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第1部:児童生徒が将来の諸リスクと向き合えるようになるために
解説
第 1 部 は ,「 将 来 起 こ り う る 人 生 上 の 諸 リ ス ク へ の 対 応 」 に 関 す る 論 考 を 収 め て い る 。
「 キ ャ リ ア 教 育・進 路 指 導 に 関 す る 総 合 的 実 態 調 査 」に 基 づ く『 第 一 次 報 告 書 』,
『第二次
報 告 書 』並 び に キ ャ リ ア 教 育 支 援 資 料 は ,
「 将 来 起 こ り う る 人 生 上 の 諸 リ ス ク へ の 対 応 」が
キャリア教育における重要課題の一つであることを繰り返し示してきた。
例えば,
『 第 二 次 報 告 書 』で は ,生 徒 が「 自 分 の 将 来 の 生 き 方 や 進 路 に つ い て 考 え る た め ,
学級活動の時間などで就職後の離職・失業など,将来起こりうる人生上の諸リスクへの対
応 に つ い て の 指 導 を 望 ん で い る 」一 方 で「 多 く の 学 校 が ,
『将来起こりうる人生上の諸リス
ク へ の 対 応 に 関 す る 学 習 』を 実 施 し て い な い 」こ と が 示 さ れ て い る(『 第 二 次 報 告 書 』46 ペ
ー ジ )。
このように,ニーズはあるものの,必ずしも学習機会があるわけではないことが明らか
になっているが,では,子供たちは,実際に「学んだり働いたりすることが困難な問題」
が 生 じ た 際 に ,ど の よ う な 対 処 行 動 を 取 る の で あ ろ う か 。
「 総 合 的 実 態 調 査 」の「 高 等 学 校・
卒 業 者 調 査 」で は 問 8 で ,
「学校や職場などで学んだり働いたりすることが困難な問題が起
こったとき,あなたはどうしますか。当てはまるものを一つ選んでください」という問を
尋ねている。下図がその回答の結果である。
1.9
6.4
2.0
問題を解決するための相談や⽀援に関する
公的な機関を知っているので、活⽤する
11.5
相談や⽀援に関する公的な機関の存在は
知っているが、活⽤の仕⽅がわからない
7.5
相談や⽀援に関する公的な機関は知らない
が、家族や友⼈などに相談や⽀援を求める
1⼈で問題を解決しようとする
解決のための⽅法を知らない
70.8
図
その他
学校や職場などで学んだり働いたりすることが困難な問題が起こった
と き , あ な た は ど う し ま す か ( %)( 有 効 回 答 数 = 1,161)
10
「問題を解決するための相談や支援に関する公的な機関を知っているので活用する」と
回 答 し た 割 合 は 11.5%に と ど ま っ て い る 。
「相談や支援に関する公的な機関の存在は知って
いるが,活用の仕方がわからない」と回答した割合と合わせても,高等学校卒業者のうち
「公的な機関を知っている」者の割合は2割未満である。
一方,
「 公 的 な 機 関 を 知 ら な い 」者 の う ち の ほ と ん ど が「 相 談 や 支 援 に 関 す る 公 的 な 機 関
は知らないが,家族や友人などに相談や支援を求める」と回答しており,全体に占める割
合 は 70.8%と な っ て い る 。
「 1 人 で 問 題 を 解 決 し よ う と す る 」者 よ り も 多 く の 者 が「 家 族 や
友人などに相談や支援を求める」とした点には,社会的なつながりからの助けを得て困難
を乗り越えるという展開を期待することができる。しかしながら,問題解決の手段として
公的セクターを活用するという可能性が,私的なつながりを活用する可能性に比べてより
小さくしか認識されていない点には,留意が必要である。
家族や友人といった社会的なつながりを通して支援を受けることができ,困難を乗り越
えられた者は現状でもたくさんいることだろう。しかし,長いキャリアの途上では,社会
的なつながりから支援を得られないタイミングも,そもそも社会的なつながりから断ち切
られてしまうことも,起きうることである。あるいは,社会的なつながりから支援が得ら
れ た と し て も ,課 題 の 解 決 に 十 分 で は な い こ と も あ る か も し れ な い 。そ し て ,
「1人で問題
を解決しようとする」者が少ないながらもいることも,見逃してはならない。
このように考えると,たとえ今,リスクと無縁かのように見える者であっても,潜在的
に は リ ス ク を 抱 え て い る こ と が わ か る だ ろ う 。し た が っ て ,高 等 学 校 卒 業 後 す ぐ に 働 く か ,
上級学校に進学するかという選択の別を問わず,困難な問題に直面した際に打てる手立て
を多くしておくに越したことはないのである。困難を乗り越えるための手立てを身に付け
ておくこと,若しくは,その手立てを見付けられるだけの手掛かりを後に活用可能なよう
に身に付けておくことが重要であるのは,図が教えてくれていることの一つである。
このような課題認識を背景に,第1部では,将来起こりうる人生上の諸リスクへの対応
についてより理解を深めるために,あるいは,今後の施策を考えていくために,高等学校
卒業者のデータを用いた分析の結果から,次の三つの章を設けた。
第1章は,
「 予 期 せ ぬ 困 難 を 乗 り 越 え る た め に キ ャ リ ア 教 育 で 何 が で き る か 」で あ る 。
「人
生上の諸リスクに遭遇したときの対処法」に関する教育の充実,及び「学校や職場などで
学んだり働いたりすることが困難な問題が起こったときに相談できる機関」に関する積極
的な情報提供の重要性を確認している。
第 2 章 は ,「『 学 校 か ら 提 供 さ れ た 情 報 』 の 効 果 と 評 価 」 で あ る 。 支 援 機 関 に 関 す る 知 識
を得ていると,公的機関を活用するよう促される側面があることを示している。また,高
等学校において学ぶ知識の有用性とニーズの関係性についても整理している。
第3章は「
, 職 業 生 活 上 の 困 難 を 乗 り 越 え る た め の 知 識 は 誰 に 届 い て い な い の か 」で あ る 。
職業生活上の困難を乗り越えるための知識が特定の学科において不足していること,職業
生活に関する各相談機関に関する情報提供の少なさや,相談機関を活用するという意志を
もつ者の少なさがどの学科においても生じていることを示している。
11
第 1 部 各 章 の 知 見 を 抜 粋 し ,下 記 に ま と め て い る(「 知 見 の 概 要 」で 掲 載 し た も の の 再 掲 )。
いずれの章も確認してもらいたいが,特に関心を呼ぶ記述があれば,その章から読み進め
ていただくのもよいだろう。詳細は各章の記述に当たっていただきたい。
第1章
予 期 せ ぬ 困 難 を 乗 り 越 え る た め に キ ャ リ ア 教 育 で 何 が で き る か ( 13-17 ペ ー ジ )
・ 相談機関の情報提供を受けていない,あるいは受けたかどうかを覚えていない卒業生は,
学んだり働いたりすることが困難になった際に,公的機関を活用しようする者が少なく,
解 決 方 法 が わ か ら な か っ た り ,一 人 で 問 題 を 解 決 し よ う と し た り す る 者 が 多 い 傾 向 に あ る 。
・ 人生上の諸リスクへの対応に関する学習に取り組んでいない,あるいは取り組んでも役立
たなかったと感じている卒業生も,同様の傾向にある。
・ ゆえに,
「 人 生 上 の 諸 リ ス ク に 遭 遇 し た と き の 対 処 法 」に 関 す る 教 育 を 充 実 さ せ ,相 談 機 関
について積極的に情報提供することは,問題を解決するために「公的機関を活用する」者
を 増 加 さ せ ,「 1 人 で 問 題 を 解 決 し よ う と す る 」「 解 決 の た め の 方 法 を 知 ら な い 」 者 を 減 少
させることにつながる可能性がある。
第2章
「 学 校 か ら 提 供 さ れ た 情 報 」 の 効 果 と 評 価 ( 18-23 ペ ー ジ )
・ 高等学校卒業後に「学んだり働いたりすることが困難な問題」が生じた際に,相談できる
公的機関を知っているのは高等学校卒業者のうちおよそ2割。
・ 高等学校での情報提供を受け取っている者の中では,
「問題を解決するための相談や支援に
関する公的な機関を知っている」割合が高くなる。
・ 「進学にかかる費用や奨学金についての情報」
「 社 会 全 体 の グ ロ ー バ ル 化( 国 際 化 )の 動 向 」
「男女共同参画社会の重要性」などについては,高等学校のときの学習が「役に立った」
と考える者は,在学時に指導がもっとあれば良かったと考える傾向にある。
第3章
職 業 生 活 上 の 困 難 を 乗 り 越 え る た め の 知 識 は 誰 に 届 い て い な い の か ( 24-29 ペ ー
ジ)
・ 普通科出身者は,職業に関する専門学科や総合学科の出身者に比べて,職業生活上の困難
を乗り越えるための知識を学習しないまま高等学校を卒業する者が多い傾向にある。
・ 一方で,職業生活に関する各相談機関については,公共職業安定所(ハローワーク)を除
いては,どの学科の出身者もほとんど情報提供を受けていない。
・ 職業生活上で困難が起こったときに相談機関を活用するという意志をもつ者も,どの出身
学科においても圧倒的少数である。
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