音の環境教育

マリー・シェーファー
• 作曲家
• 音楽教育者
• サウンドスケープ研究
1933年カナダ生まれ
環境の音の美的価値
を認める
音楽教育者としてのマリー・シェーファー
• 現代芸術の視点導入の第一人者
• どんな難解なことでも,やさしく分からせる
• 即興的パフォーマンスを展開する才能
• テクニックよりも音に対する感性を重視
→「音の環境教育」へ
音に対する感受性の豊かな感覚を呼び覚ま
し,現代の音環境の改善をめざす
音の環境教育
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サウンド・ウォーク
音マップづくり
音日記
マリー・シェーファー
「サウンド・エデュ
ケーション」
音に関する100個の
課題集
聞こえた音を分類する
大きな音,高い音,動いている音,好きな音,嫌いな音
人間の出す音,自然の音,機械の音
音を思い浮かべる(イマジネーションを豊かにする)
紙を丸める,投げる,壁に当たる---音を想像する
事務所,台所,公園,空港などの音風景をイメージする
音をつくる(声でまねる)
自然の音をまねる
水の音をまねる→合唱曲「ミニワンカ」
(「雨だれの音」から「大海原の波」)
擬音語をつくる
音文化について考える
サウンドスケープから消えた音,消えつつある音を探す
(音の絶滅危惧種)
文章,絵,写真から過去のサウンドスケープを知る
「しずけさ」とは何かを考える
ここ数年にサウンドスケープの登場した「新しい音」
サウンドスケープ・デザイン
あなたの家にふさわしくない音を取り除く
心地よい音を付け加える
公園を心地よくする音の環境
イヤー・クリーニング
子供向きに
今田匡彦との共著
(翻訳→共著)
「俳句の音を探して,
心の中で聞いてみよう」
といった日本向きの
課題も
騒音公害は,人間が音を注意深く聴かなくなった
ときに生ずるのであり,騒音とは我々がないがし
ろにするようになった音である。 シェーファー
テクノロジィの発展→不要な環境音を受け入れ
音に対する感受性を失ったとき,騒音公害が広
まった。
音楽家の責任:音→楽音,騒音に2分
楽音のみを聴取の対象(環境の音の美的価値を認
めない)
「いい音」は,コンサート・ホールの中で純粋培
養,それ以外の音はないがしろ
→街に騒音がのさばってきた
劣悪の極みに達している現代の音環境を救うには,
環境の音に対して美的な態度で接する「聴覚文化の
回復」が必要(シェーファー)
音に対する啓発活動→現代の音環境の修復
環境音を美的に聴く態度を養えば,騒音にだまって
いられなくなる。
環境の音に耳を傾け,音に対する豊かな感性を身に
つけることが,快適な音環境創造への唯一の道。
サウンド・エデュケーション
「聞こえた音をすべて書きなさい」
「音日記をつけなさい」
「サウンドマーク(地域の象徴となってい
る音)を探しなさい」
「全権を与えられたと仮定して,都市の音
環境をデザインする
身近な課題から,社会の音文化と向き合う
ような課題へ
音環境に対して感受性に富む人を育て,
快適な音環境を造り上げる
シェーファーの考えに触発され,各地で,さまざま
な音に関する環境教育が試みられている
音マップづくり→音環境に対する意識を高める
あらかじめ定められた経路を散策し,どこでどんな
音が聞こえたのかを地図上に記入
シェーファー流「サウンドスケープ・デザイン」
サウンドスケープを,我々のまわりで絶えず展開し
ている巨大な音楽作品としてみたてる。
○そのオーケストレーションと形式をどのように改
善すれば豊かで多彩な,人間の健康と福祉を決して
破壊することのないようにできるのか?
○どの音を残し,どの音を広め,どの音を増やす?
我々は,オーケストラの聴衆であり,演奏家であり,
作曲家でもある。
いかにして,快適な音環境を創造するこ
とができるのかを考え,実現するのが
サウンド・スケープデザイン
サウンド・エデュケーションは,サウン
ドスケープ・デザインの第1ステップ
練馬鐘の音マップー家族で聞く除夜の鐘ー
1994年度の冬休み,東京都練馬区の中学一年
生に,出された風変わりな宿題
毎日の鐘が聞こえますか?
除夜の鐘が聞こえましたか?
聞こえる鐘の音は,どこのお寺や教会のもの
かわかりますか?
鐘の音に媒介に,自分たちの身の回りの音環
境を見直す契機を(練馬区環境保全課)
練馬鐘の音マップー家族で聞く除夜の鐘ー
○大晦日,冬の寒空のもと,親子で鐘の音に
耳を傾けた家庭も。
○多くの人々は,鐘の音がどこから聞こえて
いるのかを正しく認識している。
鐘の音が生活の一部として根づいている。
鐘の音が一種の共同体を形成している。
アンケートの形をとった啓発活動
アンケート自体が調査結果に影響を及ぼす
→普通はさける:ダミー質問とか
それを逆手にとる
アンケートの内容<アンケートのテーマの広報
「気づき」をうながす
「音」に関するアンケート→音に興味をもたせる
(「音名所」「残したい音風景」も)
平成14年度からの中学校学習指導要綱
音楽
⑥自然音や環境音を意識的に聴き,その体
験を表現や鑑賞の活動に生かすことがで
きるように改善した。
(「内容の改善の要点」より)
サウンドスケープ的視点が,音楽教育に取り
入れられている
鳴き砂の保全運動-「音」を媒介としたエコロジー
鳴き砂:砂浜を踏みしめると,キュッキュッと,砂
がこすれあう音がする(摩擦係数の大きい石英の砂
粒を多く含む)。汚染に弱い。少しでも汚れると,
音を出さなくなる。
日本各地に鳴き砂があった。海岸が汚染が進み姿
を消し,今では20数カ所で確認されるのみ。
各地で,鳴き砂を守る会が組織され,保全活動に
努めている。
「鳴き砂」を意識→海辺の環境保全活動
音に対する美意識,いい音を守りたいという思いが,
モチベーションとなった環境保全活動
琴引浜での鳴き砂保全活動
京都府網野町の琴引浜の鳴き砂(鳴り砂)は,
昭和の初め訪れた与謝野晶子が「松三本この陰
に来る喜びも共に音となれ琴引きの浜」と詠ん
だことで知られる。ここでも,住民のグループ
によって「鳴き砂」が守られてきた。
1996年2月,ロシアのタンカー,ナホトカ号
が座礁。重油が流出し,琴引浜まで押し寄せて
きた。鳴き砂は,壊滅状態におちいった。しか
し,守る会のメンバーやボランティアの,必死
の重油回収作業により,鳴き砂は復活した。