P-286 SEN-I 技術 展望 GAKKAISHI(繊 (92) 維 と 工 業) 1 繊維製造技術 湿 式 紡 糸 の10年 菊 1.は 池 彰 隆 表1 湿式紡糸 法 じめ に 湿式 紡 糸 法 は 高 分 子 溶 液 を ノ ズ ルか ら押 し出 し,凝 固 液 を用 い て 糸 条 形 成 を 行 な う紡 糸 法 で あ る。 した が っ て,溶 融 紡 糸,乾 式 紡 糸 に 比 べ 高 分 子 の 溶 液 化 に溶 媒 を 用 い る点,糸 条 形成 に凝 固 液 を用 い る 点 に お い て,工 業 技 術 的 に複 雑 な紡 糸 方 法 で あ る が,用 い る 高 分 子 が 高 温 に お い て も融 解 せ ず,高 分 子 あ る い は そ の 溶 媒 が 高 温 で 不 安 定 な場 合 に は湿 式 紡 糸 法 が唯 一 の 選択 肢 とな る 。 湿 式 紡 糸 法 を凝 固 メ カ ニ ズ ム に 着 目 して 分類 す る と, 相 分 離 法,ゲ ル紡 糸 法,液 晶 紡 糸 法 に大 別 す る こ とが で き る。 相 分 離 法 は高 分 子 溶 液 に高 分 子 の 非 溶 媒 を加 え て こ の 十 年 間 に は 各 種 の 高 分子 を用 い て 高強 度繊 維 の製 高分 子濃厚 相 と高分子 希薄相 の二 つの相 に分離 す る方 造 が 試 み られ たがPANに 法,ゲ ル 紡 糸 法 は温 度 変 化 な い し濃 度 変 化 に よ っ て溶 液 わ れ た2)。 内 部 に 高 分子 の 分 子 間 結 合 を形 成 す る方 法,液 晶 紡 糸 法 一 方,PAN系 は 溶 液状 態 で 液 晶 を形 成 す る高 分 子 溶 液 を用 い 配 向 性 の 開発 が 行 わ れ1000∼2000m/分 高 い 糸 条 体 を形 成 す る方 法 で あ る。 そ れ ぞ れ の 代 表 的 な 成 功 して い る3)。 例 を表 1 に示 す 。 2.2 セ ル ロ ー ス 関 して も高 強 度 化 の 研 究 が 行 長 繊 維 の 製 造 に お い て 高 速 紡 糸技 術 の の 紡 糸 速 度 を得 る こ と に こ の表 か ら明 らか な 通 り,湿 式 紡 糸 法 の 対 象 と な る高 再 生 セ ル ロ ー ス繊 維 に 関 して は ビ ス コ ー スザ ン テ ー ト 分 子 は 主 に ポ リア ク リ ロニ トリル,セ ル ロー ス,ポ 法,銅 リビ ニ ル ア ル コ ー ル,超 高 分 子 量 ポ リエ チ レ ン,芳 香 族 ポ リ ア ンモ ニ ア 法 以 外 の 紡 糸 法 の 間 発 が 試 み られ た。 例 え ば,塩 化 亜 鉛 水 溶 液 を溶 媒 と して 用 い る紡 糸 法 の, ア ミ ドで あ り,本 稿 で は こ れ らの紡 糸法 の 最 近 の 進 歩 に テ トラ ア ル キ ル ア ンモ ニ ウ ム塩 と ジ メチ ル ス ル ホ キ シ ド つ いて 概 説 を行 い た い。 の 混 合 溶 媒 を用 い る紡 糸 法5),ア ル カ リ可 溶 化 処 理 した セ ル ロ ー ス の ア ル カ リ水 溶 液 を用 い る 紡 糸 法6)が 挙 げ ら 2.技 術動 向 れ る。 た だ し こ れ ら は ま だ い ず れ も 工業 化 さ れ て い な 2.1 ポ リ ア ク リ ロ ニ トリ ル い 。 工 業 化 さ れ た 例 と して はN-メ ポ リ ア ク リ ロ ニ トリル(以 下PANと チ ル ス ル フ ォオ キ シ 略 称)の 相 分 離 法 ドを溶 媒 とす る7)テ ンセ ル が あ る 。 従 来 の再 生 セ ル ロ ー に よる 紡 糸 に お い て は 臨 界 濃 度 以 下 の 凝固 液 濃 度 で紡 糸 ス繊 維 に 比 して 乾 湿 強 度 が 高 い,湿 潤 時 の ヤ ン グ率 が 大 を行 う低 濃 度 法 とそ れ 以 上 の 濃 度 で 紡 糸 を行 う高 濃 慶 法 きい,水 膨 潤 度 が 低 い 等 の 特 徴 を有 して お り,新 とが あ り,通 常 は 主 に 低 濃度 法 が 採 用 され てい る。 高 濃 ァ ッ シ ョン素 材 と して 注目 さ れ て い る8)。 度 凝 固法 に 関 す る技 術 が 提 案 され て お り,こ の 紡 糸 法 で は失 透 を 防止 しか つ 良 好 な機 械 的 物 性 を付 与 す る ため に 再 生 セ ル ロー ス繊 維 の 高 速 紡 糸 技 術 の 開発 が 進 め られ ベ ンベ ル グ レー ヨ ン,ビ ス コー ス レー ヨ ン と も1000m/ 高 濃 度 溶 媒 浴 中 で の 延 伸 が 行 わ れ る 二。 得 られ る 繊 維 分 を超 す 紡 糸 技 術 が 実 用化 され た9)。 高 速 化 の ポ イ ン ト は,優 れ た耐 久性 を持 ち,例 え ば ,カ ー ペ ッ トと した 場 は紡 糸 ・凝固 段 階 と洗 浄 ・乾 燥 段 階 に あ り,前 者 で は ス ム ー ズ な 延伸 を達成 す るた め に特 殊 な 紡 糸 漏 斗 が 開 発 さ 合 の圧 縮 回 復 率 で は,従 来 品 のL5∼2倍,ま の 引 掛 強 麓,伸 た,繊 維 度 の 積 を比 較 す る と,従 来 品 の1.5∼3 倍 の 引 掛 強 伸 度 積 で あ る等 の特 徴 を有 して い る 。 れ た(図1)。 しい フ また後 者 に 関 して は ネ ッ トプ ロ セ ス が 採 用 され低 張 力 下 で 十分 な 時 間 を費 や して 溶 媒 除 去 お よ び乾 P-287 Vol,50,No.6(1994) (93) 解 し,DMSOと ア ル コ ー ル との 混 合 溶 液 中 に紡 出 して ゲ ル 化 させ,そ の 後15∼20倍 g海 の 強 度,527g/dの ま た,PVAを に 延 伸 す る こ と に よ っ て24 初 期 弾 性 率 が 得 られ て い る11)。 ゲ ル化 させ る よ うな 溶 媒(例;エ チ レン グ リ コ ー ル等)に 高 温 で 溶 解 し,エ ア ギ ャ ップ部 で 空 気 冷却 した 後25℃ 以 下 の 無 機 塩 含 有 水 溶 液 に 浸 漬 して ゲ ル化 糸 条 を得 る。 こ の ゲ ル化 糸 条 を5倍 に延 伸 した 後, 水洗 お よ び乾 燥 して溶 媒 を除 去 した 後,200℃ 伸 して22.1g/dの 強 度,545g/dの 以上 で延 籾 期 弾 性 率 を持 つ 繊 維 が 得 ら れ る。 こ の よ う にPVA繊 維 は ア ラ ミ ド並み の強 度 が 得 ら れ る よ うに な っ たが,産 業 用 資 材 と して 広 く利 用 され る た め に は耐 疲 労 性,耐 熱 水 性 等 の 改 良 が 必 要 で あ り今 後 の 課 題 で あ る。 2.4 超 高 分 子 量 ポ リ エ チ レ ン 超 高 分 子 量 ポ リエ チ レ ン繊 維 の 製 造 に は一 般 に 重 量 分 子 量 が60万 以 上 の ポ リエ チ レ ンが 用 い られ,こ の 超 高 分 子 量 ポ リエ チ レ ンの 希 薄 溶 液 を溶 液紡 糸 しゲ ル 状繊 維 と して こ れ を高倍 率 延伸 す る方 法(ゲ ル紡 糸 法)と,超 高 分 子 量 ポ リエ チ レ ン希 薄 溶 液 を冷 却 しマ ッ ト状 析 出 物 を 調 製 しこれ を高倍 率 延伸 す る 方 法(単 結晶 マ ッ ト超 延 伸 法)な ど が あ げ られ12)強 度68g/d,か つ 初 期 弾 性 率2500 g/dの もの が 得 られ て い る 。 い ず れ の 方 法 に して も得 ら 図1 高速紡糸用特列紡 糸漏斗 れ る 繊維 は結 晶,非晶 の長 周期 構 造 が 消 え て い る こ とか 燥 を行 う こ と を可 能 に して い る。 原 理 的 に は これ らの技 ら,繊 維 を構 成 して い る超 高 分 子 量 ポ リエ チ レ ンの 分 子 術 の 高度 化 に よ りさ らに 数 倍 の 高 速 化 も可 能 と考 え られ 鎖 が繊 維 軸 方 向 に伸 び きっ た状 態 で 引 き揃 え られ て い る る。 もの とな っ て い る と考 え られ て い る。 2.3 ポ リ ビ ニ ル ア ル コ ー ル 超 高 分子 量 ポ リエ チ レ ンか ら得 られ た繊 維 は 高強度 か ポ リ ビ ニ ル ア ル コー ル繊 維(以 下PVA繊 維)は 石 綿 つ高 弾 性 率 特 性 と共 に優 れ た耐 衝 撃特 性 を持 つ 高 姓 能 繊 の代 替繊 維 と して セ メ ン ト補 強 用 途 が 注 目 され る一 方, 維 で あ る。 こ の繊 維 特性 は 分子 鎖 末端 の 少 な い超 高 分 子 高 重 合度 化 とゲ ル紡 糸 法 の採 用 に よ る高 強 度 化 ・高 弾性 量 の ポ リマ ー を原 料 と して用 い,し か も分子 鎖 を繊 維 軸 率 化 が図 られ て きた 。 高 強 度 化 ・高 弾 性 率 化 の ポ イ ン ト 方 向 に引 き揃 え た こ とに よ っ て 発現 した と考 え られ て い は重 合度 の 高 い ポ リマ ー を用 い る こ と,凝固 段 階 で 架 橋 る。 こ の思 想 を元 に した繊 維 の 開 発で は ポ リエ チ レ ンが 点密度 の 低 い ゲ ル状 態 の 糸 条 を得 る こ と,こ の 糸 条 を数 特 出 して い る が,そ の理 由 と して は,① ポ リエ チ レ ンが 十倍 に延 伸 す る こ とに よ って 分 子 鎖 を十 分 に 伸 び き らせ 平 面 ジ クザ グ構 造 を もつ 単 純 な構 造 で 嵩 高 な側 鎖 を持 た る こ と,に あ る。 この 目的 を達 成 す る ため に さ ま ざ ま な な い,② 結晶性 が 良 い,③ 分子 鎖間 に 強 い結合 を 有 しな 方 法 が 開発 され た。 い,④ 超 高 分子 量 の ポ リマ ー が 早 くか ら得 られ て い た こ 溶 媒 と して ホ ウ酸 ま た は ホ ウ酸 塩 の 水溶 液 を用 い,エ と,な ど が挙 げ られ る が,む アギ ャ ップ を経 て水 酸 化 ナ トリウ ム お よ び硫 酸 ナ トリウ る と い うポ リエ チ レ ンの特 異性 を う ま く利 用 した紡 糸 法 ム を含 む 水溶 液 中 に紡 出 して ゲ ル化 させ,そ の後 約6倍 しろ こ れ らの 条 件 を満 足 す と言 え よ う。 に 延 伸 す る 方 法 が採 用 さ れ て い る10)。 この 方 法 に よ れ 2.5 芳 香 族 ポ リ ア ミ ド の 紡 糸 ば18g/dの 芳 香 族 ポ リア ミ ド,特 に パ ラ配 向 ア ラ ミ ド繊 維 を紡 糸 強 度,350g/dの 初期 弾性 率 が 得 られ て い る。 す る方 法 と して,① 液 晶紡 糸法,② 通 常 の 湿 式 紡 糸 法, 溶 媒 と して は この 他 に ジ メチ ル ス ル ホ キ シ ド(DMSO) の2つ が あ る,液 晶 紡 糸 法 は 異方 性 ポ リマ ー か ら異 方 性 と水,ア ル コ ー ル,グ を有 す る溶 液 を調 整 しこ れ を紡 糸 す る 方 法 で あ り,例 え リコ ー ル等 との 混 合 溶 媒 が採 用 さ れ て い る 。 例 え ばDMSOと 水 と の 混 合 溶 媒 にPVAを 溶 ば PPTA(ポ リ-p-フ ェニ レ ンテ レ フ タ ル ア ミ ド)を主 成 P-288 SEN-I GAKKAISHI(繊 (94) 維 と 工 業) 分 とす る もの が 挙 げ られ る 。 この ポ リマーは 硫 酸 に しか 度 ・弾 性 率 向 上,高 溶解 せ ず,し か も得 られ る 溶 液 は 流 動 に よ る配 向 性 が 高 の 進 歩 に は 目 を 見 張 る も の が あ る 。 湿 式 紡 糸 法 で は,乾 速 紡 糸 に よ る 生 産 性 陶 上 な どの 技 術 くい わ ゆ る 液 晶性 を示 して い る。 この よ う にそ の 溶 液 が 式 紡 糸 法 に比 べ て 高 分 子 の 溶 液 化 や 糸状 形 成 時 の凝 固 液 溶 媒 の 種 類 や 濃度 変 化,せ ん 断 力 等 に よ って 液 晶 挙 動 を の 使 用 と い う点 で 工 程 が か な り複 雑 と な る 反 面,溶 示 す ポ リマ ー を特 に リオ トロ ピ ックポ リマ ー(Lyotropic 態 か ら糸 状 を形 成 す る まで の 工 程 は 幾 通 りも あ る。 こ の /溶 液 液 晶)と 呼 ん で い る13)。 この リオ トロ ピ ックポ リ こ とは 言 い 替 えれ ば 繊 維 構 造 の 制 御 手 段 が幾 通 りも存 在 マ ー 溶 液 中 で は低 配 向性 の マ トリ ックス 中 に 高 配 向 性 の す る とい う こ とで もあ る。 従 って 繊 維 へ の 薪 機 能 付 与 を 液 晶 ドメ イ ンが 無 秩 序 に 存 在 して い る と考 え ら れ て お 録 的 と した 繊 維 構 造 制 御 技 術 の 開 発 は 今 後 と も 益 々 盛 ん り,こ の 溶 液 を乾 湿式 紡 糸 法 に よ って ノズ ル か ら空 気 中 に 進 め ら れ て い く事 で あ ろ う 。 に吐 出 した 後直 ちに凝固 浴 に 導 き,繊 維 内 の 異 方 性 ポ リ 文 液状 献 マ ー の 配 向 性 を更 に 向 上 させ る 方 法 が 提 案 され て い る l4,15) 。 こ の 方 法 に よ って 強 度26.3g/d,弾 1)特 開 昭61-138709,特 開 昭61-138710,(旭 2)特 開 昭63-66317,(三 菱 レ ー ヨ ン). 3)特 開 平4-209818,(旭 化 成). ル)の ほ ぼ 等 モ ル ず つ で構 成 され た共 重 合物 をNMP(N- 4)特 開 昭58-151217.(旭 化 成). メ チ ル ピ ロ リ ドン)溶 解 した 溶 液 はPPTA/硫 酸 系の よ 5)特 開 昭60-199912,((財)立 うな 光学 異 方性 を示 さな い 。 この 溶 液 か ら通 常 の 湿 式 紡 6)特 開 平2-293404,4-202808,(旭 糸 法 で 紡 糸 さ れ た 繊 維 はAs-Spunで 7)特 開 昭60-28848,(ア 程 度 の 強 度 しか な い が これ を高 倍 率 で 延 伸 す る こ と に よ 8)小 林,繊 ってPPTAを 越 え る 強 度 の 繊 維 が 得 ら れ る と の報 告16) 9)特 開 昭61-19805,特 もあ る 。 前 出 の 液 晶紡 糸 法 に 比 べ る と等 方 性 の ドー プ か 10)特 開 昭62-149909,(ユ ら紡 糸 し,高 温 で 熱 延伸 を して い る こ とか ら溶 融 紡 糸 に 11)特 開 昭63-99315,(ユ 類 似 した 構 造 形 成 過 程 を 経 て 作 ら れ て い る と い え よ う 12)特 開 昭59-216912,(東 性 率789g/d の 高性 能繊 維 が得 られ て い る 。 一 方 ,PPTAとDDPE(3,4ジ ア ミノ ジ フ ェニ ルエ ー テ はせ い ぜ い2g/d 13)Yangら,繊 17) 。 化 成). 川 研 究 所). 化 成). ク ゾ ナ). 学 誌,48,P-584,(1992). 開平1-111005(旭 化 成). ニ チ カ). ニ チ カ). 維学 会編 洋 紡). 「最 新 の 紡 糸 技術 」 高 分 子 刊 行 会,P-143(1992), 3.む すび 14)酒 井,Cooper,繊 学 誌,43,P-125(1987). 以 上,湿 式紡 糸 法 に 関 す る こ こ10年 間 の 進 歩 を対 象 と 15)特 開 平4-222214,(デ な る ポ リマ ー 別 に 概 説 して み た 。 い ず れ の 種 類 の 繊 維 に 16)加 藤,繊 学 誌,43,P-130(1987). つ い て も原 料 ポ リマ ー の 特徴 が 最 大 限 に 発 揮 され る よ う 17)宮 坂,繊 学誌,43,P-119(1987). な 工 夫 が 凝 ら さ れ て お り,特 に 繊 維 の 耐 久 性 向 上,強 ュ ポ ン). (平 成6年4月15日 受 理)
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