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IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:池永素子
連載 1
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IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・
生検術−肺生検
癌研究会附属病院 細胞診断部
池永素子
細胞診は, 血液検査などと同様に今や日常的検査の一
つであるが, その検査結果は必ずしも事実を反映しない
ことがある。それは提供された材料が病変を正確に反
映するものではなかったり, また作製された標本が
artifact により診断困難をきたし, 正しい結果が得られ
なかったりするからである。材料の採取部位, 採取方法
および標本作製方法のいかんにより, 細胞診断結果の異
なることは日々経験するところであるゆえ, この項では
サンプリングの手技については触れないが, 材料の処理
方法に関して述べる。
細胞診材料には, ①病変部から直接採取されたもの
(生検, 穿刺吸引材料)と, ②病変存在による二次的材料
(胸腹水, 喀痰他)とがある。また病変の有無に拘わら
ず, 検診目的による材料(子宮頸部・体部擦過材料, 蓄
痰)もあるが, 今回はこれについては省略する。
②の病変存在による二次的材料(胸腹水, 喀痰他)は,
標本作製方法に関して特記する程の事項はないが, 材料
提出の際, 喀痰は 1 日分のみならず 3 日間程度の連日検
査が望ましい。それは僅か 1 回では異常が出なくとも連
日提出することで異常が見つかることがあるからである。
次に, ①の病変部からじかに材料を採取する生検材料
の取り扱い方について述べる。前記②の胸腹水, 喀痰な
どの材料では異常所見の有無をスクリーニングする目
的があるが, ①の材料では明らかに異常部位からの細胞
採取であるから, 細胞診はその病変の同定が要求され臨
床的意義も高い。よって材料採取側とその診断側との
多方の協力, レべルアップが必要不可欠であり, 診断に
適する適正標本の作製を行わなければならない。適正
標本とは, 確実に病変部を hit し, そこから充分量の細
胞を得て, 適正な処理を施したものである(図 1)。気
管支鏡あるいは CT で異常部位を確認し, ブラシ, 針な
どで細胞を採取しスライドガラスに塗抹する。塗抹時
に artifact は出来るだけ最小限度に止める。気管支鏡,
CT などで異常部位を捉えたら, ブラシ, 針などが確実
にその部位を hit しているかを確認する。外れていれば
目的とする部位以外の細胞を得ることになり, 異なった
診断結果を生じる。他臓器の超音波ガイド下での穿刺
吸引などは, 病変部に針が刺さっているように見えても
二次元画像ゆえ, 実は外れているということもある。針
先を回転させることにより位置の確認をし, 針の動きに
つれて腫瘤が共に動けば腫瘤内に針の刺さっている証
明となる。
64(64)
・確実に病変部を窄刺
↓
・充分量の細胞採取
→ 適正票本
↓
・適正な処理
図1
「確実に病変部を hit」したら次に「充分量の細胞を
採取」する。肺では異常細胞(悪性細胞を含む)は正常
細胞とは明らかに形態が異なり, 高分化な腺癌ですら核
は大型化し, 形状不整, 核小体の腫大などの異型を伴う
(図 2)。正常細胞より小型の小細胞癌においても核の濃
染性, 壊死物質の付随などの所見を持ち(図 3), 扁平上
皮癌も角化傾向という特徴的所見があり(図 4), 高度
異型化生と紛らわしいことはあるものの, いずれも採取
細胞量が少量だからといって癌の診断に難渋する程で
はない。しかし, 他臓器特に乳腺では, 細胞異型性の非
常に乏しい小型の癌細胞があり, これは採取細胞量が僅
かであれば under diagnosis を起こしかねない。このよ
うな症例では細胞形態のみでは悪性の診断が困難であ
り, 集塊構造, 出現パターンの判読が必要となるため充
分な細胞量が必須なのである。いずれにせよどの臓器
においても採取細胞量は多いにこしたことはない。
次に「適正な処理」であるが, 得られた材料をスライ
ドガラスに塗抹し, 速やか(1 ∼ 2 秒以内)に 95 %アル
コールに浸漬し固定する。15 分程度固定すれば染色可
能となる。ブラシ, 針などで得た材料を塗抹する際は,
生体内での増殖状態を出来るだけ損わないように心が
ける。そうすれば組織像と良く対応し, 細胞診断能力の
向上に役立つ。それに反し塗抹面に圧力をかけて無理
に引き伸ばしたり, 少量の材料にも拘わらず 2 枚のガラ
スですり合わせるなどの操作を加えると, 細胞は挫滅
(図 5)や乾燥(図 6)を来す。乾燥は塗抹後固定までに
時間がかかっても起きる。また組織診用の材料を採取
した時に, 捺印細胞診を施行しておくと同一材料の組織
像と細胞像が得られ, 学習に効果的である。その際は組
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技術教育セミナー/生検術−肺生検
織片を濾紙などの上に置き, その上からスライドガラス
を軽く押し当てて捺印すると良好な細胞像が得られる
(図 7)。気管支ブラシなどでの擦過に比べ, 針での穿刺
は出血を伴いがちである。多量の血液の混入は, 細胞の
詳細な所見の判読を困難にするので, その時はスライド
ガラスに吹き出して作製した標本に加えて, 穿刺針を生
理的食塩水で洗ったものを検体として提出するとよい。
それを遠次塗抹すると血液で支障を来されることなく,
良好な細胞像が得られる(図 8)。
以上のように適正標本の作製が, 正しい細胞診断を導
き出す鍵となる。
A
B
図 2 左上:弱拡大 右下:強拡大
正常細胞(A)
(線毛円柱上皮)と腺癌細胞(B)
図 3 左上:強拡大 右下:弱拡大
小細胞癌
図 4 左上:弱拡大 右下:強拡大
扁平上皮癌(角化した癌細胞)
図 5 a :引きのばされ挫滅した癌細胞
b :同一症例の塗抹良好な癌細胞
a
b
図 6 a :乾燥した癌細胞
b :同一症例の固定良好な癌細胞
a
b
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図 7 左上:弱拡大 右下:強拡大
組織片の捺印細胞診(悪性リンパ腫)
図 8 a :血液に埋れた癌細胞集塊
b :同一症例の針洗浄(生食)標本
a
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b