圧力差を呼ぶ場合の2種類である。この後者の標準気圧を基準と する揚合を特別にシールドゲージ圧計と呼ぶ。また、ゲージ圧計のみ大気圧を 基準として大気圧以下の圧力を負圧と呼び、大気圧以上の圧力を正圧と呼ぶ。 この負圧のみを測定するゲージ圧計を負圧計、正圧のみを測定するゲージ圧計 を正圧計、負圧から正圧を連続して測定するゲージ圧計を連性圧計と呼ぶ。こ れらの圧力の関係をFig.1.1に模式的に示す2)。 2 Tablle 1.2絶対圧計の主な用途2’4’5) 用途 1 2 真空加熱乾燥装置 真空加熱反応装置 半導体製造装置 4 化学薬品の蒸留製造装置 5 真空吸着装置 3 大気圧環境での物質の沸点を加圧環境にし上昇させ加熱する装置、例えば、牛乳の高温/短時間殺菌等 6 7 高度計 8 気象観測用気圧計 9 密閉容器内にあるガスの量 10 ガス成分量(通常、絶対圧での分圧を用いる。) 11 気密度測定装置 絶対圧 ゲージ圧 沿ウ 正圧 大気圧 完全真空 Fig.1.1絶対圧とゲージ圧の関係2) 3 1。L2圧力計測の重要性 圧力センサの用途は、耐圧容器や真空容器等の圧力監視・制御等に見られる 様に測定した圧力値自身を必要とする用途と測定した圧力値からタンクに入れ られた液体の液位や管に流れる流量等の物理量に変換して用いる用途に分類で きる。上記の内容を概略的に分類するとFig.1.2となる。 圧力の計測 容器や配管の耐庄に対する圧力計測、圧力による物 質の融点制御、化学反応速度等の制御を行う A、G 圧力の有無の計測 ロボット制御や圧力容器のドアの開閉に関する安全 性の確認を行う G 距離の計測 ノズルで物体にガスを吹き付けノズルの背圧と物体 距離の関係を利用し距離を計測する G 物体の存在の計測 物体を真空吸着する方法とノズルで物体にガスを吹 き付けノズルの背圧変化で計測する A、G 気密性の計測 蕃裏護難智鷺減圧しその圧力の変動を測定し気 A、G Fig.1.2用途から見た圧力センサの分類2’4’6) Fig.1.2の記号Aは絶対圧(Absolute Pressure)、記号Gはゲージ圧(Gauge Pressure)、記号Dは差圧(Differential Pressure)を指す3)。 Fig.1.2に示す様に圧力計測の用途は多様であり温度や流量計測と並ぶ基本 物理量として極めて重要である。例えば圧力容器に印加する圧力を計測・制御 しなければ圧力容器が耐圧限界を越えて爆発してしまうこともあり、さらに、 プロセス制御では牛乳の短時間殺菌の様に温度でなく圧力を制御することで融 点を制御し処理することにも使用されている。 別の側面から圧力センサを分類すると比較的環境特性の厳しいFA(Factory Automation)用圧カセンサや更に環境特性の厳しい工業用圧力発信器が属する “生産財用圧カセンサ”と家庭電化製品や自動車等の“消費財用圧力センサ” に分けられる。 4 消費財用圧力センサは機器組み込み型として用いられることが一般的である。 よって、組み込まれる製品が小型・軽量・低価格化されると、それに比例して 圧力センサも小型・軽量・低価格化してきている。この技術課題を解決するた めに消費財用圧力センサでは従来から用いられてきた隔膜構造がなく、代りに シリコーンゲルポッティング技術、ガラスやバルクアルミナを用いた静電容量 式圧カセンサ、SOIピエゾ抵抗式圧力センサ等が用いられている1騨2)。 生産財用圧力センサに属するFA用圧力センサの代表的な用途は半導体製造装 置における吸着搬送装置や対向ノズルによる物体の存在確認装置等であり、環 境特性が消費財用圧力センサと同等なため同様な技術が用いられている。また、 消費財用圧力センサではセンサインターフェース回路を小型・軽量・低価格化 するためにセンサ素子と集積化している1°2)。 一般的に工業用圧力測定器は圧力伝送器や圧力発信器と呼ばれている。耐食 性・耐熱性・過大圧等の環境特性の厳しい圧力伝送器は現在でも隔膜構造を用 いており、よって製品形状や重量は大きく、かっ高価格である。しかし圧力伝 送器の分野でも小型・軽量・低価格化が徐々にではあるが進んできている。工 業用圧力発信器の主な用途は、内圧測定、レベル計測、流量計測である2)。 5 1.L3圧力センサの歴史展望 ここでは、圧力センサの検出原理で最も一般的な抵抗式と静電容量式の歴 史・展望を述べる。 当初、抵抗式圧力センサは金属やセラミック製の受圧板、即ちダイヤフラム の表面に金属ワイヤストレインゲージを貼り付けたストレインゲージ式から発 達した。1940年代後半から1950年代初頭に、シリコンやゲルマニウム 等の半導体は金属よりも大きなゲージ率を持つことが発見され、圧力センサへ の応用研究が開始された。やがてシリコンを用いた半導体圧力センサはシリコ ンピエゾ抵抗式圧力センサと呼ばれるようになった1)。 ピエゾ抵抗効果は半導体結晶に与えた歪み、即ち原子問距離の変化によって 禁制帯の幅が変化し、それに伴ってキャリヤ濃度が変化することに基づく等方 的な効果がある。さらに半導体結晶の等エネルギー面は複雑な形状を持ってい るため伝導電子の移動度、即ち電気抵抗には結晶異方性がある。従って電気抵 抗を測定している位置を固定し、歪みを与えた前後の半導体結晶の電気抵抗を 測定すると、結晶が歪むために電気抵抗の結晶異方性が現れる異方的な効果も ある。大きなピエゾ抵抗効果を示す主な半導体としてSi、 Ge等がある。 Geは 資源としての産出量が少なく、かつ、吸湿性が高く不安定である等の理由から Siが主に使われる。またpn接合や金属一半導体接触ダイオード、即ちショット キーダイオードの障壁部に圧力を加えると順・逆両方向ともに電流が増大する。 このようなダイオードは感圧ダイオードと呼ばれている1)。 ピエゾ抵抗効果は圧力計、ひずみ計、音・電気変換素子などに利用されてい る。 一般的なシリコンピエゾ抵抗式圧力センサ素子を上面から見た図をFig.1.3 に示す。図のゲージ抵抗は薄肉部であるダイヤフラム上の2または4カ所に配 置される。ダイヤフラムに圧力を印加すると、これが擁み、ゲージ抵抗に歪み が誘起され、歪みの方向により抵抗値が変化する。ゲージ抵抗の初期抵抗値を Rとし抵抗値の変化量を∠Rとすると、ダイヤフラム上のゲー一ジ抵抗の配置を工 夫することで印加圧力の増加に伴い抵抗値がZRだけ増加するゲージ抵抗と印 加圧力の増加に伴い抵抗値がztd Rだけ減少するゲージ抵抗を形成できる。この 2種類のゲージ抵抗が相補的に動作する様にホイットストーンブリッジ回路を 形成すればFig.1.4の回路となる。従って、この回路はオフセット誤差等の同 6 相ノイズを除去でき、圧力に比例した電圧出力信号を得ることが出来る7・8)。 アルミ電極 拡散リード部 歪みゲージ Fig.1.3シリコンピェゾ抵抗式圧力センサの上面図1・9・1①) 通常形ゲージ(ゲージ抵抗R) ut Vin Fig.1.4シリコンピエゾ抵抗式圧力センサの抵抗変化と出力の関係1’lo) Fig.1.5は最も一般的なシリコンピエゾ抵抗式圧カセンサのパッケージ構造 図である。Fig.1.6はセンサ素子周辺の拡大図である。センサ素子は台座と呼 ばれるアルカリ塩ガラスや絶縁用ガラスを挟んだシリコン単結晶、セラミック 等を用いてステムと接続される。全ての圧力センサはステムやその周辺部分か らセンサ素子のダイヤフラム部分に伝播してくる応力に感度を持ち、この応力 は全て測定誤差となる。従って台座はセンサ素子に外部から応力を伝播させな いための応力減衰用に用いられる。また台座材料の熱膨張率がセンサ素子、即 ちシリコンの熱膨張率と異なると誤差となるため極めて近い材料が選定される、 この部分の接合には接合応力を軽減するために様々な工夫がなされており、特 に陽極接合技術、低融点ガラスによる封着、半田付け、台座をシリコンとした 直i接接合技術、有機i接着剤等が開発され実用化されている1・1 1・12)。 台座が接合されるステム(ヘッダとも呼ばれる)も同様な理由により熱膨張 率を近づける必要があり、ステム材料には金属磁性体が持つインバー効果を利 7 用した低熱膨張材料であるFe−Ni系やFe−Ni−Co系合金が主に用いられ、さらに 低応力化する場合にガラスやセラミックスが用いられる。 導体圧カセンサ ップ シリコン台座 TO−8ヘッダ 膜温度補償 抗基板 Fig.1.5シリコンピエゾ抵抗式圧力センサのパッケージ全体図4’12) ・Sio2 ・Au線.Si3N4 ・Al線 ・P系ガラスアルミパッド ・B系ガラス . ...腓..... n型、p型拡散層 ・陽極接合 霧…9’‘雛÷・型・P型Si単結晶基板 ・低融点ガラスによる封着 ・Au−Si共晶ハンダ付け → ・Si−Si直接接合 らら亀 ら 塾 ● 噺 しら し も り ら ら ら ら もら. ら も■ らら ::::::::::::む: う らららロし りら ら りらロ し ら り ∵.㌔・」・㌦㌦゜. :こ::::・:・:・こ::: ・有機系接着剤 亀 も ● 噺◎◎ 馬噸 らむ ら むしりり ::・:・::::ご:・:く ら ロ ら り のしい り ::::こ:::::くむ二 ・こ::::こ::::こ::: :§::::::i:iミ ・アルカリ塩ガラス ・Si単結晶 ・セラミック さ:::::::ミ:i: ● ● らら 鳥 嚇 ● ら ら ら 亀● 魎 ● ○ し :・:・:÷:÷;÷:e:・:・: ・インバー系合金 ・:二:露ゑ≒::糖撫 二:::ゑ≒:ゑ聴:::鼻二% ・ステンレス鋼 ・。二::・二・二・二・:・∫・:・∫・る:・: ・低融点ガラスによる封着 ・ハンダ付け ・有機系接着剤 Fig.1.6センサ素子近傍のパッケージ構造図4’12) 1990年代初頭までシリコンピエゾ抵抗式圧力センサは異方性エッチング 技術や陽極接合技術等のマイクロ・マシニング技術の進展により小型・高性能 化されてきた。さらに同じシリコンを用いた集積回路技術の進歩とその技術の 8 水平展開も発達した理由である。 1990年代初頭から耐熱性の向上やダイヤフラムの厚さ制御の目的から集 積回路の研究で既に存在していたSOI技術を新たに取り入れたシリコンピエ ゾ抵抗式圧力センサの開発が盛んに行われたが大きな成果は得られず、近年、 シリコンピェゾ抵抗式圧カセンサに関する研究は減少してきている。この理由 はシリコンピェゾ抵抗式圧力センサを用いる限り、特別な用途を除き、耐食性 や電気絶縁性の低さからマイクロ・マシニング技術を追求しセンサ素子を小 型・低価格化しても圧力伝送器として小型・低価格化できないためである。ま た隔膜構造やそれに相当するセンサ素子の保護構造を必要としない用途では既 にこの市場における圧力センサの使用量が限界値に到達しており無尽蔵に生産 しても用途が無く、新たな市場開拓がなければ量産性を高めるためのセンサ素 子の小型化に関する研究が直接低価格化に結びつかなくなってきている。 静電容量式圧力センサはストレインゲー・・一ジ式圧力センサと同時期に始まって おり、現在でもシリコンピエゾ抵抗式圧力センサと同程度の市場占有率を持つ。 Fig.1.7は最も単純な形状を持つ静電容量式圧力センサの動作原理図である。 図に示す様に静電容量式圧力センサはダイヤフラム上に配置した平行平板コン デンサの電極間距離が圧力により変化することでセンサ・キャパシタのキャパ シタンスが変化し、このキャパシタンス変化を測定し印加圧力を同定する方法 である。センサ・キャパシタの圧力感度は圧力印加前の電極間距離と圧力印加 によるダイヤフラムの変位で決まるため、ダイヤフラムの変位が小さくても圧 力印加前の電極間距離を狭くすれば圧力感度を大きく出来る。この特徴を用い 静電容量式圧力センサはシリコンピエゾ抵抗式圧力センサで測定出来ない微圧 領域にも対応でき、かつダイヤフラムはFig.1.8で示す様にアルミナセラミッ クス等の弾性率の大きい材料も使うことが出来る。この理由から静電容量式圧 力センサはダイヤフラム材料に耐食性の高い金属やセラミックス等を用いたセ ンサが多く、これらは隔膜構造を必要としない。これに反し耐食性に乏しいシ リコン・ダイヤフラムを用いた静電容量式圧カセンサは少ない。また静電容量 式圧力センサにおいてpn絶縁分離技術を用いると、この部位に生ずる寄生容量 が不可避となり大きな誤差を生じる。従ってシリコン・マイクロ・マシニング 技術を用いた静電容量式圧カセンサではFig.1.9に示す様にシリコンとパイレ ックスガラス等の絶縁物を組み合わせ寄生容量の小さな構造としている。従っ てセンサはシリコンのみでは作成出来ず、シリコン・マイクロ・マシニング技 9 術を用いた効果が半減している。さらにシリコン等の半導体ダイヤフラムに電 気伝導性を持つ接液材料を直接接触させると、接液媒体とシリコン・ダイヤフ ラムは電気的に接続され使用できない問題点を持っ。 Pressure Moving diaphragm Snbstmte Cavity Fig.1.7最も単純な形状を持つ静電容量式圧力センサの動作原理図 Fig.1.8アルミナセラミックで作製された静電容量式圧力センサの写真13) n↓ Al E E N Fig.1.9シリコンを用いた静電容量式圧力センサの構造模式図14−16) この様な技術的背景より静電容量式圧力センサには現在でも従来の金属やセ ラミックのダイヤフラムが用いられ、シリコン・マイクロ・マシニング技術を 用いたセンサは空圧機器等の一部の用途のみに留まり大きな発展に至らなかっ た。しかし近年、センサデバイスの研究において従来のシリコン・マイクロ・ マシニング技術からシリコン以外の材料に移行して行く傾向が見られるように なってきている。既に述べたが静電容量式圧力センサはセンサ構造の工夫によ り微圧から超高圧レンジまで高精度に測定できる特徴を持つ。従って静電容量 式圧力センサはシリコン以外の様々な材料に対応できる可能性があり、次世代 の圧力センサはシリコン以外の材料と静電容量式で大きく変革されると考えら れている。 10 ピエゾ抵抗式圧力センサではその信号検出にホイートストーンブリッヂ回路 が用いられるが、静電容量式圧力センサのインターフェース回路としてはFig. 1.10とFig.1.11に示す回路が用いられている。 Fig.1.10の三角波タイミング発振回路は反転積分器の積分キャパシタをセン サ・キャパシタで置き換え、センサのキャパシタンス変化により回路の発振周 波数が変化することを基本原理としている。従ってセンサのキャパシタンス変 化を固定した周波数で測定できず、またセンサに寄生する等価直列抵抗と等価 並列抵抗の変動による影響を直接受ける欠点を持つ。さらに高インピーダン ス・ノードとなる演算増幅器の反転入力端子に注入されたノイズは回路の発振 周波数を乱し、これを効果的に除去することが出来ない欠点も持っ。 +VREF Cswll。.v.。 φ1◎→ゆ Csw12..響。● ㎞ v、CX v。ur c。mparatorl S Qφ2 φ1 Csw21。.●.亀 Csw22 e.v.噂 一VREF Fig.1.10三角波タイミング発振回路を応用したインターフェー・一一ス回路 Fig.1.11は印加圧力に対し静電容量が増加するキャパシタCxと減少するキ ャパシタCYを持つセンサに対し用いられる回路である。この回路の動作原理は 基準電圧+VREFに接続された抵抗Rl、 R2、 R3、 R4を流れる直流電流と、ダイ オードDlとD4を経由して2つのセンサ・キャパシタに流れる電流の和が等しく なるように正弦波発振器からの出力信号の振幅を帰還制御する。この帰還制御 により2つのセンサ・キャパシタに流れる電流の和は圧力によりセンサ・キャ パシタンスが変化しても一定に保たれる。またセンサに印加した正弦波電圧の 半周期はダイオードD2とD3を経由して2つのセンサ・キャパシタに電流を流す。 1 11 この2っの電流の流れる方向は逆方向であるため2つのセンサ・キャパシタに 流れる電流の差が抵抗VR1に流れ2つのセンサのキャパシタンスに比例した電 圧出力を図の電圧Vgに生じる。この様に2つのセンサ・キャパシタに流れる電 流の和が一定に保たれた状態で2つのセンサ・キャパシタに流れる電流の差を 検出することによってキャパシタ間の差とその和による比を求める2象限レシ オメトリック信号処理とできる。 この回路は用いる素子を全て理想素子と仮定しても非線形性を持ち、加えて ダイオードの電流・電圧特性も非線形性を生み出す。またセンサ・キャパシタ と並列に存在する寄生容量の影響を避けられず、センサのキャパシタンスが数 pF以下と小さい場合には高精度検出は困難である。 静電容量式圧力センサのインターフェース回路方式には、上記に述べたセン サの静電容量変化を周波数の変化に変換して測定する方法や電圧振幅の変化に 変i換して測定する方法以外に、矩形波発振回路の発振波形におけるデューティ 比の変化やパルス密度の変化等も提案されている17)。 しかし実際に実用化されている回路はFig.1.10とFig.1.11を基礎とした方 式が主であり、他の方式は実用化されていない。 +VREF a n2 Co C 。ρ言%Cstl VR1 b Vlo c .eeq。 Csn V7 3 n3 d T Fig.1.11リング復調器を応用したインターフェース回路6) 12 LL4隔膜構造の利点と問題点 隔膜構造とは、主にシv・…dLルダイヤフラムとも呼ばれる隔膜と、シールダイヤ フラムからセンサに圧力を伝達する媒体である封入液からなる。隔膜構造を持 つ圧力センサの構造を模式的に表すとFig。1.12となる。 図のシールダイヤフラムの役割は耐食性に乏しいシリコン材料の欠点を補う ことや接液面を平坦化し液体の溜まりを減らし、過大圧の印加に対しセンサの ダイヤフラムが破壊してもシールダイヤフラムが底面に着底することで測定媒 体の噴出を防いでいる。またセンサ素子やインターフェース回路の熱的な保護 は図の放熱及び断熱部分と記述した封入液が入った長い配管を用いて行ってい る。さらに図の防爆隙間とは、製品ケー一ス内に進入した可燃性ガスが何らかの 原因で爆発することで製品ケースの内圧が上昇しセンサのダイヤフラムとシー・一・・ ルダイヤフラムが破壊した場合に、この経路から製品内部のエネルギーが製品 外部にある可燃性ガスを引火させないための機構である。 この隔膜構造を用いることで得られる利点をTable 1.3に示す2)。 しかし隔膜構造はTable 1.3で示す利点とは反面、小型・軽量・低価格化へ の障害となっており問題点をTable 1.4に示す2)。 特に隔膜構造の大きな問題点は圧力レンジが低圧になればなるほど温度特性 の低減のため隔膜構造が大きくなり、隔膜構造が大型化するとシV…一・・ルダイヤフ ラムへ印加される圧力が等分布加重と見なせなくなる水頭圧の影響やシールダ イヤフラム面内の温度分布等の二次的な問題も生まれる。また隔膜構造に用い られる封入液は全ての要求に対応できない。従って測定温度範囲・応答速度・ 人体に対する安全性・爆発性等の要求仕様に対して重要性や用途に合わせて封 入液を選んでいる。 これが工業用圧力伝送器の少量・多品種化を生み出す原因となっており高価 なものにしている要因でもある。例えば食品用の封入液ではエチレングリコー ルや水が使用され、高濃度酸素等の爆発性雰囲気ではダイフロイル等の不燃性 液が用いられる2)。 13 封入オイル 隔膜霊属ダイヤ7ラム Fig.1.12隔膜構造を持つ圧力センサの構造模式図 Table 1.3隔膜構造の利点 項目 備考 利点 1 腐食性流体への適用 センサ素子の耐食性が低いため、高耐食性金属ダイアフラムを pいて対応する。 2 粘度の高い液体への適用 センサ素子とその周囲の形状が凸凹であるため液溜りができ 驕Bこれをシールダイアフラムで平坦にしている。 3 凝固し易い液体への適用 項目2と同じ理由でシールダイアフラムを用いる。 4 過大圧への適用 5 脈動圧への適用 6 7 食品や医薬品への適用 爆発性雰囲気への適用 8 高温流体への適用 シールダイアフラムによるストッパ構造の形成による過大圧防 機構。 シールダイアフラムと封入液によるダンピング構造 項目2と同じ理由でシールダイアフラムを用いる。 シールダイアフラムと封入液、さらに、防爆構造の採用。 シールダイアフラムと封入液による断熱溝造によるセンサ素子 フ保護。 14 Table 1.4隔膜構造の問題点 問題点 項目 1 封入液の体積膨張率とシールダイアフラムの曲げ剛性から大きな温度特性を持つ。温度特性を ャさくするためにシールダイアフラムを大きくするとサイズを大きくし、また、シールダイア tラムを薄くすると耐食性が低下する。 2 上記問題と同様な理由により圧力レンジが小さくなればなるほど隔膜構造は大型化する。 3 封入液の部分加熱、例えば、日光が当る部分と影になる部分が存在すると温度特性を補償する アとすらできない。 4 封入液の液位より水頭圧の影響が出る。シールダイアフラムの取り付け姿勢が動方向に対し ト平行であるとシールダイアフラムに印加される水頭圧が等部分過重で無くなり分布圧力が印 チされオフセット誤差のみではなくなる。 5 封入液は全ての用途に適用できる材料が存在せず用途に応じて変える必要がある。 6 7 薄いシールダイアフラムは外部からの集中過重で損傷したり変形し計器の損傷やドリフトにつ ネがる。 シールダイアフラムを透過した水素ガスは封入液に多量に溶解し、この溶解した水素ガス ヘ急激な温度上昇によりガスとして析出しシールダイアフラムを膨らませドリフトや破壊 ノ至る。 8 封入液が何らかの原因で漏れるとドリフトになり、さらに、封入液がプロセス媒体に混入する ニ大きな事故となる。例えば、純水製造装置では隔膜構造の圧力センサを使用することはな 「。 9 10 封入液に溶解したガス、封入液が劣化して析出してきたガス、その容器から析出するガスは全 トドリフトとなる。 計器が設置されている系の振動はシールダイアフラムと封入液の自重で振動し影響を受け易 「。 11 高温で使用できる封入液は高粘度のため低温で使用出来ない。よって使用温度範囲が狭くな 驕B ’ 12 高温用に特化した封入液でも200℃程度が上限であり低温用に特化した封入液でも一70℃程度が コ限である。 13 粘度の高い液体や凝固し易い液体はシールダイヤフラムに付着し曲げ剛性を大きくする。これ ヘ計器の温度特性を悪1ヒさせる原因となる。 15 1。2本研究の目的と論文構成 隔膜:構造は工業用圧力伝送器において不可避とされ、それに付随する問題点 は材料や構造を用途により使い分けることで対応してきた。しかし隔膜構造を 持つ工業用圧力伝送器は微圧レンジにおける高精度化を不可能とした。 本研究は隔膜構造の利点を損なわずに、微圧領域の圧力を正確に測定できる 隔膜フリー構造の静電容量式圧力センサ実現することを目的とし、そのために 必要なセンサ製造技術、信号処理技法を開発した。 本論文は、その成果をまとめたものであり、全5章から成る。 第1章では工業用途における圧力計測の重要性を述べ、抵抗式圧力センサと 静電容量式圧力センサの歴史を紹介した。その後、研究の背景となる工業用圧 力伝送器に用いられている隔膜構造の利点と問題点を述べた。 第2章では工業用圧力伝送器から隔膜構造を排除するために必要な仕様を抽 出し、隔膜フリー・センサに必要なセンサ材料を選定した経緯を述べた。最適 なセンサ材料にサファイアが選定され、サファイアの材料物性を紹介した。特 にサファイアはシリコンと比較して弾性率が大きいため歪みを測定する抵抗式 では圧力感度が小さくなる問題点を持っ。そこで弾性率に直接影響されない静 電容量式を選定した。また静電容量式は機械センサであるためセンサ構成材料 を工夫すると抵抗式では成し得ない高温での測定が可能とできた。隔膜フリ ー・ Zンサは材料にサファイア、圧力検出原理に静電容量式の2つを組み合わ せ、はじめて成し得ることを述べた。サファイアを用いた静電容量式圧力セン サの設計では、サファイアの熱膨張率や弾性率に強い結晶異方性を持つため、 これを考慮した設計手法を必要とし、本研究では新たに熱膨張率と弾性率が3 軸方向で異なる板の微小曲げ式を用い圧力・静電容量の関係式を作成し、その 導出過程も述べた。実際のセンサの設計では上記の圧力・静電容量の関係式を 用い概略設計を行い、電極膜の形状の微調整には有限要素法にて設計した。サ ファイア静電容量式圧力センサの製造技術とそのプロセスでは、従来から研究 事例の少ない材料であるサファイアを用いたため多くの開発項目があった。特 にサファイア同士の直接接合では接合前に予め表面を活性化し、活性面が消滅 しない真空中で重ね合わせ、ホット・プレスにて接合した。 16 またセンサのマウンティング(=ダイボンドorダイアタッチ)では面粗度 の大きい低価格なサファイア板とセンサを接合するために接合中に酸化アルミ ニウムと酸化ホウ素によるブリットを形成するTransient Liquid Phase Bonding法を新たに開発した。本論文では上記2項目を抽出し詳しく解説した。 第3章では前章で述べたセンサの圧力のみで変化した微小な静電容量を測定 する回路に付いて述べた。単結晶サファイアに対するマイクロ・マシニング技 術で作られたセンサの圧力による静電容量変化は極めて小さく、温度・湿度に よっても変化した。この温度特性と湿度特性は新たに開発した差動静電容量・ 電圧変換回路である電荷増幅器と、これを用いた4象限レシオメトリック信一号 処理により大幅に相殺できた。さらに検波回路では同期検波による位相分離技 術を採用しセンサに寄生する抵抗成分と容量成分が分離できた。この位相分離 技術は湿度特性の改善や、センサの温度特性を悪化させる原因となる電極膜を 薄く出来た。上記の各技術は回路の各ブロック毎に目標仕様を設け回路構造 (・=方法)と効果の確認を行う形式で記述した。 第4章では第2章のセンサと第3章の信号処理回路を組み合わせ工業用圧力 伝送器とする方法を述べ、その組み合わせた性能を評価した。隔膜フリー・セ ンサでは高温の接液媒体から信号処理回路部へ流入する熱を制限する機構を持 たない。このためセンサと信号処理回路を結ぶ電気信号の配線を長くすること により熱的に隔離する方法を選択した。このために配線の寄生容量の影響を電 荷増幅器の性能により除去し、4象限レシオメトリック信号処理により相殺し た。また長い配線には外部からの電磁界ノイズに対する耐性を向上させるため に4線式シールド・ワイヤーを用いた。工業用圧力伝送器に欠かせない防爆性 能はセンサ部を本質安全防爆とし信号処理回路部を耐圧防爆とした。従ってセ ンサと信号処理回路の受け渡しはエネルギー制限回路を必要とし、これが測定 誤差に影響しない方法を考案した。最後に、開発した全ての技術を組み合わせ 工業用圧力伝送器として性能を評価した内容を述べる。 第5章では本研究によって得られた成果をまとめると共に、将来展望を述べ た。 17 参考文献 1) 山香 英三 編著、ハイテクノロジ・センサ、共立出版、第3章 圧力 センサ、1986年 2) 松山 裕、実用 工業計測、日刊工業新聞社、第4章 圧力測定、1999 年 3) 計測管理協会 編、圧力の計測、コロナ社、第1章 概説、1987年 4) トランジスタ技術編集部、センサ・インターフェー一シングNo.2メカト ロニクス・センサ活用編、CQ出版社、第2部 機械周辺でのセンサ活用、 1983年 5) 計測管理協会 編、圧力の計測、コmナ社、第6章 産業計測における 圧力測定要項、1987年 6) 日本電気計測器工業会 編、差圧伝送器の正しい使い方、日本工業出版、 第1章 差圧伝送器の概論と第2章 差圧流量計、1986年 7) 藤倉電線技報、”半導体圧力センサ センサ特性および温度補償”、第66 号、 p.9∼24、 9.月、 (1983) 8) 藤倉電線技報、 “半導体圧カセンサの温度特性”、第69号、p.41∼57、 6月、 (1985) 9) 一ノ瀬 昇、小林 哲二、センサとその応用、総合電子出版社、第1章 圧力センサ、1980年 10) NOVA SENSOR,”Silicon Sensors and Microstructures”,(1988) 11)藤倉電線技報、“半導体圧カセンサ 総論”、第66号、p.1∼8、9月、 (1983) 12) 藤倉電線技報、 “半導体圧力センサ 組立技術”、第66号、P.25∼31、9 月、(1983) 13) 長野計器カタログ、“圧力センサ応用製品セレクションガイド”より 14) Tomio Nagata,Hiroaki Terabe,Sirou Kuwahara and Sizuki Sakurai,うりDigital Compensated Capacitive Pressure Sensor Using CMOS Technology for Low Pressure Me as urements”,IEEE, P.308− 311 , (1991) 15) 江刺 正喜、庄子 習一、松本 佳宣、古田 一吉、 “カテー・・テル用容 量型圧力センサ”、電子情報通信学会論文誌 C−H、Vol. J73−C−・II、 No.2、 pp.91−98、(1990) 18 16) 江刺 正喜、 “集積化半導体圧力センサの製造技術”、新技術開発事業 団報、第477号、(1988) ユ7) X.J.Li and G. C. M Meijer,”A Novel Smart Resistive−Capacitive Angular PSD”,∬EE,IMTC/94,Vo1.1,pp308−311,(1994) 19 2。1はじめに 第1章で述べた様に隔膜構造フリーセンサを形成させるためには、従来のセ ンサ素子とそのパッケ・・一一…ジに要求される要求性能とは比較にならないほど多く の高度な技術を必要とする。 隔膜構造フリーセンサに要求される性能をTable 2.1に示す。 T曲鑑e2.1隔膜構造フリーセンサに要求される性能 化学的性能 項目 1 2 3 4 強酸や強アルカリ等の腐食性媒体による腐食によりダイヤフラムの曲げ剛性の変化が、10年間 ナ±0.1%FS以下であること。 強酸や強アルカリ等の腐食性媒体による腐食により耐圧や気密性の初期性能が、10年間維持で ォること。 強酸や強アルカリ等の腐食性媒体による腐食により接液媒体を汚染しないこと。 接液媒体に生物に有害な毒物を排出したり、センサと接液媒体の相互反応による毒物を生み出 ウないこと。 5 水素ガスの透過による基準圧力室の圧力変動や脆化による破壊をしないこと。 6 耐熱性や安全性の理由から難撚性であれ可燃性物質、例えば炭化物セラミックス、窒化物セラ ックス、ダイヤモンド、樹脂等は使用できない。 機械的性能 項目 1 測定媒体中に存在する固体成分により傷が付かないこと。 2 3 接液媒体が溜まらない様な平坦な構造とする。 爆発性を持つ媒体にも使用できる耐圧防爆性能を持つこと。 4 圧力測定範囲は、10Pa∼100型Paの広い範囲に対応できること。 5 差圧センサは、高いCMRR、即ち優れた静圧特性を持つこと。 6 圧力ヒステリシス特性は、測定限界以下であること。 7 繰り返し圧力特性は、連続1000万回のゼロ圧力とスパン圧力の繰り返し圧力印加後、試験前後 フ変化が±0.1%FS以下であること。 8 15MPa以下の圧力レンジのセンサの過大圧特性は全て15MPa以上とし、15MPa以上の圧力レンジ フセンサの過大圧特性は全てスパンの1.5倍を確保すること。 9 衝撃圧特性は、繰り返し圧力試験機を圧電型にし、これに耐えること。 10 温度ヒステリシス特性は、±0.1%FS以下であること。 11 熱衝撃特性は、温度差∠100℃の液相条件で100回の熱衝撃試験の前後で±0.1%FS以下の変動 ナあること。 20 電気的性能 項目 1 水道水、強酸、強アルカリ等の電気伝導性媒体とセンサの間に生じた強電界により絶縁破壊し ネいこと。 2 爆発性を持つ媒体にも使用できる耐圧防爆性能を持っこと。 3 圧力測定範囲は、10Pa∼100MPaの広い範囲に対応できること。 圧力変動に対する63%応答速度は、最大100msec以下であること。 4 熱的性能 1 使用温度範囲は、−100℃∼500℃の広い範囲で使用できること。 項目 2 温度ヒステリシス特性は、±0.1%FS以下であること。 熱衝撃特性は、温度差∠100℃の液相条件で100回の熱衝撃試験の前後で±0.1%FS以下の変 3 動であること。 隔膜構造フリーセンサでなくても圧力センサにおけるパッケージは他のセン サと比較して極めて高度な技術を必要とし圧カセンサの性能はパッケージで決 まってしまう。よって一般的にセンサ素子とそのパッケージは分離して呼ばれ ることが多い。しかし本論文ではインターフェイス回路を主眼としているため センサ素子とそのパッケージを含めセンサと呼ぶこととする。Table 2.1より 解かるように隔膜構造フリーセンサでは第1に高い耐食性が要求され、これは センサ素子のみならずパッケージ材料や接合部分も同様である。そこで本研究 ではTable 2.1に示す性能を全て満足できるセンサ素子材料を調査し最も適し た材料としてサファイアを見出した。現在、このサファイアを用いたマイク ロ・マシニング技術を研究し小型の静電容量式圧カセンサ素子を作成できるよ うになった。またパッケ・・一・・ジ材料もTable 2.1に示す性能を満足しなければな らずベルヌーイ法で製造された安価なサファイア板を流用することにした。し かし安価なサファイア板は面が粗く、かっ平坦度にも劣りセンサ素子のために 開発した直接接合技術を用いることができないレ2)。さらに圧カセンサは最終 的に配管と接続するため金属コネクタを必要とし、安価なサファイア板と耐食 性金属で作られた金属コネクタとの耐食性を持つ接合技術が必要となる。 この接合には従来に無い新たな低温拡散接合を考案し研究した。またセンサ 素子と安価なサファイア板との接合も従来に無い新たな低温拡散接合を考案し 研究した。この接合技術は従来の接合技術と全く異なり、ろう付や拡散接合に おいて最高難i度の技術であるTransient Liquid Phase Bonding法(以後TLP法 と呼ぶ。)またはActive Diffusion Bonding法と呼ばれる活性化拡散接合技術 における接合材料である金属を無機材料である酸化アルミニウムに置換える従 来に無い新たな方法を考案した3)。これは接合時のある一定時間だけ反応性の 高い、即ち活性な液相を固相中に生じ、見かけ上この時の組織は液相焼結法に 21 見える。その後、液相は化学反応により固相へと消滅して行くTLP法となるこ とより1‘固液間反応接合法”と名付けた。これは接合面に接着剤となる液体を 塗布し接合すると接着剤が微量な不純物を含んだ多結晶サファイアとなり接合 する技術である。 この章ではセンサ素子材料であるサファイア材料、サファイアを用いた静電 容量式センサの設計、及びパッケージのプロセスフローを述べる。 22 2.2センサ素子材料 センサ素子やパッケージの接液部の大部分を占めるサファイアは、別名“鋼 玉”および“コランダム”と呼ばれ、単結晶の“α一アルミナ(A1203)”のこ とであり宝石用に用いられる着色用に不純物を含んだものと工業用に用いられ る不純物を含まない無色透明なものとに分類できる。工業用サファイアは結晶 欠陥が極めて少なく、広い面積に亘り結晶粒界とその粒界部分に偏析物が存在 しない。よって、このような純粋な結晶は天然に産出することはほとんどなく 人工的に液相成長にて合成される。このため、工業用サファイアはウエハー状 の広い面積で用いられる用途に対応できるようになりsos(Silicon on Sapphire)技術等に多く使用されてきているため低価格化と大口径化が進んで いる4)。 サファイアの結晶系は菱面体晶系に属するが、一般的には六方晶で近似され、 この結晶系はコランダム(Corundum)型と呼ばれている。またサファイアの格 子定数は、a=4.763A、 c=13.003Aである5)。 不純物を含まないor 一アルミナの単結晶体は“ホワイトサファイア”と呼ばれ、 多結晶体を“高純度アルミナセラミックス”と呼び、このホワイトサファイア に0.01wt%∼3wt%程度のCr203で着色したものは“ルビー”と呼ばれ、酸化鉄、 TiO2、 NiO等で着色したものをそれぞれ“ブルーサファイア”、“イエロ「サ ファイア”と呼んでいる。β一アルミナは純粋なアルミナ結晶の多形の一種では なく、組成はNa20(or K20)・11Al203の多量にアルカリ金属を含んだ低純度 なアルミナである5)。 Table 2.2にアルミナ結晶の多形を示す5樋9)。この様にアルミナは同じ組成比 で現在知られているだけでも8種類存在する。この材料中で通常の製造方法で は不安定で簡単に合成できないものもあり全ての材料の詳細まで明確に把握さ れてはいない。しかし、現在知られている材料に対する熱力学的特性である生 成エンタルピーと生成ギブスエネルギーを計算すると全ての温度範囲でα一ア ルミナが最も低いエネルギーレベルを示すため、1気圧下において全ての温度 範囲で全てのアルミナはα一アルミナに転位しようとしていることが解る。こ のためα一アルミナ以外は中間アルミナと呼ばれている。即ち、α一アルミナ がアルミナ中最も安定な材料である。また、他のアルミナは水和物を形成する 傾向を持ち脱水状態により著しく耐食性が変化する。 23 Table 2.2単結晶アルミナの多形5”13) アルミナの結晶 @ 形態 ρ一アルミナ 一アルミナ 一アルミナ δ一アルミナ 一アルミナ κ一アルミナ θ一アルミナ α一アルミナ 化学式 格子定数(A) 晶系 比重(9/cの AlO3 A10 A10 A1203 A103 A1203 A10 A1203 正方晶 立方晶 斜方晶 等軸 斜方晶 単斜晶 六方晶 a=8.01,c=7.73 3.2 a=7.90∼7.95 2.5∼3.6 a=4.25,b=12.75, c=10.21 3.2 a=7.95 3 a=8.49,b=12.73, c=13.39 3.1∼3.3 3.4∼3.6 3.95∼4.02 a=5.63 b=・2.95 c=11.86 a=4.763,c=13.003 Fig.2.1に単結晶サファイアの結晶構造を示す。この構造を持つ他の材料に、 Fe203、 Cr203、 Ti203、 V203などがある。図に示す様に陰イオンである酸素 がhcpの位置にあり、陽イオンであるアルミニウムが6配位位置の2/3を占める。 Fig.2.1より単結晶サファイアは、 c軸平行とc軸垂直のみの結晶異方性を持 つことが解る。 ● ,②・…・o. ○ .②・一一 :e−・ ?A ● .9−一 @i霧:至:含iか弓 F9一豊. f馬 ㊧豊一e: ・… O・・…G馬 黶E 0.1璽L②・ す一G:ll:−G:iかφ● ’e−・《γ ii嚢i τ一一e: u「o:9≒ o⊆L │一一・− f馬 vLG:」』G:ゑα」Lorβ一一一●:9−一一●:δ一一〇一豊一 号重書:1 』Le:か li萎i s」o旧 キ 一G: F9一 :1 1二盤暑 :藝 :9− ≒αo』L Fo一 …萎li Do−一愈や o・・…e馬 G卜⊆Le: 。■■■■ O.豊.e: ■■一目■ :ε一一 :9−−e: F9一豊一α ■■一一一 一eり○ ’e−−OP’ 赤丸はアルミニウムイオン、黒丸は空孔 Fig.2.1単結晶サファイアの結晶構造5−13) Fig.2.2はサファイアを底面、即ちc面から見た時の原子配列でありサファ イアの結晶中で最も緻密で結合エネルギーが大きく耐食性に富む。逆にA面が 最も疎なる面でありC軸方向の結合エネルギーも小さく耐食性も乏しい。もし も完全なC面をセンサ表面に形成できれば理想的であるが、これは加工精度か 24 ら不可能である。現在の加工精度を用いてセンサ表面にC面を採用するとC面 であるテラスとA面であるステップの連続体となってしまいステップである弱 いA面部分から雲母や黒鉛のように剥れ侵食される。よって実際にはC面が最 も耐食性に劣る面である。 110io】 IO 110】 一一 【1100】 A2【1210】 大きい青丸は酸素イオン、小さい赤丸はアルミニウムイオン、黒丸は空孔 Fig.2.2 C面からみたサファイアの原子配列5−13) Fig。2.3は市販されている単結晶サファイアの代表的な面方位を示している。 C−Surface(0001) C−axis Ai−axi A−Surface(1120) R−Surface(1102) Fig.2.3単結晶サファイアの代表的な面方位5”13) 25 Table 2.3主なセンサ構成材料に対する水道水による耐食性1’14薗22) 材料 単結晶シリコン 人工石英(Siら) エッチングレート A/day 2700 1700 窒化珪素 0 99.6%アルミナ 0 単結晶サファイア 0 Table 2.4単結晶サファイアに対する強酸と強アルカリによる耐食性1’14脚22) 単位時間と単位面積 エッチング 魔スりの重量減量 環境条件 @mg/c㎡・day @レート @A/day HCI、濃度35%、温度20°C 0.0002 5 欄03、濃度35%、温度20°C 2 王水(HCI;州q=3:1)、温度60°C 0.00008 0 0 HF、濃度46%、温度60°C 0,004 101 (HF、濃度40%)+(撒q、濃度10%)、温度60°C 0,004 101 H3PO4、濃度60%、温度100°C 0.0009 23 H2SO4、濃度95%、温度100°C 0.0002 5 闘aOH、濃度30%、温度100°C 0.0007 18 Table 2.3は、センサに用いられる主な材料の表面に樹脂を半分塗り、約8 5℃の水道水に1週間浸漬した後に樹脂を剥離し、水道水から樹脂で保護され た部分と水道水に触れていた部分の段差を測定し、それを1日当たりのエッチ ング・レートに換算した結果である。シリコンとその酸化物は両者共に蒸留処 理した純水で殆ど腐食されないが、水道水の消毒に用いられる次亜塩素酸ナト リウム(NaC10)や次亜塩素酸カルシウム(Ca(C10)2)に著しく腐食される。 Table 2.4は、単結晶サファイア板を強酸と強アルカリに浸漬し、その前後 で変化した重量を測定した結果である。単結晶サファイアは高濃度で高温のフ ッ酸水溶液に微量に腐食される。これはAl203よりもAIF3が低いエネルギーレ ベルであり、AIF3は微量ながら電解イオンとして水に溶解するためである。 Table 2.5単結晶サファイアの高温すべりによる塑性変形特性5’23圏24) 開始温度(℃) 底面すべり(C面すべり) >900 柱面すべり >2000 菱面すべり >1200 26 Table 2.5は単結晶サファイアの高温すべりによる塑性変形特性である。単 結晶サファイアの塑性変形特性はシリコンのそれよりも遥かに優れる。しかし 最も低温ですべる面はC面、即ちC軸方向の結合であり、これは結晶構造から 容易に推察出来ることである。よって塑性変形のみから見た圧力センサはC軸 方向へ働くせん断応力を最小にする必要がある。これはセンサ表面をC面及び R面基板を選択することを指し、C面は既に述べた耐食性の低さからR面が最 適であると判断しR面基板を用いて作成している。ただしC面基板以外の面方 位を用いるとサファイアの強い異方性より機械加工、例えば穴開け加工やダイ シング等の難度が上がり、さらにセンサの温度特性等にも影響する。 Table 2.6サファイアの主な特性5’14−21) 機械的性質 密度(kg/♂) 3.97×103 モース硬度 9 ビツカース硬度(MPa) C面:2.15×104 `面:2.25×104 q面:2.35×104 C面:4.7×105 弾性係数(MPa) `面:7.0×105 q面:4.0×105 剛性率(MPa)※ 1.5∼1.9×1(戸 引っ張り強さ(MPa) 2250 2950 690 圧縮強さ(MPa) 抗折強度(MPa) ※剛性率は、ずれ弾性率及びせん断弾性率とも呼ばれる。 2053 融点(℃) 比熱(kJ/kg・K)(at 25℃) 0.75 C軸平行 q.T.:53 熱的性質 熱膨張係数(1/℃)×1σ7 T0℃:67 P000℃:90 C軸垂直 q.T.:45 T0℃:50 P000℃:83 熱伝導率(W/m・K)(at 25℃) 42 0.02以下 輻射率 iλ=2.6∼3.7μm,880℃) R.T.:1014∼1016 T00℃:109∼1011 比抵抗(Ω・m) 電気的特性 絶縁耐力(kV/m) 比誘電率 @1400℃:107 4 S.8×10 i103∼101°Hz25℃) C軸平行:11.5 b軸垂直:9.3 誘電損失係数 10−4以下 27 光学的性質 No=1.768 屈折率 me=1.760 光透過率 ∼ サファイアの主な特性をTable 2.6に示す。この表に記されたサファイアの 特性は隔膜構造フリーセンサにおける要求性能から見たセンサの構成材料とし てシリコンやダイヤモンドを含めた全ての材料を遥かに凌ぐことが解る。 10 9 8 ’67 三6 譲1 鶴 篠2 1 0 −100 200 500 800 1100 1400 1700 温度(°C) Fig.2.6サファイアの熱膨張係数の温度依存性5’14’25) 次にセンサの温度特性等に強く影響するサファイアの線膨張率の結晶異方性 について述べる。Fig.2.6はサファイアの線膨張率の温度依存性をc面平行と C面垂直の結晶異方性による差を表している。図の室温付近の線膨張係数の差 である約1×10“6の値は室温付近の陽極接合用ガラスの線膨張係数である約3.5 ×10’6とシリコンの室温付近の線膨張係数である約2.5×10−6との差とほぼ等価 である。しかしシリコンとサファイアのヤング率の比が4∼5倍程度あり、さ らにシリコンと陽極接合用ガラスのヤング率の比が2倍程度ある。よって仮に サファイア同士を何らかの方法で接合してもC面平行とC面垂直の材料を接合 した場合に発生する接合応力は、他の接合条件である温度や形状等を全く等し いと仮定した場合におけるシリコンと陽極接合用ガラスの接合応力の8∼10倍 程度の応力を発生させる。この様にサファイアのC面平行とC面垂直の線膨張 率の結晶異方性は深刻な問題であり、これを克服するために結晶方位を合わせ た直i接接合技術を研究し、この問題を解決した。 28 2.3センサの設計 2.3.1センサ素子の基本構造 サファイア静電容量式圧力センサの動作原理をFig.2.7に示す。差圧構造、即 ち相補型静電容量式センサ以外でレシオメトリック信号処理を行うためには図 に示す圧力に感度を持つ感圧容量Cxと圧力に感度を持たない基準容量CRの2 つのキャパシタを必要とする。この図は電極板のみを抽出して表しており圧力 の印加により感圧容量Cxの電極間距離が減少し、この電極間距離の減少により センサのキャパシタンスが増加する。 Mtrving up p er−electrede fbr F加血pp er ale血ode for 廿Le s日n血g capacit皿Cx tlte r d【日r日nc e capaci加r C盈 CaVity→ (a)圧力印加前のセンサキャパシタの電極間距離 Pressure (b)圧力印加後のセンサキャパシタの電極間距離 Fig.2.7レシオメトリック信号処理に適したセンサ素子の動作原理 この電極の間の空間をキャビティ(Cavity)と呼び、一般的に隔膜構造を持つ 静電容量式圧力センサではキャビティにシリコーン絶縁オイルが封入され大き なコンプライアンスを持つ金属隔膜ダイヤフラムで隔離・保護されている。こ のため隔膜構造を持つ静電容量式圧力センサはキャビティ内の誘電率の変動を 無視でき、さらに外気の水分による結露の心配もいらない。しかし隔膜構造ブ リー・センサでゲージ圧を測定する場合、外気がキャビティ内に導入されるた め誘電率の変動や結露の問題を考慮しなければならない問題を持つ。 Fig.2.7の基本コンセプトに準拠し、かつ最も構造が単純で作りやすいセンサ 素子構造としてFig.2.8の構造を選択した。このセンサの感圧容量Cxは印加圧 29 力によりサファイアダイヤフラムが擁み電極間距離が減少し、それによりセン サのキャパシタンスを増加させ、そのキャパシタンスの変化量から印加圧力を 同定することを原理としている。また基準容量CRは最も擁み難いダイヤフラム の外周部に配置することで圧力感度を小さくしている。 前項で述べた用にサファイアダイヤフラムとサファイア基板は結晶方位を可 能な限り合わせ、ほぼ同一材料と見なせる状態で直接接合している。このため センサ素子内部の線膨張率の差を持つ材料は電極膜のみとなり、電極膜はサフ ァイアと最も整合性の高い、即ち線膨張率の差が小さいニオブが選ばれた23’26)。 しかし電極膜は外気に曝され高耐食性材料であるニオブでも酸化の問題が顕 著に表れ、含水雰囲気で形成された自然酸化膜、即ち金属酸化物は一般的に親 水性となり易く吸着水分の問題が顕著となった。よってニオブの表面に耐食保 護膜と疎水膜、即ち擾水性膜の役割として、ニオブほどでないがサファイアと 比較的線膨張率の差が小さい薄い白金をニオブ上に成膜し保護した。 Fig.2.8センサ素子の断面構造 30 2。3。2基本設計 (1)測定圧力レンジ 目標とした圧力レンジは、隔膜構造を持ち測定精度が0.1%FSの最高精度級 の工業用圧力伝送器で作ることが可能な下限値である約50KPaの1/10、即ち 5KPa(≒500mmH20)とした。 この理由は隔膜構造を持つ工業用圧力伝送器で作り得ない圧力レンジを選ぶ ことで隔膜構造フリー・センサの特徴、即ち小型、低価格、高精度の特性がよ り顕著に表れるからである。 (2)設計規則 次にこの微圧センサの設計ルールを述べる。ダイヤフラムの厚さはセンサ素 子の小型化等を考慮すると可能な限り薄い方が好ましい。しかしセンサ素子の 製造工程の制約である電極膜の形成工程や基板との直接接合工程で必要とされ る取り扱い上の強度を考慮して50×10°6mとした。 また基板側の電極(以下、下部電極と呼ぶ。)は、感圧ダイヤフラム上の電 極(以下、上部電極と呼ぶ。)よりも面積を小さくした。これは信号処理回路 の低インピーダンス・ノードに接続される上部電極で高インピーダンス・ノー ドに接続される下部電極を静電シールドし印加圧力媒体の浮動電位が下部電極 に伝わり信号処理回路の不平衡ドリフト電圧となるのを防止するためである。 センサのキャビティ部のギャップを狭くすると圧力感度が増加しセンサ素子 が小型にできる。しかしギャップを広くしダイヤフラム面積を大きくしたセン サはキャビティ部に侵入したゴミやカビ等の影響に不感となり高精度化できる。 この矛盾を解決するために実際にセンサを製作し、そのセンサを屋外における 暴露試験によりドリフトを測定しキャビティ部のギャップの最小値を求めた27)。 この結果ギャップの最小値は1×10葡6mと解り、さらに安全性を考慮して3× 10’6mとした。この様にセンサのキャビティ部のギャップは最大で3×IO”6mで あり。ダイヤフラムの厚さは最小で50×10”6mである。従って、ダイヤフラム が基板に接する、即ちダイヤフラムが着底した状態でも、ダイヤフラムの最大 変位である中心部の携みはダイヤフラムの厚さの1/10以下であり十分な微少擁 み、即ち線形領域にある。 31 (3)圧力と静電容量の関係 次に、上記条件を用いサファイア静電容量式圧力センサの印加圧力とキャパ シタンスの関係、即ち圧力・静電容量の関係式を求めた。 最初に印加圧力とダイヤフラムの擁みの関係は、センサの構造上ダイヤフラ ムが全周を完全拘束された円板と見なせ、またダイヤフラムへの印加圧力は等 分布加重であり、さらにダイヤフラムの擁みは微少擁み領域で使用されるため 次式で近似できる28)。 ナ(R2−x2)2 (2・1) 研=Px ここで、 α= ワo一の (2・2) であり、Wは中心からの距離xにおけるダイヤフラムの擁み、 Pは印加圧力、 E とッはそれぞれサファイアの等価ヤング率及びボアソン比、tはダイヤフラム の厚さ、Rはダイヤフラムの半径、 xは中心からの距離である。 式(2.1)はサファイアの結晶異方性による線膨張率やヤング率の差が考慮され ていない。第2章2節で述べたように圧力センサ用に最も適しているサファイ アの結晶方位はR面であるのでダイヤフラムの線膨張率とヤング率はダイヤフ ラム面内で直交異方性を持ち、さらにキャビティのギャップの線膨張率も異な る値を持っ。ヒのことから室温で円形のダイヤフラムは温度が変化すると楕円 板となる。直交異方性板の印加圧力と擁みの関係を求めるための境界条件は楕 円板を表す下記の式となる。 2 2 き+渉=・ (2・3) ここで、aは楕円板のx方向の半径、 bはy方向の半径である。 楕円板のx方向の半径を基準に取りこれをRとしy方向の半径は半径Rの1/K 倍の大きさとし書きかえると下記の式となる。 2 2 N+⊥=。 1 R2 R2 (2.4) 戸 32 また微小擁み領域における直交異方性楕円板でのフックの法則は式(2.5)∼式 (2.7)となる。 σx=Ex xεx+E×Sy (2・5) ゴ rt σy= Eジ×ey+E xsx (2・6) τXP=(7×7ry (2・7) ここで、σ。はX方向の応力成分、σアはy方向の応力成分、τ,ryはXとy方向のせん 断応力成分、ε。はx方向の歪み(伸び率とも呼ばれる。)成分、らはy方向の歪 み成分、rryはXとy方向のせん断歪み成分、瓦はX方向の弾性率、 Elはy方向の 弾性率、E”はx方向やy方向に受けた歪みに直交する方向に発生する歪みに対す る弾性率、EGはせん断における弾性率(剛性率とも呼ばれる。)である29)。 式(2.4)より等分布加重を印加した微小擁み領域における完全拘束された直交 異方性楕円板の擁みは式(2.8)となる。 研一 ここで、直交異方性楕円板の中心の最大擁みWMAXは式(2.9)となる。 1 R4 隔鷹Px nx瓦睡x弗ガx@+2可7 (2・9) ここで、 , t3 Fx−E・ ×li (2・1°) t t3 年E・x万 (2・11) k 3 ,, ∫E「×一一一 12〕+2x〔E・×fl〕 (2・12) FH− であり、E.’はx方向の弾性率、 Ey’はy方向の弾性率、 E”はx方向やy方向に受 けた歪みに直交する方向に発生する歪みに対する弾性率、EGはz方向の弾性率 (せん断弾性率とも呼ばれる。)である。 33 式(2.8)より圧力印加後のキャビティのギャップは下記となる。 (2.13) ここで、Dは圧力印加後のキャビティのギャップ、 Gは圧力印加前のキャビテ ィの初期ギャップである。 楕円板のx方向の半径をrとするとy方向の半径はr/Kとなり、この楕円の円 周は下記の式となる。 伽蜘…4×S・+警ぎ伽一4xアx羅⊂・一孟〕 (2・14) 上記の式の関IS(.EZIipticE(m)は第2種完全楕円積分であり下記の様に定義される。 EllipticE (m)−ll{・一一 m×・sin2(θ)}dθ (2・15) 式(2.14)より微小面積における微小容量の微分係数dCは下記の式で表せる。 式(2.16)よりダイヤフラムの内径がAで外径がBのリング状電極板の圧力・静 電容量関係式は下記の式となる。 c− r. dC dU一 εx却x q一詞[ln{(A・ 一 R・ )v[iii]iMF 一一 R・ Vii }一 in{(A・ ・・一 R・ )V」iii」MF+麟 ln{(B・−R・)》幅+R・VG}一一 tn {(B・一一一R・)vfiiiintF−−R・Vl7}1 (2.17) 感圧キャパシタCxは半径Uの円板とすると、式(2.17)はA=OとB==Uとなり、 感圧キャパシタCxに対する圧力・静電容量関係式は下記の式で表せる。 Cx=f,u dCdU= 8xガx ゚鞘孟〕[in(−R・VfiZGIF−R2VGi]−in(−R2vfiiZ[il7+R2rt」(7]+ ln{(U・−R・)vllilndF+R・、傅}−ln{(U・−R・)vfliiillil−R・VGi l』 (2.18) 34 さらに、基準キャパシタCRは内径Uで外径Rのリング形状板とすると、式 (2」7)はA=UとB=Rとなり、基準キャパシタCRに対する圧力・静電容量関 係式はは下記の式で表せる。 c.−CdCdU= ≠x q一÷〕[in{(u・ 一 R・ )Vfii[iff 一 R2 .viGi ]一 in{(u・ ・一 R・ )Viiiii」 ill; +R2 VZi; )+ ln{R2・Vl7}−tn{−R・、Vl7 11 (2.19) 次に感圧キャパシタCxと基準キャパシタCRの印加圧力によるキャパシタン スの差を大きくするために、印加圧力がゼロの時の感圧キャパシタCxと基準キ ャパシタCRのキャパシタンスを等しくする。この条件を感圧キャパシタCxの 半径に対して求めると下記の関係が得られる。 R σ=万 (2・2°) これを用いると感圧キャパシタCxと基準キャパシタCRに対する圧力・静電容 量関係式はそれぞれ式(2.21)と式(2.22)となる。 Cx−∫コc伽 ε×恋x フ一孟〕[伽臨π)極瞬颪)ト tn{−R2 (2、厄+、雁)}一伽{−R・(壽+颪)}」 (2.21) CR=∬κ伽誠 ≠x ψ仏傅一viiZMF)}一伽{−R・罐+、嚥)}」 (2.22) 上記の2つの式がそれぞれ感圧キャパシタCxと基準キャパシタCRに対する3 軸直交異方性板を用いた静電容量式圧カセンサの圧力・静電容量関係式である。 35 (4)線膨張率の結晶異方性 次に得られた3軸直交異方性板を用いた静電容量式圧力センサの圧力・静電 容量関係式にR面サファイアを用いたセンサの線膨張率の異方性を導入する。 最初にR面サファイアの高さ方向の線膨張率はダイヤフラムの厚さとキャビ ティのギャップに影響し、それぞれ式(2.23)と式(2.24)で表せる。 t=t。{1+ノ(△T)} (2.23) G=G。{1+/(△T)} (2.24) ここで、f(∠T)はR面サファイアの高さ方向の線膨張率を非線形未知関数で置 換えたものであり、∠Tは室温からの温度差、toは基準温度におけるダイヤフ ラムの厚さ、Goは基準温度におけるキャビティのギャップである。 またセンサ素子の半径方向の温度による線膨張率は、R面サファイア即ち3 軸直交異方性板を用いているためにダイヤフラムのX方向、y方向、 Z方向で異 なり、室温においては円板で作成されているため、x方向とy方向はそれぞれ式 (2.25)と式(2・26)で表せる。 R。 =R。{1+9(△T)} (2.25) R, =R。{1+h(△T)} (2.26) ここで、g(∠T)はR面サファイアの半径方向におけるx軸方向の線膨張率を非線 形未知関数で置換えたものであり、x軸方向はR面サファイアのC軸投影線に垂 直な方向とした。またh(∠T)もR面サファイアの半径方向におけるy軸方向の線 膨張率を非線形未知関数で置換えたものであり、y軸方向はR面サファイアのC 軸投影線に平行な方向とし、さらにRoは膨張する前の円板の半径を示している。 次にサファイアに対する熱膨張率の結晶異方性を考察するとサファイアの原 子間の結合様式が結晶異方性を持たないため比例すると予測でき、これを理論 と実測値により証明した。 例えば共有結合と分子間引力により作られる黒鉛等の特別な場合を除き一つ の材料中における原子間の結合メカニズムが等しく結合距離による結合エネル ギV・一・・一・の大きさのみが異なる場合を考える。この様な状態における結合エネルギ ーのポテンシャル曲線は各結合部において相似の関係を持っと予測でき、結合 エネルギーのポテンシャル曲線の形、即ち熱膨張率は原子間に働く引力と斥力 によるポテンシャル曲線の非相似性により生ずる。従ってこの様な材料は熱膨 張率も相似の関係を持つと予測できる。 36 サファイアは一つの材料中での原子間の結合メカニズムが等しい条件を持つ ことから、サファイアの熱膨張率の結晶異方性に比例関係が成り立っはずであ る30’31)。この仮説を証明するためにR面サファイアの各面に対する熱膨張率を 測定し各面間の比例定数を求めた結果をFig.2.9に示す。図に示す様に比例定 数は低温領域を除き一定値を取ることが解り、仮説は妥当であると言える。ま た低温における変動は熱膨張率を測定する場合に置いて伸び、即ち距離の変化 が小さいために生ずる測定誤差と推察している。 1.1 1.05 ヨ R面のC軸投影線に垂直と平行 e 1 R面のC軸投影線に垂直とR面垂直 L立 上 盤0.95 0.9 0.85 0 500 1000 1500 温度(℃) Fig.2.9熱膨張率の各面間での比例定数 サファイアの各面に対する熱膨張率の間には比例関係が成り立っことが解っ た。よってサファイアの熱膨張率の結晶異方性は任意の方位に対する熱膨張率 と他の方位に対する比例定数で表現できることとなる。そこでR面サファイア のC軸投影線に垂直な方向の熱膨張率と比例定数を用い表現すると、式(2.23) ∼式(2.26)はそれぞれ下記の式に書き換えることが出来る。 t−t。{1+K、xg(△T)} (2.27) G−G。{1+K、xg(△T)} (2.28) R. ・R。{1+9(△T)} (2.29) R, −R。{1+K,×9(△T)} (2.30) ここで、K1はR面サファイアのC軸投影線に垂直な方向とR面サファイアの垂直 な方向の比、K2はR面サファイアのC軸投影線に垂直な方向とR面サファイアの C軸投影線に平行な方向の比である。 37 (5)弾性率の温度特性に対する結晶異方性 次にサファイアに対する弾性率の温度依存性と結晶異方性を考察する。 弾性率の温度依存性が原子間距離に依存することは公知の事実である。従っ て弾性率の温度依存性は体積膨張分だけ低下し、熱膨張率の大きい材料ほど温 度依存性は大きくなる。また弾性率の温度依存性は体積膨張分にのみ依存する ので結晶異方性を持たない30)。 ただし高温における弾性率の温度依存性は材料の塑性変形による影響で弾性 率の実測値が予想より小さくなることも既に公知の事実である。しかし、サフ ァイアの塑性変形が生じる最低温度は900℃以上であり、センサの最高使用温 度を500℃以下としたので塑性変形の影響は無視できる24)。 またFig.2.9より比例定数が1に近いため、これを無視し、さらに線膨張率 から体積膨張率を求める上での微小項を無視すると各方位の弾性率の温度依存 性は式(2.31)∼式(2.34)で近似できる。 E藷E。♂{1−3xg(△T)} (2。31) E,’窪E,♂{1−3xg(△T)} (2・32) E壽Eσ6{1−3xg(△T)} (2.33) E − E,’e{1−3xg(△T)} (2.34) ここで、E。’ E。o’ ヘ基準温度から∠T(℃)変化した温度におけるX軸方向の弾性率、 ヘ基準温度におけるX軸方向の弾性率、 Ey’は基準温度から∠T(℃)変化し た温度におけるY軸方向の弾性率、EyO’は基準温度におけるY軸方向の弾性率、 EG’ ヘ基準温度から∠T(℃)変化した温度におけるせん断弾性率、 EGO’は基準温 度におけるせん断弾性率、Eo”は基準温度から∠T(℃)変化した温度におけるX 軸方向とY軸方向に受けた歪みに直交する方向に発生する歪みに対する弾性率、 Eo” ヘ基準温度におけるX軸方向とY軸方向に受けた歪みに直交する方向に発生 する歪みに対する弾性率である。 また式(2.8)に示すように弾性率に結晶異方性が存在してもダイヤフラムの中 心の擁み、即ち最大変位量のみに影響しダイヤフラムの擁みの分布に影響しな い。従って、計算に用いる弾性率はR面サファイアダイヤフラムに対して垂直 方向の圧力を印加した場合の等価ヤング率、即ち実測値を用いればよいことと なる。 38 よって式(2.10)∼式(2.12)はR面サファイア板の等価ヤング率を導入すると 式(2.35)∼式(2.37)となる。 F。 =El ×i十9 =、禽、 x舌 (2・35) 蝋÷、互彰、xfl (2・36) FH= シガxfl〕+2x〔・xS〕={撒x掛+2x{2巻孟ト、喜ひ×fl(2・37) ここで、ERはR面サファイアダイヤフラムに対して垂直方向の圧力を印加した 場合の等価ヤング率である。 上記に示した式(2.35)∼式(2.37)を用いると式(2.9)は次式に簡単化される。 Wua=αxP (2.38) ここで、 1 R4 1 R4 α= A至ひx{2+2×K4+9×K2}x7=1肇×{・+K4+i×K2}x7 (2・39) であり、Pは印加圧力、 Rはx軸方向のダイヤフラムの半径、 Kはx軸方向とy 軸方向のダイヤフラム半径の比、tはダイヤフラムの厚さ、ERはR面サファイア ダイヤフラムの等価ヤング率、ッはダイヤフラムのボアソン比である。 次に温度特性を持つ因子を式(2.39)に導入すると下記の関係が得られる。 α= ・ x[&{・+9(△T)}】4 2×興三警8△「×{1+K4+書×K2}t・{1+K・×9(△T)}3 (2・4°) ここで上記の式のx軸方向とy軸方向のダイヤフラム半径の比Kは、 であり、EROは室温におけるR面サファイアダイヤフラムの等価ヤング率である。 次に式(2.40)を簡素化するために級数展開すると下記の関係が得られる。 m3× (1 −v216×ERO)x事]+[(5+2隅レ9仏丁膿濠)x禦]…(2・42) α一 39 さらに実際のサファイアにおける熱膨張率の値は最高使用温度である500℃ まで考慮しても0.003程度の値しか持たず極めて小さい。従って式(2.42)の2 次以上の高次項は無視できるので式(2.40)は下記の式で近似できる。 o畿)裾}{・+(5+2K・ −3K・ )×9(△T)} (2・43) α三 以上をまとめると、R面サファイアダイヤフラムを用い、 R面サファイアの線 膨張率の3軸直交異方性とR面サファイアの弾性率の3軸直交異方性、さらに 各結晶方位に対する線膨張率と弾性率の温度特性を含む静電容量式圧カセンサ の圧力・静電容量の関係式は下記で与えられる。 ら…だx q一詞[加臨拓)ト加臨π)]+ ln{・・ R・ (2Vi[7+,/iZM)}一 ln {一 R・ (VCi+Vfilfil;)}1 (2.44) CR =g×ガx ln{R・ (2VGf−vfilizm)}一 tn{−R・仏厄+Vfizva)}1 (2.45) ここで、サファイアダイヤフラムの中心擁み、即ち最大擁みは下記の式で与え られ。 o畿)×察}{・+(5+2K・−3K・)× 9(AT)}xP (246) nVMAx !1・! またサファイアダイヤフラムのX方向とY方向の半径の比とその温度特性は次 式となり。 K= さらにキャビティのギャップに対する温度特性とサファイアダイヤフラムのX 方向の半径に対する温度特性は下記の様になる。 G−G。{1+K、×9(△T)} (2.48) R==R。{1+9(△T)} (2.49) 40 2。3。3センサ素子の設計 (1)べ…一一Lス容量 上記までの検討よりサファイアの結晶異方性とその温度特性を考慮したセン サの圧力・静電容量の関係が得られ。本項ではこれに従ってセンサの設計を行 うこととする。 設計に使用する定数であるR面サファイアダイヤフラムの等価ヤング率は、 使用するウエハー一を用いて測定すると約3.36×101iPaでありボアソン比は約 0.25であった。またセンサキャパシタのキャビティに存在する誘電体は空気で あり、その誘電率は1気圧、20℃の標準乾燥空気の誘電率ε=8.85893×10’ 12F/皿を用いる。さらに電極膜のパターニング幅は電極面積を微小に変化させ るだけであるので無視する。 Table 2.7インターフェース回路からセンサへ要求される主な仕様 項目 仕様 べ一スキャパシタンス 10(pF) べ一スキャパシタンスのバラツキ ±2(P正)以下 感圧容量Cxの圧力感度 1(P恥 感圧容量Cxの圧力感度のバラツキ ±0.5ΦF)以下 基準容量CRの圧力感度 0.1(PF)以下 感圧容量Cxと基準容量CRの差の圧力感度 1(P】町 感圧容量CXと基準容量CRの差の圧力感度のバラツキ ±0.5(P恥以下 最初にインターフェース回路に必要なべ一スキャパシタンスから電極面積を 求める。基準温度・基準湿度における圧力印加前のセンサのキャパシタンスで あるべ一スキャパシタンスはTable 2.7のインターフェース回路からセンサへ 要求される主な仕様より電極面積は4×10”6(m2)程度を必要とし、この時の感 圧容量Cxの電極半径は1.1×10“3(m)程度となる。 41 (2)圧力感度 次に必要な感圧容量Cxの圧力感度からダイヤフラム半径を求める。 Fig.2.10は感圧容量Cxの電極半径を1.1×1 O’3(m)とした場合のダイヤフラ ム半径と感圧キャパシタCxの静電容量変化量を示している。 Table 2.7の要求 仕様よりダイヤフラム半径は約2×10’3(m)以上必要であることが解る。 3.5E−12 3.OE−12 ε 瑚2・5E−12 ㌍ 慰 2.OE−12 (s) 血圏 1.5E−12 1.OE−12 5.OE−13 0.OE+00 1.OE−03 1.5E−03 2. OE−03 2.5E−03 ダイアフラムの半径(皿) Fig.2.10ダイヤフラム半径と感圧容量Cxの静電容量変化量 また初期ギャップから見てスパン圧力印加時のギャップを確保できないと圧 力の印加、パッケージ応力、直接接合時のダイヤフラムの擁み、初期ギャップ やダイヤフラム寸法公差によりダイヤフラムが底面に着底してしまう危険性を 持っ・よってダイヤフラムの最大変位量となるダイヤフラムの中心部の変位と ダイヤフラム半径の関係を求めた。 Fig.2.11はこのダイヤフラム半径とダイヤフラムの最大変位量の関係を示し ダイヤフラム半径が2.5×10陶3(m)程度では初期ギャップの3/4程度までしか近 づかない。このため十分な安全性を持つことが解り感圧キャパシタCxの静電容 量変化量からダイヤフラム半径Rは電極膜のパターニング幅を考慮し2.15×10− 3(m)とした。 さらにFig.2.8の構造を持つ基準容量CRは感圧容量Cxよりも小さいが圧力感 度を持ち、これは感圧容量Cxと基準容量CRの差を小さくする方向に働く。こ のため基準容量CRの圧力感度を小さくすることが好ましく、ダイヤフラムの半 径を2.15×1093(m)の固定値とした場合、ドーナッツ形状した基準容量CRの外 42 周の半径はダイヤフラムの半径とほぼ等しい形状が最適条件となる。またイン ターフェイス回路の要求から圧力の印加が無い場合の感圧容量Cxと基準容量 CRの差は可能な限り等しくすることが最適条件となる。 8.OE−07 AS 7.OE−07 圭旦 6.OE−07 十く 5.OE−07 e 4.OE−07 1r\ 3. OE−07 >\ 2.OE−07 然 1.OE−07 0.OE+00 1.OE−03 1.5E−03 2. OE−03 2.5E−03 ダイアフラムの半径(m) Fig.2.11ダイヤフラム半径とダイヤフラムの最大変位量 従って上記の2つの条件を固定しドーナッツ形状した基準容量CRの内周の半 径を変化させ、それに伴い円板型の感圧容量Cxの半径を変化させた場合の感圧 容量Cxの圧力感度、基準容量CRの圧力感度、感圧容量Cxと基準容量CRの差を Fig.2.12に示す。 この結果、べ一スキャパシタンスを10(pF)とできる電極面積4×10’6(m2)、 即ち電極半径1.1×10−3(m)付近では感圧容量Cxと基準容量CRの差が1.3(pF)以 上確保でき、基準容量CRの圧力感度は0.1(pF)程度に抑えられることが解った。 センサの定格最大圧力(スパン圧力とも呼ぶ。)の5Kpaを印加した感圧容量 Cxと基準容量CRのキャパシタンスをレシオメトリック信号処理関数に代入し、 この値が電極面積により変化する状態をFig.2.13に示す。 この値を圧力・静電容量変化率と呼ぶこととする。 図より電極面積4×10−6(m2)と比較して感圧容量Cxと参照容量CRのべ一スキ ャパシタンスを犠牲にし電極面積を小さくしても圧力・静電容量変化率は40% 程度しか改善されないことも解る。 43 2.OE−12 1.8E−12 (L6E−12 巴 b1.4E−12 ■−t ξ1.2E−12 ’易 51.OE−12 の 2 8.OE−13 霧 86.OE−13 N N4.OE−13 2.OE−13 0.OE+00 0.E+00 2.E−06 4E−06 6E−06 Area of electrode(m2) Fig.2.12電極面積と圧力感度の関係 0.15 0.14 翠0.13 蜘0.12 継0・11 ・R O.1 田 0.09 0.08 0.E+00 2. E−06 4. E−06 6. E−06 電極面積(m2) Fig.2.13電極面積と圧力・静電容量変化率の関係 44 (3)直線性 次に電極面積とレシオメトリック信号処理後の直線性誤差の関係をFig.2.14 に示す。図より電極面積の増加により直線性誤差は急激に悪化することが解る。 0 お一e’1 塁一゜・2 ≧羽 慧輔 Z−0.6 一〇.7 0.E+00 2.E−06 4.E−06 6.E−06 Electrode SiZe(m2) Fig.2.14レシオメトリック信号処理後の直線性誤差と電極面積の関係 Fig.2.15は電極面積を6×10’6(m2)とした場合の印加圧力とレシオメトリッ ク信号処理後の直線性誤差の関係を示している。図より直線性誤差は2次関数 に極めて酷似しており2次関数で近似することにより大幅に改善されると予測 できる。 0 一〇.1 奮航2 δ き一〇・3 謡 曽一〇.4 $ 互.o.5 琶 Z.0.6 一〇.7 0 100 200 300 400 500 Applied Pressure(mmH20) Fig.2.15印加圧力とレシオメトリック信号処理後の直線性誤差の関係 Fig.2.16はFig.2.15に対し印加圧力をゼロ、中間、スパン点の値を標本点 45 にし、この3つの標本点の値から求めた2次関数で近似した結果である。図よ り最初に述べた工業用圧力伝送器に対する要求精度の0.1%FS以下を十分に満 足していることが解る。この様に直線性誤差を関数近似を用い補正することが 工業用圧力伝送器では一般的であり、価格や大きさに影響することなく誤差を 改善できる。 1.E−02 8.E−03 6.E−03 お4.E−03 零2.E−03 ) 蟹0.E+00 ε 0 .N −2.E−03 き ∈ミ ー4.E−03 −6.E−03 −8.E−03 −1.E−02 Apphed Pressure(mmH20) Fig.2.162次関数で近似した後の印加圧力とレシオメトリック信号処理後の 直線性誤差の関係 46 (4)温度特性 次にFig.2.8の構造を持っセンサの温度特性に付いて述べる。最初に印加圧 力がゼロの場合、即ちオフセットの温度特性は下記に示す式となる。 C= −2 ×8× EllipticE k・÷)x≒ガ (25・) ここで、Aはドーナッツ形状した電極のx軸方向の外径、 Bはドーナッツ形状し た電極板のx軸方向の内径である。また感圧容量Cxの様な電極が円板の場合に はB・Oとすれば求められる。 上記の式にFig.2.8の構造図で示した寸法の変数を導入しレシオメトリック 信号処理を施すと下記の結果が得られる。 Ratio = 2L2+「2−R2 (2.51) x2 上記の結果よりレシオメトリック信号処理後の値である圧力・静電容量変化率 は電極の寸法のみとなり下記の条件を満足するセンサではサファイアの線膨張 率の結晶異方性が相似形であるため温度特性を持たないこととなる。 Table 2.8レシオメトリック信号処理後のオフセット値が温度特性を持たない ための条件 条件 項目 1 直接接合やパッケージ等によるダイアフラム中の応力が完全にゼロの場合 2 直接接合時の接合部の伝播経路で発生するダイヤフラムの歪みを持たない平坦 ネダイヤフラムの場合 3 基板のオリフラの精度と直接接合時の位置合わせで発生する結晶方位のズレが ウい場合 4 電極材料の線膨張率を無視できるほど薄い膜の場合 5 感圧容量と基準容量の電極構造が結晶方位の影響を等しい割合で有する場合 次に圧力が印加された場合、即ち圧力感度の温度特性を述べる。 ここでセンサの形状因子、即ちダイヤフラムの伸びやギャップの伸び等だけ を考えると感圧容量Cxと基準容量CRは相似形となりレシオメトリック信号処 理後の圧力・静電容量変化率は温度特性を持たないこととなる。しかしサファ イアの等価ヤング率に温度特性を持たせるとレシオメトリック信号処理後の圧 力・静電容量変化率はFig.2.17に示す様な温度特性が現れる。この温度特性は 電極半径に関係しない。この様にレシオメトリック信号処理後の直線性誤差を 改善してもレシオメトリック信号処理後の温度特性は改善されないことが解っ 47 た。 2.0 1.5 お 零1.0 郵 齢5 0.0 −0.5 −100 0 100 200 300 400 500 温度(℃) Fig.2.17スパン圧力印加状態におけるセンサの温度特性 48 (5)湿度特性 ここまではセンサキャパシタにおける誘電体の誘電率の変化を無視してきた。 その理由は既に述べた様にレシオメトリック信号処理により誘電率の変動は 完全に相殺されるからである。しかし実際のインターフェイス回路では有限の 電圧もしくは電流範囲で動作しており、センサの大きな変動に対して対応する とダイナミックレンジが下がり測定精度を低下させ、かつ耐ノイズ性を低下さ せる原因となる。この理由からセンサキャパシタにおける誘電率の変化による 静電容量変化量を調べた。 最初にセンサの電極間に乾燥空気が存在する場合を考える。ここで大気圧、 即ち101,325Paの圧力下で温度20℃における乾燥空気の比誘電率は1.000536 となる33)。 乾燥空気における誘電率の温度特性は密度に比例する。これは乾燥空気を構 成している窒素分子と酸素分子の誘電率が赤外線近傍の周波数まで一定である ことより、両分子は非極性分子であり、理想気体と見なせるためである。よっ て乾燥空気の誘電率の温度特性は式(2.52)となる32’33)。 ke−・+・・…536x273欝ま皐曳T (2・52) ここで、∠Tは基準温度である20℃からの温度差である。 0.016 0.014 S。.。、2 9 。.。、。 ヤ 警・.・・8 11 ・.・・6 翫004 凸 0.002 0.000 0 20 40 60 80 100 温度(℃) Fig.2.18乾燥空気の誘電率の温度依存性 Fig.2.18は式(2.52)を用いて乾燥空気の誘電率の温度依存性を示している。 この図より乾燥空気の比誘電率の温度特性はTable 2.7の圧力感度のバラツ 49 キである±50%FSから見て極めて小さく無視できることが解る。しかし湿り空 気の場合は大きく異なると予測される。それは水が双極子モーメントにより大 きな比誘電率を持つためである。湿り空気の比誘電率の温度/湿度特性は精密に 調べられており式(253)で近似される34)。 k。 =・+ s〔P+4撃x丑〕x・・−6 (2・53) ここで、Pは全圧で、この場合は標準気圧(=760 mmHg)である。また、 Tは絶 対温度(K)、Psは飽和水蒸気圧(mmHg)、 Hは相対湿度(%RH)である。この飽 和水蒸気圧Psは精密に調べられておりJ. A. Goffにより近似式が与えられてい るのでこれを用いる33)。 0.6 (0.5 δ 1 辮0・4 翠 1 eO・3 1 1 0.2 1 1 111i l l I l 1 1 ルl li ll lI 1 1il O.1 1 11 1 @ t 戟@l l 戟@i 0.0 0 20 40 60 80 100 温度(℃) Fig.2.19乾燥空気の誘電率と飽和水蒸気の誘電率の差と温度依存性 Fig.2.19は最も誘電率の小さいloo℃での乾燥空気を基準に取り、飽和水蒸 気である相対湿度100%RHの湿り空気の誘電率の温度依存性を示している。 レシオメトリック信号処理におけるダイナミックレンジへの影響はTable 2.7の圧力感度のバラツキである±50%FSから見て極めて小さく無視できる。 またレシオメトリック信号処理が無ければ誘電率のみの影響で大きな誤差とな ることも解った。 50 (6)吸着水分の影響 次にセンサキャパシタの誘電体が不均質媒体である場合を考える。 この状態を生み出す最大の問題は電極膜表面への水分吸着である。気相状態 の水は分子の運動エネルギーが大きく水の双極子モーメントによる配向エネル ギー、即ち水素結合エネルギーを上回る運動エネルギーを持つ分子の存在確率 密度が高いため誘電率の変動は小さい。しかし液相状態の水は分子の運動エネ ルギーが小さいので液体状態を呈し双極子モーメントによる配向エネルギーが 運動エネルギーを上回る存在確率密度を高くしている。よって液相状態の水は 気相状態の水と比較にならないほど大きな誘電率となる。 また水分子が配向するに十分な電界強度を与えた場合における電界が変化す る周期、即ち周波数は直接分子の運動エネルギーを増加させることと等しい。 分子の運動エネルギー、即ち分子の熱エネルギーは“損失”である。よって液 相状態における水分子の損失を含めた誘電率の周波数依存性は周波数が高くな ると誘電率が下がり、その依存性は極めて大きい。 液相状態の水の比誘電率は測定周波数に依存しない低い周波数である商用電 源周波数付近で測定されており、この周波数付近での比誘電率の温度依存性は 式(254)となる32)。 ks=ニ88.15−0。414×T+0.131×10−2×7▼2一①。046 × 10−4×T3 (2.54) ここで、Tはセルシウス温度(℃)である。 Fig.2.20は電極膜表面への吸着水分の影響を模式的に表したものである。図 はセンサキャパシタの誘電体に湿り空気が存在し、かつ電極膜表面に厚さdの 吸着水分が存在する場合を示している。また初期電極間ギャップと吸着水分の 厚さは感圧検出容量Cxと基準検出容量CRで異なり、これを等価的に吸着水分 の厚さの差のみで考える。さらに議論を容易にするために感圧検出容量Cxと基 準検出容量CRの初期ギャップは印加圧力によりWだけ下側電極に対し平行に変 位すると仮定する。 上記条件を用いて最も単純なオフセット状態での誘電率の変化を考える。オ フセット状態における感圧検出容量Cxと基準検出容量CRのキャパシタンスは 等しいので電極面積も等しいとする。従って吸着水分と湿り空気を持つセンサ キャパシタのキャパシタンスは吸着水分による2つのキャパシタCLと湿り空気 による1つのキャパシタCGの直列接続回路となる。 51 CR電極 Cx電極 Fig.2.20電極膜表面への吸着水分の影響 上記の仮定からキャパシタCLとキャパシタCGのキャパシタンスはそれぞれ 式(2.55)と式(2.56)となる。 C・=εL×i (2・55) CG=εG×G−2xd (2・56) またキャパシタCLとキャパシタCGの合成容量は下記の式となる。 CR= 2xd−2xd+旦 (2・57) SL 6G SG ここで、εLは水の誘電率、εGは湿り空気の誘電率、Sは電極面積、 Gは初期ギ ャップ、dは吸着水分の厚さである。 上記結果から最悪条件として基準検出容量CRに水分が吸着して感圧検出容量 Cxには吸着しない場合を考える。この条件下でのレシオメトリック信号処理の 結果は下記の式となる。 R伽=Cズc・=1、一一 1 Cx 2XS〔1!一・〕+・ (2・58) Fig.2.21は上記の結果を用いて電極膜表面への吸着水分の厚さと誤差の関係 を求めたものである。図の実線は初期ギャップ3×10’6(m)に対応し点線は初期 ギャップ30×10−6(m)に対応している。また水の誘電率は室温における値を用 いレシオメトリック信号処理後の圧力感度である圧力・静電容量変化率は電極 面積に対する0.1を用いた。図から初期ギャップが3×10圃6(m)の場合、0.1%FS 以下となるためには1A程度の吸着水分厚さの差しか許されないことが解り、 センサキャパシタの誘電体に外部気体を必要とするゲージ圧センサで大きな問 52 題となる。従って電極膜である金属の水に対する親和性を考慮した。 10 ( 1 筐 δ 0.1 0.01 1.E−10 1.E−09 1E−08 吸着水分の厚さ(m) Fig.2.21電極膜表面への吸着水分の厚さと誤差の関係 金属材料は表面に理想的な真性面を持つ状態では疎水状態となる。これは金 属結合が共有結合の一種であり、金属材料中の原子は電気的に中性を保つため 水分子と分子間力をほとんど持たないためである。しかし自然酸化の様な水分 を微量でも伴い酸化された金属、即ちウエット酸化による金属酸化膜は酸化膜 中や表面に構造水、即ち水酸基を含有する。さらに金属酸化膜の表面は表面欠 陥、即ち表面準位の高さから内部より多く水酸基が存在する。この水酸基のイ オン結合性、即ち水素イオンのプラス電位に水の酸素イオンのマイナス電位が クーロンカ、即ち分子間力で引き寄せられて吸着する。従って水蒸気分圧を可 能な限り減らしたドライ酸化による金属酸化膜以外は全て親水性となる。 上記の理論背景から疎水性表面を持つ電極膜の形成は完全に乾燥した酸化膜、 即ち水酸基を持たない酸化膜を作成する方法と、逆に酸化膜を作り難い貴金属 の何れかであった。 本研究では完全に乾燥した酸化膜を形成することが困難と判断し、貴金属を 電極膜の表面に形成した。また代表的な貴金属には金、銀、白金、パラジウム が上げられるが、この中でサファイアと線膨張率の差が最も小さく、しかも最 も融点が高く、さらに最もクリープ特性に優れる白金を採用した。 53 2.3.4設計したセンサの構造 上記までの設計よりサファイアの結晶異方性とその温度特性を考慮したセン サの構造が得られた。このセンサの構造の主な形状をFig.2.22に示す。 Fig.2.22設計したセンサの構造図 また上記の構造図で表現できないセンサ素子の形状とその特性をTable 2.9 に示す。仕様は工業用圧力センサとしての要求を十分に満たしている。 Table 2.9設計により得られたセンサの仕様 センサの設計項目 仕様 センサの材料 サファイア ダイヤフラムの面方位 R面 電極の表面材料 白金 測定圧力レンジ(KPa) 5 チップサイズ(m) 口7x10−3 ダイヤフラムの半径(m) 一3 モ2.15×10 電極間距離(皿) 一6 R×10 ダイヤフラムの厚さ(皿) 一6 ダイヤフラムの最大変位量(m) 一7 S×10 感圧容量の電極半径(m) 一3 P.1×10 基準容量の電極の内径(m) 一3 P.85×10 基準容量の電極の外径(m) 一3 Q.14×10 直線性(補正無し)(%FS) 0.35 直線性(補正有り)(%FS) 0.08 温度特性(%FS/500℃) 2 温度と湿度特性(%FS)(温度0℃と100℃、湿度0%趾1と100%RHにおいて) 許容できる吸着水分の厚さの差(A) 54 T0×10 0.55 1 2.4センサの製造プロセス 2.4.1スペーサ センサの製造プロセスに付いて述べる。Fig.2.23はサファイアを用いたスペ ーサ部の製造プロセスである。 (1)ドリル穴あけ (2)エッチングマスクの成膜とパターニング (3)ドライエッチング (4)エッチングマスクの除去 Fig.2.23サファイアスペV・一・一サ部の製作 スペーサ部は薄いダイヤフラムを平坦状態、即ち無応力状態で固定及び気密 接合するに最も重要な部位である。そのためスペーサとダイヤフラムは結晶方 位を可能な限り合わせたサファイアとサファイアの直接接合技術を開発した。 直接接合には初期のダイヤモンド等による機械研磨、即ちラッピングやポリ ッシングで発生した表面近傍のベルビイ(Beilby)層と呼ばれる加工変質層を取 り除く必要がある。このためケミカル・メカノ・ポリッシング(=CMP)技術を 用い上記の加工変質層を取り除き、同時に接合面を原子レベルまで平坦に加工 した34’38)。さらにダイヤフラムにおいては機械的強度を必要とする。サファイ ア等の脆性材料における機械強度はグリフィス(Griffith)の傷に支配される 39’40)。従ってこれも高温アニールによる内部の潜傷除去とCMP技術による表 面の潜傷を取り除き高純度アルミナセラミックスを上回る強度を得た。 55 2.4.2ダイヤフラム Fig.2.24はセンサの心臓部となるダイヤフラム部の製造プロセスを示す。 llZZZZIIzzzzzzzz:1 (1)薄板への研磨 (2)スペーサ部とダイヤフラム部の直接接合 (3)電極膜の成膜とパター一・ニング Fig.2.24スペーサ部とダイヤフラム部の直接接合 特に上図(2)のスペーサ部とダイヤフラム部の直接接合は既に述べた様にダイ ヤフラムを無応力で平坦に接合する必要があり、さらに接合には気密性も必要 とする。 その理由はダイヤフラムより遥かに厚く剛性の高いスペーサ部がダイヤフラ ムに接合されることで、ダイヤフラムは外部応力から隔離され理想的な“太 鼓”に近い状態となるからである。従ってダイヤフラム半径は基板部に形成さ れたキャビティの半径でなくスペーサ部に設けた穴の半径で決まる。 また(3)の電極膜の成膜とパターニングで形成される上側電極は接液側から見 て下側電極が光学的に見えない状態まで下側電極より大きくしている。この理 由は高インピーダンスノードに接続される下側電極と接液材料との間で生まれ る寄生容量をシールドするためであり、上側電極は回路の低インピーダンスノ ードに接続され寄生容量による電流の漏洩が誤差とならない様な回路構成であ るからである。 56 2.4.3サファイア同士の直接接合技術 直接接合技術は接合技術の分野においてガラス封着やろう付けと並び・最も 古くから存在する技術の一つである.しかし直接接合と命名されたのは近年で あり接合や溶接技術分野では固相接合技術における冷間圧接の一種とされてい る3)。 上記の固相接合技術をさらに詳細に分類するとFig.2.25となる。 再結晶化温度 母材の融点 ■ 巳 ■1日1■■ 冷間(常温) ■1.熱間(熱) 蘂 @圧接 琶 摩擦溶 員 溶融 P 圧接 陽極接合 @接合 許容変形 ハから見 ス加圧限 E曲線 シ接接合 活性化直接 レ合 ■ 拡散 Fig.2.25固相接合を加圧力と加熱三温度から見た分類44) 上図の右端にある溶融接合は固相接合と対となる接合技術であり・狭義の溶 接とはこれを指し、固相接合とは母材の融点以下で接合する方法が全てこれに 含まれる.また母材の再結晶化温度以上で接合する場合を熱間接合と呼び・再 結晶化温度以下で接合する場合を冷間接合と呼ぶ・さらに直接接合とは力嚥温 度を低くかつ接合する母材に大きな変形を与えることなく接合する方法と定義 できる。 固相接合における加圧力は母材を変形させ接合面を下記に述べる接合界面で の化学結合反応を生み出すのに必要な距離まで密着させるために用いられる。 従って接合面の面粗度とうねり(一平面度)が・J・さくなると接合に必要な母材 の変形量は小さく出来る。 固相接合における温度は接合界面で生じ接合に寄与する化学結合反応を誘起 させるために加えられる。従って接合面の化学的な活性度により必要な温度が 決定される。 以上より力嚥温度が低くかつ接合する母材に大きな変形を与えない接合に}ま・ 接合面が+分に平滑で儲面積が大きく、接合面が化学的に活性にすることが 必要となる。 如何なる接合方法においても、接合強度は接合時に生じる結合力と熱ストレ スや脱ガスの圧力上昇等による剥離力との差となる。母材が均一加熱され同一 材料同士を接合する直接接合の場合の剥離力は接合界面の熱ストレスが無視で きるため、接合界面から生ずる脱ガスの圧力上昇が主な原因となる。この接合 強度の低下は、接合面積が大きくかつガスの抜ける経路を持たない均一な形状 でより大きな問題を生じる。 Fig.2.26は従来から知られているシリコン同士の直接接合のメカニズムを示 している。図の(1)は常温・常湿環境におかれたシリコンの表面を示す。常温・ 常湿環境におかれたほとんどの金属酸化物の表面は図の様な水酸基で終端して おり、この水酸基は結晶水や構造水と呼ばれている。表面の水酸基は環境中の 水分を弱い水素結合により吸着させており、この吸着水は自由水と呼ばれてい る。 Si Si Si l l l O O O ノ , , H H II O O O !\ !\ !\ H HH H正l H H HH HH H \1 \! \! 0 0 0 H 正l H , ’ , 0 0 0 1 1 1 Si Si Si (1)常温・常湿環境におけるシリコンの表面 Si Si Si l l l O O O ノ , , H H H H H H , , , 0 0 0 1 1 1 Si Si Si (2)加熱により表面から自由水が脱離した様子 58 Si Si Si l l l O O O ,、 ,、 ,、 @H・… H・。・H。・…H… 旺・… 1}… ’ ・… ら亀, ㌦, ㌔ノ 0 0 0 1 1 l Si Si Si (3)接合界面の水酸基同士が水素結合している様子 H20 ,、 ㌔, (4)加熱処理により界面の水酸基が脱水している様子 Fig.2.26シリコン同士の直接接合のメカニズム44) 構造水と比較し自由水の結合エネルギーは極めて小さいために加熱により脱 水され、図の(2)に示す状態となる。 自由水が脱水された状態で接合界面を密着させると、図の(3)に示す様な2つ の表面にある水酸基同士が水素結合を生じ弱い接合状態となる。 さらに加熱すると図の(4)に示す様な構造水が脱離しsi−o結合を生じ、強い 結合状態を形成する。この時に脱離した構造水は接合界面から排出されなくて もシリコンや酸化シリコン中に溶解でき、接合界面に脱ガスとして生じ剥離力 を生じさせない利点がある。 上記のシリコン同士の直接接合は接合界面にsi−o結合を生じることで接合さ れることが特徴である。しかし古くから行われている金属同士の直接接合では 金属酸化物を用いて接合せず金属真性面同士を押し付けて直接金属結合を誘起 させている。Fig.2.25の冷間圧接や摩擦接合は典型的な例であり、冷間圧接は 母材の大きな変形を用いて表面に存在する脆い金属酸化物を破砕し下地の金属 真性面が表面に現れることで接合し、摩擦接合は表面の金属酸化物にせん断応 力を与え破壊し金属真性面が表面に現れることで接合している。 近年のシリコン同士の直接接合は上記の金属同士の直接接合と同様に金属酸 化物を用いることなく接合する研究がなされている。これがFig.2。25に示した 活性化直接接合である44)。 Fig.2.27は今回開発したサファイア同士の直接接合のメカニズムを模式的に 59 示している。先に述べたシリコン同士の直接接合と異なる点はサファイアへの 水分の溶解度である。 酸化アルミニウムは3水和物であるギブサイトから1水和物であるべ一マイ トやダイアスポアを経由し無水物となる。この無水物を融点以上に加熱し単結 晶となったサファイアは完全に脱水された状態となる6・45)。このサファイア、 即ちα一Al203は極めて微量であるが必ず酸素欠乏型の欠陥を持っ不定比化合物 即ちAl203一δとなる46’47)。従ってsio2.δの様な酸素過剰型の欠陥とならず過剰 な水分を母材に溶解出来ない。このため構造水を取り除く加熱処理中に水蒸気 が発生し、接合界面にボイドを生み出し、さらなる加熱で接合面が剥離する47)。 サファイアのこの様な性質より本研究ではFig.2.25に示した活性化直接接合 を用いることにした。サファイアにおける活性化直接接合とは張り合わせる前 の接合面を真空中で比較的低いエネルギーのイオンもしくは中性原子による衝 撃で表面の水酸基や酸素を叩き出し、能動的に酸素欠乏型欠陥を表面に形成し、 接合面が大気に触れることなく、真空中で張り合わせる方法である。 アルミナ・セラミックスの粉体焼結ではアルミナ粉末を1100℃以上に加熱し α一Al203へ転移させた後、これを再度粉砕し、サファイア粉末を冷間プレスで 形状を作成し、温度1300℃以上の水素等の還元雰囲気中で焼成するのが一般的 である。還元雰囲気中で焼成した多結晶アルミナ即ちサファイア粉末の表面は 酸素欠乏型欠陥を多く持ち、この空孔の存在により拡散速度が増大することに なる。これは粒子の持つ表面ギブスエネルギーを増大させることに等しく、焼 結の駆動力となる粒子の持つ表面ギブスエネルギーの放出量を増やし、焼結温 度を下げる役割を担う。 0 0 0 !\ 1\ 1\ H HH HII H H HH HH H \1 \1 \! 0 0 0 (1)常温・常湿環境におけるサファイアの表面状態 60 (2)加熱により表面から自由水が脱離した様子 〆 thO H20 (3)加熱やイオン衝撃により表面から構造水が脱離した様子 (4)表面エネルギーを下げるために接合が進む様子 Fig.2.27サファイア同士の直接接合のメカニズム 本研究で行ったサファイア同士の直接接合は上記のアルミナの焼結理論より ヒントを得て、イオンもしくは中性原子による衝撃で上記の表面ギブスエネル ギーを増大させ、この表面エネルギーが消滅しないようにごそのまま真空中で 重ね合わせ、その場で加熱と1軸方向の荷重を同時に加え接合している。この 加熱と1軸方向の荷重を同時に加え接合する方法はホット・プレス法と呼ばれ 61 粉体焼結の分野では理想的な手法とされている45)。 Fig.2.28はこの直接接合を用いて接合した界面を油圧プレスによる一度の荷 重により強制的に剥離した面のSEM像である。 (1)の写真は剥離部全体の写 真であり、 (2)の写真は(1)の写真に示した楕円部を拡大した写真である 影 方 向 A2軸方向 (1)剥離部全体の写真 (2)C面に沿って剥離している凝集破断部の拡大写真 Fig.2.28強制的に剥離した接合面 (2)の写真における疲労破断面の様な波型形状は(1)の写真よりC軸投 影線に沿っている。従って先に述べたサファイアの結晶中で最も強度の低いC 面方向での凝集破断と考えられる。これは直接接合が界面剥離でなく凝集破断 であることを示し、直接接合の完全性を示す象徴的な写真である。この試験は 一度の荷重による破壊試験であり、かつ1000℃以下におけるサファイアは完全 弾性体と見なせるため疲労によるストライエーションでない。 62 2.4.4基板 Fig.2.29に基板部の製造プロセスを示す。(1)の穴あけは後に電極取り出し 穴として用いるため微細な穴を機械加工で行う。 次に平坦で浅いキャビティ部を形成するためにキャビティ部以外の部分を厚 い高融点金属マスクを成膜する。この金属マスクはサファイアと拡散接合現象 を生じる様な強固な接合をしてはならない。その理由は金属マスクの下に位置 する直接接合面に拡散層を形成し接合面を粗し接合性を低下させるためである。 従って金属マスクに用いる材料はサファイアへの拡散係数の小さい材料、即ち、 可能な限り高融点金属でかつエッチング性の良い材料を用いた。 図の(3)はアルゴン・スパッタ・エッチングで形成されたキャビティ部を示す。 その後金属マスクを取り除き電極膜を基板の上面のキャビティ低部に電極膜を 成膜する。これは後にキャパシタ電極となる。さらに基板の裏面に電極膜を成 膜し、これは後に電極取り出し部となる。 電極取り出し穴の側面にある電極膜は完全に上下の電気的な導通を必要とせ ず段切れがあってもかまわない。理由は電極取り出し穴にろう材を流し込み電 気的な導通を取るからであり、電極取り出し穴の側面にある電極膜はろう材の 流れを促す程度にあれば良いからである。 (1)ドリル穴あけ (2)エッチングマスクの成膜とパターニング (3)ドライエッチング 63 (4)エッチングマスクの除去 (5)電極膜の成膜とパターニング Fig.2.29サファイア基板部の製作 Fig.2.30はダイヤフラム部と基板部を接合した後の形状を示す。この接合も 直接接合が用いられる。しかし、このダイヤフラム部と基板部の直接接合に要 求される性能はスペーサ部とダイヤフラム部の直接接合に要求さる性能と異な る。この接合では印加圧力とそれに耐えうる接合強度、即ち耐圧を必要としな い。さらに接合部の気密性も必要としない。逆に必要以上に接合面積を大きく すると基板側から伝播してくる様々な応力をダイヤフラムに伝えてしまいドリ フトの原因を作り出す。よってこの接合はダイヤフラムへの応力伝播を最小限 に抑制することのみに注意した。 Fig.2.30ダイヤフラム部と基板部の直接接合 ここでサファイアを用いた静電容量式圧力センサにおけるキャビティに必要 な仕様からキャビティを形成する方法に付いて述べる。既に述べたがサファイ アを用いた静電容量式圧力センサはサファイアの曲げ難さを解消するためにセ ンサキャパシタを形成する部分であるキャビティのギャップを狭くする必要が ある。従ってキャビティ面を平坦なまま掘り下げる加工方法を研究した。 サファイアを加工する方法には機械的な切削加工やサンドブラスト加工があ るが、これらの方法では要求加工精度±1000A程度を達成できない。またウエ ットエッチングではサファイアの耐食性の高さから高温溶融無水酸等の強力な 64 溶液を必要とし、危険性、マスキング材料の制限、エッチレートの結晶異方性 の出易さから適応できない。従ってエッチレートの結晶異方性の出易さから化 学反応、即ちRIE(Reactive Ion Etching)を用いない物理的な反応のみのドラ イエッチング技術であるアルゴン・スパッタ・エッチングを採用し、等方性エ ッチングを用いた4レ43)。 このアルゴン・スパッタ・エッチングはエッチレートが低いが、逆に浅く、 平坦に、高い寸法精度が要求されるキャビティ形成において最適である。 アルゴン・スパッタ・エッチングにより形成したキャビティのギャップ、即 ち深さとキャビティ底部の平坦性をFig.2.31に示す。 この方法を用い0.5∼3μm程度の深さに掘り下げた場合、深さ精度が母寸法 の約±5%以下で制御でき、キャビティ底部の平坦性が最大数nm以下の極めて 平坦な面とできた。この結果はキャビティにおける全ての要求仕様を満足して いる。 ◆◆◆㌔.一! (a)キャビティの形状と測定部位 Masked area↓ Etched area↓ _・πτ T一一7ぞ7諜i一 ξ♀…磁5胤・Y◎’『1:1:1:1芦 看罷叢__:濫二鰻緊坐一 〇 20 40 60 80 Scanning distance(10胴6m) (b)測定データ Fig.2.31キャビティ面の平坦性 65 2.4.5台座 Fig.2.32にセンサ素子と金属コネクタとの接合において、両者の熱膨張率の 差で発生する応力を緩衝するための横方向台座を示す。金属コネクタとは圧力 配管との締結のために使用され、ネジやフランジ等の形状をしている。 圧力センサは応力緩衝用に必ず台座を持ち、一般的な台座の応力緩衝効果は 高さ方向で得ている。このためこれを縦方向台座と呼び、本研究での台座は横 方向台座と呼ぶこととする。さらに横方向台座はセンサ素子や電極取り出し部 を接液材料から隔離する働きもあるためサファイアカバーとも呼ばれる。 最終的にサファイアカバーは金属コネクタと接合することとなるが、サファ イアカバ・一一…を耐圧や取り扱い上より極めて剛性の高い金属コネクタに直接接合 すると接合応力が高くなり破壊やドリフトの原因となる。そこで予めサファイ アカバーに対して金属コネクタと同一材料を用いた剛性の低いドーナッツ状の 金属箔を接合し、このドv・一・・ナッツ状の箔と金属コネクタを溶接、即ち共付けす ることとした。これによりドーナッツ状の金属箔と金属コネクタの接合部の電 位差は等しくなりガルバニック腐食の影響を除去できる。 (1)ドリル穴あけと接着剤塗布 圏魎 圏i躍璽圏 (2)金属箔のプレス成形と洗浄 (3)固液間反応接合 Fig.2.32サファイアカバー部の製作 Fig.2.33はサファイアカバー部とセンサ素子の固液問反応接合を示している。 センサ素子はマイクロ・マシニング技術により小型化でき、原子レベルまで 超精密研磨した高価なウエハーを用いても一対のウエハーから多くのセンサチ ップを切り出すことが出来る。しかしパッケージプロセスではダイシングで切 り出されたチップ毎に行うため原子レベルまで超精密研磨した高価なサファイ アカバーを用いることは価格面からできない。従ってベルヌーイ法で作成され た腕時計の窓ガラスとして使われている安価なサファイア円板を流用した。こ の円板は窓ガラスとしての視認性に影響しない程度の研磨が施されており、表 66 面粗さはRMAX500A程度であり板の反り、即ち平面度は最大±5μ程度であっ た。従って直接接合を用いることが出来ず、仮に高温拡散接合と加重により接 合出来ても板が初期的に反っているため大きな接合応力を持ってしまう。 このためサファイア・カバーでは接着層を持つ接合技術を用い、円板の表面 粗さや板の反りを埋めることで仮想的な平坦面を形成し接合応力を低減してい る。 Fig.2.33サファイア・カバー部とセンサ素子の固液間反応接合 67 2.4.6固液間反応接合 ここでは、センサチップとサファイアカバーの接合、サファイアカバーとド ーナッツ状の金属箔の接合ため新たに開発した固液間反応接合法を述べる。 固液間反応接合法とはブリット紬薬の一種である。ブリットとは水に溶ける 様なソーダ灰、炭酸カリ、ホウ酸等を配合するときに配合物を溶かし化合物や 固溶体とし水に溶けなくしたものを指す。従って酸化鉛を含有した低火度のガ ラスはホウ酸を含有した時のみにブリットとなる48)。 固液間反応接合法はホウ酸を酸化アルミニウムと化合させブリットとし耐食 性を向上させる方法である。Fig.2.34は酸化アルミニウムと酸化ホウ素の状態 図を示す。 2100 、、、、 嚇丁罵ゴ\\L・quld l \\ 1800 1 、 熱分解温度 \ 1500 接合中の化学反応 酸化ホウ素 の融点 により、 この範囲の化合物 を生成させる。 1200 10350 吃 母 重 ま ホウ酸水 吃 乱 宝 鵠 酢酸ホウ素 4700 300 Ai2032° 40 6° 80 B2。3 Fig.2.34 A1203−B203の状態図 上図より酸化アルミニウムと酸化ホウ素の化合物は2つ存在することが解か る。2Al203・B203の融点は1035℃であり9Al203・2B203の融点は1950℃と 高い融点を有する。従って予め作成された化合物を接合面に形成(=成膜)し 接合するに必要な温度は融点以上の温度を必要とする。この温度はセンサ・チ ップにある電極膜の耐熱性である約1000℃より用いることができない。 そこで酸化アルミニウムと酸化ホウ素の化合物反応を接合中に行い、同時に 接合反応も行うTLP法の適用を考案した。 従来のTLP法は固相接合のみに適用される場合が多く、反応速度の面から実 用化された事例は少ない。そこで反応速度を向上させるために一方の材料を融 68 解して行う液相焼結法を応用した3・49)。 本研究で用いた酸化ホウ素は状態図が示す様に470℃以上の加熱により酸化 ホウ素のみ融解する。この融解した酸化ホウ素がサファイアを侵食し化合物 2Al203・B203や9A1203・2B203を形成すればサファイアとサファイアは接合 出来ると考えた。 そこで酸化アルミニウムと酸化ホウ素の化学反応の可能性をギブスエネルギ ーの変化から予測し、その予測計算の結果をFig.2.35に示す。 0 −20 −40 ( −60 宅 ・ミー80 憲 )−100 ゆ \ト120 −140 −160 −180 450 550 650 750 850 950 温度 (℃) Fig.2.35化学反応におけるギブスエネルギーの変化 上図より時間軸を無視すれば十分に起こりえる反応であることが解る。この 結果より、サブミクロンの微粉体の酸化アルミニウムとホウ酸水を用い分散・ 乾燥させ反応速度を求めたが、酸化ホウ素の偏析が生じ実用と成り得る結果は 得られなかった。そこで実用と成り得る反応速度にするために本研究では反応 に関る両物質の接触面積を大きくする方法を選んだ。このため酸化アルミニウ ムは粒子サイズ100A以下の硝酸解膠ゾルを用い酸化ホウ素はホウ酸水を用い る方法と、さらに分散性を高めるためアルミニウム・アルコラートと酢酸ホウ 素を用いる方法も同時に開発した。 上記の反応速度を予測する方法として、Fig.2.36の熱分析、 Fig.2.37の xRD、 Fig.2.38のxPsを実施し確認した。 69 14 一TG 熱重量測定 一D丁A示差熱分析 12 1動tO 5 結晶化 劇 約850°C 側8 6 酸化ホウ素 の融解 4燃膿c了一レ o 2oo 4oo 6oo 8oo 1 OOQ 温度(℃) (1)化合物2A1203・B203の生成反応 16 14 ⑰12 .E 劇 to 結晶化 約950°C o 2oo る 6oo 8oo 1ooo 温度(°C) (2)化合物9A夏203・2B203の生成反応 Fig.2.36化学反応における熱分析による確認結果 Fig.2.36の熱分析では、予め酸化アルミニウムと酸化ホウ素の配合比を2: 1に調整し化合物2Al203・B203の生成を狙った試料と、酸化アルミニウムと 酸化ホウ素の配合比を9:2に調整し化合物9Al203・2B203の生成を狙った試 料に対して行った。 上図の示差熱分析(=DTA)のデータより約400℃近傍で吸熱反応があり、 これはB203の融解による吸熱反応と推察される。その後、約600℃まで熱天秤 70 (=TG)のデータから重量減少を生じていることから、アルコラートの有機成 分の分解が行われていると推察される。さらに昇温すると2Al203・B203は約 850℃で小さな発熱反応があり、9Al203・2B203は約950℃で小さな発熱反応 があり、両者共に結晶化に伴う発熱反応と推察される。 次に、熱分析による推察をさらに確実にする目的でX線回折(=XRD)によ る結晶化状態を確認した。確認試験サンプルは上記の熱分析と同じサンプルで ある化合物9Al203・2B203を用い加熱温度を変化させ確認した。 Fig.2.37は その試験結果である。 2500 800°C 700°C 2000 600°C 500°C パターンが シャープになる。 粗勃化している。 P.Scherrerより てら 1°°° v耐し騨}_ 500 0 0 20 40 60 80 100 2θ(°) Fig.2.37化学反応におけるXR】)による確認結果 上図より化合物9Al203・2B203は900℃で結晶化しており、XRDにおけるピ ークの位置(=角度)は化合物9Al203・2B203の標準試料のデータと良く一致 した。また熱分析における結晶化反応による発熱ピークの950℃よりもXRDに よる確認結果が50℃低く出た理由は、結晶化反応における反応律束を生ずる温 度は800℃∼900℃の間で生じるが、ほとんどの酸化ホウ素が酸化アルミニウム との反応面への供給律束となるためであると解釈している。 上記の熱分析とXRDの試験では、接合面に塗布した1μm以下の薄膜で分析 できないため、出発原料にゾルや有機金属化合物を用い酸化アルミニウムと酸 化ホウ素を混合し室温で乾燥させ、2次粒子を再度粉砕した粉末を用いた。こ の試験では試料の作成過程において当初の狙いである両物質の微分散状態を劣 化させていることが懸念されるため実際の接合膜状態で反応の確認を要した。 71 そこで実際の接合膜を塗布・加熱し、酸化アルミニウムと酸化ホウ素の化学 反応による酸素とホウ素における電子の結合エネルギーの化学シフト量をX線 光電子分光法(=xps)により測定し判断した。 Fig.2.38はその一例として酸 素の1s軌道の化学シフト量を測定した結果である。 1 0.9 0.8 0.7倉 旨 0.68 』 0・5冨 督 0.4儒 当 α3£ 0.2 0.1 0 538 536 534 532 530 528 Binding Energy(eV) Fig.2.38化学反応におけるxpsによる確認結果 上図の酸化アルミニウム、酸化ホウ素、A118B4033は標準試料である。また 図の9Al203+B203は実際の接合膜とする配合比であり、Al18B4033と酸化アル ミニウムが1:1で形成されることを狙ったものである。図より実際の接合膜 は800℃、1時間の加熱により十分反応していると推察された。 上記の実際の接合膜を9Al203+B203の配合とし、化合物を9Al203・2B203 とした理由は、化合物9Al203・2B203の全ての特性がサファイアに近いためで ある。 この接合膜はゾル・ゲル法や塗布熱分解法(=有機金属化合物)によるアル ミニウム化合物溶液と酸化ホウ素の出発原料となる溶液を接着剤としサファイ アカバー側にのみスピンコーター等で塗布する。その後、加熱により接着剤か ら溶媒を取り除き酸化ホウを含んだ数十A以下のアモルファスもしくはγ相の 酸化アルミニウムの超微粒子の固体膜を形成させる。これを分解/乾燥と呼んで いる。分解/乾燥後の膜中の粒子間とサファイアカバーとの間は分子間引力で結 合した密着強度の弱い膜となる。この時、接着剤からは接合の邪魔となる脱ガ ス成分を十分に取り除いた状態まで分解・乾燥させることが重要である。次に 72 サファイアカバー上に形成された接着剤にドーナッツ状の金属箔を重ね合わせ た後に加重と加熱を同時に与え接合する。この接着剤は接合後に添加物である ホウ素を微量に含んだ多結晶サファイア、即ち多結晶α一アルミナとなり耐食性 等の全ての性能を満足させる独自の全く新しい技術である。よって、この技術 を“固液間反応接合法”と呼ぶこととした。 5 4 s 辮3 畑2 1 0 0 1 2 3 4 処理時間(Hr) Fig.2.39ホウ酸アルミニウム9Al203・2B203の耐食性 本研究で用いた化合物であるホウ酸アルミニウム9Al203・2B203の耐食性を Fig.2.39に示す。この耐食性試験は代表的な強酸2種類と強腐食性の塩2種類 の計4種類にて行った。図より4種類全ての液体に対して重量減量は時間と共 に飽和し減少しなくなる。これは表面近傍の未反応酸化ホウ素が溶出したと推 察され、十分に反応したホウ酸アルミニウム9Al203・2B203の耐食性は極めて 優れた結果となることを示している。 本研究では、この未反応酸化ホウ素の問題を軽減するために接合膜を 9Al203+B203とし酸化ホウ素の量を減らし反応確率を増大させ、かつ未反応酸 化ホウ素の絶対量を減少させ対応している。Fig.2.40は固液間反応接合技術を 用いてサファイアとサファイアを接合した部分の断面をFE−SEMにて撮影した 写真である。 73 Fig.2.40固液間反応接合技術にてサファイア同士を接合した断面写真 最後に、固液間反応接合技術の特徴をまとめTable 2.10に示す。 Table 2.10固液間反応接合法の特徴 内容 項目 1 2 既に知られているゾル・ゲル法等における超微粒子は表面積の大きさにより表面エネルギーが 増大し、これが焼結、即ち接合温度を低温化させること。 金属同士の拡散接合を高耐食化させる等の目的で考案されたTLP法である活性化拡散接合法は 長い反応時間を必要とする欠点があった。しかし超微粒子は表面積が大きくTLP法においても 低温で反応が迅速に行えること。 3 TLP法は金属同士の拡散接合に限定されるが、従来の活性金属種を無機材料の活性種、即ち 微量添加物に置換えてサファイア等の酸化物セラミック同士や酸化物セラミックと金属の 接合に応用範囲を広げたこと。 4 5 添加した微量添加物はそのまま残らず酸化アルミニウムと化学反応し、無害で 高耐食性化合物に変化すること。 添加した微量添加物は過渡的に液体となり迅速に焼結と接合を行い、その後酸化アルミニウム と化学反応し融点の高い固相に変化するため、低温で接合できるが接合後の接合面の耐熱性は 接合温度を遥かに上回ること。 74 2.4.7電極取り出し Fig.2.41はセンサ素子から低応力で電極を取り出す製造プロセスを示す。電 極取り出し部材となるリードフレームはサファイアと線膨張率が極めて近いコ バールを用いている。さらにリードフレームの表面には予めサファイアと線膨 張率が極めて近いろう材をティニングしておく。 次にセンサ素子の電極取り出し穴にリードフレームの爪を挿入し加熱する・ この加熱によりティニングされたろう材が溶融し電極取り出し穴の壁と対向側 にある電極膜と接合し電気導通を得る。 (1)リードフレーム表面へのティニング (2)リードフレームとセンサ素子の接合 Fig.2.41センサ素子からの電極取り出し 75 2.4.8組み付け Fig.2.42はガラスハーメチックシールを用いたパッケージ部である。電極ピ ンは一っの信号線当り2本用いている。これはFig.2.41の構造体をFig.2.42 に挿入した状態、即ちFig.2.43の形状において電極ピンとリードフレームを接 合するための熱源が外部から導入出来ない形状となるためである。従ってリー ドフレームと電極ピンを抵抗溶接する方法を選択し、抵抗溶接ために電極ピン を2本対で用いている。 2本の電極ピンに電流を流すと2本の電極ピンとリードフレームが接触して いる点のみ接触抵抗により加熱される。さらにリードフレームは予めろう材が ティニングされているためコバールの融点まで加熱する必要が無く低温で接合 できる。よって局部加熱によるセンサやガラスに与える損傷を回避できる特徴 を持っ。またサファイアカバーに接合されたドーナッツ状の金属箔はガラスに 損傷を与えない十分に離れた部位を入熱密度の高いYAGレーザーを用い溶接 し、同様に周囲の損傷を回避している。 Fig.2.42ガラスハーメチックシールを用いたパッケージ Fig.2.43パッケv−一一一ジ後のセンサ 76 2。5むすび 本章では隔膜フリー・センサとするためのセンサ材料を検討しサファイアを 見出した経緯を述べた。またサファイアの代表的な材料特性を調査しセンサへ 適用する上での問題点を予め推測し研究した。 またセンサの設計では強い結晶異方性を持っサファイア材料を用い静電容量 式圧力センサを設計するための手法を確立した。特に従来にない結晶方位によ り異なる熱膨張率と弾性係数の温度依存性を考慮した圧力・静電容量の関係式 を求め設計に利用した。 センサの製造プロセスではサファイア同士の直接接合の可能性を予め理論的 に推測し行った。このサファイア同士の直接接合では専用の接合装置を開発し 成功している。また固液間反応接合技術は直接接合が不可能な面のサファイア 同士を接合するためやサファイアと金属を接合するために開発した・これも予 め理論的に推測し行った。 センサの製造プロセスでは、従来の微細加工技術としてサファイアの研究が 少ないため、独自に様々な側面から研究する必要を生じた。例えばサファイア に穴を開ける技術一つでも、サファイアにマイクロ・クラックを出来る限り生 じない工法の開発は極めて困難である。本論文ではサファイア同士の直接接合 と固液間反応接合技術のみを述べたが本研究で開発したセンサの製造プロセス 技術は他にも沢山ある。よってTable 2.11に項目のみまとめて示した。 これらの技術により隔膜フリー構造の工業用の絶対圧及びゲージ圧を測定す る圧力センサの実現が可能となった。 77 Table 2.11主に開発した製造プロセス技術 工程名称 工法 1 スペーサ、ダイヤフラム、基板の研磨 CMP 2 スペーサ、ダイヤフラム、基板のアニール 高温真空熱処理 3 スペーサの穴あけ ドリル、超音波、レーザー 4 スペーサのエッチング スパッタ、RIE 5 ダイヤフラム上の電極膜形成 蒸着 6 スペーサとダイヤフラムの接合 直接接合 7 基板の穴あけ ドリル、超音波、レーザー 8 基板のエッチング スパッタ、RIE 9 基板上の電極膜形成 蒸着 直接接合 10 (スペーサ+ダイヤフラム)と基板の接合 11 台座(サファイア・カバー)の穴あけ ドリル、超音波、レーザー 12 台座と金属の接合 拡散接合、固液間反応接合 13 台座とセンサの接合 固液間反応接合 14 リードフレームへのティニング 活性水素還元ろう付 15 リードフレームとセンサの接合 活性水素還元ろう付 16 電極取り出し 抵抗スポット溶接 17 ハーメチックパッケージとの接合 YAGレーザー溶接、抵抗シーム溶接 78 参考文献 1) :増田 誉、添田 将、渡辺 健蔵、 “単結晶サファイアを用いた静電容 量式マイクロ圧力センサ”、SICE、 Vo1.37、 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Ger皿an 著、守吉 佑介、笹本 忠、植松 敬三、伊熊 泰朗、丸山 俊夫 共訳、液相焼結法、内田老鶴圃、第7章、(1992) 82 3。1はじめに 従来、静電容量式圧力センサのインターフェース回路は直流回路のみで構成 できる抵抗式圧力センサのインターフェース回路よりも大規模で高価であると されていた1)。しかし近年の集積回路技術等の進歩によりアナログ信号処理回 路に欠かせない演算増幅器の帯域が拡大し低電力化も行われ交流信号を容易に 信号処理できるようになった。このため静電容量式圧力センサのインターフェ ース回路は小型で低価格化されてきている。 次に従来研究された代表的な静電容量式圧力センサのインターフェース回路 の概要を述べる。 最も単純なマルチバイブレータを用いたインターフェース回路は回路規模が 小さく設計が単純であるが歪みの大きい信号を扱うため外乱ノイズに弱く線形 性にも乏しい。従ってマルチバイブレータ方式は高精度な計器に用いられた例 は無い2’8)。 ダイオード検波やダイオード・ポンプ回路はマルチバイブレータと同様に回 路規模が小さく設計が単純である。しかしダイオ・一・・Lドは信号の振幅を直接直流 信号に復調するため信号と雑音を分離できず動作する。従って外乱ノイズに弱 く、かつダイオードの電流・電圧特性の非線形性により非線形誤差も生ずる。 従って、この方式を用いた回路は耐ノイズ性を満足させるためにセンサ素子と インターフェース回路を近接させて配置し、さらにセンサ素子とインターフェ ース回路を金属ケースに格納し放射電磁界ノイズから隔離し実用化されている。 これが静電容量式圧力センサを用いた圧力伝送器を大型化させる原因の一つと なっている。またダイオードにより生じた非線形性誤差はデジタル信号処理回 路で折れ線や多項式関数を用い近似し補正している1・9“11)。 自動平衡ブリッジ法はインピーダンス・アナライザや一部のLCRメs・一一・・タに使 われている方式である。この方式を用いたインターフェース回路は線形変調器 や線形復調器等を必要とし回路が大規模化し、かっ変・復調器の温度特性が大 83 きく現場計器である圧力伝送器の信号処理回路には適しない9’11)。 スイッチド・キャパシタを用いたインターフェース回路はスイッチド・キャ パシタにおける本来の目的である集積化に対しインターフェース回路とセンサ 素子を集積化しワンチップ化したセンサの構想があった。しかし圧力センサに おけるインターフェース回路の集積化はインターフェース回路に用いる半導体 素子が持っピェゾ抵抗効果の存在により高精度化が困難iである・さらに接触式 センサに分類される圧カセンサにおいて過酷な環境に曝されるセンサとインタ ーフェース回路が同一部位に存在する問題を生ずる。従って圧カセンサにおけ る集積化センサは比較的環境特性の易しい電気掃除機、ダイバーズ・ウオッチ や空圧機器に用いられており工業計器には現在用いられていない12)。 第2章で述べた、単結晶サファイアを用いた差動容量型圧力センサの感圧容 量の変化は、規格最大圧力(最大定格圧力やスパン圧力とも呼ばれる。)印加 時でも1pFであり、精度0.1%FSクラスの工業用圧力発信器として要求される分 解能の0.01%FSを満たすためには0.1fFの微小容量変化を検出しなければなら ない。 しかも、このセンサは工業用であるため高温、強酸或いは強アルカリ等の過 酷な環境下でも使用されるので、センサと信号処理用インターフェイス回路と は一体化できず、ケーブルで結ばれることになる。仮にケーブルとして電磁干 渉に強い同軸線を用いたとすると、芯線と外導体間には100pF/mもの容量が存 在する。この様な条件下で0.1fFもの微小容量変化を上述したこれまでの信号 処理方式で検出するのは極めて困難である9)。 そこで、新たに「4象限レシオメトリック信号処理」に基づくインターフェ イス回路を開発した。本章では3.2節でその原理を紹介し、3.3節でインタ・・一一…フ ェイス回路のブロック構成と各ブロックの詳細をを述べる。 84 3.2レシオメトリック信号処理 ここでは隔膜構造フリーセンサを形成するために必要な技術の一つであるレ シオメトリック信号処理について述べる。静電容量式圧力センサにおけるレシ オメトリック信号処理の役割は圧力が印加されない基準容量の対向した電極間 距離と圧力が印加される感圧容量の対向した電極間距離の変化の割合をセンサ キャパシタの誘電率等の影響を取り除き抽出する信号処理技術である。これは 相補型静電容量式圧力センサに対しても同様の効果がある。ここで印加圧力と 感圧容量の対向した電極間距離の変化が線形関係と見なせる微小i澆み領域にお いてレシオメトリック信号処理後の値は印加圧力そのものとなる。またレシオ メトリック信号処理はインターフェイス回路に使用した全ての素子の劣化を含 む誤差要因が線形結合している状態において完全に除去できる大きな利点があ る。これを“トラッキング・エラーの除去”と呼んでいる9)。このレシオメト リック信号処理とは信号が処理される経路を1つの経路にし、かっ各ブロック が線形結合された状態を形成させ、この経路中に2つのセンサを配置しアナロ グスイッチによるオン抵抗等の誤差が影響しないように回路を構成し、センサ に対する2つの接続状態を選択し2つの出力信号を時分割で取得し、その信号 の比を求めることで2つの出力信号の共通誤差成分を除去する技術である。 Fig.3.1は最も単純なレシオメトリック信号処理の誤差除去効果を概念的に説 明するための図である。 Cx VER SWl VIN F H 状態A Cx VER sw1。−l SW2 C 状態B Fig.3.1レシオメトリック信号処理の概念図 図の記号FとHは回路ブロックの伝達関数、電圧VER(t)は回路の非線形誤差であ 85 る。Fig.3.1の回路の動作を簡単に説明する。 最初にアナログスイッチが感圧容量Cxを選択している状態Aの場合、この回 路の出力電圧は式(3.1)となる。 V。uri(s)=(F×Cx×H)xVrv(s)+VER(s) (3・1) 次に回路のアナログスイッチが基準容量CYを選択している状態Bの場合、回路 の出力電圧は式(3.2)となる。 玲m(s)=(F×C。×H)x蝋5)+VER(s) (3・2) ここで式(3.1)と式(3.2)中の時間関数である入力電圧VIN(t)とオフセット誤差 電圧VER(t)は各センサの結線状態における測定時間範囲で有意な変化がないと 仮定しレシオメトリック信号処理を施すと式(3.3)となる。 Rati・=瑠=譲舞諜毎…霧 (3・3) さらに式(3.3)のオフセット誤差電圧VER=0とすると式(3.3)は式(3.4)となる。 Rati。一玲 一童=s×冴=d−∠d−、∠堅 (3.4) v・UTi Cx s× A d d d−∠ld ここで、εはセンサキャパシタの誘電体の誘電率、Aはセンサキャパシタの電 極面積、dは印加圧力が存在しない場合のセンサキャパシタの電極間距離、∠ dは印加圧力により変化したセンサキャパシタの電極間距離である。式(3・3)と 式(3.4)の比較よりレシオメトリック信号処理における線形結合の重要性が理解 できる。また式(3.4)の結果を見るとレシオメトリック信号処理後の圧力感度が 小さい、即ちダイナミック・レンジが小さいことが解る。 Fig.3.2の回路はFig.3.1の回路の問題点であるダイナミック・レンジを広く するために感圧容量Cxと基準容量CYの差を用いたレシオメトリック信号処理 回路の概念図である。 Cx VER 一G Ol 状態A 86 Cx VER VOUT Vm 状態B Fig.3.2ダイナミックレンジを改善したレシオメトリック信号処理の概念図 図の記号F、G、 Hは回路ブロックの伝達関数、電圧VER(t)は回路の非線形誤 差である。 Fig.3.2の回路の動作を簡単に説明する。最初にアナログスイッチが感圧容量 Cxを選択している状態Aの場合、この回路の出力電圧は式(3.5)となる。 ㌦T、(s)=(F×Cx ×H)x蝋5)+㌦(5) (3・5) 次に回路のアナログスイッチが感圧容量Cxと基準容量CYを選択している状態 Bの場合、回路の出力電圧は式(3.6)となる。 V。UT、(s)一(F×Cx×H)×蝋5)一(G×C。 ×H)×㌦(s)+VER(s) (3・6) ここで式(3.5)と式(3.6)中の時間関数である入力電圧VIN(t)とオフセット誤差 電圧VER(t)は各センサの結線状態における測定時間範囲で有意な変化がないと 仮定しレシオメトリック信号処理を施すと式(3。7)となる。 レ1−(F×c.×H)×㌦一(6×c。×H)×v.+玲、 (3.7 (F×C. ×H)X㌦+V..) Rati・一 さらに式(3.7)のオフセット誤差電圧VER=0とし回路ブロックの伝達関数FとG が等しいとすると式(3.7)は式(3.8)となる。 A A Rati。−V・UT・−CズC・一ε×d:∠ZTt一εx万一∠璽 (3.8) v・UT・ Cx s x A d d−Ad ここで、εはセンサキャパシタの誘電体の誘電率、Aはセンサキャパシタの電 極面積、dは印加圧力が存在しない場合のセンサキャパシタの電極間距離、∠ dは印加圧力により変化したセンサキャパシタの電極間距離である。 完全なレシオメトリック信号処理となるためにはFig.3.1ではオフセット誤差 電圧vER=oでなければならず、さらにFig.3.2では伝達関数FとGが等しくなけ ればならない。この条件を実際の回路で実現することは不可能である。従って 上記条件を必要としないレシオメトリック信号処理の考案と研究を行い、その 結果Fig.3.3に示すレシオメトリック信号処理回路を考案した。 87 Cx SWI F VER 十 SW2 Vm SW3 H++V。u・ −G CY SW4 状態A SWI Cx F VER 十 SW2 Vm H++V。uT SW3 .G CY SW4 状態B SWI Cx F VER 十 SW2 Vm SW3 H++V・u・ −G CY SW4 状態C SWI Cx F VER 十 SW2 Vm SW3 H++V・u・ −G CY SW4 状態D Fig.3.3非線形誤差の要因を除去したレシオメトリック信号処理の概念図 図の記号F、G、 Hは回路ブロックの伝達関数、電圧VER(t)は回路の非線形誤差 である。 Fig.3.3の回路の動作を簡単に説明する。最初にアナログスイッチが感圧容量 Cxを選択している状態Aの場合、この回路の出力電圧は式(3.9)となる。 V。u。、(s)=(F×Cx ×H)×蝋∫)+VER(s) (3.9) 88 同様に状態B∼Dの状態における回路の出力電圧は式(3.10)∼式(3.12)となる。 レ勧、(s)胃一(θxCxx丑)x㌦(s)+㌦,(5) (3.10) V。ur3(s)=(F×Cx ×H)x㌦(s)一(G×CF×H)x㌦(s)+㌦(s) (3.11) V。ur、(s)=(F×Cr ×H)x㌦(s)一(G×Cx×H)x蝋5)+}VER(s) (3.12) ここで、式(3.9)∼式(3.12)中の時間関数である入力電圧VIN(t)とオフセット誤 差電圧VER(t)は各センサの結線状態における測定時間範囲で有意な変化がない と仮定し、レシオメトリック信号処理を施すと式(3.13)となる。 肋一瑠1≡罐=C“r穿 (3・13) 上式は、本構成のレシオメトリック信号処理がオフセット誤差の調整や伝達 関数FとGの整合性を全く必要とぜず、回路素子の非線形性、劣化、温度特性に よるオフセット誤差電圧や伝達関数FとGの変動に完全に不感であることを示し ている。 又、この回路は高インピーダンスノードとなる感圧容量Cxと基準容量CYの 共通端子に存在する寄生容量の影響もオフセット誤差電圧と同じコモンモード で現れるため完全に取り除くことができ、隔膜構造フリーセンサに必要な長配 線の要求を満足できる。 上記に示すレシオメトリック信号処理は従来技術に無く、4つの象限で得ら れた信号からレシオメトリック信号処理を行うため“4象限レシオメトリック 信号処理”と命名した。 89 3.3信号処理回路 3.3.1信号処理回路の概要 Fig.3.4は前項で述べた4象限レシオメトリック信号処理を行ったインタL・・一一‘フ ェイス回路のブロック図である。 Timing Detector Electric l 謡留r儲釜r削 1 Analog Output 1》ifferantial Capacitanceバioltage Differential C°nve「t°「 Synchr。n。usAmp’冊e「 Detector Fig.3.4インターフェース回路の全体図 図の左端にある正弦波発振回路は等振幅で位相が180°異なる正弦波を出 力する信号源で、この信号はタイミング検出回路と信号選択回路に入力される。 信号選択回路は4象限レシオメトリック信号処理を行うためにセンサの4つの 接続状態を選択する。電荷増幅器は信号選択回路で選択された状態のセンサキ ャパシタに流れる電流を電圧信号に変換する。これは発振回路から出力された 正弦波信号がセンサのキャパシタンスに従い振幅変調されることに等しい。電 荷増幅器からの出力信号はバンド・パス・フィルタに入力されセンサへの長い 配線に重畳された雑音が除去される。タイミング検出回路は正弦波発振回路よ り出力された信号のゼロ・クロス・タイミングを検出する。同期検波回路はタ イミング検出回路の出力を用いてアナログ・スイッチにてバンド・パス・フィ ルタより出力された信号の直流成分、即ち振幅成分を復調する9)。同期検波回 路は同相成分で注入されたオフセット誤差や雑音等の誤差要因を除去するため に差動構造としている。平滑回路と差動増幅器は同期検波回路からの2つの出 力信号に含まれる交流成分を除き2つの直流信号の差を演算及び増幅するため に使用される。差動増幅器からの直流信号は20bit分解能で15bit精度を持つ∠ 90 Σ変調方式を用いた1bitアナログ・デジタル変換回路にてデジタル信号に変換 されマイクロ・プロセッシング・ユニット、即ちマイコンに取り込まれる13”14)。 マイコンは信号選択回路を制御しセンサの4つの接続状態を順次選択し、各状 態における測定値を順次記憶する。センサの4つの接続状態を測定する毎に4 象限レシオメトリック信号処理の演算が行われる。この後、印加圧力に含まれ る脈動圧の影響を除去するためのデジタル・フィルタ処理が行われ、さらに直 線性や温度特性による誤差もデジタル信号処理により取り除かれる。十分な精 度が確保されたデジタル信号は14bit精度のパルス幅変調方式を用いた1bitデジ タル・アナログ変換器にてアナログ信号とし圧力の情報が伝送される。 Table 3.1はインタ・・一一・・hフェース回路に必要な性能を示す。 Table 3.1インターフェース回路に必要な性能 最大 項目 最小 中心 1 動作温度範囲(℃) 一20 一 2 測定分解能(%FS) 一 ±0.01 3 直線性誤差(%FS) 一 一 ±0.1 4 温度特性(%FS/℃) 一 一 5 湿度特性(%FS/100%1田) 6 長期安定性(%FS/年) 7 応答速度(msec at 9幌応答) 8 正弦波発信器部分の消費電流(血at 5V) 9 タイミング検出回路部分の消費電流(凪at 5V) 10 信号選択回路部分の消費電流(囲at 5V) 11 電荷増幅器部分の消費電流(並at 5V) 12 BPF部分の消費電流(畝at 5V) 13 検波回路と平滑回路部分の消費電流(mA at 5V) 14 曲C部分の消費電流(並at 5V) 15 MPU部分の消費電流(mA at 5V) 16 DAC部分の消費電流(血at 5V) 17 合計消費電流(畝at 24V) 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 85 ±0.01 一 ±0.05 一 ±0.05 100 500 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 1 2 0.7 1 0.7 1 2 6 2 3.4 表の動作温度範囲は通常使用される工業仕様に準拠した電子部品の動作温度 範囲とした。測定分解能は測定精度に影響しない値とし・温度特性や湿度特性 は工業用圧力伝送器と同等とした。インタ・一一・・フェ・一一・一ス回路の消費電力は電源電 圧が24V以上において4mA以下とした。これは伝送信号として4∼20mA電流出 力方式を選択すると電力供給線を必要としない2線式伝送器と出来るためであ る。 91 3。3.2正弦波発振回路 Table 3.2は正弦波発振回路の目標性能を示している。 Table 3.2正弦波発振回路の目標性能 項目 最小 中心 1 正弦波信号の振幅電圧(Vp.p) 一 一 2 正弦波信号の振幅電圧の変動(%FS/℃) 一 一 3 正弦波信号の周波数(KHz) 一 4 正弦波信号の周波数の変動(%FS/℃) 5 最大 2 ±0.05 10 一 一 一 ±0.05 波形歪み(3次高調波)(dBc) 一 一 一29 6 波形歪み(5次高調波)(dBc) 一 一 一42 7 波形歪み(7次高調波)(dBc) 一 一 一51 8 消費電流(mA at 5V) 一 一 1 正弦波信号の振幅電圧における目標値はセンサ素子のクーロンカの影響を小 さくするために最大2Vp−pとし、同様な理由から正弦波信号の振幅電圧におけ る温度特性も小さく設定した。発振周波数は高周波化すればセンサに流れる電 流が増加しS/N比を高くできるが、センサの機械共振の問題や回路の低消費電 力化等の要求から10kHzを選択した。発振周波数の温度特性はセンサの機械共 振点との干渉や湿度特性の周波数依存性等の影響から小さく設定した。正弦波 信号の歪みは差動静電容量・電圧変換回路である電荷増幅器の仮想接地点の変 動を生み出し耐ノイズ性を低下させ非直線性誤差を大きくする。従って電荷増 幅器に用いられる演算増幅器のGB積を大きくしなければならなくなる。この 理由から正弦波信号の歪みは臨界条件である三角波を一回積分した波形以下の 歪みに設定した。 92 Fig.3。5は今回新たに考案した位相が互いに180°異なる2つの正弦波を出力 する低歪み正弦波発振回路である。 Aut・gain c・ntr・1 circuit Band−pass filter ; R3 D・1r……るr1 塵1廊 童「互『一一一罵一一i−RslR4・sin《ωt) Il Rlo lR6 11= R7 U・il _ ll_ Fig.3.5正弦波発振回路 発振周波数の安定性を高めるために発振周波数を決定するバンド・パス・フィ ルタ回路は寄生容量の影響を小さくできる多重帰還型の構成とした。これによ り発振周波数を不安定にする演算増幅器の反転入力端子に存在する寄生容量の 影響を取り除くことができる。このバンド・パス・フィルタ回路は反転増幅器 の構成となる回路中で最小の回路規模で構成でき、さらに回路規模の最小化は 回路の消費電力を最小化できる。 多重帰還型のバンド・パス・フィルタ回路を用いた正弦波発振回路は正帰還 を必要とするため位相を反転させる単位利得反転増幅器を必要とするが、2つ の位相出力を必要とする今回の正弦波発振回路では、この単位利得反転増幅器 の出力をそのまま利用できるので、これは利点となる。 この発振回路の自動振幅制御回路はダイオード・クランプ方式を用いた単純 な回路を採用した。一般的にダイオード・クランプ方式を用いた自動振幅制御 回路はダイオードにおける電流・電圧特性の非線形性により正弦波信号を大き く歪ませる。正弦波信号の歪みを小さくするためにクランプ・ダイオードに順 方向電圧の小さいショットキー・バリア・ダイオードを用い、さらにクランプ ・ダイオードと直列に抵抗を挿入しクランプ・ダイオードの両端電位差が小さ な範囲で動作させ改善した。このクランプ・ダイオードに直列に挿入した抵抗 を大きくすることにより正弦波信号に含まれる歪みを小さくしている。 Table 3.3はFig.3.5の正弦波発振回路部分に用いた定数を示す。演算増幅器 には回路の低消費電流化のため低バイアス電流のCMOS演算増幅器を選定し 93 た。また抵抗やキャパシタも同様に低消費電流化を目的とした定数とした。 Fig.3.6は正弦波発振回路の発振成長過程をP−SPICEにより計算した結果で ある。発振振幅は低消費電力化のために電源電圧を5V単電源とするためとセ ンサ素子における電極膜間に働くクーロンカの影響を小さくするために2Vp−p に設定した。また発振振幅の整定時間は20msec程度、即ち20サイクル程度必 要としている。またFig.3.7は正弦波発振回路の発振が完全に成長した時の2っ の位相出力を示している。 Table 3.3正弦波発振回路部分に用いた定数 部品番号 定数 備考 Rl 100kΩ 公差:0.5%、温度特性:±50p脚/℃以下 R2 180kΩ 同上 R3 100kΩ 同上 R4 100kΩ 同上 R5 100kΩ 同上 R6 100kΩ 同上 R7 100kΩ 同上 R8 51kΩ 同上 Rg 100kΩ 同上 Rlo 1.8kΩ 同上 C1 1200pF 公差:5%、温度特性:0∼−100pp皿/℃ C2 1200pF 同上 D1 HSU88 VFの温度特性:2700ppm/℃(at碁:10μA) D2 HSU88 同上 U1 HAX4330 U2 MAX4330 同上 U3 MAX4330 同上 消費電流:0.275mA(at 5V)、開放利得:50dB(at 10kHz) 94 1 1 0.8 0.6 0.4 90・2 言0 8.o.2 −0.4 −0.6 .0.8 −1 0 0.0005 0.001 0.0015 0.002 Time(sec) Fig.3.6発振成長状態の波形 1 0.8 0.6 0.4 So・2 琶 O o >.O.2 −0.4 −0.6 −0.8 −1 0.00489 0.00491 0.00493 0.00495 0.00497 0.00499 Time(sec) Fig.3.7定常発振状態の波形 Fig.3.8は正弦波信号のスペクトラムを示している。基本波の偶数次項が存在 しないのは高い精度で50%のデューティ比を持つためであり、正弦波信号のオ フセット電圧が小さいことを示している。Table 3.4はFig.3.8に示した主な高 調波成分を表で示した。この結果は電荷増幅器の性能を十分に得るために必要 な歪み成分の臨界条件である三角波を積分器に通し高調波成分を除去した積分 三角波と比較し十分に低歪み化されている。 95 0 .10 一20 (−30 畠 巳一40 暮 〉−50 −60 一70 一80 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Frequency(kHz) Fig.3.8発振波形のスペクトラム シミレーション結果 積分三角波 3次高調波 一46dBc 一29dBc 5次高調波 一55dBc 一42dBc 7次高調波 一62dBc 一51dBc 9次高調波 一72dBc 一57dBc Tab夏e 3.4各次数での高調波歪成分 Fig.3.9は発振振幅の温度特性と直接関係するクランプ・ダイオ・一ドにおける 電流・電圧特性の温度依存性を示している。発振回路の自動振幅制御回路とし て用いた非反転増幅回路の振幅を2Vp−pとするとクランプ・ダイオードである ショットキー・バリア・ダイオードと抵抗R3の直列回路部には最大1Vの電圧 が印加される。Fig.3.9よりショットキー・バリア・ダイオードに対する電流・ 電圧特性の温度依存性は抵抗R3を選択しても改善されないことが解る。 96 1E−01 1E−02 {E iE−03 轟 KIE−04 ・!1E−05 撞 益・E−・6 1E−07 1E−08 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 順方向バイアス電圧(V) Fig.3.9ショットキー一・ダイオードのVF−IF特性と抵抗R3による温度特性 1.2 (1.1 ら 理1・0 0.9 0.8 一20−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 温度(℃) Fig.3.10振幅電圧の温度特性 97 9.93 9.92 A 曼 9・9i 藩 翼9・90 匝 蒙隻89 9.88 9.87 一20 0 20 40 60 80 温度(℃) Fig.3.11発振周波数の温度特性 1.0 0.8 密 日0.6 選 レ⊥−L 無0.4 浬 i l i l 0.2 0.0 一20 0 20 40 60 80 温度(℃) Fig.3.12正弦波発振回路部分の消費電流に対する温度特性 Fig.3.10は回路の動作温度範囲における正弦波信号の振幅電圧に対する温度 特性を示す。図より温度特性は約0.3%FS/℃となり目標性能に達しない。これ は用いたショットキー・バリア・ダイオードの電流・電圧特性の温度依存性が 主な原因である。Fig.3.11は回路の動作温度範囲における正弦波信号の発振周 波数に対する温度特性を示す。 図より温度特性は約0.005%FS/℃となり十分に目標性能を満足した。 98 Fig.3.12は回路の動作温度範囲における正弦波発振回路部分の消費電流に対す る温度特性を示す。図より正弦波発振回路部分の消費電流は温度に依存せず約 0.83mAで一定であり目標性能を満足した。 99 3.3.3差動静電容量・電圧変換回路 Table 3.5は差動静電容量・電圧変i換回路の目標性能を示している。差動静 電容量・電圧変換回路の非直線性誤差は4象限レシオメトリック信号処理にお ける様々な誤差の除去効果を悪化させる。従って差動静電容量・電圧変換回路 の非直線性誤差は圧力伝送器の目標仕様である±0.01%FS以下とした。 Table 3.5差動静電容量・電圧変換回路の目標性能 項目 1 非直線性誤差(%FS) 2 消費電力(mW) 最小 中心 最大 一 『 ±0.01 一 一 1 Fig.3.13は2位相出力正弦波発振回路と4象限レシオメトリック信号処理を 行うための信号選択回路とセンサに流れる電流を電圧信号に変換する電荷増幅 器の回路図を示す。 Signal Selector rの ロ ニ ニ 1 「「 1 _9hi虻型全聖理i些r_ 「一一一一_i SW、 SWs{「S…藪鑑鱒一一一「 ll 1∼桐 量l IllCx 1!i 薩 !i W2 ll I l I l l I l CF l I l li !iSW3 1 11CY l il sw、 ll粗 1∼VrvIl l r−一 : : B P F l UI I l Il SW6目 Lモ誌繭轟論』繭三…一」 Fig.3.13差動静電容量・電圧変換回路 図の信号選択回路は4象限レシオメトリック信号処理を行うために6つのア ナログ・スイッチを用いてセンサの4つの配線状態を選択している。特に接地 電位に接続している2つのアナログ・スイッチは遮断状態にあるアナログ・ス イッチに囲まれたノードにおける電位の不定状態を回避するために使われる。 この信号選択回路にある緩衝増幅器は本質安全防爆規格を満足させるためのエ ネルギー制限回路を含み、この部分に関する詳細は3.4節の防爆対策で述べ る。また電荷増幅器内部にあるセンサの配線部分が最大10mの長さとなり、 この部分に関する詳細は3.3節のセンサとの接続で述べる。 100 この電荷増幅器を用いた理由は増幅器の利得の周波数依存性を無くすためで ある。例えば電流・電圧変換回路における帰還素子が抵抗、即ち微分器を用い た場合、正弦波発振回路の波形歪みの影響や長い配線に混入した高周波成分の 影響を周波数倍し受けることとなり、この影響は電流・電圧変換回路に使用し ている演算増幅器の差動利得が有限であるため直線性誤差や非再現性誤差とな るためである。 Sign al SeleCtor Charge Am plifier l l Cxl li sw2 1 1 … Fig.3.14直流バイアス補償抵抗を用いた電荷増幅 Ch訊rge Amplifier 「一一一一一一乙痂5薦葡i葡] r聖唖毬鑑「i 騨型塑黒1 且 昌 l l I RI R2 且I l 丁 }l l l! l SWs I lSensor I R3 「一一一一一「[sw ll− 1 1 1 I I ll ll ll Il 聖 I lIlCxl II l Il I lSW2 CF 盲 l l Ii I II l SW3 ;ICY i B P F il sw、 RHi・i 1,−H,( 1∼VIN l l II I II l ll lr= Il l I I 1 l I = L_ ____」」_____」巴_____」 L________一.一.._.________」 堰Si_ave。scillat_虻h 2伽s_tput Fig.3.15直流バイアス補償用T型ブリッジ回路を用いた電荷増幅 電荷増幅器には低消費電力化のためにCMOS演算増幅器を用いた。ここで用 いたCMOS演算増幅器は入力端子に設けられた過電圧保護用クランプ・ダイオ 101 一ドの漏洩電流も小さく設計されており負帰還入力端子は直流インピS−一一ダンス が無限大のキャパシタで挟まれた構造となる。従って電荷増幅器の出力端子の 直流電位が不定となり回路は安定に動作しない。 そこでFig.3.14に示す負帰還素子のキャパシタと並列に高抵抗を配置するこ ととした。図の回路は低周波領域で微分動作し高周波数領域で電荷増幅器とな る。この回路を測定周波数付近で十分に電荷増幅器として動作させるには最小 で100MΩにもなる非常に大きな抵抗値を必要とする。この様な高抵抗素子の 直流特性はプリント基板に吸着した水分等により大きく低下し、交流特性は抵 抗と並列に存在する寄生容量の影響で低周波領域でもインピーダンスが大きく 低下する。この問題を回避するために、大きな抵抗値を必要としないFig.3.15 の抵抗マルチプライヤーS構成とした。この構成により10MΩの金属皮膜抵抗を 使用して数GΩの等価抵抗を得ることができ、広い周波数範囲で平坦な利得特 性を得ることができる。 また電荷増幅器に用いられる演算増幅器の有限開放利得と非線形性誤差の関 係はレシオメトリック信号処理により大幅に改善できるが、演算増幅器の利得 が不足すると演算増幅器の負帰還入力端子、即ち仮想接地点の電位が入力信号 により変動する。これは回路を寄生容量に有感とする方向に働くため、使用し た演算増幅器のGB積は比較的大きな値を持つCMOS演算増幅器を用い、か つ演算増幅器の出力信号振幅を出来るだけ小さくし、測定周波数における演算 増幅器の開放利得と電荷増幅器、即ち閉回路の利得の比を大きくした。上記の 理由から電荷増幅器の利得は感圧容量Cxを測定する状態では1に設定し、感圧 容量Cxと基準容量CYの差を測定する状態では0。1に設定した。 Table 3.6は電荷増幅器に用いた回路定数である。電荷増幅器の利得は感圧 容量Cxを測定する状態で1であり、センサのべ一ス・キャパシタンスが10pF であるので帰還キャパシタのキャパシタンスは10pFとなる。 Table 3.6電荷増幅器に用いた定数 部品番号 定数 備考 R1 10MΩ 公差:0.5%、温度特性:±50ppm/℃以下 R2 10MΩ 同上 R3 100kΩ 同上 CF 10pF 公差:5%、温度特性:0∼−100ppm/℃ U1 OPA343 消費電流:0.85皿A(at 5V)、開放利得:55dB(at 10kHz) 102 80 70 雷60 巳 碧 050 40 30 1.E+03 1.E+04 1.E+05 Frequency(Hz) Fig.3.16 CMOS演算増幅器のAC特性比較 また用いた演算増幅・器の利得特性はFig.3.16に示す様に他の回路部で用いた CMOS演算増幅器と同等である。しかし電荷増幅器の帰還回路における直流 インピーダンスが高いため低入力バイアス電流でかつ低オフセット電流のCM OS演算増幅器を用い動作直流電位を安定化させた。 0.035 0.03 0.025 お 国 0.02 δ 』 0.015 8 国 0.01 0.005 0 −0.005 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 (Cx−CY)/Cx Fig.3.17演算増幅器の利得と非直線性誤差 次に演算増幅器の利得と4象限レシオメトリック信号処理後の非直線性誤差 の関係を述べる。演算増幅器の利得は周波数10kHz、100kHz、1MHzでそれぞ れが55dB、35dB、15dBに低下することを用いた。また感圧容量Cxと基準容 量CYのべ一ス・キャパシタンスを10pFとし、感圧容量Cxはスパン圧力が印加 103 されると11pFとなり、基準容量CYは圧力感度を持たないものとした。また帰 還キャパシタCFは10pFとし直流バイアス補償用抵抗はR1:10MΩ、R2:10MΩ、 R3:lookΩとした。 Fig.3.17は上記条件における測定結果を示す。4象限レシ オメトリック信号処理の効果により非直線性誤差に対する目標性能を満足でき る利得は15dB程度で十分である15)。 Fig.3.18とFig.3.19は回路の動作温度範囲における信号選択回路部分と電荷 増幅器部分の消費電流に対する温度特性を示す。図より両者共に消費電流は温 度に依存せず約0.55mAと約0.85mAで一定であり目標性能を満たしている。 0.6 (0・5 亘α4 1ii °・3 肇α2 0.1 0.0 一20 0 20 40 60 80 温度(℃) Fig.3.18信号選択回路部分の消費電流に対する温度特性 1 I l 0.8 1 ? 旦o.6 u 1 l l I I 灘0.4 │− 渓 1 」 0.2 0 一20 0 20 40 60 80 温度(℃) Fig.3.19電荷増幅器部分の消費電流に対する温度特性 104 3.3.4検波回路と平滑回路 Table 3.7は検波回路と平滑回路の目標性能を示している。既に述べたがセ ンサは純粋なキャパシタでなく直列抵抗と並列抵抗成分を持つ。この問題は検 波回路を電荷増幅器に入力する正弦波信号に同期させて検波する同期検波回路 を用い容量成分と抵抗成分を位相分離することで対応した9・16)。本回路におい てセンサの直列抵抗が除去可能な目標性能は本質安全防爆、センサへの長い配 線、センサの電極膜のシート抵抗等からの要求で最大100kΩまで上昇するとし、 またセンサの並列抵抗が除去可能な目標性能はセンサ・キャパシタ部における 表面吸着水分等の漏洩電流の影響より最小1MΩまで減少するとした。また検 波後の信号からリップル成分を除く平滑回路では測定精度に対して十分なリッ プル成分まで平滑するに必要な時間を一般的な圧力伝送器の応答速度と同等な 時間に設定した。 Table 3.7検波回路と平滑回路の目標性能 項目 1 センサに寄生する直列抵抗の許容範囲(MΩ) 2 センサに寄生する並列抵抗の許容範囲(MΩ) 3 応答速度(msec at 99.9%応答) 4 消費電流(mA at 5V) 最小 中心 最大 『 一 0.1 一 一 一 10 25 一 一 1 3rd−order low−pass filter 「一一一隔隔一一一鴫咀一一一≡r−一日一隅髄rD置em制A叩i五er l l w互th llst−・rder 1・肺ass棚te・ 幽 func偵on ロ ニ ニ lr−一一一一一一一一一一一一「 ; 丁 工 ll l 7− SynchronoUS l {コ: 工 1 = = 1 −− 1 3rd−order low−pass fiIter Fig.3.20検波回路と平滑回路 105 1 Fig.3.20に検波回路と平滑回路を示す。検波回路はバンド・パス・フィルタ 回路から出力される正弦波信号の正と負の部分をそれぞれ半波整流する。この 2つの半波整流された信号は別々に平滑され直流信号のみを得た後、2つの直 流信号の差が差動増幅器にて演算される。この操作は1つの信号を同期検波回 路にて2つの差動化した信号とした後、2つの信号を減算しているため信号に 含まれる共通誤差要因を除去する効果がある。例えば正弦波信号中の直流を含 む測定周波数から見て低い周波数成分を持つ誤差信号は同期検波回路にて2つ の信号にほぼ等しい量で分配され2つの信号を減算することで除かれる。さら に正弦波信号中の測定周波数から見て高い周波数成分を持つ誤差信号も同様な 原理で除かれる。従って、この回路方式における誤差成分の除去効果は測定周 波数近傍が最も悪化する。 Table 3.8は検波回路と平滑回路に用いた回路定数である。検波回路は測定 周波数が10kHzと比較的低周波であるため最も簡単に構成できるアナログ・ス イッチを用いた同期検波回路とした。検波後の半波整流された大きな高調波成 分を含む信号が直接印加される平滑回路の抵抗RlとR2は高周波の雑音信号に対 応するために小さな値を用いた。平滑回路は目標精度と応答速度より通過帯域 の上限、即ちロール・オフ・ポイントを100Hzとし測定周波数である10kHzの 交流成分を一80dBまで減衰させる必要がある。従ってロー・パス・フィルタ全 体で4次のロー・パス・フィルタを形成し、かつフィルタの4つの極が可能な 限り共通となるように設定した。 Fig.3.21は検波回路と平滑回路による雑音、即ち誤差成分の除去効果を最悪 の位相条件にてシミュレ…一・一・ションした結果を示す。シミュレーション条件はア ナログ・スイッチが検波する回数、即ち平滑する波の数を256個とした。図 のnは信号の周波数と誤差となる雑音信号の周波数に対する比である。即ち n=1は測定周波数である10kHzを示し、かつ位相差θ=0の場合は自らの測定信 号のことを指す。従って測定信号と同じ周波数と位相条件を満足した誤差とな る雑音信号は除去出来ない。しかし信号周波数以外の帯域にある最大の誤差と なる雑音信号は信号周波数の3倍の周波数成分であり、かつ信号とは同相関係 を持っ雑音である。この最悪条件においても本回路方式は雑音を約1/20まで減 衰させることが可能である。また信号周波数以下の低周波領域では最悪位相条 件においても約1/200まで雑音を減衰させる能力がある。 106 Table 3.8検波回路と平滑回路に用いた定数 部品番号 定数 備考 R1 6.8kΩ 公差:0.5%、温度特性:±50ppm/℃以下 R2 6.8kΩ 同上 R3 91kΩ 同上 R4 91kΩ 同上 R5 100kΩ 同上 R6 100kΩ 同上 R7 100kΩ 同上 R8 100kΩ 同上 Rg 100kΩ 同上 Rlo 100kΩ 同上 R11 100kΩ 同上 R12 100kΩ 同上 C1 0.068μF 公差:5%、温度特性:0∼−100ppm/℃ C2 0.068μF 同上 C3 0.0068μF 同上 C4 0.0068μF 同上 C5 0.0033μF 同上 C6 0.0033μF 同上 C7 0.0033μF 同上 C8 0.0033μF 同上 U1 TLC4066 静的消費電流:0.01畝(at 5V)、オン抵抗:200Ω U2 MAX4330 消費電流:0.275mA(at 5V)、開放利得:50dB(at 10kHz) U3 MAX4330 同上 u4 MAX4330 同上 次に同期検波回路がセンサ素子に直列に存在する抵抗成分と並列に存在する 抵抗成分による誤差を位相分離し除去する能力を述べる。センサ素子に直列に 存在する抵抗成分と並列に存在する抵抗成分は回路の電源電圧が無限大であれ ば非線形性誤差や温度特性等に影響しないことが解っている。しかし実際の回 路では有限の電源電圧範囲で動作しているため振幅が飽和してしまう。従って 抵抗成分の存在とその大きさは許容される振幅余裕度で決定される。 107 1 0.1 圏 Z O.01 お 0.001 0。0001 0.1 1 10 n=f/ち(fo:10KHz、周波数の比) Fig.3.21同期検波による雑音除去効果 Fig.3.22は測定信号の周波数を10kHzとしセンサの感圧容量cxと基準容量 CYの差が1pFとしセンサに直列抵抗Rxが存在した状態における出力信号の変動 率を示している。この図から直列抵抗が1MΩとなっても振幅が0.4%程度しか 小さくならずダイナミック・レンジから見て測定精度に全く影響しない。 10 l I L } 1 1 一 ( 1 Ei2 1 1 1 l i l l 1 i 1 ← l l l s 1 F: 1 】 O.1 ト 1 1 L 塵 1 1 1 [ 1 1 「「 1 1 i 1 l L 一 「II 0.01 丁一 1 ; 1「 1.E+04 1. E+05 1. E+06 センサへの直列抵抗成分(Ω) Fig.3.22直列抵抗による振幅の変動率 Fig.3.23はFig.3.22と同様な条件でシミュレーションした結果である。セン サ素子に並列に存在する抵抗成分が10MΩまで低下すると振幅が約2倍に大き 108 くなる。従って振幅余裕度が2倍以上なければ振幅が飽和してしまい、センサ 内部の吸着水分による漏洩電流の影響は信号処理回路のみで解決できないこと が解った。 1000 100 奮 巴 榔10 1 1.E+06 1.E+07 1.E+08 センサへの並列抵抗成分(Ω) Fig.3.23並列抵抗による振幅の変動率 0.015 0.01 0.005 9 0 ) 鯉一〇・005 継一〇・01 −0。015 −0.02 −0.025 −2−1.5−1−0.500.511.52 入力電圧(V) Fig.3.24クロック・フィードスルv−・・一・電荷によるオフセットエラー 次に同期検波回路に用いたアナログ・スイッチのクロック・フィV・一一・ドスルS−一一一一 誤差とその対策を述べる。用いたアナログ・スイッチは最も一般的なTLC4066 である。このアナログ・スイッチより生ずるクロック・フィードスルー誤差は 109 電荷量として回路に注入される。従ってクロック・フィードスルー現象により 回路に生ずる誤差電圧はアナログ・スイッチの後毅にある平滑回路のキャパシ タンスで決まり、キャパシタンスに反比例して小さくなる17ロ24)。 Fig.3.24はクロック・フィードスルー現象により回路に生ずる誤差電圧を平 滑回路に用いた2種類のキャパシタンスに対してP−SPICEによりシミュレーシ ョンした結果を示している。 実際の回路ではアナログ・スイッチがゼロ電圧でスイッチング動作している ため図の入力電圧Vin=OV近傍に対するクロック・フィードスルー誤差が現れ、 スパン誤差は生じない。図より入力電圧Vin=OV近傍におけるアナログ・スイ ッチTLC4066が生み出す誤差電荷は約1pCと見積もれる。 上記の検討より平滑回路に用いるキャパシタンスは10000pF以上を必要とす る。これは本回路全体に要求される精度が0.1%FS以下であり、他の部分で生 じる誤差とその寄与を考えるとクロック・フィードスルー現象に許される誤差 が0.01%FS以下となったことによる。 IE−03 1E−04 E 理1E−05 9 nP IE−06 1E−07 1E−08 IE−09 1.E+04 1.E+05 1.E+06 1.E+07 漏洩信号の周波数(Hz) Fig.3.25信号電圧とフィードスルーによる誤差電圧の比 次に同期検波回路に用いたアナログ・スイッチの遮断状態における入出力間 のトーキング現象(オフ・アイソレーションとも呼ばれる)、即ち信号のフィ ードスルー現象とその対策を述べる。遮断状態におけるアナログ・スイッチの 直流抵抗は極めて大きく、その値は数GΩ以上にも達する。しかし遮断状態に おけるアナログ・スイッチはドレイン・ソース間に存在する小さなキャパシタ 110 の存在により、そのインピーダンスは極端に低下する。例えばドレイン・ソー ス間に存在するキャパシタがO.01pFの小さななものであっても遮断状態におけ るアナログ・スイッチのインピーダンスは1.6GΩまで悪化する。 この信号のフィードスルV−−lfi象による誤差は、アナログ・スイッチの遮断状 態における誤差電流とアナログ・スイッチの導通状態における信号電流の比を 大きくすることで対策した。この誤差電流と信号電流の比は平滑回路に用いた キャパシタンスにより決まる。平滑回路に用いるキャパシタンスが大きいと誤 差電流により生じる誤差電圧が小さくなるためである。Fig.3.25は平滑回路の キャパシタンスを変えて、信号成分のみで現れる信号電圧と遮断状態における アナログ・スイッチが信号をフィードスルーすることにより生ずる誤差電圧を 示した。図よりアナログ・スイッチの遮断状態で平滑回路に漏れる電荷量は平 滑回路のキャパシタのキャパシタンスが100pF程度であれば精度に全く影響し ないことが解る。 次に同期検波回路により半波整流された正弦波信号から平滑回路で直流信号 成分のみを抽出するために必要な時間、即ち応答速度を述べる。Table 3.1よ り回路全体の応答速度は最大でO.5secを満足すれば良い。さらに4象限レシオ メトリック信号処理のため4つの状態量を測定するため、1状態当りに必要な 応答速度は0.125secとなる。平滑された信号は∠Σ変調方式アナログ・デジタ ル変換器を用いてマイクロ・プロセッシング・ユニットに取り込まれ各種デジ タル信号処理が施される。ここで用いた∠Σ変調方式アナログ・デジタル変換 器は原理上、連続信号を取り扱うことに優れるがアナログ・スイッチを用いて 不連続となる信号には長い応答時間を要する欠点がある。本回路に用いた∠Σ 変調方式アナログ・デジタル変換器のステップ応答時間は約0.1secを要する。 従って平滑回路部分に許される応答時間は10msec程度となり、応答速度を速 めるために4次のロ 一一・パス・フィルタを用いている。 Fig.3.26は平滑回路に接地電位、即ち入力電圧Vin=OVの直流信号を入力し 安定させた後、半波整流信号を入力し無限時間後の出力に対する各時間での応 答特性、即ち応答精度を示した。図より応答精度が0.Ol%FSにおいても十分に 目標時間を満たしていることが分かる。 Fig.3.27は回路の動作温度範囲における検波回路部分と平滑回路部分の消費 電流に対する温度特性を示す。図より消費電流は温度に依存せず約0.83mAで 一定であり目標性能を満足した。 111 100 10 お Y1 8 国 0.1 0.01 0 2 4 6 8 Time(msec) Fig.3.26平滑回路のステップ応答特性 1.0 0.8 密 旦o.6 灘0・4 0.2 1 11 1 0.0 −20 0 20 40 60 80 温度(℃) Fig.3.27検波回路と平滑回路部分の消費電流に対する温度特性 112 3鴻インターフェv・・・…t・Nス回路の性能評価 ここではセンサ部を除いたインターフェース回路の性能評価結果を示す。 Table 3.9基準キャパシタとLCRメータを用いた回路の評価結果 嚴xed capacitance measured by LCR meter Dif塞erence pF Cx+△Cx pF (CxrCY)1Cx 102.92 0.00 1①2.92 0.00515 0.00399 一〇.90 102.39 102.92 0.95 1①3.87 0.01425 0.01321 一〇.81 102.39 102.92 1.40 1①4.32 0.01850 0.01796 ・0.43 102.39 102.92 2.①0 104.92 0.02411 0.02351 一〇.47 102.39 102.92 2.92 105.84 0.03260 0.①3191 ・0.54 102.39 102.92 3.88 106.80 0.04129 0.04071 一〇.45 102.39 102.92 4.86 107.78 0.05001 0.04967 一〇.27 102.39 102.92 5.96 108.88 0.05961 ①.05910 一〇.40 102.39 102.92 6.89 109.81 0.06757 0.06708 一〇.38 1①2。39 102.92 8.02 110.94 ①.07707 0.07607 一〇.78 102.39 102.92 8.80 11L72 0.08351 0.08299 一〇.41 102.39 102.92 9.96 112.88 0.09293 0.09176 一①.91 102.39 102.92 11.02 113.94 0.10137 0.10030 一〇.84 102.39 102.92 12.02 114.94 0.10919 0.10831 一〇.68 102.39 102.92 13.00 115.92 0.11672 0.11559 一〇。88 102.39 102.92 14.10 117.02 0.125①2 0.12413 一〇.70 102.39 102.92 14.63 117.55 0.12897 0.12792 一〇。82 Base CY B3se Cx △Cx pF pF 102.39 Test data %FS 最初にインターフェース回路に対し固定キャパシタを組み合わせ、回路の特 性を評価した。その評価方法は組み合わせたセラミック・キャパシタをLCRメ ータとインターフェース回路の両者で測定し、その結果の差を用いて行った。 ただし実際のセンサに対するべ一ス・キャパシタである10pFを用いた場合、 LCRメータの測定精度が不充分となるため測定条件は基準容量CYに約100pF、 感圧容量Cxに約100pFのキャパシタを用い、さらに感圧容量Cxには圧力感度 に相当する小さなキャパシタ∠Cxを少しずつ加えて行った。またLCRメータは 安定動作する環境温度範囲が狭いため室温のみで行った。この方法で測定した 結果をTable 3.9に示す。 表よりLCRメータの測定値を横軸に取り、インターフェース回路の測定値を 縦軸とした結果をFig.3.28に示す。 Fig.3.29はLCRメータの測定値を横軸に取り、LCRメータとインターフェー ス回路による測定値の差を縦軸とした結果である。図よりLCRメータとの差は 最大で1%ほど生じた。この原因はキャパシタンスを変える度にLCRメv・一・・一タの 113 流・電圧計法を用い、LCRメータの測定原理には電流・電圧計法と類似の自動 平衡ブリッジ法を用いている。しかしLCRメv−一・タは感圧容量Cxと基準容量CY の差を直接測定できず各容量を測定したデジタル値から差を求めている。これ に対し本インターフェース回路はアナログ回路上で感圧容量Cxと基準容量CY の差を直接求め、感圧容量Cxと基準容量CYに共通で存在する寄生容量を除去 している点が異なる。さらに自動平衡ブリッジ法はブリッジ・バランスが得ら れた時にセンサの出力端子を接地でき、電流・電圧計法と同じ寄生容量に不感 とする性能を得る。従って自動平衡ブリッジ法はセンサのキャパシタンスが変 化している過渡状態や雑音の多い環境等で十分なブリッジ・バランスが得られ ない時に寄生容量の影響を受けてしまう。実際に本評価実験において全く同一 の固定キャパシタに対してLCRメータのプローブを着脱すると最大0.1pF程度 の差が出た。これは感圧容量Cxと基準容量CYの差である10pFから見て1%FS となり、この測定値のバラツキを裏付ける結果となっている。 上記の測定値におけるバラツキ以外の特徴として本インターフェース回路の 測定値はLCRメータより全て小さい値となっている点である。これは両者の回 路にオフセット誤差が存在するためと考える。なぜならば次に述べる回路の長 期安定性が約±0.002%FSと極めて高い性能を示していることによる。このレ シオメトリック信号処理後のオフセット誤差は測定誤差とならないので無視し た。 0.12 埋0.10 翼 駆0.08 ト」0.06 回0.04 0.02 0.00 0.000.020.040.060.080.100.12 LCRメータによる測定値 Fig.3.28 LCRメータと本回路の測定値の関係 114 0.0 (−0.2 il2 ).0.4 Q 埋.0.6 駆 一〇.8 一1.0 0.00 0.02 0.04 0.060.08 0.10 0.12 LCRメータによる測定値 Fig.3.29 LCRメータと本回路の測定値の差 次に本インターフェース回路の安定性を評価した。Fig.3.30はセラミック・ キャパシタを用いて室温における回路の安定性を評価した結果である。図は感 圧容量Cxに9pFのセラミック・キャパシタを用い基準容量CYに8pFのセラミッ ク・キャパシタを用い2日間放置した結果である。この実験により±20aF、即 ち±0.002%FS程度の変動値を観測出来た。この変動は使用したアナログ・デ ジタル変i換器の直線性誤差±0.0015%FSが原因している。また測定は室温に放 置し行ったので、昼と夜の温度変動による温度特性も寄与していると考えてい る。 ・il:(J( 埋攣 u攣 咽 一10 一〇・001遡 犠 一20 一〇.002 一30 一〇.003 0 10 20 30 40 時間(hour) Fig.3.304象限レシオメトリックス演算後の安定性評価 Fig.3.31はFig.3.30に示した4象限レシオメトリックス信号処理と従来の信 号処理の安定性を比較した結果である。図のCxとは本回路による感圧容量単体 115 の測定値を示し、(Cx−CY)は本回路による感圧容量Cxと基準容量CYの差の測定 値を示す。また、(Cx−CY)/Cxは上記の2つの測定値の比を求める従来の2象 限レシオメトリックス信号処理のことである。図より安定性は、Cx<Cx−CY< (Cx−CY)/Cxの関係があり静電容量式センサにおけるインターフェイス回路の 進歩もこの順序で生み出された。CxよりもCx−CYの方が安定性に優れる理由は 感圧容量Cxと基準容量CYの両者に共通な変動分が差により除かれているため であり、さらにCx−CYよりも(Cx−CY)/Cxの方が安定性に優れる理由は分母と 分子に存在する共通因子を全て相殺できるからである。4象限レシオメトリッ クス信号処理は2象限レシオメトリックス信号処理で相殺出来ない非線形要素 を相殺でき、周囲温度の揺らぎや湿度変化等の影響を大幅に除去できる。 2800 盆 )2300 坦 胴1800 鱗1300 思 摯800 畑 鯉 300 −200 0 5 10 15 20 25 30 35 40 時間(hour) Fig.3.31従来の信号処理と4象限レシオメトリックス信号処理の安定性の比較 116 3⑳6むすび サファイア静電容量式圧カセンサを用いた工業用圧力伝送器のコンセプトは サファイアの優れた耐食性、耐熱性、機械的特性を用いて隔膜プリV・・一一・構造とす ることにある。 従って、これに用いるインターフェース回路は隔膜フリー・センサの優れた 特性を引き出し、かつセンサの持っ欠点を補完しなければならない。 Table 3.10はインターフェース回路の研究により得られた成果を示す。この 結果は本インターフェース回路が工業用圧力伝送器として十分に要求を満たし ていることを示している。 Table 3.10インターフェース回路の研究成果 項目 1 低歪み正弦波発振回路と電荷増幅器を組み合わせることで電荷増幅器の仮想接地電位を直流化でき、 Zンサへの長い配線に存在する寄生容量の変動による影響を小さく出来た。 2 電荷増幅器と同調増幅器を組み合わせることで電荷増幅器で生ずる歪みとセンサへの長い配線に混 キる雑音を小さく出来た。 3 電荷増幅器と同期検波回路を組み合わせることでセンサに存在する直列抵抗と並列抵抗の変動によ e響を小さく出来た。 4 同期検波回路を差動化、即ちチョッピング回路とすることでセンサや回路に存在するコモン・モー ナ生ずる誤差を小さく出来た。 5 アナログ・デジタル変換回路に∠Σ変調方式を用いたことで微小信号を高分解能に測定できた。 6 センサへの長い配線に同軸ケーブルを用い同軸ケーブルの芯線と被覆線の電位を直流化することで イケーブルに存在する大きな寄生容量の変動による影響を小さく出来た。 7 レシオメトリック信号処理の採用によりセンサの温度・湿度特性、回路に用いた素子の利得の変動、 キ度特性、劣化、直線性誤差を小さく出来た。 8 4象元レシオメトリック信号処理の新たな考案により、従来のレシオメトリック信号処理で問題と 驩 路に用いた素子の劣化によるオフセット誤差やセンサへの長い配線に存在する寄生容量の変酬 謔驩e響を小さく出来た。 9 回路を低消費電力化したことで4∼20mA出力の2線式圧力伝送器に出来た。 117 参考文献 1) 日本電気計測器工業会 編、差圧伝送器の正しい使い方・日本工業出版・ 第1章 差圧伝送器の概論と第2章 差圧流量計、1986年 2)村田裕、マイコンとセンサのインターフェイス技術・日刊工業新聞社・ 第2章 センサの動作形態とその取り扱い・(1983) 3) 藤巻 安次、発振現象、ラジオ技術社・第14章 いろいろな回路・ (1988) 4) 菊地 憲太郎、高周波・発振・変調・復調・東京電機大学出版局・第3 章非正弦波発振回路(パルス回路)、(1992) 5) 稲葉 保、発振回路の完全マスター、日本放送出版協会・第4章 CRタ イミング発振回路、(1988) 6) トラ技original、発振回路/信号発生器完壁マスタv・一一・cQ出版社・第1章 方形波CR発振回路の設計、(1992) 7) 伊藤 秀明 他、 “負性容量回路と容量増幅回路の湿度センサへの応用 “、電気学会、C114−C、70、(1994) 8) 平田 輝考、木村 惇、 “差圧変換装置”、特許公報、出願人 横河電 機株式会社、出願番号特願昭60−282333 9) 本田 信、柳川 洋、 “インピーダンス測定ハンドブック インピーダ ンス測定とその応用”、日本ヒューレット・パッカード株式会社技術資 料、第2章 インピーダンス測定器、(1990) 10) 西野 治、入門電気計測、実教出版、第3章6節4項 インピーダンス 直読指示計器、(1991) 11) 木村 惇、 “差圧伝送器”、特許公報、出願人 横河電機株式会社・出 願番号 特願日召60−19732 12) X.J.Li and G. C. M. Me ij er,”A Novel Smart Resistive−Capacitive Angular PSD’,,1EEE,1MTC/94,Vol.1,pp308−311,(1994) 13) クリスタル・セミコンダクタカタログより 14) アナログデバイセスカタログより 15) 増田 誉、望A 孔二、渡辺 健蔵:“差動容量式圧力センサの高精度 信号処理”、:静岡大学大学院 電子科学研究科研究報告、第18号、 p.5−10、 (1997) 118 16)T.H. Wilmshurst著、今井 秀樹、河野 隆二 共訳、電子計測におけ る雑音除去・信号再生技術、啓学出版、第7章 周波数領域の観点から 見た位相変動検出器、(1987) 17) Rolf Unbehauen,Andrzej Cichocki,“MOS Switched−Capacitor and Continuous−Time Integrated Circuits and Systems”,Springer− Verlag,2.4 MOS Switches p.112−116,(1989) 18) C.Toumazou,J. B. Hughes&N. C. Battersby,“Switched−Currents an Analogue Technique for Digital Technology”,4.5 Charge Injection Errors p。99−116,(1993) 19) JE−HURN SmEH,MAHESH PATIL,BING J. SHEU, ‘‘Measurement and Analysis ofCharge Injection in MOS Analog Switches”,IEEE Jo urnal ofSolid−State Circuits,Vol. Sc−22, No.2, p.277−281,(APRIL.1987) 20) Christoph Eichenberger and Walter GuggenbUhl,c‘DuMmY Transistor Compensation ofAnalog MOS Switches”,1EEE Journal of Solid−State Cireuits,Vo1.24, No.4, p.1143−1146,(AUGUST. 1989) 21) C.Eichenberger and W. GuggenbUhi,“Charge Injection of Analogue CMOS Switches”,IEE Proceedings−G,Vol.138,No.2, p.155−159,(APRIL.1991) 22) David Macquigg,“R.esidual Charge on a Switched Capacitor”, JEEE Journal ofSolid−5「tate Circuits,Vol. sc−18,No.6,p.811− 813,(DECEMBER.1983) 23) BING J. SHEU,CHENMING且U,“Switch−lnduced Error Voltage on a Switched Capacitor”,1EEE Journal ofSolid−State Circuits, Vol. sc−19,No.4,p.519−525,(AUGUST。1984) 24)Hyeong−Woo CHA and Kenzo Watanabe,“A clock−Feedthrough and Offset Compensated Fully−Differential Switched−Current Circuit”, IEICE Trans. Fundamentals,Vo1. E78−A, No.11,(November l995) 119 4.1はじめに この章ではセンサとインターフェイス回路を結ぶ配線を目標性能である10m まで可能とするためのインターフェイス回路とケーブルの開発を述べ、さらに 隔膜フリー・センサでは達成不可能と考えられていた防爆性能に対して、イン ターフェイス回路のケースを耐圧防爆に対応させ、かつセンサ部を本質安全防 爆とするためのエネルギー制限回路を測定誤差に影響させない回路構造とした 開発を述べる。最後に、第2章と第3章で述べたセンサとそのインターフェイ ス回路を組み合わせ、かつセンサとインターフェイス回路を結ぶ長い配線を用 いた圧力伝送器としての総合性能を述べる。 上記の総合性能において、現時点で静電容量式圧力センサに関する性能試験 方法の公的な規格は存在しない。そこで本研究ではピエゾ抵抗式圧カセンサに 関する試験規格を流用することにした。 このピエゾ抵抗式圧力センサの基本性能に関する試験方法は日本電子機械工 業会により作成されている。規格名は“半導体圧力センサ(ピエゾ抵抗拡散 式)試験方法”であり、規格番号はEDX−8402である。同じくピェゾ抵抗式圧 力センサの環境及び耐久性能の試験方法も日本電子機械工業会により作成され ている。規格名は“半導体圧カセンサ(ピエゾ抵抗拡散式)の環境及び耐久性 試験方法”であり、規格番号はEDX−8403である。 また本論分で用いた圧力センサに関する用語も日本電子機械工業会により作 成された“半導体圧力センサ(ピェゾ抵抗拡散式)通則” (規格番号:EDX− 8401)を用いている。 最初に、基本特性となる圧力感度特性と過大圧特性はセンサとインターフェ イス回路を同時に恒温槽に入れ、高精度な重錘式圧力発生器で圧力を印加し、 インターフェイス回路に装備したデジタル通信機能により測定値を読み出し評 価した。また、同じ測定系を用い直線性精度を評価した。 温度特性はセンサとインターフェイス回路を同時に恒温槽に入れ、圧力を印 120 加せずにオフセットの温度特性を測定した。圧力感度の温度特性は高精度に測 定することが困難なため実施しなかった。実施した環境温度の範囲はインター フェイス回路が凍結防止用の樹脂ポッティングを施していないため最低温度を 基板が凍結しない5℃とし、最高温度は使用した集積回路の発熱を考慮して 50℃とした。 最後に隔膜フリーセンサの特徴である高耐熱性をセンサ部のみ加熱し評価し た。センサ部の温度範囲は室温から200℃まで加熱し、さらに200℃から 室温まで冷却する1サイクルの温度サイクル試験を行った。さらに冷却後長時 間室温環境に置きセンサとインタS・・…−Lフェイス回路の安定性を評価した。 121 4.2センサとの接続 ここではサファイア静電容量式圧力センサとインターフェース回路の長い配 線との接続に伴う問題点とその対策を述べる。 Table 4.1はセンサとの接続部分の目標性能を示している。 Table 4.1センサとの接続部分の目標性能 項目 最小 中心 最大 1 使用する同軸ケーブルの規格 住8D−2V 2 同軸ケーブルの外径(m) 一 0.8 一 3 同軸ケーブルの芯線の外径(㎜) 一 0.26 一 4 同軸ケーブルの長さ1m当りのキャパシタンス(pF) 一 5 同軸ケーブルの最大長さ(m) 一 6 同軸ケーブル間の距離(㎜) 一 116 一 一 10 2 一 30 一 一 2065 一 一 商用周波数磁界不活性能試験規格に対する雑音傷害に 7 8 @ よる変動が0.1%FS以下となる磁界強度(A/m) @ (試験周波数:直流∼1GHz) 上記条件における電界強度(V/m) 上記の表より使用するケーブルは静電シールド効果を得るために同軸ケーブ ルを使用する1’8)。また同軸ケーブルは従来のリモート・シール型圧力伝送器 に用いられている圧力伝送用の液が封入された屈曲性を持つ管(キャピラリ・ チューブ)よりも細くするために携帯電話に使用されている同軸ケーブルとコ ネクタを流用し、ケーブルの長さもキャピラリ・チューブの最大長である10 mとする。この長いケーブルは外部から放射された電磁界エネルギーを受け信 号線に測定誤差となる起電力を生み出す。この電磁界エネルギーに関する主な 規格にはTable 4.2に示す放射性無線周波数電磁界試験規格と商用周波数磁界 不活性能試験規格がある。 122 Table 4.2主な放射性電磁界試験規格 項目 最小 中心 最大 11.5 一 一 0.0305 一 一 30 一 一 2065 一 一 放射性無線周波数電磁界による雑音障害による変動が 1 2 @ 0.1%FS以下となる電界強度(V/m) iat試験周波数範囲:80MHz−1GHz、周波数変化幅: @1%、変調方式:甜、帯域:1KHz、変調度:80%) 上記条件における磁界強度(A/m) 商用周波数磁界不活性能試験規格に対する雑音傷害に 3 4 @ よる変動がα1%FS以下となる磁界強度(A/m) @ (試験周波数:50,60Hz) 上記条件における電界強度(V/m) 上記に示す表の放射性無線周波数電磁界試験規格の電界強度は実用上から見 て小さく不充分であると考えられる。そこで本回路における目標性能は商用周 波数磁界不活性能試験規格の大きな磁界強度規格値のみを採用し、周波数範囲 を50Hzから1GHzまでとしている。これがTable 4.1に示した目標性能である。 Sign a亘SeleCtor コ m ロヨ r一越孟靴i浦盤雌「 11 1目Cx il SW2 1 11 ll l ll l l l l l I l CF l l l ilSW3 illCY /sw、 }矧」一一当 B P F 1∼Vrv ll 11 L=一…L一塁コL_三∴」 疋S最e.wave。,cillat。, with 2−pha,e。utput Fig.4.1センサ配線を3線式とした回路 最初に放射電磁ノイズにより界感圧容量Cxと基準容量CYの配線に誘起され る誤差電流を平衡させ相殺する方法を述べる。 Fig.4.1は3端子のセンサ、即ち電極取り出しが片側共通端子となる場合にお ける一般的な結線方法を示している。このセンサに対する結線状態で長い配線 部分に着眼すると2本の入力線と1本の出力線で構成されている。この様な非 対称構造の場合、長い配線に加わる外乱ノイズは非平衡状態で注入される。外 乱ノイズにより生じた起電力は誤差電流を生み出す。この様な非対称構造に注 入された誤差電流は入力と出力で逆向きに同じ大きさ、即ち平衡条件が成立せ 123 ず誤差電流が相殺できない問題を生じる。 Si gn al SeleCtor Ch ar ge Am plifier r−一一一一一゜一隅ロー唱鱗「 「日一隅日一一一購一ローロー一一隔「 ロ 1 −一・ I l l l T ;1 ; I SW5 1 !Sensor I 「一一一一一「lSWI l lr−一一 { l 1 Ii l l Cxl Il I Ii W2 1 i Il l ! ll SW3 1 CYl 1 梶w、 1∼十1−ti i l l 一 1∼VIN li l lI SW6 1 1 I l I CF l B P : ●○●6■ F 1 : 旨 UI I l II l l l l 1= II _ l l = L_ _____」」_____」三.____」 L________________」 疋Sin_ve。sci1墨at。r with 2.phase。utput Fig.4.2センサ配線を4線式とした回路 従って、本研究に用いたセンサとインターフェース回路は非平衡誤差を小さ くするためにFig.4.2に示す感圧容量Cxと基準容量CYに別々の入力線と出力線 を持つ4線式の対象構造を採用した。 Electric蛆aP P別帆tu s for potentia亘ly explosive atm o sp h er es −1皿trin sic s afety Sensor package ElectrlC皿ap p aratUS for shieldL llet for P otenti Ully explosive atm osp h er es elech・ostatic field[ −F1㎜eproofenclosure Fig.4.3センサへの配線の形状図 次にセンサへの長い配線部分と外部導体との間に生ずる静電結合と:静電誘導 起電力に対する対策を述べる。 124 Fig.4.3はFig.4.2に示すインターフェース回路のセンサへの長い配線部分の 詳細を示す。図に示す様に4本の配線は外部電位との静電結合を除く、即ち静 電シールドのために同軸ケーブルを用る。 通常、同軸ケーブルはケーブル外 部への漏れ磁束を小さくするために芯線(信号線)から給電し被覆線(シール ド線)を経由して受電する結線方法が取られる。しかし本回路では同軸ケーブ ルの被覆線を低インピーダンスの接地電位に結線することにより同軸ケーブル の芯線と外部導体との静電結合を遮蔽した。 Noise Somアce ∼ 昏 Sign田 saector P−一一一一』一』昌「 P 予 1 「一一「1 ●・ ●」 ● ひ ひ 極 ひ ●・ ●L ●L CS CS CS 盈Il ■ Cc ICC 瓢1 CS Cc ICC CX 塵 CF ● 幽 1 @ 薗7 1 CC CC 1塵o B P F ■ CC CC 小 昌工 Twiste“−P虹r coaコdal cahle 幽 1 塵 Il l自 塵l 冒 CY ・一・… @一一・一一1{一一一… 一・… 1 言 =@1 @ 塵 k三_.」L_三_一 Sin e.wave oscillator With Z−phase outPut Fig.4.4センサへの配線の等価回路 Fig.4.4はFig.4.3に示した構造を等価回路に置き換えて示している。図のキ ャパシタCsは外部導体電位と同軸ケv−…ブルの被覆線の間に生ずる寄生容量、キ ャパシタCcは同軸ケーブルの芯線と被覆線の間に生ずる寄生容量、インダクタ Lsは同軸ケーブルの芯線の自己インダクタ、Mは外部導体と同軸ケーブルの芯 線間の結合係数を示している。図より同軸ケーブルの被覆線を低インピーダン スで接地することで外部導体と同軸ケーブルの芯線間に対する静電シールドが 行える。しかし高インピーダンスノードとなる感圧容量Cxと基準容量CYの2 本の出力線は同軸ケーブルの被覆線と大きな寄生容量Ccを持つ。この寄生容量 の変化は誤差電流を生み出す。同軸ケーブルの芯線と被覆線に存在する寄生容 量CcはTable 4.1よりケーブル長さ10mで約1200pFとなる。本回路に必要な測 定精度がスパン圧力感度の0.1%FS以下でありセンサのスパン圧力感度が約1pF であるためキャパシタンスに換算すると必要な測定精度は1fF以下となる。従 って同軸ケーブルにおける約1200pFにもなる寄生容量の安定性は0.8ppm以下 125 が必要となる。この安定性は同軸ケーブルが屈曲や誘電体の温度・湿度特性等 の全ての影響を含めて得られなければならない性能となり実現不可能である。 上記の理由から本研究では寄生容量に不感となる回路方式を検討した。これ は寄生容量Ccの両電極を同電位とし、寄生容量Ccには電流が流れないように する回路方式である。これは電荷増幅器の反転入力端子を仮想接地することに 等しい。このためには電荷増幅器に用いた演算増幅器の測定周波数での開放利 得を大きくし、さらに帰還キャパシタCFのキャパシタンスをセンサのべ一スキ ャパシタンスの10pF程度まで大きくし帰還量を増加させ寄生容量に不感として いる。 次に、上記に述べた回路が寄生容量Ccの変化を除去できる効果を確認した。 確認方法は、最初に電荷増幅器の仮想接地部、即ち同軸ケーブルの芯線と被覆 線に対して寄生容量Ccに相当する固定キャパシタを接続し測定値を得て、次に 寄生容量Ccに相当する固定キャパシタを除き測定値を得た。この寄生容量Cc が存在する場合と存在しない場合における2つの測定値から変動率(%FS)を求 めた。この評価方法によりセンサへの配線が再調整無しに現場で任意に変えら れる最大長さを見積もれる。その他の測定条件は感圧容量Cxに10pF、基準容 量CYに9pFの基準固定キャパシタを用い室温にて行った。 Table 4.3は上記条件を用い評価した結果である。表の上から3つの結果は 従来の2象限レシオメトリックス信号処理に対する解析結果、P−SPICEによる シュミレーション結果、実回路での実験結果である。また表の最下部の結果は 4象限レシオメトリックス信号処理に対する実回路での実験結果である。表よ り2象限レシオメトリックス信号処理では100pF程度、即ち同軸ケーブルの長 さ換算で1mまでの寄生容量には対応できることが解る。また4象限レシオメト リックス信号処理では1000pF程度、即ち同軸ケーブルの長さ換算で10mまでの 寄生容量変化に対応でき、10mまでの同軸ケーブルならば任意に切断しても再 調整無しに精度を満足できることが解った。 Table4.3静電シールド効果の確認結果 Influence of Stray Capacitance(%FS) 2Quadrant Ratiometrics 4Quadrant Ratiome垣cs Stray Capacitance(PF) 100 330 1000 3300 10000 Theory 0.04 0.39 3.28 26.61 76.80 Simulation 0.03 0.35 3.14 26.09 76.42 Test 0.06 0.45 3.46 27.58 77.74 Test 0.02 0.05 ①.08 0.17 0.17 126 次にセンサへ給電する配線とセンサに流れる電流を受電する配線が作り出す 幅2mm、長さ10mの長方形コイルを貫く外部ノイズの磁束が生み出すコイルの 起電力と、この起電力とセンサのインピーダンスにより決まる誤差電流の除去 効果に付いて述べる。 本回路では誘導起電力を小さくするために長方形コイルを貫く磁束を少なく することで対策した。具体的には2つのセンサによる2組の長方形コイルとな る同軸ケV・一一・・ブルを高透磁率材料で作られた被覆管で覆い、磁束が被覆管内部を 迂回し、センサへの給電ケーブルとセンサからの受電ケーブルの隙間、即ち長 方形コイル内部を貫く磁束を少なくした。 この高透磁率材料には電気伝導度にも優れ耐熱性や耐食性にも優れる 78.5wt%の高ニッケル基合金であるパーマロイを用いた。パーマロイの透磁率 は熱処理条件や不純物の還元除去、さらにMo、 Cr、 Mn等の添加物により大き く変わる。ここでは市販品のPBパーマロイとPCパ・一マロイを比較検討した。 Fig.4.5は磁束が流れ易い被覆管に集中し、同軸ケーブルがある被覆管内部の磁 束密度を軽減している様子を模式的に示している。 Fig.4.6は上記の磁気シールドを用いずに目標性能で示した磁界強度を基に同 軸ケーブルにより作られた幅2mm、長さ10mの長方形コイル中を貫く磁束とそ の変化、即ち周波数から求めた長方形コイルに誘起される起電力を示している。 またFig.4.7はセンサの容量を10pFとしFig.4.6で求めた起電力より生ずる誤差 電流と測定信号のみによる信号電流との比を示している。図より目標性能で示 した磁界強度が400Hz以上の周波数成分を持つと目標精度を満足できないこと が解る。 shield net fbr electrostatic field signal line ⇔ shield net f(〕r magnetic field dielectrics Fig.4.5高透磁率被覆管による磁気シールドの模式図 127 1 0.1 Ro.01 鯉 0.001 0.0001 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.6シールドを用いない時のセンサに生じる起電力 10000 お 畢・0・・ 1 癬 100 ヨ e 10 蟹 1 離 0・1 Nnb O.01 i 0.001 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.7シールドを用いない時の信号電流と雑音電流の比率 Fig.4.8は管状の磁気シールドを主な高透磁率材料で作成した場合の磁気シー ルド率を示す。ここで磁気シールド率とは磁気シールドを用いない状態での磁 束密度と用いた場合の磁束密度の比とした。また磁気シールド率は円筒管の外 径と円筒管の肉厚の比で変化するため実際に用いる可能性の高い値でシミュレ ーションした。ここで用いた電磁気シミュレータは(株)エルフ社製の ELF/MAGICである。 実際の磁気シールド管は金属の細線を密な網線で円筒管状にしケーブルのフ レキシビリティを維持した。また磁気シールド管中には4本の細い同軸ケーブ ルが格納されているため磁気シールド管の内半径は最小10mm程度を必要とし 磁気シールド管の厚さは0.1mm程度となった。従って磁気シールド管の内半 128 径と磁気シールド管の厚さの比は0.01程度となる。図より磁気シールド管の内 半径と磁気シv−・一・ルド管の厚さの比が0.01であってもPCパーマロイを磁気シール ド管に用いた場合、磁気シールド率は一55dB以上が得られた。 次に高周波電磁界ノイズにおけるシールド効果とその効果の確認を述べる。 本回路では上記の高透磁率を持つ磁気シールド管に高電気伝導度も合わせ持 たせることで高周波電磁界ノイズにより生ずる高周波電流の表皮効果を用いた。 この表皮効果により測定誤差となる高周波電流は磁気シールド管の厚さ方向で 減衰し、信号線への誤差電流の注入を減衰させる。 10 0 雷一10 e−20 癬一30 zミー40 1_50 ,>s 脈一60 −70 −80 0.001 0.01 0.1 管の内半径と肉厚の比 Fig.4.8主な金属材料と円筒管の形状による磁気シールド率 100 10 § 辮1 慣 0.1 0.01 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.9厚さ0.1mmの金属を透過する電磁波の強度と周波数の関係 Fig.4.9は磁気シールド管の厚さを0.1mmとした場合における表皮効果のみで 129 電磁界ノイズの周波数が1kHzで0.01%、即ち一80dBまで減衰する。 Fig.4.10はFig.4.8に示した磁束密度を湾曲させる磁気シールド効果と Fig.4.9に示した表皮効果による電磁気シールド効果を重ね合わせた結果である。 1 0.1 § 癬0.01 慣 0.001 0.0001 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.10シールド管内部に透過する電磁波の強度と周波数の関係 上図に示した2種類の遮蔽効果により長方形コイルの起電力はFig.4.11に示 す値まで減衰する。 1E−05 1E−06 RIE.07 1E−08 1E−09 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.11シールドを用いた時のセンサに生じる起電力 Fig.4.12はFig.4.11で求めた起電力からセンサに流れる誤差電流と測定信号の みがセンサを流れる信号電流との比を示している。図より目標性能で示した磁 界強度と周波数範囲ではPBパーマロイ、PCパーマロイ共に十分に満足できる ことが解った。 130 1E−02 お 畢・E−03 辮1E−04 葦 Q 蝶…1E−05 網1E−06 AJ 恥1E−07 1E−08 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.12シールドを用いた時の信号電流と雑音電流の比率 本研究では上記に示したノイズ除去方法に加えて、Fig,4.13に示す様な対と なる細い同軸ケーブルをツイスト・ペアー状に加工し、さらに除去効果を高め ている。ツイスト・ペアー・ケーブルの雑音除去は、2本の同軸ケーブルを雑 音の波長より十分に短い距離でツイスト状に形成した場合、2本の同軸ケーブ ルに誘起される雑音電流が同一方向でほぼ同じ大きさになり、この雑音電流の 和を取ることでキャンセルする原理である。ツイスト・ペアー・ケv・・一・・ブルの効 果は放射電磁界の強度や周波数のみでは決定できず、発生源までの距離、発生 源の大きさ、入射方向等で大きく異なる。従って効果の確認は実際の回路とケ ーブルに対し簡易的なトランシーバ・ノイズ試験にて圧力伝送器からの出力値 の変動で確認した。その結果、全ての入射方向とアンテナとケーブルの密着状 態から10m以内の距離において出力の変動が測定分解能以下となり測定できず 目標性能である0.1%FS以下を満足している。 鵯羅識翻瀦鑑曲 秩ゥE ’瓢諜艦膿脚1曲 乙 shield net蚕or magne廿deld re血量C廿on 5 Slgnal ∼ rdector @dr cu置t max.10m @ on @de血1c αCY @power =膨 @CF CF CF ←1←1 re血量cdon BPF @dr cuit @ on @de血1c Tw重sted−P樋r co騒xi劉1 c紐b星e Senso叩猟玄age @powe『 Fig.4.13磁気シールド管内部の同軸ケv・一・一・ブルをツイスト・ペアーとした回路 131 4.3防爆対策 TabRe 4.4耐圧防爆性能を得るための条件 1 2 全体の条件 圧力伝送器全体では耐圧防爆性能を有すること。 センサ部のみは本質安全防爆性能の規格であるib機器を有すること。 この圧力伝送器を用いているシステムに供給されている電源電圧の最大値は許容変動範囲を含めてAC250Vとすること。 3 4 本質安全防爆における発火エネルギーを供給する電気回路は、接地線も含めた回路で設計 キること。 5 本質安全防爆性能を得るために使用するエネルギー制限素子、即ち安全保持部品が制限 キるエネルギーは本質安全防爆と定められた領域に対して、接地線を含めた全ての結線 態でも10mA以下の電流とすること。 6 エネルギー制限素子はインターフェース回路内に形成するため小型の素子を用い、かっ 路規模も小さくできること。 7 8 9 エネルギー制限素子は如何なる材料、構造を用いても半導体を使用しないこと。 エネルギー制限素子は如何なる材料、構造を用いても集積化しないこと。 エネルギー制限素子の最大定格は素子の製造者が保証した値であること。 抵抗器に関する条件 10 エネルギー制限素子として使用する抵抗器は必ずオープン・モードで破壊すること。 11 エネルギー制限素子として使用する抵抗器の内部及び外部構造は入力電流と出力電流が シ線状に流れること。 12 エネルギー制限素子として使用する抵抗器は被覆形を用いること。 13 エネルギー制限素子として使用する抵抗器の抵抗体は金属皮膜抵抗器及び酸化金属皮膜 ?R器を使用すること。 14 エネルギー制限素子として使用する抵抗器の絶縁体は金属酸化物を使用すること。 エネルギー制限素子として使用する抵抗器の最大電力は最大電源電圧が印加された状態での電力の1.5倍の安全値を有すること。 15 コンデンサに関する条件 16 エネルギー制限素子として使用するコンデンサはショート・モードで破壊しないこと。 17 エネルギー制限素子として使用するコンデンサは破壊時にキャパシタンスが減少する側で j壊しないこと。 エネルギー制限素子として使用するコンデンサの内部及び外部構造は入力電流と出力電流が直線状に流れること。 18 19 エネルギー制限素子として使用するコンデンサは高信頼性の固体誘電体型を使用すること。 エネルギー制限素子として使用するコンデンサは破壊時に巻き付けたフィルムが解け、ショートする可能性があるため巻線型を使用しないこと。 20 エネルギー制限素子として使用するコンデンサは他の方式を用いた如何なるコンデンサよりも耐熱性の高いセラミック・コンデンサを使用すること。 21 22 エネルギー制限素子として使用するセラミック・コンデンサは誘電体の厚さを厚くし、 ハ積を小さくした大型で小さなキャパシタンスを用いること。 23 エネルギー制限素子として使用するセラミック・コンデンサの耐電圧はAC 1500V i実効値)以上であること。 24 エネルギー制限素子として使用するコンデンサは3個直列で使用する。 ここではサファイア静電容量式圧力センサを隔膜フリー構造するために欠か 132 せない防爆性能を述べる。既に述べたが、工業用圧力伝送器における防爆性能 は欠く事の出来ない要求性能である。本研究のサファイア静電容量式圧カセン サの最終目標は工業用圧力・差圧伝送器から隔膜構造を除くことであるので、 防爆性能は必要不可欠である。 圧力伝送器における防爆性能とは可燃性及び爆発性ガスを測定媒体とする場 合、及び圧力伝送器の周囲が可燃性及び爆発性ガスで満たされる場合に対して 圧力伝送器が如何なる状態においても発火及び爆発に対する源とならない性能 である。従って圧力伝送器の周囲にある可燃性及び爆発性ガスが爆発し機器、 即ち圧力伝送器が破壊しないための性能とは全く異なる。 防爆性能は本質安全防爆と耐圧防爆に大別できる。本質安全防爆とは対象機 器が如何なる破壊状態においても対象とする可燃性及び爆発性ガスを発火させ ないエネルギーに制限できる性能を指す。また耐圧防爆とは対象機器内部に侵 入した可燃性及び爆発性ガスを発火及び爆発させても機器の外部にある可燃性 及び爆発性ガスに引火及び発火させないエネルギー遮蔽用の耐圧容器を持つ性 能を指す。 従来殆どの工業用圧力伝送器は計装上の容易さ等の理由から耐圧防爆性能が 選択され本質安全防爆性能を選択した計器は少ない。従って本研究の圧力伝送 器はセンサ部のみに本質安全防爆性能を持たせ、他の部分は耐圧容器に格納す ることで耐圧防爆性能を持たせる方法を選択した。これによりサファイア静電 容量式圧力センサを用いた圧力伝送器は最も一般的な耐圧防爆規格に準拠でき る。 上記の方法を選択することでインターフェース回路は新たに本質安全防爆性 能を必要とした。これはインタv−一・・フェース回路からセンサ部に供給するエネル ギーがセンサ部の如何なる破壊状態であれ可燃性及び爆発性ガスを発火させな い値に制限できる性能を指す。Table 4.4はインターフェース回路における上 記性能を得るための必要条件を示した。 上記の表に示した本質安全防爆性能を得るためのエネルギー制限素子、即ち 安全保持部品は防爆規格で認められ、かっ爆発実験等の実証実験にたえる部品 でなければならない。本研究では表の6項に示す小型化の要求から電荷増幅器 を除き抵抗器を用いた。安全保持部品として見たキャパシタの安全性は明らか に抵抗器に劣るとされている。従ってキャパシタの安全性をより高めるために 防爆規格で明記されていない表の20項から22項をキャパシタの仕様に追加した。 133 電荷増幅器に用いたキャパシタンスは3.3.3項の差動静電容量・電圧変換回路で 述べた10pFであり、表の24項より3個直列に接続するために、実際に使用する キャパシタは33pFとした。表の3項で定められた最大供給電源電圧である AC250V、60Hzが印加され3個直列したキャパシタの2個がショート・モード で破壊し残り1個のキャパシタがエネルギー制限素子として動作した場合の電 流は約3μAであり表の5項の条件から見て無視できる程小さい。 次に表の3項から5項に示す本質安全防爆とする領域に発火エネルギーを供給 できる結線条件を考える。Fig.4.13に示す様にインターフェ・・…一・・一ス回路における センサとの接続方法は4本の同軸ケーブルを用いている。さらに同軸ケーブル は芯線と被覆線の2本の電線に分離できる。従ってセンサ部、即ち本質安全防 爆とする領域に発火エネルギーを供給できる電線は合計8本となり、表の4項 で定められた接地線を含めると合計9本となる。圧力伝送器において測定対象 媒体が格納されている容器や配管が金属等の電気伝導性を持つ場合、これも接 地線と見なす。従って接地線にエネルギー制限素子を付与することは原理的に 出来ない。 上記の理由からセンサとの接続ケーブルにおける8本の電線は個別に接地線 と結合し本質安全防爆とする領域に発火エネルギーを供給できることになる。 しかし4本の同軸ケーブルの被覆線は任意の直流電位を持つ低インピーダンス 電圧源に並列接続すると1本のエネルギー供給線と見なせる。同様にセンサか らの2本の受電用ケーブルも終端で並列接続されているため1本のエネル’e’ 一一 供給線と見なせる。最終的にエネルギー供給線はセンサへの給電ケーブル2本、 センサからの受電ケーブル1本、同軸ケーブルの被覆線の1本による合計4本 となる。従って電線4本の合計で制限すべきエネルギーは表の5項より最大 10mAとなり、表の15項を最大電流にも適用すると約6.7mAとなる。 次に4本のエネルギー供給線に対するエネルギー制限素子と回路に付いて述 べる。センサへの給電ケーブルの2本は直接高抵抗素子でエネルギーを制限し ても、3.3.4項の検波回路と平滑回路で述べた直列抵抗に対する不感性能で十分 に対応できる。しかし高抵抗素子を用いると抵抗器とセンサ・キャパシタの間 にある長い同軸ケーブルに注入される雑音感度が上がってしまう。 そこで本研究では負帰還原理を用いて抵抗器のインピーダンスをセンサから 見て小さくした。Fig.4.14に示す信号選択器にある緩衝増幅器の出力端子と負 帰還入力端子にある抵抗器RRがそれである。また同軸ケーブルの被覆線も上記 134 と同じ回路を用いた。センサからの受電ケーブルは直列に3個接続した帰還キ ャパシタと並列抵抗、さらに演算増幅器の負帰還回路の抵抗器でエネルギーを 制限している。この電荷増幅器の帰還キャパシタと並列抵抗に対して最大供給 電源電圧AC250Vを印加しても、流れる電流は3μA程度と無視できるほど小さ い。従って図に示す7つの抵抗器RRに最大供給電源電圧AC250Vを印加し電流 を6.7mA以下とする設計となり、抵抗器RRのインピーダンスは261kΩ以上、 即ち270kΩとなる。 Signal・SeleCt・r rest「idion circuit C・mpensat・r f・r 「詩…「「膿絆二監墨螺 lRR h R3 l tl xl Ul I l塵 i li:ll 「 一 口 B P F llL____三_ __」 Fig.4.14本質安全防爆用回路 Fig.4.15は信号選択回路と同軸ケーブルの被覆線に対する電源に用いた緩衝 増幅器の出カインピーダンスと測定周波数の関係を示す。図に示した理想アン プとは、ここで使用したMAX4330と同じ開放利得と周波数の関係を持ち、位 相特性が周波数依存性を持たない演算増幅器を指す。図の2つの結果を比較す ると実際の素子で測定した出力インピーダンスは理想アンプより遥かに小さく なる。これは演算増幅器の非反転入力端子、即ち入力信号と反転入力端子の電 位差が演算増幅器内の位相回転により生じ、オーバー・ロード状態を生じてい るためである。 Fig.4.16は演算増幅器MAx4330の非反転入力端子と反転入力端子の電位差、 即ちオーバー・ロード量を示している。この方法は回路の位相余裕度を減少さ せるため過剰に用いると回路が自己発振する危険性を持つので注意を要する。 135 10000 (1000 9 λ100 挙 架・・ ミ ヨヨ 1 0.1 1.E+03 1.E+04 1.E+05 周波数(Hz) Fig.4.15緩衝増幅器の出力インピーダンス 0.005 (0.004 > )0.003 鯉0・002 鎚α… ・R O AJ−0.001 蟄㎜ R−0.003 K −0。004 −0.005 1.1 1.10002 1.10004 1.10006 1.10008 時間(msec) Fig.4.16緩衝増幅器の位相遅れ 136 4。4圧力伝送器の性能 4.4。1圧力感度特性と過大圧特性 最初に、開発した圧力レンジが5kPaのセンサとインター一フェイス回路を組み 合わせ、室温における圧力感度特性と過大圧特性を測定しTable 4.5とTable 4.6にその測定結果をまとめた。 ここでセンサが破壊される定格圧力以上の臨界圧力は破壊圧力と呼ばれ、過 大圧とは定格圧力以上で破壊圧力以下の圧力を指す。 また一般の工業用圧力伝送器における過大圧は定格圧力の1.1倍∼1.5倍が用 いられる。従って、本研究では最大の1.5倍を用いて行った9’11)。 Table 4.5インターフェイス回路にて測定した圧力感度を静電容量値に換算し た値 Input Senser Capacit鋤ce oressure iConversion 1)ata) CY pF CrCY kP劉 Cx pF 0 8,399 8,439 一〇.042 0.5 8,616 8,465 0,148 1 8,844 8,491 0,350 1.5 9,085 8,517 0,565 pF 2 9,341 8,543 0,795 2.5 9,613 8,57① 1,040 3 9,902 8,596 1,303 3.5 10,212 8,624 1,585 4 10,542 8,651 L888 4.5 10,896 8,679 2,215 5 1L277 8,706 2,568 5.5 U.687 8,734 2,950 6 12,130 8,762 3,365 6.5 12,611 8,791 3,818 7 13,134 8,820 4,312 7.5 13,706 8,849 4,855 上記表の測定値は、予めLCRメータにてセンサのキャパシタンスを印加圧 力ゼロ(=大気開放)とスパン(=5kPa)に対して静電容量値を測定し、イン ター一フェイス回路に装備したデジタル通信機能を用いインターフェイス回路に おける測定値を読み出し、その測定値を静電容量値に換算した結果である。 Fig。4.17は上記表に示した印加圧力に対する感圧容量Cxと基準容量CYの圧 力感度をグラフ化したものである。 137 14 葺13 羅12 諸” 擁・・ 軸9 8 印加圧力(kPa) Fig.4.17感i圧容量Cxと基準容量CYの圧力感度特性 上図よりセンサは定格圧力の1.5倍である7.5Kpaまで加圧しても滑らかな連 続性を維持し、ダイヤフラムの着底等による特異点が存在しないことを示して いる。 上図より感圧容量Cxと基準容量CYの圧力感度は2.3節で述べたそれより大き いことが解かる。これはセンサの直線性誤差を拡大させ評価するために、セン サのダイヤフラム半径を大きくすることで圧力感度を大きくしたためと、ダイ ヤフラムと基板の直接接合時の位置合わせ誤差を考慮して基準容量CYの位置を 感圧容量Cx側、即ち内側に形成したためである。 現在はダイヤフラムと基板の両面から高精度に位置合わせし、真空中で接合 できる直接i接合装置を作成し、基準容量CYはダイヤフラムの外周近傍に配置出 来るようになり、基準容量CYの圧力感度を小さくしている。 138 4.4.2直線性 Table 4.6正規化処理した圧力感度特性と直線性誤差 CxrCY R劉髄ometriCS oressure Measure hnearity Measure hnearity Measure hnearity Measure Linearity CY Cx Input @Data @Data @I)ata @】)ata %FS %FS %FS %FS %FS %FS %FS %FS %FS 0,000 0,000 0,000 0,000 0,000 0,000 0,000 0,000 0,000 10,000 7,531 一2,469 9,712 一〇.288 7,305 一2.695 9,563 一〇,437 20,000 15,451 一4.549 19,451 一〇,549 15,039 一4.961 19,179 一〇.821 30,000 23,829 一6,171 29,183 一〇.817 23,275 一6,725 28,894 一1,106 40,000 32,718 一7,282 38,986 一1.014 32,073 一7.927 38,724 一1.276 50,000 42,164 一7.836 48,924 一1,076 41,464 一8,536 48,647 4,353 60,000 52,227 一7.773 58,919 一1.081 51,539 一8,461 58,698 一1.302 62,348 一7,652 68,854 一1.146 70,000 62,989 一7,011 69,216 一〇,784 80,000 74,463 一5.537 79,360 一〇.640 73,957 一6.043 79,115 一〇.885 90,000 86,764 一3,236 89,625 一〇,375 86,468 一3.532 89,492 一〇,508 100,000 100,000 0,000 100,000 0,000 100,000 0,000 100,000 0,000 110,000 114,251 4,251 110,444 0,444 114,634 4,634 110,610 0,610 120,000 129,655 9,655 121,010 1,010 130,541 10,541 121,353 1,353 130,000 146,371 16,371 131,715 1,715 147,875 17,875 132,223 2,223 140,000 164,545 24,545 142,474 2,474 166,818 26,818 143,219 3,219 150,000 184,424 34,424 153,372 3,372 187,619 37,619 154,353 4,353 200 お180 塁16° 埋140 レシ粛呂ック2’ ・R120 彊、。。 顛8・ 峯6・ 署4° i罫窯感圧容量Cxと一 2: 印加圧力(kPa) Fig.4.18感圧容量Cxと基準容量Cyの差と4象限レシオメトリック信号処理 の圧力感度特性の比較 139 Table 4.6の測定値はセンサへの印加圧力がゼロとスパン(=・5KPa)の時のイ ンターフェイス回路による測定値を用い、他の印加圧力に対する測定値を正規 化処理した結果である。このセンサは直線性誤差を拡大し評価する目的でセン サのダイヤフラムの半径を大きくし圧力感度を目標値の1pFから約3pFに大き くしている。 Fig.4.18は感圧容量cxと基準容量cYの差と4象限レシオメトリック信号処 理後の圧力感度特性を正規化値にて示した。 0 .2 露 δ.4 坦.6 −8 一10 0 1 2 3 4 5 印加圧力(kPa) Fig.4.19感圧容量Cxと基準容量CYの差と4象限レシオメトリック信号処理 の直線性精度の比較 Fig.4.19はFig.4.18に示した2つの測定値の直線性誤差を示している。 上図より感圧容量Cxと基準容量CYの差を測定するよりも4象限レシオメト リック信号処理は優れた直線性精度を有するが、4象限レシオメトリック信号 処理による直線性誤差はセンサの圧力感度を大きくしたために2.3節で述べた それより大きくなった。また直線性誤差の最大値がスパン圧力の1/2の位置か らスパン圧力側に移行した。 この原因はセンサのダイヤフラムよりも白金電極膜の線膨張率が若干大きい ためにダイヤフラムの半径方向へ生じた圧縮応力と、サファイアよりも線膨張 率が若干大きいパッケージとの接合でダイヤフラムの半径方向へ生じた圧縮応 力の相乗効果による影響であると推察している。このダイヤフラムの半径方向 へ生じた圧縮応力により2,3節で用いたダイヤフラムの半径方向の擁み成分を 140 無視した微小擁み領域での近似は妥当性を失い、大擁み領域での近似を必要と することを示している。 0.02 お ま 0 穂 難㎝ 毒 魍一〇.04 一〇.06 0 1 2 3 4 5 印加圧力(kPa) Fig.4.204象限レシオメトリック信号処理と2次関数近似での直線性補正効果 この直線性誤差は2.3節で述べた2次関数で近似するとFig.4.20となり、目 標の±0.1%FS以下を満足した。近似関数は印加圧力のゼロ点、中点、スパン 点の3点を標本点とし生成させた。しかし図より2.3節で述べた近似関数に近 い結果、即ち誤差が3次関数に近い性質を示すが、2.3節で述べた近似関数よ りも若干歪んだ結果となった。これは重錘式圧力発生装置で発生させている印 加圧力の誤差と、上記に述べた大擁み領域の影響によるものと考えている。 重錘式圧力発生装置は主な誤差要因となるシリンダとピストンの間に生じる 動摩擦力を小さくする目的で重錘を回転させ、重錘の静止重量で発生圧力を制 御している。このため印加圧力を微圧領域まで小さくすると使用する重錘の静 止重量は軽くなり、回転している重錘の慣性運動エネルギV−・一・・も小さくなる。従 って微圧領域ではシリンダとピストンの間に生じる動摩擦力の影響により誤差 が大きくなる12)。 141 4.4.3温度特性 次に、センサとインターフェイス回路を組み合わせ印加圧力がゼロ、即ちオ フセット状態における温度特性を測定した。 25 (15 留 δ5 坦 雲一5 −15 一25 5 15 25 35 45 温度(℃) Fig.4.21感圧容量Cxと基準容量CYの差と4象限レシオメトリック信号処理 の温度特性の比較 0.5 0.4 0.3 iEN b]2 I i l l l QQuadmnt Rati・metrics「多 1タ t δo.1 坦0.0 縄 1 聾一〇.1 弾 岬 躯一〇・2 −0.3 −0.4 −0.5 , SQu劉dmnt ‘ 昌 I I 1 qatiometric 困 5 10 1520 253035 404550 温度(℃) Fig.4.222象限レシオメトリック信号処理と4象限レシオメトリック信号処 理の温度特性の比較 Fig.4.21はインターフェイス回路において4象限レシオメトリック信号処理 を行う前の感圧容量Cxと基準容量CYの差と4象限レシオメトリック信号処理 後の値をインターフェイス回路中に作成したデジタル通信機能により読み出し た結果である。感圧容量Cxと基準容量CYの差のみの温度特性は0.8%FS/℃と 極めて大きく目標性能に遠く及ばなかった。 142 上記と同様な測定方法で従来の2象限レシオメトリック信号処理と4象限レ シオメトリック信号処理の温度補償性能を比較するとFig.4.22となる。 2象限レシオメトリック信号処理による温度特性は±0.009%FS/℃程度であ り目標性能である±0.01%FS/℃以下を辛うじて満足する。また4象限レシオ メトリック信号処理による温度特性は±0.003%FS/℃程度であり、2象限レシ オメトリック信号処理の約1/3まで温度特性を小さくしている。 2象限レシオメトリック信号処理と4象限レシオメトリック信号処理の大き な相違点はレシオメトリック信号処理における主な誤差要因であるオフセット 誤差が除去されているかいなかである。従って、上図に示した2つのレシオメ トリック信号処理における温度特性の差はインターフェイス回路で生じたオフ セット誤差と推察できる。 143 4.4.4高温安定性 次に、センサとインターフェイス回路を組み合わせ、センサ部を約200℃ に加熱し、かっスパン圧力(二定格圧力)を1回印加し、その前後での安定性 を確認した。センサ部の加熱はセンサ・パッケN−一・…ジの外周にシース・ヒータを 巻き付け、その外周を断熱材で熱的に遮断し行った。圧力の印加は重錘式圧力 発生装置にて行った。 Fig.4.23は、この高温での安定性試験の全体像を示している。 110 100 220 Fト 90 80 奮70 i 「「圧力を印加した場合での レ 正規化した出力値 160β 1 δ60 埋50 一 Rヨヨ40 ・3・麺 印加圧力がゼロの場合で @の正規化した出力値 ’ 農30 畢20 黙10 1 1 Zンサ部の温度 一 〒 190 e …垂 7。翁 1 日 〇 −10 『 −20 i i 訓 I l 40 i l l 『 10 −30 0246810121416182022 時間(Hr) Fig.4.23センサの高温での安定性試験の結果 Fig.4.24は、上図に示したセンサ部の温度が約200℃に到達した領域を拡大 した図である。図より圧力印加の前後では約0.2%FSの変化、即ち圧カヒステ リシスが見られ、かつセンサ部の温度の変動により出力も大きく変動している。 これは圧力媒体である空気を熱交換せず室温のまま導入したためにセンサに温 度分布を生じ、これがセンサ・ダイヤフラムに不均一な内部応力をもたらし、 さらに電極取り出し部分に用いたAu−Ge共晶ハンダの高温塑性変形のために生 じたものと考えている。 144 6.6 208 お ( ) 日 5.4 202 5.2 201 5 200 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 時間(Hr) Fig.4.24200℃におけるセンサと回路の安定性 Fig.4.25は、 Fig.4.23に示したセンサ部の温度が約30℃まで冷却された後 の領域を拡大した図である。センサは約200℃の高温に曝された後でも± 0.04%FS以下の安定性を示した。 0.1 (0.08 躍o.06 δo.04 畏α・2 君㎝1 忌.・.・4 $−0.06 周一〇.08 1 −0.1 12 14 16 18 20 22 時間(Hr) Fig.4.25耐熱試験後の室温におけるセンサと回路の安定性 145 4.5むすび 今回開発した回路とそれを実装したプリント基板の図をFig.4.26に示す。 Fig。4。26今回開発した回路部の組み付け前の写真 Fig.4.27はFig.4.26の各基板がボードコネクタにより組みつけられた図で ある。 Fig。4。27今回開発した回路部の組み付け後の写真 Fig.4.26の中央上の基板が電源回路と端子台を実装した基板である。 Fig. 4.26の左下の基板はマイクロプロセッサー、EEPROM、 ADC、通信インター フェイス回路等のデジタル信号を主に取り扱う部品が実装されている。 146 Fig.4.26の右下の基板は、特に今回注力したアナログ回路部分が実装されて いる。図にある大きなエンジ色の部品は左下のデジタル信号を扱う基板からの 電源ラインを介して回り込むノイズを遮蔽するために使われているフィルタで ある。この基板の最も左端の中央部に実装されている同軸ケーブル用コネクタ がセンサ素子と長い配線で結ばれる部分であり、このコネクタは携帯電話のア ンテナへの接続に用いられている超小型のコネクタを用いた。 Fig.4.28高温用圧力センサの概観写真 Fig.4.28はセンサ素子、パッケージ、回路の長配線化による耐熱効果を用い た高温用圧力伝送器である。図の左側のケース内部に信号処理回路がFig.4.27 の組み付け状態で格納されている。 センサ素子とパッケージは図の右端の円筒部分にあり中央の円筒管は当初P Cパーマロイで設計したが溶接性と切削性の問題から透磁率が比較的高い軟鋼 に変更し、軟鋼の表面にステンレスメッキを施した材料を使用した。また長配 線部分以外の回路部分では実験により極めて高い耐ノイズ性を有していたので、 回路を格納しているケースの材質は安価なアルミニウムを主体としたダイキャ ストで製作した。 第4章4節の高温安定性試験は図の右端にあるセンサ素子とパッケージ部に シース・ヒータと断熱材を巻き付け行った。またこの様な高温媒体の測定にお いて長配線化技術を得たことにより回路部分である左端のケース温度はほぼ室 温付近まで熱隔離ができた。 第4章4節のサファイア静電容量式圧カセンサとそのインターフェイス回路 の組み合わせ試験により2.3節で求めた設計結果、即ち理論計算値とほぼ一致 することが解った。これはインターフェイス回路がサファイア静電容量式圧カ センサの特性を忠実に測定している結果であり、インターフェイス回路の品質 の高さを証明している。 また、今回作成した圧力レンジが5kPaの微圧センサにおいてセンサ・パッケ 147 一ジによる応力は無視できないほど大きいと推定され、さらに高精度でかつ高 耐熱化するためにダイボンド材料や電極取り出し材料を再度検討する必要を見 出した。 高温安定性試験では測定装置の不安定性の影響が大きく正確な測定が出来な かった。今後は印加圧力媒体も十分に熱交換し温度を安定させた測定装置を製 作する予定である。また200℃以上の温度に耐えうる同軸ケs・・一…ブルが入手でき なかったため十分な耐熱性試験が出来なかった。今後は同軸ケーブルが高温と なる部分のみに対して、同軸ケーブルの誘電体にガラスやセラミックを用い独 自の同軸ケーブルを製作する予定である。 さらに4象限レシオメトリック信号処理は一つの圧力値を確定するために4 つの状態量を測定する必要がある。従って、圧力や温度が大きく変化している 環境では、測定した4つの状態量の圧力や温度が異なり測定誤差を大きくさせ る。この対策として現在はインターフェイス回路の高速化を検討している。 148 参考文献 1)NTT鈴鹿電気通信学園監修、実務家のためのデータ伝送技術・電気通 信協会、第2章 伝送技術、(1986) 2) 岡村 建夫、解析 ノイズ・メカニズム・CQ出版・第5章・(1987) 3)高木治夫、梅林哲郎、トランジスタ技術Specia1 N・・22デジタル 回路のノイズ対策技術の全て、CQ出版、第9章 伝送ケー・一・ブルの研究・ (1990) 4) 酒井 洋、森 武昭、大矢 征、ノイズによる誤動作と対策、日刊工業 新聞社、第3章、(1990) 5) 伊藤 健一、アース回路、日刊工業新聞社、第9章、(1973) 6)且enry W. Ott,”N・ise Reducti・n Techniques in electr・nic System”・ JOHN WILEY&SONS,(1975) 7)C.D. M・tchenbacher,J. A・C・nnelly・”L・w−N・ise Electr・nic System Design”,JOHN WILEY&SONS,(1993) 8) 吉田 武、改訂 高周波回路設計ノウハウ・CQ出版社・第1章5節 同 軸ケーブル、(1994) 9) 富士電機iカタログ、 “FCXシリーズ”より、(1994) 10) 長野計器カタログ、“圧力センサ応用製品セレクションガイド”より 11) ローズマウントカタログより 12) 計測管理協会 編、圧力の計測、コロナ社、(1987) 149 本研究は過酷な環境下でも使用できる工業用圧力発信器に対して隔膜構造を 用いずに構築することを目標とした。このために単結晶サファイアを用いた静 電容量式圧力センサとその信号処理回路を開発した。 センサの構成材料は過酷な環境下で使用できる材料を調査し、単結晶サファ イアが最も適する材料であることを見出した。単結晶サファイアは完全弾性体 であり硬度が高く耐食性にも優れる。これは優れた圧力センサを作る上で重要 な性質であるが、反面、この性質は加工を困難とさせた。特に単結晶サファイ アの穴開けや溝形成は通常の機械加工が使用できず、単結晶サファイアに適し た研磨技術やドライ・エッチング技術を開発した。 また圧力測定原理は大きな弾性率を持つ単結晶サファイアが欠点となず、高 温でも使用できる静電容量式を選択した。この静電容量式圧カセンサに必要な 平行平板キャパシタは単結晶サファイアのダイヤフラムと基板を介在物なしに 接合する直接接合技術を開発し、これに用いた。 さらにセンサ・キャパシタの電極膜には単結晶サファイアの線膨張率に近く、 機械的かつ化学的にも安定性の高い白金を用いた。 上記の開発により小型化が困難となる圧力レンジである5Kpaの微圧センサを 作成した。この微圧センサのチップサイズは約口7mmであり、ダイヤフラムの 直径は約φ4.3mmであり、ダイヤフラムの厚さは約t:0.05mmである。またセ ンサ・キャパシタの電極間距離は約3μmである。 センサには直線性誤差、温度特性、湿度特性等の誤差をレシオメトリック信 号処理により除去するために感圧容量Cxと基準容量CYの2つのキャパシタを 内臓させた。この2っのキャパシタのべ一ス・キャパシタンスは共に約10pFで あり、感圧容量Cxの圧力感度はスパン圧力印加時に約1pFだけ増加するよう設 計した。 このセンサチップは、耐食性の高いニッケル基合金板と予め拡散接合により 接合された台座(サファイア・カバー一・}とも呼ばれる)と固液間反応接合技術を 用いて接合されパッケージに収められている。サファイアとニッケル基合金板 150 の拡散接合とは高温・高圧下においてサファイア側ヘニッケルが化合物反応に より拡散し接合界面にNiA1204の化合物を形成することにより行われる方法で ある。 サファイア・センサとサファイア・カバv・一・・の固液間反応接合技術とはゾル’ ゲル法による酸化アルミニウムの超微粒子表面に薄い酸化ホウ素膜を形成し・ 化合物反応により接合する技術であり、接合界面にはα一A1203とB4A118033が 生じ接合される方法である。 信号処理回路は印加圧力により生じたセンサの微小な容量変化を高精度に測 定するために電荷増幅器を用いた電流・電圧計法を開発した。 電荷増幅器を用いた電流・電圧計法は位相の回転を伴わないため、この性質 を利用しセンサに寄生する抵抗成分による誤差を位相検波回路により除去した。 センサや回路に存在する直線性、温度特性、湿度特性等の誤差は4象限レシ オメトリック信号処理を施すことで除去した。 信号処理回路に対する断熱機構にも使われる隔膜構造の排除はセンサと信号 処理回路の配線部分をケーブルで接続し圧力伝送器の耐熱性能を確保した。こ のケーブルに混入する磁界ノイズはシールド部分を通り信号線部分を迂回させ、 かつ電界ノイズは導体シールドで遮蔽した。さらにケーブルはツイスト゜ペア ー構造とした4線シ・・…一・一ルドケーブルとすることで混入したノイズを相殺した。 これらの技術により長さ1mのケーブルを用いた圧力伝送器としての総合性能 は、 1、 測定分解能:約±0.001%FS(=約±10aF) 2、 2次関数近似による補正前の直線性誤差:±0.7%FS 3、 2次関数近似による補正後の直線性誤差:±O.04%FS 4、 温度特性:±0.003%FS/℃ 5、 40時間での安定性:±0.002%FS(=約±20aF) 6、 耐熱性:200℃以上 を得ることができた。 またUHF帯で空中線電力5W級のトランシーバーのホイップ・アンテナをケ ーブルに直接押し付けても出力の変動は認められなかった。 今回開発したセンサは、低圧及び微圧レンジのゲージ圧及び絶対圧センサで ある。 今後は、この開発したセンサと回路を用いタンクのレベル計測や燃焼ガスの 151 圧力制御、真空計等の用途に適用する予定である。 さらに、全ての工業用圧力伝送器を本研究での技術で置き換えるために、隔 膜フリーの差圧センサ構造を製作するに必要な加工技術を開発する予定である。 また現在、センサの耐熱性は一般的な工業用圧力伝送器の最高温度である 200℃以上を簡単に満足でき、隔膜プリv−一・・センサの潜在能力を確認できた。 今後は工業用圧力伝送器で成し得なかった温度領域に挑戦し新しい用途を開拓 する予定である。 152 本研究を進めるに当たり静岡大学 電子工学研究所 教授 渡辺健藏先生に は、博士課程に入学し学問する機会を与えて頂き、回路理論の基礎から科学全 般の見方考え方、さらには研究・開発者の姿勢まで多岐に亘る終始懇切な御指 導をたまわり心から感謝いたします。 本論文を御査読頂き、有益な御助言をたまわった静岡大学 工学部 システ ム工学科 教授 塩川祥子先生、同大学 電子工学研究所 教授 川人祥二先 生、同助教授 村上健司先生に深く感謝致します。 静岡大学 電子工学研究所 助手 小川覚美先生、同技官 中山政勝氏・沼 津工業高等専門学校 電気工学科 助教授 望月孔二先生を始め、静岡大学 電子工学研究所 電子システム部門 制御システム研究室に在籍された皆様の 御助言・御協力に心から感謝致します。 株式会社 山武 制御機器事業部、研究開発本部、製品開発本部をはじめ関 連部署の皆様には社会人として再度大学で学問する機会を与えて頂くと共に、 様々な面で御指導・御協力・御援助を頂き心から感謝致します。特に河住春樹 氏、清水一男氏、市田俊司氏、長田光彦氏、木村重夫氏には様々な面で御指導 頂き心から感謝申し上げます。 本論文を完成させるにあたり関係各位には多大な御協力を頂き心よりお礼申 し上げます。 最後に、社会人として博士課程に入学することで様々な協力を得ました家族 に心から感謝致します。 153
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