第6回 卸売業の特徴と機能( 2015/11/9)

©有賀健高
農産物市場流通論講義ノート
第6回
卸売業の特徴と機能(2015/11/9)
文責:有賀健高
1. 卸売業を取り巻く環境の変化
1-1. 流通革命
林周二の『流通革命-製品・経路及び消費者』(1962 年、中公新書)によって広ま
った用語。
① 第一次流通革命
 時期
1960 年代~1970 年代
 流通革命の契機
高度経済成長の中、大量生産・大量消費をつなぐ大量流通が必要になる。
大型生産者による川上主導で卸売業・小売業の系列化が進む。
 物流の特徴
全国的に標準化されたナショナルブランド(NB: national brand)の少品
目大量流通
② 第二次流通革命
 時期
石油ショック後の 1980 年代以降
 流通革命の契機
飽食の時代を迎え、モノが売れなくなり、生産者主導から消費者主導の川
下主導の流通になってくる。マーケティングによる消費者ニーズの把握や
販売戦略の重要性が高まっている。
 物流の特徴
小売業同士の競争に勝てるような個性的な商品の多品種少量流通。特に小
売業、卸売業が独自に企画したプライベートブランド(PB: private
brand)なども多く流通するようになる。
参考文献: 髙橋正朗(2002)『フードシステムと食品流通』農林統計協
会
1-2. 卸売市場経由率の後退傾向
特に 1991 年のバブル経済崩壊以降、流通コストの削減を求めた市場外流通の増加
などを背景に生鮮食品における卸売市場の経由率が低下している。
卸売市場経由率の推移
年度
1990 年
2000 年
2011 年
青果(野菜、果実)
81.6%
70.4%
60.0%
水産物
72.1%
66.2%
55.7%
出所:農林水産省『卸売市場データ集』
1
食肉(牛肉・豚肉)
22.6%
17.1%
9.4%
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
減少する中央卸売市場
年度
1985 年
2011 年
市場数
91 市場
72 市場
開設都市数
56
44
1-3. 卸不要論(問屋無用論)
 流通に中間業者が増えれば増えるほど小売価格が上昇するため

生産者
(100 円)
小売業者
(150 円)
生産者
(100 円)
卸売業者1
(150 円)
小売業者
(200 円)
生産者
(100 円)
卸売業者1
(150 円)
卸売業者2
(200 円)
小売業者
(250 円)
取引が複雑になり、商品入手が遅くなる。
2. 卸売業の特徴
2-1. 卸売業とは?
一般消費者ではなく再販売を目的とする小売業者や卸売業者に対して生産物を
販売することを主な仕事とする業者。
2-2. 卸売業の役割
① 取引数量最小化の原則 (principle of minimum total transaction)(L. M. Hall, 1949)
 定義
商品の流通経路に卸売業者が介在することで、卸売業者が介在しない場合と
比べて市場の総取引数が減少し、その結果市場全体での取引費用が削減され
るという原理。
 例
卸売業が介在しないケース
卸売業が介在するケース
農家 A
小売 A
農家 A
農家 B
小売 B
農家 B
農家 C
小売 C
農家 C
小売 A
卸売
小売 B
小売 C
各農家それぞれ 3 通りの取引があるので 各農家、小売それぞれ卸売と 1 通りずつの取
全体では 3×3 の 9 通りの取引がある。 引があるので全体では 6 通りの取引がある。
この原則が成立する条件
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取引数量最小化の原理を一般化すると、生産者数が p で小売業者数が r の時、
pr > 𝑝𝑝 + 𝑟𝑟 ⇔ (p − 1)(r − 1) > 1 であるため、この条件が成立するには p か r
のいずれかが 3 以上でないと成立しない。また卸売業者の数が増えてくると
条件が成立しないことがでてくるため、生産者と小売業者に比べて卸売業者
の数が少ないことを前提としている。
② 不確実性プールの原則 (principle of pooling uncertainty) (Hall, 1949) 1
 定義
商品の流通経路に卸売業者が介在することで、市場全体での在庫数が減少す
るという原理。
 例
卸売業が介在しないケース
卸売業が介在するケース
農家
農家
100 個
小売
小売
小売
小売
小売
小売
100 個
100 個
100 個
30 個
30 個
30 個
卸売業者が介在しない場合、各小売業者は不確実な
需要に各自で対応しなければならない。したがって
各小売業者は、ある程度余裕をもった在庫数を保持
することになる。このケースでは、小売業がそれぞ
れ 100 個の在庫を抱えているので、市場全体では
300 個の在庫を抱えている。
1
卸売
小売業者は不確実な需要に対して卸売業者に手助け
してもらえるため、卸売業が存在しない時より少な
い在庫で済む。卸売業者は全小売業者で同時に不確
実な需要が発生する確率は少ないので、大量在庫を
抱える必要はない。このケースでは、市場全体で
100+30×3=190 個の在庫で済む。
集中貯蔵の原則(principle of massed reserves)ともいう。参考文献: Hall, M. L. (1949) Distributive
Trading: An Economic Analysis. London: Hutchinson’s University Library.
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2-3. 卸売業の機能
① 物流機能
小売業の注文に応じた品揃え、小売業に商品を渡すまでの保管、小売業への商
品配送など商品を生産者から調達し、小売業へ引き渡すための活動。
注:この物流の一連の流れを合理化、効率化するための手段をロジスティクス
といい、流通においてこのロジスティクス戦略は重要課題である。
② 需給結合機能
生産者と消費者を仲介する機能
 空間的(場所的)ギャップの解消
収集、中継、分散の機能がある。
収集卸売業
多数の生産者から商品
を収集する。生産地に
立地しているため産地
卸ということもある。
例


中継卸売業
分散卸売業
収集卸と分散卸の間
に介在し、両者を補
助する。
多数の小売業に商品を
販売する。各地に分散
した消費者の近くに立
地するため、消費地卸
ということもある。
農協
例 業務用卸
時間的ギャップの解消
物流センターなどの倉庫で在庫を保管する機能。
品揃え形成機能
消費者のニーズに対応するために豊富な品揃えを提供する。
③ 情報伝達機能
情報ギャップを解消する機能。生産者の商品情報を小売業に伝達する機能や小
売業が持つ市場や消費者の情報を生産者に伝達する活動。
④ 金融機能
生産者に対する金融機能:生産者の商品を買い取り、買い取ったものを小売業
に売ることで生産者の資金回収を手助けする機能。
小売業に対する金融機能:買掛といった信用取引等を通じて小売業の資金繰り
を支援する機能。
⑤ リスク分散機能
商品の売れ残り、減耗、代金回収といったリスクを軽減させる機能。
⑥ アソートメント機能
多数ある商品を分類し、小売業のニーズに望ましい商品を取りそろえたり、ニ
ーズに応じて商品の組み合わせを変更したりする活動。
⑦ リテールサポート機能
小売業(リテール)を経営、販売、従業員訓練などの面で支援する活動。
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