G - 02 - 名古屋工業大学 張・岩井研究室

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G - 02
第 50 回地盤工学研究発表会
(札幌) 2015 年 9 月
K0 条件下で数 Hz の動的載荷を受ける藤森粘土の微視的・巨視的挙動
繰返し載荷 帯磁率異方性 藤森粘土
名古屋工業大学 学生会員 ○栗本悠平,小枝幸真,王乾
国際会員
1. はじめに
沈み込み帯におけるプレート境界断層(デコルマ)形成時の
力学特性を理解することは,海溝型地震発生帯の形成メカニズ
ムを解明する手がかりになる.なかでも,デコルマは粒子配列
を保持したまま高密度な状態 1), 2)である特異性を有している.し
かしながら,巨大地震に関する研究は地質記録等からの類推に
よるものがほとんどであり,境界断層材料を用いた力学試験や
その形成メカニズムに関する研究は数少なく,室内要素試験や
数値実験等の基礎的な研究が求められる.そこで,境界断層を
張鋒
海洋研究開発機構
山本由弦,阪口秀
筑波大学
氏家恒太郎
Table2 K0 動的載荷試験の試験条件
Consolidation
Stress
Frequency Number of
Case
stress (MPa)
amplitude (MPa)
(Hz)
vibrations
A
0.5
0.5
B
1
1000
C
1.5
D
2
0.5
2
E
100
F
0.5, 1.0, 1.5
1000 each
0.5
G
1
2000
H
1.5
3000
形成する海底岩盤の力学特性を把握する初期段階として,将来
的にデコルマとなるプロトデコルマの組成物質に近い藤森粘土
を用いて K0 条件下での動的載荷試験を実施し,特に繰返し載荷
を受ける試料の変形量と載荷前後の内部組織・構造を観察した.
3.2 試験結果
K0 動的載荷試験における各試験ケースの結果をFig.1 に示す.
図中の縦軸は動的載荷開始直前の変位を 0mm とした鉛直変位
の値であり,横軸は振動回数または振動開始時を 0sec とした観
2. 試験試料
測時間である.Fig.1 (a)より,圧密応力の増加に伴い剛性は増加
試験にはTable1に示す425m以下の再構成藤森粘土を使用し
するため変形しにくくなるにも関わらず,動的載荷後の塑性変
た.試験試料は液性限界の二倍程度の含水比に調整したスラリ
形量は大きく発生し,Case B では Case A と比較して最大 5 倍程
ーを 50kPa で予備圧密した後,直径 50mm×高さ 20mm の円柱
度の差を生じる結果が得られた.また,Fig.1 (b)より,振動開始
に整形した.その後,載荷荷重を有効応力として確実に作用さ
初期において振動数が小さいほど大きく変形するが,塑性変形
せるため,
目標飽和度を 80~90%に設定し曝露試験を実施した.
量は同程度であることが観察できる.ただし,今回は振動数依
存性を検証する試験ケースが少なく,藤森粘土に振動数依存性
Table1 藤森粘土の物理特性
Unit
g/cm3
Soil particle density s
kN/m3
Wet unit weight t
kN/m3
Dry unit weight d
Moisture content w
%
Degree of saturation Sr
%
Uniformity coefficient Uc
Coefficient of curvature Uc'
Liquid limit wL
%
Plastic limit wp
%
Plasticity index Ip
-
は無いと断言することは困難であるため今後も継続的に検証し
Value
2.67
16.6
11.7
42.2
80~90
5.0
0.4
48.6
28.6
20.0
ていく.一方,振動回数依存性に着目すると,振動回数の増加
に伴い塑性変形量は大きく発生する.Fig.1 (c)に示す応力経路依
存性に着目すると,応力経路が異なるにも関わらず,高圧条件
下で振動回数と最大応力振幅が同じであれば,応力経路に依ら
ず動的載荷後の塑性変形量は同程度発生すると言える.なお,
動的載荷による変形は振動回数が二百回以内でほとんど発生し
ているため,応力経路依存性は確認されないという解釈はあく
までも変位が定常化する振動回数が二百回以上に限定している.
動的載荷前後における内部組織・構造の変化を捉えるために,
3. K0 動的載荷試験および内部組織・構造観察
帯磁率異方性(Anisotropy of Magnetic Susceptibility; AMS)測定
3.1 試験条件
4), 5)
と走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)観
K0 動的載荷試験の試験条件は Table2 に示すように Case A を
察を実施した.
また,
動的載荷における各種依存性だけでなく,
基本ケースとして,動的荷重の応力振幅や振動数,振動回数,
静的載荷が内部組織・構造に与える影響も検証するために,各
応力経路の依存性をそれぞれ検討するために設けた.K0 動的載
動的載荷の最大圧密応力に対応する圧密応力(2MPa,2.5MPa,
荷試験とは実地盤の応力状態である K0 条件下において動的荷
3MPa,3.5MPa)を定ひずみ圧密試験よる静的載荷により作用さ
3)
重を作用させる試験を言い,K0 動的載荷装置 を用いる.なお,
海底岩盤の高応力状態を再現するため,K0 動的載荷試験開始前
せ,それらの内部組織・構造も観察した.
AMS 測定の結果を Fig.2 に示す.図中の L と F はそれぞれ,
に定ひずみ圧密試験(ひずみ速度 0.05%/min)により,中心圧
粒子の配列状態が線構造または面構造であることを意味し,値
密応力 2MPa まで圧密した.また,中心圧密応力までの静的載
の大きさは構造の発達度合いを表す.
なお,
測定機器の都合上,
荷時は上端を排水とし,動的載荷時は非排水条件で実施した.
藤森粘土を三等分に整形した後に AMS 測定を行った.Fig.2 (a)
Micro-macro deformation behaviors of Fujinomori clay subjected to cyclic loading under K0 condition
Kurimoto, Y., Saeda, Y., Wang, Q., Cho, H. (Nagoya Institute of Technology), Yamamoto, Y., Sakaguchi, H. (JAMSTEC), Ujiie, K. (University of Tsukuba)
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に示す静的載荷後の AMS に着目すると,試料作製時に作用す
る圧密応力 50 kPa では対称軸付近にプロットされ,粒子配列や
組織はほぼ等方状態に近いと言える.また,圧密応力の上昇に
伴い F 値は最大 1.02 程度まで増大し,面構造を意味する圧密組
織が発達する.一方,動的載荷後の AMS に着目すると,多く
の試験ケースでF 値が1.02 以上を計測した.
これらの結果より,
静的載荷と比較して動的載荷は面構造の発達に大きく寄与する
と言える.ただし,同一試料でも帯磁率を測定する箇所により
AMS は大きく異なるため,応力振幅や振動回数等の依存性は不
明確である.AMS がばらつく原因は,AMS 測定結果のみで議
論することは困難であるため,後述する SEM 観察の結果を踏
まえて議論する.
SEM 観察の結果を Fig.3 に示す.静的載荷後の試料に着目す
ると,圧密応力の上昇に伴い間隙が縮小し,面構造を形成する
圧密組織の発達を観察できる.この傾向は動的載荷後の試料に
おいても観察され,さらに砂粒子により形成される間隙に粘土
鉱物が入り込む現象も確認した.すなわち,動的載荷による面
構造の顕著な発達はこの現象に起因していると考えられる.ま
Fig.1 K0 動的載荷試験結果;(a) 応力振幅依存性,
た,Fig.3(c)に示すように同一試料(例えば,Case A)にも関わ
(b) 振動数・振動回数依存性,(c) 応力経路依存性
らず,面構造が小さく測定された箇所は砂粒子が多く,面構造
が大きく発達している箇所では粘土鉱物が多く含まれることが
においても AMS が大きく異なったと言える.
4. 結論
プレート境界断層付近で頻発する地震動等に起因する動的荷
Consolidation stress 50kPa
Consolidation stress 2MPa
Consolidation stress 2.5MPa
Consolidation stress 3MPa
Consolidation stress 3.5MPa
1.04
1.03
1.02
1.01
(a)
1.00
1.00
1.01
1.02
1.03
1.04
F=Kint/Kmin (magnetic foliation)
重がプロトデコルマの組成に近い藤森粘土の変形量と内部組
L=Kmax/Kint (magnetic liniation)
寄与しない一方で,粘土鉱物は大きく寄与するために同一試料
L=Kmax/Kint (magnetic liniation)
判明した.これより,AMS 測定には砂粒子は帯磁率にほとんど
1.05
1.05
1.05
Case A: Max. 2.5MPa
Case B: Max. 3MPa
Case C: Max. 3.5MPa
Case D: Max. 2.5MPa
Case E: Max. 2.5MPa
Case F: Max. 3.5MPa
Case G: Max. 3MPa
Case H: Max. 3.5MPa
1.04
1.03
1.02
1.01
(b)
1.00
1.00
1.01
1.02
1.03
1.04
1.05
F=Kint/Kmin (magnetic foliation)
Fig.2 AMS 測定結果;(a) 静的載荷後,(b) 動的載荷後
織・構造に与える影響を検証するために,K0 動的載荷試験を実
施した.
その結果,
振動回数が多くかつ応力振幅が大きいほど,
塑性変形が大きく発生した.また,AMS 測定と SEM 観察を用
いて載荷試験前後の試料の内部組織・構造を観察した結果,動
的載荷が繰返し作用すると粘土鉱物は砂粒子により形成される
間隙に入り込み,それが面構造の発達に大きく寄与することが
判明した.ただし,砂粒子の存在は帯磁率にほとんど寄与しな
いため,AMS 測定を用いて内部組織・構造の変化を定量的・定
性的に検証する場合は,砂粒子が少なく粘土鉱物を多く含む試
料が適していると言える.今後は粘土鉱物の割合が多い試料を
用いて動的載荷試験を実施し,内部組織・構造の変化をより詳
細に検討し,デコルマの形成要因となる外力の同定やメカニズ
ムの解明を目指す.
Fig.3 SEM 観察結果;(a) 静的載荷試験 2MPa,
(b) 動的載荷試験 Case B,(c) F 値の発達が小さな箇所
参考文献 1) Morgan, J. K. et al. (1995): Journal of Geophysical Research, 100(B8),
15221-15231. 2) Ujiie, K. et al. (2003): Journal of Geophysical Research, 108(B8), 2398-1-14.
3) Kurimoto, Y. et al. (2015): Proc. of the 15th Asian Regional Conference on Soil Mechanics
and Geotechnical Engineering. 4) Graham, J. W. (1966): The Earth Beneath the Continents, 10,
627-648.5) Hrouda, F. (1978): Physics of the Earth and Planetary Interiors,17(2), 89-97.
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