(継続事業名 :学術生涯教育) 名 称 平成 27 年度第 5 回学術講演会 日 時 平成 27 年 9 月 12 日 (土) 場 所 ホテルアイボリー 3 階オーキッドホール 主催・共催 P.M. 2:00 ~ 4:00 (一社)豊中市医師会、バイエル薬品(株) 協力・後援 - 演 「動脈硬化惹起性の食後高脂血症の成因とその治療」 題 講 師 名 講師の所属・役職等 座 長 参加対象者 取得単位 山下 静也先生 りんくう総合医療センター 院長、大阪大学大学院医学系研究科総合地域医療 学寄附講座 特任教授 豊中市医師会 学術生涯教育委員会 委員 伊藤 直人先生 医師 日本医師会生涯教育制度 2 単位(2、73、75、82)申請中 ※地域包括診療加算届出に必要なカリキュラムコード「75・脂質異常症」含む 申込先・申込方法 - 申込の締め切り - 内容 【講演要旨】 食後の高中性脂肪(TG)血症は心血管疾患発症を増加させるが、この背景 には食後高脂血症が存在し、小腸由来のカイロミクロンレムナント(CM−R) が血中に蓄積している。CM-R は酸化を受けずに内皮下に侵入し粥状動脈 硬化病変を進展する。我々は食後高脂血症の定量的評価のため、カイロミ クロンや CM−R の 1 粒子に 1 分子存在するアポ蛋白(アポ)B-48 濃度測 定系(ELISA)を世界に先駆けて開発した。さらに、アポ B-48 の自動分 析が可能で多数検体を短時間に処理できる CLEIA 法も開発した。空腹時 アポ B−48 濃度は、健常人において高脂肪食負荷後の TG 値の推移(iAUC) と唯一強く相関するマーカーであった。検診受診者のうち TG 値正常 (100<TG<150mg/dl) の 群 に お い て 頸 動 脈 IMT と 最 も 強 く 相 関 す る subclinical な動脈硬化性変化を示唆するマーカーであることも判明した。 冠動脈造影施行例での検討では、空腹時アポ B−48 値は他の冠動脈疾患リ スク因子よりも強く冠動脈有意狭窄の有病率と相関し、他の危険因子と併 存するとより有病率が上昇し、CM−R の蓄積は相乗的に動脈硬化リスクを 進展することが示唆された。HPLC 解析では CM−R は LDL や HDL と同 程度の小粒子リポ蛋白にも存在していた。CM-R が蓄積する家族性Ⅲ型高 脂血症では apoB-48/TG 比が高値となり、治療介入しても apoB-48/TG 値 は高値であった。以上から、血清アポ B−48 値の測定は動脈硬化病変を悪 化させる外因性レムナントの定量的評価に有用であり、今後の residual risk の評価に有用であると考えられた。 一方、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤であるエゼチミブは 小腸におけるカイロミクロン産生を抑制することが示唆される。その機序 としては、NPC1L1 阻害によりコレステロールエステルを低下させるだけ でなく、二次的に FATP4 の阻害により遊離脂肪酸(FFA)の小腸での吸収 を抑制して TG を低下させることにより、カイロミクロンの基質を減少さ せ、さらに ApoB48 の産生抑制されることにより、食後高脂血症を抑制し、 動脈硬化惹起性のレムナントを低下させると考えられる。さらに、エゼチ ミブは FFA 吸収やレムナント産生の抑制を介して、インスリン抵抗性や血 管内皮機能にも好影響を及ぼし、動脈硬化性疾患の発症率を低下させるこ とが期待されている。 最近、New Engl J Med に発表になった IMPROVE-IT 試験(急性冠症候 群 18,000 例を対象とした二次予防試験)の結果から、LDL-C 投与前値が極 めて低くても、エゼチミブのスタチンへのアドオンにより更なる脳・心血 管イベントの低下効果とエゼチミブの安全性が確認された。エゼチミブ投 与群においては、虚血性脳梗塞、非致死性心筋梗塞等のメジャーイベント が抑制されたことから、患者の生命予後を改善するにとどまらず、ADL の 改善も期待できる治療戦略となりうることが示唆された。また、患者背景 のサブ解析から糖尿病患者や高齢者でイベント抑制効果が大きく、動脈硬 化性疾患ハイリスク症例の LDL-コレステロール低下療法においては、今 後、The lower the better の概念が浸透する可能性が高い。現行のスタチン 治療にエゼチミブを追加投与することで、更なる脳・心血管イベント抑制 を目指した脂質異常症に対する新たな治療戦略となりうることが示唆され た。
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