光学工房

光科学及び光技術調査委員会
■
光
学
工
房
多
数
の
平
面
反
射
面
を
含
む
結
像
光
学
系
の
設
計
光
の
広
場
複数の機能要素からなる光学機器の中に,他の機
積を×,ベクトルの内積を ,スカラー積を・と表
能要素の占める空間を回避して結像光学系を組み込
記し,特にベクトルの規格化を Nor 共 兲 と表記する.
む場合,図 1 に示すように配置可能な位置にいくつ
かの平面反射面を設け,その光路中に結像レンズを
2. 物体面と像面の記述
配置する構成が採られることがある.空間の制約が
物体面に設定した 2 つのベクトルを像面まで射影
あると,結像レンズの光軸を物体面に垂直でなく配
追跡すると,像面はその 2 つのベクトルで記述する
置せざるを得ない.このような光学系の設計におい
ことができる.図 2 に示す通り,原点を R0 ,反射
ては,反射面や像面の設計情報を得る手続きが煩雑
点を R1∼Rm−1,像点を Rm とする.R0 から順次 Ri−1
になってしまうが,本稿では,物体面に設定した単
から Ri に向かう方向ベクトルを ri とする.そして,
位ベクトルを反射面ごとに逐次追跡することによっ
物体面を表す 2 つのベクトルとして,H0 を X 軸上の
て,必要な設計情報を容易にかつ的確に得ることが
単位ベクトル,V0 を Y 軸上の単位ベクトルにとり,
できる手法を紹介する.
H0 と V0 を R1 から Rm−1 まで射影追跡する.Rm−1 で
の射影ベクトルを Hm−1,Vm−1 とすると,Hm−1 と
1. 前
提
rm ,Vm−1 と rm とで記述される面は,それぞれ H0 と
結像レンズの光軸上の結像倍率を b とする.そし
r1 ,V0 と r1 で記述される平面と連続しており,像面
て,結像光レンズの光軸と反射面との交点座標はあ
上の射影ベクトル Hm ,Vm を含む.また,H0 と Hm ,
らかじめ配置可能な位置に定める.光軸と物体面と
V0 と Vm とは Scheimpflug 条件を満足する.
の交点を原点とし物体面を X,Y 面とする三次元直
角座標(X, Y, Z)をとる.ベクトルは常に単位ベクト
3. 追
ルとして取り扱う.本稿の演算子は,ベクトルの外
H0 と r1 とで成す角を a 0 とし,像点での射影ベク
跡
トル Hm が rm とで成す角を y m とすると,Scheimpflug 条件より,
y m = atan 共−共1冫b 兲・tan 共a 0 兲兲
図 1 多数の平面反射面を含む結像光学系.
41 巻 10 号(2012)
(1)
図 2 平面反射面上の射影ベクトル.
539( 39 )
表 1 物点,反射点,像点の位置座標.
物点
反射点 1
反射点 2
像点
表 2 追跡結果.
X
Y
Z
光路長
0
80
97.8
238
0
20
40
40
0
280
224
305
291.890
62.071
161.917
515.878
合計
第 1 反射点の法線ベクトル N1 は,
N1 = Nor 共r2−r1 兲
(2)
H1 は H0 と r1 とで成す面内にあり,H1N1 = 0 を満た
すから,
H1 = Nor 共H0−共H0N1 兲冫共r1N1 兲・r1 兲 ( 3 )
X
Y
Z
H0 ベクトルの追跡
H0
1
r1
0.274075
a0
74.093
y3
60.318
H3
−0.000095
0
0.068519
deg
deg
0.143143
0
0.959264
V0 ベクトルの追跡
V0
0
g0
86.071
wm
82.179
V3
−0.209040
N3
0.977851
L3
−0.207253
1
deg
deg
0.973776
0.207160
0.978287
−0.989702
0
0.089794
0.029868
0.000000
この追跡を同様にして Rm−1 面まで行う.
像面上の射影ベクトル Hm は,Hm−1 と rm とで成す
4. 1 追 跡
角を a m−1 として
物点,反射点,像点を表 1 の通り与え,結像倍率
Hm = Nor 共Hm−1−sin 共a m−1+y m 兲冫sin 共y m 兲・rm 兲
(4)
を−2 倍とする.追跡結果を表 2 に示す.
4. 2 追跡結果から得られる設計情報
V0 から Vm への追跡も同様に追跡して,Vm−1 と rm と
物体面 X 軸上に文字列があると,N3 を法線とす
で成す角を g m−1,Vm と rm とで成す角を w m とし
る像面上 H3 の上に文字列が並ぶ.文字列像の X 方
て,
向成分は 0 であるが,atan 共H3Y 冫H3Z 兲 = −8.230° 傾
Vm = Nor 共Vm−1−sin 共g m−1+w m 兲冫sin 共w m 兲・rm 兲
(5)
像面に関する設計情報として,像面の法線ベクトル
いている.物体面上文字列線に対して垂直であった
文字の縦線は像面では文字列に線に対して acos 共H3
V3 兲 = 87.103° の角度をなす.像面を XY 面でスライ
スしたときの傾きは atan 共L 3X 冫L 3Y 兲 = −11.961° であ
は,
Nm = Nor 共Hm×Vm 兲
(6)
像面上にあり Z 成分が 0 であるベクトル Lm は,
Lm = Nor 共Hm−共Hmz 冫Vmz 兲・Vm 兲 ( 7 )
で計算できる.
る.このように,本稿の手法によれば像面の設計情
報が簡単に得られる.また,各 i 反射面に必要な大
きさと配置は,Ni , Hi , Vi をもとに計算できる.そ
して,これらはベクトル表記であるので,空間配置
の把握が容易である.
4. 計
像面に画像を投影する撮影レンズを避けて,図 1
にあるように物体面にある文字列を像面に結像する
光学系として,簡易な反射面 2 面 1 回結像の例を
示す.
540( 40 )
(キヤノン
(株)
横田秀夫)
算 例
文 献
1)早水良定:光機器の光学
(日本オプトメカトロニク
ス協会,1988)
.
光 学