生検術−肺生検 - 日本IVR学会

IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:佐藤洋造, 他
連載 1
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IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・
生検術−肺生検
1)
愛知県がんセンター 放射線診断部, 筑波大学臨床医学系 放射線科 , 国立がんセンター中央病院 放射線診断部
1)
佐藤洋造, 稲葉吉隆, 松枝 清 , 荒井保明
2)
2)
はじめに
手技
当院では CT 下肺生検に関して多くの症例で CT 透視
を併用して行っている。本稿では主に間欠的 CT 透視下
肺生検の手技について概説する。
まず当院での検査手順(CT 透視併用時)について下
記に示す。
1)事前の CT 画像より生検計画をたて, 患者体位を決
めておく。
2)穿刺位置決定のための CT マーカーを, 穿刺想定位
置にあわせて患者の体表に貼る。
3)CT を撮像し穿刺経路を決め(図 2a), 患者に呼吸停
止位を指示する。
4)穿刺ポイントにマーキングし, 消毒後 23G 針を用い
て 1 %キシロカイン(約 10 p)で胸膜近傍まで十分
局所麻酔を行う。
5)尖刃にて穿刺部を数ミリ切開し, モスキートで皮下
組織まで広げておく。
6)1-1device と生検針をセットし, CT ガントリー内
でマーキングビームを出し, 呼吸停止下に CT 断層
面と生検針が一致するよう 1-1device を調節する。
7)呼吸停止下に CT 透視をスタートし, 腫瘤の位置を
確認しそのまま透視下にて針先方向を腫瘤にあわせ
る(図 2b)
。
8)一度 CT 透視を停止し患者の呼吸を整えてから, 再
度呼吸停止下で CT 透視にて腫瘤と針先方向を再確
認した後, CT 透視を停止し針を相当距離だけ進
める。
9)CT 透視を再開し, 針先を確認し腫瘤に当たるか直前
に位置していれば(図 2c), CT 透視を停止し内筒針
を出す。
10)CT 透視を再開し, 腫瘤を確実に貫いていることを確
認し fire する(図 2d)
。
11)fire 後もう一度 CT 透視を再開して確認し, 針を抜去
してから呼吸停止解除する。
12)検体を生食で浸したガーゼ(シャーレ)に慎重に移
し, 原則として迅速スタンプ細胞診へ提出する。こ
の結果により必要時は再度検体採取を行う。培養も
必要な場合は検体を移した後の生検針を生食で洗浄
し, その生食を提出する。
13)患者の状態を確認したのち, 合併症確認のため通常
の CT を撮像する。
14)特に処置が不要であれば終了。
手技の前に
インフォームドコンセント(IC):ほとんどの症例は
呼吸器内科・胸部外科の患者で, 主治医も検査内容を理
解しているため, 基本的には主治医が IC の取得を行っ
ている。その説明の際には放射線診断部の各種検査に
ついての説明文書があるため, それを使用してもらって
いる。
前処置:検査はすべて午後に行っており, 昼食は禁
食・飲水は午前 11 時までは可としている。前投薬はペ
ンタゾシン(ペンタジン)15 m を筋注。血管確保は基
本的には行っていない。
使用する機材と器具:生検針は 20 ∼ 18G のセミオート
針(FINE CORE : TORAY), フルオート針(MAGNUM :
BARD)を使用している。症例に応じてではあるが, ほ
とんど CT 透視下で施行しており, その場合は生検補助
具である 1 -1 device(八光)を併用している(図 1)。
CT 透視条件はスライス厚 5 a, 管球電流 30 cA を選択
している。スライス厚 5 a だと Partial volume effect が
若干生じるが, 適宜テーブルシフトを行い針先の位置や
腫瘤へのヒットを確認している。
図1
1-1 device:上がオリジナルタイプ, 下が改良型である。
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技術教育セミナー/生検術−肺生検
図 2a, b, c, d
b ∼ d : これら一連の動作を一度の呼吸停止下に施行する。
注意点:合併症をできるだけ避けるためには, 当然の
ことではあるが, 肺の損傷をいかに少なくするかが重要
である。具体的には, 1)肺実質内ではできるだけ針先
の方向修正を行わない, 2)生検針が肺実質内に位置す
る場合はできるだけ呼吸停止を解除せず, もし解除せざ
るを得ないときは 1-1device の手元での固定は緩める,
3)1-1device を使用すれば穿刺角度が斜めとなっても
穿刺針の固定は問題ないため, 太い気管支や脈管をでき
るだけ避けるような穿刺経路を計画する, などである。
また, 生検針が肺実質内にある場合の咳嗽は空気塞栓を
招く恐れがあるので, 穿刺中はできるだけ咳をしないよ
う患者に説明することも大事である。
コツ:腫瘤に生検針をヒットさせるには, 1)針全体
を CT 断面内に保つ, 2)針を正確に腫瘤に向ける, 3)針
を計画した距離だけ進める, 以上の 3 原則を満たすこと
1)
が必要である 。1)については, 実際には穿刺前に CT
断層面と生検針が一致するように 1-1device を調節し
ても, 力の入り具合で頭尾側方向の傾きは若干ずれるた
め, そのことを常に考慮し手技を行う(図 3)。2)につ
いては 1-1device に金属製の外套をセットすると, こ
れによるアーチファクトが発生するため, これを指標と
している(図 4a)
。また, 改良型の 1-1device ではリニ
アアーチファクトが発生し, より方向を合わせやすくな
っている(図 4b)。3)については, 一度 CT 透視を停止
し計画した距離だけ針を進めるが, 慣れてくると針のマ
a b c
d
図3
力の入り具合で生検針は CT 断面から外れていく可
能性がある。
ーカーを見ずに進めても, ほぼ適当な位置にあることが
多くなる。
上記検査手順に記載の動作は生検針が胸膜を貫通し
た後は, 可能な限り一度の呼吸停止下に行うことが重要
である。
また, CT 透視開始時に腫瘤が CT 断面に含まれていな
いことがある。このような場合は一度呼吸停止を解除
し, 計画時と同様の CT 断層面が得られるよう何度か患
者に呼吸を調節してもらう。この時テーブルを少し移
動させ腫瘤の位置を確認した上で, 今の呼吸よりももう
少し吸ったほうがいいのか吐いたほうがいいのかを患
者に説明すると, 位置が合いやすい。それでも合わなけ
れば, 患者の安定した呼吸停止位置を確認し, CT 透視
下にてテーブルを頭尾側に移動し, 腫瘤が CT 断層面内
に描出されるようにする。その断層面で穿刺が安全に
可能であることを確認し, 1-1device をその断層面に移
動させる。ただし, あまり 1-1device を移動させると
無理な力が加わり生検針を進めるときに抵抗を感じる
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a b
図 4a, b
アーチファクトを指標に腫瘤へと
生検針を向ける。改良型ではリ
ニアアーチファクトが発生し, より
方向を合わせやすくなっている。
ことがあり, また局所麻酔が十分浸透していない可能性
もあるので, せいぜい前後数 a 程度にしておく。
CT 透視画像も, partial volume effect があることを念
頭に置き, fire 前または後に CT 透視下でテーブル移動
を行い, 確実に生検針が腫瘤を貫通していることを確認
する。
検体の取り扱い
当院では原則として迅速スタンプ細胞診を行ってい
る。得られた検体はすぐに生食含ガーゼに移し, 主治医
により病理検査室へ提出してもらっている。壊死が強
い病変などで検体が不十分な可能性があると推測され
る, あるいは免疫染色用の検体が追加で必要と判断され
るなどの場合は, その場で患者に説明し再度生検を施行
している。多くの場合, 待ち時間は数分であり, その間
に患者の状態を確認し生検後の CT を撮像している。
術後管理方法
生検後の CT を撮像し特に処置が不要と判断された場
合も, その 1 ∼ 2 時間後くらいに胸部単純写真を撮像し
合併症の有無を確認している。そこで気胸の増悪など
が見られ脱気が必要な場合は, 状況に応じて当科で胸腔
ドレナージを施行している。生検 4 時間後の胸部単純写
真で気胸がなければ原則帰宅を許可してもよいとの意
見もあるが 2), 当院では基本的に午後に IVR 検査を施行
しているため 1 泊入院をしてもらい, さらに翌日に胸部
単純写真を撮像し退院の可否を主治医に判断してもら
っている。
合併症時の対策と体制
肺生検における主な合併症としては, 1)気胸, 2)肺
出血・喀血, 3)空気塞栓, 4)悪性細胞播種が挙げられ
る。合併症を避けるための注意点は前述のごとくで, こ
こでは実際に起きた場合の当院での対処方法を主に述
べる。
1)気胸:最も頻度の高い合併症であり, その頻度は
62(62)
2)
11 %∼ 54 %と幅広く報告されているが , 評価方法
により異なってくると思われる。気胸の治療は, 生
検直後の CT で臓側胸膜と壁側胸膜との距離が 2 b
程度で, 症状の進行がなければ特に処置せず経過観
察としている。症状の進行があれば, まずは 18G エ
ラスター針を穿刺し用手的に脱気を行い, それでも
改善が見られない場合はドレナージチューブを挿入
している。チューブは手技の簡便性から, 比較的細
径でトロカール法にて挿入可能なものを主に用いて
お り , 最 近 で は 6.3 Fr.ピ ッ グ テ ー ル( TURNER
PIGTAIL PNEUMOTHORAX SET : COOK)を好んで
使用している。肺の気腫性変化が目立つ症例などで
は, 一時的脱気を行わずに最初からドレナージチュー
ブを挿入することが多い。吸引は− 5 ∼− 10 b H 2O
で行うが, ハイムリッヒ弁に接続するだけでも改善
が見られることもある。12 Fr.以上のいわゆるチェ
ストチューブは, 持続吸引を行っても改善が不良の
場合に使用している。一般的なことだが, チューブ
抜去の際はクランプした後, 胸部単純写真にて肺の
再虚脱の無いことを確認しておく。
2)肺出血・喀血:肺出血は少量のものを含めれば, 多
くの症例で認められる。喀血とは気道からの出血に
よって血液そのものを喀出する現象であり, 血痰と
は区別される。肺出血を比較的広範囲にきたすと喀
血をきたすことが多く(図 5a, b), 自験例では 6.8 %
3)
(間欠的 CT 透視下)にみられた 。
喀血の治療は, 少量であれば検査室で経過観察と
している。肺出血が高度であり喀血が遷延するよう
であれば止血剤の点滴を行い, 適宜口腔内を吸引し
ている。多くの場合検査室でほぼ治まるが, 血液疾
患の患者で凝固能は補正されていたが, 生検後中等
度の喀血をきたした際に血液を十分喀出できず呼吸
状態が悪化し, 検査室で気管挿管を要した 1 例を経験
しており, 厳重なバイタルチェックが必要と考える。
3)空気塞栓:まれな合併症であり, 発生頻度は 0.07 %
とされている。発生機序としては, 1)肺静脈と空気
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技術教育セミナー/生検術−肺生検
a b
図 5a, b
左肺下葉の腫瘤に対し間欠的
CT 透視下肺生検を施行した。
穿刺経路上の血管から出血が
認められる。
(大気, 気管支内, 肺胞内など)とが何らかの形で交
通していること, 2)空気圧が肺静脈圧より高くなる
こと, の 2 つの条件が同時に成立することが必要と
されている。1)の原因としては外套針が肺静脈内
にある場合や, 生検による気管支肺静脈瘻の形成が,
4)
2)の原因としては咳嗽が最も考えられる 。治療法
は O2 投与, 左側臥位・頭低位, ステロイド投与, 高
圧酸素療法などを行うとされるが, 高圧酸素療法が
可能な施設は限られており, 実際には脳虚血・冠動
脈虚血などの症状や, そのときのバイタルに応じて
救急処置を行うしかないと思われる。いったん生じ
れば重篤になりえる合併症で, 治療法も決定的なも
のがあるわけではなく, 前述したが生検針が胸腔内
に挿入された後は極力患者に咳をさせないことなど
の予防が重要と考える。
4)悪性細胞播種:空気塞栓同様稀な合併症であり, 発
生頻度は 0.04 %以下とされる。また播種の部位はほ
とんどの例で胸壁に限局しており, 肺実質内での増
4)
殖は稀とされている 。当院では悪性細胞播種では
ないが, 肺ノカルジア症の胸壁播種をきたした症例
を 1 例経験している。予防策としては, Coaxial 法で
行う・穿刺回数を減らすなどが挙がる。
以上, 肺生検の合併症について概説したが, 気胸, 肺
出血・喀血は比較的高頻度であり, 手技の続行が困難と
なることも稀ではなく, できる限り最初の穿刺 1 回で手
技を終了させたい。
おわりに
患者の十分な呼吸停止さえ確保できれば, 肺底部の病
変や 1 b 前後の病変でもほとんどは穿刺可能であると
考える。但し呼吸停止を含め患者の協力がなくては不
可能なため, 検査時に患者にその旨をしっかりと伝えて
おくことが肝要と考える。
【文献】
1)入江敏之: CT 透視下肺生検− 1-1device を用いた
CT 透視下肺生検. IVR 会誌 17 : 306 - 309, 2002.
2)岡島雄史, 田島廣之, 中澤 賢, 他: CT 下肺生検に
おける合併症と対策. IVR 会誌 17 : 310 - 313, 2002.
3)佐藤洋造, 松枝 清, 稲葉吉隆, 他:第 3 回肺生検研
究会. プログラム・抄録集 19 - 20, 2002.
4)智篠原義: CT ガイド下生検とその応用手技の実際,
第 1 版. 新興医学出版社, 東京, 1996.
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