2015/04/27(月) 13:00-14:30 線形代数学 1 (明治大学 理工学部 情報科学科) 補助資料 使用テキスト: 対馬龍司「線形代数学講義」(共立出版) 余因子による行列式の展開 (テキスト p.65-83) 定義 1 (互換の符号). σ を有限集合 {1, 2, . . . , n} で定義された互換とする. はじめに, Tn および σ{i,j} を { 1 σ(i) < σ(j) Tn := {{i, j}|1 ≤ i ≤ j ≤ n}, σ{i,j} := −1 σ(i) > σ(j) と定義する. このとき, ( sgn(σ) := = ) 1 2 ··· n σ(1) σ(2) · · · σ(n) ∏ σ{i,j} = (σ{1,2} · · · σ{1,n} )(σ{2,3} · · · σ{2,n} ) · · · σ{n−1,n} {i,j}∈Tn を互換 σ の符号という. また, sgn(σ) = 1 のとき σ は偶順列, sgn(σ) = −1 のとき σ は奇順列であるという. 例 1. σ を 3 つの元を含む有限集合 {1, 2, 3} 上定義された互換とし, σ(1) = 2, σ(2) = 3, σ(3) = 1 とする. このとき, ( ) ∏ 1 2 3 sgn(σ) = = σ{i,j} = σ{1,2} σ{1,3} σ{2,3} = 1 · (−1) · (−1) = 1, すなわち, σ は偶順列. 2 3 1 {i,j}∈T 3 定義 2 (行列式). A = (aij ) を n 次の正方行列とする. このとき, 行列 A の各列から 1 つずつ, 同じ行から重複 なく得られる計 n 個の成分からなる積 aσ(1)1 aσ(2)2 · · · aσ(n)n に互換の符号 sgn(σ) を掛けて得られる総和: ∑ sgn(σ)aσ(1)1 aσ(2)2 · · · aσ(n)n σ∈Sn を行列 A の行列式といい, |A|, det A, あるいは D(A) などと表す. ただし, Sn は有限集合 {1, 2, . . . , n} 上で定義 される互換の全体である. ( 例 2. A = 2 1 1 3 ) 1 ,B= 2 0 3 2 −3 1 とする. このとき, 行列式 |A| および |B| を求めよ. 2 1 解答 (概要). 定義 2 より, S2 は 2 (= 2!) 通りの互換全体, S3 は 6 (= 3!) 通りの互換全体である. したがって, ∑ |A| = sgn(σ)aσ(1)1 aσ(2)2 = 1 · a11 a22 + (−1) · a21 a12 = 1 · 6 + (−1) · 1 = 5, σ∈S2 |B| = ∑ sgn(σ)aσ(1)1 aσ(2)2 aσ(3)3 σ∈S3 =1 · a11 a22 a33 + 1 · a21 a32 a13 + 1 · a31 a12 a23 + (−1) · a11 a32 a23 + (−1) · a21 a12 a33 + (−1) · a31 a22 a13 =1 · (−3) + 1 · 8 + 1 · 0 + (−1) · 2 + (−1) · 6 + (−1) · 0 = −3. 注意 1. 2 次および 3 次の正方行列の行列式はサラスの方法を用いることで, 計算が容易になる. (テキスト p.70) 定義 3 (余因子). A = (aij ) を n 次の正方行列とする. このとき, A の行列式 |A| から i 行と j 列を取り除いて 得られる (n − 1) 次の行列式 Dij を行列式 |A| の (i, j) 成分の小行列式といい, Aij = (−1)i+j Dij を行列式 |A| の (i, j) 成分の余因子という. さらに, 余因子 Aij を用いて, 次の式が成り立つ (p.80, (3.9)-(3.10) 式). |A| = ai1 Ai1 + · · · + ain Ain (i 行による展開), |A| = a1j A1j + · · · + anj Anj (j 列による展開) 例 3. 第 3 行による展開 (|B| = b31 A31 + b32 A32 + b33 A33 ): 1 3 2 2 3+1 3 3+2 1 |B| = 2 −3 1 = 0 · (−1) + 2 · (−1) −3 1 2 0 2 1 2 3 3+3 1 + 1 · (−1) 2 −3 1 = 0 · 9 + 2 · 3 + 1 · (−9) = −3. 1 例 4. A = 2 1 2 3 とする. このとき, A の逆行列 A−1 を求めよ. 2 3 1 4 解答 (概要). はじめに, 第 1 行による展開 (|A| = a11 A11 + a12 A12 + a13 A13 ) を用いると, 1 3 2 1+1 1 3 1+2 2 3 1+3 2 1 |A| = 2 1 3 = 1 · (−1) + 3 · (−1) + 2 · (−1) = −10 + (−3) + 14 = 1. 4 2 1 2 1 4 1 4 2 |A| = 1 ̸= 0 より A は正則, すなわち, 逆行列 A−1 は存在する. A−1 の存在を示した上で, 掃き出し法および余因子展開 による 2 通りの解法を与えよう. 1. 行の基本変形を用いた掃き出し法 (p.44-45): 単位行列を右に並べた行列から左に並べた行列への基本変形を行おう. { 1 3 2 1 0 0 1 3 2 1 0 0 第 1 行 × (−2) + 第 2 行 (1) (1) 2 1 3 0 1 0 −→ 0 −5 −1 −2 1 0 第 1 行 × (−1) + 第 3 行 1 4 2 0 0 1 0 1 0 −1 0 1 1 3 2 1 0 0 (2) −→ 0 1 (2) 第 2 行 ←→ 第 3 行. 0 −1 0 1 0 1 (3) −→ 0 0 1 (4) −→ 0 0 1 (5) −→ 0 0 −10 したがって, A−1 = −1 7 2 7 −5 −1 −2 0 1 2 0 1 4 0 −1 0 0 −1 −7 0 1 0 0 −10 2 −1 0 0 −1 −7 1 0 0 −10 1 0 0 1 −1 7 1 2 0 −1 0 { −3 第 2 行 × (−3) + 第 1 行 (3) 1 第2行×5+第3行 5 7 (4) 第 3 行 × 2 + 第 1 行 1 5 7 1 . (5) 第 3 行 × (−1) −5 0 1 . −1 −5 · · · ( 答) 注意. 逆行列を求めるときに行の基本変形を用いたが, 列の基本変形を用いてはならない. 2. 余因子展開 (p.80-81): A の余因子 Aij の導出を行おう. 1 3 1+1 1+2 2 3 1+3 A11 = (−1) = −10, A12 = (−1) = −1, A13 = (−1) 4 2 1 2 2+1 3 2 2+2 1 2 2+3 A21 = (−1) A22 = (−1) A23 = (−1) = 2, = 0, 4 2 1 2 3+1 3 2 3+2 1 2 3+3 A31 = (−1) A32 = (−1) A33 = (−1) = 7, = 1, 1 3 2 3 A11 A21 1 1 t −1 (Aij ) = したがって, A = A12 A22 |A| |A| A13 A23 A11 A21 A31 1 注意. A−1 = A12 A22 A32 は正しい |A| A13 A23 A33 A31 −10 1 A32 = −1 1 A33 7 2 1 1 1 1 2 1 = 7, 4 3 = −1, 4 3 = −5. 1 7 −10 2 7 1 = −1 0 1 . · · · ( 答 ) −1 −5 7 −1 −5 A11 A12 A13 1 (p.81 定理 3.2.2). しかし, A−1 = A21 A22 A23 は誤り. |A| A31 A32 A33 2 0
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