機能分化と 連携の強化を 急性期で追求

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2016 年 4月号
医療の最新情報をピンポイントで伝える
2016 年度診療報酬改定
機能分化と
連携の強化を
急性期で追求
2016 年度診療報酬改定は、本体部分がわずかにプラ
スとなりました。改定へ向けた中央社会議保険医療協議
会(中医協)での議論を常にリードしてきた、2 号側(診療
側)委員で独立行政法人地域医療機能推進機構東京山手
メディカルセンター院長の万代恭嗣氏に、今次改定のポ
イントや、18 年度の介護報酬との同時改定へ向けた見通
しなどについて話を聞きました。
経済財政との調和が
大きく影を落とす
2016 年度診療報酬改定でも例外では
ありません
今回は特に、
「財政」
というバックグ
ラウンドが、優先順位に大きく影響し
――まず、中央社会保険医療協議会
子高齢化への対応」と「機能分化と連
てきました。たとえば、入院基本料
(中医協)委員として議論をリードさ
携・効率化」に加え、
「経済財政との
の何から手をつけるかということにつ
れてきた万代先生から見て、2016
調和・プライマリーバランスの黒字
いて、報酬が最も高いからこそ、一
年度診療報酬改定のポイントはどこ
化」という3 本の軸の間でバランスを
般病棟 7 対 1 入院基本料算定病床の
にあると感じていらっしゃいますか。
取りながら、調整を図るという図式
削減となります。財政的な制約がな
近年における診療報酬改定は、
「少
に な って い ま す( 図 表 )
。 そ れ は、
ければ、16 年度改定は恐らく別の形
図表 2016 年度診療報酬改定のポイント
経済財政との調和
PB の黒字化
●急性期病床の選択
▽真に急性期医療を提供しているか
▽高度急性期にふさわしい要件を満たしているか
●医療従事者の負担軽減
▽特に看護師(夜勤、
看護補助者との分担、
多様な働き方)
●救急医療の充実
●認知症対策
▽入院でも、
外来でも
●退院支援の充実
●在宅医療、訪問看護の充実
●適正化
機能分化と連携
効率化
1
少子高齢化
高齢者の多病
認知症
万代恭嗣氏提供
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2016年
4月号
になっていたのではないでしょうか。
づけられていると言えるでしょう。
16 年度改定の、
「基本方針」におけ
とくに地域の基幹病院となるような
る重点課題は、
「地域包括ケアシス
大病院では、より急性期に特化すべ
テムの推進と医療機能の分化・強化、
きというメッセージが込められてい
連携に関する視点」です。今次改定
ると思います。
はまさに、
これが具現された改定だっ
一般病棟用の「重症度、医療・看
たと言えるでしょう。といっても、
護必要度」
の項目を見直し C 項目を新
基本的な方向性は前回14 年度改定と
たに設けたことや、7 対 1 入院基本料
変わりませんし、そして恐らく、次
における該当患者割合の引き上げ、
回18 年度改定でも変わらないでしょ
さらには総合入院体制加算が細分化
う。
されて、同加算 2、3についてはこれ
――具体的に、急性期医療において
まで努力義務であった実績要件のク
は、どのような対応が求められてい
リアが、一部求められるようになっ
ると考えられますか。
たことなどがそれです。
入院医療に関しては、今回は特に、
ICUなどを持つ病院および 500 床
それぞれの患者の状態に応じた医
以上の病院では、地域包括ケア病棟
療提供体制を、それぞれの医療機関
の届け出が 1 病棟に限られます。こ
で取ってください、ということだと
れは、基幹病院がケアミックス化す
思います。そして急性期医療が、
「機
ることに一定の歯止めをかけている
能分化」の象徴的な項目として位置
わけです。
急性期は急性期に
特化することを求める
万代恭嗣(ばんだい・やすつぐ)
東京山手メディカルセンター院長、日
本病院会常任理事、中央社会保険医療
協議会委員。1974 年東京大学医学部
卒業。87 年社会保険中央総合病院外
科部長。
89年東大医学部第2外科講師。
95 年同助教授。96 年社会保険中央
総合病院副院長。2009 年から現職。
――前回14 年度改定で話題になっ
厚労省の試算では、43%の病院が影
すべきだと主張しています。ただ、
た 7 対1入院基本料の「絞り込み」は、
響を受けることになりそうです。も
今次改定での「重症度、医療・看護
今次改定でも引き続きテーマとなっ
ちろん、個々の医療機関はクリアす
必要度」の見直しで、7 対 1の病床は
ているように見えます。
るための努力を惜しみませんから、
それなりに減少するはずです。これ
7対1入院基本料で高い報酬を得た
さまざまな対策をとります。したがっ
に加えて、平均在院日数や在宅復帰
病院の多くは、
「ため込んでいる」わ
て、実際には 4 割の医療機関が脱落
率にまで指標を設けて「絞り込み」を
けではなく、医療の質の向上や医療
するというわけではないでしょう。
すれば、バタバタと医療機関が倒れ
安全のために、専門職を雇用し、あ
しかし、かなりの数の病院が、何ら
る恐れがあります。これは、避けな
るいは機器を購入して、患者さんに
かの形で 7 対 1 病床を減床せざるを
ければなりません。
還元しています。そのことに配慮が
得なくなるかもしれません。
必要です。急に報酬が下がると、病
これは、かなり厳しい数字です。
もっとも、平均在院日数は、放っ
ておいても少しずつは短縮するで
院を維持することができなくなって
病院は、ほとんどが利益率一桁台で
しょう。それには、医療の進歩とい
しまいます。それが、再度の医療崩
運営しているのが現実です。わずか
う背景もあります。たとえば腹腔鏡
壊につながりかねません。
な減収で赤字転落、という事態を招
の手術やカテーテルを用いた心臓血
きます。
管手術など低侵襲な技術が普及すれ
今次改定で、一般病棟 7 対 1 入院
基本料における「重症度、医療・看
支払側の委員は、
「重症度、医療・
護必要度」の該当患者割合は 25%以
看護必要度」と「平均在院日数」
「在宅
上とされました。中医協に示された
復帰率」の要件を「3 点セット」で見直
ば、自然に在院日数は縮まっていき
ます。
2
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2016年
4月号
内科的な医療への評価を
効果的に盛り込んだ
多く、これが地域包括ケア病棟に
「機
能分化」
されることを狙っているので
す。
実際に病院を運営している側から
――万代先生は中医協の場でも「内
は簡単な手術や処置さえほとんど行
すれば、
「機能分化」を推進するなか
科的な技術や治療の評価が不十分
われていないという調査結果が示さ
で、地域の医療ニーズを無視するこ
だ」と主張されていました。
れました。手術・麻酔を出来高とす
とはできません。診療報酬が高いか
一般病棟用の「重症度、医療・看
ることだけでは、たとえば高齢者の
らということではなく、地域のニー
護必要度」では、C 項目が新設され、
肺炎などのサブアキュートに対応で
ズや置かれた立場を勘案しながら、
きるわけではありません。
自院でどのような機能を提供してい
「救命等に係る内科的治療」がその項
目の1 つとされました。具体的には、
①経皮的血管内治療 5 項目、②経皮
現状では、急性期の病床にこうし
た軽度の患者が入院していることも
くのかを精査していくことが求めら
れるでしょう。
的心筋焼灼術等の治療 4 項目、③侵
襲的な消化器治療 4 項目――の合計
13 項目が挙げられています。
これまで、急性期医療に対する評
価では、外科系に偏重するきらいが
認知症への対応
25 年を見据え制度化
ありました。今回の改定では、C 項
――16 年度改定ではもう1つ、認知
目として内科的な要素をうまく盛り
症を持つ高齢者の身体疾患について
込 め たと 思 い ま す。ま た、DPC /
の対応もテーマとなっていました。
ブが働くものと思われます。
ただ、認知症ケア加算 1について
は、認知症ケアチームに、認知症看
PDPS の基礎係数におけるⅡ群の実
高齢化の進展で、2025 年には認知
護認定看護師などの専門職の配置が
績要件で、内科系の特定内科診療が
症患者の数が 700 万人を超えるとい
必須となっているなど、要件が厳し
評価の対象となりました。
う推計もあります。この方たちはほ
く、すぐに普及するということには
まだ十分ではないという声もあり、
とんどが高齢者ですから、その多く
ならないでしょう。今から準備をは
このあたりの調整が課題でしょう。
は認知症以外にもさまざまな身体疾
じめ、その後徐々に専門的なチーム
それによって、
「重症度、医療・看護
患を抱えています。現状では残念な
が育ち、さらに機能を十分に発揮す
必要度」の該当患者割合もこのまま
がら、こうした患者を、積極的に受
る状態が、25 年に出来上がっていれ
25%でいいのか、という議論になっ
け入れようという医療機関は多くは
ばいいというような考え方だと思い
てくるはずです。80%、90%という
ありません。
ます。
ことはないにしても、40%、50%と
認知症患者への医療的な対応は、
――さて、次の18 年度改定は介護
いう数字は、視野に入っているので
在宅、入院にかかわらず、一般病床
報酬との同時改定となります。どの
はないかと思います。
や一般診療所で診ていきましょう、
ような改定になると考えていらっ
――地域包括ケア病棟についてはど
というのが今次改定のメッセージで
しゃいますか。
のようにみていらっしゃいますか。
はないでしょうか。
今次改定では、主に急性期の医療
地域包括ケア病棟入院料では、手
入院医療に関しては、認知症ケア
がターゲットになっていました。次
術と麻酔を包括から外し、出来高請
加算(14日まで 1:150 点/日、2:30
期18 年度改定は、介護報酬との同時
求できるようにしました。これは、
点/日、15日以降 1:30 点/日、2:
改定、そして介護療養型医療施設等
同病棟の 3 つの役割、すなわち「ポス
10 点/日)が新設されました。また、
の廃止というタイミングもあり、慢
トアキュート」
「サブアキュート」
「在
外来に関しては、認知症地域包括診
性期や医介連携などがテーマになる
宅復帰支援」
のうち、サブアキュート
療料(1515 点/月1回)
・認知症地域
のではないかと考えています。
の機能をもっと発揮してください、
包括診療加算(30 点)が新設されてい
いずれにせよ、改革のスピードは
というメッセージです。
ます。いずれも、かなり高めの点数
上がっており、医療機関の対応にも
設定がされており、強いインセンティ
スピード感が求められるでしょう。
中医協では、地域包括ケア病棟で
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