[第16回]インフルエンザ

こどもの病気【第 16 回】
インフルエンザ
新型インフルエンザってどうなったの?
2009 年 3 月にメキシコから発生し世界的に大流行したインフルエンザを世間では
「新型インフルエンザ」と呼びました。では、新型インフルエンザとはどういう病気
なのでしょうか?本来ヒトの体の中で増えることのできない動物のインフルエンザウ
イルスが、ヒトの体の中で増えることができるように変化して、ヒトからヒトへ感染
するようになったインフルエンザウイルスを「新型インフルエンザウイルス」と呼び、
そのウイルスによる感染症を「新型インフルエンザ」と呼んでいます。今回のウイル
スはもともとブタのインフルエンザが変化したものでした。今回のウイルスが流行し
始めだいぶ時間が経過したため、今では新型インフルエンザという呼び方はしなくな
っています。パンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 と呼び、通常の季節性
インフルエンザに含まれるようになりました。
発熱があり、インフルエンザを疑わせる症状がある場合は以下のように対応してく
ださい。理由は、後に記載する解説をお読みください。
重要:発熱があり、インフルエンザを疑ったら
① 発熱後早期(12 時間くらい)は、インフルエンザの診断はできません。まず、当
日は集団生活を避け、自宅待機をして他の人との接触を避けてください。
② 部屋をすずしめにし、薄着をさせ、わきの下やそけい部、首の付け根などを保冷剤
や氷などで冷やしてください。
③ 翌日の通常の診療時間に、マスクをして病院を受診してください。
④ 抗インフルエンザ薬といわれている薬は、発熱後 48 時間以内に開始すれば十分に
効果があります。
⑤ グタッとしている、顔色が悪い、意識がはっきりしない、けいれんがあるなどの重
症感がある場合は直ちに受診させてください。
⑥ インフルエンザと診断されたら、解熱後 48 時間は人にうつす可能性があります。
この期間中は、できるだけ他の人との接触は避けてください。もし、避けられない
場合は、マスクをしてください。
解説:インフルエンザ
1.かぜとインフルエンザの違いはなに?
普通感冒(かぜ)
インフルエンザ
発病
比較的ゆっくり
急激
症状の部位
のどや鼻など局所的
強い倦怠感など全身的
発熱
軽度
高 い 、 し ば し ば 39~ 40℃
悪寒
軽度
強い
からだの痛み
なし
強い
重病感
なし
あり
全身症状に先行する
全身症状に続いて起こる
鼻 汁 、の ど の 痛
み
合併症
まれ
予防
特になし
治療
対症療法
肺炎、脳炎・脳症、心筋炎など重篤と
なることあり
ワクチン
対症療法、
抗インフルエンザウイルス薬
医学的に「かぜ」という病気はありません。鼻やのどの急性の炎症を伴う病気の総
称として「かぜ症候群」と呼んでいます。原因となる病原体はライノウイルス、アデ
ノウイルス、コクサッキーウイルス、RS ウイルスなどのウイルスです。それに対し、
「インフルエンザ」とはインフルエンザウイルスによる急性感染症で、日本では年間
に 600~1000 万人がかかるといわれています。インフルエンザウイルスは、ヒトのの
どの粘膜について 30 分で増え始め、1~2 日で発病します。
「かぜ」は比較的ゆっくりと発病し、発熱も軽度で鼻水やのどの痛みが全身症状に
先行します。特別な予防措置や治療もなく解熱剤や鎮咳剤などの対症療法が治療の中
心となります。それに対し、
「インフルエンザ」は急激に発病し、強い倦怠感や全身の
痛み、39~40℃の発熱などの全身症状が先行し、そのあとで鼻水やのどの痛みなどが
出現する場合が多いです。「かぜ」に比べ重症感が強い場合が多いです。肺炎、脳炎・
脳症など重篤な状態になる場合もあります。ワクチンが予防に有効で、治療にも対症
療法のほかにタミフルやリレンザなどの抗インフルエンザウイルス薬があります。
2・パンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009(旧称:新型ブタインフルエンザ)の
特徴はなに?
パンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 と季節性インフルエンザの症状は非常
に似ています。症状だけでパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 と季節性インフ
ルエンザを区別することはできません。まず突然の発熱、のどの痛み、鼻汁、くしゃ
み、咳、頭痛、寒けなどがみられます。発熱はほぼ 95%の割合で出現します。このよ
うないわゆるかぜ症状の他に、筋肉痛、関節痛、眼球の痛み、腹痛、下痢など幅広い
症状がみられます。熱はだいたい 5 日間続きます。この中で 3 日目に少しの間解熱す
ることがあり、これは二峰(にほう)性の発熱と呼ばれています。
インフルエンザの合併症として脳炎・脳症や肺炎がありますが、パンデミックイン
フルエンザ A(H1N1)では、小児においては脳炎・脳症が多くみられ、インフルエンザ
ウイルスそのものによる肺炎が多い傾向があります。
3.インフルエンザってどうやってうつるの?
通常のインフルエンザの主な感染経路は、飛沫感染と接
触感染です。
飛沫感染とは、感染した人の咳、くしゃみ、つばなどの
飛沫とともに放出されたウイルスを健康な人が吸入するこ
とによって感染する様式です。ウイルスを含んだ飛沫は、1
~2 メートルしか届きません。インフルエンザにかかった
人がマスクをすることは感染予防のために非常に有効です。
接触感染とは、主に手を介した感染様式です。感染した人がくしゃみや咳を手で抑
えた後や、鼻水を手でぬぐった後に、机やドアノブ、スイッチなどに触れると、その
触れた場所にウイルスが付着し、その付着したウイルスに健康な人が手で触れ、その
手で目や鼻、口に再び触れることにより、ウイルスが体の中に入り感染する方法です。
インフルエンザにかかっていない人は、うがいや手洗い、手の消毒をすることが感染
予防として有効です。
鼻をかんだティッシュなどは、すぐに捨て、手を洗ってください。マスクも使いま
わしはせず、1 日に 1 回変えましょう。日常生活でも食卓等こまめに拭くようにしまし
ょう。アルコールで消毒するとなお良いと思われます。
4.インフルエンザはどうやって診断するの?
症状だけで、インフルエンザと他のかぜとを区別することはできません。一般に行
われているのは、インフルエンザ迅速診断キットと呼ばれるものを使った診断です。
このキットを用いても、パンデミックインフルエンザ A(H1N1) と季節性インフルエ
ンザを区別することはできません。パンデミックインフルエンザ A(H1N1)は A 型イン
フルエンザとして診断されます。ただ、発熱が出現して、ある程度(12 時間くらい)経
過しないと陽性の反応が出ません。治療の項でも説明しますが、抗インフルエンザウ
イルス薬は発症後 48 時間以内に使用すれば効果があるとされるため、夜間に発熱した
時は、すぐに病院を受診するのでなく、翌日に受診すれば診断の精度が高まり、より
効果的な受診となります。
5.インフルエンザの治療はどうするの?
対症療法が基本です。熱が高ければ、積極的に体を冷やしたり、解熱剤を使ったり
します。咳や痰がひどければ、鎮咳去痰剤を使います。下痢がひどければ整腸剤を使
います。タミフルやリレンザ、そして新しいイナビル、ラピアクタという抗インフル
エンザウイルス薬があり、発症後 48 時間以内に使用すれば症状を軽減したり症状のあ
る期間を短縮したりする効果があります。ただ、タミフルには以前から指摘されてい
る異常行動という問題があり、10 代には使用しないようにという通達があります。日
本では、抗インフルエンザウイルス薬が非常に多く使用されていますが、海外では、
重症例に限って使用されています。また、海外では使用されている場合も発症後 48 時
間を過ぎてから開始されている場合も多いです。パンデミックインフルエンザ
A(H1N1)2009 に関しては、諸外国に比べ日本では死亡例や重症例が非常に少なかった
というデータがあります。抗インフルエンザウイルス薬の早期投与が有効であったと
考えられています。
6・インフルエンザワクチンは接種したほうがいいの?
2010 年度からはパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 の株が含まれたインフ
ルエンザワクチンが精製され、通常のインフルエンザワクチンとして冬場に接種され
るようになりました。抗インフルエンザウイルス薬が効かない耐性インフルエンザウ
イルスも多くなってきています。インフルエンザにかかってから治療するよりもかか
らないことが一番重要です。そのためにもインフルエンザワクチンは一番有効な予防
手段ですので、ぜひとも接種してください。できれば家族全体で接種して家族にイン
フルエンザを持ち込まないようにしてください。インフルエンザワクチンは生後 6 か
月を過ぎれば接種できます。
行徳総合病院 小児科 佐藤俊彦