ショートトーク

情報技術の根源性
さきがけ安浦領域、第3回領域会議ショートトーク
林晋 (京大文、現代文化学系、情報・史料学専修)
2015.11.20, コスモスクエア国際交流センター
林とその研究については
• http://www.shayashi.jp/
• 講義と研究をほぼ一致させている。
• これは結構シンドイ
• 今年やっていること:
• http://www.shayashi.jp/xoopsMain/html/modules/picoOne/index.php?cat_id=1
• 他に、古地震研究や、人工知能の社会インパクト研究、のお手伝いなど。
情報・史料学専修という所
• 英語名は、Department of Humanistic Informatic
• ミッションは、
• 主:情報化社会について人文学の立場から考察を行う。
• 副:情報技術を歴史研究に応用する方法を開発する。
• 今日は、この主ミッションから、10年研究して得た結
論を二つ紹介。
結論1:情報技術と資本主義は双子だ
• 技術が先にあって、それがいつのまにか社会を
変えるのではない。
• 社会がそれを実現するために技術を生み出す。
• 情報技術は資本主義実現のために生まれた。
• 現代の資本主義は情報技術と同時に生まれた。
バベッジの原理
• 経済学で「バベッジの原理」と呼ばれている原理がある。こ
れは簡単に言うと「格差の原理」。
• 労働を高度なものと単純なものに分解し、単純なものは労賃の安
い労働者に行わせよ。そうすれば賃金の支払いが少なくなる。
• その提唱者は19世紀イギリスで蒸気機関によりコンピュー
タを作ろうとしていたことで有名な Charles Babbage
• 次のスライドの図は、その原理を実際の工場の労賃を使い
説明した彼の1832年のOn the Economy of Machinery and
Manufactures の頁。
• この本は、Google Books などで読めます。
格差を燃料として動くマシナリーとしての
資本主義
• このタイプの分業は、まさに今の資本主義社会で行
われていることそのもの。
• ユニクロなどのオフショア、Amazon Mechanical Turk,etc.
• これらを支えているものが情報技術、特にネット。
• バベッジの原理とは、ネットなどによりフラット化した
世界における現代的資本主義の背景に潜む原理。
バベッジ型資本主義と情報技術
• 先の表はピンの工場の例なので筋肉労働がテーマ。
• しかし、バベッジは同じ著書で、この分業システムが頭脳労
働 Mental Labor に適用できることを指摘した。
• 数表は当時のコンピュータであったが、その作成に分業を
使えば、足し算しかできない労働者を大量に使うことにより、
対数表さえ作成できることを指摘し、
• そして、さらに「私の計算エンジンが完成すれば、その労働
者を代替できる」と書いた。
人工知能が職を奪う、機械が職を奪う
• AIが流行になり、機械が多くの職を奪うという議論をマス
コミでもよく見かけるようになっているが、
• バベッジは、日本で言えば江戸時代に、このことを語って
いたといえる。
• 林は、これや、その他の理由から、「情報技術は、資本主
義が、それを維持し、発展させるために生み出した技術
だ」と主張している。
• その詳細は、林の2回生向け講義:情報歴史社会学入門
の講義メモをご覧ください。
結論2:哲学と情報技術
• 哲学と情報技術は相即している
• 哲学の理論には、奇妙なほどのITのアイデアと相即する
(違うはずなのに関わりあっていること)ものが多い。
• その様な物の中から一つ…
西谷啓治の「回互的連関」
• 京都学派の哲学者としては西田幾多郎が有名だが、NO.2は林が長年研
究して来た田辺元、そして、第三の哲学者で京都学派の最後を飾るのが
西谷啓治(1900-1990)。海外では西田を凌ぐ評価を得つつある人。
• 西谷哲学の根本概念の一つが、仏教用語を利用した「回互(えご)」という
関係性の概念。これは、例えば次のように説明された。
• 回互的な連関の場合に重要なことは、一つには、本質的にAに属するものがBのう
ちへ自らをうつす(映す、移す)とか投射するとかして現象する時、それがBのうちで
Aとして現象するのではなくBの一部として現象するという点である。言い方を換え
れば、A「体」がB「体」へ自らを伝達する時、それはA「相」においてではなくB「相」で
伝達される。Aは自らをBへB相で分与(mitteilen)し、BもAからそれをB相で分有
(teilhaben)する。これがBへの自己伝達というAの「用」である。(著作集13巻、「空と
即」、p.133)
チンプン?ヽ(゚◇。)ノ?カンプン?
• 多くの方が、訳が分からないと思われるはず。色々な人がこれを説明しようと試
みており、記号論理学を使って変な事になった哲学者もいる。
• しかし、実は、こんな風に書き換えてみると、みなさんには、そのイメージが理解
できるはず:
• A, Bを二つのPCとし、DropBoxやネットワーク・ファイル・システムなどで、あるフォルダやファイル
が、この二つのハードウェア A, Bで共有されている状況を考える。
• 回互的な連関の場合に重要なことは、一つには、本質的にAに属するファイルがBのうちへ
フォルダ共有とかリンクとかして参照可能にされている時、それがBのうちで別のPC Aに属す
るファイルとして参照可能なのではなくBの一部として参照可能だという点である。言い方を
換えれば、A「PC」がB「PC」へ自らのファイルを公開する時、それはA「のファイルシステム」に
おいてではなくB「のファイルシステム」として提供される。Aは自らをBへBのファイルシステム
で提供し、BもAからそれをBのファイルシステムで共有する。これがBへのフォルダ公開とい
うAの「機能」である。
比較
上が原文 下が読み換え版
青い文字が書き換え、赤が追加
• 回互的な連関の場合に重要なことは、一つには、本質的にAに属するものがBのうちへ自らをう
つす(映す、移す)とか投射するとかして現象する時、それがBのうちでAとして現象するのではな
くBの一部として現象するという点である。言い方を換えれば、A「体」がB「体」へ自らを伝達する
時、それはA「相」においてではなくB「相」で伝達される。Aは自らをBへB相で分与(mitteilen)し、
BもAからそれをB相で分有(teilhaben)する。これがBへの自己伝達というAの「用」である。
• 回互的な連関の場合に重要なことは、一つには、本質的にAに属するファイルがBのうちへフォ
ルダ共有とかリンクとかして参照可能にされている時、それがBのうちで別のPC Aに属するファ
イルとして参照可能なのではなくBの一部として参照可能だという点である。言い方を換えれば、
A「PC」がB「PC」へ自らのファイルを公開する時、それはA「のファイルシステム」においてではな
くB「のファイルシステム」として提供される。Aは自らをBへBのファイルシステムで提供し、BもA
からそれをBのファイルシステムで共有する。これがBへのフォルダ公開というAの「機能」である。
これと同様な例が…
• これと同様な類似対が、他にも、存在論、形而上学、倫理
学などの哲学分野に数多くある。
• たとえば、Google Page Rank と、M.シェーラーの実質価値倫理学、
オブジェクト指向とアリストテレス形而上学…
• それらを分析していくと、情報技術が人間の世界観の「当然
の前提」を根幹から変えつつあることがわかる。
• つまり、情報技術とは特定分野の技術ではなく、存在論・形
而上学のレベルから世界を変える技術。
だから、
• 情報技術は社会、特に日本社会、と摩擦を起こしや
すい。
• だから、強い抵抗を経験しても、仕方がないのだ、社
会変革をやっているのだと思って頑張りましょう、とい
うエールを送るために考えた話:
• 開かれた世界、開かれた心、開かれた社会
• 今、「ITと哲学」という論文にしている。