【大 賞】

【大
賞】
兵庫県 「水土里ネット天満大池」ため池の里マイスター
1.水土里ネットの概要
て ん ま おおいけ
・水土里ネット名:水土里ネット天満大池
・役職員数:役員
24 名、
職員:常勤 0 名
非常勤 0 名
・組合員数:585 名
・受益面積:194ha (水田 193.9ha・畑 0.01ha)
・水土里ネット設立の経緯:昭和 20 年の阿久根台風による災害、昭和 28 年の水不足によ
る作付不良など、食糧増産を目的とした貯水量確保のための
大規模改修工事が必要となり「兵庫県天満大池土地改良区」
を設立した。昭和 60 年には、ため池の老朽化が進んだため、
再び改修工事を行い、平成9年に完成し現在の姿となってい
る。天満地区のほ場整備を実施した「稲美南西部土地改良
区」が、事業完了に伴い平成 11 年に解散したため、本土地改
良区が天満大池水系を継承した。平成 15 年には農作業の省力
化を目的に用水路(開水路)のパイプライン化を行った。水
路等の農業水利施設全般の維持管理を本土地改良区が担って
いる。
2.地域の特徴
本地域は、兵庫県南部の加古川と明石川に挟まれた印南野台地の南端部に位置してい
る。降水量が少なく、水不足に悩まされたこの地域は、農業用水を確保するために古く
から多くのため池を築造することでかんがい用水を確保し、農耕社会を営んできた。明
治以降は、淡河川・山田川疏水の完成により、水田開発が進み、稲穂に満ちた美しい地
域となっている。また、都市近郊という立地条件を生かせるように農業基盤を整備し、
集約的な農業を展開している。農業用水で深い繋がりをもち、自然環境や伝統行事など
地域固有の「ため池にまつわる文化」を育んでいる地域である。
〇 自然環境 ‥‥ 本地域の水源である天満大池は、「ため池百選」にも選定された景
観に優れた美しいため池で、絶滅危惧種のアサザ(水草)が生育している。
〇 営農 ‥・・水稲を中心に、六条大麦、野菜(キャベツ・スイートコーン・いちご等)
が作付されている。中でも「万葉の香」は、町内の農業振興を図るために「いなみ
ブランド」として認証された米である。休耕田では、町花コスモスを栽培し、名所
になっている。本地域には、4つの営農組合が(農業組合法人1、みなし法人3)
あり、営農組合がない地域をこの4組合でカバーしているため、耕作放棄地がゼロ
である。
〇 歴史・文化 ‥‥ 「天満大池」は、675年に築造された県内最古のため池である。北
側にある天満神社では、毎年秋に「輿渡御」という、池に神輿を投げ込み五穀豊穣を
祈願する祭りが行われている。
3.運動の背景
本水土里ネットでは、現在、農地・水・環境保全向上対策や多面的機能支払制度を
積極的に活用し、協議会の会長を水土里ネット理事長が務めるなど、参加者を広く募
り地域全体を巻き込んだ21創造運動を展開している。
ため池の水質浄化と自然環境の保護は、農業用水の水質保全の向上による、ため池
・水路などの施設機能保全の向上に繋がり、地域の農業や農村環境を守り続けていく
ために必要不可欠である。ため池の貴重な水は、米や麦、野菜といった農産物を育む
ほか、防火用水としての活用もある。先人たちが築き上げたため池・水路を活かし次
世代に引き継ぐために、地域や個人に何ができるかを考え、天満大池を貴重な財産と
位置付け活動を行っている。
また、昭和60年頃までに天満大池に自生していたアサザが、改修工事により姿を消
していたが、平成8年頃に少数のアサザが発見された。その後、水土里ネットが中心
となり、各種団体と連携して、平成19年からアサザの保護と天満大池の環境改善を目
指し取り組みを始めた。アサザが自生する豊かな自然環境を次世代に残すための運動
を展開している。
4.運動の基本理念・目標
“千古の池「天満大池」を守る・活かす”を基本理念とし、天満大池を地域の貴重な
財産として、次世代に引き継ぎ、昭和 30 年代の豊かな水辺空間に近づける運動を推進し
ている。この運動は、地域農業やため池・水路などの施設を保全管理する上でも重要な
取り組みである。さらに、アサザの保護活動や水質浄化活動だけではなく、多くの人た
ちが様々な活動に参加できる体制づくりを目指している。
5.21 創造運動の活動
■水土里ネットと営農組合の連携によるプラス1(ワン)活動
《活動内容》
本水土里ネットの役員は、4営農組合の構成メンバーとして運営に携わっており、全
ての組合員が連携しながら、営農面からため池・水路等施設の溝掃除や草刈りなどの保
全管理に取り組んでいる。毎年、プラス1(ワン)活動として、新たな取り組みを一つ
加えることで、活動のマンネリ化を防ぎ、組合員の活力とするとともに、組織の結束力
を高めている。その活動の一環として、水土里ネット等で購入した背負・自走・乗用草
刈機や高圧洗浄機等の所有機材を関連団体(自治会など)へ無償で貸し出し、農道砕石
舗装、素掘水路の改修のほか、休耕田における町花コスモスの栽培など耕作放棄地の解
消にも取り組んでいる。
《活動状況写真》
池草刈・21 創造運動 PR
休耕田でのコスモス栽培
■水質浄化作戦∼土着(EM)菌団子づくり、カラス貝による淡水真珠づくり∼
《活動内容》
天満大池では、水質浄化への取り組みを積極的に行っている。一つ目の取り組みは、
毎年、池底に溜まったヘドロに含まれるアンモニアやメタンなどを有機物質に変え、悪
臭除去や水質浄化を目的に、ため池に土着(EM)菌団子の投入を行っている。
二つ目はカラス貝の放流である。カラス貝の1個体で1日にドラム缶1個分(200ℓ /
日)の水を吸収し、栄養分を体内に取り込み、固化し、池に戻し、それを魚が食べると
いう生態系の水質浄化サイクルを活用するものである。また、新たなため池の魅力づく
りの一環として淡水真珠づくりにも取り組んだ。その他高校生と連携してイカダを利用
した空心菜等の水耕栽培や水質調査にも取り組んだ。
《活動状況写真》
子供たちによる EM 菌団子づくり
カラス貝による淡水真珠づくり
■アサザ保護作戦∼アサザ祭りや環境学習を通じて∼
《活動内容》
天満大池は、絶滅の恐れのある水生植物“アサザ”が生育している貴重なため池であ
る。希少種のアサザを地域のみんなで守るため各種団体が協力して保全活動を行ってい
る。生育環境を整えるため“アサザ育成ヤード(浅瀬や波消し壁)”の整備を行ってい
る。平成23年からは、この活動をより多くの人に広く知ってもらうために、年1回「天
満大池アサザ祭り」を開催している。
また、平成19年からは、次世代を担う子供たちに関心を持ってもらうため、近隣の小
学3年生を対象として、毎年6月にアサザの苗の移植作業、9月にため池学習・生き物
調査・雑草除去作業など環境学習指導にも取り組んでいる。アサザの苗は、水土里ネッ
トや学識経験者などで組織する“アサザを育む会”が育てたもので、多くの人たちの協
力の下に活動が成り立っている。
《活動状況写真》
生き物展示
育成ヤードへのアサザの移植
植物展示
ため池とアサザの環境学習
■天満大池クリーン作戦∼ため池の保全管理から環境美化まで∼
《活動内容》
水土里ネットでは、ため池保全のため、毎月1回の役員による点検や年2回の草刈り
を実施している。
また、“クリーン作戦”として、毎年1月に水土里ネットや関係自治会、消防団、関
連企業等が参加するゴミ拾い等を中心とした清掃活動を実施している。クリーン作戦は、
活動前に水質保全、生態系保全や和亀保護など専門家の説明会を実施しており、環境保
全学習∼清掃活動∼交流会のプログラムを通じて、地域住民の学習と交流の場となって
いる。
《活動状況写真》
地域住民による清掃活動
クリーン作戦前の研修「生物多様性について」
6.運動全体の成果と今後の展望
天満大池は、祭事や伝統行事が残っている県下最古のため池である。本水土里ネッ
トでは、その貴重な財産であるため池の水辺空間を守り、次世代を担う子供たちに引
き継いでいくために運動を続けている。それが地域の絆、郷土愛を深める機運に繋が
り、水土里ネットの運動から地域間交流や世代間交流を進める運動へと大きく変化し、
地域全体の取り組みとなっている。
本水土里ネットが、平成16年より利活用を研究してきた天満大池ため池敷地(1万
㎡の造成地)に、JAによる農産物直売所「にじいろふぁーみん」が平成27年11月に
オープンした。稲美町の6次産業拠点施設として整備され、生産・加工・販売・体験
と水土里ネットを中心とした農家だけではなく、非農家や地域住民が一体となって取
り組める施設であるため、周辺地域の活性化が大いに期待されている。今後、この拠
点施設と天満大池を中心に水土里ネットが参画した新しいまちづくりが始まろうとし
ている。