公募型研究事業-Ⅰ - 鹿児島県 水産技術開発センター

平成25度
鹿児島県水産技術開発センター事業報告書
公募型研究事業-Ⅰ
(多獲性赤身魚「サバ」の高付加価値化を実現するための
革新的な原料保蔵と加工システムの構築)
保
【目
聖子・加治屋
大・稲盛
重弘
的】
サバ等の多獲性赤身魚は,まき網漁業や定置網漁業により一時に大量に漁獲されることから,生鮮
魚流通の場合,過大な市場入荷量が価格の低下を招くことがあるとともに水揚げが可能な市場も限定
されることがある。また,従来のサバ冷凍品は,ATPが消失した状態で凍結することから,タンパク
質の機能性状が冷凍変性により低下しており,一般的に品質評価が低い。そこで,漁獲から冷凍加工
までの高鮮度維持方法を構築し,筋肉中のATPによる凍結保存時のタンパク質等変成抑制効果の活用
による高品質冷凍技術を確立することを目的に,致死方法及び凍結処理までの時間が冷凍品の品質に
与える影響について明らかにする。
【材料及び方法】
供試魚
鹿児島県沿岸海域で漁獲され生け簀で蓄養されたマサバ(平均体長29.0±3.3cm,平均体重320±5
0g)202尾を用いた。また,宮城県石巻市沿岸の定置網で H25 年 8 月 6 日に漁獲され,石巻漁港に水
揚げされたゴマサバを定置漁獲物として試験に供した。
致死方法
生け簀から取り上げ後,約-1℃の海水氷を入れた水槽内に22分間浸漬し致死させる方法(以下,
海水氷〆という。)及び生け簀から取り上げ直ちに首を折り鰓を切断し即殺・脱血処理を行う方法(以
下,首折〆という。)の 2 通りの手法で実施した(図1)。
凍結方法及び凍結保管方法
アルコールブライン凍結機により,ラウンド形態のまま-35 ℃で凍結処理を行った。凍結処理は,
①致死後直ちに凍結処理を行う場合,②致死後 4 時間経過後に行う場合,③致死後 8 時間後に行う
場合の 3 通りとした。凍結後は,-25 ℃で保管し,2 ヶ月後及び 4 ヶ月後に-1 ℃冷水により半解凍し,
評価試験に供した。なお,致死後凍結処理に供するまでは,5 ℃の冷蔵庫内で保管した(図1)。
図1
試験の方法
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また,定置漁獲物については,アルコールブライン凍結機による急速凍結の他,-20 ℃冷凍室での緩
慢凍結処理を行い,前述同様-25 ℃で保管した(写真 2,3)。
図2
急速凍結処理
図3
緩慢凍結で使用した冷凍庫
凍結前及び凍結品の品質分析
凍結処理前の品質については,筋肉中のATP及び乳酸量並びに魚肉の色調及び筋肉の圧縮強度を調
べた。冷凍サバの品質については,解凍直後の魚肉の色調及び圧縮強度の測定並びに試食アンケー
トによる官能評価を実施した。なお,それぞれの測定方法については,下記のとおりとした。
すなわち,筋肉は素早く背部より筋肉の一部をサンプルチューブに採取し,液体窒素で直ちに凍
結処理を行い,分析に供するまで-80 °Cで保存した。筋肉のATP及び乳酸濃度の分析は,0.6 M過塩
素酸でホモジネート抽出し,遠心分離して得られる上清を用いて行った。ATP濃度は過塩素酸抽出で
得られた上清を2 M水酸化カリウムで中和し,HPLCで測定した。乳酸濃度は上清を試料としてF-kit
(Roche Dignostics製,BRD)により測定した。筋肉の圧縮強度は,魚体に対し水平方向に 10mm 幅
に切り出した試料の背肉部分について,サン科学社製レオメーター CR-500DX でプランジャーを
6mm 押し込んだ時の応力を測定した。プランジャーは,直径 5mm の円板プランジャーを用い,侵
入速度は 1mm/sec とした。官能評価は,ATP濃度が約6~10μmol/g程度残存していた海水氷〆と首折
〆の致死後直ちに凍結処理を行ったものと,ATP濃度が約1μmol/g程度しか残存していない首折〆8
時間経過後に凍結処理したものを-25℃で2ヶ月間保管し,当センター職員24名を対象に試食アンケ
ートによる評価を行った。また,ヒスタミンは,水揚げ直後に腹部の筋肉の一部を採取し,液体窒
素で凍結処理を行い,分析に供するまで-80°Cで保存した。ヒスタミンの分析は筋肉の8倍量の精製
水を加えホモジナイズし,遠心分離して得られる上清をEIA Histamarine kit(Beckman Coulter製)
を用いて反応後,マイクロプレートリーダー(東ソーMPR-A4i)にて400nmにおける吸光度を求めた後,
ヒスタミン標準品の濃度と吸光度の検量線からヒスタミン濃度を求めた。
【結果及び考察】
1.凍結処理前のサバの品質について
海水氷〆及び首折〆直後の筋肉のATP濃度は,それぞれ5.78±2.683μmol/g及び9.53±1.03μmol/
gであり,首折〆が有意に高い値であった。4時間経過後には,海水氷〆は1.64±1.50μmol/gとATP
濃度の減少が顕著であった。一方,首折〆では,4時間経過後も6.70±1.62μmol/gと高濃度を維持
していた。また,首折〆においても,8時間経過後には,1.26±1.19μmol/gまで顕著に減少した(図
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4)。
海水氷〆及び首折〆直後の筋肉乳酸濃度は,それぞれ83.57±15.47μmol/g及び48.72±18.74μmo
l/gであり,首折〆が有意に低い値であった。また,海水氷〆及び首折〆両試験区ともにATP濃度と
鏡像するように致死直後から徐々に乳酸の蓄積が認められ,4時間には,それぞれ108.61±19.00μm
ol/g及び73.89±24.11μmol/gとなり,8時間経過後には,それぞれ145.47±14.36μmol/g及び100.3
3±22.65μmol/gとなった。致死方法で比較すると,首折〆より海水氷〆で有意に高い値で推移した
(図5)。また,図示しないが石巻市の定置網で漁獲された水揚げ直後の筋肉乳酸の濃度は,128.13±
3.96μmol/g(n=10)と鹿児島県実施した海水氷〆で致死後4時間と8時間の中間に位置するデータと重
なった。このことから,ATPを高濃度で残し,乳酸の蓄積が始まっていない高鮮度の状態で凍結する
には,首折〆の方が有効であることが確認された。
なお,東北地方でサバの生食に対する強い懸念の一つであるヒスタミンについて石巻市の定置網
で漁獲された水揚げ直後のサバを対象に分析を実施したが,0 ~0.17ppm(n=10)でありヒスタミンの
蓄積は認められなかった。
図4
図5
凍結処理前のサバ筋肉中 ATP 濃度
凍結処理前のサバ筋肉中乳酸濃度
2.凍結保管後における冷凍サバの品質について
(1)サバ肉の色調
-25℃で4ヶ月保管した冷凍サバについて致死方法(海水氷〆と首折〆)の違いが解凍直後の肉の
色に与える影響について検討した。精肉部のa*値(赤色度)については,海水氷〆より首折〆の方
が低い値で推移した(図6左)。このことは,首折〆で行う脱血処理により血色素の流失によるものと
推察されるが,どちらの色調が消費者の嗜好性に近いか確認した上で評価する必要があると考える。
また,血合肉部のa*値(赤色度)については,致死方法の違いによる差は認められず,凍結処理ま
での時間が長くなると小さい値をとる傾向が認められたことから,解凍後のメト化が促進されるこ
とが明らかとなった。よって,血合肉の色調については,致死方法の違いよりも,致死後の凍結処
理までの時間による影響が大きいことが確認された(図6右)。
また,石巻市の定置網で漁獲物を急速及び緩慢で凍結処理後,-25℃で2ヶ月間保管した冷凍サバ
の色調については,精肉部及び血合肉ともに,緩慢凍結の方がa*値(赤色度)が大きな値となった
ものの,統計処理の結果,有意差は認められなかった(表1)。
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図 6 凍結処理までの時間と致死方法の違いが冷凍サバ肉の色調に与える影響について
表1
定置網漁獲物における凍結方法ごとの冷凍サバ色調
部 位
精 肉
血 合 肉
6 .0 6 ± 1 .3 4
1 2 .6 6 ± 2 .1 7
7 .1 1 ± 1 .5 9
1 4 .4 1 ± 1 .3 8
凍 結 の 方 法
急 速 凍 結
緩 慢 凍 結
※ 精 肉 は n = 2 4 , 血 合 肉 は n = 8
(2)サバ肉の圧縮強度
-25℃で2ヶ月間保管した冷凍サバについて,致死後直ちに凍結処理を行った場合と致死後8時間経
過後に凍結処理を行った場合について,先に述べた2通りの致死方法で比較した結果,試験区間の差
は認められなかった(図7)。今回の測定において,解凍処理後に高鮮度故に解凍硬直を引き起こした
個体も入り交じったことが影響評価を困難にさせた原因であると示唆された。このように冷凍魚の
評価に影響を及ぼす解凍工程には,細心の注意を払う必要がある。
60
50
圧縮強度(g)
40
30
20
10
0
海水氷〆0h後
図7
首折0h後
海水氷〆8h後
首折8h後
-25℃2ヶ月保管後の筋肉圧縮強度
。
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(3)試食アンケート
試食アンケートで得られたデータを得点化したものを図8に示す。血合肉の色の評価及び歯ごたえ
の評価において,首折〆及び海水氷〆の致死後直ちに凍結処理を行ったもの,すなわちATP濃度が高
い濃度で残存しているものの評価が高かった。
血合筋の赤さ
25
20
15
得点
10
5
0
‐5
即殺0h
即殺8h
海水氷〆0h
‐10
‐15
‐20
図8
試食アンケート結果
以上の結果から,凍結保管後のメト化抑制には,首折〆が有効であったが,海水氷〆であっても,
ATPが高濃度に残存している状態で凍結処理を行うことができれば首折〆と遜色のない冷凍サバが製
造できる可能性が示唆された。
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