平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 論文題目 液体 Co-Sn 合金の磁気的性質の研究 物理研究室 4 年 10P301 後藤 博 (指導教員:大野智 教授) 要 旨 液体遷移金属の帯磁率については、今まで融点以上での純 Mn、Fe、Co、Ni 等の遷移 金属の帯磁率は測定されている。そして Mn、Fe、Co、Ni と通常金属との液体遷移金属合 金の帯磁率も測定されている。しかし液体 Sn やその通常金属との液体 Sn 合金の帯磁率は ほとんど測定されていない。希薄液体遷移金属合金は磁性の場合と非磁性の場合を分け て考え、磁性の場合は Curie-Weiss 則を用いて Curie 定数が求められる。非磁性の場合の 帯磁率は Anderson モデルにより説明される。卒業研究Ⅱではこの研究を基に、実験デー タを得て、液体合金 Co-Sn の電気的磁気的性質を解析していく。 キーワード 1.Co(コバルト) 2.Sn(スズ) 3.遷移金属 4.通常金属 5.帯磁率 6.フェルミエネルギー 7.Curie-Weiss 則 8.Anderson モデル 9.状態密度 10.強磁性体 11.磁気モーメント 12.価電子数 目 次 1.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.遷移金属における帯磁率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 3.希薄液体遷移合金の帯磁率の解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 4.液体金属 Co-Sn 合金の帯磁率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5 5.図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 6.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11 7.引用文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 論 文 1.はじめに 単純液体金属である液体 Ag,In,Sn などは自由電子近似により電気抵抗率や帯磁率 が比較的よく説明されている。非単純液体金属の電気抵抗率や帯磁率はこの近似による 説明では不十分であることが多い。Co は原子番号 27 の元素。遷移金属の1つであり、結 晶構造は六方最密充填構造をとる強磁性体の軽金属である。強磁性体は、自発磁気と いう磁場を作用させない時でも現れる磁気モーメントを持っている。また融点は非常に高 く、融点での帯磁率の変化は小さいことがわかっている。Co 合金はジェットエンジンやコ ーティング剤として、Co-Cr-Mo は腐食しにくいため歯科医療や外科手術などに使われ ている。また、Co を含んだ医薬品としては末梢神経障害に適用のあるコバマイドやノイメ チコールがある。 今回の研究は、Co-Sn 合金においての解明されていない帯磁率などの磁気的性質を 測定・解析することが目的である。 2.遷移金属における帯磁率測定の歴史 温度の関数として液体 Ni,Mn,Fe,Co の逆 帯磁率を図 1 に示す。高温での Fe,Co,Ni の 逆帯磁率の温度係数は正であるが、液体 Mn のみは融点以上で温度の増加とともに帯磁率 が増加している。そのような温度の依存性は 結晶を動き回る遍歴電子や磁性イオンの 3d 電子がイオンに局在している磁気モーメントの 常磁性モデルを用いて説明することができる。 図 1. Ni, Mn, Fe, Co の逆帯磁率の温度 変化 1 融点における常磁率の値を図 2 に示す。 Mn から Fe で増加し Co で極大値をとり、Ni、 Cu では減少する。融点付近での Ti の帯磁 率は測定されていない。遷移金属合金の帯 磁率の値は純液体遷移金属の点の間で連 続的に変化する。液体 Mn-Fe 合金や液体 Co-Ni 合金の帯磁率は直線的に変化するの に対して、液体 Fe-Ni 合金は極大値を持ち 曲線的に変化する。つまり遷移金属合金は 図 2. Ni, Mn, Fe, Co の融点での常磁率 周期表で隣り合う原子同士の合金と極大値 である Co を挟む位置にある 2 つの原子の合 金では全く異なる帯磁率の変動をする。 図 3 は合金時の Co と Fe 合金の帯磁率 の振る舞いを示す。Co 合金の帯磁率は通 常金属の濃度の関数として急速に減少する。 同じ特性が Ni 合金でも観測されている。Fe 合金の帯磁率は通常金属の濃度の関数とし 図 3. Co, Fe 合金の帯磁率 て極大を示し、そして通常金属の帯磁率の 値へ減少する。濃度の関数として帯磁率の 同様な極大が Mn 合金でも観測されている。 このように濃度の関数としての帯磁率曲線の 形 は 一 方 で は Co,Ni 合 金 と 他 方 で は Fe,Mn 合金とで明らかに区別される。また 通常金属の Au,Ge による帯磁率の大きさに も違いがある。Au,Cu,Zu,Ga,Ge のそれぞ れを含んだ遷移金属合金の帯磁率の値は 系統的に変化していることを図 4 に示す。急 図 4.Ni 合金の帯磁率 速に減少する Ge 合金に対して、Au 合金は比較的穏やかな直線に近い現象をすること が分かっている。 2 図 5 は液体 Ni 合金の濃度の関数として逆 帯磁率の温度係数を含んでいる。Ni-Au 合 金に対してその温度係数はほぼ全ての濃度 で正である。その他の合金は温度係数の変化 を示す。この変化を生じる通常金属の濃度は フェルミーエネルギーが減少する時と同じ方 法で Ge から Ga,Zn から Cu へ増加する。フェ ルミーエネルギーの計算方法は後に記す。 このように遷移金属元素合金の帯磁率は、 d 軌道に存在する電子の個数という観点や、 通常金属として何を選択するのかという観点 から系統的な実験が行われてきている。今回 図 5. Ni 合金の逆帯磁率 行う Co-Sn 合金もその系統性の一端を担うも のであり、Co-Ge 合金の帯磁率との比較によって、通常金属の原子半径の影響を考察す ることができると期待される。 3 3.希薄液体遷移合金の帯磁率の解析 磁性には大きく常磁率、強磁性、反磁性に分類することができ、Co は強磁性の金属で あり、帯磁率は (1) χ=χ3d+χpara+χdia によって与えられる。χ3d は 3d 電子による帯磁率、χpara は伝導電子による帯磁率、χdia は磁性・非磁性で与えられる式が違う。 (1)磁性の場合のχ3d (dT>0) 帯磁率はイオンモデルで解析される。磁気モーメントは Curie-Weiss 則の傾きから推測 される。強磁気は正の交換相互作用が働いた結果、磁気モーメントの向きがそろい、強 い自発磁化を示す。強磁性体はある温度以上になると熱振動の攪乱によりスピンが無秩 序な方向を向いて整列しなくなり強磁性が減少していき、ある温度(キュリー温度 θp)で消 失して常磁性を示すようになる。 Curie-Weiss 則は次のように与えられる。 (2) χ3d= χは帯磁率、C はキュリー定数、T は絶対温度を示す。磁気モーメントの多くは、neff=5.9 を与える 5 つの不対 d 電子極限より大きい。そのモーメントに対する残留常磁性帯磁率を 用いることにより、よりリアルな数値となる。しかし、残留常磁性帯磁率の寄付を明確にす ることは難しいため、帯磁率の大きさとフェルミエネルギーにおける状態密度との関係は 考慮されていない。 (2)非磁性の場合のχ3d (dt<0) 帯磁率の局在不純物状態の Anderson モデルにより解析される。局在不純物状態では フェミルエネルギーでの状態密度が増加し、その結果、非磁性状態での高濃度通常金 属合金の帯磁率も増加する。温度係数の符号の変化は明確な磁性から非磁性への転移 と解釈される。定量解析 1 つは低温での固体 Ni-Be 合金で行なわれた。 χ3d= (3) により与えられる。NA は遷移金属 1 モルあたりの原子量、ρd(EF)は EF での 3d 電子の状 態密度、U+4J は原子内の d-d 相互作用である。 ρd(EF)=(10/ Δ)sin2( Nd/10) (4) ここで Δ は次の式で与えられる。 4 Δ=π│Vd,sp│2N(EF) (5) フェルミエネルギーでの状態密度 N(EF)は N(EF)= ( ) 3/2(EF)1/2 (6) で与えられる。フェルミエネルギーEF は EF= (7) に与えられる。 5 4.液体金属 Co-Sn 合金の帯磁率 合金の磁性を理解する上でフェルミエネルギーやフェルミエネルギーの状態密度、結 合時の価数を知ることは重要な意味を持つ。 Co は 1 価、2 価のイオンとなり電子配置は 3d74s2、Sn は固体では 2 価と 4 価のイオンと なり、液体では 4 価のイオンとなり電子配置は 4d105s25p2 である。 Co の電子式は Co Co Co+ + e- Co2+ + 2e- e-は伝導電子であり、χpara で表わすことができる。 Co のχ3d は 5 価・6 価・7 価であり、3d 軌道には 5 つ軌道があり一つの軌道には 2 つの 電子しか入れないため、5 価は 5 電子、6 価は 4 電子、7 価は 3 電子のχ3d が存在する。 Co-Sn 合金の Co の濃度に対するχpara の N(EF)の変化を図 6 に示す。 χ3d の ρd(EF)の変化を表 2 に示す。 6 図 6.χpara に影響する液体 Co-Sn 合金の各濃度における N(EF) 図 7.χ3d に影響する液体 Co-Sn 合金の各濃度における ρd(EF) 7 6.おわりに 通常金属を含む液体金属合金の濃度に対する帯磁率の特徴は大きく2つに分けること ができる。1 つは Co 合金や Ni 合金の様に通常金属の濃度の増加とともに急速に減少 するもの。もう 1 つは Fe 合金や Mn 合金の様に極大値を示したのち通常金属の濃度の 増加とともに減少するものである。今回の研究は Co-Sn 合金であるので、Co は前者の通 常金属の濃度の増加とともに急速に減少するものであると考えられる。実際にこのような ふるまいをみせるかを検証する。図 6、χpara での液体 Co-Sn 合金の各濃度における N(EF)を見ると、1 価・2 価ともに Co 濃度が上昇するにつれて N(EF) が低下していること がわかる。図 7、χ3d での液体 Co-Sn 合金の各濃度におけるρd (EF)を見ても、d 軌道に 3 個・4 個・5 個ともに Co 濃度増加に伴い単調に減少していく。次に磁性・非磁性転移と 考えられている温度係数の符号の変化を調べる。図 7・8、から分かるように通常金属のフ ェミルエネルギーが小さいほど、また遷移金属の 3d 電子の数が少ないほど温度係数の 符号の変化を生じる遷移金属濃度は小さくなる。そして磁性の場合は Curie-Weiss 則を 用い、非磁性の場合は Anderson モデルを用いて測定した帯磁率の解析を行なう。表 1 に通常金属のフェルミエネルギーやフェルミエネルギーでの状態密度、合金時の価数を 示す。 表1 n/V kF EF EF N(EF) N(EF) (cm3) (cm) (eV) (eV・cm3) (eV・cm3) (ev) 5.17E+22 1.15E+08 8.11E-12 5.06E+00 3.13E-05 5.02E-17 1 7.29E+22 1.29E+08 1.02E-11 6.37E+00 6.44E-06 1.03E-17 65.380 2 1.27E+23 1.56E+08 1.48E-11 9.23E+00 8.09E-06 1.30E-17 5.607 69.723 3 1.45E+23 1.63E+08 1.62E-11 1.01E+01 9.31E-06 1.49E-17 Ge 5.560 72.630 4 1.84E+23 1.76E+08 1.89E-11 1.18E+01 1.07E-05 1.72E-17 Sn 6.990 118.710 4 1.42E+23 1.61E+08 1.59E-11 9.92E+00 2.05E-05 3.29E-17 密度 原子量 (g/cm3) (g/mol) Au 16.900 196.970 1 Cu 7.690 63.546 Zn 6.910 Ga N 8 表 1 から Sn のフェルミエネルギー(EF)は遷移金属よりも高いことが分かる。これを使って N(EF)の値を参考に図 6 の通常金属のχ3d の値の傾向の考察を試みる。N(EF)の値を参 考にすると(5)式より Sn は N(EF)が大きいので、Δ は大きくなる。また、(4)式より Δ が大き いと ρd(EF)は小さくなることが分かる。従って、(3)式からχ3d は小さくなり磁性的になる傾 向が弱くなる。この考えをもとに図 5 の Co-Ge 合金の帯磁率と比較してみる。Ge は 4 価 であるので Sn と同じ 4 価である。Co-Ge 合金は Au-Fe、Ge-Fe、Co-Ge 合金と比べ帯磁 率が急激な減少をしていることが分かる。これにより先ほどの考察が近いことが分かる。今 後、実験を行いこれらの考察や観点から検討を試みる。そして、磁性の場合は Curie-Weiss 則から、非磁性の場合は Anderson モデルを用いて解析する。実験で Co のそれぞれの濃度における磁性や電子状態を調べる。 9 引 用 文 献 1. FrederickC.Brown,G.Busch,H.-J.Guntherodt,G.D.Mahan,P.O.Nilsson, I.S.Zheludev, SOLID STATE PHYSICS Anvances in Reserch and Application,ed.by H.Ehrenreich,F.Seitz,D.Turnbull,ACADEMIC PRESS, New York, 1974, volume29pp.289-301 2. Charles Kittel, 固体物理学入門 下 ed,by Suzuki.N, 丸善株式会社, Tokyo, 1998, pp.120-121. 124-132 10
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